神々の戦争   作:tuki21

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第60話:宿敵

 日が暮れて、夜の帳が落ちてきた。

 暗闇に包まれた外。黒の時間がやってきた。

 龍次(りゅうじ)(あかね)の主治医の協力を取り付け、面会時間終了後の看護師の見回りをやり過ごした。

 今、看護師の巡回はない。蛍光灯の光も最小限に抑えられた夜の病院、その廊下。そこは昼間とは受ける印象がまるで違った。

 潔癖なまでに、病的なまでに白かった壁は微弱な光のせいで余計に闇を増したようだ。

 今にも、背後から物言わぬ死神の足音が聞こえてきそうなほどに。

 

「龍次、立ち止まっている場合ではありませんよ」

 

 声は龍次の背後から。先程まで確実に誰もおらず何もなかった空間に、男が立っていた。

 腰まで伸びた銀髪、赤い髪飾り、白い肌、涼し気な蒼氷色(アイスブルー)の瞳、質素な色合いの着流し姿。

 龍次が契約を交わした神、伊邪那岐(いざなぎ)だ。

 

「伊邪那岐……。昼間も実体化しなかったのに、どうした?」

「君も、気づいているのでしょう? 彼女、山吹茜さんと言いましたか。彼女が残ってくれと言ったのは、おそらくその身を蝕む呪いに関係があるでしょう」

 

 無言で首肯する龍次。自分が自分でなくなると、茜は怯えていた。ならば、この呪いについて、何か変化があったのかもしれない。

 

「くれぐれも用心してください。場合によっては、呪いを与えた神との対決が待っているかもしれません」

 

 伊邪那岐の言葉は龍次の表情を引き締めるのに十分だった。

 

「……やっぱり、お前もそう思うか?」

「確証があるわけではありません。神の気配を感じるわけでも。しかし、そう、()()()()()()()()()()()()

 

 伊邪那岐の言っていることは直感と変わらない。だが龍次はそれを一笑に付すことはできなかった。なぜなら龍次自身、どんどん広がっていく不安の暗雲を振り払うことができないでいたからだ。

 

「行こう」

 

 慎重に足を進める龍次。一つ頷いた伊邪那岐は実体化を解いた。

 茜の病室の前にたどり着く。足が止まる。

 控えめなノック。返事はない。

 

「茜。入るぞ……?」

 

 夜の病棟、そこに無断でいる事実が、龍次の声を潜めさせた。周囲に誰もいないことを確認後、ゆっくりとドアを開いた。

 明かりはついていない。そのことを不審に思うよりも前に、龍次の目はベッドの上に釘付けになった。

 夕方、閉めたはずのカーテンは開かれており、窓も開いていた。風が吹き込んでくる。そして、月明りも。

 茜はベッドの上にいた。ただし、その身体は無事とはいえない。苦しげに胸を抑え、ベッドの上で苦悶での表情を作っていたのだ。

 

「茜!」

 

 叫び、龍次は茜に駆け寄った。

 

「りゅーじ……、君……」

 

 茜の声音は苦しげだ。必死に揺れる瞳で龍次を見つめる。

 

「怖いよ……、りゅーじ君……。わたしが、なくなっちゃう……」

「茜! 待ってろ、今誰か読んでやるから!」

 

 龍次はパニックになりそうな心を必死で押さえつけ、ナースコールに手を伸ばす。だがその手を掴むものがあった。

 

「え……?」

 

 呆けたよう龍次の声。視線の先には、ナースコールへと伸ばされた彼の手を握る、茜の姿。

 

「茜?」

「いけない、龍次!」

 

 状況を飲み込めなかった龍次の耳朶に、伊邪那岐の切迫した声がかけられる。次いで体を強引に引き離された。実体化した伊邪那岐が、茜から龍次を引き剥がしたのだ。

 勢いよく体を振られて、龍次はベッドから転落、硬い床に尻餅をついた。

 地面に近い目線から、ベッドの上の茜を見上げる龍次。月明りに照らされる茜。外見は変わらず、子供っぽいパジャマ姿なのも変わらない。なのに、その身に纏っている雰囲気が一変していた。

 子供っぽくも確かに感じていた昼の気配、生の実感はどこかへ消し飛び、代わりに夜の気配を、背筋が凍えるほどの死を纏っていた。

 

「これは……まさか……。いや、やはり……」

 

 伊邪那美の声音に緊張と険の要素が混ざる。立ち上がった龍次の眼前、ベッドの上の茜から、赤黒いオーラが噴き出した。

 

「これは――――」

「この気配。そして、夜のみ死する人間。ヒントは十分すぎるほど提示されていました。ただ、私がそれを認めたくなかっただけ。

 いつから、君は彼女を契約者としていたのです。死者の国に囚われた女神。そして我が妻。伊邪那美(いざなみ)

 

 空気が凍った、そう、龍次は感じた。くすりと、茜の口元が笑みに変化した。裂けたような、三日月のような笑み。妙に赤くて艶めかしい唇。ぞわりと龍次の背を悪寒が走った。

 同時に、以前伊邪那岐に聞かされた話を思いだした。

 伊邪那岐の妻、伊邪那美。国を生み、神を生み、そして、息子、火の神迦具土神(カグツチ)を生んだ際の火傷が原因で死亡。死者の国、黄泉国の住人となり、夫である伊邪那岐と別離した神。

 夫と離縁することになった伊邪那美は叫ぶ。「あなたがこんなひどいことをするなら私は1日に1000の人間を殺すでしょう」と――――。

 

 

「ええ、ええ、やっと、その名を呼んでくださいましたね。伊邪那岐様」

 

 茜がそう言った。だが茜の声に重なるように、もう一つの女の声が龍次の耳に聞こえてきた。

 理性的で冷静て、穏やかな声。そのはずだ。だが龍次の脳裏を駆けたのは、そんな貞淑そのものと言った印象ではなく、そのテクスチャを剥がした下にある、泥のような何かだった。

 ()()()。龍次はそう思った。

 あるいは人はこう表現したかもしれない。情念と。

 

「伊邪那美……。彼女を解放しなさい」

「いいえ、それはできません。伊邪那岐様。だって彼女は、やっと見つけた(わたくし)のパートナー。貴方様も知っておいででしょう、伊邪那岐様? 私は神であり、死者でもある。ゆえに契約者に生きている人間は向かない。だから、私が使っている間、死んでいただきたいのです」

「夜、心臓が止まっている病気。いや、呪い……。それはお前がばらまいていたってわけか。そして、茜以外の契約者候補を殺したのか!?」

 

 龍次の怒りの叫び。伊邪那美は何故か悲し気に首を振っただけだった。

 

「はい。哀しいことですが、私の願いを叶えるためには、仕方のないことなのです。彼女に苦しみを強いていることは哀しい。そして心苦しい。同時に、多くの方々を死なせたこともまた、心苦しい。けれど仕方がありません。だってこうしないと、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それに、殺したわけではありません。私は、私が治める国に彼らを招待したにすぎません」

「何を……言って……」

 

 伊邪那美の言葉は龍次の理解を超えていた。

 伊邪那岐に振り向いてもらうために、人を殺した。その言動が理解できない。

 

「伊邪那美……。私は後悔しています。君をそのような姿にし、君をそのように歪めてしまったことを」

 

 沈痛な面持ちの伊邪那岐。彼はそのまま言葉を紡いだ。

 

「死した君を迎えに行くのが遅れ、君は死者の国の食べ物を口にしてしまった。そして私は、君を置き去りにしてしまった。逃げたのだ。君に背を向けて。文字通り、住む世界が違ってしまったから。

 だが伊邪那美。私の罪と、君の罪は別物です。君が日に千の命を奪おうとも、それで私を引き留めることはできない。そんなことをすれば、私の心は君から離れていくだけだ」

「ああ、ああ伊邪那岐様。哀しいことをおっしゃいますね。()()()()()()()()()()()()()() ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 会話が全く成立しない。伊邪那岐がどれだけ論理的に言葉を並べても、伊邪那美はそれらをすべて死へと直結するよう曲解する。そして、その女神が今、茜を捕えて離さない。龍次の一番大切な少女を。

 その事実が彼を怒りに駆り立てた。

 

「伊邪那岐。茜はどうすれば解放される?」

「彼女を、伊邪那美を、神々の戦争で打倒すしかありません」

「つまり、倒せってことだな!」

 

 龍次は叫んだ。もう我慢の限界だった。

 

「デュエルだ伊邪那美! お前を倒し、茜を解放する!」

「ああ、哀しいです。伊邪那岐様。もう離れ離れは嫌です。死者(わたくし)生者(あなたさま)の世界に居られないのなら、神々の王となり、この世を死者の国へと変えましょう。全ての生者が等しく死者になる。そうなれば、私と貴方様を引き裂く要因は何もない。永久(とこしえに)に共に在りましょう!」

 

 言って、茜の身体は窓から躍り出た。月光を浴びながら、真っ逆さまに落ちていく。その下は確か病院の駐車場だったはず、と龍次は頭のどこか、辛うじて残っている冷静な部分で思った。

 

「茜!」

「追うのです、龍次! 私が受け止めます」

 

 頼むと残し、龍次も躊躇なく開け放たれた窓から跳躍した。

 着地は宣言通り、伊邪那岐によって受け止められた。そして見た、眼前、茜の背後に現れる影の正体を。

 振り乱した地面まで届く黒髪、肌は骨のように白く、唇と瞳だけが妙に赤い。黒を基調に赤い彼岸花の模様が入った着物姿。

 伊邪那美だ。そして伊邪那美から伸びる無数の黒い糸のような光が、いつの間にかデュエルディスクを左腕に装着していた茜の身体の各所に巻き付いていた。まさに操り人形(マリオネット)のように。その事実が、龍次の怒りをさらに加速させた。

 

「龍次。冷静に。沈着に。でなければ、勝てる戦いも勝てません」

「わかってる。行くぞ伊邪那美! お前を倒し、茜を救う!」

 

 微笑する伊邪那美。龍次の胸元に銀灰色の宝珠の輝きが宿り、操り人形と化した茜の胸元には彼女の姓と同じ、山吹色の宝珠が輝きを放っていた。

 互いのデュエルディスクを起動させる。

 

決闘(デュエル)!』

 

 龍次にとって、負けられない戦いの火蓋が切って落とされた。

 

 

龍次LP8000手札5枚

伊邪那美LP8000手札5枚

 

「俺の先攻! 俺は手札からH・C(ヒロイック・チャレンジャー) ダブル・ランスを捨てて、H・C クレイモアを特殊召喚! こいつは手札からヒロイックを一枚捨てて、特殊召喚できる!」

 

 龍次のフィールドで先陣を切ったのは、黄色の全身鎧、冑、そして筋骨隆々の体躯をした戦士。手には己の名と同じ得物、クレイモアを携えていた。

 

「さらにクレイモアの効果発動! 一ターンに一度、墓地のヒロイックモンスター一体を指定し、そのモンスターと同じレベルのヒロイック一体を手札に加える! もっとも、その代償に、俺はこのターン、相手に戦闘ダメージを与えられないが、一ターン目じゃ関係ねぇ。俺は墓地のダブル・ランスを指定し、デッキからH・C サウザンド・ブレードを手札に加え、召喚!」

 

 龍次のデッキから一枚のカードが排出される。カードを手に取る龍次、それを、手札に加える間もなくデュエルディスクに叩き付けるようにセット。現れたのは僧兵をモチーフにしたと思われる、銀色の鎧姿に、背中に無数の刀剣類を背負った戦士。肩に担いだ薙刀を構え、勇ましい声を上げた。

 

「さて、ここでサウザンド・ブレードの効果を使えば、一気に三体のモンスターを展開できますが?」

 

 口調から、明らかに熱くなっている龍次に対し、伊邪那岐が水を向けた。彼からの言葉に対し、龍次は首を横に振った。

 

「いや、それだとヒロイックしか特殊召喚できない。俺がこのターン、特殊召喚するモンスターはあと一体。それはヒロイックじゃない。こいつさ。俺はクレイモアとサウザンド・ブレードでオーバーレイ! 二体のモンスターで、オーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚!」

 

 龍次の右手が天高く振り上げられる。彼の頭上に背後に星が輝く宇宙空間の様な空間が展開し、そこに黄色の光となった二体の戦士族モンスターが飛び込んでいく。虹色の爆発が起こった。

 

「出でよNo.(ナンバーズ)39! 希望の担い手、ここにあり! その優しき光で弱きものを守り通せ! 希望皇ホープ!」

 

 爆発の粉塵を突き破り、現れたのは月とそこから溢れる月光のような、黄色と白の鎧姿の戦士。背にはウィングパーツ、腰の両脇に片刃の剣をそれぞれ一本ずつ下げ、左肩には自身のナンバーである「39」を刻んでいた。

 希望皇ホープ。龍次のデッキのエース、H-C(ヒロイック・チャンピオン) エクスカリバーと並ぶ、守りの要にして、盾の内側に隠された凶悪無比なパイルバンカー。だが先攻一ターン目に召喚するならば、期待するのはやはりホープの防御能力だろう。

 

「カードを一枚伏せ、ターンエンドだ」

 

 

H・C クレイモア 地属性 ☆4 戦士族:効果

ATK1700 DEF0

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。(1):手札の「ヒロイック」カードを1枚捨てて発動する。手札からこのカードを特殊召喚できる。(2):1ターンに1度、自分の墓地の「ヒロイック」モンスター1体を指定し、そのモンスターと同じレベルの「ヒロイック」モンスター1体をデッキから手札に加える。この効果を発動したターン、相手が受ける戦闘ダメージは0になる。

 

H・C サウザンド・ブレード 地属性 ☆4 戦士族:効果

ATK1300 DEF1100

「H・C サウザンド・ブレード」の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。(1):1ターンに1度、手札から「ヒロイック」カード1枚を捨てて発動できる。デッキから「ヒロイック」モンスター1体を特殊召喚し、このカードを守備表示にする。この効果の発動後、ターン終了時まで自分は「ヒロイック」モンスターしか特殊召喚できない。(2):このカードが墓地に存在し、戦闘・効果で自分がダメージを受けた時に発動できる。このカードを墓地から攻撃表示で特殊召喚する。

 

No.39 希望皇ホープ 光属性 ランク4 戦士族:エクシーズ

ATK2500 DEF2000

レベル4モンスター×2

(1):自分または相手のモンスターの攻撃宣言時、このカードのX素材を1つ取り除いて発動できる。そのモンスターの攻撃を無効にする。(2):このカードがX素材の無い状態で攻撃対象に選択された場合に発動する。このカードを破壊する。

 

No.39 希望皇ホープORU(オーバーレイユニット)×2

 

 

「私の手番ですね。ドロー致しましょう」

 

 ドローと言っても実際に動かすのは伊邪那美自身の身体ではなく、茜のもの。醜悪な人形劇に、龍次の頬が僅かに痙攣する。怒りを抑えきれないでいた。

 

「龍次、落ち着いてください。怒りは君自身の感情の鎖を引き千切り、その身を敗北の奈落へと突き落とします」

 

 伊邪那岐の落ちついた声が聞こえてくるが、あまり効果はなかった。

 

「この手札では、いささか心許ないですね。ここはこれで行きましょう。手札抹殺を発動致します」

 

 手札交換のカードが発動される。茜が焦点を結ばぬ瞳のまま、五枚の手札を無造作に墓地に放り込んだ。龍次も二枚の手札を墓地に捨てる。

 落ちたカードは龍次がH・C ビッグ・シールド、アサルト・アーマー。伊邪那美が馬頭鬼、不知火の宮司(みやづかさ)、不知火の隠者(かげもの)、ゴブリンゾンビ、不知火の鍛師(かなち)

 

「不知火の武士(もののふ)を召喚致します」

 

 伊邪那美のフィールドに現れたのは、柄頭や刀身に怪しげな白や赤い炎を宿らせた二振りの刀を持った武士然とした男。精悍な顔つき、丁髷といかにも戦士族といった趣だが、その種族はアンデット。即ち、死者だ。

 

「不知火……」

 

 龍次の声音に困惑が混じる。知らないカテゴリーのカードだったからだ。いかに龍次が勉強家だとしても、デュエルモンスターズのカード数は膨大。全てのカテゴリー、全てのカードを把握することができるとすれば、それはこのゲームの創造主、ルートヴィヒ・クラインヴェレくらいだろう。

 龍次の困惑を受け取って、伊邪那美が艶然と微笑んだ。

 

「ええ、ええ、その通りです。彼らこそ黄泉国の住人。黄泉国の戦力。私の愛しい愛しい臣下です。不知火の武士の効果を発動致します。墓地のアンデット族一体を除外し、攻撃力を600アップさせます。私は不知火の宮司を除外致します」

 

 これで不知火の武士の攻撃力は2400。ホープにはわずかに届かない。それ以前に、ホープにはORUを使うことで相手の攻撃を無効にできる。

 だがその程度のことは当然、伊邪那美も分かっている。彼女の狙いは、ホープを戦闘で倒すことではない。

 

「龍次! ホープが!」

「ん? 何――――?」

 

 伊邪那岐の叫び、それに反応し、龍次が希望皇ホープの方を見る。するとどうしたことか。ホープの全身が炎に巻き付かれ、炎上しているではないか。

 

「これは――――」

「これぞ、除外された不知火の宮司の効果で御座います。このカードはゲームから除外された場合、相手の表側カードを一枚、破壊できるのです」

「その効果でホープを破壊したってわけか」僅かに舌打ちする龍次。

「不知火。どうやら除外されることによって効果を発動することがキーとなっているカテゴリーの様ですね。それも、能動的に除外できそうだ」と伊邪那岐。その予想は当たっており、龍次はさらに苦々し気な表情を作った。

 

 では次の一手です、と伊邪那美が微笑む。

 

「墓地の馬頭鬼の効果を発動致します。このカードを除外し、不知火の隠者を特殊召喚致しましょう。

 隠者の効果発動です。私のフィールドにいるアンデット族一体をリリースし、守備力0のアンデットチューナーを特殊召喚します。私は隠者自身をリリースし、デッキから妖刀-不知火を特殊召喚致します」

 

 一体の不知火モンスターを挟み、伊邪那美のフィールドに特殊召喚されたのは、一振りの刀。

 美しくも妖しい一刀で、浮き出る波紋はどこか魔的で、全体から青白い炎が立上っている。見ればその刀は不知火の武士が持っている青白い炎を上げる刀と同じものだった。

 

「バトルフェイズに参りましょう。まず一刀目。妖刀-不知火でダイレクトアタックです」

 

 ついに進行が開始された。まず先陣を切ったのは、担い手のいない妖刀。空中を自在にミサイルのように飛来する妖刀を、龍次は体を開くように跳躍して回避。地面に手をついて着地する。

 だがその眼前、刀を上段に構えた不知火の武士の姿があった。

 

「不知火の武士でダイレクトアタックです」

 

 遅ればせながら伊邪那美の声が届く。

 振り下ろされる一刀は、龍次の宝珠を狙ったものだった。だが、龍次はほんのわずか体の軸をずらした。

 武士の刀は吸い込まれるように龍次の左肩を直撃。激痛と、焼け付く痛み双方が龍次の脳を貫いた。

 

「―――――――――――!」

 

 龍次は少なからぬ努力を要して悲鳴を噛み殺した。こんなところで悲鳴なんか上げたくないという、彼の意地だった。

 

「こ、この瞬間。墓地のH・C サウザンド・ブレードの効果発動! このカードを攻撃表示で特殊召喚!」

 

 そして龍次もやられっぱなしではない。彼の墓地から復活する数多の武器を背負った戦士。攻撃表示だが、伊邪那美のモンスターはすでに攻撃を終えている。ダメージこそ受けたが、龍次はモンスターを残した状態で自分のターンを開始できるのだ。

 

「それは残念です。いいえ、哀しいです。抗うということは、私の国に入る気がないということ。()()()()です。私はただ、伊邪那岐様に去ってほしくないだけなのに。

 メインフェイズ2に入り、レベル4の不知火の武士に、レベル2の妖刀-不知火をチューニング致します」

 

 意味不明な論理を振りかざしながらデュエルを続ける伊邪那美。彼女のフィールドの妖刀が二つの緑の光の輪となり、その輪をくぐった武士が四つの白い光星となる。輪と光星を、光の道が貫いた。

 

「黄泉路は炎によって彩られる。死出の道を遡り、来たれ刀神。啜れ血潮を。シンクロ召喚。刀神(かたながみ)-不知火!」

 

 現れたのは、見た目は不知火の武士そのものだった。だが鞘に納められていた青白い炎を放つ刀は抜き放たれ、その背後で燃え盛る青白く発光する炎は、髪を結い、陣羽織に身を包んだ美丈夫の姿となっていた。まるで悪霊か、守護霊かといった趣だ。

 

「カードを一枚伏せて、手番終了と―――――」

「待ちな。まだターンを終了してもらっちゃ困る。お前のエンドフェイズ、俺は伏せていたトゥルース・リインフォースを発動! デッキから、H・C アンブッシュ・ソルジャーを特殊召喚する!」

 

 相手ターンにもかかわらず、二体目のヒロイックが龍次のフィールドに現れる。この二体は次の彼のスタンバイフェイズには三体になるであろう。龍次の意志は折れずその瞳は諦めを知らない。

 

「ああ、分かります。負けられないというなら、そうですよね。だって貴方様は愛しい少女を救いたいのですから。私の国から、連れ出したいのですから」

 

 悲しげに、或は寂しげに微笑する伊邪那美。その姿がさらに龍次の怒りを焚き付ける。怒りに狂わんばかりの龍次。伊邪那美は改めて、己のターン終了を宣言した。

 

 

手札抹殺:通常魔法

(1):手札があるプレイヤーは、その手札を全て捨てる。その後、それぞれ自身が捨てた枚数分デッキからドローする。

 

不知火の武士 炎属性 ☆4 アンデット族:効果

ATK1800 DEF0

「不知火の武士」の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。(1):自分の墓地のアンデット族モンスター1体を除外して発動できる。このカードの攻撃力はターン終了時まで600アップし、このターンこのカードがモンスターと戦闘を行った場合、そのモンスターはダメージ計算後に除外される。この効果は相手ターンでも発動できる。(2):このカードが除外された場合、「不知火の武士」以外の自分の墓地の「不知火」モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを手札に加える。

 

不知火の宮司 炎属性 ☆4 アンデット族:効果

ATK1500 DEF0

「不知火の宮司」の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。(1):このカードが召喚に成功した時に発動できる。自分の手札・墓地から「不知火の宮司」以外の「不知火」モンスター1体を選んで特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターは、フィールドから離れた場合に除外される。(2):このカードが除外された場合、相手フィールドの表側表示のカード1枚を対象として発動できる。そのカードを破壊する。

 

馬頭鬼 地属性 ☆4 アンデット族:効果

ATK1700 DEF800

(1):自分メインフェイズに墓地のこのカードを除外し、自分の墓地のアンデット族モンスター1体を対象として発動できる。そのアンデット族モンスターを特殊召喚する。

 

不知火の隠者 炎属性 ☆4 アンデット族:効果

ATK500 DEF0

「不知火の隠者」の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。(1):自分フィールドのアンデット族モンスター1体をリリースして発動できる。デッキから守備力0のアンデット族チューナー1体を特殊召喚する。(2):このカードが除外された場合、「不知火の隠者」以外の除外されている自分の「不知火」モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。この効果の発動時にフィールドに「不知火流 転生の陣」が存在する場合、この効果の対象を2体にできる。

 

妖刀-不知火 炎属性 ☆2 アンデット族:チューナー

ATK800 DEF0

「妖刀-不知火」の効果は1ターンに1度しか使用できない。(1):このカードが墓地に存在する場合、チューナー以外の自分の墓地のアンデット族モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターとこのカードを墓地から除外し、その2体のレベルの合計と同じレベルを持つアンデット族Sモンスター1体をエクストラデッキから特殊召喚する。この効果はこのカードが墓地へ送られたターンには発動できない。

 

刀神-不知火 炎属性 ☆6 アンデット族:シンクロ

ATK2500 DEF0

アンデット族チューナー+チューナー以外のアンデット族モンスター1体以上

自分は「刀神-不知火」を1ターンに1度しか特殊召喚できない。

???

 

トゥルース・リインフォース:通常罠

デッキからレベル2以下の戦士族モンスター1体を特殊召喚する。このカードを発動するターン、自分はバトルフェイズを行えない。

 

H・C アンブッシュ・ソルジャー 地属性 ☆1 戦士族:効果

ATK0 DEF0

自分のスタンバイフェイズ時、フィールド上のこのカードをリリースして発動できる。自分の手札・墓地から「H・C アンブッシュ・ソルジャー」以外の「H・C」と名のついたモンスターを2体まで選んで特殊召喚できる。「H・C アンブッシュ・ソルジャー」のこの効果は1ターンに1度しか使用できない。この効果で特殊召喚に成功した時、墓地のこのカードをゲームから除外する事で、自分フィールド上の全ての「H・C」と名のついたモンスターのレベルを1にする。

 

 

龍次LP8000→7200→4800手札2枚

伊邪那美LP8000手札3枚

 

 

「俺のターン! スタンバイフェイズ、アンブッシュ・ソルジャー効果発動! このカードをリリースし、墓地のH・C クレイモアとビッグ・シールドを特殊召喚!」

 

 二体のヒロイックモンスターは一体が消失し、二体が墓地から復活した。一ターン目に登場したクレイモアと、黒鉄(くろがね)色のバトルアーマー、筋骨隆々な体躯、マスク姿にその身を隠すほどの菱形の大盾を構えた二メートルほどの巨漢。即ちH・C ビッグ・シールド。

 

「ここで、手札のH・C スパルタクスを捨てて、サウザンド・ブレードの効果はつど――――」

「いいえ。いいえ。そうは致しません。私はサウザンド・ブレードの効果にチェーンし、刀神-不知火の効果を発動致します。ゲームから除外されている馬頭鬼をデッキに戻し、その攻撃力以下の攻撃力を持つ貴方様のモンスターを、全て守備表示に変更いたします」

「な!?」

 

 驚愕の声を上げる龍次。そして、守備表示を晒してしまう彼のモンスターたち。これは痛い。なぜならば――――

 

「サウザンド・ブレードの効果は発動後、自身を守備表示に変更するところまでです。つまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「それでいながら、発動コストの手札のヒロイックは捨てられる。くそ! 俺は損しただけかよ」

 

 結局、サウザンド・ブレードによってモンスターを特殊召喚することはできなかった。

 だがまあいい。それならそれで、他にやりようはあるのだ。龍次はすぐさま次のモンスター展開へと着手した。

 

「クレイモアの効果発動! 墓地のダブル・ランスを選択し、デッキから2枚目のダブル・ランスをサーチ。そして召喚! 効果で、墓地のダブル・ランスを特殊召喚!」

 

 これで龍次のモンスターは五体。攻め時であった。

 

「行くぜ! クレイモアと二体のダブル・ランスでオーバーレイ! 三体のモンスターで、オーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚!

 大蛇の尾より生まれし神剣、神々、英雄の手を渡り万難排する剣となる! 出でよH-C クサナギ!」

 

 X召喚のエフェクトが走り、虹色の爆発から現れたのは、橙色の和風甲冑、緑の具足、右手に握る剣はまるで炎が具現化したような、刀身が赤い光でできた刀を携えた鎧武者。相手の罠を切り捨てる龍次のXヒロイックモンスターだ。

 

「さらにサウザンド・ブレードとビッグ・シールドでオーバーレイ! 二体のモンスターで、オーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚!

 曇り無き王の聖剣、数多の闇を切り裂き王道を作りだす! いつか湖の貴婦人の手に返されるその日まで、輝きは消えはしない! 約束された勝利の剣、H-C エクスカリバー!」

 

 三体目のXモンスターが現れる。虹色の向こうから現れた、赤いバトルアーマーに身を包み、鋭き眼光を放ち、余計な装飾を配した、実用一点張りの剣を携えた戦士が威風堂々と雄叫びを上げて龍次のフィールドに現れた。

 

「エクスカリバー効果発動! ORUを二つ使い、攻撃力を4000にアップ! バトルだ! エクスカリバーで刀神-不知火に攻撃!」

 

 攻撃宣言が下り、エクスカリバーが剣を上段に構え、地を蹴って跳躍。夜の闇を切り裂くように、戦士の剣身が光を放つ。

 大上段からの一刀が、一気に振り下ろされた。

 

「いけません。墓地の不知火の鍛師を除外し、リバーストラップ、不知火流 火鼠の型を発動致します。このカードは相手モンスターの攻撃力を半分に――――」

「通さねぇ! クサナギの効果発動! ORUを一つ使い、今発動された罠を無効! さらにクサナギ自体の攻撃力を500アップ!」

 

 伊邪那美が発動した伏せカードは、クサナギが放った横一文字の一閃によって文字通り効果を発揮する前に切り払われた。クレイモアの制約効果によって戦闘ダメージは与えられないが、相手の罠を無効化するクサナギはいるだけで牽制になりえる。

 妨害はなくなった。今こそエクスカリバーの一刀が刀神に吸い込まれた。

 金属音。本来であれば攻撃力4000のエクスカリバーに2500の刀神は太刀打ちできない。防御のために掲げた刀ごと一刀両断されてもおかしくない。

 だが。刀神-不知火はエクスカリバーの一撃を受け止めた。

 

「残念、残念です。私が発動した火鼠の型は確かに無効化されました、ですが、私の真の狙いは其方ではないのです。私がやりたかったことは、不知火の鍛師を除外すること。このカードは除外されれば、そのターン、私のアンデット族モンスターに戦闘耐性を付加するのです」

「つまり、それでこちらの攻撃を躱したというわけですか……」

「その通りです、伊邪那岐様」

 

 伊邪那岐に話しかけられて嬉しいのか、伊邪那美は無垢に笑った。しゃれこうべが何かの間違いで笑ったようにしか、龍次には見えなかった。

 戦闘ダメージは与えられないのでこれ以上の攻撃は意味がない。結局、龍次はカードを二枚セットして、ターンを終了した。

 

 

刀神-不知火 炎属性 ☆6 アンデット族:シンクロ

ATK2500 DEF0

アンデット族チューナー+チューナー以外のアンデット族モンスター1体以上

自分は「刀神-不知火」を1ターンに1度しか特殊召喚できない。(1):1ターンに1度、除外されている自分のアンデット族モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターをデッキに戻し、その攻撃力以下の攻撃力を持つ相手フィールドのモンスターを全て守備表示にする。この効果は相手ターンでも発動できる。(2):このカードが除外された場合、相手フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターの攻撃力は500ダウンする。

 

H・C ダブル・ランス 地属性 ☆4 戦士族:効果

ATK1700 DEF900

このカードが召喚に成功した時、自分の手札・墓地から「H・C ダブル・ランス」1体を選んで表側守備表示で特殊召喚できる。このカードはシンクロ素材にできない。また、このカードをエクシーズ素材とする場合、戦士族モンスターのエクシーズ召喚にしか使用できない。

 

H-C クサナギ 地属性 ランク4 戦士族:エクシーズ

ATK2500 DEF2400

戦士族レベル4モンスター×3

1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除いて発動できる。罠カードの発動を無効にし破壊する。その後、このカードの攻撃力は500ポイントアップする。

 

H-C エクスカリバー 光属性 ランク4 戦士族:エクシーズ

ATK2000 DEF2000

戦士族レベル4モンスター×2

1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を2つ取り除いて発動できる。このカードの攻撃力は、次の相手のエンドフェイズ時まで元々の攻撃力の倍になる。

 

不知火流 火鼠の型:通常罠

(1):自分の墓地の「不知火」モンスター1体を除外して発動できる。相手フィールドの表側攻撃表示モンスターの攻撃力を半分にする。(2):???

 

不知火の鍛師 炎属性 ☆4 アンデット族:効果

ATK1000 DEF0

「不知火の鍛師」の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。(1):フィールドのこのカードがS素材として墓地へ送られた場合に発動できる。デッキから「不知火の鍛師」以外の「不知火」カード1枚を手札に加える。(2):このカードが除外された場合に発動できる。このターン、自分のアンデット族モンスターは戦闘では破壊されない。

 

 

H-C クサナギ攻撃力2500→3000、ORU×2

H-C エクスカリバー攻撃力2000→4000、ORU×0

 

 

「私の手番ですね。ドロー致しましょう」

 

 結局伊邪那美のモンスターを減らすことができなかった龍次。そこには忸怩たる思いがあった。そんな龍次の心情を知ってか知らずか、伊邪那美は虚ろな表情の茜の後ろで微笑していた。いっそ優雅にさえ見えるその笑みが、龍次はとにかく気に入らなかった。

 

「では、ユニゾンビを召喚致しましょう」

 

 現れたのは肩を組み、ユニゾンで何やら熱唱している二体のゾンビ。本人たちは気持ちよく歌っているのだろうが、いかんせんゾンビであるため、声帯まで壊死してしまって聞こえるのは歌声というより不気味な唸り声が重なって余計に気味が悪いだけであった。

 

「ユニゾンビ効果を発動致します。デッキから馬頭鬼を墓地に送り、ユニゾンビのレベルを一つ上げます。さらに今墓地に送った馬頭鬼の効果を発動致しましょう。このカードを除外し、墓地からゴブリンゾンビを特殊召喚致します」

 

 レベル4チューナーとなったユニゾンビ。そしてフィールドから墓地に送られればデッキから守備力1200以下のアンデット族をサーチできるゴブリンゾンビ。二体のゾンビが揃った以上、やることは一つ。

 即ち(シンクロ)召喚しかない。

 

「参ります。レベル4のゴブリンゾンビに、レベル4となったユニゾンビをチューニング」

 

 先ほどと同じSエフェクトが走り、白い(とばり)が場に満ちる。

 

「黄泉路は炎によって彩られる。死出の道を遡り、来たれ戦神(いくさがみ)。踏み荒らせ、無辜なる民を。シンクロ召喚。戦神(いくさがみ)-不知火!」

 

 現れたのは、流れるような白髪、炎のような陣羽織姿、その上に纏った黒い鎧、右手に青白い炎を宿した刀を、左手に赤い炎を宿した刀を持った美丈夫。怜悧沈着な瞳が龍次を静かに見据えていた。

 

「戦神-不知火とゴブリンゾンビの効果を発動致します。まずゴブリンゾンビの効果で、デッキからゾンビ・マスターを手札に加えさせていただきます。さらに戦神の効果。特殊召喚成功時、私の墓地のアンデット族一体を除外し、ターン終了時までですが、その攻撃力分、このカードの攻撃力を上昇させます。私は不知火の武士を除外し、戦神の攻撃力を1800アップさせます。

 ああ、この瞬間、除外された武士の効果を発動致しますね。墓地の不知火の隠者を手札に加えることにいたします」

 

 攻撃力4800、既にエクスカリバーを超えた数値だ。だが伊邪那美はさらに畳みかけてきた。

 

「そして、墓地の不知火流-火鼠の型の効果を発動致しましょう。墓地のこのカードを除外し、相手フィールドモンスターの攻撃力を1000ダウンさせます。参ります。戦神-不知火でエクスカリバーを、刀神-不知火でクサナギを、それぞれ攻撃致します」

 

 不知火流 火鼠の型の効果によって、龍次のフィールド、エクスカリバーの攻撃力は3000に、クサナギの攻撃力は2000に下がっている。伊邪那美の二体のモンスターの攻撃を受ければ龍次のモンスターは全滅。彼は大いに劣勢に立たされてしまう。

 

「龍次。君の伏せたカードを考慮するならば、今ここでその二体を失うのは得策ではありません。ゆえに、守るべきです。二体のXモンスターを!」

 

 伊邪那岐の助言が飛ぶ。彼は知っている。龍次のデッキ構築を傍で見ていたからだ。彼が伏せたカード、デッキに眠っているカード、この逆境を覆す手段を――――

 

「分かってる! 俺は、墓地のH・C ビッグ・シールドの効果を発動! このカードをゲームから除外することで、俺の場のヒロイックモンスターはこのターン、戦闘、カード効果で破壊されない!」

 

 龍次の墓地から一枚のカードが取り除かれる。次の瞬間、半透明の菱形の大盾――H・C ビッグ・シールドの盾だ――がエクスカリバーとクサナギの前面に展開。振り下ろされ、薙ぎ払われる炎熱の刀から龍次の二体のH-Cを守った。

 一撃目。炎神-不知火が青と赤の炎に彩られた二刀をクロスさせ、X字にエクスカリバーに叩き付ける。

 聖剣の名を冠した戦士は、前面に展開された盾によって致命傷を免れる。だがダメージは消えない。龍次は体の内側から襲い来る焼けるような痛みに耐えねばならなかった。

 

「く……! 負けるかよぉ! 互いに戦闘で破壊されなかったこの瞬間、リバーストラップ、ヒロイック・リベンジ・タクティクス発動! デッキからH・C エクストラ・ソードとH・C 早駆けのファルシオンを墓地に送り、H・C スリーハンドレッド・テルモピュライを手札に加える!」

 

 龍次は痛みに耐えながらも、次のターンの反撃の手段を整える。墓地を肥やし、欲しいカードをサーチ。その姿勢に危険なものを感じた伊邪那美は切なげなため息を零した。

 

「ああ、哀しいです。生命力に満ちた少年が、私の国を否定し、私から彼女を奪おうとする。それは、駄目です。困ります。やはり、貴方様を、我が国の住人にするしかありません。刀神-不知火でクサナギを攻撃します」

 

 まったくもって支離滅裂な伊邪那美の言動――たぶん龍次を殺すと言っている――。続く炎と刀の連撃も、クサナギは墓地の同胞が張ってくれた盾によって防ぎ切る。

 

「この戦闘ダメージにより、俺は墓地のサウザンド・ブレードの効果発動! このカードを攻撃表示で特殊召喚する!」

「その抗いが、私にとっては悲劇です。カードを一枚伏せて、手番を終了いたしましょう」

「さっきの焼廻しで悪いが、おまえのターンはまだ終わってもらっちゃ困るんだよ! リバーストラップ。リビングデッドの呼び声を発動! 蘇れアンブッシュ・ソルジャー!」

 

 龍次は負けない。屈しない。抗い続ける。神の思惑によって人生を左右された茜を解放するために。そして、この死人の女神によって無慈悲且つ無意味に命を奪われた、呪いの犠牲者のためにも。

 伊邪那美は改めて、ターンを終了した。

 

 

ユニゾンビ 闇属性 ☆3 アンデット族:チューナー

ATK1300 DEF0

「ユニゾンビ」の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。(1):フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。手札を1枚捨て、対象のモンスターのレベルを1つ上げる。(2):フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。デッキからアンデット族モンスター1体を墓地へ送り、対象のモンスターのレベルを1つ上げる。この効果の発動後、ターン終了時までアンデット族以外の自分のモンスターは攻撃できない。

 

ゴブリンゾンビ 闇属性 ☆4 アンデット族:効果

ATK1100 DEF1050

(1):このカードが相手に戦闘ダメージを与えた場合に発動する。相手のデッキの一番上のカードを墓地へ送る。(2):このカードがフィールドから墓地へ送られた場合に発動する。デッキから守備力1200以下のアンデット族モンスター1体を手札に加える。

 

炎神-不知火 炎属性 ☆8 アンデット族:シンクロ

ATK3000 DEF0

アンデット族チューナー+チューナー以外のアンデット族モンスター1体以上

自分は「戦神-不知火」を1ターンに1度しか特殊召喚できない。(1):このカードが特殊召喚に成功した場合、自分の墓地のアンデット族モンスター1体を除外して発動できる。このカードの攻撃力はターン終了時まで、除外したモンスターの元々の攻撃力分アップする。(2):フィールドのこのカードが戦闘・効果で破壊され墓地へ送られた場合、除外されている自分の守備力0のアンデット族モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを墓地に戻す。

 

不知火流 火鼠の型:通常罠

(1):自分の墓地の「不知火」モンスター1体を除外して発動できる。相手フィールドの表側攻撃表示モンスターの攻撃力を半分にする。(2):墓地のこのカードをゲームから除外して発動できる。相手表側表示モンスターの攻撃力を1000ポイントダウンする。この効果はこのカードが墓地に送られたターンには発動できない。

 

H・C ビッグ・シールド 地属性 ☆4 戦士族:効果

ATK0 DEF2000

(1):墓地のこのカードをゲームから除外して発動できる。このターン、自分フィールドの「ヒロイック」モンスターは戦闘、カードの効果によって破壊されない。この効果は相手ターンにも使用できる。

 

ヒロイック・リベンジ・タクティクス:通常罠

(1):自分の「ヒロイック」モンスターと相手モンスターが戦闘を行い、どちらも破壊されなかった時のダメージ計算終了時に発動できる。デッキから「ヒロイック」モンスター2体を墓地に送る。その後、デッキから「ヒロイック」モンスター1体を対象にし、そのモンスターを手札に加える。

 

 

龍次LP4800→3000→2500手札1枚(H・C スリーハンドレッド・テルモピュライ)

伊邪那美LP8000手札4枚(うち2枚はゾンビ・マスター、不知火の隠者)

 

 

「俺のターン! スタンバイフェイズにアンブッシュ・ソルジャーの効果発動! このカードをリリースし、墓地からH・C エクストラ・ソードと早駆けのファルシオンを特殊召喚する!」

 

 一体を犠牲に、二体のヒロイックを展開する龍次。

 緑を基調とした軽装鎧に身を包み、両手に剣を持った戦士。即ちエクストラ・ソードと、水色の軽装鎧姿、身軽さを何よりも信条とした軽装甲の戦士。手には己の名を冠した武器、ファルシオン。即ちH・C 早駆けのファルシオン。

 

「まだだ! 俺はエクスカリバーとクサナギをリリース! H・C スリーハンドレッド・テルモピュライをアドバンス召喚!」

 

 二体のXヒロイックモンスターが光の粒子となって夜に消え、代わりに現れたモンスターはH・C スパルタスによく似ていた。

 違う点はより強靭な肉体を持ち、より太い槍、大きな盾を備え、後頭部からは髪のように、背中からはマントのように、真紅の炎を吹きだし、たなびかせていた。

 

「スリーハンドレッド・テルモピュライの効果発動! 俺のライフが相手よりも2000以上少ない場合、召喚成功時にカードを二枚ドローする!」

 

 召喚されたスリーハンドレッド・テルモピュライが雄たけびを上げる。雄叫びが祝福となって主である龍次の耳に届き、彼に二枚のドローという実益を与えた。

 さらに龍次は声を張り上げた。

 

「スリーハンドレッド・テルモピュライのもう一つの効果! 相手より3000以上ライフが低い場合、このカードをリリースし、墓地から二体のヒロイックを特殊召喚できる! 蘇れ、スパルタス、クレイモア!」

 

 

H・C エクストラ・ソード 地属性 ☆4 戦士族:効果

ATK1000 DEF1000

このカードを素材としたエクシーズモンスターは以下の効果を得る。●このエクシーズ召喚に成功した時、このカードの攻撃力は1000ポイントアップする。

 

H・C 早駆けのファルシオン 地属性 ☆4 戦士族:効果

ATK1600 DEF1300

このカード名の(1)の方法による特殊召喚は1ターンに1度しかできない。(1):自分フィールドに「ヒロイック」モンスターが存在する場合、このカードは手札から特殊召喚できる。(2):このカードを素材とした「ヒロイック」エクシーズモンスターは以下の効果を得る。●このエクシーズ召喚に成功した時、デッキからカードを1枚ドローする。

 

H・C スリーハンドレッド・テルモピュライ 炎属性 ☆8 戦士族:効果

ATK2300 DEF3000

このカード名はフィールドに1体しか表側表示で存在できない。このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。(1):このカードのアドバンス召喚に成功した時、自分のライフが相手よりも2000ポイント以上低かった場合に発動できる。カードを2枚ドローする。(2):自分のライフが相手よりも3000ポイント以上低い場合に発動できる。このカードをリリースし、墓地から「H・C スリーハンドレッド・テルモピュライ」以外の「ヒロイック」モンスター2体を特殊召喚する。(3):このカードが表側表示で存在する限り、相手はほかのモンスターを攻撃できない。

 

H・C スパルタス 地属性 ☆4 戦士族:効果

ATK1600 DEF1000

1ターンに1度、相手モンスターの攻撃宣言時にこのカード以外の自分フィールド上の「ヒロイック」と名のついたモンスター1体を選択して発動できる。このカードの攻撃力はバトルフェイズ終了時まで、選択したモンスターの元々の攻撃力分アップする。

 

 

 龍次の脳裏には、この後の行動はすでにシミュレーション済みだった。それほど難しいことではない。ここまでお膳立てを整えれば、あとは宣言するだけだ。 

 たった一言。新たなX召喚を宣言すればいい。

 だがその一言が、龍次には重かった。

 龍次のエクストラデッキには、新たなカードが投入されていた。

 投入するつもりなど無かった。デッキケースに入れて持ってきたのはそう、きっと気の迷いだ。

 

「いいえ、龍次。今そのカードを使うべきです」

「伊邪那岐……」

 

 迷う龍次の耳朶を、伊邪那岐の導くような声音が打った。

 

「君は両親からの誕生日プレゼントであるそのカードを使うことに抵抗を覚えているのですね。ですがあえて言います。そんな葛藤は、犬にでも食わせなさい」

「え?」

「迷うことは大事だと思います。しかしそれも時と場合によります。龍次、今、君は迷ってはいけない。君の最優先事項は、伊邪那美に囚われている彼女を救うこと。そのために利用できる戦力は、躊躇なく使いなさい。でなければ、きっと後悔します」

 

 私のように、と、伊邪那岐は最後の部分だけ口の中だけで呟いた。だからその言葉は龍次の耳まで届かなかったはずだ。

 だが何かを感じ取ったのか、龍次は何か言いたげに伊邪那岐に視線を向けたが、言葉を飲み込み、違う言葉を吐きだした。

 

「だな。ありがとう、伊邪那岐。迷いは晴れた。俺は――――大丈夫だ」

 

 一拍の間。龍次は勢い良き右腕を振り上げた。

 

「俺は! 場のモンスター全てでオーバーレイ! 五体の戦士族モンスターでオーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚!」

 

 龍次の頭上に展開する銀河のごとき異空間。そこにそれぞれの属性に対応した光となって、戦士たちが次々と飛び込んだ。

 宇宙開闢の光、ビッグバンを思わせる虹色の爆発が起こる。

 召喚されるのは、前夜両親からもらったカード。誕生日プレゼント。まるで今日この時に必要になると予見していたかのような、強力なカードだった。

 

「それは世界に穿たれた楔。最果てに(そび)える大いなる塔。そして反逆の徒を穿つ註罰の槍! 来たれ輝ける聖槍よ! No.86 H-C ロンゴミアント!」

 

 龍次の声が高々にバトルフィールド内に木霊した。

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