神々の戦争   作:tuki21

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第41話:新たな力、アナザー・ネオスペーシアン

 率直に言って、咲夜(さくや)とのデートは楽しかった。

 小物類や服などの、咲夜自身とアテナのショッピングにしばし付き合った後、二人と二柱は当初のロキの提案通り、ロンドンの名所を回ることにした。

 ロキの瞬間移動によって移動時間を節約し、とにかく回れるだけ廻ろうという話だ。

 まず向かったのはロンドン最大の見どころ、ビックベン。積み重ねた歴史とその偉容、それでいながらも市民の生活に溶け込んだ奇妙な調和に圧倒され、バッキンガム宮殿の美麗さ、そして勇壮さに見惚れた。

 タワーブリッジを渡ってロンドン塔へ。そこに今なお沈殿している暗く、寒々しい、そして物悲しい思念の数々に、胸をつかれる思いになった。

 そう、二人と二柱の観光は、とても楽しかった。ただ問題もあった。

 

「あっ、こら二人とも、やめなさいってば!」

 

 これで何度目だろうか、と和輝(かずき)は思った。

 場所はロンドン塔。そこで咲夜は些細な(いさか)いから口論に発展した男女の仲裁に入っていた。

 

「あーもう! いい加減にしなさいって! ここは世界遺産、ロンドン塔よ! 喧嘩してほかのみんなの迷惑になるじゃない!」

 

 なお口論の矛を収めようとしない男女の間に割って入り、両手を一生懸命広げて二人の距離を離そうとする咲夜。

 何もこれが初めてではない。ビッグベンでも、バッキンガム宮殿でも、ここに来る前にわたったタワーブリッジでも、彼女は喧嘩や迷子の相手、道案内、ひったくりなど、何か問題が起こるたびに首を突っ込んで、仲裁やことを収め、或は火に油を注ぐかのように余計に騒ぎを大きくした。

 

「咲夜さんって、いつもこうなのか?」

「私も最近知った。何しろ、あったばかりのころは、あんな風に他人を気に掛ける余裕などなかったからな」

 

 売店で買ったアイスを舐めながら、アテナの、どこか諦観の混じった返答を聞き、和輝はなるほどと答えた。というか、ほかに言いようがなかった。

 

「世話好きってことかな。元々姉御肌というか、放っておけないんだろうね。困っている人とか、揉めてる人とか」

 

 ロキもまた、いつものニマニマ笑いを浮かべてそう言った。

 

「もともと正義感が強い、というのもあるだろう。何しろ、私と波長の合う、契約者だからな」

 

 どこか誇らしげに、正義の女神(アテナ)は言う。

 と、その眼前で、トラブルが終わったらしい。男女は咲夜に頭を下げて、腕を組んで仲睦まじく去っていった。

 

「お疲れさま、咲夜さん」

 

 帰ってきた咲夜に、ねぎらいの言葉をかける和輝。

 

「あはは。ごめんね、和輝君。時間とらせちゃって」

 

 苦笑する咲夜。だがそこには何かをやり遂げたという満足げな色がある。

 二人は観光客用に設置されたベンチに座った。

 

「それにしても、昨夜さん、ずいぶんといろんなことに首を突っ込んだね」

 

 これは和輝の素朴な疑問だった。

 再会した時のようなひったくり、或は取っ組み合いになりそうなもめ事を止めに入るというなら、分かる。実際和輝もひったくり犯を捕まえようと動いていた。

 だが咲夜の場合、それが少々度が過ぎている。何しろ、ただのちょっとした口論でも、立ち止まり、じっと観察し、互いに引っ込みがつかなくなって口調も声量も激しくなったら、止めに入るのだ。

 

「うーん。子供のころからの性分なんだよね。今更変えられないっていうか」

「疲れない? そういうの」

「そう感じたことはないかな」

 

 さわやかな顔で笑う咲夜。和輝はなおも問いかけた。

 

「失礼じゃなければ、聞きたいんだけどさ。なんであんな風に、いろんな人たちを助けようとするんだい?」

 

 それは、純粋な興味だった。それに、答えを聞きたいとは思ったけれど、本人が聞かれることを望まないなら、この話はここでおしまい。また二人でロンドンを回ろう。そう笑って切りだすつもりだった。

 だが予想に反して、咲夜は黙り込んでしまった。

 沈黙が二人の間を、一陣の風と一緒に通り過ぎた。これは失敗したかなと、和輝が笑ってごまかそうとしたその時、ぽつぽつと咲夜が語りだした。

 

「あたしね、お父さんがいたの。子供の頃。すっごいちっちゃい頃だったんだけどね」

 

 いた、という過去形の語りで、すでに和輝はある程度事情を察していた。

 黙って先を促す和輝。咲夜はどこか寂しげな微笑を浮かべた。

 

「で、そんな子供のころ、お父さんに見せてもらったビデオがあるんだ。昔の特撮番組で、父さんと並んでみたの。それが絵に描いたようなヒーローでね。弱気を助け、強きをくじく。正義を胸に秘め、悪は許さない。そんな感じ」

「典型的なヒーローだね」

「そ。それに、父さんも警察官だったから。だからかな、子供のころから、ごくごく自然に、()()なりたいって思ってたのよ。弱者の視線を背中に受けながら立ち上がり、なお立ち向かう、呆れるほどの不屈の闘志を持ったヒーローに。

 結局、女のあたしじゃ、どうしても超えられない壁があるって思い知って、警察官の道は諦めちゃったんだけど。ヒーローと同じくらい大好きだったデュエルの道に進んで、いろんな人たちに、勇気とか、希望みたいなものを与えられるといいなって思ったの。それで、プロを目指して、現在に至ります。ってね」

 

 そう語る咲夜の表情は誇らしげで、迷いなど一遍もないと言っていた。

 

「まーそれでも、ちょっとおせっかいかなって思うことはあるんだ。面と向かってそう言われたこともある。けど変わらないし、変われない。これがあたし、国守(くにもり)咲夜なのよ」

 

 咲夜の美しい笑みをまぶしげに眺め、和輝は問いかけた。

 

「……アテナを助けたのも、そのため?」

「もっちろん。結局、あたし一人じゃどうにもならなかったけどね」

 

 苦笑する咲夜。そんなことはないと、和輝は告げた。

 

「あの時俺が間にあったのは、咲夜さんが一人で、潰れず、ずっと闘い続けていたからだよ。その頑張りは絶対に無駄じゃない」

「…………ありがと」

 

 それに、と和輝は続けた。悪魔で咲夜と視線を合わさないのは、照れているからか。

 

「俺もいるんだよ。憧れてる人。その人の背中を見ていたことがあって、その人が成していることを知って、以来、まぁいろんなことが放っとけないって思うことはある。色々と、弱ってる人は」

 

 咲夜さんほど面倒見は良くないし、手を伸ばす勇気もないけどね、と苦笑する和輝。半面、咲夜は和輝の『憧れの人』に興味を抱いた。

 

「へぇ、和輝君にもそういう人っているんだ。誰誰?」

「多分、咲夜さんも知ってる。Aランクのプロデュエリストだし。昔から、いろんな孤児院に出資してるって有名だし」

「あ」

 

 心当たりがあるのか。咲夜は目を丸くし、口を開けた。

 

「レイシス・ラーズウォード。何もかもなくした俺が、とりあえず引き取られた先が、その人が出資してる孤児院だったわけ。昔、一度だけ、挨拶にきてくれたんだよ。その後その人のデュエル見て。あー、思えばあれからかな、漠然とだけど、プロデュエリスト目指そうかって思ったの」

「孤児院に? ひょっとして、聞いちゃいけないこと?」

 

 思わぬ方向に進んだ話の流れに、咲夜は思わず表情を曇らせた。立ち入るべきではない、深く込み入った部分に入ってしまったと、そう思ったのだろう。

 和輝は苦笑。確かに立ち入った部分だが、なに、別段隠すことでもない。それに自分も咲夜の過去を――一端とはいえ――語らせたのだ、自分も語るのは道理が通っている。

 

「ああ、気にしないでよ。咲夜さんの昔話も聞いちゃったし。おあいこ。七年前の東京大火災、あったろ? 俺はそこの生き残りなんだよ。で、救助された後に、レイシスプロが出資していた孤児院に預けられて、そこから岡崎(おかざき)家に引き取られたわけだ。で、今日はロンドンにいる育ての親たちに会いに来たんだ。義妹(いもうと)と一緒にね」

「あ、それで」

 

 自分たちの再会の理由、その一端を知って、咲夜も納得顔だ。

 

「ま、ほかにも理由はあるけど、それが大きいかな」

「ふーん」

 

 言って、咲夜はじっと和輝の顔を覗き込んだ。

 間近に来た彼女の顔に、和輝は心臓が高鳴るのを感じた。

 

「な、なに?」

「んー。今日一日一緒に歩き回って思たんだけど、和輝君、なんか無理してない?」

 

 ぎくりとした。というか、そんなに分かりやすいだろうか、俺は?

 

「あー」

 

 だがここで隠しても意味はあるまい。何しろ、咲夜は綺羅たちと違って事情を知っている。

 それにいい機会かもしれない。龍次(りゅうじ)烈震(れっしん)のようにほぼ毎日のように顔を合わせるわけでもない、適度な距離感にいる咲夜になら、逆に話しやすい。

 

「まぁ、確かに。何かありはしたんだよ。夏休み入った直後にね」

 

 それから和輝はぽつぽつと語りだした。

 デュエルキング、六道天(りくどうたかし)が神々の契約者だったこと。契約した神がオーディンだったこと。そして戦い、負けたこと。

 

「まったく、とんでもねー強さだったよ。あれが今後立ちはだかる壁だと思うと、どうしたらいいかわからなくなるくらいに」

「…………」

「けど、俺が一番恐れているのは、多分、キングに負けたことじゃない。今後、あれくらい強い敵が、無関係な人を傷つけることに何の躊躇もない外道だった時、なんだと思う」

 

 ぽつりぽつり、和輝は語る。己の心中を。自分でもこんなに言葉が出てくることが意外だった。

 

「そんな人に、負けると思うようになっちゃった?」

 

 無言で首肯する和輝。咲夜もまた無言。

 

「ねぇ、岡崎君」

 

 沈黙を破ったのは咲夜から。彼女は意を決したように一つ頷き、ベンチから立ち上がった。

 和輝の方を振り向き、手を伸ばし、

 

「デュエルしよっか?」

 

 そう切り出した。

 

「……なんか、何段階か会話飛んだな」

「まーいーじゃない。デュエルしましょ。気晴らしに」

「気晴らしって……。強引だな、咲夜さん」

「あったりまえじゃない。あたしはおせっかい焼きの咲夜さんよ」

 

 そう言って快活に笑う咲夜。強引に和輝を立たせようと、その手をとって引っ張り上げてくる。

 和輝は苦笑したが、逆らわなかった。そう言えば、ここのところどうすれば六道レベルの強敵に勝てるかばかり考えて、デュエルらしいデュエルをしていない。ふさぎ込んだ心に風を入れるには、こう言う気晴らしはいい。寧ろ、観光よりもよっぽど効果があるかもしれない。デュエリストなんだから。

 

「分かった。やろう。咲夜さん」

 

 それに興味もある。初対面の時は、結局乱入のせいで勝負はお流れになったのだ。咲夜の、プロデュエリストの実力、その身で体験するのだって悪くない。

 

 

「……それはそれとして、ボクら空気だね」

「……神々ですら立ち入れない空気というものを、人間は時々作りだすな」

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

「おばちゃん、スコーンと紅茶ください!」

 

 ロンドン塔の敷地内にある広場。観光客を相手にした売店の一つに、その少女はやってきた。

 可愛らしい少女だった。

 太陽のような笑顔、ウェーブのかかった赤い髪は煌めく聖火の様。黄金色の瞳を細めて作る笑顔は極上の絵画もかくやという代物。

 無邪気さを発散させるその少女に、売り場のおばちゃんはすっかり心を掴まれた。

 

「はいはい、ちょっと待ってね」

 

 思わず声も上ずってしまう。手早くスコーンを手乗りサイズの箱に詰め、紅茶を紙コップに注ぐ。イギリス人としてはこの紅茶の入れ方は邪道だと思うが、野外ではティーカップを、それも観光客が用意するのは難しいので、妥協案だ。

 本当なら箱に入れるスコーンの数は決められているが、サービスだ。通常よりも二個ほど多く入れておく。

 

「はいどうぞ。お嬢ちゃんはかわいいから、サービスよ」

「ありがとう!」

 

 満面の笑みを浮かべ、商品を受け取って少女は駆けていった。その先にいたのは、金髪碧眼の、目の覚めるような美丈夫。何という絵になる二人かと、そんなことを思った。

 

 

 見事おまけに多くのスコーンを手にして帰ってきたアテナを、ロキは呆れたようなまなざしで見据えた。

 

「……アテナ、君、結構子供の状態を利用するね。そのしたたかさは、さすがは戦の女神、っていうべき?」

「だ、黙るがいい! こ、この身体になってから不便なことばかりなのだ。これくらいの役得はあってもいいだろう!」

「まぁ、君がそれでいいならいいよ。ボクから言うことは何もない。それより始まるよ」

 

 ロキの視線をアテナが追う。二柱の神が見つめる先に対峙するのは、二人のデュエリスト。

 和輝と咲夜。デュエルディスクを起動させた二人を見て、観光客たちも何事かと足を止める。

 

「あー」

 

 慣れない視線だ、と和輝は思った。

 確かに学校のカリキュラムで、大勢の生徒の前デュエルをすることはある。

 だが観客は全て見知ったクラスメイト達。このように、まったく見ず知らずの誰かに見られながらの経験は、ない。

 

「? どうかしたの?」

 

 あっけらかんと問うてくる咲夜。彼女に緊張の色は全くない。これがプロとして踏んできた場数の違いということか。

 和輝は一つ息を吐いて、なんだなんだとこっちに注目してくる視線を頭から締め出す。

 

「何でもないよ。始めようか」

 

 二人は距離をとる。

 一拍の間。そして――――

 

決闘(デュエル)!』

 

 二人の声が、ロンドン塔広場にこだました。

 

 

和輝LP8000手札5枚

咲夜LP8000手札5枚

 

 

「あたしの先攻! マスマティシャンを召喚!」

 

 咲夜のフィールドに現れたのは、小さな丸眼鏡と学者帽をかぶった、白い髭が見事な老人。ステータスはそれほど高くはないが、おろかな埋葬を内蔵し、破壊されてもなおプレイヤーに恩恵をもたらす“できる奴”だ。

 

「マスマティシャン効果発動。デッキからクロス・ポーターを墓地に送るわ。そしてこの瞬間、クロス・ポーターの効果を発動。デッキからA・N(アナザー・ネオスペーシアン)・トルネード・イーグルをサーチするわね」

「A・N?」

 

 聞いたことのない単語に、和輝は訝しげな表情を作った。咲夜は苦笑する。

 

「あ、ごめんごめん。これね、近々発売する予定のカードなの。あたしはスポンサーから、テストプレイも任されてるのよ」

 

 プロデュエリストの中には、スポンサーからの依頼で、発売予定のカードをデッキに入れて回し、その使用具合からこれを市場に流してもいいかどうかを判断する、テストプレイヤーを行うものもいる。

 全てのカードが、とは言わないが、いくつかのカード、特にカテゴリーカードの新規カードは、このような経緯を経て日の目を浴びることもあるのだ。

 

「まぁ、テストプレイはだいたい終わっているから。後は発売を待つだけなんだけどね」

「一足先に、その効果を見せてくれるってわけか」

 

 にやりと、自然と和輝は笑みを浮かべていた。やってやろうじゃないかという気概が湧いてくる。

 

「永続魔法、補給部隊を発動して、カードを一枚セット。ターンエンドね」

 

 

マスマティシャン 地属性 ☆3 魔法使い族:効果

ATK1500 DEF500

(1):このカードが召喚に成功した時に発動できる。デッキからレベル4以下のモンスター1体を墓地へ送る。(2):このカードが戦闘で破壊され墓地へ送られた時に発動できる。自分はデッキから1枚ドローする。

 

クロス・ポーター 闇属性 ☆2 戦士族:効果

ATK400 DEF400

自分フィールド上のモンスター1体を選択して発動できる。選択した自分のモンスターを墓地へ送り、手札から「N」と名のついたモンスター1体を特殊召喚する。また、このカードが墓地へ送られた時、デッキから「N」と名のついたモンスター1体を手札に加える事ができる。

 

補給部隊:永続魔法

(1):1ターンに1度、自分フィールドのモンスターが戦闘・効果で破壊された場合にこの効果を発動する。自分はデッキから1枚ドローする。

 

 

「俺のターン、ドロー」

 

 咲夜が手札に加えた、A・Nという新カード。気になるが、使ってこなかったということは、あれが動きだすのは次のターンから。ならばここは、自分の手を進めるのみ。

 

「手札を一枚捨てて、THE() トリッキーを特殊召喚! さらに今捨てたミスト・レディの効果を発動。手札からモンスターの特殊召喚に成功したため、ミスト・レディ(このカード)を墓地から特殊召喚する!」

 

 顔面に「?」のマークが入ったマスクを被った奇術師と、その名の通り、霧のような半液体、半気体の身体を持った女が、和輝のフィールドに現れる。

 現れたモンスターを見て、咲夜が「あ」と声を漏らした。これらのモンスターは和輝と咲夜が初めて会って、衝突した時に、和輝が最初に並べたモンスターだった。

 

「あれからあまり時間は立ってないのに、なんか懐かしいね」

「確かに。けどここからは違うぜ。バトルだ! トリッキーでマスマティシャンを攻撃!」

 

 まずは数で攻める。和輝の命令を受けて、トリッキーが跳躍。空中で宙返りを決めつつナイフを投擲。ナイフは次々にマスマティシャンに突き刺さり、破壊した。

 

「この瞬間、補給部隊とマスマティシャンの効果で、二枚ドロー! さらにリバースカードオープン!」

 

 マスマティシャンは破壊されるまでがお仕事。さらに、追撃を仕掛けようと息巻いていた和輝に待ったをかけて、咲夜の足元の伏せカードが(ひるがえ)った。

 

「ヒーロー・シグナル! この効果で、デッキからE・HERO(エレメンタルヒーロー) ブレイズマンを特殊召喚! 守備表示! ブレイズマンの効果で、デッキから融合をサーチするわね」

 

 現れたブレイズマンの守備力は1800。攻撃力1300のミスト・レディでは突破できない。

 

「これじゃあ追撃は無理だな。バトルフェイズを終了。メインフェイズ2に入る。

 俺はレベル5のTHE トリッキーに、レベル3のミスト・レディをチューニング!」

 

 次なる手段はシンクロ召喚。和輝の右手が天に掲げられる。彼の頭上を、三つの緑の光の輪となったミスト・レディが駆け、その輪をくぐったトリッキーが五つの白い光星(こうせい)となる。

 そして、輪の中心、五つの光星を、光の道が貫いた。

 

「集いし八星(はっせい)が、星海切り裂く光の竜を紡ぎだす! 光さす道となれ! シンクロ召喚、響け、閃珖竜(せんこうりゅう) スターダスト!」

 

 現れたのは、和輝のデュエルでもう何度も登場している、高い防御力を持ったドラゴン族モンスター。オリジナルに当たるスターダスト・ドラゴンにはないラインを誇らしげに晒し、咆哮を上げた。

 

「自身の効果で、ミスト・レディは除外される。カードを一枚セットして、ターンエンド」

 

 

The トリッキー 風属性 ☆5 魔法使い族:効果

ATK2000 DEF1200

(1):このカードは手札を1枚捨てて、手札から特殊召喚できる。

 

ミスト・レディ 水属性 ☆3 魔法使い族:チューナー

ATK1300 DEF1000

(1):自分の手札、またはデッキからモンスターの特殊召喚に成功した場合に発動できる。墓地のこのカードを特殊召喚する。この効果によって特殊召喚されたこのカードがフィールドを離れた時、このカードをゲームから除外する。

 

ヒーロー・シグナル:通常罠

(1):自分フィールドのモンスターが戦闘で破壊され墓地へ送られた時に発動できる。手札・デッキからレベル4以下の「E・HERO」モンスター1体を特殊召喚する。

 

E・HERO ブレイズマン 炎属性 ☆4 戦士族:効果

ATK1200 DEF1800

「E・HERO ブレイズマン」の(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。(1):このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「融合」1枚を手札に加える。(2):自分メインフェイズに発動できる。デッキから「E・HERO ブレイズマン」以外の「E・HERO」モンスター1体を墓地へ送る。このカードはターン終了時まで、この効果で墓地へ送ったモンスターと同じ属性・攻撃力・守備力になる。この効果の発動後、ターン終了時まで自分は融合モンスターしか特殊召喚できない。

 

閃珖竜 スターダスト 光属性 ☆8 ドラゴン族:シンクロ

ATK2500 DEF2000

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

1ターンに1度、自分フィールド上に表側表示で存在するカード1枚を選択して発動できる。選択したカードは、このターンに1度だけ戦闘及びカードの効果では破壊されない。この効果は相手ターンでも発動できる。

 

 

和輝LP8000手札3枚

咲夜LP8000→7500手札6枚(うち2枚はA・N・トルネード・イーグル、融合)

 

 

「あたしのターン!」

 

 ドローカードを確認後、咲夜はニッと笑った。

 

「あたしは、スケール2のA・N・トルネード・イーグルと、スケール8のA・N・バーニング・バタフライを、ペンデュラムゾーンにセッティン

グ!」

「ペンデュラムカードだったか!」

 

 目を見開く和輝。その眼前の咲夜のフィールドに、青白い光の円柱が二本、屹立(きつりつ)する。それぞれの柱には、緑の体色に、先端が黄色い翼を背中から生やした、オウムのような配色の体躯を持った、鷲をモチーフにしたと思われる鳥人(ちょうじん)――即ち、トルネード・イーグル――と、黄色とオレンジの配色と、放漫な胸、くびれた腰、突き出た尻という、メリハリの利いたボディラインを持ち、炎でできた蝶の羽根を広げた、凛とした表情の、情熱的な女性型蟲人(むしびと)――即ちバーニング・バタフライ――が収まり、それぞれ鳥人の下には3、蟲人の下には8を刻んだ楔形の文字。

 

「これであたしは、レベル3から7のモンスターを同時に召喚可能になったわ。

 さぁ行くわよ! ペンデュラム召喚! 手札から、E・HERO エアーマン、N・フレア・スカラベ、E・HERO シャドー・ミストを特殊召喚!」

 

 青い円柱の間から開かれる時空の門。光の縁を描いたそこから、三つの光が飛び出し、咲夜のフィールドに降り立った。

 それぞれ、空の力を用いる風のヒーロー、影に潜み、影を渡るヒーロー。そして異星のヒーローと融合し、新たな力へと昇華する、異星の友人。

 

「シャドー・ミストの効果は使わないわ。あたしのデッキにチェンジ速攻魔法、入ってないし。でもこっちは別。エアーマンの効果で、デッキからE・HERO ネオスを手札に加えるわね」

「ネオス……。咲夜さんのデッキが、いよいよ本領を発揮するわけか」

 

 ネオスはレベル7のモンスター。普通に召喚する分には二体のリリース要員が必要になる。その点ペンデュラム召喚ならばリリース要員を用意に揃えられる。

 咲夜はまだ通常召喚を行っていない。ここで二体のE・HEROリリースし、ネオスをアドバンス召喚。シャドー・ミストの効果で後続をサーチしつつフレア・ネオスにコンタクト融合。

 和輝は咲夜の戦術をここまで予測した。だが、咲夜はその上をあっさりと行った。

 

「トルネード・イーグルのペンデュラム効果! 自分が相手よりライフが低い場合、手札か墓地のE・HERO ネオスを特殊召喚できる!」

「な!?」

 

 予想を上回る展開。咲夜のフィールドに現れる、昔の特撮番組の光の巨人を彷彿とさせる、白のボディに赤のラインが入った威風堂々たる姿。胸の青い宝珠が生命の輝きを放つ。

 

「まだまだ行くわよー! 手札から融合発動! 場のブレイズマンとシャドー・ミストで融合!」

 

 咲夜のフィールド、その頭上の空間が歪み、渦を作る。

 その渦に飛び込む二体のHERO。彼らは一つに混ざり合い、やがて新たな力を顕現させる。

 

「燃えろ炎のヒーロー! 熱き心と拳で敵を焼き尽くせ! 融合召喚、E・HERO ノヴァマスター!」

 

 轟烈なる炎とともに現れる、爆炎のヒーロー。

 赤いマントをはためかせ、炎を思わせる鎧に身を包んだ真紅のヒーロー。大地に着地し気合の声と共に熱波を噴出、気合十分をアピールする。

 

「シャドー・ミストの効果で、デッキからE・HERO アナザー・ネオスをサーチするわ。

 さらにあたしは、場のネオスとフレア・スカラベでコンタクト融合!」

 

 咲夜のフィールドにいたネオスとフレア・スカラベが跳躍。空中で重なり合い、輝かしい白い光と共に一つに混ざり合う。

 

「異星の戦士よ、炎の力を得て悪を滅ぼす剣となれ! コンタクト融合! 燃え盛れ、E・HERO フレア・ネオス!」

 

 そして現れた新たなヒーロー、ネオスの進化の形、その一つ。

 クワガタムシの大顎を思わせる頭部の角、黒い、昆虫の様な体躯と羽根。鋭き(まなこ)で和輝のモンスターを見据え、いったん全身から炎を噴出。気合と自信に満ちた雄叫びを上げて顕現した。

 

「フレア・ネオスはフィールドの魔法・罠カードの数×400ポイント、攻撃力がアップするわね。ここは火力に全振り! バーニング・バタフライのペンデュラム効果! 一ターンに一度、フィールドのネオスかネオスを素材にしている融合モンスター一体の攻撃力を800アップさせる! あたしは当然、この効果をフレア・ネオスに適応。カードを一枚セット、アナザー・ネオスを召喚して、バトルよ! フレア・ネオスで閃珖竜スターダストに攻撃!」

 

 今、フレア・ネオスの攻撃力は5300にまで上昇している。当然、和輝のスターダストでは相手にならない。

 

「一撃は、防ぐ! スターダストの効果発動! 自身に破壊耐性を付与する!」

 

 スターダストの周りを、球状のバリアーが取り囲む。スターダスト自身も翼を体の前に折りたたんで防御姿勢をとった。

 

「それでも、ダメージは通る!」

 

 咲夜の言葉通りの展開が起こった。フレア・ネオスが全身に炎を纏わせ、スターダストに向けて突進。全身を一個の砲弾と化し、激突した。

 轟音発生。周囲の観光客が一斉に注目し、歓声を上げるか、戸惑いの声を上げた。

 激突の衝撃で大きく吹き飛ばされる閃珖竜(スターダスト)。だが球状バリアーは破壊されたものの、スターダスト自身は踏みとどまった。

 そして、和輝もまた、ただ黙って大ダメージを受けたわけではない。

 

「この瞬間、リバーストラップ、ダメージ・コンデンサー発動! 手札の代償の宝札を捨てて、デッキからブラック・マジシャンを特殊召喚!」

 

 転んでもただは起きぬとばかりに、和輝の足元の伏せカードが翻る。次の瞬間、彼のフィールドに現れたのは、黒衣に身を包んだ美貌の魔術師。

 華麗に登場し、杖を巧みに旋回させて、いつの間にか集まってきたギャラリーに対して一礼する。

 

「代償の宝札の効果で二枚ドロー。さて、咲夜さん。どっちを狙う?」

「む……」

 

 ここで咲夜は考えた。ブラック・マジシャンは多彩な魔法や罠を絡めて相手を翻弄するカードだ。その人気もすさまじく、青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)と対を成す、デュエルモンスターズでもっとも有名で、人気も高いカードだ。

 伊達にデュエルモンスターズ最初期から何度も再販され、強化カードが今も発売されているわけではない。残すと後々厄介なことになるかもしれない。

 だがスターダストの防御能力も厄介だ。どのみちこのターンで破壊できるのは一体のみ。ノヴァ・マスター以外のモンスターでは攻撃力2500を突破できない。

 ならば――――

 

「決めたわ。ノヴァマスターでスターダストを攻撃よ」

 

 消すのは盾。変幻自在な魔術には、これから対処すればいい。

 ノヴァマスターが跳躍。マントをドリルのような螺旋形状に変化させ、下半身に巻き付けての、回転を加えた炎の蹴りを放つ。

 今度は自身の身を守れず、ノヴァマスターの一撃をまともに受けたスターダストは、胸板を貫かれて消滅した。

 

「ノヴァマスターの効果で一枚ドロー。カードを一枚セットして、ターンエンド。と、ここでエンドフェイズにコンタクト融合体は共通効果としてエクストラデッキに戻っちゃうのよね。

 けど! もうそんな心配もないの。あたしはエンドフェイズ、ペンデュラムゾーンにいるA・N・バーニング・バタフライのペンデュラム効果を発動! コンタクト融合体がデッキに戻るとき、代わりにこのカードを破壊できる!」

 

 バガン! と派手な音を立てて、バーニング・バタフライが砕け散った。

 

 

「なーるほど。コンタクト融合体最大の弱点であるデッキ帰還能力。あのペンデュラムカードはそれを補う効果があるのか」

「バーニング・バタフライだけではない。六属性全てに一体ずつ存在するA・Nは、全て帰還能力の身代わりになるペンデュラム効果とモンスター効果を持っている。これで場持ちが悪いという、ネオス融合体の弱点も多少は補えるというわけだ」

 

 

 ロキとアテナの会話が和輝の耳に入ってくる。確かにその通りだ。つまり、フレア・ネオスは帰還を期待するのではなく、こちらでねじ伏せる必要がある。

 

「改めて、あたしはこれでターンエンドよ」

 

 

A・N・トルネード・イーグル 風属性 ☆4 鳥獣族:ペンデュラム

ATK500 DEF600

Pスケール:赤2/青2

ペンデュラム効果

(1):自分フィールドの「E・HEROネオス」が融合素材となっているモンスターが自身の効果によってデッキに戻る場合、代わりにこのカードを破壊できる。(2):1ターンに1度、自分のライフが相手よりも下の時に発動できる。自分の手札、または墓地から「E・HERO ネオス」1体を特殊召喚する。

モンスター効果

(1):???(2):自分フィールドの「E・HEROネオス」が融合素材となっているモンスターが自身の効果によってデッキに戻る場合、代わりにこのカードを破壊できる。

 

A・N バーニング・バタフライ 炎属性 ☆5 昆虫族:ペンデュラム

ATK500 DEF500

Pスケール:赤8/青8

P効果

(1):自分フィールドの「E・HEROネオス」が融合素材となっているモンスターが自身の効果によってデッキに戻る場合、代わりにこのカードを破壊できる。(2):1ターンに1度、自分フィールドの「E・HERO ネオス」または「E・HERO ネオス」を融合素材とするモンスター1体を対象に発動できる。そのモンスターの攻撃力を800ポイントアップする。(3):自分フィールドに「N」または「E・HERO」以外のモンスターが存在する場合、このカードのPスケールは4となる。

モンスター効果

(1):???(2):自分フィールドの「E・HEROネオス」が融合素材となっているモンスターが自身の効果によってデッキに戻る場合、代わりにこのカードを破壊できる。

 

E・HERO エアーマン 風属性 ☆4 戦士族:効果

ATK1800 DEF300

(1):このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、以下の効果から1つを選択して発動できる。●このカード以外の自分フィールドの「HERO」モンスターの数まで、フィールドの魔法・罠カードを選んで破壊する。●デッキから「HERO」モンスター1体を手札に加える。

 

E・HERO シャドー・ミスト 闇属性 ☆4 戦士族:効果

ATK1000 DEF1500

「E・HERO シャドー・ミスト」の(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。(1):このカードが特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「チェンジ」速攻魔法カード1枚を手札に加える。(2):このカードが墓地へ送られた場合に発動できる。デッキから「E・HERO シャドー・ミスト」以外の「HERO」モンスター1体を手札に加える。

 

N・フレア・スカラベ 炎属性 ☆3 昆虫族:効果

ATK500 DEF500

このカードの攻撃力は、相手フィールド上の魔法・罠カードの数×400ポイントアップする。

 

融合:通常魔法

(1):自分の手札・フィールドから、融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、その融合モンスター1体をエクストラデッキから融合召喚する。

 

E・HERO ノヴァマスター 炎属性 ☆8 戦士族:融合

ATK2600 DEF2100

「E・HERO」モンスター+炎属性モンスター

このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。(1):このカードが戦闘で相手モンスターを破壊した場合に発動する。自分はデッキから1枚ドローする。

 

E・HERO ネオス 光属性 ☆7 戦士族:通常モンスター

ATK2500 DEF2000

 

E・HERO フレア・ネオス 炎属性 ☆7 戦士族:融合

ATK2500 DEF2000

「E・HERO ネオス」+「N・フレア・スカラベ」

自分フィールド上の上記のカードをデッキに戻した場合のみ、エクストラデッキから特殊召喚できる(「融合」魔法カードは必要としない)。このカードの攻撃力は、フィールド上の魔法・罠カードの数×400ポイントアップする。また、エンドフェイズ時、このカードはエクストラデッキに戻る。

 

E・HERO アナザー・ネオス 光属性 ☆4 戦士族:デュアル

ATK1900 DEF1300

(1):このカードはフィールド・墓地に存在する限り、通常モンスターとして扱う。(2):フィールドの通常モンスター扱いのこのカードを通常召喚としてもう1度召喚できる。その場合このカードは効果モンスター扱いとなり以下の効果を得る。

●このカードはモンスターゾーンに存在する限り、カード名を「E・HERO ネオス」として扱う。

 

ダメージ・コンデンサー:通常罠

自分が戦闘ダメージを受けた時、手札を1枚捨てて発動できる。受けたそのダメージの数値以下の攻撃力を持つモンスター1体をデッキから表側攻撃表示で特殊召喚する。

 

代償の宝札:通常魔法

(1):手札からこのカードが墓地に送られた時に発動する。カードを2枚ドローする。

 

ブラック・マジシャン 闇属性 ☆7 魔法使い族:通常モンスター

ATK2500 DEF2100

 

 

E・HERO フレア・ネオス攻撃力2500→4900

 

 

和輝LP8000→5200→5100手札4枚

咲夜LP7500手札0枚

 

 

「ペンデュラムカード、A・N……。これが咲夜さんの新しい力?」

「そっ。見事にあたしのデッキの痛いところをカバーしてくれるでしょ?」

 

 その通りだ。そして思う。面白い、と。

 いつしか、かつての苦い敗北から広がるもやもやとした気持ちは消えかけていた。

 今は純粋に、このデュエルを楽しみたい。この布陣を突破してやるという、飽くなき闘争心がめらめらと燃え上がってきていた。

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