決着の時は近い。
しかしエーデルワイスに不安はない。
なんとなく分かる。今、早乙女春は本気でエーデルワイスと向き合ってくれている。
これこそデュエルだと、ルーは思った。
イアペトスの横やりなど最早問題になるまい。
後は、互いに死力を尽くし、雌雄を決するだけだ。たとえどんな結末になろうと、後悔だけはない。
「行きます!」
決意と強さを秘めたエーデルワイスの声。かつて蹲って泣いているだけだった少女が、随分強くなったものだと、ルーは感慨深げに思った。
エーデルワイスLP1300手札5枚
ペンデュラムゾーン赤:なし青:なし
モンスターゾーン
魔法・罠ゾーン 伏せ1枚
フィールドゾーン なし
早乙女LP2400手札3枚
ペンデュラムゾーン赤:なし青:なし
モンスターゾーン 武装巧者の直死巨神イアペトス(攻撃表示)、魔弾の射手-スター(守備表示)、魔弾の射手-カラミティ(守備表示)
魔法・罠ゾーン 伏せ1枚
フィールドゾーン なし
「バトルです! 一体目の銀河眼の光子竜で魔弾の射手-スターに攻撃!」
ついにバトルフェイズが開かれる。
一体目の銀河眼の光子竜が、上体を後ろにそらす。その口内に光をため込み、一気に解き放った。
「甘いよ。手札から魔弾-ネバー・エンドルフィンを発動! スターの攻撃力と守備力を、このターン、二倍にする!」
即座に春は反応した。手札からカードを一枚抜き放ち、デュエルディスクにセットする。
瞬間、銀河眼の光子竜が極光の一閃を解き放った。
ビームのように大気を焼きながら突き進む極光。だが魔弾の射手はひるまなかった。
どこからともなく放たれたのは、長大なライフル弾。それも一発ではなく、四発連続で、だ。
四連続の魔弾が極光に突っ込む。
停滞はない。その貫通力を十全に発揮し、魔弾は光子の中を突き進む。
「ッ!」
光の一撃を放ったドラゴンが、微かに驚き、身じろぎしたように感じられた。
次の瞬間、弾丸は光の奔流を渡り切った。
貫通してきた魔弾がドラゴンの喉奥にぶち込まれた。
くぐもった悲鳴を上げて、ドラゴンの身体が大きくのけぞり、地に倒れ伏した。
しかし消滅はしない。守備表示のモンスターに向かって攻撃したため、迎撃され、攻撃を弾かれたが斃されたわけではない。
「忘れちゃいけないよ。ぼくはネバー・エンドルフィンを、ぼくの場にいるカラミティと同じ縦列で発動していた! つまり、カラミティの効果発動! 墓地から魔弾の射手-ドクトルを守備表示で特殊召喚!」
三体目の魔弾の射手が春のフィールドに現れる。守備表示で特殊召喚されたのに、片膝を付いた狙撃姿勢で、銃口をエーデルワイスや彼女のモンスターたちに向けているのは、春が保持する魔弾を放たんとしているからか。
「エーデルワイス」
「分かっています。ここで退いたりはしません! 二体目の銀河眼の光子竜でドクトルを攻撃です!」
エーデルワイスは思う。このターン、攻撃の手を緩めてはいけないと。
一ターンに発動できる魔弾は一種類につき一枚のみ。同じターンに同じ魔弾を発動できない。なのでこのターン、春はもうネバーエンドルフィンを発動できない。
なのでこのターンの攻防は、春が弾切れを起こす前にエーデルワイスの攻撃を凌ぎ切るか、エーデルワイスが春の魔弾を掻い潜ってイアペトスを倒し、彼女のライフを0にできるかの勝負だ。
そしてそれは春もわかっている。こちらの意図が伝わったという確信があった。
全力で防ぐだろう。その没頭に、イアペトスの声が入り込む余地など無い。
「させないよ! 手札から魔弾-デスペラード発動! 二体目の銀河眼の光子竜を破壊する!」
不意を突くように飛来する魔弾。今しも攻撃態勢に入ろうとしていた二体目の銀河眼の光子竜は、上体を逸らしたまま胸と喉元に弾丸を叩き込まれ、止めに眉間に一発。今度は踏みとどまることもできずに破壊された。
これで二発目。もうデスペラードが飛んでくることはない。
だが春も抜け目ない。自分のモンスターを守りつつ、魔弾を補充してくる。
「今発動した魔弾は、ドクトルと同じ縦列! よってドクトルの効果発動! 墓地の魔弾-クロス・ドミネーターを手札に加える!」
「まだ、止まりません! 三体目の銀河眼の光子竜で、ドクトルを攻撃です!」
三発目の極光が、三体目のドラゴンの口内から放たれる。熱と光の一撃を前に、魔弾は沈黙した。抵抗らしい抵抗もせず、ドクトルは銀河眼の光子竜の攻撃をまともに受けて消滅した。
『なぜ魔弾を発動しない、春!?』
動かなかった春に、イアペトスが苛立ちまぎれの声を上げた。だが春も、エーデルワイスも反応しない。
今二人にはお互いしか見えていない。
そしてエーデルワイスは考える。すでに早乙女さんの手札にはクロス・ドミネーターがある。あれをいつ発動して来るか。
(私なら、イアペトスに攻撃した時、でしょうか)
おそらく正解だ。春にとって
「ならばこちらです! FA・フォトン・ドラゴンでイアペトスを攻撃!」
全身鎧に身を包んだギャラクシーアイズが、咆哮とと主に光の
「そうはさせない! ダメージステップに手札から魔弾-クロス・ドミネーターを発動! 君が今攻撃したFA・フォトン・ドラゴンの攻守を0にする!」
『この反撃で貴様の負けだな!』
勝利を確信したのか、イアペトスがそう叫ぶ。
だが春はそう思っていない。こちらがクロス・ドミネーターを回収したのにあの子はイアペトスを攻撃してきた。なら当然、対抗策があるはずだ。
あの伏せカードか、それともコンバットトリックの速攻魔法か。
「チェーンします! 手札から速攻魔法、禁じられた聖槍を発動! FA・フォトン・ドラゴンの攻撃力を800ダウンさせる代わりに、魔法、罠のカード効果を受けません!」
だがFA・フォトン・ドラゴンの攻撃力は3200にまでダウン。イアペトスを下回ってしまった。
『消し飛ばしてやろう!』
イアペトスの全身の砲塔が、一斉にFA・フォトン・ドラゴンの方を向いた。
停滞なく、砲口から赤い光が次々に放たれた。
轟音と極光が辺りを満たし、一瞬、エーデルワイスの視覚と聴覚を麻痺させる。
瓦解していくドラゴンの体躯。アーマーが砕け散り、中のドラゴンが倒れ伏し、消滅する。
「くぅ……!」
ダメージのフィードバックがエーデルワイスを襲う。今の戦闘で300のダメージ。これで彼女のライフは残り600。
「もう、身を削るのも難しい数値になってきたな」
心配げな声音のルーに、エーデルワイスは気丈な笑みで答えた。
「ですが、確実に追い詰めています。私の刃は、相手に届きかけています。なら進みます!」
きっとあの人ならそうしたでしょう。心の中で、白髪の少年の背中を思い出す。いつも自分に勇気をくれる背中。
「バトルはまだ続いていますし、私のギャラクシーアイズはそう簡単に倒れません! 手札から速攻魔法、
『なんだと!?』
「――――――」
驚愕の声を上げるイアペトスに対して、春は沈黙していた。
だがその口の端には笑みえがあった。楽しんでいると、傍目からでもわかるいい笑顔だった。
「再び特殊召喚されたFA・フォトン・ドラゴンは攻撃権を持っています! バトル続行です! FA・フォトン・ドラゴンでカラミティを攻撃!」
今度は魔弾による阻害はない。口内から放った青白い閃光が奔流となって迸り、魔弾の射手を飲み込んだ。
「やってくれるよ……!」
これで春のフィールドのモンスターは、イアペトスのほかに守備表示のスターのみ。
「ならば、臆しはしません! 超銀河眼の光子龍でイアペトスを攻撃です!」
赤く輝く身体を持つ、三つ首のドラゴンが三重の咆哮を上げる。
その口内に赤い輝きが溜まっていき、一瞬の停滞の後、三又の奔流となって放たれた。
奔流は怒涛のごとき勢いで狭い、さらに互いにねじり、交わり合って三重螺旋を作った。
『春! なんとかしろ!』
迫る一撃に対してなす術がないと感じたのか、イアペトスが吠えるような声を上げた。
春は返答せず、ただデュエルディスクのボタンを押した。互いに相手しか見えていない、まさしく二人だけの世界に突入した証か。
「リバースカードオープン! シフトチェンジ! 超銀河眼の光子龍の攻撃を、守備表示のスターに移すよ!」
三重螺旋の奔流が見えざる腕に捕まれたかのようにその軌道を曲げた。
行きつく先はイアペトスではなく、その傍らで守備態勢をとっていたスター。
直撃する。
轟音が響き渡り、粉塵が巻き上がる。
『これでオマエのモンスターの攻撃は終わりだ! 最早なす術があるまい!』
イアペトスが勝ち誇ったように言った。春も、表情には出さなかったがもう終わりだろうと思った。銀河再誕と合わせて、六回の攻撃は驚いたが凌ぎ切った。
ならば次の自分のターンで、イアペトスの効果を使って勝利だ。残りのデッキ枚数は少ないが、それでも一回くらいは効果を使える。
これでぼくの勝ちだ。そう思った春だったが、エーデルワイスの表情をみえ、違うのではと思った。
微笑むその瞳には絶望はなく、むしろここからの希望に漲っているようだった。
「え……?」
「早乙女さん。まだ私のバトルフェイズは終了していませんよ? リバースカードオープン! ワンダー・エクシーズ! 私の場にいる二体の銀河眼の光子竜でオーバーレイ! 二体のモンスターで、オーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚!」
エーデルワイスが右手を掲げると、頭上に渦巻く銀河のような星々煌めく空間が展開、白い光となって空間に飛び込んだ。
瞬間、虹色の爆発が起こる。
両手を合わせて、祈るような仕草をするエーデルワイス。
「出でよNo.62! 青き光を身に纏い、今ここに銀河の竜は新たな存在へと転生する! これが私の信念! |銀河眼の光子竜皇《ギャラクシーアイズプライムフォトンドラゴン》!」
粉塵を引き裂いて、現れる青き光のドラゴン。
青い発行体の体躯、鎧のような外殻に、背後へと延びるリング状の器官に肩口から噴き出る青い光。
銀河眼の光子竜と大きく進化させたその姿に追随するように、二つの光球が衛星のように周囲を旋回していた。
「新しいXモンスター……!?」
「行きます! 銀河眼の光子竜皇でイアペトスに攻撃です!」
長い尾を地面に打ち付けて、光の翼を展開、大きく飛翔する光子竜皇。光り輝く全身の、さらに一際強い輝きを宿す口内から青い奔流を放った。
大気を熱し、辺りを光で満たす一撃。春の場に伏せカードはなく、このタイミングで発動できるカードはない。
「この瞬間、銀河眼の光子竜皇の効果発動!
『な!?』
フィールドのXモンスターのランクは銀河眼の光子竜と超銀河眼の光子龍、FA・フォトン・ドラゴン。ランクの合計は24。よって攻撃力は4800アップし、8800。
「この一撃で、終わりです! お願いします。銀河眼の光子竜皇!」
海のように深い青色が辺りを満たした。
光の奔流が一切の停滞なくイアペトスを直撃する。
『ガアアアアアアアアアアア!』
光子竜皇の一撃はイアペトスの装甲を砕き、内部に莫大量のエネルギーを叩きつけた。
荒れ狂うエネルギーは次々に誘爆し、小爆発を連続させる。
エネルギーの奔流はついにイアペトスの身体を貫通。螺旋を描きながら、春に向かっていく。
『は、春! 躱せ! 宝珠を守れ!』
消えゆくイアペトスが足掻きとばかりに叫ぶ。だが春は動かなかった。
しょうがないというように苦笑。直後に光子竜皇の一撃が直撃、胸元に光る無色の宝珠を砕いた。
禁じられた聖槍:速攻魔法
(1):フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターはターン終了時まで、攻撃力が800ダウンし、このカード以外の魔法・罠カードの効果を受けない。
銀河再誕:速攻魔法
(1):フィールドの「ギャラクシー」または「フォトン」モンスターが戦闘で破壊された時に発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。(2):墓地のこのカードをゲームから除外し、自分の墓地の「ギャラクシー」または「フォトン」モンスター1体を対象に発動できる。対象モンスターを効果を無効にして特殊召喚する。この効果はこのカードが墓地に送られたターンには発動できない。
シフトチェンジ:通常罠
自分フィールド上のモンスター1体が相手の魔法・罠カードの効果の対象になった時、または相手モンスターの攻撃対象になった時に発動できる。その対象を、自分フィールド上の正しい対象となる他のモンスター1体に移し替える。
ワンダー・エクシーズ:通常罠
(1):自分フィールドのモンスターを素材としてXモンスター1体をX召喚する。
銀河眼の光子竜皇 光属性 ランク8 ドラゴン族:エクシーズ
レベル8モンスター×2
(1):このカードが戦闘を行うダメージ計算時に1度、このカードのX素材を1つ取り除いて発動できる。このカードの攻撃力はそのダメージ計算時のみ、フィールドのXモンスターのランクの合計×200アップする。(2):「銀河眼の光子竜」をX素材として持っていないこのカードが相手に与える戦闘ダメージは半分になる。(3):「銀河眼の光子竜」をX素材として持っているこのカードが相手の効果で破壊された場合に発動できる。発動後2回目の自分スタンバイフェイズにこのカードの攻撃力を倍にして特殊召喚する。
早乙女LP0
『何故だハルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!?』
断末魔の前胸を上げながら消えていくイアペトス。その異形の巨体の装甲が瓦解し、周囲に轟音と土煙を立てる。
「はぁ……」
崩れ去っていく神を見ながら、春はこれでまた独りかな、と思った。
デュエルの結果に文句はない。実際、見事な連続攻撃だった。それに対応するため、自分はあの時打てる手はすべて打ったと思う。
だから結果に文句はない。ただ、この選択はこれで正しかったのか、そう思う。
(だって、イアペトスといた時は寒くなかった)
孤独ではなかったからだ。一人と一柱だと、寒くなかった。
自分を必要としてくれる誰かがそばにいるからだ。
けどそれもみせかけだった。結局イアペトスは都合のいい契約者が欲しかっただけ。
うすうす気づいていた。けれど目を背けていた。
だからまた独りになってしまって――――
「あの、早乙女さん!」
その耳に声が届いた。
バトルフィールドが消えていく。その中で、慌てた様子でエーデルワイスが近づいてきた。
顔が赤いのは緊張しているためか。
「す、すごいデュエルでした! 早乙女さんの魔弾がどこから飛んでくるのかちょっと怖くてドキドキして……」
「でも、勝ったのは君だよ」
ふわりとしたものが春の心に去来した。心に忍び寄っていた寒さが遠のいた気がした。
「それも、今回だけです。次はどうなるか分からないのが、デュエルの面白いところと、難しいところだと思います」
両こぶしをぎゅっと握りしめて、ずいっと押し込んでくるエーデルワイス。
春は嘆息し、
「でもぼくの宝珠は砕けた。イアペトスは消滅した。次なんてないよ」
「それは神々の戦争の話です。
だから、とエーデルワイスは春に対して右手を差し出した。
「早乙女春さん。私と友達になって下さい。またデュエルをしましょう」
にこりと笑う。それに、と彼女は続けた。
「ハルという名前、私は素敵だと思います。春という季節は、私も好きですし。それに日本には桜という花があると聞きます。まだ実物は見たことがないのですが、春に咲くというその花はさぞ美しいのだとか」
春は己の目から涙が垂れていることに気づいた。
「え、あれ!?」
困惑するエーデルワイスをしり目に、春は涙をぬぐうこともせず、差し出された手を握り返した。
「あぁ、なんだかもう、寒くないや」
独りではない。離れていても繋がっているものはある。このデュエルの最後の攻防の時にも、漠然とそう感じていた。
いまは
胸に温かいものがこみ上げてきた。こんなにポカポカするものがあるなら、春と名前で呼ばれることもいいなと思った。
「また、デュエルをしよう。今度は負けないよ」
そう言って春は笑った。今までと違う、心からの笑みだった。