神々の戦争   作:tuki21

23 / 130
第23話:疑心氷解

 勝敗は決した。

 和輝(かずき)とロキ、咲夜(さくや)とアテナのペアが勝利し、兵藤(ひょうどう)とアレス、オデッサとエリスのペアが敗北した。

 消えていく二柱の神たち。アテナをつけ狙い、咲夜ともども憔悴させ、追い詰め、恐怖させた直接の脅威が今消えていく。

 

「お、おの、れ……。この、オレが――――――!」

「嫌、嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌! 消えたくない!」

 

 断末魔は最後まで続かない。神々の戦争のルールに則り、なす術なく消えていく。

 やがてアレスとエリスは完全に消滅し、彼らのパートナーだった二人のうち、兵藤はその場で頽れて気絶し、オデッサは相変わらず全てを突き放した茫洋とした表情を浮かべていた。

 

「終わったね」

 

 ロキの呟き。デュエル終了と同時に、バトルフィールドは消滅した。

 

「終わったの……?」

 

 呆然とする咲夜。今までの逃亡と憔悴の日々があっけなく終わりを告げた現実を、やや受け入れがたいらしい。

 

「の、ようだな……」

 

 同じく訝しげなアテナ。彼女もまた、逃亡生活の終わりを受け入れがたいだろう。

 だがその思いが言葉になる前に、和輝が動いた。

 

「ロキ、そっちの、アレスのパートナーは洗脳されてたみたいだから、カイロスの契約者の時みたく、洗脳中にさせられた記憶を消してくれ。」

「分かったよ」

 

 頷いたロキが兵藤の頭に手を当てる。一瞬の光。ただし危険な感じはしない。柔らかくて、暖かい光が、兵藤の頭を包んだ。

 

「記憶操作終わり。これで彼の洗脳期間中の記憶は別のものに書き換えられた」

「サンキュ。さて次は―――――」

 

 和輝の視線が突っ立ったままのオデッサに向かう。兵藤は洗脳されていたのでその期間の凄惨な記憶を消去した。だが彼女は違う。彼女に洗脳された様子はない。ならば、明らかに自分の意思でエリスと契約し、彼女やアレスの所業に手を貸していたのだ。

 

「あんたには、聞きたいことがある」

 

 言ってやりたいことも山ほどあったが、デュエル中でオデッサと相対した時に、この相手にはどんな言葉も行動も無駄だということもわかっていた。

 茫洋として、突き放して、世界と関わってくせに世界との関わりを拒絶するタイプの人間だ。そんな人間は前に見たことがある。まだ子供のころ、岡崎(おかざき)家に引き取られる前、孤児院にいた時、こんな子供がいた。

 こう言うタイプは惰性(、、)で生きる。だからこっちから感情ではなく、ただの質問をぶつければ意外とすんなり喋ってくれる。知っているならば、だが。

 

「何? 何でも聞いてくれていいよ。どうせ惰性だもの。勝者が敗者に何かを要求する。敗者はそれを聞き入れる。うん、とっても惰性」

「あんたの生き方はどうだっていい。けど質問には答えてもらう。あんた等のバックは誰だ? 嘘は無駄だ、うちの欺瞞の神が見破る」

 

 和輝の質問に、背後の咲夜とアテナの表情が緊張に彩られた。

 そうだ。アレスたちを倒したからと言って、それで全てが終わったとは限らないではないか。何しろ、アテナを子供にした神がまだ残っているのだ。

 寧ろしつこくアテナを狙っていたアレスは使い走りで、真に倒すべき敵はその背後にいると考えた方が自然なのではないか?

 

「あー、やっぱそう思うんだ」

 

 オデッサは参ったといわんばかりの台詞と裏腹に、その表情は相変わらず茫洋としていて考えが読み取れない。

 

「いいよ、答えてあげる。といっても、あいつらはあたしの前じゃあまり自分たち以外の神の名前は話さなかったけど、一度だけ聞いたよ。“しぶといアテナめ。クロノス様もしびれを切らしている、ってね”」

「クロノス……」

 

 アテナの表情がさらに険しくなる。

 

「やはりそうか。子供に戻されたということは、私の身体の時間が戻されたということだ。だからもしやと思っていた。こんなことができるのは時の神クロノスか、その弟神のカイロスが真っ先に思い浮かぶ」

「ちなみに、カイロスはボクらが倒してるから、カイロスが黒幕ならその時点で君に掛けられた時間逆行の呪いは解けてるはずだしねぇ、消去法で、クロノスか」

「クロノス、奴は今どこにいる?」

「知らない。契約者も知らない。あったことないから」

 

 怒気を孕んだアテナの問いかけにもけろりとしてオデッサはそう言った。真実だろう。この期に及んで嘘をつく理由がない。

 念のためロキにも確認してみたが、「嘘は言っていないね」という返答だった。

 

「くそ……ッ!」

 

 苛立たし気に地面を蹴るアテナ。敵の正体は分かっても、どこにいるかわからないのであればまた襲われる危険がある。

 

「もう一つ、聞きたいことがある。お前らが襲ってきた時、俺を足止めするためにわけのわからん奴が襲ってきた。あまり強くなかったけどな。ただ一番不可解なのは、そいつは神々の戦争の参加者じゃなかったことだ。どういうことだ? 奴の正体はなんだ?」

 

 和輝の質問に、咲夜とアテナがぽかんとした表情を作った。

 疑問符を頭の上に浮かべた咲夜。「神々の戦争の参加者じゃないのに、バトルフィールド内にいたってこと?」

 にべもなく切り捨てるアテナ。「馬鹿な、そんなの信じられん」

 すかさずフォローに入るロキ。「けど事実だよ。だからこそ聞きたいよね」

 それぞれの視線を受けてたオデッサ。だが彼女は平然とこう答えた。

 

「きみを襲った相手……? なにそれ、あたし知らない」

「ッ! 貴様、この期に及んでシラを切るか!」

「待った、アテナ。この子は嘘は言っていない。本当に知らないんだ」

 

 まさかの情報ゼロ。ロキはじっとオデッサを見つめるが、答えは変わらない。彼女は、嘘は言っていなかった。

 

「聞きたいことは終わった? じゃ、あたしはもう行っていいかな?」

 

 くるりと踵を返すオデッサ。彼女は何の罪悪感も抱いていない。エリスが戯れに仲の良かった友人同士を殺し合わせても、「そういうものだ」としか思わない。徹底して突き放したこの女はどこまで行っても誰とも関われない。本質的には。

 去っていくオデッサを、和輝たちは無言で見送るしかなかった。

 

 

 何はともあれ脅威は去った。少なくとも当面は。そう思いかけたアテナだったが、まだ敵になる可能性が高い連中が近くにいることを思い出した。

 和輝とロキ。

 先程も感じた疑念だ。

 デュエル中にエリスの言っていたことは正しい。この戦いは自分たちのチーム以外は敵同士。なぜ助けたのか? ここで油断させて、背後から強襲するつもりでは?

 だがそんなアテナの疑念とは裏腹に、和輝は思い出したように左手首に巻いた腕時計に目を向け、

 

「よっし! 間にあったぜ咲夜さん!」

 

 と、とても嬉しそうにそう言った。

 

「え?」

「試合だよ試合! アリエティス・ターナープロとの試合! 俺、応援してるから!」

「あ―――――」

 

 試合。ずいぶん昔のことに感じる。確かに、そろそろ前座のデュエルが終わる。逆に言えば、自分の試合開始までまだ少し時間があるのだ。急げば間に合う。

 

「そ、そうだ! いかなきゃ!」

「ま、待て!」

 

 戸惑いを含んだアテナの声に、走りだしかけていた咲夜の足が止まる。和輝とロキも、不思議そうな表情で小さな女神を見つめた。

 

「何故私たちを助けた? 私たちは貴様たちの敵だぞ? 一体何が狙いだ?」

 

 アテナの言っていることは正しい。神々の戦争の勝者は一組。それ以外は全て敵。それは変わらない事実、ルールだ。

 だが―――――

 

「敵、味方の二種類か。それって、疲れないか?」

 

 あっけらかんと、和輝はそう言った。あっけにとられたアテナと咲夜を前に、和輝はなおも続ける。

 

「少なくとも俺は咲夜さんやお前が敵だなんて思えないぜ? 俺は咲夜さんとアテナが戦ってるのを目にして何も考えずに助けようと思ったよ。俺がそうしたいからそうしたんだ」

 

 ますます困惑するアテナ。ロキは苦笑する。咲夜も、どこか朗らかに笑った。

 

「さ、咲夜。何を笑っている?」

「つまりね、アテナ。彼は――――」

「掛け値なしのお人よし。善人ってことだよ、アテナ。ボクのような邪神は信用できなくてもさ、和輝の様な人間は、信じてやってよ。出ないと彼が報われない」

「そ――――」

 

 絶句するアテナ。だが同時に納得した。凝り固まった疑心暗鬼が氷解していくのを感じた。なぜ自分はこうも疑っていたのか? 裏切られたから? それでも(、、、、)信念を曲げずにいるのが守護と正義の女神であるアテナ(じぶん)ではなかったか?

 気づいたら今までの自分がひどく滑稽に思えてきた。背中から撃たれようが子供にされようが、世界に正義はきっとあると、なぜ言いきれなかったのか。思った以上に自分は恐怖し、腑抜けになっていたということだ。

 思わず笑みがこぼれた。

 

「ア――――――ハハハハハハハハハ!」

 

 アテナは笑った。本当に久しぶりに出た、腹の底からの快活な笑みだった。

 

「な、なんだよ?」

「いや、すまぬ。そうか、そうだな。お前の様な奴だっていたのに、回り全てが敵だなどと、正義はないと、思い違いをしていた。咲夜、お前にも世話をかけた。――――――そのうえで頼みたい、これからも、私と共に戦ってくれるか?」

 

 手を差し出すアテナ。咲夜は躊躇なくその手をとった。

 

「勿論! 最後まで関わりぬく。その覚悟がないと最初から手をとらないよ!」

 

 一人と一柱の握手を見て、和輝は満足げに微笑み、ロキは、

 

「ああ、やっぱり人間っていいな。例え神の手だって、簡単に取れてしまう強さ(、、)がある」

 

 そう言って、これまた朗らかに笑った。

 

 

 その後、咲夜は急いで試合会場に向かい。和輝も自分の席についた。

 

「今考えるとすごいことだよなぁ。俺、プロデュエリストとタッグ組んだなんて。しかも―――――」

 

 懐のスマホ。送られてきたメールを見る。別れの直前に、アドレス交換した咲夜のものだ。

 

『今回はありがと。今度はわたしが助けてあげるね☆』

「アドレスまでゲットとか。今日は幸運がありすぎる」

「反動が怖いくらいだね」

 

 和輝とロキの軽口を、場内アナウンスをBGMがかき消した。

 選手入場。音楽に沿って登場する咲夜。強気な笑顔を振りまき、神々の戦争で汚れてしまった服を着替えた姿での登場だ。

 対峙するのは、白いパティシエ服に身を包んだ女性。

 外側にはねた茶色の髪、緑の双眸、パティシエ帽子をしっかりと被り、落ち着いた印象でデュエルディスクを起動。咲夜の対戦相手、パティシエデュエリストのアリエティス・ターナー。彼女にとっての勝負服であるパティシエ衣装での登場だった。

 

「何か、変わったわね。あなた。一皮剥けたというか、吹っ切ったみたい」

 

 登場した咲夜を見て、アリエティスはそう言った。

 笑みで応じる咲夜。「色々積み重なっていた問題が片付いて、すっきりしましたから」

 

「これは強敵ね」

 

 負けるつもりは微塵もないアリエティスは、そう言って笑った。

 アナウンサーの声が響く。

 

『それでは、試合開始ー!』

 

 二人のデュエリストが構える。

 

決闘(デュエル)!』

 

 

 その日、咲夜はアリエティスプロに快勝。今までの不調を払しょくする、派手な復活劇を披露した。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。