神々の戦争   作:tuki21

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第111話:ショウダウン

 ショウデュエルをやろうと思ったきっかけは何だっただろうか。カーラはふとそう考えることがあった。

 一番最初のきっかけは、多分幼いころ、両親に連れられて見たサーカスだと思う。

 有名なサーカスで、そのショウは幼いカーラの心を掴んだ。

 キラキラ光る照明、炎を使ったパフォーマンス、猛獣ショウ、空中ブランコ等々……。

 だから自分もそういった()()()()を振りまきたいと思ったのか。

 だが現実は苦い。子供のころの憧れは所詮憧れでしかなく、いつしかカーラは夢を見失い、堅実さを求めるようになった。

 しかしそれもしばらくの間だけ。

 二度目の邂逅。デュエルモンスターズと出会い、魅了された。

 二度目の憧れは大きな情熱を原動力とし、現実に昇華した。

 プロ試験に合格し、晴れてプロデュエリストとなったカーラは、そこで一度目の憧れを思い出す。

 ショウデュエルで人々に笑顔を与えることを目標とした。

 デュエルそのものをショウに見立て、時には自ら窮地を演出し、そこから脱出することもあった。

 常に相手より格上でなければ成立しない、ストーリー仕立てのデュエル進行。そのための努力を怠ったつもりはない。

 しかし現実は厳しい。プロとして、上に行けば行くほど、ショウデュエルを演出することは難しくなっていく。

 ショウデュエルを続けるごとに空虚さを感じる自分を自覚していき、そのことに恐怖と焦りを感じるようになった。

 極めつけはこの前の全日大会。その決勝で、勝利を史上とする獅子道來(ししどうらい)プロに敗北。しかも獅子道プロの怒涛の攻めによって、観客は熱狂した。

 敗者の立場から見た熱量と歓声。その事実に信念が揺らぐ。

 観客の魂を掴むような熱狂。あの熱を、カーラは知らなかった。

 消沈の彼女に巨神が囁く。

 クレイオスと波長が合ったことが彼女にとっての不幸だったか。

 契約し、こうして神々の戦争に身を投じるにつれてカーラの精神に歪みが生じた。

 対戦相手が苦痛に上げる悲鳴。最初は嫌悪しかなかったそれに、今は確かな愉悦を感じている。

 いつしかカーラ自身が演出家兼観客(ギャラリー)となり、相手の苦痛を演出し、楽しんでいた。

 いつ終わるとも知れぬ愉悦の時間。それはまるで沼に嵌るかのようで、抜け出せない。

 ああ、ああ――――――何という――――――極楽の快楽(地獄の責め苦)か。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 咲夜(さくや)とカーラのデュエルは、佳境に入ってきたとエーデルワイスは思う。

 二人のプロデュエリストの攻防はめまぐるしく、目を離せず、そしてそこから何かを学ぼうと必死になっている。

 そのエーデルワイスの目から見ると、咲夜有利だったはずの戦況は一瞬にしてひっくり返された。

 ティターン神族(クレイオス)が専用カードによって召喚され、咲夜のモンスターはいったんすべて除外された。

 ネオス・クルーガーの効果でネオス・ワイズマンを特殊召喚で来たが、神が相手の場にいるというのはカード効果以上に、神という存在は対峙する相手に絶大な圧力(プレッシャー)を与える。

 その圧に耐えることが、強い心を持つ事が、神と対峙する絶対条件だった。

 

 

咲夜LP3300手札0枚

ペンデュラムゾーン赤:なし青:なし

モンスターゾーン ネオス・ワイズマン(守備表示)

魔法・罠ゾーン 伏せ1枚

フィールドゾーン ネオスペース

 

カーラLP1750手札5枚

ペンデュラムゾーン赤:青:EMカード・ガードナー

モンスターゾーン 支配統治の星光巨神クレイオス(守備表示)、

魔法・罠ゾーン 

フィールドゾーン なし

 

 

「あたしのターン、ドロー!」

 

 ことさら大仰な動作でカードをドローするカーラ。そのまま体全体を振り回すようにドローカードを確認、口元に笑みを浮かべる。

 

「ショウを生業とするだけあって、大仰なことだ」

 

 半透明のアテナが顔をしかめながら呟く。咲夜は無言。テンションが上がる時自分もちょっと大げさな動作でカードをドローすることがあるので、ここで突っ込めばどんな藪蛇になるか分からない。

 

「アハ♪ いいカードが来たよ咲夜ちゃん! スケール3の相克の魔術師をPゾーンにセット!」

 

 ここでオッドアイズとも、EMとも違うPモンスターが、カーラの傍らに光柱の中に入り込む。

 

「これであたしはレベル4から7のモンスターを同時に召喚可能!」

『展開要請』

「もっちろんだよクレイオス! さぁ再演だ! ペンデュラム召喚! EXデッキから、君の出番だよ、オッドアイズ・ファントムドラゴン! そして手札から新顔さ! オッドアイズ・ドラゴン! オッドアイズ・セイバー・ドラゴン! オッドアイズ・アークペンデュラム・ドラゴン!」

 

 カーラの頭上に開いたゲートから、次々とドラゴンたちが光とともにやってくる。

 先ほどから登場していたオッドアイズ・ファントム・ドラゴンに、今までのオッドアイズのドラゴンの原型たるオッドアイズ・ドラゴン。

 さらにオッドアイズ・ドラゴンに光輝く白金の鎧と刃の力を備えたオッドアイズ・セイバー・ドラゴン。

 そして漆黒の身体に振り子(ペンデュラム)の結晶を背中から生やし、描く弧のような外骨格を突き出したドラゴン――――即ちオッドアイズ・アークペンデュラム・ドラゴン。

 一気に四体の大型ドラゴンのお出ましに、さすがの咲夜も息を飲んだ。

 

「け、けどどのモンスターも咲夜さんのネオス・ワイズマンよりも攻撃力は低いです。このままなら――――――」

「無論、このまま、ということはあるまい」

 

 両拳を握り締め、咲夜のデュエルに見入っていたエーデルワイスに、ルーが冷や水を浴びせる。

 

「クレイオスの契約者のフィールドにP召喚されたモンスターは全てレベル7。ならば考えられるのは――――――」

「エクシーズ召喚……! いえ、それだけじゃありません! 相克の魔術師はXモンスターをランクと同じレベルにしてX召喚できるようにするモンスターだったはず―――――」

「おーっとお嬢ちゃん。ネタバレはダメだよ?」

 

 チッチッチと唇の前で人差し指を左右に振りながら、カーラが続きを言おうとしたエーデルワイスに釘をさす。エーデルワイスが思わず恐縮して「す、すみません」と言っているのをしり目に、カーラは咲夜に向き直った。

 

「まぁそんなわけで、行こうかな!」

 

 ここしかない。咲夜はカーラの反応から、彼女の展開が一旦終わり、動きだそうとしているのを悟った。

 故に咲夜は素早くデュエルディスクのボタンを押した。

 

「リバースカードオープン! 裁きの天秤! あたしの場と手札のカードは合計三枚、カーラさんの場のカードは七枚! よってその差、四枚をドロー!」

 

 大量ドローに、0枚だった咲夜の手札が一気に潤う。

 まだ咲夜は諦めておらず、その視線の力はいささかも衰えない。

 対するカーラの笑みもまた濃く、深い。

 

「いいねぇ、それでこそだよ咲夜ちゃん! 簡単に終わっちゃつまらない。咲夜ちゃんにはもっともっと、可愛い悲鳴を上げてもらわないとね!

 あたしはオッドアイズ・ファントム・ドラゴンとオッドアイズ・ドラゴンでオーバーレイ! 二体のモンスターで、オーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚! 来なよオッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン!」

 

 カーラの頭上に渦巻く銀河のような空間が展開され、その空間に二体のドラゴンが飛び込んだ。

 虹色の爆発が起こり、現出したのは氷に覆われた体躯を持つ、青く、美しいドラゴン。Xモンスターの証に、周囲を衛星のように旋回する二つのORU(オーバーレイユニット)がった。

 

「Xモンスター……。場には相克の魔術師がいるから、次に来るのは……ッ!」

「予想してるよねぇ咲夜ちゃん! 正解だよ! 相克の魔術師のP効果発動! あたしはオッドアイズ・アブソリュート・ドラゴンを素材に、X召喚を可能にする!

 オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴンと、オッドアイズ・アークペンデュラム・ドラゴンでオーバーレイ! 二体のモンスターで、オーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚!」

 

 再び走るX召喚のエフェクト。再び展開した空間、飛び込む二体のドラゴン。虹色の爆発が起こり、その向こうから素材となったドラゴンを凌ぐ巨体が姿を現した。

 

「さぁいよいよオオトリの登場さ! いざいざ近づけ目にも見よ! その真紅の姿が敵手を滅する覇王となる! 目て見て心に刻み――――――潰れろ。覇王烈竜オッドアイズ・レイジング・ドラゴン!」

 

 まず咲夜の目に入ったのは真紅の身体。

 鎧のような外殻に、シルエットは細く、しかし力強い。剛力さと俊敏さを兼ね備えたフォルム、背中から生えた体躯を包めそうな巨大な翼。圧倒的な敵意と破壊の欲を秘めた双眸。

 誕生したドラゴンは地に足をつけることなく、両手を広げ、両足を合わせ、翼を大きく広げて、吠えた。

 

『――――――――――――!』

 

 大気を震わせる鳴動。それだけで咲夜は圧倒されるように感じたが、踏みとどまった。

 そしてじっと、現れたモンスターを見る。

 確かに攻撃的な外見だがそれだけではない。どうにも説明のつかない禍々しさを感じる。

 だがこの禍々しさ、初めてではない。ジェネックス杯一日目にも感じた感覚だ。

 咲夜は記憶を反芻する。あれは確か、アテナに恨みを持つギリシャ神話の怪物、アラクネーが使っていたカードから感じたものだ。

 地縛神。あれに近いこの感覚は――――――

 

「闇のカード?」

「ピンポーン、正解。このカードはね、咲夜ちゃん。このジェネックス杯用に、射手矢(いでや)オーナーから貰ったものなんだ」

 

 だとすればあのカードからのダイレクトアタックは、通常の神々の戦争から見ても桁外れのダメージを受ける。この終盤では絶対に受けたくない。下手をすれば宝珠が砕ける。

 

「さぁ覚悟はいいかな? オッドアイズ・レイジング・ドラゴンの効果発動! ORUを一つ使い、咲夜ちゃんのフィールドにあるカードを全て破壊して、破壊したカード一枚につき、攻撃力を200アップさせる!」

 

 カーラの命令に従い、オッドアイズ・レイジング・ドラゴンの全身から赤い光が漏れだした。

 光が一斉にドラゴンの背部に集まり、一瞬の沈黙の後、流星雨のようにいくつも枝分かれして放たれた。

 

「ッ! だけどネオス・ワイズマンは効果では破壊されない!」

「勿論それも織り込み済み! 手札から速攻魔法、禁じられた聖杯を発動! ネオス・ワイズマンの攻撃力を400アップさせる代わりに効果を無効にする!」

「あっ!」

 

 目を見開いた咲夜の眼前、彼女のフィールドにオッドアイズ・レイジング・ドラゴンが放った流星雨が着弾する。

 轟音が走り光が暴れまわり、粉塵が舞い上がる。自分に向けられたわけでもないのに、その絶大な威力に寒気がした。

 

「オッドアイズ・レイジング・ドラゴンの攻撃力は合計400アップね。さらにXモンスターをORUにしているオッドアイズ・レイジング・ドラゴンは二回攻撃ができるよ。耐えられるかな? オッドアイズ・レイジング・ドラゴンでダイレクトアタック!」

 

 攻撃宣言が下り、禍々しい赤竜が咆哮と共にやや前傾姿勢になる。

 全身が再び赤光に包まれる。その刹那、咲夜が動いた。

 

「手札の虹クリボーの効果発動! オッドアイズ・レイジング・ドラゴンにこのカードを装備!」

 

 今にも攻撃に移ろうとしていたオッドアイズ・レイジング・ドラゴンの眼前に、小さな悪魔が現れる。

 悪魔、虹クリボーは必死に赤竜にまとわりつき、その攻撃を阻害する。

 

「んー。裁きの天秤がうまく機能したね。でもまだ攻撃できるモンスター(キャスト)はいるよ。オッドアイズ・セイバー・ドラゴンでダイレクトアタック!」

 

 追撃。全身これ刃と言わんばかりのドラゴンが疾駆してくる。今度は防御札はない。咲夜は右にステップし、回避しようとした。

 

「駄目だ咲夜! 宝珠をガードしろ!」

 

 緊迫したアテナの声。その声にしたがって咄嗟に宝珠を庇った次の瞬間、衝撃と、鋭利な痛みが来た。

 

「え!?」

 

 何が起こったのか悟ったのは数瞬後。こちらのステップに合わせるように、残ったオッドアイズ・セイバー・ドラゴンがターン。背中の剣で咲夜を切りつけたのだ。

 宝珠狙いの一撃だったが、アテナの警告が間に合った。咲夜はきりもみしながら吹っ飛ばされ、地面を転がった。

 

「咲夜さん!」

 

 エーデルワイスの悲痛な叫びが届く。咲夜は回転する視界を体ごと止めて、何とか起き上がった。

 

「大丈夫! まだ、まだまだやれるから!」

 

 そしてにっこりと笑った力強い、陽光のような笑みだった。その笑みに対して、カーラが拍手を浴びせた。

 

「いやー、格好いいねー咲夜ちゃん。だけどさ、そろそろ飽きてきたから、いい加減悲しく散ってよ。そのための材料を与えてあげるね。カードを一枚セット」

 

 カーラの足元に投影される伏せカードが一枚。それを指さし、カーラが告げる。

 

「このカードはスピリットバリア。知ってるよね? これでアタシはモンスターがいる限り戦闘ダメージを受けない。しかも何らかの手段であたしのモンスターを排除して、ダイレクトアタックをしようにもその時にはクレイオスが止める。どうにもならないでしょ? ターンエンド」

 

 

相克の魔術師 闇属性 ☆7 魔法使い族:ペンデュラム

ATK2500 DEF500

Pスケール3

P効果

(1):1ターンに1度、自分フィールドのXモンスター1体を対象として発動できる。このターンそのXモンスターは、そのランクと同じ数値のレベルのモンスターとしてX召喚の素材にできる。

モンスター効果

(1):1ターンに1度、フィールドの光属性モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターの効果をターン終了時まで無効にする。この効果は相手ターンでも発動できる。

 

オッドアイズ・ドラゴン 闇属性 ☆7 ドラゴン族:効果

ATK2500 DEF2000

(1):このカードが戦闘で相手モンスターを破壊し墓地へ送った場合に発動する。そのモンスターの元々の攻撃力の半分のダメージを相手に与える。

 

オッドアイズ・セイバー・ドラゴン 光属性 ☆7 ドラゴン族:効果

ATK2800 DEF2000

(1):このカードが手札にある場合、自分フィールドの光属性モンスター1体をリリースして発動できる。手札・デッキ及び自分フィールドの表側表示モンスターの中から、「オッドアイズ・ドラゴン」1体を選んで墓地へ送り、このカードを特殊召喚する。(2):このカードが戦闘でモンスターを破壊し墓地へ送った時に発動できる。相手フィールドのモンスター1体を選んで破壊する。

 

オッドアイズ・アークペンデュラム・ドラゴン 闇属性 ☆7 ドラゴン族:ペンデュラム

ATK2700 DEF2000

Pスケール8

P効果

このカード名のP効果は1ターンに1度しか使用できない。(1):自分フィールドの表側表示の「オッドアイズ」カードが戦闘・効果で破壊された場合に発動できる。自分の手札・デッキ・墓地から「オッドアイズ」モンスター1体を選んで特殊召喚する。

モンスター効果

なし

 

裁きの天秤:通常罠

「裁きの天秤」は1ターンに1枚しか発動できない。(1):相手フィールドのカードの数が自分の手札・フィールドのカードの合計数より多い場合に発動できる。自分はその差の数だけデッキからドローする。

 

オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン 水属性 ランク7 ドラゴン族:エクシーズ

ATK2800 DEF2500

レベル7モンスター×2

「オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン」の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。(1):自分または相手のモンスターの攻撃宣言時に、このカードのX素材を1つ取り除いて発動できる。その攻撃を無効にする。その後、自分の手札・墓地から「オッドアイズ」モンスター1体を選んで特殊召喚できる。(2):X召喚されたこのカードが墓地へ送られた場合に発動できる。エクストラデッキから「オッドアイズ・アブソリュート・ドラゴン」以外の「オッドアイズ」モンスター1体を特殊召喚する。

 

覇王烈竜オッドアイズ・レイジング・ドラゴン 闇属性 ランク7 ドラゴン族:ペンデュラムエクシーズ

ATK3000 DEF2500

Pスケール1

ドラゴン族レベル7モンスター×2

P効果

(1):1ターンに1度、もう片方の自分のPゾーンにカードが存在しない場合に発動できる。デッキからPモンスター1体を選び、自分のPゾーンに置く。

モンスター効果

レベル7がP召喚可能な場合にエクストラデッキの表側表示のこのカードはP召喚できる。(1):Xモンスターを素材としてX召喚したこのカードは以下の効果を得る。●このカードは1度のバトルフェイズ中に2回攻撃できる。●1ターンに1度、このカードのX素材を1つ取り除いて発動できる。相手フィールドのカードを全て破壊し、このカードの攻撃力はターン終了時まで、破壊したカードの数×200アップする。(2):モンスターゾーンのこのカードが破壊された場合に発動できる。このカードを自分のPゾーンに置く。

 

禁じられた聖杯:速攻魔法

(1):フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターはターン終了時まで、攻撃力が400アップし、効果は無効化される。

 

虹クリボー 光属性 ☆1 悪魔族:効果

ATK100 DEF100

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。(1):相手モンスターの攻撃宣言時に、その攻撃モンスター1体を対象として発動できる。このカードを手札から装備カード扱いとしてそのモンスターに装備する。装備モンスターは攻撃できない。(2):このカードが墓地に存在する場合、相手モンスターの直接攻撃宣言時に発動できる。このカードを墓地から特殊召喚する。この効果で特殊召喚したこのカードは、フィールドから離れた場合に除外される。

 

 

覇王烈竜オッドアイズ・レイジング・ドラゴン攻撃力3000→3400

 

 

咲夜LP3300→500手札3枚

カーラLP1750手札1枚

 

「あたしの、ターン!」

 

 ふらつきながら咲夜は立ち上がる。その瞳は力が漲っており、その様がカーラには疑問だった。

 

「んー、咲夜ちゃん。なんでまた戦うのかな? さっきも言ったけど、そろそろ諦め時じゃない?」

 

 だから聞いてみた。純粋に知りたかったから。 

 すると咲夜はにやりと不敵に笑って言った。

 

「だってあたしのライフはまだ残っているもの。ここで諦めるのは格好悪いし――――なにより、()()()()()()()()()()()()

 

 ショウとして面白くない。その言葉がカーラの琴線に触れた。

 

「面白く、ない?」

「だって、ここでサレンダーなんていかにも尻切れトンボ。誰も盛り上がらないし、何よりあたし自身が()()()()()

 それにねカーラさん。考えても見てよ。ここで逆転できたら、最高に盛り上がらない?」

 

 ズキン、カーラの心臓が痛んだ。何だこれはと思う。そのせいか、冷たい汗がカーラの頬を伝った。

 同時に気づく。この展開、もしも咲夜が逆転すれば()()()()()()()()()()()()()()

 

「そう、かもね……」

『疑問。心拍数が上がっているぞ、カーラ』

 

 クレイオスの声に微笑を浮かべて首を左右に振った。

 微笑みは引きつっていた。

 

「昂っているんだよ、クレイオス。これから始まる結末に、ね」

 

 言うカーラの眼前、咲夜が動いた。

 

「強欲で貪欲な壺発動! デッキトップからカードを十枚除外して、二枚ドロー!」

 

 ここが分水嶺だ。このドローと、除外された裏側のカード十枚が勝敗を分ける。

 カーラは両手を浅く広げて、言った。

 

「さぁ咲夜ちゃん。このデュエルもクライマックスだ。盛り上げ時だねぇ?」

 

 対して、咲夜も笑みを浮かべた。どことなくひきつっているカーラと違って、影のない笑みを。

 

「勿論! 素敵なギャラリーもいることだしね!」

 

 そう言って、咲夜はエーデルワイスの方を見て軽くウィンク。エーデルワイスは両手を握り、頷いた。

 

「見せてください、咲夜さん、勝利を!」

「勿論! このターンで決める。それがあたしのショウダウン! ネオス・フュージョン発動!」

「ああ、なるほどね。確かにそれが君にとっての勝負事だ!」

 

 咲夜の意図を察して、カーラもまた笑う。先程のようなひきつった笑みではない。吹っ切れた笑みだ。

 楽しい。わくわくする。それがカーラの今の正直な気持ちだった。

 この流れはショウに例えるならヒーローの逆転だ。カーラはそう思う。

 ならば悪役は自分だ。だったら話は簡単。せいぜい華々しく、格好よく散ろうじゃないか。

 心に思うのは二つのこと。一つはクレイオスへの謝罪。

 ごめん、神様。あたしはここまでみたい。

 ごめんね参加者の皆。いっぱい傷つけた。どうやって償っていこう? でもやらなきゃな。それがあたしが、この戦いから降りた後、最初にやるべきことだろうから――――――

 

「あたしは特殊召喚するのはE・HERO ブラック・ネオス。ここで、あたしのデッキにまだN・ブラック・パンサーとE・HERO ネオスがいれば、召喚できる。もしもさっき発動した強欲で貪欲な壺の効果で除外された十枚の中に、このどちらかが入っていたら、ブラック・ネオスの召喚は失敗。あたしは打つ手がなくなる。

 まさに運を天に任せてみましょっか」

 

 そう言って、咲夜はデュエルディスクからデッキを外し、扇状に広げた。

 デッキの中身を確認し、にやりと笑った。

 

「ビンゴ。あたしはデッキのネオスとブラック・パンサーを墓地に送って、E・HERO ブラック・ネオスを特殊召喚!」

 

 デッキから現れるのは、世闇のような漆黒の身体に、マントのようにしなやかな翼、獣のような鋭い手足の爪。まさに夜の襲撃者(ナイトレイダー)と言った風情のネオスの進化態。

 

「ふーん。だけどブラック・パンサーは相手モンスターの効果こそ無効にできるけど、攻撃力が上がるわけじゃない。それでどうするのかな?」

 

 ニコニコ笑顔でカーラが吠える。対して咲夜はにこりと笑った。

 

「そりゃあ、ヒーローなんだから、それにふさわしい舞台があるでしょ? フィールド魔法、摩天楼‐スカイスクレイパー発動!」

 

 咲夜の指がカードをデュエルディスクにセットする。

 直後、彼女と彼女のHEROの背後に屹立する街の風景があった。

 摩天楼の名の通り、光を放つ街並。一際高い尖塔があり、そこの上に翼をマントのようにたたんだ姿で、ブラック・ネオスが佇んでいる。

 カーラの笑みがより深くなる。

 

「なるほどね。スカイスクレイパーなら攻撃の瞬間、攻撃力を上げられる。だけどあたしの伏せカードはスピリットバリア。戦闘ダメージは通らない。分かってるよね?」

()()()()()()()、それに応えるわ。これが、逆転の切り札! スカイスクレイパー・シュート!」

『……ッ!』

 

 咲夜が発動したカードに、一番反応下のはカーラではなく、クレイオスだった。

 機械的な彼の身体が揺らぎ、能面のようだった表情にわずかながらの驚愕の色が見えた。

 

『愕然……』

「あたしの場にいるブラック・ネオスの攻撃力は2500止まり。スカイスクレイパー・シュートの効果で、オッドアイズ・レイジング・ドラゴンと、オッドアイズ・セイバー・ドラゴンを破壊し、その元々の攻撃力の合計分のダメージをカーラさんに与える! これがヒーローの最高の必殺技よ!」

 

 咲夜の声が終わりと同時、ブラック・ネオスのたたまれた翼が大きく広げられた。

 翼が空気を叩き、風音を生じさせる。

 生じた風がフィールドを駆け巡り、カーラの頬を叩いた。夏の昼下がりに感じる二は涼しくて、気持ちのいい風だった。

 

「行って、ブラック・ネオス! ティターン神族を倒し、そしてカーラさんを解放して!」

 

 承知したと言わんばかりに、ブラック・ネオスが尖塔の天辺から跳躍。翼で大気を叩いて一気に加速した。

 黒い弾丸となったブラック・ネオスは一直線にカーラのフィールドに着弾。巻き上げた衝撃波と黒いエネルギーが竜巻のように回転、荒れ狂い、カーラの場にいた二体のドラゴンを消滅させた。

 衝撃の坩堝(るつぼ)から飛び出す黒い影。無論ブラック・ネオスだった。

 そしてブラック・ネオスがカーラの眼前に降り立った。

 

『撤退推奨!』

 

 クレイオスの焦りを帯びた警告が走る。だがカーラは動かず、疲れたような、どこか安心したような笑みを浮かべた。

 

「あーあ、やっぱりさ……。誰も観客がいない舞台での悪役も、いまいちだねぇ」

 

 ブラック・ネオスの右拳が振り抜かれ、カーラの透明の宝珠を殴打。神々の戦争乱入の証たるそれを砕いた。

 

 

ネオス・フュージョン:通常魔法

(1):自分の手札・デッキ・フィールドから、融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、「E・HERO ネオス」を含むモンスター2体のみを素材とするその融合モンスター1体を召喚条件を無視してEXデッキから特殊召喚する。このカードの発動後、ターン終了時まで自分はモンスターを特殊召喚できない。(2):「E・HERO ネオス」を融合素材とする自分フィールドの融合モンスターが戦闘・効果で破壊される場合、または自身の効果でEXデッキに戻る場合、代わりに墓地のこのカードを除外できる。

 

E・HERO ブラック・ネオス 闇属性 ☆7 戦士族:融合

ATK2500 DEF2000

「E・HERO ネオス」+「N・ブラック・パンサー」

自分フィールド上の上記のカードをデッキに戻した場合のみ、エクストラデッキから特殊召喚できる(「融合」魔法カードは必要としない)。フィールド上の効果モンスター1体を選択して発動できる。このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、選択したモンスターの効果は無効化される(この効果で選択できるモンスターは1体まで)。また、エンドフェイズ時、このカードはエクストラデッキに戻る。

 

摩天楼‐スカイスクレイパー:フィールド魔法

(1):「E・HERO」モンスターの攻撃力は、その攻撃力より高い攻撃力を持つモンスターに攻撃するダメージ計算時のみ1000アップする。

 

スカイスクレイパー・シュート:通常魔法

(1):自分フィールドの「E・HERO」融合モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターより攻撃力が高い相手フィールドの表側表示モンスターを全て破壊する。その後、この効果で破壊され墓地へ送られたモンスターの内、元々の攻撃力が一番高いモンスターのその数値分のダメージを相手に与える。自分のフィールドゾーンに「摩天楼」フィールド魔法カードが存在する場合、相手に与えるダメージは、この効果で破壊され墓地へ送られたモンスター全ての元々の攻撃力の合計分となる。

 

 

カーラLP0

 

 

「カーラさん、カーラさん!?」

 

 デュエル終了後、通常の空間に戻った三人と二柱のうち、倒れたのはカーラのみだった。

 駆け寄った咲夜はカーラの身体を抱き起した。

 

「大丈夫だ。気を失っているに過ぎない」

 

 追随してきたアテナがカーラの脈と呼吸を確認し、大事ないことを伝えると、咲夜はほっとしたように息をついた。

 

「よかった……」

 

 安堵の息を吐く咲夜。走り寄ってきたエーデルワイスも胸をなでおろした。

 

「とにかく彼女をゆっくり休める場所に運ぼう。それからのことは、彼女自身が決めなければならない」

 

 最後にルーが気絶したままのカーラを抱き上げてそう言った。

 

「ともあれ、これでティターン神族をまた一柱撃破できたわけか。咲夜、我々は順調に進んでいるぞ」

「ええ、そうね。これでティターン神族に傷つけられる人が少しは減ったと思う。それでよしとしましょ」

 

 咲夜のその言葉が、この場での戦いの決着を現していた。

 夏の午後の日差しが降り注ぐ中、ジェネックス杯の裏で動いている神々の戦争はまだ終わらない。そのさらに裏に蠢く無数の悪意を抱えながら。

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