神々の戦争   作:tuki21

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第58話:横浜空騒ぎ

 夜の横浜中華街。星輝く無人のバトルフィールドで、今三体の大型幻竜が烈震(れっしん)を見下ろしている。

 輝竜星-シュウフク、幻竜星-チョウホウ、メタファイズ・ホルス・ドラゴン。それぞれの総攻撃力は8900。全て受ければ烈震のライフは0になる。悪ければ宝珠を破壊され、神々の戦争脱落。最悪死ぬかもしれない。

 だが烈震は恐れない。ゆっくりと腰を落とし、両足を肩幅まで広げ、迎え撃つ構えをとる。

 小雪(シャオシュエ)が、まるで子供が友達と遊ぶような、無邪気さを含んだ声音で攻撃命令を下す。

 動きだすモンスターたち。

 まず最初に動いたのはメタファイズ・ホルス・ドラゴン。両翼を広げて飛翔。上空で、口から青白い炎を放つ。

 炎は一直線に烈震へは向かわなかった。メタファイズ・ホルス・ドラゴンは首を左から右に振り、その輝跡に沿って炎もまた動く。結果、横一文字の薙ぎ払いが発生。バトルフィールド内の建物を蹂躙していく。

 

「ッ!」

 

 息を呑み、烈震は地を蹴った。彼の頭上から雨のように降ってくるのは元は民家やビルだった瓦礫。拳大のものから、大人一人分はありそうな巨大なものまで、有象無象の区別なく降り注ぐのを、烈震はあるいは前後左右のステップで回避し、回避しきれないものは拳を振るって破壊する。バトルフィールド内での身体能力向上の恩恵をフルに使って、生き残る道を探す。

 同時に、烈震の頭の片隅は小雪の狙いを計っていた。

 この一撃は陽動及び牽制だ。瓦礫の雨を降らせ、自分の注意を頭上に向けさせる。また、回避に専念しなければならないため、必然、多方面への防御がおろそかになる。分かっていても対処できない。それがこの状況だ。

 で、あれば、次に来るのは二体目のモンスターの攻撃。それも、今度は直接当てに来るだろう。

 そう思った直後、烈震の頭上を影が覆った。

 見上げれば大人が三人は後ろに隠れられそうな大きな瓦礫が降ってきた。どうやら、瓦礫の雨とホルスの炎によって、うまい具合にここにおびき寄せられたようだ。

 

「烈震、瓦礫を砕け!」

 

 トールの叫び。言われるまでもない。烈震は足を止め、左足で大樹の根のようにアスファルトを踏みしめ、右足をロケットのように“発射”する。

 垂直蹴り。跳ね上がった右足の蹴りが、落ちてきたコンクリート片に激突、亀裂を走らせて砕く。

 

「な――――――」

 

 目を見開く烈震。その眼前には、二体目の幻竜。輝竜星―ショウフクの姿。

 ショウフクは竜でありながら器用に拳を作っていた。ブレスによる遠距離攻撃ではなく、距離を詰めて直接仕留めに来たか。

 

「やばい!」

 

 トールが叫ぶが遅い。空気を押しのける超重量の拳が迫る。

 まともに当たれば叩き潰される。だが烈震の右足はまだ地についていない。

 

「ままよ!」

 

 烈震は左足だけで膝を曲げて跳躍し、両腕をクロスさせて宝珠を守った。

 

 

 小雪は烈震の動きを感嘆の念とともに見つめていた。

 やはりくろかみは凄い。あの瓦礫の雨を躱し、砕き、そして今、ショウフクの一撃に対しても対処して見せた。

 だがさすがにここまでだ。ショウフクの一撃は直撃は免れたが、完全回避は不可能だ。そう言うタイミングだった。

 

虎虎(ココ)。よもや宝珠を守るとは、驚きよ」

 

 西王母の言葉に、小雪は内心で首肯した。その眼前で、幻竜の一撃を躱しきれなかった烈震の身体が宙を舞った。

 

 

 衝撃と共に自分の身体が洗濯機に放り込まれたようにめちゃくちゃに回転していることを、烈震は認識した。

 認識したがどうにもならない。地面なのか壁なのか分からないところに体を打ち付けて、それでも回転は止まらない。

 痛み、そして回転からくる平衡感覚へのダメージが、三半規管に異常を生じさせ、烈震の意識を刈り取っていった。烈震の視界が真っ暗になった。

 意識が闇へと落ちていく。ここで気絶をするのは絶対にまずいと思っても止められない。

 

「寝るな烈震! 寝たら死ぬぞマジで!」

「――――――ッ!」

 

 脳裏にガン! と来る声。トールのものだ。

 耳元に怒鳴られるよりも頭に()()大声は、普段ならうるさいだけだ。

 だが今は違う。深いところに落ちかけた意識が覚醒。歯を食い縛って無理矢理目線を上に向けると、そこには今にも黄金色の炎を口から放とうとしている幻竜星―チョウホウの姿。

 

「手札から! クリボールの効果発動! 手札のこのカードを墓地に送り、チョウホウを守備表示に変更する!」

 

 己に活を入れるように、大声を上げる烈震。気付け代わりの大喝が、半覚醒状態の意識を完全覚醒させる。

 放たれた黄金の炎を受け止める丸くて小さな影。金色のボールに大きな目と手足をつけたクリボーモンスター。即ちクリボールが、必死の形相で主である烈震を守っていた。

 炎はクリボールに当たっていくつにも枝分かれ、周囲の看板や家々を穿つが烈震には一切届かない。

 攻撃終了と同時に、チョウホウは守備表示に変更される。とにかく、受けたダメージは大きかったが、三連続攻撃は凌ぎ切った。小雪のフィールドにはもう攻撃できるモンスターが存在せず、バトルフェイズは終了。既に烈震にダメージは負わせられないようだ。

 が、小雪は嬉しげだった。

 

「すごい! すごいすごい、本当にすごいぞくろかみ! まさか本当に生き残るとは! 断言しよう。おまえは強い! わたしは強い奴は大好きだ! だから、もっともっと、楽しもう! 遊ぼう! わたしはカードを三枚セットして、ターンエンドだ!」

 

 小雪のターン終了宣言。それに合わせて、烈震の場に伏せられた三枚のうち、一枚が翻った。

 

「遊ぼうか。いいだろう。だが遊ぶには(オレ)の手札は心もとなさすぎる。ゆえに、これを使わせてもらおう。リバースカード、ショック・ドロー。このターンに己が受けたダメージ1000ポイントにつき、カードを一枚ドローする。己が受けたダメージは合計5600。よって五枚ドローだ」

「……まさか、このために二度もダイレクトアタックを受けたのか? 虎虎虎(コココ)。何とも剛毅な男よ」

 

 驚きと呆れを含んだ西王母の台詞。小雪はなおさら顔を輝かせるだけだった。

 

 

クリボール 闇属性 ☆1 悪魔族:効果

ATK300 DEF200

(1):相手モンスターの攻撃宣言時、このカードを手札から墓地へ送って発動できる。その攻撃モンスターを守備表示にする。(2):儀式召喚を行う場合、必要なレベル分のモンスターの内の1体として、墓地のこのカードを除外できる。

 

ショック・ドロー:通常罠

「ショック・ドロー」は1ターンに1枚しか発動できない。(1):このカードはターン終了時にのみ発動できる。このターン受けたダメージ1000ポイントにつき、カードを1枚ドローできる。

 

 

烈震LP8000→5200→2400手札6枚(うち1枚はデブリ・ドラゴン)

ペンデュラムゾーン赤:なし青:なし

場 永続魔法:天輪の鐘楼(効果無効化)、永続罠:強化蘇生(対象なし)

伏せ 2枚

 

小雪LP8000手札6枚(うち1枚は竜星の輝跡)

ペンデュラムゾーン赤:なし青:なし

場 輝竜星-シュウフク(攻撃表示、攻撃力2300→2800、コントロール変更無効)、幻竜星-チョウホウ(守備表示、攻撃力2800→3300、魔法無効、風、光効果無効)、メタファイズ・ホルス・ドラゴン(攻撃表示、攻撃力2300→2800)、永続罠:竜星の具象化、永続魔法:竜星の気脈

伏せ 3枚

 

 

「さぁて、大ダメージを受けてまで五枚もドローしたんだ。反撃開始と行こうぜ、烈震!」

「無論だ。(オレ)のターン! ドローだ!」

 

 裂帛の気合を込めて、カードをドローする烈震。ドローカードを確認。即座に丁度いいとばかりに即座にデュエルディスクにセットする。

 

「場の対象と失った強化蘇生を墓地に送り、マジック・プランター発動。カードを二枚ドロー。

 ハーピィの羽帚を発動。お前の魔法、罠。破壊させてもらう!」

「む! そ、それは困る。チェーンしてダメージ・ダイエットを発動。これでこのターン、わたしが受けるダメージは半分になるぞ」

 

 どこからともなく現れた羽帚が、小雪の魔法・罠ゾーンを無慈悲に払う。表側表示だった竜背の具象化、竜星の気脈、そしてチェーン発動したダメージ・ダイエットと、伏せられたままの竜星の凶暴化、砂塵のバリア-ダスト・フォース-が破壊される。

 これで小雪のバックは全て割れた。であれば、攻めるチャンスだ。

 

「まずは下準備。アースクエイク発動。フィールドのモンスターを全て守備表示に変更する。もっとも、己のフィールドにモンスターはいないため、必然、守備表示になるのはお前のモンスターだけだがな。

 さらに相手フィールドにのみモンスターが存在するため、手札からバイス・ドラゴンを攻守を半減させた状態で特殊召喚する。そして、この特殊召喚に、手札の速攻魔法、地獄の暴走召喚をチェーン。デッキから、残る二体のバイス・ドラゴンを特殊召喚する」

 

 瞬く間に、烈震のフィールドに紫の肌をした、人間のような五指を持つ筋骨隆々としたドラゴンが三体現れる。居並ぶドラゴンたちを見て、小雪が残念そうに呟いた。

 

「わたしのフィールドのモンスターは全てエクストラデッキから特殊召喚されているから、地獄の暴走召喚の効果で特殊召喚できないな……。だがくろかみ、モンスターを並べても、それだけでは勝てないし、突破もできないぞ」

「言われるまでもない。そして、慌てる必要はない。まだ己のターンは途中だ。デブリ・ドラゴンを召喚。チョウホウがいるため、効果が無効となり墓地からの吊り上げはできないが、チューナーとして使うならば問題はない。己はレベル5のバイス・ドラゴンに、レベル4のデブリ・ドラゴンをチューニング!」

 

 S召喚。天に四つの緑の輪となったデブリ・ドラゴン。その輪をくぐって、バイス・ドラゴンが五つの白く輝く光星となって一列に並ぶ。

 光星は光の道に貫かれ、辺りを照らす。

 

「連星集結。暗黒星雲襲来。シンクロ召喚。闇にて包め、ダーク・ネビュラ・ドラゴン!」

 

 光は瞬く間に黒く塗り潰された。

 光を喰らった暗黒の向こうから現れたのは、夜空よりもなお暗い、太陽の光を閉じ込めて逃がさぬ黒曜石のような質感の黒い体躯、紫の双眸、全体的にのっぺりとしている、岩石が寄り集まったような外骨格、やけに突起が大きい両肩。二足歩行型だがその姿はやはり不気味で得体の知れない。

 地球上の生物との類似点は少なく、外宇宙からの飛来生物、と言った方がしっくりくる。

 レベル9、攻撃力3200と、縛りのないカードの中ではかなりステータスは優良だ。

 

「S召喚に成功したので、手札からシンクロ・マグネーターを特殊召喚する。さらに己のフィールドにレベル8以上のSモンスターが存在するため。同じく手札からクリエイト・リゾネーターを特殊召喚する。次だ! レベル5のバイス・ドラゴンに、レベル3のシンクロ・マグネーターをチューニング!

 ――――連星集結、焔王竜(えんおうりゅう)出陣。シンクロ召喚、吠えろ、レッド・デーモンズ・ドラゴン!」

 

 ゴウ、と炎が彩り、圧迫感が周囲に発生。現れたのは悪魔のごとき外見、容貌をした獰猛なるドラゴン。吠え猛り、五指を握り締めて全身を震わせる。

 

「もう一度! レベル5のバイス・ドラゴンに、レベル3のクリエイト・リゾネーターをチューニング! 連星集結、星屑飛翔。シンクロ召喚、出でよスターダスト・ドラゴン!」

 

 三体目のSモンスター。今度現れたのは星屑の煌めきを振り零す美しきドラゴン。悪魔竜と対照的に、その姿は流麗にして清澄。

 

「三体のドラゴンか! さっきのわたしのターンに対する返しとしては最高だな! やっぱりおまえは凄いぞ、くろかみ!」

「だが。この状況は少々まずい……」

 

 無邪気に喜ぶ小雪に対して、西王母はさすがに危機感を持っている。半透明のトールはにやりと笑い、烈震を煽る。

 

「いけ、行っちまえよ烈震! わざわざ大ダメージまで喰らってドローして、バックも剥がして大型揃えたんだ。ここでいかなきゃ男じゃねぇ!」

「騒がずとも、行くさ。バトルだ! レッド・デーモンズ・ドラゴンでチョウホウを攻撃!」

 

 下る攻撃宣言。同時、レッド・デーモンズ・ドラゴンが咆哮を上げ、翼を大きく広げて飛翔。右拳を大きく突き出した。

 

「レッド・デーモンズ・ドラゴンの効果発動! 相手守備モンスターを全て破壊する!」

 

 急転直下の悪魔竜。その炎に包まれた右拳が隕石のごとき勢いでチョウホウに叩きつけられた。

 頭上からの一撃を喰らったチョウホウはそのまま地面にめり込み、消滅。だがレッド・デーモンズ・ドラゴンの攻撃はここで終わりではない。チョウホウを物理的に叩き潰した“着弾点”から衝撃波が走り、炎の渦となって残る二体のモンスター、ショウフクとメタファイズ・ホルス・ドラゴンを捕えた。

 二重に轟く断末魔。炎に囚われ、内外問わず炙られ、焼かれ、燃やし尽くされた二体の幻竜は虚し気な断末魔の余韻を残して消滅した。

 

「レッド・デーモンズ・ドラゴンの効果をフルに使うために、アースクエイクやクリボールでわたしのモンスターを守備表示にしたのだな。だけど、わたしの幻竜はSモンスターでも破壊時に効果が発動する! 破壊されたショウフク、チョウホウの効果発動!」

 

 小雪は夜に叫んだ。が、返ってきたのは沈黙だけだった。本来であれば、破壊された二体の竜星の効果が発動するはずだ。

 

「あれ?」

「残念だが、墓地へ、お前の声は届かない。ダーク・ネビュラ・ドラゴンが己の場にいる限り、相手は墓地で発動するカード効果を発動できない。今破壊された竜星たちの効果は全て墓地で発動するもの。よってダーク・ネビュラ・ドラゴンに阻害される。暗黒星雲の闇が、死者に沈黙を強いるのだ。

 まだバトルフェイズは続いている。ダーク・ネビュラ・ドラゴン、スターダスト・ドラゴンでダイレクトアタック!」

 

 先ほどの意趣返しとばかりに、裂帛の気合の乗った攻撃宣言。

 まず動いたのはダーク・ネビュラ・ドラゴン。その前身から暗紫色の光を点らせ、レーザーのように放つ。

 いくつも多発的に放たれたレーザーは夜空に弧を描き、矩形を作って小雪に迫る。雨霰と降り注ぐはずのレーザー群はその量が減少している。おそらく小雪が発動したダメージ・ダイエットによるものだろう。ダメージ半減、イコールで攻撃量半減というわけだ。

 そして、次々に降り注ぐ光の槍群を、小雪は軽快なフットワークで躱す。

 背後にバックステップ、ターン、時にはバック宙を決めて次々に躱していく。

 凄まじい身体能力だが、デュエル開始前に烈震に肉薄した格闘能力と、全ての身体能力が向上するこのバトルフィールド内ならば不思議ではない。

 やがて光が収まる。ダーク・ネビュラ・ドラゴンの攻撃が終わったのだ。

 

「お?」

 

 だが小雪は驚いたような声を漏らした。彼女の周囲は砕けた瓦礫の破片が多くある地点。先ほど烈震が耐え忍んだ場所だった。

 誘導された。西王母が歯噛みした時には、既にことは終わっていた。

 小雪が今いる地点で待ち受けていたスターダスト・ドラゴン。既に口内に光を溜め込み、攻撃準備は完了だ。

 

「宝珠を守れ、小雪!」

 

 すでに逃げる時間はない。だから西王母はそう言うしかなかった。それが精いっぱいだった。

 スターダスト・ドラゴンの口内から光が放たれる。

 ドラゴンブレス。白い輝きを持つそれが、小雪に直撃する。

 轟音、閃光。そして衝撃波が辺りを走り、瓦礫の欠片たちを吹き飛ばす。

 

「く――――――あ――――――!」

 

 轟音に切れ切れになっているが、小雪の苦鳴が聞こえる。確実に当たっている。

 本当ならば烈震もまた小雪に肉薄し、その格闘術で小雪の体勢をさらに崩して、宝珠を晒させたうえでダメ押しの一撃を加えたかったが、まだ先ほどのターンのダメージが残っているので無理な相談だ。

 スターダスト・ドラゴンの攻撃が終わる。着弾地点にいた小雪はあお向けに倒れていた。

 大きな怪我はないが全身に打撲や打ち身の痕があり、チャイナドレスも何か所か破けている。

 が、宝珠の輝きに翳りはない。罅は入っているが、砕けてはいないため、神々の戦争も脱落していないし、彼女の“意気”も挫けてはいない。

 戦いは続く。だから烈震は躊躇せず、デュエルディスクのボタンを押した。

 

「ダメ押しだ!」

「ああ。リバースカードオープン! バスター・モード! スターダスト・ドラゴンをリリースし、デッキよりスターダスト・ドラゴン/バスターを特殊召喚する!」

 

 翻るリバースカード。そして、スターダスト・ドラゴンが進化、強化される。別モンスターへの進化のため、攻撃権も残っている。

 当然追撃。烈震は容赦なくスターダスト・ドラゴン/バスターでダイレクトアタックを宣言した。

 二度目のドラゴンブレス。先程と同じ衝撃、閃光、轟音が夜を引き裂く。

 攻撃がやむ。粉塵が上がり、消える。そして、爆心地には小雪の姿。

 

「かふ……」

 

 咳き込み、その身体は揺らいでいる。が、宝珠は以前砕けず、足取りにも危うさはない。戦いは続行だ。

 

「危なかったぞ、くろかみ。事前にダメージ・ダイエットを発動していなければ、今ので負けていた」

 

 ゆらりと動く小雪の姿は幽鬼のごとく。額を切ったのか、血で顔の左半分を汚しながら、紅白の娘はやはり無邪気に笑う。

 

「くろかみ、やはりお前は強い。強い奴は好きだ。わたしより強いならば、もっと好きになるぞ? 次は何を見せてくれる?」

「生憎だが、攻撃手段はもうない。メインフェイズ2に入り、アドバンスドロー発動。レッド・デーモンズ・ドラゴンをリリースし、二枚ドロー。ターンエンドだ」

 

 

マジック・プランター:通常魔法

(1):自分フィールドの表側表示の永続罠カード1枚を墓地へ送って発動できる。自分はデッキから2枚ドローする。

 

ハーピィの羽根帚:通常魔法

(1):相手フィールドの魔法・罠カードを全て破壊する。

 

ダメージ・ダイエット:通常罠

このターン自分が受ける全てのダメージは半分になる。また、墓地に存在するこのカードをゲームから除外する事で、そのターン自分が受ける効果ダメージは半分になる。

 

アースクエイク:通常魔法

フィールド上に表側表示で存在するモンスターを全て守備表示にする。

 

バイス・ドラゴン 闇属性 ☆5 ドラゴン族:効果

ATK2000 DEF2400

(1):相手フィールドにモンスターが存在し、自分フィールドにモンスターが存在しない場合、このカードは手札から特殊召喚できる。この方法で特殊召喚したこのカードの元々の攻撃力・守備力は半分になる。

 

地獄の暴走召喚:速攻魔法

(1):相手フィールドに表側表示モンスターが存在し、自分フィールドに攻撃力1500以下のモンスター1体のみが特殊召喚された時に発動できる。その特殊召喚したモンスターの同名モンスターを自分の手札・デッキ・墓地から可能な限り攻撃表示で特殊召喚し、相手は自身のフィールドの表側表示モンスター1体を選び、そのモンスターの同名モンスターを自身の手札・デッキ・墓地から可能な限り特殊召喚する。

 

デブリ・ドラゴン 風属性 ☆4 ドラゴン族:チューナー

ATK1000 DEF2000

このカードをS素材とする場合、ドラゴン族モンスターのS召喚にしか使用できず、他のS素材モンスターは全てレベル4以外のモンスターでなければならない。(1):このカードが召喚に成功した時、自分の墓地の攻撃力500以下のモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを攻撃表示で特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化される。

 

ダーク・ネビュラ・ドラゴン 闇属性 ☆9 ドラゴン族:シンクロ

ATK3200 DEF2200

チューナー+チューナー以外のドラゴン族モンスター1体以上

(1):このカードが表側表示で自分モンスターゾーンに存在する限り、相手は墓地で発動するモンスター効果を発動できない。

 

シンクロ・マグネーター 地属性 ☆3 機械族:チューナー

ATK1000 DEF600

このカードは通常召喚できない。自分がシンクロモンスターのシンクロ召喚に成功した時、このカードを手札から特殊召喚する事ができる。

 

クリエイト・リゾネーター 風属性 ☆3 悪魔族:チューナー

ATK800 DEF600

自分フィールド上にレベル8以上のシンクロモンスターが表側表示で存在する場合、このカードは手札から特殊召喚する事ができる。

 

レッド・デーモンズ・ドラゴン 闇属性 ☆8 ドラゴン族:シンクロ

ATK3000 DEF2000

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

(1):このカードが相手の守備表示モンスターを攻撃したダメージ計算後に発動する。相手フィールドの守備表示モンスターを全て破壊する。(2):自分エンドフェイズに発動する。このカードがフィールドに表側表示で存在する場合、このカード以外のこのターン攻撃宣言をしていない自分フィールドのモンスターを全て破壊する。

 

スターダスト・ドラゴン 風属性 ☆8 ドラゴン族:シンクロ

ATK2500 DEF2000

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

(1):フィールドのカードを破壊する魔法・罠・モンスターの効果が発動した時、このカードをリリースして発動できる。その発動を無効にし破壊する。(2):このカードの(1)の効果を適用したターンのエンドフェイズに発動できる。その効果を発動するためにリリースしたこのカードを墓地から特殊召喚する。

 

バスター・モード:通常罠

自分フィールド上のシンクロモンスター1体をリリースして発動できる。リリースしたシンクロモンスターのカード名が含まれる「/バスター」と名のついたモンスター1体をデッキから表側攻撃表示で特殊召喚する。

 

スターダスト・ドラゴン/バスター 風属性 ☆10 ドラゴン族:効果

ATK3000 DEF2500

このカードは通常召喚できない。「バスター・モード」の効果及びこのカードの効果でのみ特殊召喚する事ができる。魔法・罠・効果モンスターの効果が発動した時、このカードをリリースする事でその発動を無効にし破壊する。この効果を適用したターンのエンドフェイズ時、この効果を発動するためにリリースされ墓地に存在するこのカードを、自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。また、フィールド上に存在するこのカードが破壊された時、自分の墓地に存在する「スターダスト・ドラゴン」1体を特殊召喚する事ができる。

 

アドバンスドロー:通常魔法

自分フィールド上に表側表示で存在するレベル8以上のモンスター1体をリリースして発動できる。デッキからカードを2枚ドローする。

 

 

烈震LP2400手札2枚

小雪LP8000→6400→5150→3650手札6枚(うち1枚は竜星の輝跡)

 

 

「わたしのターンだな、ドローだ!」

 

 大ダメージは与えた。それは間違いない。ゲーム的にも、肉体的にも。

 だがそれでも小雪は無邪気そうな笑顔をやめない。彼女は楽しんでいる。この戦いを。ゲームを。ひょっとしたら、殺し合いを。

 異常だ。だが烈震はそれに対して嫌悪の情を持たない。自分だって似たようなものだ。

 壊れているのだ。どちらも。だったら、とことんやろうじゃないか。

 

「おい烈震。気づいているかもしれねぇが」

 

 トールが神妙な表情で語りかけてくる。烈震は無言で首肯した。分かっている。空気が変わった。夏に似つかわしくない冷えた空気だ。首元に白刃を当てられているかのような、ひりひりとした空気。これは――――

 

「神が、来たな。少なくとも、奴の手札に神がいる」

「わたしは、魔法カード、竜星の輝跡を発動するぞ。さぁくろかみ、どうする?」

 

 今、小雪はあからさまに誘いをかけてきた。

 烈震のフィールドにスターダスト・ドラゴン/バスターがいる以上、不用意なカードの発動は止められる。

 だが止められるのは一度だけ。まず囮で効果を無駄うちさせて、本命のカードを発動させる可能性は高い。

 が、その囮が問題だ。

 竜星の輝跡はドローブーストカード。ここでカードをドローさせるにはいかにもまずい。

 烈震の直感は、今小雪の手札に神はあると言っている。そしてそれが間違いないならば、疑問として、その神を彼女の手札で召喚できるかどうかだ。

 手札が七枚――神、そして確定の竜星の輝跡を除けば五枚――もあればできそうだが、できない場合だってある。

 その本来手札にないはずの神召喚のための手段を、このドローで呼び込んでしまったら?

 やはりここを見逃す手はない。

 

「スターダスト・バスターの効果発動。自身をリリースし、竜星の輝跡を無効化する」

 

 これで正解のはずだ。少なくとも、ドローを見逃すのはやはりまずい。烈震はそう思った。

 にこりと、小雪が笑った。

 

「やはり使ったなくろかみ! それを待っていた。おまえがスターダスト・ドラゴン/バスターの効果をさっさと使ってくれることを! シャッフル・リボーン発動! 墓地からガイザーを効果を無効にして特殊召喚! さらに、スケール1の宝竜星-セフィラフウシと、スケール7の秘竜星―セフィラシウゴを、ペンデュラムゾーンにセッティング! これでわたしは、レベル2から6のモンスターを同時に召喚可能だ!」

 

 小雪の両脇に、青白い光の柱が屹立する。柱の中に収まった二体のモンスター。その下に刻まれた楔型文字のような数字。片方が1、もう片方が7。

 

「さぁペンデュラム召喚! エクストラデッキからセフィラシウゴとセフィラフウシ。そして手札から地竜星-ヘイカンを特殊召喚だ!」

 

 柱の間を揺れる振り子。描かれるアーク。開かれる異界の門。現れたのは三体の竜星。

 お膳立ては揃った。生贄と、追加攻撃の戦力。十分だ。

 自然、烈震の身が引き締まる。これから現れる完全未知の脅威に対して、身構える。

 

「セフィラシウゴの効果で、デッキから二枚目の竜星の気脈を手札に加えるぞ。行くぞくろかみ! わたしの全力を見せてやる! セフィラフウシ、セフィラシウゴ、ヘイカンの三体をリリース!」

 

 三体の竜星が、世界に溶けるように光の粒子となって消えていく。三体のモンスターの生贄が、大いなる力となって、“神”を迎え入れる“場”となる。

 そして、神が現れる。

 

「出てきて喰らえ。そして笑え! 大食女帝神西王母!」

虎虎虎(コココ)。久しぶりに喰い出のありそうな男どもよ」

 

 現れた西王母。姿はデュエル開始前に見たものと変わらない。

 中華の貴族服に結わえた黒髪、蝋のように白い肌。黒い瞳。羽根扇子とその奥から聞こえる獣の吐息、そして臭い。

 

「来やがったぜ、神が!」

「く……ッ!」

 

 警戒心をあらわにするトール。烈震は歯噛み。だが神に対する警戒心は途切れさせない。

 

「さぁ! 西王母の効果発動だ! 説明が面倒なので省くが、要するにスクラップ・ドラゴンと同じだ! わたしはわたしのがガイザーと、おまえのダーク・ネビュラ・ドラゴンを選択! ()()()()()()()西()()()()

「おうさ。では、いただくとするか」

 

 西王母が口元に当てていた羽根扇子を投げ捨てる。

 露わになる口元。ずらりと並んだ虎の牙、虎の口。その口が大きく開かれる。

 そして、()()()()()()()()()()()()()()()

 

「な―――――」

「味方を食ったぁ!?」

 

 ()()()()()()()()()。咀嚼音が鳴り響く。西王母の人ものではありえぬ牙が、ガイザーの肉を裂き、骨を砕いていく。

 嚥下の音が響く。邪竜の踊り食いという見たこともない知りたくもない光景は、烈震の心に衝撃を与えた。身体がかすかに震える。馬鹿なと思う。まさか。この己が恐怖しているなど――――。

 

「さぁ、西王母。二皿目だ。いけ!」

「うむ」

 

 おかわり開始。西王母は地を蹴り、今度はダーク・ネビュラ・ドラゴンに肉薄。その爪で押さえつけ、牙で頭に喰らいついた。

 ドラゴンの悲鳴が夜に轟く。生物的な肉感を持っているかどうかも怪しい暗黒星雲のドラゴンだったが、その頭部が齧られて、欠ける。そのまま食事は続く。

 ゴリゴリゴリゴリ。何かの拷問シーンかと思える凄惨な光景が眼前で繰り広げられ、烈震は絶句し、小雪は目を輝かせた。

 

「呆けてる場合じゃねぇぞ烈震! 壁が消えた! 神の攻撃が来る!」

 

 トールの叫びが烈震を正気に引き戻す。そうだ。呆けている場合はない。西王母の攻撃力は3000。幸いこちらのライフよりも下だ。死に物狂いで躱せ。そして、次の攻撃に備えろ。

 

「この瞬間、西王母の効果が発動するぞ! 西王母は、モンスターが破壊された時、その都度破壊されたモンスターの元々の攻撃力分、攻撃力がアップする! 今破壊されたのはガイザーの2600とダーク・ネビュラ・ドラゴンの3200。だから合計5800攻撃力アップだ。さらにガイザーの効果発動! デッキから龍大神を守備表示で特殊召喚だ!」

「な―――――」

「んだとぉ!?」

 

 攻撃力8800、今の烈震のライフどころか初期ライフも一撃で消し飛ぶ。また、ガイザーの効果で特殊召喚された龍大神も侮れない。あのカードいる限り、烈震は特殊召喚に成功する度にエクストラデッキからカードを墓地に送らなければならない。S召喚主体の烈震のデッキでは厳しい。

 

「西王母でダイレクトアタック!」

 

 西王母の手が伸ばされる。それは攻撃ではなく、獲物を押さえつけるために手を伸ばした程度だったが、烈震は死に物狂いで背後に向かって跳躍した。

 だがただ逃げるだけでは意味がない。敗北から逃れられない。ゆえに、烈震はデュエルディスクのボタンを押した。

 

「我が天命、この一枚に賭ける! リバースカードオープン! 針虫の巣窟!」

 

 翻るリバースカード。墓地肥しのための罠。その狙いを小雪はすぐに看破した。

 

「なるほど。墓地に送られる五枚のカードの中で、墓地で発動する防御カードがあることに賭けるんだな! いいぞくろかみ! おまえが弱ければ、ここで終わる。だが強ければ、運命が、お前を生かす!」

「言われるまでもない。見るがいい、これが己の天命だ!」

 

 叫び、烈震はデッキトップからカードを五枚、一気に引き抜いた。

 引き抜いたカードを提示する。

 救世竜 セイヴァー・ドラゴン、超電磁タートル、、ギャラクシー・サイクロン、冥府の使者ゴーズ、セメタリー・パーティ。

 

「ビィィィンゴ!」

 

 テンションが高まったトールが叫ぶ。烈震もまた、声を高らかに叫んだ。

 

「墓地に送られた超電磁タートルの効果発動! このカードを除外し、バトルフェイズを終了させる!」

 

 バチリと電磁の壁が烈震を守る盾となる。西王母は伸ばした手を弾かれて不機嫌気味に唸った。まるで空腹の人食い虎そのままの風情。

 

「生き残ったかくろかみ! さすがだな! わたしはカードを一枚セットして、竜星の気脈を発動。ターン終了だ」

 

 エンドフェイズに墓地から復活するスターダスト・バスター。だが特殊召喚のため、龍大神の効果の網にかかった。烈震はエクストラデッキからエンシェント・フェアリー・ドラゴンを墓地に送った。

 

 

竜星の輝跡:通常魔法

「竜星の輝跡」は1ターンに1枚しか発動できない。(1):自分の墓地の「竜星」モンスター3体を対象として発動できる。そのモンスター3体をデッキに戻してシャッフルする。その後、自分はデッキから2枚ドローする。

 

シャッフル・リボーン:通常魔法

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。(2):自分フィールドにモンスターが存在しない場合、自分の墓地のモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化され、エンドフェイズに除外される。(2):墓地のこのカードを除外し、自分フィールドのカード1枚を対象として発動できる。そのカードを持ち主のデッキに戻してシャッフルし、その後自分はデッキから1枚ドローする。このターンのエンドフェイズに、自分の手札を1枚除外する。

 

地竜星-ヘイカン 地属性 ☆3 幻竜族:効果

ATK1600 DEF0

「地竜星-ヘイカン」の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。(1):自分フィールドのこのカードが戦闘・効果で破壊され墓地へ送られた時に発動できる。デッキから「地竜星-ヘイカン」以外の「竜星」モンスター1体を守備表示で特殊召喚する。(2):1ターンに1度、相手のメインフェイズ及びバトルフェイズに発動できる。自分フィールドの「竜星」モンスターのみをS素材としてS召喚する。(3):このカードをS素材としたSモンスターは、戦闘では破壊されない。

 

大食女帝神西王母 神属性 ☆10 幻獣神族:効果

ATK3000 DEF3000

このカードは特殊召喚できない。このカードは3体のモンスターをリリースしてのみ通常召喚できる。(1):このカードは神属性、幻神獣族モンスターの効果以外のカード効果ではフィールドを離れず、コントロールも変更されない。(2):このカードが相手のカードの効果を受けた時、エンドフェイズにこのカードに対するそのカード効果を無効にする。(3):1ターンに1度、自分及び相手フィールド上に存在するカードを1枚ずつ選択して発動する事ができる。選択したカードを破壊する。(4):フィールドのモンスターが破壊された時に発動する。破壊されたモンスターの元々の攻撃力分、このカードの攻撃力はアップする。

 

龍大神 光属性 ☆8 幻竜族:効果

ATK2900 DEF1200

(1):相手がモンスターの特殊召喚に成功した場合に発動する。相手はエクストラデッキのカード1枚を選んで墓地へ送る。

 

針虫の巣窟:通常罠

(1):自分のデッキの上からカードを5枚墓地へ送る。

 

超電磁タートル 光属性 ☆4 機械族:効果

ATK0 DEF1800

「超電磁タートル」の効果はデュエル中に1度しか使用できない。(1):相手バトルフェイズに墓地のこのカードを除外して発動できる。そのバトルフェイズを終了する。

 

 

大食女帝神西王母攻撃力3000→8800

 

 

「己のターンだ、ドロー!」

 

 裂帛の気合を込めて、烈震はカードをドローした。

 アクションの際に爪先が何かを蹴った。

 中華料理に使われる円卓。どうやらいつの間にか初期位置の中華料理店――正確にはその跡地――まで戻ってきていたらしい。

 それかける思考を戻す。今はデュエルに集中する時だ。

 敵の神は強大だ。攻撃力8800は今の烈震のデッキでは出せそうもない。

 攻略手段は二つ。禁じられた聖杯やブレイクスルー・スキルのようなモンスター効果を無効にするカードで相手の攻撃力をデフォルト(3000)に戻す。ただし、今の烈震の手札にそれらのカードはない。

 では取れる選択肢は二つ目のほうだ。即ち、()()()()()()()

 神はあらゆるカード効果によってフィールドを離れない。ただ一つ、例外は同じ神によるモンスター効果のみ。

 それを、やる。

 

「ソウル・チャージ発動! 墓地からサンサーラとクリッターを特殊召喚し、2000ライフを失う」

 

 これで烈震のライフは残り400、ついに三桁に突入した。

 だが構わない。既にライフは即死圏内(キル・ゾーン)に突入していたのだ。今更三桁になろうが、一撃で吹き飛ぶ現状に変わりはない。さらに龍大神の効果でエクストラデッキから天穹覇龍ドラゴアセンションを捨てても全く問題ない。

 それより重要なのは、此方も三体のモンスターを揃えたこと。

 

「三体のモンスターをリリース! 現れろ迅雷の闘神トール!」

 

 雷が地上から天空に向かって迸る。

 自然現象に真っ向から唾吐く行為。そして、テンション高めの笑い声。

 現れる神、北欧神話の、雷纏う戦いの神、トール。

 乱雑に切られた濃い緑の髪、金に輝く眼。前を開いたジャケットのように、背中と肩しか守っていない鎧姿。その周囲を回るいくつもの雷の球体、右手に握られた柄の短いハンマー、即ちミョルニル。

 

「クリッターの効果で金華猫を手札に加える。ソウル・チャージの効果でこのターン、己はバトルできない。だがトールの効果の前では関係ない! トール効果発動! 相手モンスター一体を破壊し、その攻撃力分のダメージを与える! 当然、破壊するのは西王母だ!」

 

 トールが嬉々として無手の左手を天に翳す。雷撃がそこに集まり、バリバリと音を立て、光を週にばらまく。

 やがて出来上がる大電球。

 

「ウラァ!」

 

 それを、トールはまるでサッカーボールのように蹴りだした。だが、次の瞬間、大電球が急速に萎みだした。

 

「な!?」

 

 目を見開くトール。烈震の目は小雪が翻したカードを見た。

 

「ブレイクスルー・スキル発動だ。トールの効果を無効化するぞ!」

 

 トールの大電球がついに消えた。烈震の攻撃手段は失われた。

 

「……まだだ。まだ終わりではない。そのために――――すまん、トール」

「あ? なんだそれ。なんかすげー嫌な予感が――――」

「二枚目のアドバンスドロー発動。トールをリリースし、二枚ドローする」

 

 あー! というトールの悲鳴を徹底無視。このままトールが突っ立ていても役に立たない。ならば一縷の望みをかけるために斬り捨てる。神とはいえ、所詮は力だ。固執するのは間違っている。

 ドローカードを確認し、そのうちの一枚をデュエルディスクに差し込んだ。

 

「一時休戦を発動。互いに一枚ドローし、次のお前のターン終了時まで、互いにダメージを受けない。

 ――――墓地のギャラクシー・サイクロンの効果発動。このカードを除外し、Pゾーンのセフィラシウゴを破壊する」

 

 ガラスが砕け散るような音が響き渡り、青白い柱の一本が倒壊。スケールが崩された。

 

「ターンエンドだ」

 

 

ソウル・チャージ:通常魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できず、このカードを発動するターン、自分はバトルフェイズを行えない。(1):自分の墓地のモンスターを任意の数だけ対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚し、自分はこの効果で特殊召喚したモンスターの数×1000LPを失う。

 

迅雷の闘神トール 神属性 ☆10 幻神獣族:効果

ATK4000 DEF2500

このカードは特殊召喚できない。このカードは3体のモンスターをリリースしてのみ通常召喚できる。(1):このカードは神属性、幻神獣族モンスターの効果以外のカード効果ではフィールドを離れず、コントロールも変更されない。(2):このカードが相手のカードの効果を受けた時、エンドフェイズにこのカードに対するそのカード効果を無効にする。(3):1ターンに1度、相手モンスター1体を選択して発動できる。選択したモンスターを破壊し、破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを与える。(4):1ターンに1度、自分の手札、フィールド、墓地のモンスター1体を対象に発動できる。対象のモンスターをこのカードに装備する(1度に装備できるモンスターは1体まで)。装備したモンスターの攻撃力分、このカードの攻撃力がアップする。

 

ブレイクスルー・スキル:通常罠

(1):相手フィールドの効果モンスター1体を対象として発動できる。その相手モンスターの効果をターン終了時まで無効にする。(2):自分ターンに墓地のこのカードを除外し、相手フィールドの効果モンスター1体を対象として発動できる。その相手の効果モンスターの効果をターン終了時まで無効にする。この効果はこのカードが墓地へ送られたターンには発動できない。

 

ギャラクシー・サイクロン:通常魔法

「ギャラクシー・サイクロン」の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。(1):フィールドにセットされた魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。そのカードを破壊する。(2):自分メインフェイズに墓地のこのカードを除外し、フィールドの表側表示の魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。そのカードを破壊する。この効果はこのカードが墓地へ送られたターンには発動できない。

 

一時休戦:通常魔法

お互いに自分のデッキからカードを1枚ドローする。次の相手ターン終了時まで、お互いが受ける全てのダメージは0になる。

 

 

「わたしのターンだな、ドロー。ターンエンドだ」

 

 あっさりとターンを明け渡す小雪。もっとも、手札もドローした一枚のみで、ダメージも与えられないのならば仕方がないのかもしれない。どのみち烈震は竜星の気脈によってモンスターを守備表示で召喚して逃げることはできないのだ。じっくりと、仕留めるつもりなのかもしれない。

 そしてそのことは烈震にもわかっていた。

 次がラストターンだ。

 

「己のターン! ドロー!」

 

 すでにキーパーツは揃いつつある。

 神は倒された。だがそこで烈震の戦力が底をついたわけではない。

 まだここに来る前、趙鮮から渡されたカードがある。

 だがそのカードを召喚するためのパーツが足りない。

 必要なのはあと一枚。これ以上の延命は期待できない以上、ここで引き当てるしかない。

 烈震がカードをドローした姿は、さながら日本刀を鞘から抜刀する、居合のごとき気迫と洗練さだった。少なくとも、それを見ていた小雪はそう思った。

 沈黙。一陣の風が二人と二柱の間を駆けていく。

 

「ゆくぞ! シャッフル・リボーン発動! 墓地より蘇れ、スターダスト・ドラゴン!」

 

 咆哮と輝きをまき散らし、星屑の竜が墓地より舞い上がる。その双眸が敵を睥睨する。なお、龍大神の効果により、烈震はオリエント・ドラゴンを墓地に送った。

 

「スターダストか! だがそのモンスター単品では、わたしの神を倒すことはできないぞ!」

「いいや。倒せるさ。雷神では届かなかった。故に見せよう。救世の輝きを! 己は金華猫を召喚! 効果で特殊召喚するのはこいつだ! 蘇れ、救世竜 セイヴァー・ドラゴン!」

 

 烈震のフィールドに現れるモンスターたち。そしてエクストラデッキからレッド・ワイバーン、を墓地に送った。

 レベル8、レベル1、レベル1。合計レベルは10。だがセイヴァー・ドラゴンは特定のSモンスターのS素材にしかできない。

 だがその点は関係ない。セイヴァー・ドラゴンの制約はすでに潜り抜けている。

 

「行くぞ! レベル8のスターダスト・ドラゴンと、レベル1の金華猫に、レベル1のセイヴァー・ドラゴンをチューニング!」

 

 烈震の右腕が天高く掲げられる。その瞬間、セイヴァー・ドラゴンが真っ先に飛翔。その姿が半透明になるとともに巨大化していき、その中に入りこみ、八つと一つの光星となったスターダスト・ドラゴンと金華猫。十の輝きを光の道が貫く。

 

「連星集結、救世竜光来! シンクロ召喚、来たれ救世の具現! セイヴァー・スター・ドラゴン!」

 

 輝きの向こうから、更なる高貴なる光が現れた。

 兜のような形状の頭部、光り輝く光沢のある体躯、大きく開かれた四枚の翼。スターダスト・ドラゴンの進化系の一つ。救世の力を得て更なる形態へと進化した。

 

「龍大神の効果により、ブラックフェザー・ドラゴンを墓地に送る。そして!」

 

 烈震の咆哮のような叫び。空気の振動が小雪と西王母を叩く。その気迫に、一人と一柱は確かに気圧された。

 

「セイヴァー・スター・ドラゴンの効果発動! 西王母の効果を吸収する!」

「な―――――」

 

 絶句する西王母。その眼前、セイヴァー・スター・ドラゴンの全身が白く輝いていく。

 

「あ……ぐ……。力が、抜ける……!」

 

 顔を歪ませ、苦悶の声を上げる西王母。その左膝がついに地面についた。その力が消失していくのが彼女にもわかった。傍らで見ている小雪にも。

 

「西王母の効果はセイヴァー・スター・ドラゴンが得た。その効果を発動する! 己の場の天輪の鐘楼と、西王母を破壊する!」

 

 セイヴァー・スター・ドラゴンの輝きがさらに強くなる。白い極光はやがて灼熱の力を持ち始め、烈震のフィールドの効果を失った永続魔法と、神である西王母を捕え、焼き尽くす。

 

()虎虎(ココ)……ッ! まさか、まさかこのような手段で妾を突破するとはの……」

「神といえどもこの場では一枚のカードにすぎん。効果を失えば神以外の手で破壊も可能! さらに己は墓地のブラックフェザー・ドラゴンとエンシェント・フェアリー・ドラゴンを除外し、混沌帝龍(カオス・エンペラー・ドラゴン)-終焉の使者-を特殊召喚! 龍大神の効果でクリアウィング・シンクロ・ドラゴンを墓地に送る」

 

 これで詰みだ。西王母は倒され、奪った効果によってセイヴァー・スター・ドラゴンの攻撃力は6800。さらに守備表示の龍大神は混沌帝龍によって葬られる。

 小雪に防御の手段はない。あとは烈震の攻撃宣言が下るのを待つだけだ。

 

「やっちまえ烈震!」

「言われるまでもない。バトル! 混沌帝龍で龍大神を攻撃! そしてセイヴァー・スター・ドラゴンでダイレクトアタック!」

 

 ついに下る攻撃命令。混沌帝龍の一撃が龍大神を撃破。がら空きの小雪のフィールドを、足をたたみ高速飛行形態に移行したセイヴァー・スター・ドラゴンが進む。

 大気を切り裂く飛翔。頭上を通り過ぎ、遅れてやってきたソニックブームに煽られる髪を抑えた小雪は、その時視線を確かに頭上にやっていた。

 それが間違いだった。

 

「?」

 

 攻撃が来ないことを疑問に思った小雪だったが、視線を下に戻した時、己の失敗と敗北を悟った。

 

「くろかみ――――」

 

 烈震が、いつの間にか距離を詰めていた。その時小雪は悟った。セイヴァー・スター・ドラゴンがこちらの頭上を通ったのはやはり攻撃ではなかった。

 あれは運搬だ。セイヴァー・スター・ドラゴンにしがみついていた烈震を、此方に運ぶためのもの。そして自らの巨体をアピールすることで、烈震の存在を隠した。

 

「決着だ。小雪」

 

 低く、硬い、有無を言わさぬ烈震の声音。その巨体から信じられない滑らかな動作で小雪の懐深くに潜り込む。

 肩が当たる。そんな些細な認識の直後、衝撃。

 腹部で爆弾が爆発したような一撃。烈震が自分をカチあげたのだと、小雪が理解した時にはすでに彼女の身体は数十メートル上空にある。

 

「は――――」

 

 息が詰まる。烈震の一撃が効いている。おまけに自由の利かない上空。これは躱せない。

 

「わたしの、負けだな」

 

 直後、折り返してきた全身を白い光で包み込んだセイヴァー・スター・ドラゴンが激突。小雪の宝珠を砕いていった。

 

 

金華猫 闇属性 ☆1 獣族:スピリット

ATK400 DEF200

このカードは特殊召喚できない。(1):このカードが召喚・リバースした時、自分の墓地のレベル1モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。このカードがフィールドから離れた時にそのモンスターは除外される。(2):このカードが召喚・リバースしたターンのエンドフェイズに発動する。このカードを持ち主の手札に戻す。

 

救世竜 セイヴァー・ドラゴン 光属性 ☆1 ドラゴン族:チューナー

ATK0 DEF0

このカードをシンクロ素材とする場合、「セイヴァー」と名のついたモンスターのシンクロ召喚にしか使用できない。

 

セイヴァー・スター・ドラゴン 風属性 ☆10 ドラゴン族:シンクロ

ATK3800 DEF3000

「救世竜 セイヴァー・ドラゴン」+「スターダスト・ドラゴン」+チューナー以外のモンスター1体

相手が魔法・罠・効果モンスターの効果を発動した時、このカードをリリースする事でその発動を無効にし、相手フィールド上のカードを全て破壊する。1ターンに1度、相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択し、その効果をエンドフェイズ時まで無効にできる。また、この効果で無効にしたモンスターに記された効果を、このターンこのカードの効果として1度だけ発動できる。エンドフェイズ時、このカードをエクストラデッキに戻し、自分の墓地の「スターダスト・ドラゴン」1体を選択して特殊召喚する。

 

混沌帝龍-終焉の使者- 闇属性 ☆8 ドラゴン族:効果

ATK3000 DEF2500

このカードは通常召喚できない。自分の墓地から光属性と闇属性のモンスターを1体ずつ除外した場合のみ特殊召喚できる。このカードの効果を発動するターン、自分は他の効果を発動できない。(1):1ターンに1度、1000LPを払って発動できる。お互いの手札・フィールドのカードを全て墓地へ送る。その後、この効果で相手の墓地へ送ったカードの数×300ダメージを相手に与える。

 

 

小雪LP0

 

 

 デュエルの決着がつき、バトルフィールドが消失する。散々に破壊されたバトルフィールドだがあそこは位相の違う仮想空間。現実世界には何の影響もない。バトルフィールドが崩壊しない限りは。

 烈震は自分が現実世界に帰還したことを知った。

 周りを見渡せば、気絶したはずの奇龍(クイロン)の面々が復活していた。トール自身手加減していたとはいえ、タフな連中だ。

 周囲には困惑の波が広がっていた。原因は明白。さっきまで確かに存在し、自分たちの――正確には小雪の――強力な味方だった神、西王母の気配が消えているのだ。

 

「お前たちが頼りにしている神はたった今、己が討ち取った。ここまでだ」

 

 そう宣言してやると困惑は動揺に昇華された。

 

「馬鹿な……!」

 

 叫んだのは老齢の男。彼こそが奇龍の大老だろう。だが現実を突き付けられ、男は言葉を失った。

 後の反応はと、烈震は敗れた小雪を見た。

 するとどうしたことか、小雪は頬を赤らめて、するりと烈震に近寄ってきた。

 まるで風に舞う花弁のように、警戒心の隙間を通り抜けて、彼女は烈震に近づいた。

 完全に不意打ちだった。勝負後の残心を忘れたわけではなかったが、虚を突かれては駄目だ。反応できない。

 そのまま小雪は両腕を烈震の首に絡め、大柄の彼に飛びつくように地面から足を離し――――

 

 烈震にキスをした。

 

「!?」

「なんとぉ!?」

 

 いきなりの展開に、烈震の頭が追い付かない。唇に触れている柔らかい感触と、此方の唇を割って、歯を押し上げて入ってくる舌の感触に、自分が今何をされているのかわかった。

 確かに突飛な娘だとは思ったが、いくらなんでもいきなりすぎないだろうか? ムードも何もあったもんじゃない。

 

「烈震、烈震。混乱するな。現実見ろ現実」

 

 黙っていてくれ。

 

「いきなり何をする?」

 

 問い詰めてみるが、小雪はにこりと笑っただけだ。まさに年相応の少女のように。無垢に、無邪気に。

 そして言った。

 

「――――おまえの子を産みたい」

 

 ざわり。周囲の男たちが小雪の爆弾発言にあんぐりと口を開け、目を見開く。大老に至ってはその場で痙攣し始めそうな勢いだ。

 

「お前は――――」

「わたしは強い男が好きだ。くろかみ、おまえは強い。だからわたしはおまえが好きだ。わたしより強い奴にあったのも初めてだしな。うむ――――ふつつかものだが、よろしくたのむ」

「ま、待て。己は武の道に生きる身。そのような――――」

 

 あたふたする烈震。ゲラゲラ笑うトール。怒るもの、呆れるもの、はやし立てるもので大騒ぎなチャイニーズマフィアたち。横浜の夜は戦場からたちまち空騒ぎの場へと変貌した。

 

 

 この後は愚にもつかない大騒ぎが繰り広げられたが、顛末だけを上げるならば、烈震は目的を達した。

 烈震自体は神を打倒でき、趙鮮は許された。さらに烈震と小雪のについては大老も半ば諦め気味になり、むしろ烈震のような強者を取り込めるならば重畳。それが孫娘が惚れているならば文句なしとなった。

 烈震は文句ありありだったが、意外と乗り気な趙鮮も加わり、さらに今後の神々の戦争に向けての戦力強化を行う必要もあり、彼はもう少し、横浜に滞在する羽目になった。

 滞在中は趙鮮と手合わせをしたり奇龍からカードの提供があったり小雪に付きまとわれたりといろいろなことがあったが、それは別の話である。

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