神々の戦争   作:tuki21

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第19話:迫る脅威

 多目的ドーム、即ち和輝(かずき)たちがプロのデュエルを観戦するための施設。国守咲夜(くにもりさくや)様と入口に張り紙が張ってある一室。

 そこは今、ひどく緊迫した空気が漂っていた。

 二つの人影。どちらも表情に険がある。

 一人は十七、八歳ほどの少女、もう一人は十歳前後の女の子。

 少女――――薄茶色のポニーテール、青みがかった瞳、見た目の華麗さよりも動きやすさ、活動的な格好を好む気質が露わになったシャツ、ホットパンツ、上着のデニム姿。

 美しく溌剌としているが、今はその正のエネルギーは鳴りを潜め、疲労が窺える顔色に加えて、焦り、そして追われるもの特有の恐怖が垣間見えた。

 女の子――――ウェーブのかかった赤髪、雪のように穢れを知らぬ白肌、黄金色の瞳、小柄な体は花柄のワンピースに包んでいる。未成熟ながらも開花前から美しさが窺える花の(つぼみ)の風情。

 少女のほうがこの部屋をあてがわれた張本人、国守咲夜だ。

 咲夜は険しい表情のまま、今日の新聞を睨みつけていた。

 注目した記事は二つ。一つは、東京某所の公園内で、友人同士のグループが惨殺体で発見されたとこ。現場の状況から、互いに殺し合ったことは分かったが、なぜ突然彼らが殺し合ったのかはわからない。何しろ、日ごろから仲のいいグループと評判で、喧嘩の噂一つ昇らなかったのだ。ましてや殺し合うなどありえないという。

 もう一つ、これも東京都内で起こった、事件とも、事故ともいえない不思議な現象。

 あるマンションの火災事故。ただ奇妙なのは、そのマンションは右半分だけが全焼しているのだ(、、、、、、、、、、、、、)。左半分は全くの無傷。焦げ目一つ付いていない。

 

「どう思う? アテナ」

 

 咲夜が傍らの女の子に問いかける。女の子、アテナは形のいい顎先に指をあて、僅かに思案。

 

「まず間違いなく、どちらも神の仕業だ。そして、確実に追手だ。殺し合いのほうは分からないが、火事はアレスの仕業だと思う」

 

 ぎり、と音がしそうなほど歯を噛みしめる女の子、アテナ。

 アテナもまた神々の戦争に参加する神だ。そして、咲夜はその契約者。

 だがおかしなことがある。

 アテナとはギリシャ神話に登場する、守護に重点を置いた戦いの女神だ。その姿は武具を装備した成人した女性だったはず。けっして、無力な子供ではない。

 

「くそっ! アレスめ……、どこまでも追ってくる……ッ!」

 

 親指の爪を噛み、忌々しげに吐き捨てるアテナ。その様子を、咲夜は痛ましげな目で見つめている。

 咲夜がアテナと出会った時、彼女は傷だらけだった。アテナは手を差し伸べた咲夜さえはねのけ、逃げようとしていた。だがそこで力尽きた。

 気を失ったアテナを介抱(かいほう)し、辛抱強く話を聞き、何とか信頼を勝ち取り、事情を知り、契約を交わした。そのことに後悔はない。傷ついた幼子を放置するなど、彼女の正義が許さない。

契約を交わした後、アテナは言った。もともと自分は成人女性の姿をしていたが、神々の戦争本戦に参加するために人界に降りる直前、謎の敵の襲撃を受け、今の子供の姿になってしまったのだという。

 そして咲夜はプロデュエリストとしての生活を続けながら、アテナを追う「敵」からの逃亡生活を続けていた。

 アテナは子供となってしまったことにより、神としての能力のほとんどを失ってしまっていた。結果、襲われればほとんど一方的だ。

 神々の戦争での脱落ルールは二つ。契約者の宝珠が砕け散るか、神が死ぬか、だ。どうやら、敵――のちに、アテナの話から、同じギリシャ神話のオリュンポス十二神の一柱、アレスだと判明した――は後者の条件を満たそうとしているようだ。

 契約者に神々は直接危害を加えることはできない。だがアレスの契約者は洗脳され、完全な人形となっていた。おまけに相手は体格のいい男。命令の通りに腕力に任せて襲い掛かられれば、咲夜にもどうにもならない。

 結果、圧倒的に不利な逃亡生活はアテナを疑心暗鬼にさせ、さらに子供化してしまったことで力を満足にふるえない事実から、弱気にもなってしまっていた。思考が逃げに固定されてしまっている、ともいえた。

 咲夜も咲夜で、慣れぬ逃亡生活、そしていつ来るとも分からぬ敵の襲撃に、すっかり調子を落としてしまっていた。最近の成績不振はそれが理由だ。

 だが咲夜にアテナを放り出すという選択肢はない。最初に傷だらけの彼女を助けた時から、絶対に見捨てない、最後まで守り抜くのだと、心に決めていた。

 優しさを忘れるな。困っている人には手を差し伸べられる、本当に強い人間になれ。亡き父の言葉だ。

 

「現実問題として、このまま逃げ回るわけにもいかない。けどデュエルに持ち込むことも難しい。八方塞がりだよね。やっぱり、あたし達だけじゃ限界があるよ。誰か、ほかに頼れそうな参加者とか――――」

「ほかのものなど信用できるものか!」

 

 咲夜が言い終わる前に、アテナが叫ぶ。叫びは感情に任せたものだったが、それだけに彼女の内面の悲痛さがよく表れていた。

 咲夜は以前も、誰か信頼できる仲間を見つけるべきだとアテナに言った。だが彼女は言下に否定した。信頼できるものなど、どこにもいない。この戦いは自分以外全てが敵。信頼できない、すれば裏切られる。背中から撃たれるのはもうたくさんだ。本人は認めないだろうが、そう語っていたアテナの肩ははっきり分かるくらい震えていた。

 ぽふっと軽い衝撃。見れば咲夜の胸元に、アテナが抱き着いてきていた。

 

「分かっているのか、咲夜。この戦いに味方なんていないんだ。周りはみんな敵、敵なのだ。背中を見せれば、そんな間抜けを嬉々として狙い撃ち、撃ち洩らせばつけ狙う。そんな連中しかいない戦いなのだ・・・・・・」

 

 アテナの声音には明らかに恐怖が混じっていた。裏切りに加え、自分が今、人間よりも無力な存在であるという現実が、彼女の心に深い傷をつけているのだ。

 

「……うん、そうだね」

 

 力ない声で答える咲夜。同意ではない。だが、ここまで凝り固まってしまったアテナを不振は、咲夜の言葉だけで解きほぐすことはできないのだ。

 

「む!?」

 

 ばっと体を引き剥がすアテナ。その頬がかすかに紅潮しているのは、肉体年齢の低下に合わせて精神まで子供に近づいていることを恥じるためか。

 

「どうしたの?」

「……神の気配がする。奴らか!?」

「こんなところで!?」

 

 即座に警戒態勢に入るアテナと、驚きながらもデッキとデュエルディスクを手に取る咲夜。一柱と一人は周囲を見渡し、

 

「どのあたり?」

「一直線に近づいてくる感じはない。辺りをうろうろしているようだ。……くそ! 神の力が衰えているせいで、うまく感知できん!」

 

 焦るアテナを落ち着かせ、咲夜は考える。今この近くにいる神というのは敵だろうか? 敵だろう。少なくともアテナはそう思っている。

 時間は現在、前座のプロたちのデュエルが始まるかどうかといったところ。抜け出しても問題はない。

 

「どうする、アテナ?」

 

 咲夜は神に問いかけてみた。今まで一方的に攻撃されていたが、こちらから奇襲を仕掛けたことはない。先手をとりデュエルに持ち込めれば、後れはとるまい。

 追加でそのことを説明し、説き伏せる。最終的な判断はアテナに任せるが、咲夜自身の考えは「攻め」だった。

 

「もう、一方的に攻撃されるのはごめんだ。打って出よう」

 

 先ほど一瞬だけ見せた弱気はかなぐり捨て、アテナはそう言った。

 

 

「おい、本当に神がいるのか?」

 

 ドーム外周、不機嫌そうな声音で、和輝は傍らに実体化したロキにそう問いかけた。ロキは「そのはずだけど」と答えた。

 前座一試合目開始直前、和輝の脳内に、直接ロキの声が届いた。

 離れたところに声を届ける念話によって、ロキから「神の気配がする。しかもどうやらこの周辺らしい」という連絡を受けた和輝はプロデュエリストのデュエルの生観戦という機会に後ろ髪を大きく引かれる思いをしながらも席を立ち、ロキと合流した。

 もしも参加者が邪悪な人間である場合、このドームの人間も危険だ。一刻も早く探し出さねばならない。

 だが肝心の神の気配が希薄で、捕まえるのに苦労するらしい。

 

「気配は感じる。けどひどく弱弱しい。この近くにいるのは間違いないんだけど」

「気配を隠しているんじゃなくてか?」

 

 和輝の問いかけ。ロキはうーんと唸った。

 

「分からない。気配を隠しているにしては弱弱しくとも確かに感じるのはちょっと妙だ。もしかしたら、誰かほかの参加者に襲われて、負傷したとか何かして弱っているのかもしれない」

「なるほど……」

 

 周辺は探ったが、外れだった。いるとしたらドームの中、それも、関係者以外立ち入り禁止の領域だと、ロキは言った。

 

「問題は、この先にいる神が敵に襲われて負傷したのか、誰かを襲い、返り討ちにあって逃げ延びてきたのか、それがわからないところだね。前者はともかく、後者だったらどうする?」

「それは――――」

 

 顎に手を当て、何かを考える和輝。その眼前、会場スタッフが「この先、関係者以外立ち入り禁止です」と進み出てきて、その歩みは止まった。

 

「何か御用ですか?」

「あ、えっと……」

「あ、ごめんね、ちょっと邪魔」

 

 前に歩み出てきたロキがスタッフに向かって指を振るった。次の瞬間、スタッフの目がとろんと垂れ下がり、「はい、どうぞ、お通りください」と夢遊病者の独り言のような声音でそう言って、和輝たちに道を譲った。

 

「さ、これで障害はなくなった。行こう」

 

 ロキに促され、和輝もまた奥に進む。日がささなくなり、冷えた空気が通路に流れている。その中を進もうと、足を踏み入れた。

 次の瞬間。

 

「やはり、現れたか!」

「ッ!?」

 

 後ろから声がした。弾かれたように和輝たちが振り返ると、スタッフが塞いでいた出入り口から二つの人影が下りてきた。片方は和輝も知っている、国守咲夜。もう一人は見覚えのない小さな女の子。

 おそらく上階の窓際かどこかで待機していたのだろう。こちらが中に入った瞬間、背後をとり、逃げ道をふさぐ算段だったのだ。そしてそれは見事に的中した。

 

「国守プロ!?」

「バトルフィールド、展開!」

 

 女の子、アテナが叫ぶ。次の瞬間、呆けたまま立っていたスタッフが消えた。違う。自分たちが、消えたのだ。

 バトルフィールド、神々の戦争が行われる、位相の違う世界に。

 

「貴様!」

 

 アテナが指先を和輝に向けて突き付ける。その間に、咲夜は左腕に装着したデュエルディスクを起動。和輝の左腕のデュエルディスクにターゲットロックする。

 

「貴様か、私たちをつけまわしていた奴は! アレスに命令されたか!?」

「あ、アレス? 何言ってるんだ。い、嫌ちょっと待ってくれ、展開がいきなりすぎる! それに何か誤解してないか!? 俺たちはアレスなんて知らないぞ!」

「黙れ! 貴様の後ろにいるのはロキだろう! 奸計と欺きの神が!」

 

 慌てる和輝と一方的に決めつけるアテナ。完全に会話がかみ合っておらず、しかもアテナのほうからは明確な敵意が滲み出している。もっともそれは、手負いの小動物がそれでも捕食者に対して爪を突き立てるような絶望感を感じさせるものではあったが。

 

「もしかして、アテナか? いや、まってくれ。なぜそんな姿に――――」

「黙れ! なぜだと? 貴様らの不意打ちで、このようなことになったのだろう! 卑怯者のアレスに背中を撃たせて!」

「だからそれは誤解だ! 俺はあんたたちのことなんか知らないし、アレスってやつともあったこともない! そもそもここに来たのだって神の気配を感じて、そいつがもし他人を傷つけることを何とも思わない様な奴だったら放っておけないと思っただけだ!」

 

 興奮しているアテナをなだめることは不可能だ。咲夜は一つ、誰にも聞こえないように小さなため息をついて、和輝と向き直った。

 

「ごめんなさい。あたしも、君を完全に信用しきることはできない。何より、誰より、アテナを守らなくちゃならないの」

 

 咲夜の意志も硬い。彼女は和輝がアレスとは関係ないことを理解したうえで、それでも敵かもしれないなら、見逃すわけにはいかないのだ。

 

「……和輝。こうなったらデュエルだ。デュエルで誤解を解くしかないよ。向こうは、っていうかアテナは興奮しきっている。こっちの言葉が届かない。だったら、一度意地でも頭を覚まさせるんだ」

「……糞ったれ!」

 

 ロキの促し。和輝は胸のもやもやと胃からせり上がってくるような不快感を罵倒とともに吐き出した。

 相手はプロデュエリストの中でも期待の若手。どこまで行けるか。思考を切り替えねばならない。

 

(だが、やるしかない)

 

 自分だって、こんなわけのわからないところで負けるわけには、脱落するわけにはいかないのだ。

 和輝の胸元に赤の、咲夜の胸元に桃色の光、即ち宝珠が光る。

 一拍の間。

 

決闘(デュエル)!』

 

 誰も望まない戦いが始まった。

 

 

和輝LP8000手札5枚

咲夜LP8000手札5枚

 

 

「あたしの先攻!」

 

 声を張り上げるのは咲夜。ドローフェイズを消化し、そのままメインフェイズ1に入る。

 

「咲夜! 遠慮はいらん、速攻で畳みかけるぞ!」

 

 デュエル開始と同時に半透明になったアテナが叫ぶ。

 本来守りの女神であるはずのアテナは、今敵意と――本人は認めないだろうが――恐怖で攻めることしか考えられない。よくない兆候だ。しかし咲夜にはどうすることもできない。雁字搦めになっているのは彼女も同じなのだ。

 袋小路の状況の打開は、外部からしか望めない。

 

「咲夜?」

 

 訝しげなアテナの問いかけ。「なんでもない」と首を振る。誤解のまま始まった戦いだが、自分はアテナを守らねばならないのだ。そう誓った。誓いは、約束は破らない。

 

「手札から、融合発動! 手札のE・HERO(エレメンタルヒーロー) シャドー・ミストとE・HERO オーシャンを手札融合!」

 

 咲夜のフィールド、その頭上の空間が、渦のように歪む。彼女の手札から飛び出した二体のE・HERO――影のように長い髪をなびかせた黒いバトルスーツの女と、魚人を思わせる体表の海の戦士――がその渦の中に飛び込み、一つに混ざり合った。

 

「絶対零度のヒーローよ、冷たき刃で敵を切り裂け! 融合召喚、今こそ出でよ! E・HERO アブソルート・Zero!」

 

 バキン、バキン! と音を立てて、氷山が屹立。直後、内側から氷の壁が砕かれ、現れたのは、分厚い氷のように白いバトルアーマーを着込んだ氷のヒーロー。属性通りクールでなおかつ無慈悲だ。

 

「シャドー・ミストの効果発動! E・HERO エアーマンを手札に加えて召喚。サーチ効果を発動して、デッキからE・HERO ブレイズマンをサーチ。カードを一枚セットして、ターン終了」

 

 

融合:通常魔法

(1):自分の手札・フィールドから、融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、その融合モンスター1体をエクストラデッキから融合召喚する。

 

E・HERO アブソルート・Zero 水属性 ☆8 戦士族:融合:効果

ATK2500 DEF2000

「HERO」と名のついたモンスター+水属性モンスター

このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。このカードの攻撃力は、フィールド上に表側表示で存在する「E・HERO アブソルートZero」以外の水属性モンスターの数×500ポイントアップする。このカードがフィールド上から離れた時、相手フィールド上に存在するモンスターを全て破壊する。

 

E・HERO シャドー・ミスト 闇属性 ☆4 戦士族:効果

ATK1000 DEF1500

「E・HERO シャドー・ミスト」の(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。(1):このカードが特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「チェンジ」速攻魔法カード1枚を手札に加える。(2):このカードが墓地へ送られた場合に発動できる。デッキから「E・HERO シャドー・ミスト」以外の「HERO」モンスター1体を手札に加える。

 

E・HERO エアーマン 風属性 ☆4 戦士族:効果

ATK1800 DEF300

(1):このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、以下の効果から1つを選択して発動できる。●このカード以外の自分フィールドの「HERO」モンスターの数まで、フィールドの魔法・罠カードを選んで破壊する。●デッキから「HERO」モンスター1体を手札に加える。

 

 

「俺のターンだ、ドロー!」

 

 和輝の声音はやけくそ気味だ。今にも苛立ちで床を蹴り上げそうである。

 

「この状況が気に入らないかい? けれど、誤解を解くためにも、ここで一方的にやられるわけにはいかないぜ?」

 

 アテナと同じく半透明になったロキの言葉。

 

「分かってる。誤解を受けるのも仕方がないとも思ってる。俺が気に入らないのは、鷹山(たかやま)さんに続いて国守プロともデュエルできるって状況で、なんで怯える女の子を攻撃しなきゃならないんだってことだ!」

 

 和輝の怒りはつまりそういうことだった(、、、、、、、、、)。本来手を差し伸べたい相手に刃を――それも全力で――向けなければならない現実。頭で理解していても感情は納得していない。

 ロキの声が耳朶に響く。

 

「どちらにしても、話をするために一度落ち着いてもらわなきゃならない。ウェスタの時みたく、デュエルで語り合うんだね」

 

 ロキの言葉に頷き、和輝は思考を神々の戦争のものに切り替えた。

 この場所、実はかなり厄介だ。スタッフ専用の通路は決して広いとはいえない。こんな場所では満足に回避もできない。

 ならばどうするか?

 

「この場所からの脱出を優先。そのためには、こいつだ! 相手フィールドにのみモンスターが存在するため、手札から太陽の神官を特殊召喚! さらにチューナーモンスター、ミスト・レディを通常召喚!」

 

 和輝のフィールドに、連続してモンスターが召喚された。

 一体目。褐色の肌にどこかの民族衣装に杖を持った大柄な男。即ち太陽の神官。

 二体目。全身が霧や水のような流体でできた女。はっきり見えるのは女性的なラインの上半身のみで、下半身は雲か霞のように霞んでいる。ある意味名を体で現している。即ちミスト・レディ。

 

「行く! レベル5の太陽の神官に、レベル3のミスト・レディをチューニング!」

 

 シンクロ召喚。三つの光輝く緑の輪となったミスト・レディ。その輪をくぐった太陽の神官が、五つの白い光星(こうせい)となり、一列に並ぶ。直後に、その光星を貫く光の道が指しこんだ。

 

「集いし八星(はっせい)が、星海切り裂く光の竜を紡ぎだす! 光さす道となれ! シンクロ召喚、飛翔せよ、閃珖竜(せんこうりゅう) スターダスト!」

 

 光の帳が、薄暗い通路を満たした。

 

「大型モンスターか!」

「ちょっと待って、こんな狭いところでそんな大型モンスターを召喚したら!」

 

 咆哮が轟く。全ての種族で頂点に立つ、ドラゴンの咆哮が。

 閃コウ竜スターダスト。スターダスト・ドラゴンに酷似したドラゴンは当然のように巨体だ。和輝の高校のデュエル場のような広く、天井も高いならともかく、質量を持つ神々の戦争内では、絶対に室内で呼んでいいモンスターではない。

 案の定、竜の巨体を収めるにはその通路はあまりにも狭すぎた。

 天井が、床、壁が、次々のドラゴンの巨体に押されて(ひび)割れていく。脆いところはすでに崩れ始めていた。

 

「逃げろ咲夜!」

 

 いわれるまでもない。デュエル中であることを忘我し、咲夜はくるりと(きびす)を返してドームから距離をとる。

 ガガン! というひときわ大きな音を皮切りに、滝のような轟音と水飛沫のような粉塵が発生。ドームの一部が崩落したのだと悟った時には、咲夜は轟音で耳をふさがれ、粉塵で視界を奪われていた。

 

「なんてむちゃくちゃな。これじゃああの子、巻き込まれて瓦礫で潰されるんじゃ――――」

 

 若干青ざめた表情の咲夜。だが、その予想は外れる。粉塵を突き破り、美しい竜が飛翔。その足元に和輝がしがみついていた。

 

「なんてむちゃくちゃな……」

「だが確かに理に適っている。あの程度の衝撃でバトルフィールドは崩壊しない。そして、質量を持ったモンスターの陰に隠れていれば降り注ぐ瓦礫も防げる。あの男、戦い慣れているのか……!?」

 

 にやりと笑ってのける和輝。だが内心は冷や汗ものだ。一応、スターダストの巨体なら降り注ぐ瓦礫からも身を守れる算段があったとはいえ、実際に頭と同じくらいの大きさの瓦礫が降ってきたときは肝を冷やした。

 だがそんな内心はおくびにも出さない。あくまでも笑って見せる。獰猛な笑みで隠す。

 

「これで、とりあえず五分か。後は、もうちょっと頭を冷やしてもらうよう努力だ。俺は手札から速攻魔法、緊急テレポートを発動! デッキからレベル3サイキック族、調星師ライズベルトを特殊召喚」

 

 巨体の竜の傍らに現れる小柄な影。

 黒衣、黒髪、赤い瞳、悪魔のようにとがった耳、右目に眼帯、周囲を浮遊する使い魔らしきモノたち。

 

「ライズベルトの効果発動。自身のレベルを一つ上げる。そしてこの効果にチェーンして、墓地のミスト・レディの効果発動。このカードは、墓地にある時、俺の手札かデッキからのモンスターの特殊召喚成功時に墓地から特殊召喚できる。まぁ、この効果で特殊召喚されたミスト・レディがフィールドを離れた時、ゲームから除外されるけどな」

 

 和輝の墓地から霧状になって復活してくるミスト・レディ。再びチューナーと非チューナーが揃った。

 

「もう一度! レベル4となった調星師ライズベルトに、レベル3のミスト・レディをチューニング!」

 

 再びのシンクロ召喚。先ほどの光景の焼廻しのように、緑の輪と光星、そして光さす道が走る。

 

「集いし七星(しちせい)が、月華に花咲く十六夜薔薇を紡ぎだす! 光さす道となれ! シンクロ召喚、開花せよ、月華竜ブラック・ローズ!」 

 

 光の向こうから現れる、ブラック・ローズ・ドラゴンに酷似したモンスター。召喚と同時にその咆哮と羽ばたきが咲夜のフィールドにたたきつけられる。

 

「月華竜ブラック・ローズの効果発動! アブソルート・Zeroを手札に戻す!」

 

 薔薇竜の羽ばたきは赤い風を起こす。風に抗いきれず氷のヒーローが吹き飛ばされた。

 

「―――――本来手札に戻るモンスターも、エクストラデッキから特殊召喚されたモンスターは手札じゃなくてエクストラデッキに戻される。実質的な除去よね。でもただじゃやられない! アブソルート・Zeroの効果発動! 君のフィールドのモンスターを全て破壊する!」

 

 瞬間凍結。フィールドを離れたはずのアブソルート・Zeroだったが、痕跡として残った冷気が爆発的に膨れ上がり、津波となって襲来。和輝のフィールドを蹂躙せんと迫る。

 

「閃コウ竜スターダストの効果発動! 自身の破壊を防ぐ!」

 

 スターダストが翼を前面に折りたたみ、手足もまた折りたたんだ守備体勢をとる。その身体全体を覆った白いバリアーが、白青の津波から身を守る盾となった。ただし、スターダストだけだ。ブラック・ローズは波に呑まれて凍りつき、粉々に砕け散った。

 

「スターダストは残っている! バトル! スターダストでエアーマンを攻撃!」

 

 生き残ったスターダストの反撃。放たれる光の息吹(ブレス)がエアーマンを直撃、その身を消し飛ばした。

 ダメージのフィードバックが咲夜を襲う。

 

「く……ッ! この程度!」

 

 勝気な様相がよく似合う、昨夜の勇ましい声。同時、彼女の指がデュエルディスクのボタンを押した。

 

「ただじゃやられないっていったでしょう! リバーストラップ発動! ヒーロー・シグナル! デッキからE・HERO プリズマー特殊召喚!」

 

 空に「H」の文字が浮かび上がり、そのサインに導かれてやってきたのは、全身これ鏡といった風体のヒーロー。鋭角なボディラインはあらゆる光を吸収し、様々なモンスターに姿を変えることができる。

 

「なんか彼女、ちょっと勝気になった?」

「あれが本来の国守プロだ。多分デュエルしててテンションが上がってきたんだろうさ」

 

 笑う和輝。そこにファンの女性の本来の姿を見れたが故の歓喜がある事をロキは見逃さなかった。もっとも、戦いの際中に指摘することもなかったが。

 

「カードを一枚セットして、ターンエンド!」

 

 

太陽の神官 光属性 ☆5 魔法使い族:効果

ATK1000 DEF2000

相手フィールド上にモンスターが存在し、自分フィールド上にモンスターが存在しない場合、このカードは手札から特殊召喚できる。フィールド上のこのカードが破壊され墓地へ送られた時、デッキから「赤蟻アスカトル」または「スーパイ」1体を手札に加える事ができる。

 

ミスト・レディ 水属性 ☆3 魔法使い族:チューナー

ATK1300 DEF1000

(1):自分の手札、またはデッキからモンスターの特殊召喚に成功した場合に発動できる。墓地のこのカードを特殊召喚する。この効果によって特殊召喚されたこのカードがフィールドを離れた時、このカードをゲームから除外する。

 

閃コウ竜 スターダスト 光属性 ☆8 ドラゴン族:シンクロ

ATK2500 DEF2000

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

1ターンに1度、自分フィールド上に表側表示で存在するカード1枚を選択して発動できる。選択したカードは、このターンに1度だけ戦闘及びカードの効果では破壊されない。この効果は相手ターンでも発動できる。

 

緊急テレポート:速攻魔法

(1):手札・デッキからレベル3以下のサイキック族モンスター1体を特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターは、このターンのエンドフェイズに除外される。

 

調星師ライズベルト 風属性 ☆3 サイキック族:効果

ATK800 DEF800

このカードが特殊召喚に成功した時、フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動できる。エンドフェイズ時まで、選択したモンスターのレベルを3つまで上げる。

 

月華竜 ブラック・ローズ 光属性 ☆7 ドラゴン族:シンクロ

ATK2400 DEF1800

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

このカードが特殊召喚に成功した時、または相手フィールド上にレベル5以上のモンスターが特殊召喚された時に発動する。相手フィールド上の特殊召喚されたモンスター1体を選択して持ち主の手札に戻す。「月華竜 ブラック・ローズ」の効果は1ターンに1度しか使用できない。

 

ヒーロー・シグナル:通常罠

(1):自分フィールドのモンスターが戦闘で破壊され墓地へ送られた時に発動できる。手札・デッキからレベル4以下の「E・HERO」モンスター1体を特殊召喚する。

 

E・HERO プリズマー 光属性 ☆4 戦士族:効果

ATK1700 DEF1100

(1):1ターンに1度、エクストラデッキの融合モンスター1体を相手に見せ、そのモンスターにカード名が記されている融合素材モンスター1体をデッキから墓地へ送って発動できる。エンドフェイズまで、このカードはこの効果を発動するために墓地へ送ったモンスターと同名カードとして扱う。

 

 

和輝LP8000手札2枚

咲夜LP8000→7300手札2枚(うち1枚はE・HERO ブレイズマン)

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 和輝と咲夜のデュエルは、早くも白熱してきた。

 だがだからこそ、彼らは気づかなかった。本当の脅威は、すぐ間近にまで迫っていることに。

 

 

 ドーム周辺。まさに和輝と咲夜がバトルフィールドを開いたあたり。正気に戻ったスタッフが目にしたのは、異様な風体の四つの人影だった。

 二人が男、二人が女。

 男はどちらも大柄、一人は三十代後半の見た目、角刈り、黒髪、黒い瞳、黒のグラサン、黒服。まっとうな人間の服装とは思えない。

 だがもう一人の男に比べればマシか。

 年齢は三十代後半あたり、髪型をモヒカンにし、鉄錆色の冑を被り、同じ色の鎧姿。まるで古代の剣闘士(グラディエーター)を思わせる。

 そして女の二人組。どちらも異常で妖艶な雰囲気。

 一人。ツインテールにした青い髪、青い瞳。気だるげな雰囲気を着崩した着物が扇情的で蠱惑的。怠惰で退廃的な空気さえも魅力に映る。

 もう一人。足まで届く銀髪に黒のドレス姿。瞳の色は右が金、左が黒のオッドアイ。黒のルージュに爪も赤く塗っている。着物の女と同じく、目を離せないよう艶で蠱惑的、そしてどこか危険な雰囲気。

 

「あの……」

 

 見るからに異様な集団。それでも入口周りのスタッフとしての仕事を果たそうと、仮装集団もどきに近づいていく。

 だが――――

 

「どけ」

 

 鎧の男が右手を振るう。その動きに合わせて、突風が巻き起こった。

 

「え――――――」

 

 スタッフの男は何が何だかわからなかっただろう。彼の感覚では、突然横から突風を受け、身体が巻き上げられた。おそらくそこで意識は断たれたはずだ。

 正確にはその後地面に激突し、蹴られた空き缶の様に転がっていって、やがて動かなくなった。呻き声がかすかに聞こえるので、生きてはいるらしい。

 四人組。否、正確には二人と二柱。言うまでもなくアレスとエリス、そしてその契約者、兵藤(ひょうどう)とオデッサだ。

 

「ふん。間違いない。ここからアテナの気配がする」

「けれど、バトルフィールドをすでに展開しているわね。中で、ほかの神と戦ているようですわ」

 

 アテナの言葉にエリスが返す。エリスは口元に手を当て、何かを思案している。

 

「ふん。関係ない。ならば乱入し、二柱とも葬るだけだ」

 

 あくまでも強気のアレス。人間たちは無言。オデッサは状況を黙って見守っているだけ。兵藤はそもそも洗脳されて人形と化している。

 

「待って、貴方。もっといい方法があるの」

 

 はやる(アレス)(エリス)が制する。

 

「乱入する前に、対戦している参加者同士を分断してしまうの。そして、まず最初にアテナを倒す。次に、残った参加者を、倒すなり、傀儡にするなりしてしまいましょう。参加者に神の力は通用しないけれど、(わたくし)の話術で絡めとってしまいましょう」

 

 不和の女神であるエリスはかつて、神々をも翻弄し、地上に数多の神が介入した大きな戦争を起こさせた。

 トロイア戦争。多くの人間が、英雄が争い、血で大地を染め上げ命を落とした戦争だ。

 その時彼女は、リンゴ一つでその戦争を始めさせたという。

 不和の女神が笑う。そして、作戦を立てた。アレスも笑う。「オレ好みだ」と。

 

「じゃあ、貴方。(わたくし)の案に乗ってくれる?」

「ああ。期待している。兵藤!」

「はい、アレス様」

 

 兵藤が一歩前に出る。既にデュエルディスクを起動。手には魔法カード、オデッサも同じく、デュエルディスクを起動させ、魔法カードを人差し指と中指の間に挟んだ。

 

「震えろアテナ。碌に力も使えぬキサマは、満足にバトルフィールドも展開できないようだ。(ほころ)びが視えるぞ」

 

 神々の目には、アテナが張ったバトルフィールドの入り口が視えていた。ここをくぐればフィールド内に入りこめ、神々の戦争に飛び入り参戦できる。

 だが今、バトルフィールドには亀裂のようなものがあった。綻びだ。アテナが子供の姿になっているため、満足にフィールドを維持できないのだ。和輝がフィールド内のドームを崩したことも無関係ではあるまい。

 今なら、フィールドの外から攻撃を加えられる。

 アレスの右腕に、肉厚の両刃剣が現れる。その剣の表面から炎が噴き出し剣身を覆い、炎の剣と化す。

 

「はぁ!」

 

 アレスの剣が降り抜かれ、炎が怒涛の勢いで、バトルフィールドの綻びに叩き込まれた。

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