神々の戦争   作:tuki21

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第3話:対決

 昔々、それはもう、気が遠くなるほどに昔の話。

 世界には、たくさんの神様がいました。

 神様達は互いに、それぞれの世界と国と家臣と、自分自身を崇める人間達を作りました。

 互いに好き勝手やっていた神様達は、やがて、ふと、一つの疑問に行き当たりました。

 

 

 結局、誰が一番偉いのだろう?

 

 

 誰もが自分こそが最も偉く、そして最も力のある神であると言いました。

 議論は何年も何十年も何百年も何千年も続き、それでも一向に結論が導き出されることはありませんでした。

 そんな時、一柱の神様が言いました。

 

 

 ならば、神々の王様を決めようじゃないか

 

 

 その神様が持ちかけたのは、一番偉く、そして一番強い神様を決めるゲーム。種目を設定し、ルールを設定し、人間の世界に干渉し、神様達は舞台が整うのをじっと待ち続けました。

 それから気の遠くなる、数えるのも億劫になるほどに長い時間が流れ、ついに、ゲームの舞台が整いました。

 

 

 これから幕が上がります。神様の中でも“予選”を勝ち抜いた神様達によって行われる、たった一度、神様たちの競演によって繰り広げられる、ゲームの幕が。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

「そして、ボクらのゲームが始まった。ルールも、方法も決めてね。でも現在、神々は人界(じんかい)にみだりに干渉しないことにしているんだ」

「そうなのか?」

 

 疑問顔の和輝(かずき)にロキは首肯。そのまま説明を続ける。

 

「かつての、それこそ神代の時代ならともかく今この現代社会に神は不必要に干渉しない。神の存在証明がそのまま世界の崩壊につながりかねないからね。神々だってせっかくここまで世界が大きくなったんだ。わざわざ混乱と破壊をもたらすようなことは極力(、、)したくないはずさ」

 

 確かに、多くの宗教が世に蔓延るこの時代に神々が降臨すれば世界は混乱の坩堝(るつぼ)となるだろう。

 

「だから、代わりに人間を橋渡しすることにした」

「人間を……。だからあのカイロスってやつに、女が一人付き従っていたのか」

「あれを、付き従っていたというべきかどうか、疑問の余地があるけどまぁその通り。神々はパートナーとなる人間を一人選び、契約を交わす。そのうえで行われるゲーム。それこそ、この世界で人種、国籍、性別、年齢、あらゆる一切を問わず親しまれ愛され、大流行しているゲーム。つまり、契約を交わした人間同士のデュエルモンスターズだ」

「デュエルモンスターズが?」

 

 困惑顔の和輝。それも当然だろう。今までの神々の王を決める戦いとデュエルモンスターズがいまいちつながらない。そもそも、

 

「なんでわざわざ人間が作ったゲームで、人間使って代理戦争みたいなことをするんだ? いやまぁ、人間の世界に不用意な干渉しないからってのは分かったけど」

「逆だよ。人間が作ったゲームに神が目をつけたんじゃない。神々の王を決める戦い、題して神々の戦争のために、デュエルモンスターズが作られたんだ」

「ッ!」

 

 がつんと頭を殴られたような言葉だった。和輝の目が見開かれ、かすかに体がよろける。

 デュエルモンスターズは世界中で愛されている。和輝も、このカードゲームが大好きだ。プロデュエリストを目指すことも、画面の向こう側で活躍する彼らに憧れを抱いた気持ちが理由の一つだ。

 だがその始まりが、まさか神のエゴのためだったとは……。

 しかし同時に、どこか納得できるものでもあった。

 そう、デュエルモンスターズには何故かオカルトの噂が絶えなかった。

 曰く、実際にダメージを与える闇のカード。

 曰く、本当に神が宿ったかのような、不可思議な現象を起こす神のカード。

 曰く、カードの精霊。

 それらはデマと切り捨てられたが、たった一つ、今も声高に真実であると公式に声明されている都市伝説があった。

 デュエルモンスターズの生みの親。クラインヴェレ社の現CEOにしてデュエルモンスターズチーフデザイナー、ルートヴィヒ・クラインヴェレ。

 彼は以前、デュエルモンスターズについて、メディアに向かってこう言っていた。

 

 

――――このゲームは私が開発したものではない。ある日、私の枕元に神々(、、)が下りてきた。私は彼らの言うとおりに、このゲームを作りあげただけだ。

 

 

 そんなオカルト的な話の真偽が、図らずも今、この瞬間に明らかになったのだ。

 

「そんな事実があったなんてな……」

「ショックだったかな?」

「ああ……、さすがにな。けど今は話を続けよう。それで、神は人間と組む。けど人間側はよくそんなことを承諾したな」

 

 和輝の言葉にロキの表情が曇った。

 だがそれも一瞬、ロキの表情は元の説明顔に戻った。

 

「人間側にもメリットはある。まず最大のメリット。それはね、この戦いに勝ち残った一組のうち、神は神々の王になれる。そして人間は、どんな願いも一つだけ叶えてもらえるんだ」

「願いを……? どんなものでもか?」

 

 そう、とロキは頷く。

 

「どんな願いもだ。有史以来、人類が望んでやまなかった不老不死でも、死者の蘇生でも、使いきれぬ富でも、世界征服でも、容姿の変容でも、なんでもあり、だ」

 

 確かにそれは、かなり魅力的に思える。それこそ他を蹴落としてでも掴み取りたい禁断の果実だ。

 そしてそのためならば、どんな非道なこともできるという人間も、いるだろう。

 

「じゃあ、さっきのカイロスってやつと、あの女も、神々の戦争の参加者ってわけか」

「うん。そして、カイロスがボクを襲ったのにも理由があってね。ボクたち神々は、神々の戦争の期間中、人界ではパートナーとなる人間を見つけなければその力を振るえない。

 だからこそ、いち早くパートナーと見つけた神は、ほかの、まだパートナーを見つけていない神を攻撃するんだ。それで致命傷を負わせられればデュエルを介することなく、神を脱落させられる。

 今、ボクは君に神のカード(、、、、、)を渡すことて、君とボクの間に仮契約を結んでいる。だからさっきカイロスたちから身を隠す力を行使できたんだ」

「仮契約……」

「そう、だから――――」

 

 ロキの目が、じっと和輝を見据えた。

 

「君は、ここで降りてもいいと、そう思うよ。超常現象だけじゃない、命だって、かけるんだ」

 それはロキから和輝への真摯な忠告だった。和輝は一瞬沈黙。ロキの忠告に対して何か言おうとして―――――

 

 

『聞こえるか、ロキ? 人間の小僧?』

 

 

 天から重く響き渡る、声がした。

 

「え?」

 

 和輝が周囲を見渡す。だが何もない、誰もない。

 ただし和輝とは対照的に、ロキは険しい表情で中空を睨んだ。

 和輝もまた、ロキと同じ方向に目を向ける。

 そこに、いた。

 中空に浮かぶ、カイロスの姿。ただ、その姿はかすかに透けており、後ろの雲がカイロスの身体を透けて見えていた。

 

「見つかったのか!?」

「いや、違う。カイロスが自分の姿を映像として投影してここいら一帯に見せつけているだけだ。にしても、ずいぶん派手なことをする。人間に見つかってパニックになってもいいと思っているのか? それとも、まさか……」

 

 ロキの顔が青ざめていく。カイロスの映像が言葉を紡ぐ。

 

『聞こえていなくとも見えているだろう? これを』

 

 言って、カイロスの周囲の光景が空に映し出される。

 どこかの学校のようだった。

 そこには、さきほどの和輝と同じく、身体から無数の時計を浮きあがらせた人々の姿があった。

 身体から透けて出ている時計の針は止まっており、人々もピクリとも動いていない。まるで死んでいるようだ。

 

「やっぱり、カイロスめ。人間たちの時間を、手当たり次第に止めているのか!」

「時間を……止める……?」

 

 その時和輝の脳裏のよぎったのは、今朝聞いたニュース。隣町で発生している連続昏睡事件。正常な肉体なのに、意識だけが戻らない被害者たち。

 彼らはカイロスに時間を止められたのだとすれば?

 和輝がその予測をロキに話すと、ロキは黙って首肯、その後こう続けた。

 

「ボクを追っていた時、カイロスはボクが人間に近づくと、その人間の時間を止めていた。ボクに契約をさせないためだ。

 

 けどボクは君と仮契約を交わした。だからカイロスは、今度は真正面からボクら(、、、)を潰すことにしたんだ。そのために――――」

 ロキに言葉の続きは、偶然タイミングがあっただけだろうが、カイロスが告げていた。

 

『この街全員の人間の時間を止めた。さっさと出てくるがいい。出てこなければ、このような事態が起こるぞ』

 

 カイロスの悦楽を秘めた笑み。そして、彼の契約者、久々津舞(くぐつまい)が、やはり常軌を逸した悦楽の笑みを浮かべてやってきた。

 その小脇には、七歳くらいの男の子が抱えられていた。

 そして、カイロスの視線が子供で止まる。次の瞬間、異変が起こった。

 子供の身体から浮かび上がっていた無数の時計。針を止めていたそれらが一斉に、それも目にもとまらぬほどの高速で動きだしたのだ。

 

「あ…………」

 

 子供が小さな呟きを漏らした。だがその呟きさえも置き去りに、彼の時は進む。

 

「やめろカイロス!」

 

 和輝の隣でロキが叫ぶ。和輝は、心臓が痛いくらいにドクンドクンと叫んでいるのを感じていた。

 時計の針が進むにつれて、子供の身体が強制的に成長していく。急に伸びていく背丈、高くなる視野、変化していく体格に戸惑う暇もなく、今度はどんどん老衰していく。

 子供は少年になり、次いで青年に。瞬く間に中年になって初老に変じ、最後には白髪を振り乱し、自力で立つこともできないほど衰えた老人となった。

 さっきまで子供だった老人の口元が動いたが、もごもご言っているだけで言葉にならない。

 やがて、老人は力尽き、その場に倒れ伏した。この瞬間、これ(、、)はもう老人ではなく、ただの乾いた骨と皮の塊に過ぎなくなった。

 さらに時計の針は進む。すると見る見るうちに老人だったものは輪郭を崩れさせ、からからに乾いた紙のように、自然と形を崩していく。

 やがて一陣の風が、原型さえなくなったかつての老人を運んで行ってしまった。

 人が死んだ。ひどくあっけなく。ただの見世物として。

 和輝の心臓が痛いくらいに高鳴っている。ただし恐怖からくる鼓動ではない。体中から怒りが、こんな理不尽を許してはならないという熱い思いがマグマのように湧き上がってくる。

 

「ロキ、もう、うだうだ言うのはやめだ。俺は、こいつを、このカイロスとかいう糞野郎を許せない。俺のほうから頼みたい、あの野郎をぶっ倒すために、協力してくれ」

「…………ボクは、邪神として人間たちの間に広がっている神だよ? 簡単に、信用していいの?」

 

 ロキの最後の質問、そして意思確認。和輝の心の奥底で、怪物が囁く。

 楽しいなぁ、楽しいなぁ。ここで首を突っ込めば、パパとママのところに行けるかもしれないぞ? 務めて無視した。

和輝は首肯。己の左胸に右手を当て、

 

「いいと、そう思う。傷だらけのお前を見つけた時、ほかの人間を巻き込めないからと、病院を断ったお前なら。そして、他ならぬ俺を巻き込まないために、俺を遠ざけようとしたお前なら。俺は信じられる」

 

 そして和輝は、改めてロキと向き直った。右手を差し出し、言った。

 

岡崎(おかざき)和輝だ。よろしく頼む」

「ありがとう、和輝」

 

 名前を預ける。その行為に秘められた信頼に、ロキは笑みを浮かべた。邪神だの、欺瞞の神だの、悪戯の神などと呼ばれる神話の評価から真逆となる、邪気のない笑みだった。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 カイロスと舞は、とある小学校に陣取っていた。

 放課後なのが幸いして人の姿は少ない。だがまだ居残っていた生徒や、教師などは時間を止められ、リアルすぎる彫像のように佇んでいた。

 

「あはははは、来ましたねぇ」

『手間が省けたな。来なければ次の人間を老い殺すところだった』

 

 和輝とロキは無言。ただ、地面に無残な姿をさらしている男の子に視線を向けるにとどめた。

 

「一つ、聞きたい」

『なんだ?』

 

 怒りを押し殺した和輝の声音。カイロスはその怒りさえも心地いいと言わんばかりに体を揺すらせる。

 和輝の指先が舞を指し示した。

 

「その女、様子がおかしいよな。何かしたのか(、、、、、、)?」

 

 和輝にとって、この質問は重要だった。

 ロキは言っていた。神によっては、人間を完全に道具にしてしまうと。

 洗脳し、自由意志を奪い、自分に都合のいい人形にしてしまうと。

 そしてそう考えるなら、舞のちぐはぐな雰囲気にも納得できる。その狂気的な表情と言動も。

 

『なんだそんなことか』

 

 カイロスは嘆息。そして、言った。

 

『人形の意思などいらん。踊り続けるのに、そんなのは邪魔だだけだ。だから消した、歪めた、洗脳した。それがどうかしたか?』

 

 ある意味、予想通りの回答だった。和輝が握りしめた拳が、白く染まっていく。

 

「よーく分かったぜ。てめぇみたいなやつは、絶対に、ぶっ倒さなきゃならないってな!」

 

 叫び、和輝は左腕に装着していたデュエルディスクを起動させた。カイロスが満足げに笑った。

 

『それでいい。正面から潰してやる。バトルフィールド、展開!』

 

 瞬間、世界が変わった。

 

「ッ!?」

 

 一見すると何の変化もない。だが、それは周囲の景色に限った話。

 今、和輝たちがいる場所は変わらず小学校の校庭だが、和輝たち以外人間が一人もいなかった。

 

「和輝たちがいる空間と、少し位相をずらした空間だ。ここでなら気兼ねなく暴れられる(、、、、、)

『さぁ、始めるぞ人形!』

「はぁい、カイロス様ぁ」

 

 舞もまた、左腕に装着したデュエルディスクを起動する。同時、彼女の胸元から青い光が放たれた。

 光の正体は青い宝石。服を透かし、舞の身体に直接埋め込まれていることを和輝には感じ取れた。

 同時、和輝もまた、己の胸元に疼きを感じた。

 舞と同じように、和輝の胸元からもまた光が発される。ただしこちらは赤い。炎を結晶化したような赤い宝石が、和輝の胸元から服を透かして現れていた。

 この宝石、宝珠こそ、神々の戦争の参加者の証。ここへの移動中にロキより渡された神々の戦争への参加資格だ。

 神と正式に契約を交わした人間は個の宝珠を埋め込まれ、バトルフィールド時に表に出てくるらしい。

 

「気をつけてくれ、和輝。その宝珠を破壊されたら、ボクらの負けだ。ここでの戦い方やルールはやりながら説明しよう」

「分かった。頼むぜ」

「神のカードはすでに君のデッキに入っている。幸運を」

 

 言って、ロキの姿が空気に溶け込むように消えた。カイロスもまた、身を震わせ、

 

『人形、この程度のやつに負けるのは許さんぞ』

「はぁい、カイロス様ぁ」

 

 カイロスの姿も消える。残ったのは二人の人間だけ。

 互いに視線を交わし合う。そして、

 

決闘(デュエル)!』

 

 和輝にとって、神々の戦争の初陣の幕が切って落とされた。

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