コナー家の別邸で、バロールは一人椅子に腰かけながらワインを嗜んでいた。
グラスの中の、血のように赤い赤ワインを一息に飲み干す。神である己は、人間が作った酒に酔うということはない。だが長い年月をかけて熟成されたこの飲み物の味を感じることはできる。このワインは、バロールの好みに合致していた。
沈黙しながら、バロールは待っていた。
気配を感じる。神の気配だ。しかもこれは、自分がよく見知っている気配。
忘れがたい怨嗟を思わずにはいられぬ気配だ。
近づいてくる。我が宿敵が。我が孫が。
ルーが。
「来るか、ルー」
呟くバロールの口元には微笑。笑みは次第にこらえきれぬように大きくなっていく。
深く、広く、歪に。
「いいぞ。来い、来いバロール。我に殺されに来い。かつて経た我が死を、今度はお前自身が体験するのだ。
待ちわびた。待ちわびたんだ。一度死んだこの身を蘇生させるのは、大変な痛苦だった。この痛みを、この苦しみを、この冷たさを。貴様に味合わせなければ、黄泉還った意味がない」
椅子から立ち上がる。既にバトルフィールドは展開されている。
バロールに左腕嫌みが集う。闇は次第に硬質化し、デッキを装填した、漆黒のデュエルディスクに変化した。
準備完了。後は待つだけだ。
来る、来る、来る。来た。
「行け! オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン!」
声と共に、螺旋を描いた炎が邸の壁に激突、粉砕する。
衝撃と熱が駆け巡る。バロールは空になったグラスを投げ捨て、右手を振るう。黒い風が巻き起こり、炎を遮断した。
扉の向こうから現れるのは、二柱の神と、その契約者である二人の人間。
ルーとエーデルワイス。それに和輝とロキであった。
「やれやれ。ノックというものを知っているか? お前達人間が編み出した、相手の存在を確かめる礼儀作法のはずだが?」
「だから、こうしてノックしてやっただろ? 特大のをよ」
舞い上がる粉塵を払いのけるように、服を叩くバロールに対して、実体化させたオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンの背中に跨った和輝がにやりと笑う。
和輝とエーデルワイスは大地を走る能力に特化したドラゴンであるオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンに跨ってここまで来たのだ。勿論、エーデルワイスの案内付きで、だ。
「だがエーデルワイス。この期に及んでお前はその男の影に隠れるのか? ならば、その男が殺されなければ、お前はルー共々、その命を我が前には差し出さんのか?」
「いいえ、いいえ違います。バロール」
すっと、エーデルワイスが前に出た。そこには相変わらず脅えがある。足は震えているのがスカートの中にあっても分かる。
だがその瞳。キッとまっすぐバロールを見据えるその眼差しが、違った。
別荘から逃亡する前の、怯え、竦み、そして逃げるだけの小娘のものではなかった。
「……本当いいのか? コナーさん」と、何かを確認する和輝。
「……はい。お願いします。岡崎さん」と決意を秘めた表情で頷くコナー。
和輝は無言で己のデュエルディスクを外す。モンスターゾーンにセットされていたオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンを取り除き、デッキも外してエーデルワイスに手渡した。
エーデルワイスは和輝から渡されたデュエルディスクを受け取る。その重みを嚙みしめるようにいったん手に取って、自身の左腕に装着した。
「バロール。貴方の相手は、私です!」
◆◆◆◆◆◆
「岡崎さん、お願いがあります。バロールとの戦いは、私にやらせてほしいんです」
ウェールズの森の中で、エーデルワイスは決意を秘めた眼差しで和輝にそう言った。
「……本気なのか? さっき俺の戦いを見ただろ? あれが神々の戦争だ。それでも戦うのかい?」
「……はい。それが私の、宿命だと思いますから」
和輝はしばし無言。だがやがて口を開いた。
「俺は、本当に怖いのならば、戦わなくてもいいと思っていた。
……けれどな、コナーさん。逃げようとしても、怖がっていても、戦わなくっちゃならない瞬間ってのは必ず来ると思うんだ。俺が、非道な神を放っておけないと思ったように。コナーさんにとって、それがバロールなんだろう」
和輝には半ば分かっていた。神々の因縁。ルーとバロールは、エーデルワイスがどれほど拒絶しようと、必ず戦わなければならない宿命なのだと。
その運命を乗り越えることができてこそ、きっと、エーデルワイスの人生は始まるのだ。
家族を奪われ、友を死の淵に立たされた恐怖を、ここで乗り越えなければ、エーデルワイスの人生は闇に覆いつくされてしまう。
「……分かった。なら、バロールは君に任せよう。けれど、怖くはないのか? 俺が思うに、バロールってのはルーに一度殺されているんだろ? その恨みは深く、硬い。きっと奴はデュエル中、コナーさんを痛めつけに来るぜ?」
「それでも、私が戦わなければならないと思うんです。けど、まだ怖いです。勇気が足りません」
震えるエーデルワイス。当然だろう。和輝もたいがいだったが、初陣の相手が最上級に凶悪な邪神なのだ。対してエーデルワイスは今まで平和に、おとなしく暮らしていた少女に過ぎない。恐れるなという方が無理だろう。
「だから、岡崎さん。お願いがあります。勇気をください。――――岡崎さんのデュエルディスクを、貸してください」
それはエーデルワイスがデュエルディスクを今持っていないこともあるだろう。別邸脱出の際にデッキはなんとか持ちだせたが、デュエルディスクまでは無理だったのだ。
そして彼女自身にとってもっと重要なのは、お守り代わりだろう。
最後まで諦めずに足掻き続け、ついには勝利を得た和輝の姿。それを美しいと思った彼女は、自分の足りない勇気を、その憧憬にも似た想いで埋めようというのだ。
「和輝」
「分かっているから、言わなくていい。ロキ」
苦笑するロキを背後に、和輝は頷いた。
「なら、君に託すよ。コナーさん」
こうしてエーデルワイスは和輝のデュエルディスクを借り受け、バロールとのデュエルに挑むことになったのだった。
全ては、己の運命を乗り越えるため。今なお命を脅かされている、大切な人を守るために。
◆◆◆◆◆◆
『
エーデルワイスLP8000手札5枚
バロールLP8000手札5枚
コナー家の別荘で始まった神々の戦争。互いの胸元に、エーデルワイスは黄色、バロールは
先攻を勝ち取ったのはバロール。ドローフェイズを消化し、手札からカードを繰り出す。
「我のターンからだ。まずはこれで行こうか。ヴェルズ・カストルを召喚」
バロールのフィールドに召喚されたのは、半身を暗黒の力、ヴェルズに浸食されたセイクリッドの戦士。光の力を反転させられ、浸食拡大に貢献する哀しき人形。
「ヴェルズ・カストルの効果により、我はヴェルズの召喚権を得た。新たにヴェルズ・サラマンドラを召喚。
ヴェルズ・カストルとヴェルズ・サラマンドラでオーバーレイ! 二体のヴェルズでオーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚!」
早速動くバロール。彼の頭上に渦巻く銀河を思わせる空間が出現。その空間に、二体のヴェルズモンスターが紫の光となって飛び込んだ。
「侵略の使徒よ、ここに来たれ。汝の波動は強者を侵す毒とならん。出でよ、ヴェルズ・オピオン!」
虹色の爆発が起こり、その向こうから、漆黒の巨体が現れた。
「コナーさん!」
和輝の警告が飛ぶ。それもそのはず。バロールのフィールドに召喚されたドラゴンは巨体なため、家の中に収まるサイズではなかったのだ。
表情をこわばらせながら退避するエーデルワイス。既にオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンの攻撃によって半壊していた屋敷が完全に崩壊。天井は崩れ、壁は倒れていく。
舞い上がる粉塵。元々外側にいたエーデルワイスや和輝は少し避難するだけで済んだが、エーデルワイスの表情は沈痛なものだ。バトルフィールド内なので、通常の現実空間には――バトルフィールドが崩壊さえしなければ――影響がないとはいえ、自分が身を置いていた場所が崩れ去っていくのは辛いらしい。
そして現れるバロールの
素体は氷結界の龍の一体、グングニール。それが邪悪なる波動によって変質させられた姿だ。赤みがかかった、美しく青い身体は漆黒に染め上げられ、その瞳は憎悪と破壊衝動に支配され、全身からは禍々しい黒いオーラを立ち昇らせていた。また、身体の形状も悪魔的かつ恐怖を与えるよう歪められていた。
「ヴェルズ・オピオン効果発動。
ヴェルズ・カストル 闇属性 ☆4 戦士族:効果
ATK1750 DEF550
このカードが召喚に成功したターン、自分は通常召喚に加えて1度だけ「ヴェルズ」と名のついたモンスター1体を召喚できる。
ヴェルズ・サラマンドラ 闇属性 ☆4 恐竜族:効果
ATK1850 DEF950
自分の墓地のモンスター1体をゲームから除外して発動できる。このカードの攻撃力は相手のエンドフェイズ時まで300ポイントアップする。この効果は1ターンに2度まで使用できる。
ヴェルズ・オピオン 闇属性 ランク4 ドラゴン族:エクシーズ
ATK2550 DEF1650
レベル4「ヴェルズ」モンスター×2
(1):X素材を持っているこのカードがモンスターゾーンに存在する限り、お互いにレベル5以上のモンスターを特殊召喚できない。(2):1ターンに1度、このカードのX素材を1つ取り除いて発動できる。デッキから「侵略の」魔法・罠カード1枚を手札に加える。
ヴェルズ・オピオンORU×1
「私のターンです、ドロー!」
カードをドローし、それを手札に加える。エーデルワイスは左手にかかる重みを感じていた。
和輝のデュエルディスクだ。自分が使っているものよりも少しサイズが大きい。
(男の人、って感じですね)
どことなく守られているようで安心する。頼もしささえ感じるのだ。
いまだ戦いは怖い。しかし、その怖さを祓ってくれる勇気が湧いてきた。
ならば、戦える。
「私のフィールドにモンスターが存在しないため、フォトン・スラッシャーを特殊召喚します!」
剣閃がいくつも翻り、闇を切り開く。
現れたのは青白く輝く光の身体を持つ剣士。サイバーチックなアーマー姿に片刃の実体剣。条件はあれど、レベル4以下で攻撃力2100は十分な数値だ。
もっとも、攻撃力2100では、攻撃力2550のヴェルズ・オピオンには敵わないが。
「バトルです! フォトン・スラッシャーでヴェルズ・オピオンに攻撃!」
だがエーデルワイスは攻撃を宣言した。攻撃宣言に従い地を蹴り、疾走するフォトン・スラッシャー。その剣が閃く。
もちろん、このまま攻撃を続行しても攻撃力で下回るフォトン・スラッシャーは返り討ちだ。自爆特攻しても意味がない以上、考えられるのは――――
「コンバットトリックか。少しは考えるじゃないか、エーデルワイス」
「その通りだ! 行け! エーデルワイス!」
「はい! ダメージステップに、手札から速攻魔法、フォトン・トライデント! フォトン・スラッシャーの攻撃力を700アップ!」
フォトン・スラッシャーの武器が剣から穂先が青白く光り輝く
「この瞬間、フォトン・トライデントの追加効果! 貴方の伏せカードを破壊します!」
エーデルワイスの声が飛ぶ。バロールが伏せたカードはヴェルズ・オピオンの効果でサーチした侵略の汎発感染だろう。あれはヴェルズに魔法や罠に対する完全体制を付加する厄介な速攻魔法だ。潰せるうちに潰すに限る。
ヴェルズ・オピオンを貫いた槍を引き戻し、フォトン・スラッシャーが跳躍。そのままトライデントを投擲。槍の三本の穂先がバロールの足元に伏せられたカードを貫いた。
「え!?」
驚愕の声を上げ、目を見開くエーデルワイス。その眼前で、
「ど、どうして……?」
「残念だったな、エーデルワイス。お前が破壊したのは暗闇の
「……やられたな。サーチしたからといって、イコールでそのカードを伏せたとは限らない。先入観で行動すると痛い目にあう典型だな」と和輝。
「けれど仕方がない。だって彼女はこういった実戦経験が薄い。経験不足は、こういう駆け引きに不利だ」とロキ。
「エーデルワイス。まだ君のターンは終了していない。まだモンスターを召喚していないのだ。ショックを振り切れ、体勢を立て直すんだ」とルーの励まし。
「……モンスターをセットして、ターン終了です」
フォトン・スラッシャー 光属性 ☆4 戦士族:効果
ATK2100 DEF0
このカードは通常召喚できない。自分フィールドにモンスターが存在しない場合に特殊召喚できる。(1):自分フィールドにこのカード以外のモンスターが存在する場合、このカードは攻撃できない。
フォトン・トライデント:速攻魔法
自分フィールド上の「フォトン」と名のついたモンスター1体を選択して発動できる。エンドフェイズ時まで、選択したモンスターの攻撃力は700ポイントアップし、守備表示モンスターを攻撃した時、その守備力を攻撃力が超えていれば、その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。また、選択したモンスターが相手ライフに戦闘ダメージを与えた時、フィールド上の魔法・罠カード1枚を選択して破壊できる。
暗闇の腕:通常罠
(1):セットされたこのカードが破壊された時に、相手モンスター1体を対象に発動する。そのモンスターを破壊し、自分はカードを1枚ドローする。
エーデルワイスLP8000手札3枚
バロールLP8000→7750手札4枚(うち1枚は侵略の汎発感染)
「我のターンだ! レスキューラビットを召喚し、効果発動。自身を除外し、デッキから二体のヴェルズ・ヘリオロープを特殊召喚する」
守勢に回ったエーデルワイスに対し、バロールはここぞとばかりに攻め立てる。
現れたのは、本来は慈愛と正義の心を持つ温厚な種族であるはずのジェムナイト。だが邪悪なる意思に支配され、その先兵へと変えられたその姿は黒く歪み、瞳は殺戮の愉悦に濁った赤い色。全身から禍々しいオーラが立上っていた。
「バトルだ。ヴェルズ・ヘリオロープで守備モンスターを攻撃」
エーデルワイスのフィールドに伏せカードはない。踏み込むヴェルズ・ヘリオロープに対して彼女は息を呑むことしかできない。
剣閃が走り、一刀がエーデルワイスの守備モンスター、フォトン・サークラーを破壊する。
「次だ。二体目のヴェルズ・ヘリオロープでダイレクトアタック」
無人の野を行くがごとく進軍するヴェルズ・ヘリオロープ。その剣がエーデルワイスを捕えた。
「宝珠を守れ! エーデルワイス!」
ルーの叫びが走る。エーデルワイスは咄嗟に宝珠と、デュエルディスクを抱え込むように身を縮めた。
直後に背中に激痛が走った。剣で切り付けられたのだ。
歯を食い縛って、悲鳴を耐える。ここで声を上げてしまったら、心まで罅割れてしまうと思ったからだ。
そして、歯を食い縛って耐えるエーデルワイスを、バロールが満足げに眺めていた。
「それでいい、それでいいぞエーデルワイス。簡単に倒されては詰まらん。この五体を引き裂かれた痛苦、この程度の痛みで晴らせるとは思わんことだ。
メインフェイズ2、二体のヴェルズ・ヘリオロープをオーバーレイ! 二体の闇属性モンスターでオーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚!
――――侵略の使徒よ、ここに来たれ。汝の波動は進軍を侵す毒とならん。出でよヴェルズ・ナイトメア!」
二度目のX召喚。虹色の爆発の向こうから現れたのは、XX-セイバー ボガーナイトの変わり果てた姿。
外見、装飾やマントの構図等に類似点が見られるが、印象は反転し、邪悪なる先兵と化してしまった。攻撃力が低いので、守備表示でのX召喚だ。
「カードを一枚セットし、ターンエンドだ」
レスキューラビット 地属性 ☆4 獣族:効果
ATK300 DEF100
「レスキューラビット」の効果は1ターンに1度しか使用できない。このカードはデッキから特殊召喚できない。(1):フィールドのこのカードを除外して発動できる。デッキからレベル4以下の同名の通常モンスター2体を特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターはエンドフェイズに破壊される。
ヴェルズ・ヘリオロープ 闇属性 ☆4 岩石族:通常モンスター
ATK1950 DEF650
フォトン・サークラー 光属性 ☆4 魔法使い族:効果
ATK1000 DEF1000
このカードの戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは半分になる。
ヴェルズ・ナイトメア 闇属性 ランク4 悪魔族:エクシーズ
ATK950 DEF1950
闇属性レベル4モンスター×2
相手がモンスターの特殊召喚に成功した時、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除いて発動できる。その特殊召喚したモンスターを裏側守備表示にする。
ヴェルズ・ナイトメアORU×2
エーデルワイスLP8000→6050手札3枚
バロールLP7750手札3枚
「私のターンです、ドロー!」
カードをドローし、それを確認するエーデルワイス。背中は実際に剣で斬られたわけではないが、痛みと衝撃は本物だ。ともすれば痛みで乱れてしまいそうな呼吸を、ルーに言われたとおり深呼吸で整える。
「落ち着いて……。落ち着いて……」
そう、まず落ち着くことが肝心だ。そのうえでフィールドを見てみればいい。
バロールのフィールドのモンスターは、ヴェルズ・ナイトメア一体のみ。このカードの守備力は1950。並の下級モンスターでは突破できず、上級モンスターを特殊召喚しようとすれば、効果によって裏守備にされて足止めされてしまう。
だが今引いたこのカードならば――――
「そう、突破は可能です。私は、フォトン・クラッシャーを召喚!」
エーデルワイスのフィールドに現れたのは、緑の鎧を着込んだ、隻眼の大男。手にした鎚を振り回し、エーデルワイスを守るように立ちはだかる。
「このままバトルです! フォトン・クラッシャーでヴェルズ・ナイトメアに攻撃!」
勇ましい攻撃宣下が走り、フォトン・クラッシャーが手にした大槌の一撃を振り下ろす。轟音とともに潰されるヴェルズ・ナイトメア。
ここで終わり。そうバロールが思った瞬間、ルーの声が迸った。
「いまだエーデルワイス! その速攻魔法を使うのだ!」
「はい! フォトン・クラッシャーの攻撃が終わったこの瞬間に、手札から速攻魔法、
「む――――――」
フォトン・クラッシャーの身体が青白い光に包まれる。光はどんどん強くなり、やがて戦士の輪郭も見えなくなっていく。
するとどうしたことか、戦士の輪郭が崩れ、形を変え、ドラゴンのフォルムへと変化していく。
光が水飛沫のように弾けた。現れたのは、青白く輝く体に、瞳に銀河を宿した巨大で、力強く、そして美しいドラゴン。
「まだバトルフェイズは続いているぞ、エーデルワイス! 追撃だ!」
「はい! 銀河眼の光子竜でダイレクトアタック!」
上体をそらし、口内に青白い輝きを蓄えるドラゴン。放たれた青の一撃がバロールを直撃。バロールの身体はわずかに残った別荘の壁をぶち抜き、その向こうのウェールズの森へと吹き飛ばされていった。
「よっしゃぁ! いいぞコナーさん!」
拳を握りガッツポーズを作り、喝采を上げる和輝。事実、バロールはドラゴンの一撃をまともに受けたうえに大きく吹き飛ばされた。
確かに、まともに食らった以上、宝珠が砕けていてもおかしくない。
だが次の瞬間、そんな和輝の喝采は驚愕に変わる。
バロールが吹き飛ばされていった方向から、闇の奔流が溢れ出した。
轟と溢れる濁流の中から悠然と歩み出てくるバロールの姿。その胸に輝く宝珠には傷一つない。
「あれをまともに食らって、宝珠に傷一つないのか」
呆れたようなロキの呟き。バロールは笑う。
「宝珠の硬度はすなわち、そのままプレイヤーの意志の強さを表す。我が身は一度滅ぼされた。その時に体験した死を思えば、あの程度のダメージ、いかほどの通用も感じぬ」
にやりと、威嚇するように笑うバロール。怯みかけるエーデルワイス。
「大丈夫だコナーさん! 数値の上ではちゃんとライフは削れてる! 並大抵の攻撃で宝珠を砕けないのなら、神の一撃に賭ければいい!」
「あの若者の言う通りだ、エーデルワイス。ただのモンスターの攻撃は無防備に受けても無事だろう。だが、神たる我が一撃ならば話は別だ。必ずや、彼奴めの宝具を砕けるだろう」
和輝の励ましの言葉が、エーデルワイスに暖かなものを与えてくれる。
確かに彼の言う通り、ダメージは与えた。ライフの上ではこちらが有利になった。加えて銀河眼の光子竜は攻撃力3000の強力なモンスターだ。効果こそ無効になっているが、その矛の鋭さに翳りはない。
「私は、カードを一枚伏せて、ターン終了です」
フォトン・クラッシャー 光属性 ☆4 戦士族:効果
ATK2000 DEF0
このカードは攻撃した場合、ダメージステップ終了時に守備表示になる。
銀河超越:速攻魔法
「銀河超越」は1ターンに1枚しか発動できない。(1):自分モンスターゾーンのトークン以外の攻撃力2000以上の「フォトン」モンスター1体をリリースして発動できる。デッキから、「銀河眼の光子竜」1体を効果を無効にして特殊召喚する。
銀河眼の光子竜 光属性 ☆8 ドラゴン族:効果
ATK3000 DEF2500
(1):このカードは自分フィールドの攻撃力2000以上のモンスター2体をリリースして手札から特殊召喚できる。(2):このカードが相手モンスターと戦闘を行うバトルステップに、その相手モンスター1体を対象として発動できる。その相手モンスターとフィールドのこのカードを除外する。この効果で除外したモンスターはバトルフェイズ終了時にフィールドに戻り、この効果でXモンスターを除外した場合、このカードの攻撃力は、そのXモンスターを除外した時のX素材の数×500アップする。
エーデルワイスLP6050手札1枚
バロールLP7750→4750手札3枚
「では私のターンだ、ドロー」
大ダメージを受けたはずのバロールは、それでもなお平然としていた。この程度のダメージは歯牙にもかけぬということか。
くつくつ嗤うバロール。彼はエーデルワイスと、彼女を守るように立ちはだかっている銀河眼の光子竜を見据え、
「銀河眼の光子竜か。面白いカードだ。強力なステータスと防御よりだがやはり厄介な効果を持っている。もっとも、今その効果の方は錆付いているがな。そのカードが、お前が最も信頼するモンスターか、エーデルワイス?」
「……その通りです。これは、お父様が私にくれたカード。敵を倒す剣となり、その身を守る盾になるだろうと」
悲し気に目を伏せるエーデルワイス。その胸中を、亡き父との思い出がよぎる。
幼いころ、神々の戦争のことも知らなかった、まだ無垢な子供だった頃に、彼女は父からこのカードをもらったのだ。
思えば父はこの時すでに、エーデルワイスの運命を知っていたのだろう。だからこのカードを託したのだ。そう思える。
そして、そんなエーデルワイスの様子を見て、バロールは笑った。禍々しく、陰惨に。
「そうか、そうかエーデルワイス。それを聞けて嬉しいよ。その絆、奪えるからなぁ。我は永続魔法、魂吸収を発動。さらにヴェルズ・ケルキオンを召喚する」
バロールのフィールドに現れたのは、元々はセイクリッド・ハワー。だがその姿は、リチュアの力、そしてヴェルズの力を吸収し、さらに高められた姿。ヴェルズを吸収したためか、その姿はセイクリッドの輝きを残しつつも、ヴェルズの闇に染まっている。
「ヴェルズ・ケルキオン効果発動。墓地のヘリオロープを除外し、もう一体のヘリオロープを回収する。魂吸収の効果で我がライフが500回復する。さらにケルキオンの効果により増えた召喚権を使い、ヘリオロープを召喚する」
瞬く間に二体のヴェルズがバロールのフィールドに揃った。その布陣を見て、そしてエーデルワイスのモンスターを見て、和輝が血相を変えた。
「まずい!」
だが和輝が焦ったところで仕方がない。何しろ、彼女の伏せカード次第で、対応できるかどうかが決まるからだ。
バロールがにやりと笑う。
「我は、ヴェルズ・ケルキオンとヴェルズ・ヘリオロープをオーバーレイ! 二体のヴェルズモンスターで、オーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚!」
虹色の爆発。そして巨躯が新たに現れる。
「侵略の使徒よ、ここに来たれ。汝の波動は主従を侵す毒とならん。出でよヴェルズ・バハムート!」
「やっぱり……」
苦々し気に呟く和輝。彼とロキの眼前で、巨躯が形を成した。
それは元々は氷結界の龍ブリューナク。青く美しかった神竜は、今や黒く禍々しい邪龍へと成り果てた。
そして邪悪なる意思に汚染されようとも、その凶悪な効果に翳りはない。
「ヴェルズ・バハムート効果発動。ORUを一つ使い、手札のヴェルズ・ゴーレムを捨て、銀河眼の光子竜のコントロールを得る!」
「ッ!? そんな……!」
驚愕で目を見開くエーデルワイス。その眼前、漆黒の邪龍から放たれた邪悪なる波動が銀河眼の光子竜を捕え、汚染し、その支配下に置いた。
陣営を離れる、エーデルワイスが最も信頼したドラゴン。その現実に、彼女の心が軋む。
そして戦況もまた、極めて悪くなった。
何しろ、バロールのモンスターの総攻撃をまともに受ければエーデルワイスのライフは風前の灯火。そもそもドラゴン二体の攻撃だ。宝珠が砕けても不思議はない。
「喰らうがいい、エーデルワイス。二体のモンスターでダイレクトアタック!」
二体のドラゴンが、華奢な少女を蹂躙しようと動きだす。
そんな、絶体絶命なエーデルワイスを庇うように、小さな影が飛び出した。
「――――――手札から、クリフォトンの効果を発動します! 2000ライフを払い、このターン、私はダメージを受けません!」
「よし! 凌いだ!」と和輝。
「だけど戦況は芳しくない。何とかしないと……」と険しい表情のロキ。
とにかく、防御は間にあった。2000ライフを払ったが、本来受けるダメージに比べれば安いものだ。
「凌いだか。まぁそれならばそれで構わん。我はこれでターンエンド――――」
「この瞬間! リバードトラップ、裁きの天秤を発動! 私の手札、フィールドのカードは一枚。貴方のフィールドのカードは四枚。その差三枚、ドローします!」
これはエーデルワイスにとって、起死回生に繋げる逆転の一手だった。
布陣は相変わらずバロール有利。だがここで逆転につながるカードを引ければ、手札の数で大きく優位に立てる。
そのはず、だった。
「おや、カードをドローしたなエーデルワイス。ならばこの瞬間、手札から速攻魔法、鏡面の宝札を発動だ。このカードはなエーデルワイス、相手がカードをドローした時、
「え――――――」
喜びを溢れさせようとしていたエーデルワイスの表情が凍りついた。
逆転の一手のカードはそのまま、自身を敗北に突き落とす敗着の一手だったのではないか、そうとさえも思えた。なにしろ、優位に立てると思ったハンドアドバンテージすら失ったのだ。
「もう何もないようだな。では、改めて、ターンエンドだ」
魂吸収:永続魔法
このカードのコントローラーはカードがゲームから除外される度に、1枚につき500ライフポイント回復する。
ヴェルズ・ケルキオン 闇属性 ☆4 魔法使い族:効果
ATK1600 DEF1550
自分の墓地の「ヴェルズ」と名のついたモンスター1体をゲームから除外する事で、自分の墓地の「ヴェルズ」と名のついたモンスター1体を選択して手札に加える。「ヴェルズ・ケルキオン」のこの効果は1ターンに1度しか使用できない。また、この効果を適用したターンのメインフェイズ時に1度だけ発動できる。「ヴェルズ」と名のついたモンスター1体を召喚する。このカードが墓地へ送られたターンに1度だけ、「ヴェルズ」と名のついたモンスターを召喚する場合に必要なリリースを1体少なくする事ができる。
ヴェルズ・バハムート 闇属性 ランク4 ドラゴン族:エクシーズ
ATK2350 DEF1350
「ヴェルズ」と名のついたレベル4モンスター×2
1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除き、相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動できる。手札から「ヴェルズ」と名のついたモンスター1体を捨て、選択した相手モンスターのコントロールを得る。
クリフォトン 闇属性 ☆1 悪魔族:効果
ATK300 DEF200
このカードを手札から墓地へ送り、2000ライフポイントを払って発動できる。このターン自分が受ける全てのダメージは0になる。この効果は相手ターンでも発動できる。また、このカードが墓地に存在する場合、「クリフォトン」以外の「フォトン」と名のついたモンスター1体を手札から墓地へ送って発動できる。墓地のこのカードを手札に加える。「クリフォトン」のこの効果は1ターンに1度しか使用できない。
裁きの天秤:通常罠
「裁きの天秤」は1ターンに1枚しか発動できない。(1):相手フィールドのカードの数が自分の手札・フィールドのカードの合計数より多い場合に発動できる。自分はその差の数だけデッキからドローする。
鏡面の宝札:速攻魔法
「鏡面の宝札」は1ターンに1度しか発動できない。(1):相手がカードの効果でカードをドローした時に発動できる。相手がドローした枚数分、カードをドローする。
ヴェルズ・バハムートORU×1
エーデルワイスLP6050→4050手札3枚
バロールLP4750→5250手札3枚
最悪のタイミングでのドローブーストを許してしまった。
おそらく、バロールはエーデルワイスが伏せたカードが裁きの天秤だと読んでいたのだ。
手札の一枚はクリフォトン。防御をそれ一枚に任せるならば、伏せカードは反撃の一手、或はその布石。一枚のカードで逆転できる伏せた方がいいようなカード――つまり通常魔法以外のカード――は少ないので、頼るのならばドローブースト。手札も減っている、相手のカードは増えている。そんな状況から導き出したのだろう、エーデルワイスの伏せカードが、裁きの天秤であると。
戦術は完全にバロールがエーデルワイスの上を行っている。
並の腕前ならばここで諦めるだろう。心が折れるだろう。事実、エーデルワイスの心には暗い影が忍び寄っている。
だが、その闇を祓う声があった。
「落ち着くんだコナーさん! 今の手札でできることを考えるんだ! 今の手札でできることがないならば、足りないパーツを思い描け! それを引きさえすれば、状況を変えられるんだ!」
和輝の声。ああそうだ。自分は一人ではないのだ。
エーデルワイスは思う。彼が見守っている。あの、最後まで諦めなかった少年が。
彼の声を受けて、彼のデュエルディスクを使っている。なら負けるな。ここで膝をつくことだけはするな。前を見据えろ。
恐怖を感じながら、それでもエーデルワイスは、まっすぐバロールを挑むように見据えた。