神々の戦争   作:tuki21

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第53話:死線の魔眼神

 子供の頃から、叔父さんのことはあまり好きではなかった。

 それは初めて会った時に見た、彼の目が原因かもしれない。

 

「初めまして、エーデルワイス」

 

 そう言った叔父さんは笑っていた。けれど目が笑っていなかった。それが異常に怖かった覚えがある。

 後になって、叔父さんは弟であるお父様が当主の座についたことで恨みに思っていたらしいと、屋敷のメイドたちが噂しているのを聞いた。

 気を許せない身内ほど厄介なものはない。いつ背後から刺されるか、常に警戒しなければいけないから。

 あの笑わない目を見てから、私は叔父さんが怖かった。

 けれど、そう、一度だけ――――

 たった一度だけ、叔父さんを怖くなかった時があった。

 あれはそう、ちょうどこのウェールズの森の別荘でのことだった。

 たぶん、お父様と些細なことで喧嘩したんだと思う。それで家を飛び出した。結果迷子になった。

 暗くなって周囲を把握できなくなって。

 怖くて動けなくて。

 泣きたくて。でも泣けなくて。

 子供心のちっぽけなプライドが、泣くことを許さなくて。

 私は大丈夫だと言い聞かせて。

 そして、木の根本で独り、震えていて。

 そんな時だった。

 

「ここにいたのか、エーデルワイス。探したぞ」

 

 そう声をかけたのは、叔父さんだった。

 彼は私の手を取って優しく立たせてくれた。

 誰かが来てくれた。その事実に心が決壊し、涙が止まらくなった。

 覚えている。その時に負ぶってもらったぬくもりを。あの安心感を。

 ああ、なのに。なぜこんなことになってしまったんだろう――――――。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

エーデルワイスLP4050手札3枚

ペンデュラムゾーン赤:なし青:なし

場 なし

伏せ なし

 

バロールLP5250手札3枚

ペンデュラムゾーン赤:なし青:なし

場 ヴェルズ・バハムート(攻撃表示、ORU(オーバーレイユニット):ヴェルズ・ヘリオロープ)、銀河眼の光子竜(ギャラクシーアイズ・フォトン・ドラゴン)(攻撃表示)、永続魔法:魂吸収

伏せ 1枚

 

 

「私のターンです」

 

 カードをドローする前に、エーデルワイスの動きが止まった。

 その頭は今現状を認識し、どうすれば打破できるかを必死に考えていた。

 まず、バロールの伏せカードは侵略の汎発感染で確定している。手札0枚から三枚ドローで、今のバロールの手札は完結していることから間違いない。

 そしてバロールのフィールド。ヴェルズ・バハムートに、銀河眼の光子竜。どちらも残せない。

 単純に打点の高い銀河眼に、まだORUを一つ残しているヴェルズ・バハムート。どちらかを残せばたちまちこちらの戦線は崩壊させられるだろう。

 だが肝心の自分の三枚の手札に、モンスターはいない。これでは敵モンスターを倒すどころか、次のターン生き残れるかも怪しい。

 無言で、和輝(かずき)の言葉を思い出す。

 この手札で何ができるのか、足りないピースはなんなのか?

 分かっている。足りないパーツ。求めるカードは頭に浮かんでいる。

 あとはそれを引くだけ。引くだけだ。

 小さく息を吐く。デッキに手をやる前に、デュエルディスクに触れた。勇気が欲しくて。和輝のような、屈しない心が欲しくて。

 そうすると安心できた。同時に勇気が湧いてきた。

 

「ドロー!」

 

 その安心感を胸に秘めたままドロー。引いたのはフォトン・パイレーツ。何の変哲もないモンスターカード。だがこのカードこそ、エーデルワイスが欲した最後のピースだった。

 

「来てくれた。ありがとうございます、私のデッキ! 私はフォトン・パイレーツを召喚し、効果を二回発動します! フォトン・サークラーとフォトン・スラッシャーを除外し、フォトン・パイレーツの攻撃力を2000アップ!」

 

 フォトン・パイレーツ――青白く光る身体、赤黒い海賊風アーマーパーツ、同じく青白い光を発するサーベル二刀流の海賊モンスター――が現れ、エーデルワイスの墓地から飛び出した怨念を吸収、自身を強化する。勿論、魂吸収の効果でバロールのライフが回復してしまうが、構っていられる状況ではない。

 ともかく、これでフォトン・パイレーツの攻撃力は3000。ヴェルズ・バハムートは撃破できるし、銀河眼の光子竜相手でも相討ちまで持って行ける。

 もっとも、攻撃するならばヴェルズ・バハムートが優先か。ヴェルズ・バハムートならば一方的に破壊できるし、モンスターを奪われる心配がなくなる。さらに貧弱な攻撃力に戻ってしまうとはいえ、モンスターを残せるのは大きい。

 

「永続魔法、補給部隊を発動し、バトルです! 私は、フォトン・パイレーツで、銀河眼の光子竜を攻撃!」

 

 だがエーデルワイスが選んだのは銀河眼の光子竜。銀河眼の光の一撃が口腔内から放出される。光の一撃に対し、フォトン・パイレーツが剣を投擲。直後に海賊が竜の一撃を受けて消滅。だが海賊が放った剣の一撃が竜の喉元に直撃、貫き、その巨体を頽れさせた。

 壮絶な相討ち。その瞬間、エーデルワイスが動いた。

 

「補給部隊の効果で一枚ドロー! そしてこの瞬間、速攻魔法、銀河再誕(ギャラクシー・リ・バース)発動! 今破壊された銀河眼を復活させます! 返してもらいますよバロール! 私の銀河眼の光子竜を!」

 

 再びエーデルワイスのフィールドに現れる銀河眼の光子竜。その威容を誇り、咆哮が、まるでエーデルワイスに攻撃させたバロールに対する怒りの声のようにも聞こえる。

 

「まだバトルフェイズは続いています! 銀河眼の光子竜でヴェルズ・バハムートを攻撃!」

 

 バロールの伏せカードが確定している以上、彼にこれを防ぐ手段は乏しい。

 そしてバロールは何の反応も見せず、ヴェルズ・バハムートが破壊されるのをただ黙って見ていた。

 

「ふん、この程度のダメージ。毛ほども感じん。そもそも我がライフは逆に増えているぞ、エーデルワイス」

「……それでも、貴方の布陣を壊滅させた事実は変わりません。カードを二枚伏せて、ターン終了です」

 

 

補給部隊:永続魔法

(1):1ターンに1度、自分フィールドのモンスターが戦闘・効果で破壊された場合にこの効果を発動する。自分はデッキから1枚ドローする。

 

フォトン・パイレーツ 光属性 ☆3 機械族:効果

ATK1000 DEF1000

自分のメインフェイズ時に自分の墓地の「フォトン」と名のついたモンスター1体をゲームから除外して発動できる。このカードの攻撃力はエンドフェイズ時まで1000ポイントアップする。「フォトン・パイレーツ」の効果は1ターンに2度まで使用できる。

 

銀河再誕(ギャラクシー・リ・ボーン):速攻魔法

(1):フィールドの「ギャラクシー」または「フォトン」モンスターが戦闘で破壊された時に発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。(2):???

 

 

エーデルワイスLP4050手札0枚

バロールLP5250→6250→5600手札3枚

 

 

「我のターンだ、ドロー」

「逆転した、けれど……」

「ああ。バロールの余裕が崩れていない。あの手札で、この盤面だってひっくりかえせるって思ってるんだ」

 

 ロキと和輝の言葉。それを裏付けるように、バロールは口の端を笑みに吊り上げた。

 

「礼を言うよエーデルワイス。我がフィールドを空にしてくれて。おかげてこいつを召喚できる。来い、ダーク・クリエイター」

 

 バロールが召喚したのは、ヴェルズモンスターではなかった。

 もともとは創生神だったが、光の神は闇に堕ちた。

 前身は漆黒に染まっており、畳まれた翼は開かれ、目は狂気に染まっている。だがその効果はいささかも衰えていない。

 

「さて、これから展開するぞエーデルワイス。ついて来れるか?

 ダーク・クリエイター効果発動。墓地のヴェルズ・ナイトメアを除外し、ヴェルズ・ケルキオンを蘇生させる。

 ヴェルズ・ケルキオン効果発動。墓地のヴェルズ・サラマンドラを除外し、ヴェルズ・カストルを回収。さらにケルキオンの効果によって増えた召喚権を使い、ヴェルズ・カストルを召喚。カストルの効果によって増えた召喚権で、ヴェルズ・サンダーバードを召喚する」

 

 瞬く間に三体のヴェルズが揃ってしまった。あっという間にあふれかえった軍勢に、エーデルワイスが言葉を失った。

 

「三体のレベル4モンスターが並んだね。焼け野原なフィールドから、大したものだ」とロキ。

「そしてこれはまずい。コナーさんの伏せカード次第だが、オピオン、バハムートとくれば、次に来るヴェルズXモンスターは決まってる。浸食された神竜最後の一体だ」

 

 和輝の独白を聞き届けたのか、それに応えるようにバロールが笑った。

 

「我はヴェルズ・ケルキオン、カストル、サンダーバードの三体をオーバーレイ! 三体のモンスターで、オーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚!」

 

 X召喚のエフェクトが走る。バロールの頭上に展開された、渦巻く銀河のような空間。その空間に向けて、紫の光となった三体のヴェルズが飛び込んだ。

 虹色の爆発が起こる。

 

「侵略の使徒よ、ここに来たれ。汝の波動は城を侵す毒とならん。出でよヴェルズ・ウロボロス」

 

 爆発の向こうから現れる巨躯。

 もともとは氷結界の龍トリシューラ。やはり美しくも恐ろしかった蒼銀の姿は黒く変色しており、ドロドロと腐敗したような、禍々しく、おぞましい姿へと変異していた。

 

「ヴェルズ・ウロボロス効果発動。ORUを一つ使い、銀河眼の光子竜をバウンスする」

「あっ!」

 

 エーデルワイスが声を上げた時にはもう遅い。彼女の銀河眼の光子竜はまるで上空に穴が開いたかのように、何かに吸い込まれるように消えていく。行先は墓地ではなく、エーデルワイスの手札。これで彼女は再び頼りになる盾も矛も失ってしまった。

 

「いかん!」

「遅い、遅いなぁルー。今更焦っても、遅すぎる。バトルだ! ヴェルズ・ウロボロスでダイレクトアタック!」

 

 バロールの攻撃宣言が下る。堕ちた邪龍が三つの(アギト)を開き、そこから三重螺旋の闇の吐息(ダークブレス)を放つ。

 飲み込まれればひとたまりもない一撃。それを凌いだのは、目に見えぬ不可視の障壁だった。

 

「リバースカード、ガード・ブロック発動! 戦闘ダメージを0にして、カードを一枚ドロー!」

 

 闇の奔流から身を守ることに成功したエーデルワイス。だがまだバロールの攻撃を全て防いだわけではない。

 

「躱したか。では次はどうだ? ダーク・クリエイターでダイレクトアタック!」

 

 ダーク・クリエイターが両手を胸の前にかざす。すると、両掌の間に黒い球が作りだされる。大人一人が立ってもなお余裕で収まりそうな大きさの黒球が、一気に放たれた。

 躱すのも困難な致命の一撃。だがそれさえも防がれる。エーデルワイスの伏せカードが翻ったのだ。

 

「リビングデッドの呼び声発動! 墓地からフォトン・クラッシャーを特殊召喚します!」

「壁にしかならん! 粉砕しろ、ダーク・クリエイター!」

 

 構わず攻撃続行。黒球の一撃を受けて、フォトン・クラッシャーが消滅する。

 

「……ッ! 補給部隊の効果で、一枚ドロー!」

 

 悲鳴を押し殺すエーデルワイス。その様を見て、バロールが鼻を鳴らした。

 

「まぁいい。そうやって足掻く姿を手折るのもまた一興。嬲りがいがある。我はこれでターンエンドだ」

 

 

ダーク・クリエイター 闇属性 ☆8 雷族:効果

ATK2300 DEF3000

このカードは通常召喚できない。自分の墓地に闇属性モンスターが5体以上存在し、自分フィールド上にモンスターが存在しない場合に特殊召喚できる。1ターンに1度、自分の墓地の闇属性モンスター1体をゲームから除外する事で、自分の墓地の闇属性モンスター1体を選択して特殊召喚する。

 

ヴェルズ・サンダーバード 闇属性 ☆4 雷族:効果

ATK1650 DEF1050

魔法・罠・効果モンスターの効果が発動した時、自分フィールド上のこのカードをゲームから除外できる。この効果は相手ターンでも発動できる。この効果で除外したこのカードは次のスタンバイフェイズ時にフィールド上に戻り、攻撃力は300ポイントアップする。「ヴェルズ・サンダーバード」の効果は1ターンに1度しか発動できない。

 

ヴェルズ・ウロボロス 闇属性 ランク4 ドラゴン族:エクシーズ

ATK2750 DEF1950

レベル4モンスター×3

1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除き、以下の効果から1つを選択して発動できる。以下の効果はこのカードがフィールド上に表側表示で存在する限りそれぞれ1度しか選択できない。

●相手フィールド上に存在するカード1枚を選択して持ち主の手札に戻す。

●相手の手札をランダムに1枚選んで墓地へ送る。

●相手の墓地に存在するカード1枚を選択してゲームから除外する。

 

ガード・ブロック:通常罠

相手ターンの戦闘ダメージ計算時に発動する事ができる。その戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になり、自分のデッキからカードを1枚ドローする。

 

リビングデッドの呼び声:永続罠

(1):自分の墓地のモンスター1体を対象としてこのカードを発動できる。そのモンスターを攻撃表示で特殊召喚する。このカードがフィールドから離れた時にそのモンスターは破壊される。そのモンスターが破壊された時にこのカードは破壊される。

 

 

ヴェルズ・ウロボロスORU×2

 

 

エーデルワイスLP4050→3750手札3枚(うち1枚は銀河眼の光子竜)

バロールLP5600→6100→6600手札2枚

 

 

「私のターン、ドロー!」

 

 勇ましく叫んで、カードをドローするエーデルワイス。その耳朶に、半透明のルーの声が届く。

 

「エーデルワイス、状況は不利だ。銀河眼の光子竜は手札にいても腐るだけの最上級モンスター。さらにバロールのモンスターは二体とも放置できん。かといって、守りに徹してもいずれ削り切られるぞ」

「ええ、分かっています。ルー。けれど大丈夫です。銀河眼は……、私が最も信頼するモンスターは、たとえ手札に戻されても、私を助ける手段を残してくれました。

 私は、銀河眼の光子竜を捨て、トレード・イン発動! カードを二枚ドローします!」

 

 レベル8の銀河眼が手札に来たからこそ、エーデルワイスは更なるドローが可能となった。銀河眼の光子竜は、自身が戦力にならない状況でも、こうしてエーデルワイスのために突破口となってくれたのだった。

 

「よし、これならいけます! フォトン・サンクチュアリ発動! 私のフィールドに、二体のフォトントークンを特殊召喚します。さらにこの二体のトークンをリリース! フォトン・カイザーをアドバンス召喚!」

 

 新たに現れたのは、フォトンモンスター共通の、青白く発光する体に青を基調にした鎧姿。大剣に盾と、他のモンスターよりも重厚感のあるいでたちは皇帝(カイザー)の名にふさわしい。

 

「フォトン・カイザーの効果発動! デッキから二枚目のフォトン・カイザーを特殊召喚! さらに銀河零式(ギャラクシー・ゼロ)を発動! 墓地の銀河眼の光子竜を復活させ、このカードを装備します!」

「三体の、レベル8モンスター」

 

 エーデルワイスのフィールドに居並ぶモンスターたちを前に、バロールがこのデュエルで初めて、警戒に満ちた表情を浮かべた。

 彼は分かったのだ。この局面から出てくるモンスターが。その強力性が。

 

「行きますバロール! これが今の私の全力です! 二体のフォトン・カイザーと、銀河眼の光子竜をオーバーレイ! 三体のモンスターで、オーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚!」

 

 ばっと右手を大きく天へとかざすエーデルワイス。彼女の頭上に、今までバロールが散々使ってきたエクシーズエフェクトが展開。渦巻く銀河のようなその中心点に、白い光となった三体のフォトンモンスターが飛び込んでいく。

 

「逆巻く銀河よ。今こそ我が力となりて、化身の龍となってこの地に来たれ! これが私の祈り。私が出せる全て! |超銀河眼の光子龍《ネオ・ギャラクシーアイズ・フォトン・ドラゴン》!」

 

 虹色の爆発、その向こうから赤い光が目を焼かんばかりの強さで輝く。

 炎のように力強い姿が顕現する。

 今までの青白い輝きから一転、攻撃的なまでに赤く輝く体に、翼の根本から生えた二つの首を追加した、三つ首姿。元となった銀河眼の光子竜と比べ、一回りも二回りに巨大になり、轟く咆哮は天を裂き地を砕かんばかりだ。

 

「よっし! 攻撃力4500!」と歓声を上げるロキ。

「しかも超銀河眼はエクシーズに対して多大な効果を上げる。その上――――」ぐっとガッツポーズをとる和輝。そして、

「はい! 岡崎さんが言おうとしていた通り、超銀河眼が銀河眼の光子竜を素材にX召喚された時、このカード以外の表側表示カードの効果を無効にします! 超銀河眼、その大いなる咆哮で、魔を祓ってください!」

 

 エーデルワイスの願いに応えるように、超銀河眼が咆哮を上げる。

 咆哮は空気を震わせ、衝撃が全体に伝播。次の瞬間、超銀河眼の光子龍以外の全てのカードが色を失った。

 

「さらに、超銀河眼の光子龍のもう一つの効果発動! ORUを一つ使い、相手XモンスターのORUを全て吸収! さらに吸収したORU一つにつき、攻撃力500アップ! 加えて、吸収したORU分攻撃できます!」

「今、バロールのフィールドにあるORUはヴェルズ・ウロボロスの二つだから、攻撃力1000アップに加えて二回攻撃だ。行け、コナーさん!」

 

 和輝の声援がエーデルワイスの背中を押す。

 勇気づけられ、エーデルワイスは一歩、前に出た。

 

「バトルです! 超銀河眼の光子龍で、攻撃!」

 

 超銀河眼の光子龍は二回攻撃が可能。さらにバロールのモンスターは二体のみ。伏せカードは脅威ではなく、最早この攻撃を止める手段はない。

 超銀河眼の光子龍が上体をそらし、三つの口内に光を溜め込んだ。

 放たれた三連の光は一つに重なり合い、混ざり合う。

 まるでドラゴンの怒りを表したかのような赤く輝く極光の一撃。

 光の大瀑布がバロールのフィールドに直撃。彼のモンスター、ヴェルズ・ウロボロスとダーク・クリエイターはなすすべなく飲み込まれ、消えていった。

 

「が――――ああああああああああああああああああ!」

 

 バロールの絶叫が轟く。ダメージのフィードバックは強烈で、さしものバロールも苦痛による絶叫を抑えきれなかったのだ。

 光の瀑布が終わる。見ればバロールはよろめいていた。しかしそれでも、膝はつかない。どころか、くつくつと肩を震わせて笑ってさえいた。

 

「これだ……。この痛み、死に至る苦しみ……。これこそ、お前たちに味合わせてやりたいものだ。ルー、エーデルワイス……!」

 

 痛みに歪めながらも、なお笑みを浮かべるバロール。その凄惨な、鬼気迫る表情に、エーデルワイスは気圧された。

 

「エーデルワイス、大丈夫だ。このデュエル、我らに有利だ。このまま押し切るぞ」

「……はい、そうですね、ルー。バトルフェイズを終了。メインフェイズ2に入り、墓地のクリフォトンの効果を発動します。手札のフォトン・サテライトを捨て、墓地のクリフォトンを回収。ターン終了です」

 

 

トレード・イン:通常魔法

(1):手札からレベル8モンスター1体を捨てて発動できる。自分はデッキから2枚ドローする。

 

フォトン・サンクチュアリ:通常魔法

このカードを発動するターン、自分は光属性モンスターしか召喚・反転召喚・特殊召喚できない。①:自分フィールドに「フォトントークン」(雷族・光・星4・攻2000/守0)2体を守備表示で特殊召喚する。このトークンは攻撃できず、S素材にもできない。

 

フォトン・カイザー 光属性 ☆8 戦士族:効果

ATK2000 DEF2800

このカードが召喚・反転召喚に成功した時、自分の手札・デッキから「フォトン・カイザー」1体を特殊召喚できる。

 

銀河零式:装備魔法

「銀河零式」は1ターンに1枚しか発動できない。(1):自分の墓地の「フォトン」モンスターまたは「ギャラクシー」モンスター1体を対象としてこのカードを発動できる。そのモンスターを攻撃表示で特殊召喚し、このカードを装備する。装備モンスターは攻撃できず、効果も発動できない。(2):装備モンスターがバトルフェイズに戦闘・効果で破壊される場合、代わりにこのカードを破壊できる。(3):表側表示のこのカードがフィールドから離れた場合に発動する。このカードを装備していたモンスターの攻撃力は0になる。

 

超銀河眼の光子龍 光属性 ランク8 ドラゴン族:エクシーズ

ATK4500 DEF3000

レベル8モンスター×3

「銀河眼の光子竜」を素材としてこのカードがエクシーズ召喚に成功した時、このカード以外のフィールド上に表側表示で存在するカードの効果を無効にする。1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除いて発動できる。相手フィールド上のエクシーズ素材を全て取り除き、このターンこのカードの攻撃力は取り除いた数×500ポイントアップする。さらに、このターンこのカードは取り除いた数まで1度のバトルフェイズ中に攻撃できる。

 

 

超銀河眼の光子龍ORU×4

 

 

エーデルワイスLP3750手札1枚(クリフォトン)

バロールLP6600→3400→650手札2枚

 

 

「我のターンだ。くくっ」

 

 カードをドローしたバロールは、笑った。

 この圧倒的窮地で、風前の灯火のライフで、なお笑うのだ、この邪神は。

 それが、ただの虚勢であるとは、この場の誰も思わなかった。

 同時に、和輝はある可能性を感じていた。それは神々の戦争を戦い抜いてきた彼だからこそ感じる、予感ともいえるものだった。

 

「さて、いささか心もとない手札なのは事実。補充しておこう。終わりの始まりを発動。墓地のヴェルズ・オピオン、ヴェルズ・バハムート、ヴェルズ・ゴーレム、ヴェルズ・ウロボロス、ダーク・クリエイターを除外し三枚ドローだが、ここはもっとドローしておこう。終わりの始まりにチェーン、連続魔法。手札を全て捨て、制約とコストを踏み倒し、終わりの始まりの効果だけをもう一度発動する!」

「つまり、六枚のドローということか」

 

 ルーの声音は険しい。エーデルワイスも、声にこそ出さないが、不安げな表情を浮かべた。

 一気に六枚のカードが、バロールのデッキから引き抜かれる。「くはっ」とバロールが笑みをこぼした。

 

「コナーさん!」すかさず叫ぶ和輝。続けざまに言う。「バロールはこのターン、神を召喚するつもりだ!」

「え!?」

 

 驚くコナー。だが反対に、バロールはさらに笑みを深くした。

 

「なるほどなるほど。さすがは歴戦の戦士、といったところか、ロキの契約者よ。その通り、見せてやろう、我が真骨頂を!

 まずは死者蘇生を発動! 墓地のヴェルズ・ケルキオンを蘇生し、効果発動! 墓地のヴェルズ・ヘリオロープを除外し、ヴェルズ・カストルを回収する」

 

 困惑するエーデルワイス。「待ってください! ヴェルズ・カストルは今、超銀河眼の光子龍の効果によって、このモンスターのORUとして吸収されているはずです!」

 すでに答えにたどり着いているルー。「連続魔法だ、エーデルワイス。連続魔法発動時に捨てた手札、あれが二枚目のヴェルズ・カストルだったのだ」

 正解とばかりに牙のように鋭く尖った犬歯を見せるバロール。「その通りだ。そしてヴェルズ・ケルキオンの効果によって増えた召喚権を使い、ヴェルズ・カストルを召喚。さらにカストルの効果によって増えた召喚権で、ヴェルズ・オ・ウィスプを召喚する」

 

 瞬く間に揃えられる三体のモンスター。しかもバロールはまだ、ルール上の召喚権を残している。今までの連続召喚は、全てヴェルズの効果によって増えた、ヴェルズモンスターのみを召喚できる権利なのだ。

 

「……来る」

 

 和輝の呟きが聞こえたかどうか、そのタイミングに応えるかのように、バロールが声高らかに宣言した。

 

「我は三体のヴェルズをリリース!」

 

 その瞬間、エーデルワイスはぞくりと背中に悪寒を感じた。

 それが何なのか、その正体を理解する前に、バロールのフィールドに異変が生じた。

 バロールのフィールドの、三体のモンスターの身体が瞬く間に黒ずんでいき、人型の灰のように崩れ去ってしまった。

 

「ッ!」

 

 重圧が場を支配する。三体のモンスターの命を依代に、大きな力がやってくるのを感じた。

 

「来るぞ、エーデルワイス」

 

 ルーの警告。その直後に――――

 

「来たれ我が分身、我が力! 死線の魔眼神バロール!」

 

 神が、顕現した。

 膨大な力が一点に収束。収束地点は、エーデルワイスと対峙していたバロール。

 その身体が闇に包まれる。闇が硬質化し、形を成した。

 姿はそのままに、バロールの格好が変化する。

 狩猟服を思わせる貴族服は完全に消え去り、代わりに身を覆っているのは漆黒の鎧。

 ところどころ爪や牙を思わせる角がかみ合ったような装飾が施された鎧姿になり、胸の部分に赤く輝く大きな眼、復讐心に燃える、紅い隻眼だった。

 

「ああ、ああエーデルワイス。我が死が言っているぞ、我が魂が言っているぞ! 五体を引き裂いたルーを殺し、その契約者を殺し、契約者の親類縁者も皆殺しに知ろと! そこまでしてようやく、ようやくだエーデルワイス。ようやく我が魂の渇きは潤うのだ!」

 

 歓喜とも、怒りともつかぬ声音で叫ぶバロール。

 だがそれはあまりにも身勝手な理論だ。復讐心とさえ呼べない。

 

「勝手をほざくなバロール! 貴様の怨嗟も、怒りも知ったことか! それらが、エーデルワイスから家族を奪い、今また、大切な友を奪おうとする理由にはならん!」

 

 ルーの怒りの叫び。だがバロールは全く意に介さない。歪んだ復讐心を鎧と共に身にまとった邪神に、一切の声は届かない。

 

「聞こえん、聞こえんなぁルー! 貴様の言葉など、我が経験した死の前にはぬるま湯の如し! さぁルー! エーデルワイス! 我が前に散れ! 死に絶えろ! バロール()の効果発動! エーデルワイス、貴様が頼りにしている超銀河眼の光子龍を破壊する!」

 

 ぎょろり。バロールの胸、その直死の魔眼が蠢き、エーデルワイスの超銀河眼の光子龍を見据えた。

 

「見ろ、視ろ、観ろ! 我が眼を魅ろ! これこそが我が力だ。我が下す死だ!」

 

 次の瞬間、まったく、何の前触れもなく苦しみもがき出す超銀河眼。その身をかがめ、翼はたたまれ、地に倒れ伏した。

 

「な――――」

 

 何が起こったのか。エーデルワイスがそれを理解する前に、超銀河眼の光子龍の姿はまるで灰のように崩れ去ってしまった。

 

「超銀河眼!」

 

 悲痛な声で叫ぶエーデルワイス。言葉の続きを、バロールの哄笑が遮った。

 

「まだだ。まだだぞエーデルワイス。我が効果が、単純なモンスター破壊であるはずがなかろう。我が追加効果。我が効果で破壊したモンスターと同じ攻撃力の死眼トークンを特殊召喚する! 来たれ、超銀河眼の現身よ!」

 

 バロールの傍らに現れる巨体。その姿はまさしく今破壊された超銀河眼の光子龍。

 否、それを果たして、超銀河眼の光子龍と呼んでいいものか。

 色彩が違う。それはいい。全体的に灰色がかったカラーリングになっているが、それは偽物なのだからと納得できることだ。

 もう一つの異変こそが問題だった。超銀河眼の光子龍の全身の至る所に、ギョロギョロと周囲を忙しなく観察するように蠢く、無数の赤い眼球が生えていたのだ。

 まるで妖怪百目のようなそのグロテスクなあり様に、エーデルワイス、和輝、ルー、ロキ(二人と二柱)は嫌悪に顔を歪めた。エーデルワイスに至っては青ざめた表情で口元を抑えている。

 

「エーデルワイス、青ざめるのはまだ早いぞ? バロール()のもう一つの効果! 一ターンに一度、相手墓地のモンスター一体を装備し、その攻撃力分、我が攻撃力を上昇させる! この意味が分かるな、エーデルワイス? 当然! 我はお前の墓地の超銀河眼の光子龍を装備する!」

 

 エーデルワイスが体を強張らせ、表情を引きつらせるよりも先んじて、バロールが動いた。

 ガチガチガチと、何かをかみ合わせるような音が響く。

 音の出所はバロールの鎧、その腹部。まるで牙と牙を打ち鳴らしているような、耳障りな音が続き、次の瞬間、バロールの腹部が()()()と開いた。

 それはまるで口のようだった。否、()()()ではなく、真実口だったろう。

 ずらりと上下に並んだ鋭い牙、その奥に続く暗く深い、口内。今にも生臭い臭いが漂ってきそうな、怪物の口の中。

 そして、大きく開かれたその口が、目に見えず肌にも感じない吸引力を発揮したのか、エーデルワイスの墓地から半透明の――いわゆる、霊体だろうか――超銀河眼の光子龍が引きずり出され、そしてバロールの大口の中へと吸い込まれてしまった。

 バリバリと響く咀嚼音。嚥下したのか、ゴクリという音まで続いた。

 

「これで我が攻撃力は8000だ。

 さぁバトルと行こう! 我自身でダイレクトアタックだ!」

 

 バロールの背後に赤い闇が集う。闇は即座に硬質化し、巨大な槍の形をとった。

 槍の穂先がエーデルワイスの心臓を指す。

 

「エーデルワイス!」

「は、はい!」

 

 ルーの切羽詰まった警告によって、まだどこか呆然としていた――当然と言えば当然だ。己の最強のカードがあんな無残な目にあったのだから――エーデルワイスは弾かれたように反応する。

 バロールの槍が放たれる直前、エーデルワイスは唯一の手札を翻した。

 

「て、手札のクリフォトンの効果発動! 2000ライフを払い、私へのダメージを防ぎます!」

 

 直後、バロールの赤槍が放たれる。槍の穂先に立ちはだかる小さな守護者、クリフォトン。

 衝撃。クリフォトンは必死の形相で、神の一撃に耐える。全ては己の主、エーデルワイスを守るため。

 衝撃、閃光、そして轟音が辺りに満ち、周囲を薙ぎ倒す。

 屋敷の残骸が吹き飛ばされ、木々が倒れ、地響きを上げていく。

 

「ぐ……!」

 

 その場に伏せて耐える和輝。見ればエーデルワイスも突風でかき上げられる髪を手で押さえながら、何とか踏みとどまっていた。

 

「くくく。もうこれで、その小さな守護者も使えないな。お前のライフは2000を切った。エーデルワイス、次が、お前が迎える最後のターンになりそうだな。我はカードを二枚セットし、ターンエンドだ」

 

 

死者蘇生:通常魔法

(1):自分または相手の墓地のモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを自分フィールドに特殊召喚する。

 

死線の魔眼神バロール 神属性 ☆10 幻獣神族:効果

ATK3500 DEF4000

このカードは特殊召喚できない。このカードは3体のモンスターをリリースしてのみ通常召喚できる。(1):このカードは神属性、幻神獣族モンスターの効果以外のカード効果ではフィールドを離れず、コントロールも変更されない。(2):このカードが相手のカードの効果を受けた時、エンドフェイズにこのカードに対するそのカード効果を無効にする。(3):1ターンに1度、相手フィールド上の表側表示モンスター1体を対象に発動できる。対象モンスターを破壊し、そのモンスターの元々の攻撃力、守備力の死眼トークン(神属性・幻獣神族・レベル10・ATK/DEF?)を1体特殊召喚する。(4):1ターンに1度、相手の墓地のモンスター1体を対象にして発動できる。対象モンスターをこのカードに装備し、このカードの攻撃力は装備したモンスターの攻撃力分アップする。

 

 

死眼トークン攻撃力4500、守備力3000

死線の魔眼神バロール攻撃力3500→8000

 

 

エーデルワイスLP3750→1750手札0枚

バロールLP650手札1枚

 

 

 バロールの哄笑が轟く。神の登場で、戦況は一気にバロールに傾いたと言っていいだろう。

 で、ある以上、バロールの優位は揺るがない。

 

「これは、ボクらが戦う必要が出てきたかもね」

 

 戦況を見守るロキの呟きが、虚しく消えていった。

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