ジェネックス杯二日目、一般参加者が大会に参加し、アマチュアでありながらプロデュエリストと戦えるまたとない機会を堪能している者たちも多いだろう。
例えば
それにアマチュアでありながらプロに匹敵する実力の持ち主もいた。そんな参加者とあたり、敗北しても綺羅には得るものがあった。
「いいデュエルでした、ありがとうございました」
敗北した相手の挨拶に、綺羅も笑顔で応じた。
差し出された手を握り、握手。
「こちらこそ、ありがとうございました。勉強になりました」
丁寧に頭を下げる。相手も微笑を残して去っていった。
さてと綺羅も気を取り直す。握り拳を作って自分に気合を入れる。
負けることは悔しい。だが悔しいままでいられない。兄はもっと先に行っているだろうから。
強くなりたかった。せめて兄の背中が見えるくらいには。
だからそのヒントはないかと相手に問いかけた。
「それにしてもお強いですね。本当にプロではないのですか?」
「アメリカのプロリーグに参加しようとは思いませんでした。母国なので愛着もありますが、ほかにやることもありましたので」
「そうなんですか、そんなに強いのに……」
「優先するものは人それぞれですから」
ハスキーボイスで相手はそう答えた。それから微笑を浮かべて、
「しかし、強くなりたいのであれば、やはり強い相手と戦い、相手のプレイングを見て覚えることは重要です。何事も、
「見るではなく、視る……」
「観察ですね。相手が手札に加えたカードを、手札のどの位置に加えたのか。勿論うまい相手は手札に加えてからさりげなく位置を変えます。その
そして伏せたカードの位置に、相手の嗜好が出ることもある。若いプレイヤーは本命のカードを先に伏せ、ブラフを後に伏せる傾向が強いようなので、こう考えることも重要ですね。
要するに、ただカードを操るだけでなく、相手を観察することでも得られる情報は多くあり、それを生かせれば、相手との実力差も縮まろうというものです。私もさっきのデュエルでそうしていたのですよ」
「そんなことが……」
考えたこともなかった。だとすればトッププロ同士のデュエルは、カードを操るだけでなく、そのような盤外戦術も多く繰り広げられていたのだろうか。
「では、これで」
「あ、はい。ありがとうございました。あ―――――」
そういえば肝心なことを忘れていた。
「そういえば、まだお名前を聞いていませんでした」
「ああ、私としたことが」
相手がパンと手を叩く。男装の麗人のようにも、女性的な顔つきの男性のようにも見える相手は、ハスキーボイスで答えた。
「ハーレイと言います」
「私は岡崎綺羅です」
「いい名前ですね。それでは綺羅さん、お元気で」
ハーレイはそう言って手を振って去っていった。綺羅もまた、新しい相手を求めてくるりと
◆◆◆◆◆◆
しかしそんな表側の参加者だけが楽しんでいるような大会では、断じてない。
裏側、即ち神々の戦争の参加者たちは今、己の命や無辜の民たちの命を守るために戦っている。
多くの人々を巻き込むことをいとわぬ理不尽を押し付ける神々や、明らかにルール違反を犯しているクロノス率いるティターン神族。
彼らと戦うため、和輝をはじめ、彼の仲間たちやフレデリックが集めたメンバーが今も戦っている。
だが敵の居城は分かっている。乗り込むのは大会最終日の三日目、それまでは外に出ているギリシャ神話由来の
そのため、クロノスの契約者、
そこは本来、社員たちの精神的疲れを少しでも癒そうと、管理人を雇って小さいながらも見事な庭園が設けられていた。
季節ごとには咲く花が変わり、それが色取り取りの色彩を描き、見る者の心を和ませる。
そのできは見事なもので、ゾディアックが雑誌に紹介される時に、特集ページが組まれたほどだった。
その中庭が今、見るも無残な姿をさらしていた。
事故があったとしてブルーシートとテープで出入り口を封鎖し、一般人の立ち入りを禁止しているそこで、今、三つの人影が立っていた。
四十前後の壮年の男。彫の深い顔つき、灰色の髪を撫でつけており、青い瞳。グレイのスーツをぴしりと着込んだ隙の無い佇まい。長い年月をかけて研磨され、ついに命を持ったような石像の風情。
まさにこのゾディアックをまとめるCEO、射手矢弦十郎その人であった。
その傍らに、天を突くような巨躯。
二メートルを超える巨体、右が紅、左が蒼のオッドアイ。オールバックの髪は金だがところどころ、編み込むように黒の色が入る。
上背に見合ったがっしりとした体格を、黒のレザージャケット、白のタンクトップ、黒の皮パンツ、黒のブーツで覆った姿はどこか“混ざっている”印象を与える。
彼こそが射手矢と契約を結び、堂々と神々の戦争のルールを犯しいてる神、ティターン神族の王、クロノスであった。
「ひどい有様だな、これは」
口を開いたのは射手矢。彼は周囲を見渡し、無惨に踏み荒らされ、破壊された中庭について嘆きの声を漏らした。
「フィッシュバウド君がいなかったのは幸いだった。彼女は今日、彼女の神の私用で出ているからね。もしもこの場にいたら、彼を殺してただろう。彼女はこの中庭を心から愛し、我が子に接するように慈しんでいたから」
「下品な男だ。品性の欠片もない。あんな男を受け入れようなどと、どうかしている」
吐き捨てるように言うクロノス。その目には人間が害虫を見つけたような嫌悪感と、それを仕留め損なった不快感が見えていた。
「あんな男との待ち合わせの場所をこの場にしたのは罪だぞ」
クロノスの視線が動く。その先に第三の人物の姿。
腰まで伸びる薄紫の髪に紫紺の瞳。華奢な体躯に少女のような顔つき、男物のワイシャツと、暑いのか、肩にかけた薄手のジャケット。シャツ一枚なので華奢な印象の体躯が余計に細く見える。
染み一つない白い肌と合わせて、少女が無理をして男装をしているように見えるがれっきとした男。
「それは申し訳ありません。ぼくを筆頭に、多くの神の気配が集まり、かつ目立つ場所と言ったらここしかなかったもので。この埋め合わせは何なりと」
言いながら、平月はそれにしてもと話を繋げた。
「本当に人間とは思えない凶暴性でした。ギラギラした眼光に欲望に忠実な行動原理。それらを加味すると、人間というよりは知恵を持った猛獣のようだ」
「いかに勇猛――いや、蛮勇か――であろうとも、主人にも牙を剥くなら駄犬にすぎんぞ」
クロノスの指摘にごもっともと肩をすくめる平月。
「しかしそれでも彼は必要でしょう。ナイアルラトホテップもそう言っていましたし、それにああいう手合いは一度痛い目を見れば多少は従うもの。その心の内側に何を隠していおうとも」
「飼いならせずとも、とにかく鎖を繋げたい、そう言いたげだね、黄泉野君」
射手矢の声が差し挟まれる。平月は苦笑を浮かべ、
「はい。きっと、
「なら好きにすればいい。ただし、私たちはあの男については感知しない。それに個人的に、品性の無い犯罪者と言うのは何よりも嫌いだよ。まして一時期世間を騒がせた凶悪犯、
吐き捨てるようにそう言った瞬間、
「!?」
周囲の風景が一変した。
痛ましい花園の跡地から、荘厳な神殿の内部へと。
射手矢も平月も驚きはしない。元々バトルフィールド内――現実世界とは位相をずらした空間――のうち、ゾディアック本社はクロノスとティターン神族によって作り直されており、その外見は古代ギリシャの流れをくむパルテノン式の神殿となっている。
ただし本来ならば純白の所を、毒々しい漆黒と、そこに血管のような赤い筋が流れる意匠が施されることで、その外観は本来の有様からかけ離れた実に禍々しいものとなっていた。
これはオリンポス十二神をはじめとし、自分たちを放逐したギリシャ神話の神々に対するティターン神族なりの敵意の表れだろう。
それでもティターン神族の権能を用いてバトルフィールド内においてもこの場所は秘匿され、隠蔽されている。内部からは神殿に見えても外見はゾディアック本社ビルのままだ。少なくとも偽装を解除するまでは。
そして偽装を解除するのは決戦の三日目と射手矢は決めている。
ティターン神族に刃を向ける敵はこの大会に飛び込んでいる。もとよりそれを狙ってのジェネックス杯。だから彼はフレデリックや和輝たちのことも当然知っている。平月が情報源だ。
しかし今は二日目。まだこの神殿が表に出ることはない。
はずだが―――――
「バトルフィールドが他者によって展開された。つまり、襲撃だ」
闘争心を剥き出しにしてクロノスが言った瞬間だった。
頭上から爆発音。見上げるまでもなく瓦礫が降ってくるのが二人と一柱には知覚できた。
噴煙と瓦礫に紛れて飛来するものがあった。
影のみ、だがクロノスは飛来物を睨みつけた。
次の瞬間、影が停止する。影の正体はナイフのような銀色の刃だった。
「ずいぶんと、大仰なものを造り出したな、クロノス神よ」
頭上から凛とした声が聞こえた。今度こそ、二人と一柱が見上げた。
そこから迸るのは憎悪。そして憤怒。だが射手矢はその感情が自分に向けられたものだとは思っていなかった。
噴煙が晴れていく。その向こうから、巨大な機械の隼に乗る青年と、刃を束ねたような銀色の翼をもつ女神の姿があった。
ロングストレートのきめ細かな銀髪。アメジストをはめたような紫の瞳、罰を下される者たちの血を啜ったような赤黒い全身鎧、その下に覗く汚れを知らぬ白い肌、背に無数の刃を束ねたような銀色の翼。
ネメシス。復讐の女神の別名を持つギリシャ神話の神であった。
そして機械の猛禽の上に乗る青年。
燃え尽きた灰のような灰白色。刃のように鋭い青い色をした双眸、黒いスーツ、白いワイシャツ、黒いネクタイ姿、右耳にのみ嵌められた女物のイヤリング。燃え盛り、灰になってもなお燃え盛り、「敵」を焼き尽くそうとする遺灰の風情。
ネメシスの契約者、
「ああ、来ましたか、しつこいですね」
頭上から現れた一人と一柱は射手矢やクロノスには目もくれず、ただ平月だけを凝視していた。
そんな、射殺さんばかりの視線を浴びながら、しかし平月は呆れたようなため息をついた。
「見つけたぞ、見つけたぞナイアルラトホテップと、その契約者!」
憎悪を剥き出しにして、城崎が叫ぶ。
両親を、妹を、妻となるはずだった女性を殺され、全てを奪われた男は、今奪った元凶に向かってその牙を剥いた。
隼が急降下。そのあと覆ってネメシスもまた降下する。
怒りに満ちた城崎に対して、平月はあくまでも平静だった。
次の瞬間、クロノスが動いた。
彼は右腕を強引に横に振るった。直後、城崎が乗っていたモンスターが消滅した。
「ッ!」
「隼人!」
空中に投げ出される形になった城崎を、ネメシスが素早くフォロー。そのわきに手を差し入れて彼の身体を抱え、翼で空を叩く。
刃でできているように見えるが、通常の翼と同じく空を叩き姿勢制御、即座に着地した。
「ここは我の神殿だ。にもかかわらず、我でもなく、ティターン神族でもないもの以外を無視するとは、殺すか?」
「ほざけクロノス! 貴様こそ、明らかに神々の戦争のルールを破って、何をするつもりだ!」
叫んだのはネメシス。彼女はクロノスから城崎を守るように一歩前に出て糾弾の声を上げた。
その神々のやり取りさえも、復讐者の目にも耳にも入っていない。
「黙れ! オマエたちのことなどオレにはどうでもいい! ナイアルラトホテップ! 黄泉野平月! 貴様らの命を、この手で八つ裂きにできればな!」
憎悪に燃える城崎。その視線を受けても平月はつまらなそうにするだけだ。
「残念ですが時間です。ボクは人を迎えに行くので」
そう言って踵を返す。城崎のことなど、彼の怒りなど、歯牙にもかけていない。
「待て!」
追おうとする城崎。その足が止まる。復讐者は怒りに身を焦がしながらも、その芯は冷静だった。
囲まれている。気配で解る。復讐者として闇を行くことで、いつしか身についた気配感知。応じるように人影が浮かび上がってきた。
数は三。だが見えない気配もある。これが神だろう。
百八十センチを超えるがっしりとした体つき、プラチナブロンドの髪を短めに刈り揃え、瞳の色は灰色。三つ揃いのスーツ姿に加えて鋭い眼光が城崎を射抜く。
復讐者に身を堕とす前に、メディアでその顔と名前は知っていた。
さらにもう一人。男だ。
細面、黒い瞳、黒髪オールバック、ダークスーツ、長身だががっしりした体つきの男。何度も叩かれ、鍛え上げられた刀剣の風情。
彼もまた知っている。Aランクプロデュエリスト、スコルピィ・ホークダウン。
最後にもう一人。
こちらもまた男だが、顔は知らない。
獅子道やスコルピィと違い、百六十センチにも満たない小柄な体躯。下っ腹が出た七三分けの中年男性。グリーンのスーツを着ているけれど腹が出てるのでどこか閉まらない。黒髪にライトグリーンの瞳。
「こいつらは、ティターン神族という奴か」
脳裏を、先程戦った白髪の少年の影が過る。
ゾディアックビルにいるかもと言われたナイアルラトホテップ。かの邪神とつながっているギリシャ神話の巨神たち。
彼らは三日目に、即ち明日、ゾディアックビルに決戦を挑むといっていた。
視線を向けると平月の、あの憎きナイアルラトホテップの契約者の姿が消えようとしていた。
逃げる。あの嘲笑の邪神の姿は見えないが、きっとどこかで契約者を移動させようとしているのだろう。
しかし追おうにも、眼前のクロノスと射手矢を含めて四組の参加者に囲まれてはそれも難しい。
黄泉野平月本人がいたことは望外の喜びだったが、今は手が届かないらしい。それが分からないほど城崎の頭は熱していない。これも、あの少年と戦って、心境に変化が訪れた影響か。
ならば彼に多大な迷惑をかけたわびとして、ここで彼と彼の仲間たちの敵戦力を削っておこう。
生きてさえいれば、必ず復讐相手に手が届く。
敵を燃やす炎は、それ以外を燃やさぬようにしなければ。
「では射手矢さん。ボクはこれで。頑張ってください」
あくまで傍観者を気取り、当事者になることを嫌うのか、平月はついぞ城崎を一瞥さえせずにその場から去っていく。まるで幻のように消え去って。ただし、まだ気配は繋がっている。今から追いかければ間に合うかもしれない。
それができれば、だが。
「いいのか、隼人?」
傍らのネメシスに、城崎は無言で頷いた。
「オレたちは奴を見た。オレと奴をつなぐ因縁の糸はできた。あとは、それをたどるだけだ。復讐を遂げるまで、オレの命運が尽きることはない」
「この状況でもそれを言うか」
重々しい声。獅子堂からのものだ。声音は冷静なのにその奥底に煮えたぎるマグマのような怒りを感じ取り、ネメシスが眉をひそめた。
獅子堂が続ける。
「射手矢様の、あの方の居城を破壊し、こうして牙を研ぎ澄ましているならば、この私が貴様を潰す」
敵意と闘志をむき出しにした姿は、その名の通り獅子を思わせた。
「私の方も、これ以上ここを踏み荒らされるのは好みませんな。何しろ、この場の管理運営を任されているのですから」
追随の声は小太りの男から。彼はうんざりしたようなため息を吐き出して大仰に嘆いて見せたが、その実一切動作に隙を見せていない。城崎が不審な動きをすればすぐさま対応できるように身構えている。
「まぁ待ちたまえ、獅子堂君、牛島君」
殺気立つ二人を射手矢が制する。途端、彼らは大人しく下がった。射手矢に対する忠誠心は抜群、というわけだ。スコルピィだけが特に何をするでもなく、淡々と場の状況を俯瞰するように観察している。
「ここまでたった一人で乗り込んできたのは、今この瞬間にしか黄泉野君がいないからだろう? しかし彼はこうして逃げてしまった。そして君は今、こうして囲まれている。それでは君があまりに不憫。だからどうだろう? 君の相手は私がしよう。そして勝てたら、黄泉野君の居場所を教えよう」
「射手矢様」
獅子堂が咎めるような声音を駆ける。射手矢はいいじゃないかと制した。
「クロノスも、久々に戦いたがっている。私も、デュエルを楽しみたい。それに――――負けないよ」
射手矢の台詞からは絶対の自信が漲っていた。其れゆえか、獅子堂も牛島を
「では、移動しよう。クロノス」
「ふん、長ったらしい話だ」
吐き捨てるようにそう言って、クロノスは指を鳴らした。
瞬間、城崎の足元の感覚が消失した。
「!?」
「隼人!」
一瞬の浮遊感。ネメシスの声が聞こえた時には、肌に感じる感覚が変わっていた。
「これは……」
風が頬に当たる。今いる場所が一瞬分からなかった。
「偽装を適用させた。ゾディアックビルの屋上だよ。ただし、バトルフィールド内の」
誰も邪魔するもののない、一対一の戦いの場。くしくも展開は城崎の望んだ咆哮へと転がっていった。無論、本来なら平月を捕えたかったが、この男に勝てば居場所がわかるならリスクは大きいがリターンも大きい。
もっとも、都合がよすぎる展開なため、猜疑心が暗雲のように広がってしまうが。
「おっと、肝心なことを聞き忘れていた。君の名前は何かな?」
いつの間にかデュエルディスクを起動させ、射手矢が問いかけてきた。城崎もまた、デュエルディスクを起動させた。
「城崎隼人。それがオレの名だ。オレが勝ったら、ナイアルラトホテップの契約者の居場所を吐いてもらうぞ」
「そしてあわよくば、我らティターン神族を瓦解させようと?」
クロノスの嘲るような質問に、城崎は答えない。応える必要はないと考えている。
一拍、両者の間に沈黙が流れた。両者の胸元に宝珠の光が灯る。城崎は
そして――――
『
戦いの火蓋が切って落とされた。
城崎LP8000手札5枚
射手矢LP8000手札5枚
「私の先攻だね。では行こうか」
にこやかに射手矢は語る。その立ち姿は戦意など感じないが、Aランクプロの獅子堂、スコルピィが従う以上、彼の方が彼らよりも強いということだろうか。城崎は警戒を怠らずに射手矢の戦術を見守った。
「手札断殺を発動。互いに手札を二枚捨てて、二枚ドローだ。さぁ、君もカードを捨てたまえ」
言いながら、射手矢は手札から素早く二枚のカードを抜き取り、停滞なく墓地に送った。迷いのない行動が、彼が捨てるカードを手札を見た瞬間から決めていたことを示していた。
城崎もまた、手札を二枚捨てる。同時に声を張り上げた。
「この瞬間、
デュエルディスクからデッキを外して、扇状に広げる。すぐさま目的のカードを見つけ、抜き出し、手札に加える。再びデュエルディスクにセットされたデッキはオートシャッフル機能でシャッフルされた。
射手矢は軽く目を見開いた。
「おや、逆用されてしまったか。なかなか抜け目がない。どうせ捨てたもう一枚も、墓地で発動する効果を持っているカードなのだろうね」
当たりだ。ファジー・レイニアスと一緒に捨てたのはRRリターン。墓地で発動する効果を持つカードだった。
「まぁ、私は私の戦術を展開するだけさ。
立て続けに三体のモンスターが次々に現れる。
女性型、白い衣に金の羽衣、顔を隠す白の多い布、金の土星の輪を思わせる装具を持つモンスター――星因士ベガ――と、彼女の傍らに立つ白の戦衣に青い鎧、青い翼をもつ、やはり顔を隠した男性型のモンスター。こちらもまた、体を通す輪のような装具を身に着けている――星因士アルタイル――。
さらにアルタイルに導かれ、墓地より蘇生したモンスター。
前者二体より小柄な体躯、黒のインナーに白の衣、背には閉じた翼にも見える一対のパーツ、体を通した輪の形をした装具、手には小さな弓――星因士シャム――。
「シャムのモンスター効果発動、君に1000のダメージを与えよう」
射手矢が指を鳴らすと、それを合図とし、シャムが矢を番えた弓の弦を引き絞った。
停滞はなく、矢が放たれる。狙いは過たず城崎の宝珠へ。
「躱せ隼人!」
「言われるまでもない!」
空を割く鋭い音を置き去りに、矢が飛来する。ネメシスの警告が飛び、城崎が身を横っ飛びに投げ出した。
一瞬後、矢が先ほどまで城崎がいた空間を通過。城崎は地面を転がりながら、勢いを利用して立ち上がり、鋭い目つきで射手矢を睨みつけた。
「いい眼差しだ」
「生意気な眼差し、だ」
人間と神で意見が正反対だ。だがそれには意に介さず、射手矢は右手を天に向かって突き上げた。
「私の場にいる三体の星因士をオーバーレイ! 三体のモンスターで、オーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚!」
射手矢の右手の五指が、何かを掴み取るように――あるいは握りしめるように――閉じられる。
「七曜の星が輝く時、天より分かたれる力が炎となる! 来たれ貪狼の御使い! セプテン・トリオン-ドゥベ!」
虹色の爆発が起こり、その向こうから人に近いフォルムが現れた。
淡い光を放つ光輪とその中央に浮かぶ細長い人型。顔はなくのっぺりとしており、手足には指がない。頭から翼を生やし、胸に当たる部分に見開かれた赤い一つ目。
「これは……」
「古来より星は人々を導く
そして世界中から見られる美しく輝く星の煌めきこそが北斗七星。その星群を構成する星の名を一つ頂いたモンスターなのだ。生半可ではないよ。カードを一枚伏せて、ターンエンドだ」
手札断殺:速攻魔法
(1):お互いのプレイヤーは手札を2枚墓地へ送る。その後、それぞれデッキから2枚ドローする。
RR-ファジー・レイニアス 闇属性 ☆4 鳥獣族:効果
ATK500 DEF1500
「RR-ファジー・レイニアス」の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できず、このカードの効果を発動するターン、自分は「RR」モンスターしか特殊召喚できない。(1):自分フィールドに「RR-ファジー・レイニアス」以外の「RR」モンスターが存在する場合に発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。(2):このカードが墓地へ送られた場合に発動できる。デッキから「RR-ファジー・レイニアス」1体を手札に加える。
星因士 ベガ 光属性 ☆4 戦士族:効果
ATK1200 DEF1600
「星因士 ベガ」の効果は1ターンに1度しか使用できない。(1):このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。手札から「星因士 ベガ」以外の「テラナイト」モンスター1体を特殊召喚する。
星因士 アルタイル 光属性 ☆4 戦士族:効果
ATK1700 DEF1300
「星因士 アルタイル」の効果は1ターンに1度しか使用できない。(1):このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した場合、「星因士 アルタイル」以外の自分の墓地の「テラナイト」モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを守備表示で特殊召喚する。この効果の発動後、ターン終了時まで「テラナイト」モンスター以外の自分フィールドのモンスターは攻撃できない。
星因士 シャム 光属性 ☆4 戦士族:効果
ATK1400 DEF1800
「星因士 シャム」の効果は1ターンに1度しか使用できない。(1):このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。相手に1000ダメージを与える。
セプテン・トリオン-ドゥベ 光属性 ランク4 天使族:エクシーズ
ATK2400 DEF2000
レベル4モンスター×2体以上
???
城崎LP8000→7000手札6枚
射手矢LP8000手札1枚
「さぁ、楽しいデュエルをしようじゃないか、城崎君」
両手を広げて、射手矢は穏やかに言った。態度こそ穏やかだがその体から漲る自信は揺らぎない。決して油断できる相手ではない。城崎はいったん平月のことも、ナイアルラトホテップのことも頭から締め出した。
今はこのデュエルに集中すべきだ。でなければ、勝てない。