神々の戦争   作:tuki21

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第127話:災厄の女

 バトルフィールド内、ゾディアック社本社。

 その皮を被っていた黒々とした神殿。その、もとは社長室だっただろう場所に、彼らはいた。

 黒檀の机に肘をつき、椅子に座る男と、彼と対面する痩身の男。

 椅子に座る男――壮年の男。彫の深い顔つき、灰色の髪を撫でつけており、青い瞳。グレイのスーツをぴしりと着込んだ隙の無い佇まい。長い年月をかけて研磨され、ついに命を持ったような石像の風情。ゾディアック社長、そしてティターン神族の首魁、クロノスの契約者、射手矢弦十郎(いでやげんじゅうろう)

 彼と相対する痩身の男――グレイの髪、スーツ、青い瞳、長身痩躯、銀縁眼鏡。神経質そうな外見の男。神経質に糸を張り巡らせる痩せ蜘蛛の風情。

 ゾディアックお抱えの顧問弁護団のトップ。そしてティターン神族の一柱にしてクロノスの妻、レアの契約者、秤正治(はかりまさはる)

 二人のうち、先に口を開いたのは射手矢だった。

 

「行くのかね?」

 

 秤もまた首肯する。右手の指で眼鏡の位置を直しながら、

 

「ええ。敵はこの神殿に侵入を果たしました。迎撃しなければ」

 

 慇懃(いんぎん)な口調の秤に対して、射手矢は苦笑した。

 

「ここには我々しかいない。今はゾディアック社長とその顧問弁護士の関係じゃあない。いつもみたいな口調じゃなくていいだろう? 友よ」

 

 秤は神経質に眼鏡の位置を直しながら、「そうだな……。弦ちゃん」

 幼いころの呼び名で呼ばれ、一瞬だけ驚いた顔をした射手矢は、彫の深い顔に柔和な笑みを浮かべた。

 

「久しぶりに呼ばれたな、その呼び方」

「君が言っただろう。ある意味、今はプライベートな時間。公私を分けるのなら、今は「私」の時間だ」

「そうだな。神々の戦争は戦いではあるが、デュエルモンスターズというゲームを使っている以上、どうしても童心に帰ってしまうものだ」

 

 懐かしむような口調の射手矢。秤は軽く息を吐いて、

 

「そういう部分、もうなくなっていたかと思ったよ」

「なかなか自分を切り捨てることはできないさ。普段、なりを潜めているとしてもね」

 

 そう言って、射手矢は自分のデッキを取り出した。

 デッキトップをなでながら、「このゲームが世に登場した時、世の皆と同じく、我々も魅せられたな」

 

「それを、今言っても仕方がないだろう」

 

 ミリ単位で決めていると言わんばかりに神経質に眼鏡の位置を調整しながら、秤は言う。射手矢は苦笑し、

 

「そうだな。だからこそ、この戦いに参加しているのだ。もう遅くなってから見てしまったを、現実にするために」

 

 一つ息を吐いて、秤は射手矢に対して背を向けた。

 

「その夢の手助けをするために、戦ってくるよ」

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 光の一閃が、巨大な影を切り裂いた。

 影は無言のまま(くずお)れていく。その光景を背後に、緊張と決意を秘めた瞳をした少女が一人。

 ふんわりとした、柔らかそうな金の髪に春の日差しのような金色の瞳。色白の肌に水色のロングスカートと白のブラウス姿。首からは銀色のネックレス。野に咲く小さな花の風情の少女。

 その傍らに男の影。

 短めの金髪、深い海を思わせる青い右目と、奥深い森を思わせる緑の左目、三つ揃いのディープブルーのスーツ。わずかな光が差す森の風情。

 エーデルワイス・ルー・コナーと、その契約神、ケルト神話の光の神、ルー。

 彼女が相対するのは、一人の小柄な女性。

 150センチ行くかどうかの小柄な女性なため、見た目の年齢は推し量れない。

 色白の肌、前髪の一房に黄色のメッシュが入った、膝まで伸びた黒い髪、――エーデルワイスも人のことを言えないが――日本の真夏だというのに裾の長い白衣姿に黒のシャツとスラックス。

 首から下げたチェーンにつるされているのは、小さな箱。女はその箱に手を当てながら、口角を僅かに上げた微笑を浮かべていたが、その様は友好的というよりも氷のようで、他人を自分の内面へと触れさせないための防壁に思えた。

 

「初めましてお嬢さん。あたしはパンドラ。神々の命に背き、災厄を世に解き放った大罪人です、ね」

「パンドラ……」

 

 エーデルワイスも知っている名前だ。

 ギリシャ神話の神の命令で、開けてはならぬ禁断の箱の管理を任された女、パンドラ。

 しかし彼女のは神の言いつけを守れず、好奇心に負けて箱を開けてしまう。

 開けられた箱から飛び出したのは災害や疫病などの災厄。

 慌てて箱を閉じた時にはもう遅く、災厄のほとんどは世に解き放たれ、残ったのはただ一つ、希望のみ。

 

「参った話です、ね。こっちはただの人間だったはずなのに……。いまや災厄を解き放った女として、立派な怪物です、よ」

 

 目を細めた笑みを浮かべているが、パンドラの両眼は笑っていない。

 

「エーデルワイス、決して気を緩めるな。この女、どことなく掴み処の無い態度だが、その瞳の奥にはどろどろのマグマのような怒りと憎悪が唸りを上げている。――――人間の信仰によって人間でありながらギリシャ神話に名を刻む怪物に成り果て()()()()()ゆえに、か」

「よその神話の神様も、ギリシャの神様と同じように、デリカシーがないです、ね。そう言うのは察していても黙っているもんです、よ」

 

 まぁいいさ、とパンドラは続けて、左腕に装着していたデュエルディスクを起動させた。

 

「多くの物事が、あたしには億劫なんです、よ。どうせ戦うんだし、デュエルして、どちらかが消えて、それで終わり。どうせ希望も何もない世界なんだ。これでいいで、しょ?」

「……分かりました。私も、ここで立ち止まるわけもはいきません。勿論、負けて消えるつもりも」

 

 静かな、しかし覚悟を秘めた瞳で、エーデルワイスはデュエルディスクを起動した。

 満足げに笑うパンドラ。「いいです、ね。そういう希望に満ちた眼差し。好みです、よ」

 一拍の間、そして――――

 

決闘(デュエル)!』

 

 戦いの火蓋が切って落とされた。

 

エーデルワイスLP8000手札5枚

パンドラLP8000手札5枚

 

「先攻は私です。私のフィールドにモンスターが存在しないため、手札のフォトン・スラッシャーを特殊召喚します。さらにこれによって、私のフィールドにフォトンモンスターが存在するようになったため、手札のフォトン・バニッシャーを特殊召喚します」

 

 エーデルワイスのフィールドに、一気に二体のモンスターが現れた。

 青白く発光する身体に、片刃の剣を携え、青の鎧に身を包んだ剣士、フォトン・スラッシャー。

 その傍らに立つ、同じく青白く発光する身体に身を包む青白い鎧、手にした長身の狙撃中。即ちフォトン・パニッシャー。

 レベル4のモンスターが二体、(エクシーズ)召喚できる下地は整った。

 

「フォトン・バニッシャーの効果で、デッキから銀河眼の光子竜(ギャラクシーアイズ・フォトン・ドラゴン)を手札に加えます。そして――――」

 

 エーデルワイスの右腕が天に向かって掲げられた。

 

「フォトン・スラッシャーとパニッシャーでオーバーレイ! 二体のフォトンモンスターで、オーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚!」

 

 エーデルワイスの頭上に、渦を作る銀河のような空間が出現し、渦の中心に向かって、彼女のフォトンモンスター二体が白い光となって飛び込んだ。

 一瞬後に虹色の爆発が起こる。

 

「重なる光子が、新たな道を切り開く! 来てください、輝光帝ギャラクシオン!」

 

 光の向こうから現れた光の戦士。

 黒のボディスーツに白のアーマー。青白く光り輝く頭身を持つブレードと、ヒロイックな見た目のモンスター。ただし、剣を振るい勇ましい声を上げているが守備表示での召喚だった。

 

「輝光帝ギャラクシオンの効果を発動します! ORU(オーバーレイユニット)を二つ使い、デッキから銀河眼の光子竜を特殊召喚します!」

 

 エーデルワイスのデッキの中から青白い輝きが放たれ、そこから巨大なドラゴンが、彼女を守護するように現れた。

 青白く発光する身体に、それを覆う鎧のような濃い青の外殻、光で形作られた翼に、外角の隙間からあふれる青白い光。その瞳には逆巻く銀河が納められていた。

 

「手札の銀河眼の光子竜を捨てて、トレード・インを発動し、二枚ドロー。そして、私のフィールドにフォトンまたはギャラクシーモンスターが存在するため、銀河騎士(ギャラクシー・ナイト)をリリースなしで召喚します。

 銀河騎士の効果を発動し、攻撃力を1000ダウンさせる代わりに、墓地の銀河眼の光子竜を特殊召喚します」

 

 サーフボードのようなユニットに乗った、全身を白の甲冑を思わせるスーツで身を固めた戦士が現れ、さらにその隣に、二体目の銀河眼の光子竜が出現する。

 エーデルワイスの右手が、再び天へとかざされた。

 

「私は、銀河騎士と、その効果で特殊召喚された銀河眼の光子竜をオーバーレイ! 二体のモンスターで、オーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚!」

 

 ランク8のX召喚。再び銀河を思わせる空間が開き、そこに飛び込む二体の大型モンスター。

 虹色の爆発が辺りを照らす。

 

「いでよNo(ナンバーズ).90! その身を傷つけること(あた)わず、その身を砕くこと叶わず! 堅牢不沈! これが私の決意! 銀河眼の光子卿(ギャラクシーアイズ・フォトン・ロード)!」

 

 虹色の爆発の向こうから降り立った影が一つ。

 フォトンモンスター共通の、青白く輝く体躯と、その体をすっぽり包み込む鎧。そのフォルムは人とも、竜とも見える竜人型。

 手には青白く発光する刀身を持つ大剣を、冑は竜の頭部のようで、上半身を特に包み込む鎧はまさしくドラゴンの外殻を思わせるマッシブなもの。 

 いかつい外見だが、見た目に反してステータスは守備型。そのためか、エーデルワイスはこのXモンスターを守備表示で召喚した。

 

「カードを一枚伏せて、ターン終了です」

 

 

フォトン・スラッシャー 光属性 ☆4 戦士族:効果

ATK2100 DEF0

このカードは通常召喚できない。自分フィールドにモンスターが存在しない場合に特殊召喚できる。(1):自分フィールドにこのカード以外のモンスターが存在する場合、このカードは攻撃できない。

 

フォトン・バニッシャー 光属性 ☆4 戦士族:効果

このカードは通常召喚できない。

自分フィールドに「フォトン」モンスターか「ギャラクシー」モンスターが存在する場合に特殊召喚できる。

自分は「フォトン・バニッシャー」を1ターンに1度しか特殊召喚できない。

(1):このカードが特殊召喚した場合に発動できる。デッキから「銀河眼の光子竜」1体を手札に加える。

(2):このカードは特殊召喚したターンには攻撃できない。

(3):フィールドのこのカードを素材としてX召喚したモンスターは以下の効果を得る。

●このカードが戦闘で破壊したモンスターは墓地へは行かず除外される。

 

輝光帝ギャラクシオン 光属性 ランク4 戦士族:エクシーズ

ATK2000 DEF2100

「フォトン」と名のついたレベル4モンスター×2

1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を2つまで取り除いて発動できる。この効果を発動するために取り除いたエクシーズ素材の数によって以下の効果を適用する。●1つ:手札から「銀河眼の光子竜」1体を特殊召喚する。●2つ:デッキから「銀河眼の光子竜」1体を特殊召喚する。

 

銀河眼の光子竜 光属性 ☆8 ドラゴン族:効果

ATK3000 DEF2500

(1):このカードは自分フィールドの攻撃力2000以上のモンスター2体をリリースして手札から特殊召喚できる。(2):このカードが相手モンスターと戦闘を行うバトルステップに、その相手モンスター1体を対象として発動できる。その相手モンスターとフィールドのこのカードを除外する。この効果で除外したモンスターはバトルフェイズ終了時にフィールドに戻り、この効果でXモンスターを除外した場合、このカードの攻撃力は、そのXモンスターを除外した時のX素材の数×500アップする。

 

銀河騎士 光属性 ☆8 戦士族:効果

ATK2800 DEF2600

(1):自分フィールドに「フォトン」モンスターまたは「ギャラクシー」モンスターが存在する場合、このカードはリリースなしで召喚できる。(2):このカードの(1)の方法で召喚に成功した場合、自分の墓地の「銀河眼の光子竜」1体を対象として発動する。このカードの攻撃力はターン終了時まで1000ダウンし、対象のモンスターを守備表示で特殊召喚する。

 

No.90 銀河眼の光子卿 光属性 ランク8 戦士族:エクシーズ

ATK2500 DEF3000

レベル8モンスター×2

このカード名の(2)(3)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。

(1):「フォトン」カードをX素材としているこのカードは効果では破壊されない。

(2):相手がモンスターの効果を発動した時、このカードのX素材を1つ取り除いて発動できる。その効果を無効にする。取り除いたX素材が「ギャラクシー」カードの場合、さらにそのモンスターを破壊する。

(3):相手ターンに発動できる。デッキから「フォトン」カードか「ギャラクシー」カード1枚を選び、手札に加えるかこのカードのX素材とする。

 

 

「それでは、あたしのターンです、ね。ドロー」

 

 何事も億劫だ。そう言っていたように、どこかけだるげにカードをドローするパンドラ。その様子から覇気は感じられないが――――

 

「擬態だ。あの無気力自堕落な仕草から想像もできぬ怒り怨みが、あの女には蓄積されている。気を緩めず、同情せずにな、エーデルワイス」

 

 険しい表情のルーが、エーデルワイスの心に釘を刺す。エーデルワイスは軽く息を吐いて、パンドラを見据える。

 ルーの言う通りだ。いかに相手にやる気が感じられなかろうと、その怒りと憎悪は無視できない。

 

「いいカードを引きました、ね。時を裂く魔瞳(モルガナイト)を発動します、ね。これにより、私はこのデュエル中、手札からモンスター効果を発動できない代わりに、通常召喚と通常ドローの数が倍になります」

 

 一ターンに二枚の通常ドローと二回の通常召喚。デュエルが長引けば長引くほど、手札というこのゲーム最大のリソースの差が大きくなる。

 

「フィールド魔法、地縛牢を発動します、ね」

 

 瞬間、周囲の景色が切り替わる。

 日本の夏空はどことも知れぬ暗く、重いだけの黒色へと変わり、ビルディングは消え、ダークグリーンの、滑らかな表面をした岩が辺りに隆起し、周囲には霊魂が漂っていた。

 

「地縛牢発動時の効果です、よ。発動時に対象として、銀河眼の光子卿を選択。これにより、銀河眼の光子卿は効果を無効化されます、ね」

「ッ!」

 

 こちらの守りの要を、まず無効化してきた。エーデルワイスにそれを防ぐ手段はない。

 だがただで無力化されるつもりもない。

 

「なら、銀河眼の光子卿の効果発動です! ORUを一つ使い、デッキからギャラクリボーを手札に加えます!」

「―――――ただでは転びません、か。まぁいいです。ダブルコストンを召喚し、ダブルコストンをリリースします、よ。来なさい、地に縛られし哀れな邪神――――地縛神Aslla piscu(アスラピスク)!」

 

 召喚されたダブルコストンは早々に()()にされ、黒い塵となって消えていく。

 生贄の魂を喰らい、巨大な邪神が顕現する。

 それは、一見すると巨大なハチドリだった。

 エーデルワイスの知識によれば、それはナスカの地上絵のハチドリに酷似していた。大きさもそうだ。ただその体はエーデルワイスのどのモンスターよりも巨大で、周囲の建造物さえ超えて、高く、高く体躯をそびえさせており、その体色も光を逃がさない漆黒。そこにオレンジのラインが入った姿だった。

 ただ、そんな威容よりも、その姿を見た瞬間、エーデルワイスの背筋に得体の知れない悪寒が走った。

 パンドラが、感情の読めないうっすらとした笑みを浮かべて、言った。

 

「察したようです、ね。地縛神とのその眷属は、全て闇のカード。ただのデュエルでもプレイヤーに現実のダメージを与える、異端で、排斥されるべきカード群です、よ。クロノス様の契約者が、集め、あたしに渡したのです、よ」

 

 実際にゲームに使うと、プレイヤーの心身に甚大なダメージを与える闇のカード。都市伝説だと思っていたものが、神々の戦争に関わるようになってから急に身近なものに感じられるようになった。

 

「この闇のカード、神々の戦争のバトルフィールド内でダメージを受けると、どうなるのでしょう、ね?」

 

 それはそれは甚大なダメージだろう。下手をすればライフが残っていても、立てないほどに。

 

「地縛神はその名の通り、土地に縛られた神。なのでフィールド魔法が消えてしまうと、自壊する不安定な神。ですが、その分効果は強力です、よ。バトル、Aslla piscuでデイレクトアタック」

「ッ!」

「エーデルワイスのフィールドにはモンスターがいるにもかかわらず、ダイレクトアタックだと!?」

 

 驚愕するルーをしり目に、パンドラの地縛神が動き出す。

 パンドラは笑みを浮かべ、

 

「神の行動を阻もうとは、不敬です、ね。行きなさいAslla piscu!」

 

 エーデルワイスのモンスターたちを無視して、巨大な邪神が小さな少女を狙いに動く。

 乾いた口の中で、少量の唾を飲み込んで、エーデルワイスは手札からカードを引き抜いた。

 

「手札のギャラクリボーの効果を発動します! 手札のこのカードを墓地に捨てて、デッキから三枚目の銀河眼の光子竜を特殊召喚し、攻撃対象を私からこのカードに変更します! それから、その後に発動する墓地のこのカードをXモンスターのORUにする効果は使いません」

 

 瞬時にエーデルワイスのデッキから飛び出す、彼女を守護する光子の竜。その口腔が開き、中から光の一閃が放たれる。

 まばゆい光の一撃がAslla piscuに直撃。闇が凝縮したかのようなその体を引き裂き、両断する。

 ドラゴンの一撃が邪神に致命傷を与え、地縛神は断末魔の叫びをあげることなく、その体を崩れさせていく。

 だが自身が召喚した大型モンスターに対処されても、パンドラの表情は崩れない。

 

「見事な対処です、ね。ですが、ダイレクトアタックは地縛神の共通効果。Aslla piscuの効果はここからです、よ。Aslla piscuがフィールドを離れた場合、相手表側表示モンスターを全て破壊し、破壊したモンスター一体につき、800のダメージを与えます、ね」

 

 死してなお、邪神は大いなる呪いを残した。

 崩れ落ちた邪神の破片が集まって、巨大な黒い津波を形作る。

 津波は一気にエーデルワイスのフィールドを飲み込んだ。

 

「り、リバースカードオープン、フォトン・チェンジ! 銀河眼の光子卿をリリースし、デッキからフォトン・デルタ・ウィングを手札に加えます! そして墓地のギャラクリボーの効果! 私の銀河眼の光子竜の破壊を、墓地のこのカードを除外して防ぎます!」

 

 予想外の効果に対して、エーデルワイスは対処しきった。

 だがここまでだ。リリース効果で破壊される対象を減らし、さらに一体は守った。が、それ以上は守れない。津波はギャラクシオンと残る銀河眼の光子竜を破壊し、合計1600のダメージをエーデルワイスに与えた。

 

「くぅ……ッ!」

 

 今までの神々の戦争でも、戦闘時のダメージのフィードバックはあった。だが()()は規格外だ。

 

「エーデルワイス!」

「大丈夫です!」

 

 予想以上のダメージに苦悶の声を上げるエーデルワイスに対して、ルーも思わず声をかけた。

 だがエーデルワイスは気丈に無事を示す。

 

「いい姿勢です、ね。バトルはこれで終了。カードを一枚伏せて、ターンを終了しますが、ここで一つアドバイスをしましょう、ね。

 地縛牢は相手に破壊された場合、相手のライフを半分にし、その時点での表側モンスターの効果を無効にします。無暗に破壊すれば、痛いしっぺ返しを喰らいます、よ」

 

 

時を裂く魔瞳:通常魔法

(1):このデュエル中、以下の効果をそれぞれ適用する。

●自分は手札のモンスターの効果を発動できない。

●自分ドローフェイズの通常のドローは2枚になる。

●自分は通常召喚を1ターンに2回まで行う事ができる。

(2):墓地のこのカードを除外し、手札から「時を裂く魔瞳」1枚を捨てて発動できる。このターン、自分がモンスターの召喚に成功した時には、相手はモンスターの効果を発動できない。

 

地縛牢:フィールド魔法

(1):このカードの発動時に、相手フィールドの効果モンスター1体を対象にできる。その場合、このカードは以下の効果を得る。

●このカードがフィールドゾーンに存在する限り、対象の効果モンスターの効果は無効化される。

(2):自分は通常召喚に加えて1度だけ、自分メインフェイズに「地縛」モンスター1体を召喚できる。

(3):このカードが相手の効果で破壊された場合、自分のフィールドか墓地に「地縛」モンスターが存在していれば発動する。相手のLPを半分にし、相手フィールドの全ての表側表示カードの効果をターン終了時まで無効にする。

 

ダブルコストン 闇属性 ☆4 アンデット族:効果

ATK1700 DEF1650

(1):闇属性モンスターをアドバンス召喚する場合、このカードは2体分のリリースにできる。

 

地縛神Aslla piscu 闇属性 ☆10 鳥獣族:効果

ATK2500 DEF2500

(1):「地縛神」モンスターはフィールドに1体しか表側表示で存在できない。

(2):このカードは直接攻撃できる。

(3):相手モンスターはこのカードを攻撃対象に選択できない。

(4):フィールド魔法カードが表側表示で存在しない場合にこのカードは破壊される。

(5):表側表示のこのカードが、このカードの効果以外の方法でフィールドから離れた場合に発動する。相手フィールドの表側表示モンスターを全て破壊し、破壊した数×800ダメージを相手に与える。

 

ギャラクリボー 光属性 ☆1 悪魔族:効果

ATK300 DEF200

このカード名はルール上「ギャラクシー」カードとしても扱う。(1):相手モンスターの攻撃宣言時、このカードを手札から捨てて発動できる。手札・デッキから「銀河眼の光子竜」1体を特殊召喚する。その後、攻撃対象をそのモンスターに移し替える。さらに、自分または相手フィールドのXモンスター1体を選んで墓地のこのカードをそのモンスターの下に重ねてX素材にできる。(2):自分フィールドの、「フォトン」モンスターまたは「ギャラクシー」モンスターが戦闘または相手の効果で破壊される場合、代わりに墓地のこのカードを除外できる。

 

フォトンチェンジ:永続罠

このカードは発動後、2回目の自分スタンバイフェイズに墓地へ送られる。このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。(1):自分フィールドの表側表示の、「フォトン」モンスターまたは「ギャラクシー」モンスター1体を墓地へ送り、以下の効果から1つを選択して発動できる。「銀河眼の光子竜」を墓地へ送って発動した場合、両方を選択できる。●そのモンスターと元々のカード名が異なる「フォトン」モンスター1体をデッキから特殊召喚する。●デッキから「フォトン・チェンジ」以外の「フォトン」カード1枚を手札に加える。

 

 

エーデルワイスLP8000→6400手札3枚

パンドラLP8000→7500手札1枚

 

 

「私のターンです。ドロー!」

「奴の地縛神は強力だが、一度に複数を並べることはできない。さらに今、奴のフィールドはがら空き。攻めるなら今だ」

 

 ルーの言うことは正しい。今、パンドラのフィールドに、彼女を守るモンスターはおらず、伏せカードは一枚のみ。

 

「行きます! フォトン・デルタ・ウィングを召喚し、効果を発動! デッキから、二体目のフォトン・デルタ・ウィングを特殊召喚します!」

 

 現れた新たなフォトンモンスターは黒光りする戦闘機の姿をしていた。エンジン部と体の中枢部は物質化した青白い光でできていた。それがもう一体。

 前のめりになって、エーデルワイスが叫ぶ。

 

「バトルです! 銀河眼の光子竜でダイレクトアタック!」

 

 棒立ちのパンドラに対して、エーデルワイスのドラゴンが口内に光のブレスをため込む。

 一瞬の停滞の後に放たれる光の一撃は、パンドラを飲み込み、その小さな体を吹き飛ばした。

 小さな体が地面を滑る。止まった後、まるでばね仕掛けの人形のように飛びあがって、二本足で地面を踏みしめた。

 

「やります、ね。ですが前のめり過ぎです、よ。リバースカードオープン、ダメージ・ゲート。墓地のAslla piscuを特殊召喚します、ね」

 

 パンドラの場に伏せられたカードが翻り、一瞬後に先ほど破壊された巨大なハチドリ、地縛神が復活する。

 

「蘇生制限も召喚制限もない邪神、か。厄介な」とルー。

「これで攻撃は無理ですか、ね? まぁ元々、相手モンスターは地縛神に攻撃できません。神に触れようなどと、不敬です、ね」

「く……ッ! カードを一枚伏せて、ターンを終了します」

 

 

フォトン・デルタ・ウィング 光属性 ☆4 機械族:効果

ATK1800 DEF900

(1):このカードが召喚した場合に発動できる。手札・デッキから「フォトン・デルタ・ウィング」1体を守備表示で特殊召喚する。この効果の発動後、ターン終了時まで自分は光属性モンスターしか特殊召喚できない。

(2):自分フィールドに他の「フォトン・デルタ・ウィング」が存在する場合、相手は攻撃宣言できない。

 

ダメージ・ゲート:通常罠

自分が戦闘ダメージを受けた時に発動できる。その時に受けたダメージの数値以下の攻撃力を持つ、自分の墓地のモンスター1体を選択して特殊召喚する。

 

 

エーデルワイスLP6400手札2枚

パンドラLP7500→4500手札1枚

 

 

「私のターンですね、ドローします、よ」

 

 時を裂く魔瞳の効果によって、パンドラはこれ以降、通常ドローでも二枚ドローすることになる。デュエルが長引けば長引くほど、エーデルワイスの不利になるのだ。

 

「さて、あたしのフィールドには再びAslla piscuがあります、ね。これでまたダイレクトアタックと行きたいのですが……」

「そうはいきません。私の場に二体のフォトン・デルタ・ウィングが存在するので、貴方は攻撃できません」

 

 いかに凶悪なダイレクトアタッカーでも、攻撃そのものを封じてしまえば無意味。エーデルワイスの策は嵌っていた。この時点までは。

 

「甘いです、ね。地縛神の侵攻手段は攻撃だけではありません、よ? アドバンスドローを発動。Aslla piscuをリリースして、二枚ドローします、ね」

「あっ!」

 

 声を上げるエーデルワイス。パンドラは口元だけの微笑を作った。

 

「この瞬間、再びAslla piscuの効果が発動します、よ。あなたのモンスターを再び破壊します、ね」

 

 どろりと溶けるAslla piscuの巨体。再び黒い津波がエーデルワイスのフィールドを襲う。エーデルワイスは慌てて声を上げた。

 

「フォトンチェンジの効果! 銀河眼の光子竜をリリースして、フォトン・カイザーを手札に加えます!」

「ですがその戦闘機は二機共呑み込まれます、ね」

 

 再び空になったエーデルワイスのフィールド。だがそれはパンドラも同じはずだ。せっかく召喚した地縛神も消えてしまった。

 

「しかしそれは――――新たな地縛神を召喚すれば問題はない」

 

 ルーの言うことはもっともだ。それはパンドラの表情が物語っている。

 

「ここは攻めるチャンスです、ね。永続魔法、冥界の宝札を二枚発動します、よ。

 そして地縛囚人グランド・キーパー召喚。効果でデッキから地縛囚人ストーン・スィーパーを特殊召喚します、ね」

 

 パンドラのフィールドに一気に二体のモンスターが現れる。しかも彼女はまだ召喚権を一つ残している。

 ならば―――――

 

「来るか、二体目の地縛神が!」

 

 ルーの警戒は次の瞬間には現実になる。パンドラの指が自身のモンスターゾーンから二体のモンスターを引き抜き、手札から一枚のカードを代わりにフィールドに出す。

 

「来なさい、な。地縛神Ccarayhua(コカライア)!」

 

 二体のモンスターが黒い粒子に変換され、消え失せる。

 新たに現れたのは、先程の地縛神と同じく、見上げんばかりの黒い巨躯。ただし今回はトカゲで、身体に走るラインは緑色。トカゲには存在しない牙がずらりと並んでいる。

 

「く……! 攻撃力2800のダイレクトアタッカー……!」

 

 新たな脅威に身構えるエーデルワイス。

 

「冥界の宝札の効果で、合計四枚ドローです、ね。

 バトルです、ね。Ccarayhuaでダイレクトアタック」

 

 攻撃命令が下る。Ccarayhuaの大きな口が開かれて、舌が伸びる。目的は勿論、エーデルワイスの捕獲と――――

 

「捕食だな」

「そ、そんなのごめんです! リバースカード、オープン! カウンター・ゲート! 戦闘ダメージを0にして、一枚ドロー! そして、今ドローした銀河の魔導士を召喚します!」

 

 辛くも捕食から逃れたエーデルワイスだったが、以前高い攻撃力のダイレクトアタッカーが相手の場に居座っている事実に変わりはない。

 

「しかも、地縛神には攻撃自体ができない。このままでは、次のターンに再びダイレクトアタックを受けることになる」

 

 ルーの言うことは正解だ。このままではまずい。それが分かっているのだろう、パンドラはやはり冷たい、うっすらとした笑みを浮かべて、

 

「その通りです、ね。一ターン、命を長らえただけです、ね。カードを一枚伏せて、ターン終了です、よ」

 

 

アドバンスドロー:通常魔法

自分フィールド上に表側表示で存在するレベル8以上のモンスター1体をリリースして発動できる。デッキからカードを2枚ドローする。

 

冥界の宝札:永続魔法

(1):自分がモンスター2体以上をリリースしたアドバンス召喚に成功した場合に発動する。自分はデッキから2枚ドローする。

 

地縛囚人 グランド・キーパー 闇属性 ☆1 悪魔族:チューナー

ATK300 DEF300

このカード名の①の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):このカードが召喚・特殊召喚した場合に発動できる。「地縛囚人 グランド・キーパー」を除く、レベル5以下の「地縛」モンスター1体を自分のデッキ・墓地から特殊召喚する。この効果の発動後、ターン終了時まで自分は融合・SモンスターしかEXデッキから特殊召喚できない。

(2):フィールドゾーンにカードが存在する限り、自分フィールドの「地縛」モンスターは戦闘・効果では破壊されない。

 

地縛囚人 ストーン・スィーパー 闇属性 ☆5 悪魔族:効果

ATK1600 DEF1600

このカード名の、(1)の方法による特殊召喚は1ターンに1度しかできず、②の効果は1ターンに1度しか使用できない。

(1):フィールドゾーンにカードが存在する場合、このカードは手札から特殊召喚できる。

(2):このカードを手札から捨てて発動できる。デッキからレベル3以下の悪魔族チューナー1体を手札に加える。この効果の発動後、ターン終了時まで自分は融合・SモンスターしかEXデッキから特殊召喚できない。

 

地縛神 Ccarayhua 闇属性 ☆10 爬虫類族:効果

ATK2800 DEF1800

「地縛神」と名のついたモンスターはフィールド上に1体しか表側表示で存在できない。フィールド魔法カードが表側表示で存在しない場合このカードを破壊する。相手はこのカードを攻撃対象に選択できない。このカードは相手プレイヤーに直接攻撃できる。また、このカードがこのカード以外の効果によって破壊された時、フィールド上のカードを全て破壊する。

 

カウンター・ゲート:通常罠

(1):相手モンスターの直接攻撃宣言時に発動できる。その攻撃を無効にし、自分はデッキから1枚ドローする。そのドローしたカードがモンスターだった場合、そのモンスターを表側攻撃表示で通常召喚できる。

 

銀河の魔導士 光属性 ☆4 魔法使い族:効果

ATK0 DEF1800

(1):1ターンに1度、自分メインフェイズに発動できる。このカードのレベルをターン終了時まで4つ上げる。

(2):このカードをリリースして発動できる。デッキから「銀河の魔導師」以外の「ギャラクシー」カード1枚を手札に加える。

 

 

エーデルワイスLP6400→4800

パンドラLP4500手札3枚

 

 

 圧倒的に不利な状況。それでもエーデルワイスは前を、パンドラを、怯むことなく見据える。

 そして、言い放つ。

 

「一ターン長らえただけ、貴方はそう言いますが、それでいいのです。こうやって永らえて、耐えて、そして逆転への道筋を見つけます。希望を、信じて」

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