神々の戦争   作:tuki21

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第118話:女神の復讐

「ブラック・マジシャンでダイレクトアタック!」

 

 和輝(かずき)の声が通り、彼の命令に従って、黒衣の魔術師が杖を振りかざす。

 杖の先端に備え付けられた宝珠から黒い稲妻が幾条も放たれ、それが対戦相手の、中年男性へと叩きこまれた。

 

『ギャァァァァアッ!』

 

 男性の、否、人間の喉から迸ったとは思えない、野太く軋んだ悲鳴が轟き、男が倒れた。

 

「希望皇ホープでダイレクトアタック!」

 

 その近くで、龍次(りゅうじ)の声も上がる。

 そして彼の命令に従って、ウィングパーツを広げた戦士が、片刃の剣を投擲。中学生くらいの少女の身体に最後の一撃を叩き込んだ。

 

『ガアアアアアアアアアアアアア!』

 

 やはり少女の喉から迸ったとは思えない、ノイズのような悲鳴が上がって、彼女の身体が倒れる。その寸前に飛び出した龍次が、少女の身体を抱え、無防備なまま地面に倒れるのを防いだ。

 

「紳士的だな、龍次」

 

 和輝の笑みを含んだ声に、龍次自身「俺のポリシーさ」と軽口を返す。

 そこは戦場だった。

 ジェネックス杯二日目。まもなく日が沈み、二日目の終わりを告げる。

 そんな中、神々の戦争の結界の中は、多くのギリシャの悪霊(エンプーサ)と、どこの神話出身とも分からない、得体の知れない怪物が蠢いていた。

 神々の戦争の、神以外の怪物たちだった。

 場所は、和輝たちの仲間、烈震(れっしん)が入院している病院。

 和輝と龍次は、フレデリックからの連絡で、この病院に怪物や、ティターン神族の一柱が向かっていると聞き、急行した。

 幸い、龍次は元々近くにいたし、和輝は結界内で閃珖竜スターダストを召喚し、空からやってきた。

 病院の土地は広く、怪物たちもやはり人間用の出入り口など気にせず襲来してきたが、フレデリックと、彼とともにカトレアも急行。少し遅れてやはり銀河眼の光子竜(ギャラクシーアイズ・フォトン・ドラゴン)に乗って現れたエーデルワイスによって、さらに防御は硬くなった。

 しかし敵の数が多い。が、これだけでも実は少ないのだ。和輝たちは知る由もないが、二日目から参加している穂村崎(ほむらざき)がフレデリックの指示によって遊撃隊として都内をめぐり、怪物たちを断引き付けてくれているのだ。

 

「いや、ギリシャの怪物だけじゃないな」

 

 敵の中に何体か混ざっているギリシャ神話の怪物とは一切共通点を見いだせない化け物もいる。龍次は、不気味さをより増している、そんな怪物たちを思い返して吐き捨てた。

 

「確か、フレデリックが言っていたぜ、クトゥルフ神話の怪物も、このジェネックス杯に紛れ込んでるってな。そして奴らがティターン神族に戦力を貸しているって」

「道理で数が多いわけだぜ」

 

 再び現れた敵を前に、二人が構える。そして、別の場所で派手な音が鳴り、光が上がった。

 

「今のは……コナーさんか」

 

 和輝はウェールズの森で会った少女の顔を思い浮かべた。かつてはおどおどしていた女の子が、こんな短期なんで勇敢になったものだ。

 人の成長は凄いな。そう思った。そこに自分が大きく関わっていることを、和輝は知る由もなかった。

 

「よし、このまま残りの敵も―――――」

 

 倒してしまおう。そう言おうとした和輝の背後、今まさに彼らが死守しようとしている病院から、轟音と共に巨大な水柱が立ち昇った。

 

「なんだ!?」

「これは……すでに遅かったかもしれない」

 

 驚く和輝の傍らに、ロキが実体化してそう呟いた。

 ロキの言葉は正しかった。和輝たちが進行してくる怪物たちを止めている間、文字通り()()()で事態は進行していたのだ。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 病院の中庭には、中央部に大きな噴水があった。

 神々の戦争のバトルフィールド内にあっても、いかなる仕掛けか水が湧き出続けているその場所に、今静かに、だが明らかな異変が起きていた。

 噴水の水が出る間隔が一定でなくなり、ひときわ高く、水柱のように沸き立った。

 柱はまるで滝を逆流させたかのような勢いで立ち昇り、時が止まったように停止、音と水しぶきを盛大に上げて内側から砕けるように割れた。

 中から現れたのは女。水気を含んだ、しっとりとした黒い長髪、白い半袖のブラウスにワインレッドのロングスカート、大人しめなフレームレスの眼鏡に黄色の瞳。ただ黙って佇むのであれば、知的で物静かな美女だろう。何しろ、本来の彼女の瞳には慈しみと知性の光があった。

 だが今、その瞳は沈んでおり、やりきれなさと悲しみで染まっていた。

 彼女の名はピスケース・フィッシュバウト。ゾディアック本社自慢の庭園の管理者で、アマチュアだが、その腕前はBランクプロデュエリスト並、そのためゾディアックお抱えのプロのデッキ調整にも付き合える、アマチュアの実力者だった。

 ただ、その実力の高さが災いした。ティターン神族の一柱と波長が合い、契約者となった。

 そこまでは良かった。そこまでは。

 

「ああ……」

 

 ピスケースの口は動いていない。だが声は彼女の後ろから聞こえてきた。

 声の主が姿を現す。

 女だ。ただしピスケースとは違い、明らかに人間ではない。

 足元まで届くダークブルーの髪、満月のような金色の瞳。人間とは違う、比喩でも何でもない青白い素肌の上に纏っている衣は、水のように波打っている。

 人間でもなければ怪物でもない。身に纏うのはある種の神々しささえ感じさせる気配。即ち神。

 此の女神の名はテテュス。ティターン神族の一柱。

 

「見つけたぞ、見つけたぞ……ッ!」

 

 テテュスの喉から零れるのは怨嗟。

 

「トールの契約者……ッ! 我が夫、オケアノスを滅ぼした、憎き仇……ッ!」

 

 神話に曰く、ギリシャ神話に登場する、ティターン神族のうち、オケアノスとテテュスは夫婦神だった。

 外海、大海を制するオケアノスの権能に対し、テテュスは河川など、内地の水を制する権能を持っていた。

 そしてテテュスは、穏やかな気性で、高い慈しみの心を持っていたという。

 だが夫を烈震(人間)に倒されたことで、その心を憎しみが覆っていた。

 

「殺してやる、滅ぼしてやる。跡形もなく!」

 

 ピスケースとテテュスの背後。飛び散った水たちが一斉に蠢きだし、一か所に集まって凝縮される。

 さながら水による大砲。だがそれが放たれるよりも前に、声が上から放たれた。

 

(オレ)を探しているのか? それにしては派手だな」

 

 病院の屋上、そこに立つ人影が一つ。

 百九十を超える筋肉質な長身、黒の短髪にダークグリーンの瞳。入院着のはずだがそれを脱ぎ捨てて、筋肉の盛り上がりがよく分かる黒のTシャツにハーフパンツ姿は、入院着から着替え、着の身着のままここに来た、という印象だ。

 何しろ、少なくとも今日の朝の時点で、彼は意識不明だったのだから、これも仕方があるまい。

 北欧神話の闘神、トールの契約者、黒神烈震(くろかみれっしん)であった。

 

「己に用があるのなら、今そこに行ってやろう」

 

 言って、烈震は躊躇なく屋上から飛び降りた。

 普通なら自殺行為。バトルフィールドの効果によって身体能力が上がってもやはり自殺行為だが、烈震は右手の指に挟んでいたカードを左腕に装備したデュエルディスクにセットした。

 

「出でよ、スターダスト・ドラゴン!」

 

 召喚された美しい星光の竜が、足場となって彼の着地を補助する。

 

「我が夫の仇? ずいぶん物騒なことを言うな」

「いや、あいつの言っていることは正しいぜ」

 

 声とともに、烈震の傍らに新たな人影が現れる。

 濃い緑の髪に、金色の双眸、素肌の上に直接羽織った黒のジャケットと、同じ色のズボン姿。

 烈震が契約した神、トールであった。

 

「テテュスはお前が倒したオケアノスの妻だ。つまりこれは、敵討ちってわけだ」

「……そのために、怪物たちもこの病院にけしかけたのか」

「その通りだ」

 

 テテュスの怨嗟の声が響く。女神の言葉に、その契約者の女は諦めたように(かぶり)を振るって、デュエルディスクを起動した。

 

「我が夫を滅ぼした貴様を、貴様だけを殺すために、こうしてここに来た。それが今の私の全て……ッ!」

「……いいだろう」

 

 一つ、長く息を吐いて、烈震は言った。

 

「そういうことなら是非もない。その怒り、憎しみ、全て己が砕く」

 

 言いながら、烈震もまたデュエルディスクを起動させる。

 人間の、その勇ましくも蛮勇である姿に、テテュスも歪んだ笑みを浮かべた。

 

「よい度胸だ。では――――――」

 

 テテュスの姿が、背景に溶け込むように消えていく。トールの姿もまた同様。これから始まるのは、神々の舞台で、神の手を離れた人間たちによる戦いだ。

 

「ピスケース・フィッシュバウトと言います。よろしくお願いします」

 

 眼鏡の位置を少し直しながら、ピスケースが一礼した。その胸には、無色の輝きを放つ宝珠。

 

「黒神烈震だ」

 

 烈震もまた、両手を合掌の形に合わせて一礼した。いちいちしなくてもいい行為だが、相手の礼には答えねばならない。いつの間にかその胸元には、緑色に輝く宝珠が現れていた。

 沈黙は数秒。そして――――――

 

決闘(デュエル)!』

 

 二人の人間の声が、高らかに病院の中庭に響き渡った。

 

 

烈震LP8000手札5枚

ピスケースLP8000手札5枚

 

 

「己の先攻だ」

 

 先攻を勝ち取ったのは烈震。その背中を、半透明のトールは腕を組みながらじっと見つめていた。

 烈震は本調子ではない。当たり前だ。今朝まで意識不明。目覚めた後、ろくな休憩もとらずにデッキを調整していたのだ。負けたことが、よほど悔しかったのだろう。

 今は気力で保っているが、体は限界だろう。

 トールが思うのは、烈震の隣で、まだ意識不明だった小雪(シャオシュエ)のこと。目覚め、デッキを組み終えた烈震は、眠ったままの彼女の髪をそっとかき上げ、頬を撫でて戦場に向かった。

 烈震なりに思うところがあるのだろう。彼女の仇を討てなかった、弱い自分が許せなかったのかもしれない。

 だからこそ、烈震はこうして戦場に出てきた。

 ここで負けたままにいないために。

 

「永続魔法、天輪鐘楼を発動」

 

 発動したのは、シンクロ召喚に成功したプレイヤーに一枚のドローを与える永続魔法。烈震は(シンクロ)召喚主軸なので、このカードは重要なエンジンとなる。

 

「己のフィールドにモンスターが存在しないため、太陽風帆船(ソーラー・ウィンドジャマー)を攻守を半分にして特殊召喚する。

 さらに手札から、アサルト・シンクロンを、自身の効果で特殊召喚する」

 

 烈震のフィールドに現れたのは、機体の上下に帆を張った帆船。ただし、風を受け大海を行く帆船ではなく、宇宙、太陽風を受け、星の海を行く宇宙の船だ。

 さらにその傍らに現れたのは、デフォルメされた戦闘機に手足と頭部を生やした小さなモンスター。頭の部分は戦闘機のパイロットのようになっており、シンクロンモンスターらしい大きな目を勇ましく開いていた。

 

「……アサルト・シンクロンの効果により、己は700のダメージを受ける。そして!」

 

 烈震の右腕が、力強く天へと掲げられる。

 

「レベル5の太陽風帆船に、レベル2のアサルト・シンクロンをチューニング!」

 

 掲げられた手の頭上、そこでアサルト・シンクロンが二つの緑色の光の輪となり、その輪を潜った太陽風帆船が五つの光球となる。

 光球を、一筋の光の道が貫いた。

 

「連星集結、色即是空。シンクロ召喚、出でよクリアウィング・シンクロ・ドラゴン!」

 

 光が溢れ、その向こうからドラゴンの咆哮が迸った。

 現れたのは透き通った青い結晶のような背翼と尾翼に白と黒のストライプカラーのドラゴン。長い尻尾をくねらせて、全身を震わせて咆哮を上げた。

 

「天輪鐘楼の効果で一枚ドロー。

 召喚僧サモンプリーストを召喚。自身の強制効果で守備表示に。そしてもう一つの効果を発動。手札の代償の宝札を捨て、デッキから執愛(しゅうあい)のウヴァループを特殊召喚」

 

 追加されるモンスター。ローブを目深にかぶった老人――サモンプリースト――がぶつぶつと呪文を唱えると、その呪文が召喚の呪文となり、現れるはアラビアンダンサーを彷彿とさせる衣装を身に纏い、頭部にヴェールを被ったラクダ。二足歩行をしており、人間のように笑っている。

 

「サモンプリーストのコストとなった代償の宝札の効果により、二枚ドロー。

 レベル4の召喚僧サモンプリーストに、レベル4の執愛のウヴァループをチューニング――――――連星集結、星屑飛翔。シンクロ召喚、出でよスターダスト・ドラゴン!」

 

 再びのS召喚。先程と同じ演出が烈震のフィールドに繰り返され、現れるのは星屑のような光の粒子をまき散らし、巨大な翼を広げ、人間のように長い手足をし、長い首を曲げて空中から地上を、ピスケースたちを睥睨する美しいドラゴン。

 

「天輪鐘楼の効果で一枚ドロー。カードを一枚伏せ、ターンエンド」

 

 

天輪の鐘楼:永続魔法

「天輪の鐘楼」はフィールドに1枚しか表側表示で存在できない。(1):自分または相手がS召喚に成功した場合に発動できる。そのプレイヤーはカードを1枚ドローする。

 

太陽風帆船 光属性 ☆5 機械族:効果

ATK800 DEF2400

自分フィールド上にモンスターが存在しない場合、このカードは手札から特殊召喚できる。この方法で特殊召喚したこのカードの元々の攻撃力・守備力は半分になる。また、自分のスタンバイフェイズ毎にこのカードのレベルを1つ上げる。「太陽風帆船」はフィールド上に1体しか表側表示で存在できない。

 

アサルト・シンクロン 闇属性 ☆2 機械族:チューナー

ATK700 DEF0

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。(1):自分メインフェイズに発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。その後、自分は700ダメージを受ける。この効果で特殊召喚したこのカードがモンスターゾーンに表側表示で存在する限り、自分はSモンスターしかEXデッキから特殊召喚できない。(2):自分フィールドの表側表示のドラゴン族Sモンスターが、リリースされた場合または除外された場合、墓地のこのカードを除外し、そのモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。

 

クリアウィング・シンクロ・ドラゴン 風属性 ☆7 ドラゴン族:シンクロ

ATK2500 DEF2000

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

(1):1ターンに1度、このカード以外のフィールドのレベル5以上のモンスターの効果が発動した時に発動できる。その発動を無効にし破壊する。(2):1ターンに1度、フィールドのレベル5以上のモンスター1体のみを対象とするモンスターの効果が発動した時に発動できる。その発動を無効にし破壊する。(3):このカードの効果でモンスターを破壊した場合、このカードの攻撃力はターン終了時まで、このカードの効果で破壊したモンスターの元々の攻撃力分アップする。

 

召喚僧サモンプリースト 闇属性 ☆4 魔法使い族:効果

ATK800 DEF1600

(1):このカードが召喚・反転召喚した場合に発動する。このカードを守備表示にする。

(2):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、このカードはリリースできない。

(3):1ターンに1度、手札から魔法カード1枚を捨てて発動できる。デッキからレベル4モンスター1体を特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターはこのターン攻撃できない。

 

代償の宝札:通常魔法

(1):手札からこのカードが墓地に送られた時に発動する。カードを2枚ドローする。

 

執愛のウヴァループ 地属性 ☆4 悪魔族:チューナー

ATK1200 DEF1800

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。(1):このカードが手札に存在する場合、自分のフィールド・墓地のSモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを除外し、このカードを特殊召喚する。(2):このカードが墓地に存在する場合、自分のフィールド・墓地のSモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを除外し、このカードを手札に加える。

 

スターダスト・ドラゴン 風属性 ☆8 ドラゴン族:シンクロ

ATK2500 DEF2000

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

(1):フィールドのカードを破壊する魔法・罠・モンスターの効果が発動した時、このカードをリリースして発動できる。その発動を無効にし破壊する。(2):このカードの(1)の効果を適用したターンのエンドフェイズに発動できる。その効果を発動するためにリリースしたこのカードを墓地から特殊召喚する。

 

 

烈震LP8000→7300手札2枚

ピスケースLP8000手札5枚

 

 

「私のターンですね。ドローします」

 

 物静かな声と繊細な仕草でカードをドローするピスケース。ドローカードを一瞥し、手札に加えた後、静かにフィールドを見つめた。

 その唇が動き、言葉を紡ぐ。

 

「レベル5以上のモンスター効果を牽制するクリアウィング・シンクロ・ドラゴンに、魔法や罠による破壊を防ぐスターダスト・ドラゴン。厄介な布陣ですね」

「確かに、突破は容易ではないでしょう」

 

 半透明のテテュスが語り掛けてくる。その口調が、怒りに狂い、憎しみに染まった今のテテュスの物ではなく、出会った頃のものになっていることに、ピスケースはほんの少し安堵した。

 もっとも、感情は表情には出していないが。昔から苦手だ。そういうものは。

 

「だったら、()()()()()()。でしょう?」

「そうですね。そうしましょう。私は、()()()()()()()()()()()()()()()()()

「な―――――」

「ンダトォ!?」

 

 烈震と、半透明のトールの眼前、二体いたSモンスターが光の粒子に置換されていく。

 何が起こったか。リリースしただと? そこまで思った時、烈震の脳裏にあるモンスターの名前が過った。

 其の名はデュエルモンスターズの初期に出現した古参のモンスター。

 その推測を裏付けるように、烈震の眼前に檻の格子が現れた。

 正確には眼前ではなく、烈震自身が鳥かご型の檻に囚われたのだ。

 

「溶岩魔神ラヴァ・ゴーレムを、貴方のフィールドに特殊召喚します」

 

 予想は当たった。頭上からの熱気に上を向くと、そこにはマグマによって体をドロドロに溶かしている巨大なゴーレムモンスターの姿があった。

 

「これで厄介なモンスターは除去できました。さらにテテュスの霊水を発動します」

 

 発動されたカードは烈震の知らないもの。さらにテテュスの名前が入っているということは――――――

 

「ティターン神族に与えられた専用カードか」

 

 正解、というように、半透明のテテュスが不敵に笑った。

 

「儀式魔法、リチュアの氷魔鏡を発動します。このカードはリチュアの儀式召喚に用いられますが、レベルさえ合えば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。もっとも、儀式召喚したモンスターの攻撃力分のライフを失いますが。

 私は貴方のフィールドにいるラヴァ・ゴーレムをリリースし、手札のイビリチュア・リヴァイアニマを儀式召喚します」

 

 烈震を閉じ込めていた檻が唐突に消えた。かと思えば、ラヴァ・ゴーレムの巨体は光の粒子となって、ピスケースのフィールドに現れた燭台の炎に囲まれた魔法陣へと吸い込まれた。

 魔法陣が光を放つ。

 現れたのは水棲と思われる異形の怪物。

 大きく広げられた翼、鱗の生えた肌、長い首、竜とも、蛇ともつかない頭部、珊瑚のような角。手にした剣が、ややヒトの面影を残している。

 

「リチュアの氷魔鏡の代償で、2700のライフを失います。が、ここでテテュスの霊水の効果を発動します。召喚、特殊召喚された水属性モンスターの攻撃力分、ライフを回復します。なので、2700ポイント、ライフを回復します」

「……実質、リチュアの氷魔鏡のデメリットは踏み倒すわけか」

 

 苦い表情の烈震。減ったばかりのピスケースのライフは瞬く間に回復し、初期の8000に戻っている。

 

「バトルです。イビリチュア・リヴァイアニマでダイレクトアタック。そしてこの瞬間、リヴァイアニマの効果で、一枚ドローします」

 

 異形の剣士が、ひれのついた足で地面を蹴りつけて烈震に向かって疾駆する。まるで空中を泳ぐように突き進むその後姿を眺めながら、ピスケースはカードを一枚ドロー。ドローしたのはサルベージ、リチュアではないので烈震の手札を覗き見(ピーピング)できない。

 

「喰らわん! リバーストラップ、パワー・ウォール発動! デッキトップから六枚墓地に送り、ダメージを0に!」

 

 烈震の眼前に、カード型の防壁が現れる。

 数は六、それらがイビリチュア・リヴァイアニマの剣戟を防いだ。

 そして墓地に送られたカードは混沌のヴァルキリア、エターナル・カオス、カオス・ウィッチ-混沌の魔女-、シンクロキャンセル、スターダスト・ヴルム。

 

「防いだか」憎々し気に言うテテュス。

「仕方がありません。カードを一枚セットして、ターンエンドです」

 

 

溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム 炎属性 ☆8 悪魔族:効果

ATK3000 DEF2500

このカードは通常召喚できない。相手フィールドのモンスター2体をリリースした場合に相手フィールドに特殊召喚できる。このカードを特殊召喚するターン、自分は通常召喚できない。(1):自分スタンバイフェイズに発動する。自分は1000ダメージを受ける。

 

テテュスの霊水:永続魔法

このカードは1枚しかフィールドに存在できない。(1)自分フィールドに水属性モンスターが召喚、特殊召喚される度に発動する。そのモンスターの元々の攻撃力の合計値分ライフを回復する。(2)???

 

リチュアの氷魔鏡:儀式魔法

「リチュア」儀式モンスターの降臨に必要。(1):相手フィールドの表側表示モンスター1体をリリース、またはレベルの合計が儀式召喚するモンスターと同じになるように自分の手札・フィールドのモンスターをリリースし、手札から「リチュア」儀式モンスター1体を儀式召喚し、自分はその元々の攻撃力分のLPを失う。(2):このカードが墓地に存在する場合、自分の墓地の「リチュア」モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターをデッキの一番上に戻し、このカードをデッキの一番下に戻す。

 

イビリチュア・リヴァイアニマ 水属性 ☆8 水族:儀式

ATK2700 DEF1500

「リチュア」と名のついた儀式魔法カードにより降臨。このカードの攻撃宣言時、自分のデッキからカードを1枚ドローし、お互いに確認する。確認したカードが「リチュア」と名のついたモンスターだった場合、相手の手札をランダムに1枚確認する。

 

パワー・ウォール:通常罠

(1):相手モンスターの攻撃によって自分が戦闘ダメージを受けるダメージ計算時に発動できる。その戦闘で発生する自分への戦闘ダメージが0になるように、受けるダメージの代わりに500ダメージにつき1枚、自分のデッキの上からカードを墓地へ送る。

 

 

烈震LP7300手札2枚

ピスケースLP8000→5300→8000手札2枚

 

 

「いい感じに墓地が溜まったんじゃないか? 烈震よ?」

 

 ターンが明け渡されて、トールはパートナーに声をかけた。烈震も重々しく頷いた。

 

「目覚めてからデッキ改造に余念がなかったが、試運転はできなかったからな。だがどうやら動きに問題はなさそうだ」

 

 ドローフェイズ、己のデッキトップに手をかけながら、烈震は相手を見据えて言った。

 

「ここから、ギアを上げるぞ」

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