「これは、ボクらが戦う必要が出てきたかもね」
ロキのそんな台詞を聞きとがめたのは、もちろん隣にいた
「おいロキ。何馬鹿なこと言ってやがる」
憤怒というよりも、呆れを含めて、和輝は言った。
「見ろ。コナーさんの目はまだ諦めてねぇ。彼女が諦めないから、俺も諦めない。彼女が勝つ未来を諦めない。信じるさ」
「……なるほど、悪かったよ、和輝。君の信頼に唾を吐いて。――――それにしても、絶望的状況でも心を折らない強さ、屈しない精神。それでこそ、人間は素晴らしい」
ロキの台詞の後半部分は、誰の耳にも届かず、千切れて消えた。
エーデルワイスLP1750手札0枚
ペンデュラムゾーン赤:なし青:なし
場 永続魔法:補給部隊(効果無効化)
伏せ なし
バロールLP650手札1枚
場 死線の魔眼神バロール(超銀河眼の光子龍装備、攻撃表示、攻撃力3500→8000)、死眼トークン(攻撃力4500、攻撃表示)、永続魔法:魂吸収(効果無効化)
伏せ 3枚(うち1枚は侵略の汎発感染)
「私のターンです、ドロー!」
手札は0、ライフも2000を切ったため、クリフォトンで身を守ることももうできない。
絶体絶命、危機的状況だ。だが、エーデルワイスは諦めない。
勇気をもらった。背中を押してもらった。だからこそ、ここで、諦めて膝をつく姿だけは見せられない。
「メインフェイズ1開始時に、貪欲で無欲な壺を発動します! 墓地の二枚のフォトン・カイザー、そして
貪欲で無欲な壺:通常魔法
メインフェイズ1の開始時に自分の墓地から異なる種族のモンスター3体を選択して発動できる。選択したモンスター3体をデッキに加えてシャッフルする。その後、デッキからカードを2枚ドローする。このカードを発動するターン、自分はバトルフェイズを行えない。
「我のターン! この期に及んでクリフォトンを手札に加えるか、エーデルワイス。そんなにしてまで、その小さな守護者に縋りたいのか? 無駄だ。もはやライフが足りん。これでは我が攻撃は防げぬ、ライフは消し飛び、お前は死ぬ。ルーと共に!」
「――――――そう、思うのなら。攻撃すればどうですか、バロール?」
口元に笑みを浮かべて、エーデルワイスは言った。
見え透いた挑発だが、エーデルワイスが恐怖を感じていることはすぐにわかる。声は震えているし、ロングスカートなため見えないが、きっと膝も笑っているだろう。肩だって、今も小刻みに震えている。
気丈な虚勢。その怯えを心地よいと思いながら、くつくつとバロールは笑う。
「ならば望み通りにしてやろう。二枚目のヴェルズ・ケルキオンを召喚し、効果発動。墓地のヴェルズ・オ・ウィスプを除外し、ヴェルズ・サンダーバード回収。再召喚。
さらに
バロールの手勢が増え、さらに攻撃力は1000の大台に乗った。
「バトルだ。死眼トークンで守備モンスターを攻撃」
一歩、前に出る、超銀河眼の光子龍を模した死眼トークン。本物にはありえない、無数の赤い目がギョロギョロと蠢き――生理的嫌悪感を催させる光景だった――、ターゲット捕捉。無数の視線が一斉にエーデルワイスの守備モンスターに向けられた。
次の瞬間、全ての眼球から赤い光線が放たれる。
レーザー光線。それらは放物線を描いてエーデルワイスの守備モンスターに殺到。
着弾。じゅっという蒸発音を上げて、守備モンスターはその姿を見せる間もなく焼き尽くされた。
「こ、この瞬間! セットしていた
エーデルワイスの守備モンスターは、リバース時に回復とリクルートを兼ねたモンスター、銀河魔鏡士。ただし、今エーデルワイスの墓地にギャラクシーモンスターは存在しないため、ライフ回復は起こらず、新たな銀河魔鏡士のリクルートのみが適用された。
舌打ちするバロール。今、既に墓地にギャラクシーモンスターである銀河魔鏡士がおかれたのだ、ここで二枚目の銀河魔鏡士を破壊すれば、一枚目の効果によって除外されるので後続は出ないが、ライフは回復される。
そうなればエーデルワイスのライフは2250。手札のクリフォトンの効果も使えるのだ。
「……ヴェルズ・ケルキオンで攻撃」
バトルフェイズは続行される。ヴェルズ・ケルキオンが放った黒い光弾の雨を受け、二枚目の銀河魔鏡士が撃破された。
「ッ! 銀河魔鏡士の効果で、私のライフは500回復します! ――――これで、クリフォトンのコストは確保できました」
気丈に笑って見せるエーデルワイス。だが彼女本人の心境は生きた心地がしなかった。バロールがモンスター破壊カードを繰り出していれば、ライフが足りず、役に立たないクリフォトンを抱え、一斉攻撃で彼女のライフは0になっていた。バロールに死眼トークン。超攻撃力の猛攻を前にすれば、宝珠を守るどころか命さえ失っていたかもしれないのだ。怯えてしまうのも仕方のないことだろう。
「バトルだ。
言うや否や、バロールの背後の空間に、紅い球体が出現した。
大きさはバスケットボールほど。そして、その周囲を囲む様に、楕円形の赤い線が引かれた。それはあたかも、球体を眼球にした瞳のようだった。
瞳、即ち赤い球体が、
エーデルワイスは確信した。これはまさしく目が。こちらを見据える、バロールの死の視線。
「消えろ」
冷たい一言。次の瞬間、背後の巨大眼から赤い光線が発射。光線はエーデルワイスに向かう。
「手札のクリフォトンの効果発動! 2000のライフを払い、ダメージを0に!」
慌てて手札のクリフォトンを切るエーデルワイス。直後、彼女を守る小さな盾となったクリフォトンに、紅い光が直撃。光はいくつにも拡散し、周囲を薙ぎ払っていく。
「気をつけろ和輝! 流れ弾とはいえ、ここは神々の戦争、バトルフィールド内。宝珠に当たって砕ければ、脱落。悪ければ死ぬぞ!」
「分かってる!」
ロキの警告。和輝は咄嗟に伏せて、衝撃をやり過ごした。
「く――――! コナーさんは!?」
がばっと体を上げてエーデルワイスの方を見やる和輝。エーデルワイスもやり過ごすことに成功したらしく、その胸元の宝珠の輝きはいささかも曇らない。
「ふん。メインフェイズ2、ヴェルズ・ケルキオンとヴェルズ・サンダーバードをオーバーレイ。二体のモンスターで、オーバーレイネットワークを構築。エクシーズ召喚。
――――侵略の使徒よ、ここに来たれ。汝の波動は異能を侵す毒とならん。出でよヴェルズ・タナトス」
走るエクシーズエフェクト。起こる虹色の爆発。現れたのは魔轟神獣ユニコロールと魔轟神レイジオンが合体し、ヴェルズ化した異形のモンスター。もっとも、見た目はユニコロールの上に跨ったレイジオン、といった感じなのだが。
そして、万が一の反撃を警戒してか、ヴェルズ・タナトスは守備表示でX召喚された。
「ターンエンドだ」
銀河魔鏡士 光属性 ☆3 魔法使い族:効果
ATK0 DEF800
リバース:自分は自分の墓地の「ギャラクシー」と名のついたモンスターの数×500ライフポイント回復する。また、リバースしたこのカードが破壊され墓地へ送られた時、自分のデッキ・墓地からレベル4以下の「ギャラクシー」と名のついたモンスター1体を選んで裏側守備表示で特殊召喚できる。この効果で特殊召喚したモンスターは、フィールド上から離れた場合ゲームから除外される。
ヴェルズ・タナトス 闇属性 ランク4 悪魔族:エクシーズ
ATK2350 DEF1350
闇属性レベル4モンスター×2
1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除いて発動できる。このターン、このカードはこのカード以外のモンスターの効果を受けない。この効果は相手ターンでも発動できる。
死線の魔眼神バロール攻撃力8000→10000
エーデルワイスLP1750→2250→250手札0枚
バロールLP650手札1枚
「私のターンです」
「まだ無駄なことを続けるのか、エーデルワイス」
エーデルワイスがカードをドローする前に、バロールが嘲りの声をかける。
「無駄……?」
「そう、無駄だ。状況を見ろ」バロールは一度右手を軽く振って、周囲を見ろと示唆し、「我がフィールドには神。攻撃力は10000、さらに伏せカードが三枚だ。内訳を教えてやろうか? 一枚はお前も知っている、侵略の汎発感染。残りはドレインシールドと神風のバリア-エア・フォース-。下手に攻撃しても無意味だ。
おまけにお前のフィールドには効果を失った補給部隊のみ。手札はなく、ライフも500を切った。これではさすがにクリフォトンも使えまい。
剣になりえる銀河眼は、一枚は
バロールは唾棄するようにそう言い切った。
醜い。無様。バロールの台詞はここに来るまでの間に邂逅したあの邪神、ナイアルラトホテップと同じだ。
あのおぞましき混沌の邪神もまた、和輝の足掻きを、希望に向かって突き進む姿を、醜いと断じた。
「バロール。貴方は、精一杯ライフを守る私の行いを、醜いと、そう断じるのですね」
エーデルワイスの問いかけに、バロールは「いかにも」と首肯した。
「当然だ、エーデルワイス。無駄なことに時間を費やすなど、非効率を通り越して不条理だ。お前の、お前とルーの、できる事はただ一つ。何もしないことだ。それで次の我のターン、お前たちに引導を渡し、死を渡し、我が復讐は完結する。
だから、だからこそだ、エーデルワイス。何もせず、死を、我を受け入れろ。そうすれば、多少は、その死を美しくしてやろう。美しく、飾ってやろう」
バロールの言葉がエーデルワイスの精神に沁み込んでくる。
普通の人間ならば、この声だけで心が折れるだろう。
死へと誘う魅了の言葉。抗うにはこの言葉は甘く、苦く、そして重すぎる。
これが醜いことならば、無様なことならば、哀しいことならば、抗わずに受け入れることこそ正解ではないか?
ここで、何もしなければ、父のもとに、みんなの許に逝ける。ファティマも、きっとすぐ来てくれる。
ぞわぞわと闇が忍び寄る。けれど――――――――
あの背中を、綺麗だと思った。
エーデルワイスは微笑した。開花する蕾のような笑み。小さな、けれど力強い笑み。
「私はそうは思いません。足掻くことは醜いと、貴方は言いました。それのどこが悪いのでしょう。
足掻くということは、絶望していないことの証明。希望に向かって、歩き続けていることの証。私はそう思います。人を殺す諦めを乗り越えて、意志を持って前に進む。それを、その姿を――――私は、とても綺麗だと思います」
ちらりと和輝を見る。そして思う。
自分はまだ、彼のように凛として立ちながら、希望に向かって手を伸ばすことも、歩くことも覚束ない。
けれど、諦めてなるものかという気持ちだけは持っているつもりだ。
「だから私は諦めません。私も、美しい在り方を目指したいから。――――――ドロー!」
ドローカードを確認。それを、バロールにも見えるように翻す。
「希望の宝札! 互いに、手札が六枚になるようにドローします! これが、私が引き寄せた可能性です!」
足掻いて足掻いて、引き寄せたのは最強のドローブースト。バロールの表情が驚愕に固まる。
「これは――――流れが変わったね」
「ああ。行けるぜ、これは」
感心したようなロキの呟きと、ぐっと拳を握り締めた和輝の台詞。それらを背に受けて、エーデルワイスは六枚のカードを一気にドロー。
そして――――
「これが、可能性に手を伸ばした、私の希望です! 魔法カード、未来への思い発動! 私の墓地から、フォトン・スレイヤー、フォトン・パイレーツ、フォトン・サテライトを、効果を無効にし、攻撃力を0にした状態で特殊召喚します!」
掴み取った可能性は、形となってエーデルワイスのフィールドに現れる。
皆全てレベルの違うフォトンモンスターたち。
「確かあれは、発動ターン中にX召喚を行わないと、4000のライフを失うカード。彼女はこのターンにX召喚をするつもりか?」
「いや、たぶん違う。三体のモンスターを揃えたこの状況なら、何もX召喚にこだわる必要はない」
「それはつまり」一度息を呑むロキ。「神の召喚。このターンで勝負を決める、捨て身の戦術」
「それが、コナーさんの覚悟だ」
決着はこのターン。凌げばバロールが勝利し、エーデルワイスの目論見が成就すれば、彼女の勝利だ。
「行きます! 私は三体のモンスターをリリース!」
エーデルワイスのモンスターたちが、白く輝く光の粒子となって、天へ昇っていく。
それは供物。あるいは門。強大な存在を迎え入れる、大いなる門。
すなわち、神の降臨だ。
「この戦いに終止符を打つために、来てください! 光の英雄神ルー!」
三つの命は門となって新たな力を招き入れた。
輝きが辺りに満ちる。たまらず全員が目を瞑る。
光に目が慣れた時、そこにいたのは雄々しい神。
外見年齢は三十代から四十代の男性神。短めの金髪、深い海を思わせる青い右目と奥深い森を思わせる緑の左目。身に纏っているのは深緑色のボディスーツと、その上に纏った、関節の可動域が広く設計されている金縁銀色の全身鎧。
左手には五角形型の盾を装備しており、中央に日の光を浴びて育つ新緑の構図になっているレリーフが刻まれている。
右手には、身の丈ほどの大きさの、五条に枝分かれした黄金の槍。この槍こそが、光の神ルーが操り、かつてバロールを葬った神の槍、ブリューナク。
「ルー! 現れたか!」
憎悪に歪むバロールの表情。だがルーはバロールに背を向け、エーデルワイスに向き直った。
「エーデルワイス。すまない。私は君に詫びなければならない」頭を垂れ、続ける。「私は、君たち一族の、君の意思を無視して戦場に立たせた。立つことを強要した。人間が、それに恐怖を感じることなど思いもせずに。それは神の傲慢であり、私の愚かしさだ。許してほしい、とは言わない。だが、こうして君の前で戦うことは――――」
「許します。ルー。私の方こそごめんなさい。私は怖かった。戦うことも、戦わずに何もかも失われてしまうことも。足掻き、もがくことも」
ルーの言葉を遮って、エーデルワイスは頷いた。そして、告げる。ちらりと和輝を見て、
「けれど今は違います。今、私は最後まで足掻くことをとても尊く、美しいものだと思います。今はまだ、そんな大それたものではないと思いますけれど、それでも、一歩、踏み出せました。だから、ルー」
そこで一拍、言葉を止めた。息を吸い、告げる。
「私と一緒に、戦ってください」
「承知!」
膝を上げ、今度こそ、ルーはバロールと正面から向き合った。無視された形になったバロールは、歯ぎしりをし、顔面に憤怒の形相を張り付けていた。
「己の母親に唆され、言われるがままに我を殺し! そして今、再び我が前に立ったかと思えば、今度は背を向け我が存在を足蹴にするか! ルー!」
バロールの怒りはここに至って物理的なプレッシャーさえ放っているようだった。相対しているエーデルワイスはもちろんのこと、和輝の身体にもびりびりとした衝撃が叩きつけられた。
「く……!」
「バロールの憎悪は天井知らずだ。それこそ死ぬまで、いやさ、死んでも消えやしない。だが、そろそろ幕引きだろうね」
和輝を庇うように一歩前に出たロキが、にやりを笑みながら言う。さっきまで自分も戦う必要があると言っていた邪神と同一神とは思えない、すでにエーデルワイスとルーの勝利を確信しているかのような言い草だった。
「バロール! 貴様との因縁も、ここまでだ! 蘇ったというのなら、今一度、その憎悪ごと死に帰るがいい!」
「ほざけルー! 貴様の攻撃力では我に届かん。攻撃力を上げ、我を上回ろうとも、我が伏せカードの一枚はドレインシールド。その攻撃を無効にし、あとはお前達が自滅するのを見届けるまでだ!」
吠えるバロール。その全身から赤黒いオーラが溢れ出す。まさしく、かの邪神の憎悪、憤怒の漏出のように。
祖父に当たる邪神の憎悪を一身に受けて、それでもルーはひるまない。己の槍、ブリューナクを構え、パートナーに語り掛ける。
「エーデルワイス、決着の時だ。終わらせよう」
「行きます、バロール。叔父さん。これで、終わらせます! ルーの効果発動! 一ターンに一度、相手フィールドのカードを五枚まで破壊できます! 私が破壊するのは、バロールと死眼トークン、そして三枚の伏せカードです!」
「な――――――」
ルーの効果を前に、絶句するバロール。「決着の時だ、バロール!」と叫び、手にした槍、ブリューナクを自らの頭上に向かって投擲するルー。
投擲された光の槍は中空で一旦停止、その後、穂先をバロールに向けた瞬間、バコンと音を立てて、
一瞬、槍自体が砕けたように見える。それは半分正解だ。もっとも、砕けたという表現は語弊があり、実際は外装を――あるいは、拘束具を――パージしただけだ。
そして現れる。かつて魔眼の邪神、バロールを葬ったブリューナクの真の姿が。
五つの穂先がそれぞれ独立した光の槍。もっとも、それは槍という形状を放棄し、ただ敵を貫くだけの穂先のみを巨大化させた光の束。その様は空に固定された弾丸、或はまさに流星、だ。
ルーの右腕が、天へと掲げられる。
「行け、ブリューナク! 悪しき魂を貫き穿て!」
腕が振り下ろされた。
ブリューナクの五条の穂先が、まさしく流星となってバロールのフィールドに飛来した。
まず、三枚の伏せカードが瞬く間に破砕され、次いで超銀河眼の姿を模した死眼トークンもまた、光の一撃を受けて蒸発した。
最後の一発。ブリューナクがバロールに直撃した。
「ぬがああああああああああああああああああ!」
だがさすがはバロールというべきか。彼は防御が間にあった。
両手でがっしりと、光の一撃を受け止めた。
衝撃、轟音、閃光。そして、バロールの身体がずるずると、後ろに下がっていく。
神としての矜持ゆえか、バロールはなお吠える。
だがすでに決定してしまったカード効果に抗うことはできない。
ついにバロールの防御が破られる。限界を超え、そして完全に光が直撃した。
「あああああああああああああああああああ!」
断末魔の咆哮。バロールの身を覆っていた漆黒の鎧が全て剥がれ、残ったのはエーデルワイスの叔父の身体、即ち対峙した当初の、狩猟服に似た貴族服姿。
だがその様は大きく変わっていた。憔悴し、肩で息をしたその姿はまさに息も絶え絶えといった風情だ。
「お、のれ……。ルー。だが、我はまだ、倒れん。まだ我がフィールドには守備表示のヴェルズ・タナトスがいる。我を……」
「いいえ、終わりです、バロール。ルーはこのターン、自身の効果によって破壊したカードの数まで、一度のバトルフェイズに攻撃できます!」
「つまり、五回の攻撃か!」と和輝。
「これは、決まりだね」とロキ。
絶句するバロールを尻目に、ルーが跳躍。
一撃目、左手に装備した盾から抜き放った光輝く剣身を持つ神剣、フラガラッハ。その一閃がヴェルズ・タナトスを両断し、バロールの守りを完全に剥ぎ取った。
「お……おのれ……」
歯ぎしりするバロール。ここに至って、形勢は逆転し、勝敗は決まった。
「魔弾、タスラム、展開」
ルーの鎧の各所がスライドし、展開。そこから無数の光の玉が放たれた。
光球はそれぞれ意志ある物のごとく独立して稼働。ビットとして飛来し、バロールの周囲を取り囲む。
「ブリューナクよ!」
今度は拘束解放状態ではない、五条の槍を手に取って、ルーが一歩、前に踏み出す。既に周囲をタスラムで囲まれているバロールに、避ける手段はない。
「おのれ……、おのれルー! またしても、またしても我を殺すか!」
「そうだ、バロール。貴様が邪悪を振りまく限り、私は何度でも殺そう! これで二度目だ!」
ブリューナクの穂先をバロールに向けての
希望の宝札:通常魔法
(1):互いのプレイヤーは手札が6枚になるようにカードをドロー、または手札のカードを捨てる。このカードを発動するターン、自分は他のカード効果でデッキからカードをドローできない。
未来への思い:通常魔法
自分の墓地のレベルが異なるモンスター3体を選択して発動できる。選択したモンスター3体を特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターの攻撃力は0になり、効果は無効化される。その後、自分がエクシーズ召喚を行っていない場合、このターンのエンドフェイズ時に自分は4000ライフポイントを失う。また、このカードを発動するターン、自分はエクシーズ召喚以外の特殊召喚ができない。
光の英雄神ルー 神属性 ☆10 幻獣神族:効果
ATK4000 DEF4000
このカードは特殊召喚できない。このカードは3体のモンスターをリリースしてのみ通常召喚できる。(1):このカードは神属性、幻神獣族モンスターの効果以外のカード効果ではフィールドを離れず、コントロールも変更されない。(2):このカードが相手のカードの効果を受けた時、エンドフェイズにこのカードに対するそのカード効果を無効にする。(3):1ターンに1度、相手フィールドのカードを5枚まで選択して発動できる。選択したカードを破壊し、このターン、このカードは破壊したカードの数まで1度のバトルフェイズ中に攻撃できる。(4):???
バロールLP0
「が……は……」
宝珠を貫かれたバロールはすでに敗北が確定し、神々の戦争脱落が決定している。
その証拠に、バロールの身体は依代にした人間ごと、まるで炭化したようにボロボロと崩れ落ちていく。
「体が……」
「人間の身体に憑依したためか。憑依した時点で依代の人間はすでに死んでいて、こうして今、肉体も崩壊するのだ」
息を呑むエーデルワイスに、ルーが説明する。二人と二柱の眼前で、バロールの身体がどんどん崩れていく。
「おの、れ……。ここまで、か……。おのれ……おの……」
足が、膝が、腰が、胸が、腕が、肩が、どんどん崩れていき、喉も罅割れ、声帯も死に、何も言えなくなり、最後に残った、恨みがましい眼差しを送る両目も消え去って、ついにバロールは、その痕跡さえも残さずに消滅した。
「終わった、ね」
ロキのその一言が、このウェールズの森での死闘の終幕を告げた。
◆◆◆◆◆◆
バロール討伐から、一夜が明けた。
和輝たちは一旦クリノの家に引き返し、和輝の事情説明を聴いたクリノはすぐに状況を理解し、まずは和輝の無事の生還を祝い、次いで、エーデルワイスたちに一晩の宿を提供した。
全てが終わった。だが全てが元通りになったわけではない。
唯一、最も近しい人の一人であったファティマの命は救えた。だがそのほかの、屋敷にいた執事やメイド、それに父親も、全て死に絶えた。
その悲しみはエーデルワイスの慎ましい胸を張り割かんばかりの悲しみを彼女に与えたが、彼女はそれに耐えた。
「これからどうするんだ、コナーさんは」
出発の朝、和輝はエーデルワイスにそう告げた。
今日、和輝は日本に帰る。そして、エーデルワイスもまた、ファティマと共に故郷のアイルランドに変えるのだという。
「はい。お父様が亡くなられたので、次のコナー家当主は私です。だから、まず親戚の方々に今回のことを説明し、コナー家を立て直し、そして、神々の戦争に参加することを、表明したいと思います」
そう告げるエーデルワイスの瞳に怯えはない。バロールを倒したことが、彼女にとっていいきっかけになったのかもしれない。
無論、多くを失った彼女の前途は多難だ。口で言うほど簡単なことではあるまい。
「コナー家について、私ができることはありませんが、神々の戦争、そのための戦い力を伸ばすことはできます」
これはクリノの言だ。彼はしばらくこのウェールズの森ではなく、エーデルワイスにくっついてコナー家の本邸に行くのだという。
それはエーデルワイスが神々の戦争に生き残れるよう、デュエルの指南をファティマから依頼されたこともあるが、親類縁者を失ったエーデルワイスの心のケアも含まれるだろう。立ち上がれたとはいえ、彼女が受けた傷は深い。
コナー家についてはファティマが、デュエルについてはクリノが、彼女を支えてくれるだろう。
故に和輝はあまり心配していなかった。ただ静かに「そっか」とだけ答えた。
「ああ、何か辛いこととか、困ったこととかあったら、連絡をくれ。力になれるかは分からないけど、駆けつける」
「いいえ、岡崎さん。今度は私が、岡崎さんを助けに行きますよ」
あえておどけて言う和輝。別れはしんみりするよりも陽気な方がいい。これは、孤児院を出て岡崎家に預けられることになった時に学んだことだ。
「そうかい」と和輝は微笑する。
エーデルワイスも微笑した。そして最後に、「岡崎さん、お願いがあります」と告げた。
「私のことは、エーデルと読んでください。親しい人はみんなそう呼ぶんです」
「――――了解だ、エーデルさん。俺のことも和輝でいいよ」
「はい。和輝さん」
お互いに微笑む二人、そして、
「じゃ、また」
「はい。また」
再会を約束し、別れた。
エーデルワイスはアイルランドに戻り、家のことや、戦いのことで手一杯になるだろう。
和輝もまた、日本に戻れば新たな戦いの日々が始まる。
だが、神々の戦争を続けていく限り、いつかはまた会えるだろう。
だから、今はさよならを。それぞれの日々に戻るのだった。
OCGでは新ルールが敷かれましたが、本作品はマスタールール3のままの予定です。リンクカードについても今のところは未定です。