神々の戦争   作:tuki21

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第48話:森の中の出会い

 その館は死に満ちていた。

 ウェールズの森の奥地、コナー家の別荘だった場所だ。

 今、その館に生きている人間はいなかった。

 エーデルワイスがルーと共に逃げ込む際に随伴したメイドや執事も、庭師も。

 そして、現在のコナー家当主である、エーデルワイスの父親さえも。

 かつて当主が私室として使っていた部屋に、人影が一つ。

 豊かに波打つ黒髪、豊かな黒髭、赤い双眸。中世の貴族を思わせる黒に金の縁取り、銀の刺繍がなされた狩猟服姿。目元は前髪と陰に隠れてよく見えない。

 ただし、人の形、皮をかぶっていても、その中身は人間ではなかった。

 邪神バロール。かの魔眼の神こそ、この屋敷の人間を殺戮し、エーデルワイスの父を殺し、ルーを追い詰めた張本人だった。

 今、バロールは戸棚からとってきたワインボトルを開け、グラスの中に注いでいた。

 

「糞忌々しい一神教の教えによれば、このワインとか言う液体は、救世主の血らしいな」

 

 語り掛けるも相手はいない。正確には、バロールの対面に男が座っているが、彼もまた死んでいる。バロールの魔眼によって、その命を刈り取られたのだ。

 バロールは席を立ち、男の許に歩み寄った。

 金髪碧眼。撫でつけられた髪に綺麗に剃られた髭。若草をイメージしたような緑色の貴族服。服の意匠がバロールの服に似ていた。

 

「下らぬ。こんなもの、酒は酒だ。それ以上の価値などないし、付加価値をつけるべきではない。そうは思わんか? 兄上?」

 

 バロールは死体を兄と呼ぶが、もちろん血縁関係などない。

 死体の弟は、バロールの契約者にして今、彼に体を乗っ取られた男、即ちエーデルワイスの叔父だ。

 バロールはくつくつと笑い、グラスの中のワインを一気に飲み干した。

 

「神もまた、酒を嗜むのですね。それとも、貴方が乗っ取った、その身体の趣味趣向ですか?」

 

 バロールの背中に投げかけられる声。振り返れば、いつの間には青年が一人、立っていた。

 おそらく二十歳前後。腰まで伸びる薄紫の髪に紫紺の瞳。華奢な体躯に男物のシャツと薄手のジャケット姿。だが少女のような顔つきに沁み一つない白い肌、そして華奢な身体つきから、青年というよりは、少女が背伸びして男物の服を着て男装しているようにしか見えない。

 這い寄る混沌。無貌の神、ナイアルラトホテップの契約者、黄泉野平月(よみのひらつき)であった。

 

「ナイアルラトホテップの契約者か。何用だ?」

 

 空になったグラスをテーブルの上において、バロールは平月を見据えた。

 その『直死の魔眼』で見つめられても、平月は口元に浮かべた微笑を崩さない。もとより彼は神々の戦争の参加者。で、あるがゆえに、いかにバロールの魔眼とはいえ、参加者には効果がない。

 

「用というほどのものはありません。ただ、手駒が欲しくはないかと思いまして。ルーの契約者、コナーのお嬢さんを捕えるために」

「不要だ。混沌の化身の使い道など、せいぜい我の調整用の人形くらいだ」

 

 つまりデュエルの相手ということだろう。もっとも、相手をすれば漏れなく壊されるのは必定だが。

 と、バロールの周りに闇が(わだかま)り始めた。

 闇は次第に人型をとる。現れたのは、山羊を中途半端に人型に近づけたかのような異形。

 バロールの眷属、フォーモリアだ。

 

「ほう。ケルトの邪妖精。確か、妖精や精霊は神が人界から離れた時に姿を消したらしいですが――――」

「実際は消えたわけではない。見えなくなっただけだ。世界に溶け込んでな。だが今は別だ。ウェールズ(ここ)はケルトと縁深い。だからこそ、我が存在に呼応し、我が眷属(フォーモリア)が実体化する。そして、こいつらが我が手足となる。混沌の下僕よ、貴様はいらん。()く、消えよ」

 

 それは残念と、平月は肩をすくめた。そして、

 

「では、先程の申し出のみ、ご一考ください」

 

 微笑を残して、平月は消え去った。まるで幻のように。

 

「……確かに、我とて一神教の侵略に思うところはある。我がケルトの土地もまた、蹂躙されたからな」

 

 だからこそ、同盟か。バロールはまるで酒に酔う人間の様に、くつくつと肩を震わせて笑った。

 

「その申し入れは惹かれるな。だがまずはルーの抹殺だ。それを成し遂げて、ようやく我の憎悪は晴れる。歪曲されし神々、多神との連合は、それからの話だ」

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 エーデルワイスは怯えていた。

 あの館。お父様やファティマ達と逃げ込んだ別荘が、バロールの襲撃を受け、一夜が明けた。

 悪夢そのもののような夜だった。親しかったメイドや、穏やかな庭師のおじさん。ちょっと堅苦しいけれど優しい執事長。

 皆死んでしまった。多分、お父様も。

 残ったのは私と、ファティマと、そしてあと一人。いや一柱。自分が契約した神、ルーのみ。

 着の身着のまま逃げてきたので、何とかデッキだけは持ちだせたが、デュエルディスクは館に置いたままになってしまった。

 どうしよう。どうすればいいのだろう。デッキだけでは意味がない。デュエルディスクがなければ戦えない。

 

(戦う?)

 

 何を馬鹿な。できるわけがない。そんな恐ろしいこと、できるわけがない。

 でも、何もしなければ、自分の大切な人が失われてしまう。

 

「ッ!」

 

 光が翻る。ルーが振るった光の槍が、襲い来る異形の怪物たち、フォーモリアを迎撃。その身を切り裂く。

 絶叫が迸る。その空気の震えが耳朶を打ち、エーデルワイスはさらに身の震えを強くした。

 そして、彼女が恐怖する最大の原因が、いま彼女の腕の中にあった。

 ファティマ。幼いころから一緒だった彼女。そして、別荘脱出の際に自分を庇った、少しだけ年上の女性。

 彼女の容体が思わしくない。別荘脱出後、別荘につないでいた馬を駆り森の中を何とか進んでいたが、馬が倒れ、それにつられるように彼女もまた、突然倒れた。

 熱はない。寧ろ低すぎるほどだ。額に手を当てた途端、氷のような冷たさで驚いた。そう、まるで、死体のように冷たかった。

 バロールの魔眼を浴びたせいだと、ルーは言った。直接バロールの魔眼を見たわけではなくとも、その毒は対象の身体を蝕むのだという。

 即死はしなかった。だがこのままでは、命は危ういと。

 怖かった。この惨状を作りだしたバロールも。ファティマを失ってしまうことにも。そして、戦いの元凶となったルーも。

 このままではいけないとわかっていても、恐怖が心を縛り付ける。勇気を持てないでいた。

 

「逃がさん!」

 

 ルーの声が飛ぶ。一体、この場から離脱しようとしているフォーモリアがいた。この場所を知られるわけにはいかない。全滅させなければと、戦う前にルーは言っていた。

 この場所を知られれば、追手がさらに差し向けられると。だから、報告役は潰さなければならないと。

 だからルーは跳躍た。一気に距離を省略し、光の槍を振るう。

 逃げたフォーモリアが貫かれ、光の熱量に焼かれて消滅する。

 だがこの瞬間、ルーとエーデルワイスたちの距離が離れた。

 その瞬間を狙い、別動隊のフォーモリア三体がエーデルワイスの背後の森から飛び出した。

 

「しまった!」

 

 一歩、間に合わない。フォーモリアの毒牙がエーデルワイスに迫るその刹那、他方向から黒い稲妻が迸り、今にもエーデルワイスを襲おうとしていたフォーモリアに直撃した。

 

「え?」

 

 呆然とした表情のエーデルワイス。ルーも動きが止まる。

 次の瞬間、黒い爆裂が炸裂。残った二体のフォーモリアを吹き飛ばした。

 

「間に合ったか!?」

 

 森の間から白い髪をした一人の少年が、黒衣の魔導師とその弟子を伴って現れた。

 

 

 間にあったか。ブラック・マジシャンとブラック・マジシャン・ガール。魔法使いの師弟を引き連れた和輝(かずき)は、まずはそう思った。

 フォーモリアの気配はもうなさそうだし、現に襲われていた少女は事なきを得た。

 気になるのは少女の腕の中で苦し気にしている女性と、彼女を守るようにこちらに立ちはだかった男くらいか。

 少女――――和輝と同じか、少し年下。小柄で華奢な身体つき。ふんわりとした、柔らかそうな金の髪に春の日差しのような金色の瞳。色白の肌に昔の貴族が着ているような、フリル付きでスカートが広がっているタイプの、ライトグリーンのドレス姿。しかし今はそのドレスはところどころ裂けてしまっている。森を歩くような服装でないので、枝か何かに引っ掛けたのだろう。同時にそれは、彼女が切迫した状況であることを現していた。着の身着のまま、何かから逃げるようにここまで来たのだろう。

 豪華さや絢爛さはないが、野に咲く小さな花のような可憐さを持つ少女だった。

 そしてその少女に抱かれている女。

 二十歳前後。ストレートにまっすぐは金色の髪、蒼い服は質素で決して主張の少ないもの。見た目よりも動きやすさを優先としたシャツ+パンツルック。今は額に汗を浮かべ、目を閉じて苦しげに肩を上下させていた。

 自分で起き上る体力もないのか、その身体を完全に少女に預けていた。

 否――――

 

「なに……もの……だ……」

 

 女の口から弱弱しい誰何(すいか)の声が上がる。そのまま起き上ろうとする。

 死人のように肌が白く、今も膝から頽れそうでも、何とか立ち上がり、和輝を睨みつけた。

 一目でわかる尋常でない様子でありながら、なお折れぬ矜持。最後まで主人の盾となることを(いと)わぬ女騎士の風情。

 

「だ、だめよファティマ! 今起き上ったらダメ!」

「も、問題ありません。エーデルワイス様……。ぐ!」

 

 問題はあったようだ。ファティマは慌てた様子の少女に振り返ろうとした瞬間、膝から力が抜けたようにがっくりと頽れてしまった。

 ファティマの身体を慌てて受け止めるエーデルワイス。 

 最後の一人、男に関しては名前も分からぬが正体は知れた。

 

「貴様、何者だ?」

 

 いつの間に移動していたのか、和輝のすぐ隣に現れていた男の声。まるで二人の女性を守るよう。

 横目で見る男。

 三十代半ばほどの外見。エーデルワイスと意匠に共通点のある貴族服姿。短めの金髪に深い海を思わせる青い右目と奥深い森を思わせる緑の左目。今は警戒心ありありの表情を浮かべている。

 

「警戒しないでくれ、おそらくボクらは君たちの敵じゃない」

 

 和輝の後ろ。いざとなれば和輝を庇える位置に、両手を上げた降参のポーズ姿で実体化するロキ。にこりとさわやかな笑顔を浮かべる。

 

「光の槍、そしてケルトの森。君の正体はある意味明白だね。

 初めまして。けれど噂はかねがね。ケルトの英雄神。魔眼の死神、バロールを討ち果たした光の神。長腕のルー。ボクはロキ。いやしくも北欧の主神、オーディンの義兄弟の栄光を賜った、ケチでしがない悪戯の神です」

 

 気取った風に一礼するロキ。そして、その視線をエーデルワイスと、また倒れてしまったファティマに向ける。

 

「どうやら、そちらのドレスのお嬢さんが契約者みたいだね。だとすれば、倒れている女性は危ういな」

「ロキ、ロキか。北欧のトリックスター。そして、敵と内通した女が生んだ、邪神。そう聞いているな」

 

 ルーの目に浮かんだ警戒心は消えていない。だが少し和らいだ気がする。

 それは、和輝がエーデルワイスを救ったことが明らかだったこともあるだろう。そしてロキが己の素性を包み隠さずに明かしたこともあるだろう。

 邪神であれ、相手は礼儀に則った。ならば、疑心を向けるだけでは礼を失する。

 

「我が名はルー。ケルトに連なる神にして、今の使命は魔眼の神、バロールを討つこと。そして、我が契約者、エーデルワイス・ルー・コナーを守ること。ロキの契約者の少年よ、先程はエーデルワイスを救ってもらい、感謝する」

「岡崎和輝だ。よろしくな」

「え、エーデルワイスです。彼女はファティマ。よ、よろしくお願いします」

 

 おどおどしがら、ペコリを頭を下げるエーデルワイス。言いながらも視線は和輝に向けられて、次には苦しげなファティマに向く。

 和輝は二体のモンスターの実体化を解除。デュエルディスクを外し、改めて自分は危害を加えるつもりはないことを提示し、エーデルワイスに向けて微笑した。

 

「俺は元々こっちの人間じゃないんだが、この森を覆った邪気の源を倒しに来た。何か知らないか?」

 

 和輝のその言葉は、エーデルワイスの心を打った。

 恐怖で固まっていた心に、温かい風が吹き込む。自然、涙がこぼれてしまった。安心してしまったのだと気付くこともできず、涙が流れるに任せて嗚咽した。

 驚き、戸惑う和輝。「え、えぇ!?」

 子供みたいにはやし立てるロキ。「あー、和輝なーかしたなーかした!」

 ルーもまた、いきなりのエーデルワイスの涙腺崩壊に一瞬困惑し、次にはその原因に思い当り、苦い表情をした。

 

 

「私の家は、代々ルーの血脈を守ってきました」

 

 泣き止み、落ち着いたエーデルワイスは、状況と事情を尋ねる和輝に対して、ぽつぽつと語り始めた。

 

「すべては遠い未来に行われる、神々の戦争を有利に進めるための、ルーの戦略でした」

「なるほど。神々の戦争で重要なのは、自分と波長の合うパートナーを見つけ出すことだ。その点、自分の血を混ぜた人間たちならば、その血が薄くなろうとも、赤の他人を探すよりもよっぽど波長が合うよね。おまけに、隔世遺伝的に何らかの神の力に覚醒しているかもしれない。人間側の意思を完全に無視しているという点に目を瞑れば、なかなか良くできた策じゃないか」

 

 にやにや笑いのロキ。痛みに耐えるように沈黙するルー。エーデルワイスが話を続ける。

 

「父が当主の代に、神々の戦争は開催されました。けれど、より波長が合い、そして神の力を受け継いでいた私が、ルーの契約者になりました」

 

 神の力。それがどのようなものかわからないが、確かに、普通の参加者にはない要素(ファクター)を持っていれば、神々の戦争をより有利に運べるだろう。

 

「エーデルワイスの資質はすさまじい。彼女の父を上回っていた。そして、デュエルの腕も、鍛えがいのある素質があった。だからこそ、私はエーデルワイスをパートナーに選んだ。彼女の父親も、納得していた」

 

 苦い表情のルー。()()()()()が納得したという言葉から、肝心のエーデルワイスの意思が無視されていたことが窺い知れたが、和輝はそこのことについて指摘しようとは思わなかった。ルーの表情から深い悔恨の念を感じ取れたからだ。

 この神は、エーデルワイスを戦場に引きずりだしたことを後悔している。ならば何も言うことはない。

 

「私は、十六歳の誕生日の時にルーと契約しました。けれど――――」

 

 そこでいったん言葉を止めるエーデルワイス。その小さな肩が震えている。

 

「何かあったんだな? それが、今のこの状況。バロールに関係している?」

 

 穏やかな声音で問いかける和輝。エーデルワイスはこくりと頷いた。

 

「ごめん。辛いかもしれないけれど、話してくれないか? その、本当にきつかったら、何も言わなくていいけど」

 

 気づかわしげに言う和輝。エーデルワイスは「大丈夫、です」と震える声で告げた。

 

「誕生日の日。親戚の人達も集まってくれて。彼らの前でルーと契約しました。けれどその場で、叔父さんから、突然邪悪な気配が膨れ上がったんです」

「バロールだ。迂闊だった。バロールは私の祖父だ。つまり、私の血族ということは、バロールの血族でもある。ならば、バロールと波長が合い、契約者となる人間が出てもおかしくなかった。

 悪いことに、エーデルワイスの叔父は弟である彼女の父に当主の座を奪われたと感じていた。だから、バロールを受け入れたのだろう」

「ルーが言うには、バロールは叔父さんの身体を乗っ取ったのだそうです。それで、叔父さんの内側に潜むことで、直前まで気配を感じ取れなかったと」

「はー。確かに自然神や概念神は、元々があいまいなだけに、人間に憑依することができるよね。洗脳して人形にするよりも、命令のタイムラグがなくなる。その代わり、発揮できる神の力は減少するけど。まぁ、そこは魔眼のバロール。多少落ちても関係ないか」と納得顔のロキ。

「そして、エーデルワイスたちは私と共に逃げ延びだ。このウェールズの森までな。だが……」忸怩とした表情のルー。我が失策を悔いるかのよう。

「昨日の夜。ついに追いつかれました。バロールの魔眼によって、家の人達は悉く……。お父様も、おそらくは……」

 

 俯き、声を震わせるエーデルワイス。その目尻には涙がたまっていたが、和輝は気づかないふりをした。

 

「なるほど」

 

 事情を把握した和輝は頷き、エーデルワイスの俯かれた頭に手をやった。

 

「え?」

「ごめん。やっぱ、辛いこと聞いた」

「いいえ、いいんです」

 

 俯き加減のエーデルワイスだったが、その表情はわずかに緩んでいた。和輝と出会ったことで、ずっと張りつめていた緊張の糸がほぐれ、いい意味で力を抜けたのだろう。

 

「しかし」

 

 そんな二人に、ルーが声を駆けた。

 

「協力してくれるというのならば有り難いが、バロールの因縁は、できればこちらで果たしたい」

「それは――――、彼女にバロールと戦わせるってことかい?」

 

 一歩下がり、傍観者的立ち位置に立つロキの言葉。エーデルワイスがびくりと震えた。

 

「彼女は、そうは思っていないみたいだけれど? ルー、君の失敗はね、エーデルワイスちゃんの性質を無視したことだよ。戦いに向いた素質があっても、本人に戦いを忌避する心があれば意味はない。寧ろ、優れた才は毒にしかならない」

 

 確かに、エーデルワイスは今、怯えている。元々戦いに向いた性格ではないのだろう。それに加えて実家を襲撃され、家族を奪われ、今もまた、親友を失おうとしている。

 彼女の心は今、罅割れ、今にも砕け散ってしまいそうだ。

 そんな彼女に、彼女の恐怖の源、バロールと戦わせようというのは、酷に思える。

 

「そんなことは分かっている! 自分の愚かしさなど、私が一番分かっているさ! だが、だがな。それでも、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()宿()()()

 

 ルーの意思は強固だ。だが彼が声を荒げるたび、エーデルワイスはびくりと体を震わせていた。

 ロキは嘆息し、己が契約者を見た。

 

「……和輝、君はどう思う?」

「俺は――――」

 

 和輝が答えようとした、まさにその瞬間だった。

 

 

 ――――()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「な!?」

 

 和輝の胸の奥の奥。真っ暗闇の中に巣食う怪物が、急に笑い出したのだ。

 それは今までの、死への誘惑を語る嘲笑ではなく、自らの喜悦を思わず外に漏らしてしまった。そんな風な、哄笑。今まで一度だってなかった反応だった。

 

「岡崎さん?」

 

 不安と心配がないまぜになったエーデルワイスの声にも、返すことができない。

 胸のうちの哄笑を抑え込み、引っ張られないように踏みとどまる。 

 そして見た。ただ、気配がすると、そう感じた方向を。

 

「ごめん、コナーさん。敵だ。しかも、俺に関係がある」

 

 見据える先、そこから――――

 

 

「ふふふ。神よりも先に、ぼくを見つけましたか。それでこそ、ぼくが目をつけただけはある」

 

 

 森の木々の間から顔を出したのは、少女と見紛う美貌を持った青年。

 冷笑の邪神、這い寄る混沌、ナイアルラトホテップの契約者、黄泉野平月であった。

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