神々の戦争   作:tuki21

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第114話:宿敵邂逅

 ゴトンと何か重いものが床に落ちた音がする。この店にいた店主だ。いても邪魔なので()()()()

 薄暗い室内で。男はイラつきながら店内を物色した。

 目的の物はそこら中にあるのでとにかくかき集める。その中でもまぁ使えそうなものは特別にピックアップしていく。

 足元から呻き声が上がった。どうやらまだ生きているらしい。

 男は店長の首元に足を乗せた。

 体重をかける。足元で潰れたカエルのような聞き苦しい声が聞こえたが、すぐに静かになった。

 気分がいい。イラつかせる相手が消えるのは清々しい。

 ああ素晴らしきかなこの世界。訳の分からない連中に仲間入りを誘われた時はひどく気分が悪かったが、今は晴れやかだ。

 世界はオレを祝福している。最高だ。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 咲夜(さくや)がティターン神族の一柱とその契約者、カーラを打ち破った後、彼女は一緒にいたエーデルワイスと別れた。お互いの健闘を祈り、無事に再会しようと約束して。

 ただ咲夜は最後に気になっていたことを、エーデルワイスに聞いてみた。

 

「エーデルさん、さっき、ティターン神族に襲われる前に何か聞きかけていたみたいだけど、何?」

「うぇ!?」

 

 本人も忘れていたことを突き付けられて、エーデルワイスの表情に動揺が走った。

 顔を赤くして、慌てたように手を振ったが、やがて落ち着いたのか息を吐いた。

 

「落ち着いた?」

「……はい」

 

 それからエーデルワイスはもう一度息を吐いて、咲夜に向けて問いかけた。

 

「咲夜さんも、和輝さんのことが好きなんですか?」

「ふぐぅ――――――」

 

 いきなりストレートに聞いてきた。この()はこういう時に小細工をしないのだ。素直だから。分かっていてもやっぱり衝撃は大きいものだ。

 エーデルワイスはじっと咲夜のことを見ている。目を逸らせない。逸らしたら負けな気がする。

 

「そうね、エーデルの言う通り。まぁ、()()()()()()()()()()

 

 にこりと笑い、微笑みかける咲夜、その手がエーデルワイスの頭に載せられる。髪の間に指が差し込まれ、撫でられる。エーデルワイスはちょっとだけ気持ちよさそうに目を細めた。

 

 

「おや、認めましたか。素直なのはいい」

 

 戦いが終わった後、契約者を見守っていたルーが軽く目を見開いて言った。アテナは頬を赤らめながらも己の想いを認めた咲夜を、どこか誇らしげに見た。

 かつての逃亡生活の時、自分も咲夜も頑なで、他人を信じられず、抱えた思いをそのままにしたせいで圧し潰されそうだった。

 それが今は照れ臭そうでも何でも、自分の思いを吐露できる。素晴らしいことだ。ロキの契約者の少年には感謝してもし足りない。

 

「どちらにしても、咲夜にはより一層の努力を期待したいな」」

「エーデルワイスも、引っ込み思案なところをもっと治してもらいたい」

 

 二柱の神が親のような目線で言葉を交わしていることに気づかず、少女たちははにかんだように笑った。

 

「すっきりしました」

 

 エーデルワイスは笑う。咲夜はエーデルワイスの頭から手を離した。

 

「けれど、負けないわ」

「わ、私も頑張ります」

 

 ただ、二人ともいわずとも分かっていた。

 この恋は大事だ。しかし今は神々の戦争を、そこで出てきてしまう、神々の理不尽によって虐げられた人々の数を無くさなければならない。そうしなければ、肝心の和輝もこっちに振り向いてくれないかもしれない。

 やるべきことを終えて、平和になってから。其れからだ、全ては。

 

「お互いに頑張りましょ。勿論、この神々の戦争でも、生き残りましょう」

「はい!」

 

 そして咲夜とエーデルワイスは握手を交わして互いに別々の道に去っていった。

 今咲夜はアテナと一緒に新たなティターン神族やギリシャ神話の怪物を探していた。そんな時、傍らのアテナが呟いたのだ。

 

「それにしても、英雄色を好むというが、ロキの契約者もなかなかだな。まさかいつの間にか慕う少女を増やすとは」

「うーん……、和輝君ってば、ナチュラルに人を助けて心に居残ってそうだなぁ」

 

 何やら納得したように頷くアテナに対して、咲夜は呆れたような、納得したような、嬉しいようなそうでもないような、そんな複雑な表情を作っていた。

 と、そんな咲夜の足が止まる。釣られたようにアテナも足を止めた。

 咲夜の視線の先に人だかりがあった。

 何かあったのだろうか? そう思って近づいてみると、そこには警察が張る立ち入り禁止のテープが張られた建物があった。

 カードショップらしいが、そこにパトカーが止まっており、事件があったことは明白だった。

 周囲のやじ馬が言うには強盗殺人らしい。この店の店主が殺されており、さらに店の中にあったカードが盗まれていたという。

 ジェネックス杯の開催中、しかも白昼堂々の犯行は参加者を不安にさせる。咲夜は思わず顔をしかめたが、その服の裾を引っ張られるのを感じ、咲夜は視線を下に向けた。

 勿論咲夜の裾を引っ張ったのはアテナだった。

 

「どうしたのアテナ?」

「咲夜、神の気配がする。ひどく禍々しい気配だ。つまりは――――――」

「この事件を引き起こした犯人って可能性が高いのね」

 

 アテナは無言で頷いた。咲夜の表情にも緊張が走る。

 

「行きましょう。もしこれをやったのが本当に神々の戦争の参加者なら、何としても次の事件は食い止めないと」

 

 そう言って、咲夜はアテナの先導に従って神の気配を追った。

 アテナの先導はどんどん人気(ひとけ)の無い裏路地に向かっていた。

 ただ移動の仕方は無軌道で、こちらに気づいて誘っている感じはしない。

 

「なんだか、適当に進んでいる?」

「そのようだ。人間というよりも、獣を追っているような気配だ。気を抜くなよ、咲夜」

 

 言われるまでもなかった。しかし咲夜の胸の中には言い知れぬ不安が暗雲のように広がっていた。

 そしてついにアテナとともに、神の気配の源にたどり着いた。

 

「え―――――」

 

 その男を見た時、咲夜は絶句した。

 忘れるはずがない。あの(おぞ)ましい男。記憶の中の自分は幼かったため、今目の前のいる男もそれなりに年を取っているはずだが、その身から出てくる気配、自分が感じる印象はまるで変わらない。

 日に焼けた色黒の肌、乱暴に束ねたぼさぼさの黒髪、無精ひげ、黄色い瞳。灰色のつなぎ姿。人間というよりも、知恵のあるけだものの風情。

 

萩野(はぎの)……晃司(こうじ)……!」

 

 男の名前を、咲夜は憎しみをもって口にした。

 萩野晃司は、日本警察史上に刻まれた凶悪犯の名前だ。

 その様に理性はなく、その犯行に正気はない。

 ただ本能のままに行動し、衝動のままに罪を重ねる危険な男。

 合計九人の女性、少女を強姦の末殺害し、金品を強奪。さらに九人の男性、少年を残忍で徹底的な拷問にかけたうえで殺害。その金品を強奪した。

 何より異常だったのは、被害者は全員()()()()()()()()()()()

 それらの異常性を発揮した後に逮捕されたが脱走。逃亡先で非番だった刑事を一人殺した。

 その刑事こそが咲夜の父親だった。

 

「……墓参りの時に、氷見(ひみ)さんに聞いてから、ずっと思ってた……。お前を、必ず見つけ出して、倒すと!」

 

 怒りに満ちた咲夜の声に、男は反応した。ゆっくりと咲夜に視線を合わせる。

 男の瞳がギラリと、粘ついた光を放った。それは人間というよりも、暴力と好色に酔った獣のようだった。

 

「なんだオマエ、知らねぇ奴だ。何でオレを知っている?」

 

 イラついたような口調で、萩野は咲夜に声をかけた。やはり人間の言語というよりは、猛獣の唸り声が何かの間違いで人語に聞こえているように感じられた。

 

「なんだこの男は」

 

 その証拠のように、咲夜の隣にいるアテナが不快げに顔をしかめた。

 

「……お前は忘れても、あたしは忘れない」

 

 咲夜の口から、怒りと憎悪を伴った言葉が零れてきた。パートナーのそんな声音を聞くのが初めてだったアテナは驚いたように咲夜を見上げた。

 

「咲夜?」

「あたしの名前は国守(くにもり)咲夜……。あんたが殺した、刑事の娘だ!」

「国守……?」

 

 国守の(かばね)を聞いた瞬間、咲夜を見る萩野の目の色に変化があった。

 好色と暴力に、確かな怒りと、そして踏み躙ることへの愉悦があった。

 

「国守……。あぁ、覚えてる、覚えてるぜその名前。オレを逮捕しやがったくそったれな刑事だ。いったい何のつもりでオレの邪魔をしやがった。おまけに逃げた先にも現れる不快な糞野郎。ぶっ殺してやった時はすっきりにしたのに、()()()()()()()()。あの野郎の真実を晒すことができなかった」

 

 言っているうちに、萩野の語気には得体のしれない熱が帯びてきた。

 

「だが運命はオレに味方していやがる!くそったれなあの刑事の、娘が出てきやがった! おまけに――――――」

 

 萩野の視線が咲夜の頭の上からつま先までを舐めるように通り抜けた。その不快感に咲夜は思わず自分の身体を抱きしめるように腕を回した。

 

「なかなか()()()じゃねぇか。犯して殺して、もう一回犯した後に顔を剥いでやる。その奇麗な面の真実を晒してやるよ。剥がした外面(テクスチャ)は世間に向けて晒してやる」

 

 獲物をお遊び殺す肉食獣のような獰猛で不快な笑みを浮かべて、萩野は吠えた。

 

「シュブ=ニグラス!」

 

 神の名を呼ぶ。

 それは邪神の名。その姿を直視したものを狂わせる大いなる黒き母の名。萩野の背後に現れたのは、しかし悍ましいものではなく、淫らで扇情的、しかし美しい女だった。

 銀の長髪、金の瞳、褐色の肌とその身を包む黒のドレス。

 豊満な胸、くびれた腰、突き出した尻。そのくせ激しい自己主張はせず、常に男の後ろに控える佇まい。全てが肉感的であり、手放すことのできない「女」であった。

 

「やはり、神! ならば、あのカードショップの下手人はこいつで決まりか!」

 

 警戒心をあらわに吐き捨てるアテナ。そんなアテナに構わず、女、シュブニグラス――クトゥルフ神話という、特異な神話に名を刻む狂乱の女神――は、その瞳を一瞬萩野に向け、次の瞬間両手を広げた。その背後に黒い枯れ枝のような、翼の骨子のような“何か”が見えた。

 直後、世界が変わる。人々が謳歌する現実の空間とは位相を変えた、神々の戦争の参加者の戦場であるバトルフィールドへと。

 

「ここなら邪魔は入らない。嬲って遊んで、せいぜい楽しむとするか」

 

 萩野はデュエルディスクを起動させた。彼の脳裏には突然変わった世界に困惑し、怯える咲夜の姿が幻視された。

 しかし現実はそうではなかった。咲夜は瞳に闘志と力を漲らせて、デュエルディスクを起動させた。

 

「楽しむ余裕なんてないわ。お前はここで、あたしが倒す! 行先は刑務所よ!」

「あ? なんでビビらねぇ。ここから先はオレの一方的な蹂躙じゃねぇのかよ」

「ふざけたことをぬかすな下郎! 私の姿が見えないのか? 力なくとも、私は女神アテナ! そして咲夜は私と契約した神々の戦争の参加者! 貴様の存在にも、このバトルフィールドにも、ひるむことなど無い!」

 

 切って捨てるアテナの言葉に、萩野はイラついたように舌打ちして、地面に唾を吐いた。

 

「くそが。何で怯えねぇ。オレの思い通りにならねぇ」

 

 ぶつぶつと呟く萩野は正気とは思えなかったがそれでもデュエルディスクを起動させた。

 咲夜の胸にピンクの、萩野の胸元に肉色の宝珠の輝きが灯った。

 

「まぁいい。クソ忌々しいがやることは変わらない」

 

 それぞれの感情が二人と二柱の間に渦巻いた。半透明になったシュブニグラスが焦点のあっていない茫洋とした瞳で虚空を見つめていたが、やがて口を小さく開いて、

 

「――――――――――――」

 

 木々のざわめきとも、獣の遠吠えともつかぬ奇妙な声を上げた。それを合図としたかのように、人間たちが声を上げた。

 

決闘(デュエル)!』

 

 

咲夜LP8000手札5枚

萩野LP8000手札5枚

 

 

「あたしの先攻! E・HERO(エレメンタルヒーロー) アナザー・ネオス召喚!」

 

 咲夜のフィールドに召喚されたのは、まだ若く、しかし才気に溢れ、勇気を秘めた若者。やがては成長し、E・HERO ネオスへと至る。

 

「カードを二枚伏せて、ターンエンド!」

「咲夜?」

 

 隣でデュエルを続けるパートナーの姿を、アテナは怪訝な表情で見つめた。

 おかしい。咲夜にあまりに余裕がなさすぎる。これは、かつての咲夜を見ているようだと、アテナは思った。

 かつての咲夜。言うまでもない。子供となった自分を抱えて、孤独な戦いを強いられていたころ。

 

 

E・HERO アナザー・ネオス 光属性 ☆4 戦士族:デュアル

ATK1900 DEF1300

(1):このカードはフィールド・墓地に存在する限り、通常モンスターとして扱う。(2):フィールドの通常モンスター扱いのこのカードを通常召喚としてもう1度召喚できる。その場合このカードは効果モンスター扱いとなり以下の効果を得る。

●このカードはモンスターゾーンに存在する限り、カード名を「E・HERO ネオス」として扱う。

 

「オレのターンだなぁ」

 

 ドローカードを確認後、萩野はすぐには動かなかった。ただじっと咲夜を見据えた。その視線が不快で、咲夜は顔をしかめた。

 

「何?」

 

 険を込めた口調で睨みつけると、萩野は見せつけるように地面に唾を吐いた。

 

「似てるなぁ、思い出す。思い出してむかつくなぁ。オレを逮捕した刑事の顔。正義感に溢れて反吐が出る。あぁ残念だ。そういう人間の顔をこそ剥ぎ取って、真実を見たかったのに」

 

 萩野の言動は完全に独り言で、視線こそ咲夜の方を向いているが、彼女を見ているとはとても思えなかった。

 

「だが娘の方も同じような眼と顔つきしてやがる。顔面剥がした真実を、ぜひとも見てぇなぁ。あぁ、けど、犯される時の顔と、殺される時の顔も見てぇなぁ。あの糞刑事はオレが取り押さえられるまで生きてやがったし。娘の顔で糞刑事の死に顔想像するか。その中身もな」

 

 不快感が咲夜の胸の内から湧き上がってきた。それは加速度的に広がって、口から飛び出した。

 

「いい加減にして! くだらないこと言ってないで、さっさとターンを進めなさい!」

 

 咲夜の一括。それをアテナは危険だと感じた。

 今の咲夜は怒りにかられ、明らかに冷静さを欠いていた。父の仇、しかもそれが手にした強大な力を振るい、欲望と本能のままに弱者を蹂躙している姿に怒りを制御できていない。

 危険だ。怒りで狭くなった視野は容易く窮地に追い込む。

 だがアテナの声は届かない。

 

「その怒り顔も悪くねぇ。全部、全部剥ぎ取ってやる。オレは鋼鉄の襲撃者(ヘビーメタル・レイダーズ)を発動!」

 

 萩野が乱暴な手つきでカードをデュエルディスクのフィールドカードゾーンに叩きつけた。

 ただそれで何が変わったわけでもない。他のフィールド魔法のように、周囲の景色が変わった様子はない。

 ただ、気配を感じた。

 冷たくて重く、そして容赦のない鋼鉄の気配。機械の気配を。

 

「次だ。ツインバレル・ドラゴン召喚」

 

 やはり乱暴な手つきでカードをデュエルディスクにセットする萩野。それでもデュエルディスクはカードの画像をスキャンし、彼のフィールドに投影する。

 現れたのは青をメインに、関節部などを金でカラーリングした機械のドラゴン。腕はなく、頭部は通常のドラゴンの物ではなく、上顎と下顎を銃口に変えた攻撃的な代物。

 

「効果発動だ」

 

 言いながら萩野はまた地面に向けて唾を吐いた。

 本来コイントスやダイスを扱うが、デュエルディスクがあれば自動で判定を行う。いかさま防止でもある。

 

「二枚とも表。そのえせヒーローを壊せ」

 

 嗜虐心を込めた声音で萩野は言い、命令を聞いたツインバレル・ドラゴンが無慈悲な咆哮の代わりに銃撃を行う。

 弾詰まり(ジャム)は起こらず、放たれた砲弾は空気を焼き、アナザー・ネオスを粉砕した。

 これで咲夜のモンスターはいなくなり、彼女を守る壁はない。

 だが萩野はそこからさらに畳みかける。まさに、弱みを見せた獲物に飛び掛かる肉食獣のように、だ。

 

「この瞬間、鋼鉄の襲撃者の効果発動! 来やがれ、デスペラード・リボルバー・ドラゴン!」

 

 ツインバレル・ドラゴンの傍らに、巨大な影が立つ。

 頭部、両腕が長大な黒鉄(くろがね)のリボルバーとなったドラゴンモンスター。しかもオリジナルのリボルバー・ドラゴンと違い、フォルムはより攻撃的となり、喉奥から響いてくる唸り声が強い威圧感を与えた。

 萩野の目がぎょろりと咲夜を睨んだ。さっきまであった、不機嫌でイラついて、そして自分勝手な醜悪さは幻のように消え、人語を話す獣のような凶暴性を剥き出しになった。

 

機甲部隊の最前線(マシンナーズ・フロントライン)発動だ。さて、お楽しみの時間だ。撃ち抜いてやるよ、あの糞刑事のように! ツインバレル・ドラゴンでダイレクトアタック!」

 

 再びツインバレル・ドラゴンの銃口が火を噴いた。

 

「ッ! リバースカードオープン! ヒーロー・ブラスト! 墓地のアナザー・ネオスを手札に戻して、ツインバレル・ドラゴンを破壊!」

 

 ガラスのように粉々に砕け散るツインバレル・ドラゴン。しかし萩野にとってそれは先兵が潰されたにすぎず、大物が控えているのだった。

 

「くだらねぇ抵抗はこれで終わりか!? なら今度こそ撃ち抜いてやるぜ。どこがいい? 腕か? 足か? そのでけぇ胸や頭もいいなぁ! デスペラード・リボルバー・ドラゴンでダイレクトアタック!」

 

 次は先程と桁違いの火力だった。

 デスペラード・リボルバー・ドラゴンの両腕と頭部の砲門が火を噴き、大気を焼く。

 熱風とともに迫りくる三発の砲弾を前に、咲夜に逃げ場はない。

 

「宝珠を守れ咲夜!」

 

 アテナの叫びに対して咲夜は即座に反応した。

 着弾。咲夜の悲鳴は続く轟音によってかき消され、砲撃を受けたことで舞い上がったアスファルトの破片や粉塵が彼女の身体を隠した。

 

「あぁん? これじゃああの女がどこを撃たれたのか分からねぇじゃねぇか」

 

 気に入らないことがある時の癖なのか、萩野がひどく自分勝手なことを言いながら唾を吐いた。

 その直後に、咲夜の身体が粉塵から飛び出した。

 回避のための跳躍ではなく、砲撃の衝撃で吹き飛ばされたのだ。

 咲夜の身体は背中から地面に激突し、派手に転がったが、回転の勢いを利用して立ち上がった。

 萩野を睨む咲夜の瞳に翳りはなく、その宝珠の輝きもいささかも濁らない。ボロボロでも、汚れても、彼女の高潔さは失われていない。

 

「この程度、大したことない!」

「その奇麗さを剥ぎ取った真実を見るのが今から楽しみだ。ターンエンドだ」

 

 

鋼鉄の襲撃者:フィールド魔法

(1):このカードがフィールドゾーンに存在する限り、自分の機械族・闇属性モンスターは、それぞれ1ターンに1度だけ戦闘では破壊されず、その戦闘で自分が戦闘ダメージを受けた場合、その数値分だけ攻撃力がアップする。(2):1ターンに1度、自分フィールドの元々の種族・属性が機械族・闇属性のモンスターが、戦闘または自身の効果でフィールドのカードを破壊した場合に発動できる。手札から機械族・闇属性モンスター1体を特殊召喚する。

 

ツインバレル・ドラゴン 闇属性 ☆4 ドラゴン族:効果

ATK1700 DEF200

このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時、相手フィールド上に存在するカード1枚を選択して発動する。コイントスを2回行い、2回とも表だった場合、選択したカードを破壊する。

 

デスペラード・リボルバー・ドラゴン 闇属性 ☆8 機械族:効果

ATK2800 DEF2200

???

 

機甲部隊の最前線:永続魔法

(1):1ターンに1度、機械族モンスターが戦闘で破壊され自分の墓地へ送られた時に発動できる。墓地のそのモンスターより攻撃力が低い、同じ属性の機械族モンスター1体をデッキから特殊召喚する。

 

ヒーロー・ブラスト:通常罠

(1):自分の墓地の「E・HERO」通常モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを手札に加える。その後、手札に加えたモンスターの攻撃力以下の攻撃力を持つ相手フィールドのモンスター1体を選んで破壊する。

 

 

咲夜LP8000→5200手札3枚

萩野LP8000手札2枚

 

 

「く……! あたしのターン!」

 

 アテナの胸のうちに、危機感がどんどん膨らんでいった。

 見つめる咲夜の背中は、ここからでもわかるほど余裕がない。完全に敵にペースを握られている。

 このような状態では何をしようとも相手には通用しない。そして通用しないから余計にがむしゃらになり、視野狭窄となり、ドツボに嵌る。

 さらにアテナは見抜いていたが、相手の男は下衆で下賤だが頭がキレる。今奴が見せている態度の何割が本当なのやら。少なくとも咲夜を怒らせるような言動を計算しているし、不快気にしているのも、イラついているのも()()かもしれない。

 だがアテナが気付いているこの事実に、咲夜は気付けない。怒りで真っ赤に染まった思考に、相手の怜悧な思惑を見抜ける目はない。

 

(どうすればいい……。何か、咲夜が冷静になれるきっかけさえあれば……)

 

 そうすれば、こちらの声も届く。アテナはそう確信していた。

 

(せめてそれまで、咲夜が無事であってくれればいいが……)

 

 相手の男は異常だが冷静だ。愉しみながらも目的を違えない。

 

「E・HERO ソリッドマンを召喚して、効果発動! 手札のE・HERO エアーマンを特殊召喚! ここで、エアーマンの効果を発動して、デッキからE・HERO シャドー・ミストを手札に加えるわ」

 

 咲夜のフィールドに一気に二体のHEROモンスターが展開される。両手に盾のように巨大な小手を装備したHEROと、彼に導かれて召喚された空駆けるHERO。どちらも咲夜のデュエルで幾度となく現れたモンスターだった。

 アテナは咲夜の様子から、彼女がこのターンに大きく動き、一気に決めに行くつもりだと分かった。

 

「融合発動! 場のソリッドマンと手札のシャドー・ミストを融合!

 異なる力合わさる時、希望の太陽が天へと昇る! 融合召喚! 絶望を切り裂いて、E・HERO サンライザー!」

 

 咲夜のフィールド、その頭上に空間の渦が形成され、その渦に二体のHEROモンスターが飛び込んだ。

 二体のモンスターが一つに混ざり合い、新たなモンスターを生み出す。

 現れたのは太陽のような、燃え盛る炎のような真っ赤な体のHERO。

 全身を覆う真っ赤なバトルアーマー、両腕から生えているブレイドパーツ、背には本体カラーと相反する――故により彩が際立つ――青いマント姿はまさしくHERO然としていた。

 

「ソリッドマンの効果は使わない。けどシャドー・ミストの効果は発動し、デッキからE・HERO オネスティ・ネオスを手札に加える! さらにサンライザーの効果で、デッキからミラクル・フュージョンを手札に加えるわ。

 そしてミラクル・フュージョンを発動! 墓地のソリッドマンとシャドー・ミストを除外融合!

 輝け光のヒーロー! 打ち捨てられたもの達にも救いの手を差し伸べる! 融合召喚、E・HERO THE シャイニング!」

 

 咲夜のフィールドに再び融合召喚のエフェクトが走り、現れたのは白い身体に金のラインと赤の宝玉パーツを持ち、背部に日輪を思わせる金のリングパーツとその付属である剣状パーツを持ったHERO。

 シャイニングは除外されているE・HEROの数だけ攻撃力を増す。今は二体だけなので3200止まりだが、状況次第ではさらに上がるだろう。そしてサンライザーの効果によって、咲夜のモンスターは全体的に微力ながら強化されていた。

 

「このまま行く!」

「ま、待て咲夜!」

 

 アテナの制止の言葉は咲夜に届かなかった。彼女の視野は狭まっており、踏み込むことに対して慎重さが足りていなかった。

 

「バトルフェイズに入るわ、あたしは――――――」

 

 咲夜が攻撃を開始しようとしたその刹那、萩野がいやらしい笑みを浮かべたまま、右手で拳銃の形を作り、咲夜の左胸、心臓部分を指し示して言った。

 

「バーン」

 

 明らかに咲夜とアテナとおちょくっているような口調で、萩野は拳銃を撃つような動作で右手を跳ね上げた。

 次の瞬間、デスペラード・リボルバー・ドラゴンが両手の銃砲を咲夜のモンスターたちに向け、発砲。

 号砲が跳ね上がり、二人の間で火花と破壊が散った。

 

「え!?」

 

 相手のターンにも攻撃できるという、ルールの根底を覆す目の前の現象に、咲夜の目が見開かれ、行動が止まる。

 咲夜の眼前では、彼女の二体のHEROモンスターはデスペラード・リボルバー・ドラゴンが放った()()を受け、木っ端微塵に砕け散ってしまった。

 

「思い出す、思い出すぜぇ。オマエの親父も、こうして撃ち殺してやった。あの時は楽しかったなぁ、今みたいに間の抜けた声を出してなぁ。あぁ、いや、出してなかったかなぁ」

 

 くつくつと腹を抱えて笑う萩野。そのままペラペラと喋り始める。

 

「種明かしをするとだな、デスペラード・リボルバー・ドラゴンは自分か相手バトルフェイズ中に、攻撃を放棄する代わりに最大三回モンスターを破壊できるってわけだ」

 

 実際にはコイントスを行い、表が出た数まで破壊できる。コイントスはデュエルディスクが判定したため、イカサマはなし。今回も、先程のツインバレル・ドラゴンと同じく全て表。よってデスペラード・リボルバー・ドラゴンの効果が発動し、咲夜のモンスター二体を破壊したのだった。

 

「さらに三枚表だったから、一枚ドロー! ついでに鋼鉄の襲撃者の効果が発動だ! 手札のリボルバー・ドラゴンを特殊召喚!」

 

 新たに現れる、頭部と両腕が回転式拳銃に成り代わっている機械モンスター。二体のリボルバーモンスターの、合計六つの銃口が咲夜を狙う。

 

 

E・HERO ソリッドマン 地属性 ☆4 戦士族:効果

ATK1300 DEF1100

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。(1):このカードが召喚に成功した時に発動できる。手札からレベル4以下の「HERO」モンスター1体を特殊召喚する。(2):このカードが魔法カードの効果でモンスターゾーンから墓地へ送られた場合、「E・HERO ソリッドマン」以外の自分の墓地の「HERO」モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを守備表示で特殊召喚する。

 

E・HERO エアーマン 風属性 ☆4 戦士族:効果

ATK1800 DEF300

(1):このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、以下の効果から1つを選択して発動できる。●このカード以外の自分フィールドの「HERO」モンスターの数まで、フィールドの魔法・罠カードを選んで破壊する。●デッキから「HERO」モンスター1体を手札に加える。

 

融合:通常魔法

(1):自分の手札・フィールドから、融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、その融合モンスター1体をエクストラデッキから融合召喚する。

 

E・HERO サンライザー 光属性 ☆7 戦士族:融合

ATK2500 DEF1200

属性が異なる「HERO」モンスター×2

このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。このカード名の(1)(3)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。(1):このカードが特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「ミラクル・フュージョン」1枚を手札に加える。(2):自分フィールドのモンスターの攻撃力は、自分フィールドのモンスターの属性の種類×200アップする。(3):このカード以外の自分の「HERO」モンスターが戦闘を行う攻撃宣言時に、フィールドのカード1枚を対象として発動できる。そのカードを破壊する。

 

ミラクル・フュージョン:通常魔法

(1):自分のフィールド・墓地から、「E・HERO」融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを除外し、その融合モンスター1体をエクストラデッキから融合召喚する。

 

E・HERO THE シャイニング 光属性 ☆8 戦士族:融合

ATK2600 DED2100

「E・HERO」と名のついたモンスター+光属性モンスター

このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。このカードの攻撃力は、ゲームから除外されている自分の「E・HERO」と名のついたモンスターの数×300ポイントアップする。このカードがフィールド上から墓地へ送られた時、ゲームから除外されている自分の「E・HERO」と名のついたモンスターを2体まで選択し、手札に加える事ができる。

 

デスペラード・リボルバー・ドラゴン 闇属性 ☆8 機械族:効果

ATK2800 DEF2200

(1):自分フィールドの機械族・闇属性モンスターが戦闘・効果で破壊された場合に発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。(2):1ターンに1度、自分・相手のバトルフェイズに発動できる。コイントスを3回行う。表が出た数までフィールドの表側表示モンスターを選んで破壊する。3回とも表だった場合、さらに自分はデッキから1枚ドローする。この効果を発動するターン、このカードは攻撃できない。(3):このカードが墓地へ送られた場合に発動できる。コイントスを行う効果を持つレベル7以下のモンスター1体をデッキから手札に加える。

 

リボルバー・ドラゴン 闇属性 ☆7 機械族:効果

ATK2600 DEF2200

(1):1ターンに1度、相手フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。コイントスを3回行い、その内2回以上が表だった場合、そのモンスターを破壊する。

 

 

 咲夜は冷静さを欠き、視野が狭まり、ミスを犯した。均衡は崩れ、勝負の秤は萩野に大きく傾いた。

 細かに震える咲夜は、まるで独り取り残された幼子のようだった。

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