神々の戦争   作:tuki21

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第34話:ロキ先生の神々講座

「さて、和輝(かずき)。ちょっと話をしようか」

 

 その日の夕食後、自室に戻ってデッキを調整しようかと思っていた和輝に、ロキが実体化し、そう言った。

 

「話?」

 

 怪訝そうな和輝。ロキは「そう」と続けた。

 

「数日前、フローラとトラソルテオトルを倒した後、通知が来ただろ? 神々の戦争、残った神は残り七十柱。序盤戦は終わり、ここからの敵は今まで以上の強敵だ。だからその前に、神について少しレクチャーをしようと思ってね」

「なるほどな」

 

 言って、和輝は部屋の壁時計を見た。ついでに一階に気配を巡らせる。義妹の綺羅(きら)は今、夕食の洗い物中だ。それに、この後のテレビ中継にもまだ時間はある。

 

「そうだな、聞かせてくれ、ロキ」

 

 ベッドの上にどっかりと腰を下ろして、和輝はそう言った。

 

「オーケイ。じゃ、始めようか」

 

 ロキはくるくると右手人差し指で虚空に渦を作りながら、語り始めた。

 

「まず、注意するべきは、徒党を組んでいる神、かな」

「ああ、ありえるな。一定数以下になるまで、非戦の協定を結んで、やばい相手には複数で当たるってことだろ? 俺も龍次(りゅうじ)烈震(れっしん)と休戦してる」

 

 左掌を右手で打つ和輝に対して、ロキは笑みを浮かべたまま――いつもの人を食ったようなにやにや笑いだ――で首を横に振った。

 

「それもある。けどもっと厄介なのはさ、本戦開始前に、裏取引をしている連中さ」

「裏取引?」

 

 怪訝そうな表情を作る和輝に、ロキは「そう」と頷いた。

 

「同じ神話出身の神の中にはね、自分たちの主神を神々の王にして、自分たちをその臣下に加えてもらおうっていう考えの連中もいるのさ。彼らは徒党を組み、一大勢力を築き上げた。正直、ことを構えるには、何らかの策が必須になるね。

 そう言った勢力は、大きく分けて二つ。ギリシャのオリュンポス十二神と、エジプトのヘリオポリス九柱神。またはエネアドと呼ばれる勢力だ。もっとも、こっちに関しては、ほかにもいろいろと、エジプトの神がプラスアルファでいるようだけど」

「オリュンポス十二神ってーと、この前知り合った咲夜(さくや)さんの――――」

「そう、アテナが所属する勢力だ。ま、子供にされるなんてトラブルが起きたことと、彼女自身、後ろから撃たれたこと、アレスが(クロノス)と内通していたことなどが重なって、合流できていないみたいだったけれどね」

「改めて話を聞くと、徒党組んでるってのは厄介だな」

 

 うんざりした口調で、和輝は天井を仰ぎ見た。徒党を組む神。少なくとも、アレスやエリスを見ていると、オリュンポス十二神については信用できない。もちろんアテナや咲夜は別だが。

 ロキの説明は続く。

 

「ヘリオポリス九柱神は太陽神ラーを中心にしていることまでは分かっているけれど、情報が少ない。元々ボク自身、あっち方面の神とは交流が少なくてね。ただ、注意するのはやっぱりラー、そしてセトはかなりやばいらしい。……もともとこの二柱は折り合いが悪いらしいんだけど、どうやって渡りをつけたんだか」

 

 嘆息するロキ。和輝はそれ以上にため息を吐きたい気分だ。

 

「もう一つの、オリュンポス十二神については?」

「そっちはメンバーまではっきりとわかっているよ。まずトップのゼウス。そのゼウスの兄弟で、彼と同等の力を持つポセイドン。ゼウスの妻のヘラ。君も知っているアテナ、アレス。それからデメテル、ヘファイストス、アプロディーテ、アポロン、アルテミス、ヘルメス、ヘスティア。それと、十二神に入ってはいないけど、ゼウスの弟で、やっぱり彼やポセイドンと同等の力を持っている、ハデスがいる」

「そしてクロノス。と」

 

 和輝が補足を入れる。ロキは満足げに頷いた。

 

「徒党にばかり目を向けるのもよくない。単体でもやばい神はいる。そのうち一柱には、君にも因縁がある」

「アンラマンユ……」

 

 その名を告げる和輝の表情が強張る。その名は、和輝にとってひどく因縁深い名前だ。ある意味、今の彼の立ち位置を作った神ともいえる。

 七年前の東京大火災。その元凶。そこで和輝は本当の両親を失い、ロキに心臓の半分を与えられて生きながらえ、今に至る。

 

「アンラマンユは今封印されている。けれどその影響がなくなったわけじゃない。干渉だってできるだろう。そして奴は虎視眈々と、復活を狙っている。その布石をもう打っているかもしれない。決して油断してはいけない、一番危険な神だ」

 

 ロキの言葉に和輝は頷く。この世全ての悪、絶対悪の神。

 

「そして、アンラマンユとはベクトルは違うけれど、同じく危険な神。それがナイアルラトホテプ、冷笑と悪意と混沌の神だ。こいつの盤面には決して上がってはいけない。いたるところに破滅が口を開けて待っている。いいか和輝。こいつと相対する時、絶対に()()()()()()。ゲーム開始時にニヤついているこいつの()()()()()()()()()。戦いはそこからだ」

「ナイアルラトホテプ、もう多くの化身を使ってこっちにちょっかいを出してくるやつだな。邪神ロキ(おまえ)をしてそう言わしめるか」

 

 うんざりとした表情で、和輝は少しだけ過去を回想する。自分と、その邪神の接点を。

 アレス、エリスの時、そして先日のフローラ、トラソルテオトルの時と、和輝たちの邪魔をしてきた、這い寄る混沌の化身たち。

 

「目をつけられたと思うか?」

「言っちゃあなんだけど、ボク、トール、そして伊邪那岐(いざなぎ)。良くも悪くも目立つんだよ。神々同士の思惑じゃなくて、契約者同士の繋がりで同盟結んでいることも含めて」

 

 肩をすくめるロキ。だが和輝は険しい表情のまま、言った。

 

「だったら望むところだ。そのやばい奴が何を考えているのか知らないが、今度こそ尻尾を掴んで、ぶっ潰す」

「そこで厄介な奴に目をつけられたと思わないところが、君の面白いところだよね。とにかくまともに相対することだけは避けなければならないと、覚えておいて」

 

 決意溢れる和輝に対して、ロキは苦笑。「じゃ、話の続きだ」と先を告げる。

 

「さて、ここまでやばい奴らを上げた。こいつらは強さもそうだけど、手管を使ってこちらを追い詰めてきかねない。注意が必要だ。

 ここからは単純に強い連中だ。彼らはおそらく策を使わない。その必要がない」

「つまり、確実にこの戦い上位に残るような連中ってことか」

「その通り。まぁ、この辺の神はメジャーどころも多いけどね。前の説明にも上げたゼウスや、ボクら北欧神話のオーディン、風間(かざま)君の伊邪那岐などの各神話の主神クラス。これはもう一柱一柱が最強だ。各々の神話の頂点だからね。まぁ、伊邪那岐は何故か、自分の力を制限しているみたいだけど。

 それと、これもさっき名前を上げたけど、ラーのような太陽神も強力だ。それに、シヴァ、ヴィシュヌのインド神話の三大神の二柱。残るブラフマーはアンラマンユ封印戦で戦死してしまったが、この二柱は健在だ。

 彼らはもう、他の神と比べても圧倒的なバ火力を持っている。ダイレクトアタックどころか、普通のモンスターへの攻撃の余波で宝珠が砕かれかねないから、注意してくれ」

「なんだその火力。ほかの神と比べても圧倒的すぎるだろ」

「インドだもん。スケールが違う。気になるなら神話を紐解いてごらん。神どころか、その血を受け継いだ人間もやばいぞ。

 っと、話がずれた。今までの神とはちょっと方向性が違うけど、人間の信仰、主に一神教によって貶められ、邪神、悪神のレッテルを貼られた神も厳重注意だ。彼らの多くは人間への憎悪でいっぱいだ。勿論、周囲の人間について一切顧みないことは、君もパズズ戦で学んだはずだ」

 

 一神教の侵略によって、その姿を歪めさせられ、悪魔、邪神に貶められた神々。確かに、彼らの人間への憎悪は深い。それだけに、大量殺戮を進んでやりそうな危うさがあった。

 

「ああ、そうだな……。まとめると、こんな感じか」

 

 和輝は机の上の紙とボールペンを引き寄せ、すらすらと書きこんでいく。

 

 

 神々の戦争、要注意神、種類。

 ●徒党を組む神の勢力(オリュンポス十二神、ヘリオポリス九柱神など)

 ●アンラマンユ、ナイアルラトホテプなど、悪神、邪神、悪意を持った最悪の化身。

 ●各神話の主神、太陽神

 ●インドの二大神

 ●一神教によって貶められた神々

 

 

「ざっとこんなところか」

「うん。おっと、悪い和輝。一つ、とても重要なことを言い忘れていた」

 

 パンと手を叩き、ロキは右の人差し指を立てる。

 

「何をだ?」

「今まで要注意な神について報告したけど、危険なのは神だけじゃないってことさ」

 

 その一言で、和輝にはロキに言わんとすることがすぐにわかった。これは、和輝自身も戦いの中で体感していることだ。

 

「契約した人間が、神々の戦争の特権を積極的に利用して、無関係な人達を傷つける。そういうやつもいるってことだろ?」

「力を持ったら使いたくなるのが人間で、力を求めたくなるのも人間だ。もっと力を、もっと力を。そうして人間は核を手に入れた」

「力に魅せられた人間、か……」

「そして、一番恐ろしいのはね、和輝。そんな、人知を超えた人間が、世界を滅ぼしてもなお余りある憎悪を抱えていた場合なんだよ」

「人間の、憎悪……」

「狂気、憎悪、行き場のない負の感情に具体的な力が宿った時、どうなるかは誰にも予測できない」

 

 ロキの言葉に和輝は背筋が寒くなる思いだった。

 一人と一柱はしばらく黙ったままだった。何も言えない。何も動けない。その沈黙は、和輝があらかじめセットしておいたスマホのアラームがなるまで続いた。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

「~♪、~~♪」

 

 洗い物をしながら綺羅は上機嫌に鼻歌を歌っていた。

 特になにかいいことがあったわけではない。これは彼女の癖みたいなもので、洗い物をしている時、自然と出てしまうのだ。ひょっとしたら、父と一緒にイギリスに行った母の影響かもしれない。母もまた、洗い物の時によく鼻歌を口ずさんでいた。

 幼いころから母の手伝いをしていた綺羅も、自然とそれが移ってしまったのだろう。もっとも、クラスメイトに聞かれた時は顔から火が出るような恥ずかしさを味わったが。そしてそれを聞いた友人が「キーちゃんかわいい癖持ってるねー」と言ってきて、穴があったら入りたい気分になったが、それでもやめることはできそうになかった。苦労する。

 

「と」

 

 余計なことを考えたせいか、洗い物が終わっていることに気づかなかった。綺羅は水道の蛇口を占め、続いて布巾(ふきん)を取り出す。

 そこでふと、綺羅の耳をテレビのニュースキャスターの声が叩いた。 

 キャスターはオーストリア、ウィーンで起こった爆破テロ事件について、落ち着いた声音で語っていた。

 

『オーストリアの都市、ウィーンで起こったテロ事件についての続報です。生き残った目撃者によりますと、爆発の際、巨大なドラゴンの影が視えたと証言している人が数多くいるようです。現地警察は、集団幻覚を起こす薬品を混ぜた爆破テロの可能性があるとして調べております』

 

 ニュースキャスターの淡々とした報告に反して、その内容は凄惨極まりなかった。テレビの向こう側では街頭の監視カメラが偶然納めていた爆発の瞬間の映像を流していた。

 遠方からの映像だ。だがそれでも、現実にあったその光景は生々しく、綺羅の胸を締め付けた。

 爆音。そして一気に巨大な花のような炎が噴き出し、次の瞬間には悲鳴が上がった。その地獄のような光景に、綺羅は思わずチャンネルを変えていた。

 思うのは義兄(あに)のこと。

 彼もまた、七年前に地獄から生還した。それから孤児院で暮らし、岡崎家(うち)の人間になった。彼は七年前のことについて何も話さない。わざわざ思いださせることもないと、こちらも聞かなかった。

 けれどこういう事件のニュースを聞いた時、和輝は必ず顔を強張らせ、憤怒を孕んだ険しい表情をする。

 その様は怖い。同時に哀しくもある。なぜなら綺羅は、和輝が時折東京大火災の悪夢を見てうなされることを知っているからだ。

 子供の様にうなされ、起きた時前後不覚になる姿を見た時は胸が痛かった。最近では落ち着いているが、義兄の胸から地獄の光景は消えることはないだろう。

 やはり自分では、本当の意味で和輝(あのひと)の理解者にはなれないのではないか――――。

 

「と、いけない」

 

 思考の迷路に陥りかけた綺羅は自制する。頭を軽く振って思考を切り替える。テレビのチャンネルを変え、食後の軽いお茶うけと緑茶を用意。

 階段から足音が下りてくる。時間になったので和輝が下りてくるのだ。

 

「おーい綺羅、そろそろだったよな?」

「はい。デュエルモンスターズの全日本大会の決勝戦。七大大会の一画ですからね。見逃す手はありません」

 

 にこりといつもの控えめな笑みを浮かべる綺羅。先ほどまでの煩悶(はんもん)は微塵も感じさせない。我ながらよくできている。そう思いながら、綺羅は和輝が席につくのを待ってから、自分も席についた。

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