一進一退だったこのデュエル、今勝敗は大きく烈震に傾いた。
だが油断はできない。烈震も感じている、相手の神の胎動。
ティターン神族の一柱、テテュス。次のターン、その神がこちらに牙を抜くのではと、烈震は半ば確信していた。
烈震LP1200手札2枚
ペンデュラムゾーン赤:なし青:なし
モンスターゾーン シューティング・クェーサー・ドラゴン(攻撃表示)
魔法・罠ゾーン 天輪鐘楼、伏せ3枚
フィールドゾーン なし
ピスケースLP3700手札6枚
ペンデュラムゾーン赤:なし青:なし
モンスターゾーン
魔法・罠ゾーン テテュスの霊水、
フィールドゾーン なし
「私のターンです、ドロー」
ドローカードを一瞥したピスケースは、しかしすぐには動かなかった。
怪訝そうに顔をしかめる烈震の眼前で、半透明のテテュスがピスケースに語り掛けた。
「ピスケース、もう充分よ」
「テテュス……」
それは、この状況から見ると降参の宣言だろうか?
だが憎悪を迸らせていたあの女神が、ここで負けを認めるとは思えない。そう思っていたら、案の定というべきか、テテュスがそっと囁いた。
「後は、
「……ああ、やはり、そうなるのですね」
諦観と悲しみが混ざったピスケースの言葉。次の瞬間、ピスケースの華奢な体がびくんと震え、糸の切れた操り人形のようにがっくりとうなだれた。
「何が……」
起こったのか。そう言おうとしたが、昨日、同じような状況を見たと思い直す。それを成したのは彼女の夫、オケアノスだった。即ち――――
「彼女の精神を乗っ取ったか!」
ぎしり、拳を強く握りしめ、烈震は糾弾する。だがピスケースは、否、彼女の皮を被ったテテュスは、酷薄に笑っただけだった。
「ピスケースは優しすぎる。だから攻撃にも躊躇いがある。
「勝手にほざきやがる」
不快感を隠しもせずに、トールが吐き捨てる。言葉にこそだしていないものの、烈震も同意だった。
「何とでも言え。ここからは私のターンだ! 墓地のリチュアの儀水鏡の効果発動! 墓地のこのカードをデッキに戻し、墓地のイビリチュア・ネーレイマナスを回収する」
ピスケースの口が動いているが、聞こえてくるのは彼女の声ではなく、濁った水底から響いてくるような淀んだ声。これが、憎悪に歪んだテテュスの声か。
「さらに手札のシャドウ・リチュアの効果を発動。手札のこのカードを捨て、デッキからリチュアの儀水鏡をサーチ。そして発動!」
烈震はここで選択を突き付けられた。
テテュスがシューティング・クェーサー・ドラゴンの効果を失念しているはずがない。だとすればここで儀水鏡の発動は、シューティング・クェーサー・ドラゴンの効果を使わせるためのブラフか。
(だが、そう思わせて本命を通したいのかもしれん)
先程回収したイビリチュア・ネーレイマナスを儀式召喚し、効果でイビリチュア・ジールギガスを蘇生。その時点でテテュスの霊水の効果でライフは大幅に回復される。
そしてもしも烈震の勘の通り、このターンで神が出てくるならば、ここでの儀式召喚はまさに神召喚のための布石かもしれない。
「どちらにせよ、動くほかないな。シューティング・クェーサー・ドラゴンの効果発動! リチュアの儀水鏡の発動を無効にし、破壊する!」
瞬間、烈震はテテュスがピスケースの顔でにやりと笑うのを見た。
烈震の背筋に冷たいものが奔る。しくじったか、そう思った。
だが時は戻らない。行ったことはなかったことにならない。
「これで面倒な見える妨害はない。強欲なウツボを発動。手札のイビリチュア・リヴァイアニマとイビリチュア・ガストクラーケをデッキに戻し、三枚ドロー」
烈震は我知らず舌打ちした。やはりさっきの儀水鏡に対して、シューティング・クェーサー・ドラゴンの効果を使わされたのだ。これでほとんど判明していたテテュスの手札も不明点が多くなった。
「これで安心してこれが使えるというもの。高等儀式術発動! デッキからレベル2の守護竜ユスティア三体と、レベル4のメガロスマッシャーXを墓地に送り、その合計レベル10のイビリチュア・ネーレイマナスを儀式召喚!」
烈震の表情が歪む。拙速すぎた。もう少し、相手の出方を待つべきだった。
己の明確な失敗を感じながら、その後悔を棚上げにする。精神的動揺で隙を作るべきではないからだ。
再び魔法陣が築かれ、そこから現れるイビリチュア・ネーレイマナス。
「テテュスの霊水の効果でライフを回復する。さらにイビリチュア・ネーレイマナスの効果発動!」
「させん! カウンター罠、神の摂理! 手札の輝白竜ワイバースターを捨て、イビリチュア・ネーレイマナスの効果を無効にし、破壊する!」
翻るリバースカード。一瞬後にガラスのように砕け散る大型儀式モンスター。
だがテテュスの表情に焦りはない。ただ、にんまりと唇を歪めた笑みを浮かべるだけだ。それは、その体の本来の持ち主だったら絶対に浮かべなかったろう笑みだった。
「構わない。これらは所詮前座。ここでこれを成功させることができれば、それでいい! 魔法カード、トライワイトゾーン! 甦れ、三体のユスティア!」
「やべぇ!」
トールが警告を上げるのも無理はない。むしろ烈震も、あのレベル2の通常モンスター三体が墓地に落ちた時に警戒心が最大限に上げられた。
何しろ彼の友人、岡崎和輝も似たような展開をして神を召喚することがあるからだ。
「この三体のユスティアをリリース!」
そして予感は当たる。
神の光輪だった。
「これが私の力! 私の怒り! 私の憎悪! 来たれて静激なる治水巨神テテュス!」
三体のモンスターが水に飲まれた。
水は柱となり、天へと上る。その水が内側から弾けた時、それがいた。
フォルムは女のもの。波打つ髪は水色で、川の流れのように揺蕩っている。肌の色は青白く、目を凝らせばうっすらと鱗が見える。
ぎょろりとした金色の瞳、朱の入った唇は引き結ばれ、身に纏うのは薄絹の白の衣。そして、その足下から湧き上がるのは巨大な水の竜。
水流で作られた龍の数は全部で八匹。それがテテュスを守るように彼女の周囲を回遊し、烈震を睥睨して牙を剥いている。
「来たか……」
否、来ると思っていた。問題はその能力だ。いったいどのような効果を持っているのだろうか?
「私自身が来た以上、貴様の死は確定だ。この私、静激なる治水巨神テテュスの第一の効果! 私自身の攻守は、
「攻撃力8000か……!」
つまりテテュスによってシューティング・クェーサー・ドラゴンを攻撃され、その攻撃が通れば烈震のライフは0になる。
神による殺意全開の全力の攻撃。たとえモンスター越しであろうとも、受ければただではすむまい。
「死んで我が夫に詫びるがいい! 私自身でシューティング・クェーサー・ドラゴンを攻撃!」
攻撃宣言が下る。途端、さっきまで自由気ままに宙を回遊していたドラゴンたちが、一斉に烈震及び彼のモンスター、シューティング・クェーサー・ドラゴンに目を向け、殺到する。
八匹のドラゴンの
「トラップ発動! ガード・ブロック! 戦闘ダメージを0にし、一枚ドロー!」
凌いだ。神の攻撃の余波が烈震に届こうかというその瞬間、烈震の眼前に屹立した不可視の壁が、彼を守る。
「シューティング・クェーサー・ドラゴンの効果発動。EXデッキからシューティング・スター・ドラゴンを守備表示で特殊召喚する」
「よっし! これで次のターンへの反撃手段も残せたぜ!」
ガッツポーズをするトール。それにかぶせるように、テテュスの叫びが飛ぶ。
「甘い! この私の、第二の効果! 攻撃終了後、墓地の水属性モンスターを任意の数デッキに戻すことで、戻した数まで攻撃が可能となる! 私は墓地の守護竜ユスティア三体と、メガロスマッシャーXをデッキに戻す!」
「つまり――――」
「攻撃力4000の四回攻撃だとぉ!?」
驚愕するトールの言う通り。八匹の水龍はその数を四匹に減らしたものの、殺意に満ちた眼差しは水の塊のはずなのにはっきりと伝わってきた。
「私自身で。二回目の攻撃!」
四匹の水龍が一つにまとめられ、巨大な一匹の水龍となる。水龍は地面を抉りながら突き進み、守備態勢をとっていたシューティング・スター・ドラゴンを一飲みにしてしまった。
「三回目の攻撃! 今度は貴様にダイレクトアタックだ!」
テテュスは止まらない。ピスケースの口を借りて、殺意に満ちた声を放つ。
シューティング・スター・ドラゴンを喰らった龍が空中で弧を描いて今度は烈震自身に向かって牙を剥く。
「手札のアンクリボーの効果発動! このカードを捨て、墓地の邪竜星-ガイザーを守備表示で特殊召喚!」
「薄い壁だ!」
攻撃は止まらない。水龍の大瀑布がそのまま莫大な質量となって復活したばかりのガイザーを粉砕した。
「ガイザーの効果! デッキからカオス・ミラージュ・ドラゴンを守備表示で特殊召喚!」
「小賢しい真似を!」
水龍は止まらない。ガイザーを水圧で圧し潰した水龍はそのまま体を振るい、質量そのものを特殊召喚されたカオス・ミラージュ・ドラゴンを粉砕。
「その足掻きもここまでだ! 五回目! 私自身でダイレクトアタック!」
ここまでだと言わんばかりに、テテュスの叫びが轟く。
先ほどに倍する殺意が籠められた水龍の突撃。受けることはできず、大きく開かれた口から逃れるすべとてない。
「烈震!」
「己は―――――負けん! リバースカードオープン! 闇よりの罠! 1000ライフを払い、墓地の戦線復帰を除外! これにより、
翻る最後の伏せカード。そして、現れる小さな守り手。それは脆く薄いが、この小さな命のおかげでテテュスの攻撃は烈震まで届かない。
「よっしゃぁ! 凌いだぜ五連撃!」
半透明のトールが右拳をがっつりと握ってガッツポーズ。対するテテュスはピスケースの顔を使って憎悪に表情を歪ませる。
「悪あがきを……! 五回目の攻撃でアンクリボーを破壊し、ターンエンドだ!」
「ならばこのターンのエンドフェイズ、アンクリボーの効果でデッキから死者蘇生を手札に加える」
強欲なウツボ:通常魔法
(1):手札から水属性モンスター2体をデッキに戻してシャッフルする。その後、自分は3枚ドローする。
高等儀式術:儀式魔法
儀式モンスターの降臨に必要。(1):レベルの合計が儀式召喚するモンスターと同じになるように、デッキから通常モンスターを墓地へ送り、手札から儀式モンスター1体を儀式召喚する。
神の摂理:カウンター罠
(1):モンスターの効果・魔法・罠カードが発動した時、その効果と同じ種類(モンスター・魔法・罠)のカード1枚を手札から捨てて発動できる。その発動を無効にし破壊する。
トライワイトゾーン:通常魔法
(1):自分の墓地のレベル2以下の通常モンスター3体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。
静激なる治水巨神テテュス 神属性 ☆10 幻神獣族:効果
ATK??? DEF???
このカードはこのカードの効果で特殊召喚できる。このカードは3体のモンスターをリリースしてのみ通常召喚できる。このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか発動できない。(1):このカードは神属性、幻神獣族モンスターの効果以外のカード効果ではフィールドを離れず、コントロールも変更されない。(2):このカードが相手のカードの効果を受けた時、エンドフェイズにこのカードに対するそのカード効果を無効にする。(3):このカードの元々の攻撃力と守備力は自分フィールド、墓地の水属性モンスターの数×1000ポイントとなる。(4):このカードが攻撃したダメージステップ終了時に、墓地の水属性モンスターを任意の数デッキに戻して発動できる。このカードは戻したカードの数まで続けて攻撃できる。
シューティング・クェーサー・ドラゴン 光属性 ☆12 ドラゴン族:シンクロ
ATK4000 DEF4000
Sモンスターのチューナー+チューナー以外のSモンスター2体以上
このカードはS召喚でしか特殊召喚できない。
(1):このカードは、そのS素材としたモンスターの内、チューナー以外のモンスターの数まで1度のバトルフェイズ中に攻撃できる。
(2):1ターンに1度、魔法・罠・モンスターの効果が発動した時に発動できる。その発動を無効にし破壊する。
(3):表側表示のこのカードがフィールドから離れた時に発動できる。EXデッキから「シューティング・スター・ドラゴン」1体を特殊召喚する。
ガード・ブロック:通常罠
相手ターンの戦闘ダメージ計算時に発動する事ができる。その戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になり、自分のデッキからカードを1枚ドローする。
シューティング・スター・ドラゴン 風属性 ☆10 ドラゴン族:シンクロ
ATK3300 DEF2500
Sモンスターのチューナー+「スターダスト・ドラゴン」
(1):1ターンに1度、発動できる。自分のデッキの上から5枚めくってデッキに戻す。このターンこのカードはめくった中のチューナーの数まで攻撃できる。(2):1ターンに1度、フィールドのカードを破壊する効果の発動時に発動できる。その効果を無効にし破壊する。(3):1ターンに1度、相手の攻撃宣言時に攻撃モンスターを対象として発動できる。フィールドのこのカードを除外し、その攻撃を無効にする。(4):この(3)の効果で除外されたターンのエンドフェイズに発動する。このカードを特殊召喚する。
アンクリボー 闇属性 ☆1 悪魔族:効果
ATK300 DEF200
このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。(1):相手モンスターの攻撃宣言時にこのカードを手札から捨て、このカード以外の自分または相手の墓地のモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを自分フィールドに特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターはエンドフェイズに墓地へ送られる。(2):このカードが戦闘・効果で破壊され墓地へ送られた場合に発動できる。このターンのエンドフェイズに、自分のデッキ・墓地から「死者蘇生」1枚を選んで手札に加える。
闇よりの罠:通常罠
(1):自分LPが3000以下の時、1000LPを払い、「闇よりの罠」以外の自分の墓地の通常罠カード1枚を対象として発動できる。このカードの効果は、その墓地の通常罠カード発動時の効果と同じになる。その後、その墓地の通常罠カードを除外する。
烈震LP1200→200手札2枚
ピスケースLP3700→6700手札3枚
「悪足掻き、と言ったな、テテュスよ」
ドロー前に、烈震は静かにテテュスに問いかけた。
「それがどうした。実際見事なものだが、私の攻撃力はまだ4000ある。次に私のターン、さらに水属性モンスターを墓地に送れば、攻撃力はさらに上がり、追加効果で更なる攻撃が可能となる。貴様の先程の必死の防御、もうできないだろう? つまり、次の私のターンで終わりだ」
そうではない、と烈震は首を横に振った。
「己が悪足掻いたのではない。貴様が仕留め損ねたのだ。そして、仕留め損ねる度に、貴様は敗北に大きく近づくのだ。それを証明してやる。己のターン、ドロー!」
まるで鞘から刀を抜くように、デッキトップからのドロー。ドローカードを見た時、烈震はそれを手札に加えるのではなく、そのままテテュスに向けて提示した。
「己がドローしたのは、想い集いし竜! 効果により、このカードを特殊召喚する!」
現れたドラゴンの印象は救世竜 セイヴァー・ドラゴンと同じもの。ただしその体は赤い装甲に覆われており、より実態感が増したように思える。
「そして死者蘇生を発動し、墓地のスターダスト・ドラゴンを特殊召喚。さらに墓地のスターダスト・ヴルムの効果発動! 己のフィールドにレベル8以上のドラゴン族Sモンスターが存在するため、墓地のこのカードを特殊召喚する!」
次々に烈震のフィールドにモンスターが集まってくる。ダメ押しとばかりに手札からカードが繰り出される。
「スターダスト・シャオロンを召喚。これで終わりだ。己はレベル8のスターダスト・ドラゴン、レベル1のスターダスト・ヴルム、スターダスト・シャオロンに、レベル1の想い集いし竜をチューニング!」
シンクロ召喚。一つの光の輪を潜った三体のモンスターが、合計で十の光の星となる。その星を、純白の道が一筋貫いた。
「連星集結、救世具象――――シンクロ召喚、招来せよ、シューティング・セイヴァー・スター・ドラゴン!」
光が辺りに満ちて、烈震と、テテュスのフィールドを照らす。
光に照らされた、神として場に出ているテテュスが不快気に表情を歪め、そして、見た。
その姿はかつて烈震が召喚したセイヴァー・スター・ドラゴンに似ていた。
白銀色の体躯、舞い散る光の粒子、甲殻的な翼、長い首、その姿はドラゴンの生物性を持ちながらも、戦闘機のような機械性も獲得しているように見えた。
だがその攻撃力は4000止まり。現在のテテュスと相打ちがせいぜいだ。
だからこそか、テテュスは嘲りの表情を浮かべ、
「鳴り物入りで登場したが、攻撃力は私と互角。相討ちにして終わりか?」
「そんなわけがなかろう。このカードこそ、貴様を殺す我が一矢だ。シューティング・セイヴァー・スター・ドラゴンの効果発動! 一ターンに一度、相手モンスター一体の効果を無効にする!」
「何!?」
フィールドと、ピスケースの身体、二柱のテテュスの目が見開かれる。
その眼前、シューティング・セイヴァー・スター・ドラゴンの身体がさらに強く輝きだし、その輝きを浴びたフィールドにいるテテュスは見る見るうちに力を失っていった。
「お、おのれ……ッ!」
「終わらせる。シューティング・セイヴァー・スター・ドラゴンでテテュスを攻撃!」
攻撃宣言が下り、シューティング・セイヴァー・スター・ドラゴンの全身がさらに白く光り輝く。
一発の弾丸となったドラゴンが、そのまま神に向かって突撃。テテュスの方も水の龍を出して迎撃したが、攻撃力が圧倒的に足らない。ドラゴンの放つ熱量を前に、水龍たちは悉く消滅していく。
ついにドラゴンの一撃は本丸たる神に届いた。フィールドにいたテテュスはシューティング・セイヴァー・スター・ドラゴンの突撃を全身で受け、その衝撃と熱量で完全消滅した。
「ぐ、あぁ……」
ピスケースの身体を乗っ取っているテテュスの身体がぐらりと揺れた。見れば女は額に手を当て、頭を振っている。
よく観察してみれば、その女の瞳からは正気の光、人心が見えた。
「どうやら、テテュスがフィールドから消えたことで、あの姉ちゃん、神の精神制御から逃れられたみたいだぜ」
トールの言葉には首肯するだけだ。烈震はこの機を逃さじと声を上げた。
「シューティング・セイヴァー・スター・ドラゴンにはまだ効果がある! 己の墓地のスターダスト・ドラゴン、もしくはその関連Sモンスターの数だけ、一度のバトルフェズの攻撃回数を増やすことができる! 己の墓地にはスターダスト・ドラゴンと、シューティング・スター・ドラゴンがいる。そのため、さらに二回攻撃が可能!
これで終わりだ! シューティング・セイヴァー・スター・ドラゴンでダイレクトアタック!」
テテュス、否、ピスケースの身体が揺らぐ。状況を理解していないのがよく分かる。今攻撃すれば躱せない。
シューティング・セイヴァー・スター・ドラゴンが口腔を大きく開け、口内に光のエネルギーをため込む。
烈震が、右手の人差し指と親指を立てる。さながら拳銃のような形を作り、その照準をピスケースに合わせる。
「行け」
烈震の命令が下った瞬間、シューティング・セイヴァー・スター・ドラゴンが放った白い閃光がピスケースを飲み込んだ。
「え、あ――――――きゃあああああああああああああ!」
最後の瞬間、ピスケースは正気に戻ったようだが、何もかもが遅かった。
極光が、彼女の細い体を飲み込んだ。吹き飛ばされていくピスケースの胸元の宝珠が砕かれた。
想い集いし竜 光属性 ☆1 ドラゴン族:チューナー
ATK0 DEF0
自分は「想い集いし竜」を1ターンに1度しか特殊召喚できず、このカードをS素材とする場合、「セイヴァー」モンスターのS召喚にしか使用できない。(1):このカードのカード名は、フィールド・墓地に存在する限り「救世竜 セイヴァー・ドラゴン」として扱う。(2):このカードをドローした時、このカードを相手に見せて発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。自分フィールドにレベル8以上のドラゴン族Sモンスターが存在する場合、さらにデッキからドラゴン族・レベル1モンスター1体を特殊召喚できる。
死者蘇生:通常魔法
(1):自分または相手の墓地のモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを自分フィールドに特殊召喚する。
スターダスト・シャオロン 光属性 ☆1 ドラゴン族:効果
ATK100 DEF100
自分が「スターダスト・ドラゴン」のシンクロ召喚に成功した時、墓地のこのカードを表側攻撃表示で特殊召喚できる。このカードは1ターンに1度だけ、戦闘では破壊されない。
スターダスト・ヴルム 光属性 ☆1 ドラゴン族:効果
ATK0 DEF0
このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。(1):このカードが手札・墓地に存在し、自分フィールドにレベル8以上のドラゴン族Sモンスターが存在する場合に発動できる。このカードを特殊召喚する。この効果で特殊召喚したこのカードは、フィールドから離れた場合に除外される。(2):このカードをリリースして発動できる。自分の手札・墓地から「スターダスト・ヴルム」以外のドラゴン族・光属性・レベル1モンスターを2体まで選んで特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターは効果を発動できない。
シューティング・セイヴァー・スター・ドラゴン 風属性 ☆11 ドラゴン族:シンクロ
ATK4000 DEF3300
「救世竜 セイヴァー・ドラゴン」+ドラゴン族Sモンスターを含むチューナー以外のモンスター1体以上
このカードはS召喚でのみEXデッキから特殊召喚できる。(1):1ターンに1度、発動できる。相手フィールドの効果モンスター1体を選び、その効果を無効にする。(2):このカードは通常の攻撃に加えて、自分の墓地の「スターダスト・ドラゴン」及びそのカード名が記されたSモンスターの数まで攻撃できる。(3):1ターンに1度、相手が効果を発動した時に発動できる。このカードをエンドフェイズまで除外し、その発動を無効にし除外する。
ピスケースLP0
烈震は倒れたピスケースに駆け寄った。
呼吸、脈拍、共に正常。気絶しただけのようだ。
その事実に安堵を覚え、ふと気配を感じて振り返ると、人影が二つあった。
「終わったみたいだな」
「心配はしてなかったけどな」
和輝と龍次だ。
級友二人に、烈震は軽く手を上げて見せた。
「ああ。問題はない。己も、明日の最終決戦には参加させてもらおう」
気づけば日が沈んでいく。ジェネックス杯二日目はこれで終了し、いよいよティターン神族と決着をつける三日目が始まるのだ。
三人は不敵な笑みを浮かべ、それぞれの拳を軽く打ち付けあった。勝利を誓って。
◆◆◆◆◆◆
日が暮れる。二日目の終了と同時に、参加者たちも宿泊していたホテルに急ぐ。
ジェネックス杯は表向き滞りなく進行している。
ギリシャ神話の怪物や、ティターン神族によって傷つけられた人々は、秘密裏に結界内から搬送され、記憶処置を施される。
重傷者はそのまま入院させ、継承者は熱中症と偽って、即日に退院させることもあった。これらは本人の希望と医師の許可があれば三日目の参加も可能となる。
そして被害にあわなかった参加者もまた多く、彼ら彼女らは三日目に向けて備えることになるだろう。
勿論、裏の事情を知る者たち、即ち神々の戦争の参加者も、明日に向けてデッキの最終調整や、情報交換を行った。
和輝もその一人だ。
「じゃあ、あの病院の周りにも――――――」
『ああ、ティターン神族の配下や得体の知れない外の神話の怪物がいたね』
電話の相手はフレデリックだ。一応、
『実の所、二日目の怪物にたちよる被害は少ない。
「穂村崎って、Aランクプロの? それにこの期に及んで紹介してない奴がいるって……」
『そして龍次君の師匠でもある。もう一人は完全な一匹狼でね、この、ティターン神族との戦いが終わった後は関わらないことを条件に、今回限り協力を取り付けた。彼は完全に群れない。自分一人で戦い、倒れる時も一人だといっている』
「そんな奴が……」
『契約したのはゼウス。おそらく、君たちは会うことはないかもしれないし、会ったとしても最終盤さ。理由があってね、長く戦えない』
事情があるのは分かった。何よりゼウスの契約者、ティターン神族の首魁、クロノスとの因縁は深い。
「それが今まで表に出てこなかったってことは、マジで出られない理由があるってことか」
『個人の事情を、当人がいないままで掘り起こすつもりはないがね。それより私からも聞きたい。岡崎君、ナイアルラトホテップの契約者を追っている男がいたと?』
「ああ、完全に復讐者って感じの奴だ。名前は確か、
『復讐者と、それに寄り添う復讐の女神か……。考え事が増える』
「ナイアルラトホテップ、つーか黄泉野ってやつは関わってくると思うか?」
『なんともいないね。彼らはパーティの端っこに陣取り、傍観者を気取っている。逆に決戦時にはちょっかいは掛けてこないかもしれない』
「……まぁ、どちらにしろ、会えば戦うしかないか」
『戦いの場になったなら、複雑に考えず、戦い抜くことを考えた方がいいだろう』
ここらが潮時か。そう判断した和輝は通話を終えた。
夜は長い。デッキの調整をして、綺羅の相手もする。義妹が巻き込まれないために、明日はティターン神族をこちらに釘付けにするのだ。他の参加者に手を出す余裕などなく、こちらはお前の喉元に迫っているぞと、突き付けてやるのだ。
和輝は静かに闘志を燃やした。