神は言った。お前の願いはなんだ、と
愚問だった。前から決まっていた。とても単純な願いだった。
強い奴と、戦いたい。
◆◆◆◆◆◆
七月二十日。その日の学校は終業式。午前中で終了し、生徒たちは夏休みの計画を立てつつ、友人たちと帰路につく。
「おーい
「あーすまん! 今日これから予定あるんだ! 悪い、また今度誘ってくれ!」
友人からの誘いを断り、
「あ、兄さん!」
目的地は東京、デュエルパレス。東京ドーム並みに巨大な、デュエリストによるデュエリストのための、デュエルの舞台。たいていの大きな大会は常にここで行われ、当然、全日大会もここで行われた。
ここで今日、先日のデュエルモンスターズ七大大会の一つ、全日本大会を勝ち抜いた
和輝たちは思わぬ幸運からこの観戦チケットを手に入れた。となれば、何を置いても見に行きたいのはデュエリストとして当然。二人は昼食を済ませて移動を開始した。
エキシビジョンマッチ会場であるデュエルパレスは、観戦者の群でごった返していた。
「凄い人だかりですね……」
「当然といえば当然だけどな。てゆーかまだ二時前だってのに……。やっぱもっと早くに行くべきだったか」
その後、会場スタッフたちの案内と尽力によって特に大きな混乱は起こらず、和輝たちも特にトラブルなく会場入りで来た。
だが、問題はそこから先にあった。
「和輝」
それは、和輝たちが入場し、指定の席を探し当てた後のことだった。
トイレに立った和輝は、用を済ませた後、廊下に出た時にふいに耳に届いた声に振り返った。
予想通り、実体化したロキがそこにいた。
金髪碧眼。異性どころか同性さえも振り返る美丈夫は、笑みを浮かべているいつもの表情を一変させた、真剣そのものな顔つきであっていた。
「どうしたロキ? いつになく真剣な顔をして」
「和輝、よく聞いてくれ。この会場に、神の気配がある」
「!」
和輝の表情が一変する。先程までの、ウキウキとした、これからの楽しみを想像してちょっとにやける、緩んだ表情から、神々の戦争に身を投じている間の、険しいものへと。
「場所は!?」
和輝の声もまた、険しい。今日、この場所は人が多い。もしも神の契約者が悪意ある人間で、この場の無関係な人々に危害を加えるようであれば、なんとしても止めなければならない。
「そう、だね。場所の特定も可能だ。けれどこの神は、ボクも知っている神だ。そして言える。強いよ、いままで戦ってきた神とは、桁違いに」
ロキの表情に笑みはなく、和輝もそれが本気の言葉だと直感的に理解できた。
心臓が高鳴る。ロキからもらった心臓が。その通りだと、そう叫んでいるようだった。
「だけど、そいつや、その契約者が無関係な人に危害を加えるのを、強いからって黙って見ているわけにはいかねぇぜ」
「そうだね。まぁ彼がボクが知っているまま変わっていないならば、無関係な人間に危害を加えるようなことはやらないし、させないと思うけどね」
「まだるっこしいな」
いまいち言葉を濁すロキの態度に苛立ちを感じる和輝。表情も険しく、ロキを問い詰める。
「お前の知っている神であることは分かった。そいつが今までとは桁違いに強い神だってことも本当だろうさ。けど、俺に“退く”って選択肢はない。教えてくれ、ロキ。その神は一体誰なんだ?」
「……どうやら、何を行っても止まりそうにないね。――――その神は、オーディン、だよ」
ロキは静かに神の名を告げた。
「オーディン、そいつは――――」
「ボクの義兄弟。そして、北欧神話の主神。この前話したよね? 神々の戦争参加者で、単体でも桁違いに強い神、その一柱だ」
確かにそれは今までとは次元が違う。
以前ロキは言っていた。各神話の主神クラス、太陽神クラスは別次元だと。単一で徒党を組んだ神々に匹敵する、と。
だが、それでも。
「だとしても俺に退く理由はない。確かに、お前の言う通り、オーディンは契約者がもしも外道でも、非道を許しはしないだろう。けど、相手が強いことが分かっているからって、退くようじゃ、意味がない。
俺はな、ロキ。プロデュエリストを目指している。そしてプロってのは、眼前の戦いから逃げちゃダメだと、そう思う」
まっすぐな眼差しで、和輝はそう言った。ロキはちょっと驚いたように和輝の顔をまじまじと見つめ、次いで笑みを浮かべた。
「そう、じゃあ仕方がない。行こう。オーディンの気配は掴んでいる。すぐに――――」
すぐに行こう。邪魔な警備員とかはボクがどけよう。ロキはそう言おうとした。
だがこの時、和輝とロキは気づいていなかった。自分たちが神の気配に気づいたように、相手もまた、自分たちに気づいたのだということを。
常に先手をとっていた彼らは失念していた。
「よし、じゃあ行こうぜ、ロキ――――」
和輝は誓って、ロキから目を離していなかった。なのに、
「……は?」
何が起こったのか、咄嗟に理解できなかった。
「なに、が―――――」
何が起こった。何らかの神の力であることは間違いない。分断された。ではどこに? 次々と思考が流れるが、それらはすべてぶつ切りで次へと繋がっていかない。
端的に言って、混乱状態にあった和輝の耳朶を、カツン! という音が叩いた。
決して大きな音ではなかった。寧ろ普通の、ただの足音だ。だが決して無視できない存在感を、その音は持っていた。
反射的に音の方に振り返った。和輝の目に飛び込んできた男の姿を見て、彼は硬直、そして驚愕に目を見開いた。
清潔に切りそろえられた銀髪に褐色の肌、金色の瞳。がっしりした体つきと眉目秀麗な容姿。纏っているのはジャケットの前を開けた黒の三つ揃いスーツ。ジャケットと同じ黒いベスト、白いワイシャツに青のネクタイ。
和輝は知っている。『彼』はこのような公式戦。それも優勝決定者とのエキシビジョンマッチには、必ずこのような正装で来る。まさに礼を払う装い、礼装として。それだけ『彼』は優勝者、即ち強者に敬意を払っているのだと、以前雑誌のインタビューで見たことがある。
彼との邂逅を、プロを目指すのならば、いや、デュエリストならば夢見るのは当然だ。誰だってそうだろう。和輝だって、例外ではない。
夢のような光景を前に、和輝は震えながら、その名を口にした。男の名を。
「デュエルキング……、六道天……」
◆◆◆◆◆◆
「なにが……、おきた……?」
ロキは現状が理解できていなかった。
さっきまで彼はトイレの前の廊下、誰もいなことを確かに確認したうえで、契約者の和輝と会話していたはずだ。
感じ取ったオーディンの気配。攻めるべきか、退くべきかの選択肢。戦うことを選んだ和輝を若干誇らしく思ったその時だった。
不意にロキの見ている景色が真横に流れていき、後は何が何だかわからないうちに、デュエルパレスの外まで引っ張りだされていた。
おそらく魔術的な力と体術の複合だろうと、ロキは思った。
魔術のみならばロキは感知できた。体術ならばもっと大ごとになっているだろう。複合ならばどうか? 音速超過のソニックブームを巻き起こしかねない速度で相手はロキをかっさらい、そのうえで物理的被害は魔術で防ぐ。これならロキが魔術を感知したころにはすでに拉致されているので意味がない。
いや、そもそもこんな大がかりなことを成すには魔術、体術、力と魔の両方に通じていなければならない。
そんな神が、果たしてどれだけいるか。
「てゆーかもう犯人は分かっているんだよ」
言って、ロキは振り返る。その“犯人”がいる方向へと。
「そうだろ? オーディン」
「ああ、その通りだ。久しいものだな、ロキ」
ロキの視線の先にいる人物は、悠然とたたずんでいた。
それだけですさまじい存在感だった。
人間の世界に紛れるためか、それとも別の理由があるのか。格子状の柄が入ったネイビーのスーツ姿に腰まで届く金髪、アメジストをはめ込んだような紫の瞳。ただし右目だけ。左目は黒革に金の金具で止められた眼帯によって隠されている。ロキは知っている。その眼帯の奥にあるはずの眼窩はない。この神は知識のために簡単に左目を捨てたのだ。
「さて、お前もまた、神々の戦争に生き残っていたようで、我は嬉しいぞ」
「それはどーも。あ、トールにもあったよ。てゆーか、ボクの契約者の友達だったんだ。今は同盟組んでる」
「それはすごい。トールとお前は神界にいた頃からの無二の親友だったからな。人界でも、そして神々の戦争中でもその友情が続いていることを、素直に嬉しく思う」
ロキとオーディンは、外見上は穏やかに会話を交わす。だが内面はそうでもない。特にロキは焦っていた。
(まさかオーディンの方から、こんな速攻をかけてくるとはね……。確かにオーディンは機を見るに機敏に行動できる奴だったし、そのためなら強引な手を打つことを躊躇わなかったけど)
まさかこんなに早く分断されるとは。
神々の戦争に参加している神は、契約者の人間を直接害することができない。
だがこれは神のみの話。契約者ならば他の契約者を害することができる。
和輝は身体能力に秀でた少年だと思うが、上には上が山ほどいる。しかも、契約者の特権であるカード効果の実体化を持ってすれば、奇襲でいかなる相手も殺すことができる。今この瞬間も、和輝が無事である保証もない。駆けつけたいが、オーディンを振り切れるかどうか。
「契約者が心配かな、ロキ?」
見透かされた。ロキはあえて肩をすくめ、気楽な調子で「当然だよ」と言った。
「だって和輝はボクの契約者だよ? 気になるに決まっている」
「心配するな。我の契約者はデュエル以外の方法で契約者を仕留めるような無粋な真似はしない。そんな
こうして我らと契約者たちを分断したのはな、我の個人的な
「ボクと? へぇ」
「ああ。お前の契約者の少年にも興味がある。いや、奇縁に、というべきか。七年前のあの日から続いている、な」
「ッ! 和輝のことを、知っているのかい? 千里眼?」
表情を緊の一字に固めるロキに対して、オーディンは苦笑する。
「それはヘイムダルの領分だ。我のものではない。だが予想はできるぞ、ロキ。お前は神として、力が弱い。その上さらに心臓を人間の子供を救うために与えた。必然、お前の力はさらに下がった。
だが、お前は神々の戦争の勝ち抜いている。お前が戦いになっている時点で、お前の契約者は七年前にお前が心臓を与えた子供だと予想できる。つまるところ、彼以外の契約者では、お前はまともに戦えない」
「だから、契約者が七年前、ボクが救った子供だと?」
「違わないだろう?」
オーディンは断定口調だ。それ自体は正解なので何も反論はない。ロキは「その通りだよ」と呆れ交じりのため息とともに言葉を吐きだした。
「だけどオーディン、そんなことが言いたくて、こんな強引な手段に訴えたのかい?」
「そんなわけがない。契約者の話はついでだ。興味があるのは事実だが本筋からは外れている。それに、お前が彼について、
謎めいたオーディンの台詞に、ロキは沈黙し、ようやっと言葉を絞り出した。
「そういえば、君は、あの時のボクの行動を見ていたんだったね。君は言っていたね、馬鹿なことはやめろと」
「そうだ。神の心臓を半分移植しても、あの子供が生き延びられる可能性は半々。いやそもそも、わざわざ自分の力を削ってまでそんなのことしたのかと、そう思ったものだ」
「だとすれば、胸を張って答えるよ。それしか和輝を救う方法はなかった。だからやった。それだけさ。だってボクは、人間が大好きだからね! 死にかけている人間を救いたいと思うさ」
一眼を眇めるオーディンに対して、ロキは胸を張り、いっそ快活なほどにそう答えた。ニコニコと笑みを浮かべているが、その姿は己の行為に対する誇りが感じられた。
「人間好きは相変わらずか。そんなお前が神々の戦争に勝利した時、一体どんな王になるのだろうな」
それが本題か。ロキは内心でそう呟き、笑顔のまま告げた。己の王のあり方を。
「勿論、人間に自由を与える王だよ」
笑みを浮かべたままのロキに対して、オーディンの表情は渋い。
「やはり、お前はそう口にするか。昔から変わらず。愚かしいぞ、ロキ」
ロキの願いを、オーディンは切って捨てた。
「分かっているのか? 人界は現在、神の干渉を受けている。無論直接的に降臨はしない。だが人類の歴史の節目節目で陰から干渉し、コントロールしてきた。人類が自滅しないように」
「知っている。人間はふとしたことから自滅の道を歩んでしまう脆い生き物だ。だから神はかつては大っぴらに、今は陰ながら干渉し、人間の行く末をコントロールしてきた。だがそこに自由はない。人間の霊は、常に神に縛られている」
「それこそ秩序というものだ。何もかもから解き放たれた混沌は、ただの暴虐でしかない。弱肉強食の世界は、知性なき獣だからこそルールとして成り立つのだ。お前は、そんな人の世を望むのか?」
「否、だ、オーディン」
問い詰めるオーディン。きっぱりと否定するロキ。
「ボクは人間を愛している。人間は醜い。浅ましい。愚かしい。美しい。懐深い。賢明だ。分かるかいオーディン? この矛盾を孕んだ魂が。複雑なパズルの様な精神性が。とても面白い。見ていて飽きない。関わって楽しい。そして、時に後戻りをしても、歩みは遅々としていても、一歩一歩、確実に前に進んでいる。
――――ボクは、そんな人間が心底から大好きだ。そんな彼らが。いつまでも魂を神に縛られるなんて我慢ならない。人間の、神をも凌駕しかねない可能性を殺している」
「その可能性は、自分自身すら殺す。お前の言う進歩の先に自滅が口を開けていたことを忘れたか? ほんの七十年ほど前のことだぞ」
「核兵器の開発とその使用か。確かに、あれは神が介入しなければ、人類は核戦争で滅んでいたかもね」
「それでもお前は、人間の霊の解放を願うのか? 人間は、我々神が舗装した道を歩むべきだ」
オーディンの主張。だがロキは首を横に振った。
「違うね。例えそこが何もない、荒れ果てた大地だとしても、人間は、自分の足で歩くべきだ」
二柱の主張は――――
「人間は神の導きがなければ生きられない。神の庇護を離れて歩く先は自滅だ」
「それが人間の意思で、人間の足で歩んだ結果ならば、その滅びも含めて、愛おしい」
どこまでも決して交わらない平行線だった。
沈黙の後、嘆息するオーディン。「致し方ない」
同じく肩をすくめるロキ。「平行線だね」
ならばもう、後は決まっている。
戦いで、雌雄を決するのだ。
◆◆◆◆◆◆
六道天の名が世界に知れ渡ったのは、十年前のデュエルモンスターズの世界大会だった。
当時、六道は十八歳。プロ一年目のEランカーだった。
七大大会のうち、世界大会だけは全てのプロに参加資格があり、予選さえ通過すればEランクのような下位のプロでも本戦のトーナメントに出場できた。
もっとも、普通、プロ一年目の新米が参加するには多くの壁を乗り越えなければならず、現在まで、Eランカーが本戦トーナメントまで出場できた例は六道の一例のみだ。
その一点だけをとっても、六道はいわゆる注目株だった。
それがデュエルモンスターズの歴史に刻まれることになったのは、その世界大会二回戦のことだった。
六道は第一シードの、当時のデュエルキングと対戦した。
そして彼は勝利した。その後、優勝。新たなデュエルキングとなり、以来十年間。公式戦で負けなしの前人未到の記録を築き上げている。
全てのデュエリストの頂点であり、目標であり、憧れである。
そんな生ける伝説が、和輝の目の前にいた。
「――――――」
和輝は言葉もない。なぜここに? という疑問が湧き、いつもの和輝ならすぐに答えが出るはずが、混乱で状況判断ができず、呆然自失とするばかりだ。
「そう緊張しなくていい。ロキの契約者」
冷静で静かで重い、鉄のような声で、六道はそう言った。それは和輝の更なる混乱を招くのに十分な台詞だった。
「ッ!?」
なぜ知っている? そういう疑問は、ようやく少しは混乱から立ち直った頭が自答した。決まっている。目の前の男も、神々の戦争の参加者なのだ。しかも、直前のロキとの会話から考えて、契約した神は――――
「オーディンの……契約者……。デュエルキングが……?」
「その通りだ」
絞り出すような和輝の言葉。六道はしっかりと、見間違えようがないほどはっきりと頷いた。
「少し待っていてくれ。今、オーディンがロキと話をしている。戦うのは、それからだ」
戦う。デュエルキングが? アマチュアの俺と? 夢のような内容だ。だが現実だ。
そうだ、神々の戦争なのだ。公式戦じゃあない。そして神々の戦争の参加者という立場は対等だ。
「ここは狭い。場所を変えよう」
すでに戦うことを前提に話が進んでいるが、和輝に否はない。一目見た瞬間から、六道が邪悪な存在ではないと思ったが、そもそもそれ以前に、デュエリストで、特にプロを目指す以上、非公式とはいえデュエルキングと戦える機会を逃す者はいない。
「ああ、そうだ」
と、ふと何かに気づいたように、六道は足を止めることなく、背中越しに和輝に向かって言った。
「少年、一つ聞きたいことがあった。まぁ、私ではなく、オーディンが、だが。彼は今、ロキと旧交を温め合っているだろうから、聞いておいてくれと、言われていたんだった」
何だろうか? 疑問符を浮かべる和輝に対して、六道は告げた。
「君は何のために神々の戦争に参加している?」
「――――――――――――」
それは、和輝の真芯をつく質問だった。
和輝は、神々の戦争に掛ける願いはない。参加したのだって、成り行きだ。
「何か、叶えたい願いがあるのか?」
そんなものはない。今だって思い浮かばない。
「俺は、別に何か願いを持って戦っているわけじゃない、です」
「そう、か。まぁそうなのだろうな。私と同じだ」
え? と和輝は少し間の抜けた声を六道の背中に向かって放った。
「ただ、神々の戦争と言う、常人が決して経験できない戦いがあった。
つまるところ、純粋な戦いを求めて、神々の戦争に参加したということだ。
ある意味、もっとも純粋で、だからこそ際限のない願いだといえる。
和輝は、一度息を吐いて気分を切り替える。六道の声音は淡々としたクールなものなのに、その言葉の奥に、マグマの様に煮えたぎった熱い感情を垣間見た気がしたからだ。
「最初に戦いに参加したのはなりゆきと、怒りからです」
「怒り?」
「神々の戦争で、人の命を何とも思わない神に対する怒り、そんな奴らを、許してはおけないっていう、俺の中の怒りです。この非道を許すなと、この心臓が言っているからです」
それが和輝の原初の気持ちだ。この気持ちは今も変わっていないし、参加したことに後悔もない。
そしてもう一つ。
「そして俺はロキに借りがあります。七年前から、今に続いている、借りが」
それは、命を救われたこと。死にかけた体を動かしてくれたこと。
「あいつは大したことじゃないっていうけれど、俺にとっては、でかくて、ちょっとやそっとじゃ返せない借りなんです。その借りを返すには、あいつがなりたがっている、神々の王にしてやる以外にないと、そう思っています」
前を行く六道の足が止まった。デュエルパレスの外に出たのだと、和輝は遅れて気づいた。
「……なるほど。ならなおさら、負けられないわけだな」
二、三歩進む六道。そして、くるりと踵を返し、和輝と向き直った。
「例え対峙するのが、デュエルキングでも」
対峙する六道。その背後に実体化するオーディン。
「お待たせ」
ロキもまた、いつの間にか和輝の背後に出現していた。
そう、戦いが始まるのだ。
「バトルフィールド、展開」
オーディンの一言の直後、世界が一変。二人と二柱は現実と位相のずれた世界。即ちバトルフィールドへと移行した。
和輝と六道はほぼ同時にデュエルディスクを起動させる。
「エキシビジョンマッチまでまだ時間がある。心行くまで楽しもう」
「俺は、負けません」
一拍の間。そして、
『
戦いの幕が上がった。