状況は最悪だ。
炎神-不知火、魔王龍 ベエルゼ、冥界龍 ドラゴネクロ。どれも超上級モンスターであり、
極めつけに、残りライフは一撃で消し飛ぶ程度。ああ、これは絶体絶命というやつだろう。
だが龍次は膝を屈しない。屈するわけにはいかない。
そして拳を握り続ける。
戦意は消えない。闘志は消えない。戦い続けてやる、どこまでも。
龍次LP2500手札4枚
ペンデュラムゾーン赤:なし青:なし
場 No.39 希望皇ホープ(守備表示、ORU:なし)、永続罠:リビングデッドの呼び声(対象:なし)
伏せ なし
伊邪那美6500手札1枚
場 炎神-不知火(攻撃表示、鎧骨大帝ガシャドクロ装備、効果無効、攻撃力3500→5000)、魔王龍ベエルゼ(攻撃表示)、冥界龍ドラゴネクロ(攻撃表示)、永続罠:不知火流 輪廻の陣、永続魔法:魂吸収、
伏せ なし
「俺のターン! ドロー!」
ドローしたのは貪欲な壺。迷わず発動し、エクスカリバー、クサナギ、ロンゴミアント、ガーンデーヴァ、スパルタクスをデッキに戻して二枚ドロー。そのドローも鋭く、まるで鞘から研ぎ澄まされた刀を抜くように思えた。
ドローカードを確認。そして、沈黙。だが龍次の瞳に光明が見えた。今、彼の脳裏でこのターンの戦術が展開され、その結果がシミュレートされている。そして、行けると踏んだ。
「このターン、ここで反撃にでるぞ、
「ええ。その手札でまずするならば、やはり炎神の無力化でしょう」
「ああ! 俺は手札から速攻魔法、月の書を発動し、炎神-不知火を裏側守備表示に変更する!」
炎神の姿が、正確にはそれを投影していたカード自体が
また、表側でなくなった以上、炎神-不知火の効果も発動されない。破壊の身代わりはできない。
「ああ、哀しいです。そうまでして貴方様方は――――――――」
「お前の御託はもうたくさんだ! 魔法カード、
龍次の頭上、X召喚のエフェクトを表す、渦巻く銀河のような空間が展開され、その中に、白い光となった希望皇ホープが飛び込んだ。
「一体のモンスターで、オーバーレイネットワークを再構築! エクシーズ召喚!
赤き異界の力、敵を焼き滅ぼす炎となる! 今、希望は進化する! カオス・エクシーズ・チェンジ!
虹色の爆発を貫いて、現れる新たなホープ。
希望皇ホープをより鋭角的にしたシャープなデザイン。カラーリングは白と金を基調としていた姿から一変。黒を基調に、赤のアーマーを装着し、赤く輝く各所の身体を持った、禍々しさと刺々しさが大きく向上されたデザインの、まったく新しい姿。その身に十字架をより鋭角にしたような
「ホープレイVの効果発動! ORUは墓地のムーンバリアを除外して肩代わりし、裏守備表示の炎神-不知火を破壊する!」
ホープレイVがウィングパーツを広げて飛翔。手にした剣を投擲する。
空を割く剣の一振り。剣身が炎を噴き上げ、灼熱の弾丸となって飛来。裏側守備表示となり、炎神-不知火でもない
対象が裏側守備表示だったため、攻撃力も無判定。0として計算され、伊邪那美にはダメージはいかない。
だがそれは龍次も承知していた。それよりも、裏側にすることで炎神-不知火の身代わり効果の発動を防ぐこと、そしてガシャドクロを排除してやはりガシャドクロの身代わりを防ぐことの方が重要だった。
ここぞとばかりに、龍次は畳みかける。このターンで伊邪那美の、黄泉路の軍勢を滅ぼさなければならない。そうしなければジリ貧で負ける。だから踏み込んだ。力強く、荒々しく。
「墓地のブレイクスルー・スキルの効果発動! このカードを除外し、ベエルゼの効果を無効!
さらに戦士の生還を発動! 墓地のH・C ダブル・ランスを回収し、召喚! 効果で墓地にいる、もう一体のダブル・ランスを特殊召喚する!
盾は力を発揮した。次は剣の番だ! 俺は二体のダブル・ランスでオーバーレイ! 二体の戦士族で、オーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚!
聖剣は折れない、砕けない! 俺が戦う意志を失わない限り! 輝き続けろ、H-C エクスカリバー!」
現れる赤い戦士。手にした剣を振るい、二つのORUを衛星のように旋回させる。ここに、龍次のデッキのエースが二体ともそろった。
「エクスカリバー効果発動! ORUを二つ取り除き、エクスカリバーの攻撃力を倍にする! そしてエクシーズ・ユニットをホープレイVに装備! これにより、ホープレイVは自身のランク×200、1000ポイント攻撃力をアップ!」
「これで準備は整いましたね、龍次」
「ああ。バトルだ! ホープレイでベエルゼを、エクスカリバーでドラゴネクロを攻撃!」
一気呵成に攻め立てる龍次。主の命を受けた二体の戦士が地を蹴った。
ホープレイVが飛翔し、エクスカリバーが地を駆けた。
天地からの挟撃。ホープレイVの二刀の剣が振り下ろされ、ベエルゼの身体をVの形に切り裂く。
次いでエクスカリバーが跳躍。大上段から剣を振り下ろす。
縦一文字に走る剣閃。一瞬の停滞の後、ドラゴネクロの身体が左右にずれ、そのまま頭頂部から尻尾の先まで、一刀両断にされた。
「これで、俺はターンエンドだ!」
貪欲な壺:通常魔法
(1):自分の墓地のモンスター5体を対象として発動できる。そのモンスター5体をデッキに加えてシャッフルする。その後、自分はデッキから2枚ドローする。
月の書:速攻魔法
(1):フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを裏側守備表示にする。
RUM-リミテッド・バリアンズ・フォース:通常魔法
自分フィールド上のランク4のエクシーズモンスター1体を選択して発動できる。選択したモンスターよりランクが1つ高い「CNo.」と名のついたモンスター1体を、選択した自分のモンスターの上に重ねてエクシーズ召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する。
CNo.39 希望皇ホープレイV 光属性 ランク5 戦士族:エクシーズ
ATK2600 DEF2000
レベル5モンスター×3
このカードが相手によって破壊された時、自分の墓地のエクシーズモンスター1体を選択してエクストラデッキに戻す事ができる。また、このカードが「希望皇ホープ」と名のついたモンスターをエクシーズ素材としている場合、以下の効果を得る。●1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除き、相手フィールド上のモンスター1体を選択して発動できる。選択したモンスターを破壊し、破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。
エクシーズ・ユニット:装備魔法
エクシーズモンスターにのみ装備可能。装備モンスターの攻撃力は、装備モンスターのランク×200ポイントアップする。また、自分フィールド上の装備モンスターがエクシーズ素材を取り除いて効果を発動する場合、このカードは取り除くエクシーズ素材の1つとして扱う事ができる。
CNo.39 希望皇ホープレイV攻撃力2600→3600
H-C エクスカリバー攻撃力2000→4000
龍次LP2500手札2枚
伊邪那美LP6500→7000→7500→6900→5900手札1枚
「
契約者であり操り人形でもある
ドローしたのはマジック・プランター。今彼女のフィールドに表側で存在している不知火流 輪廻の陣をコストにすれば二枚ドローができる。この局面で最上のカードだ。
「まず、輪廻の陣の効果を発動致します。除外されている不知火の巫女と宮司を墓地に戻して一枚ドロー致します。さらに輪廻の陣を墓地に送り、マジック・プランターを発動致します。カードを二枚ドロー」
ターン開始時には一枚だった伊邪那美の手札は、今は四枚。龍次は苦い表情になり、伊邪那岐もまた、表情を難しいもとへと変えた。敵の手札が増えることを歓迎するプレイヤーはいない。
そしてそんな一人と一柱の思惑を脇に置いて、伊邪那美は心底から
伊邪那岐は自分を見てくれない。視線は向けている。だがそれはただ伊邪那美が伊邪那岐の前に立っているからにすぎない。視線を向けいることは見ていることとは違う。違うと、伊邪那美は思っている。
現に伊邪那岐は自分の傍ではなく、対面にいて、敵対している。契約者の少年と共に。
それが、とても哀しい。どうして一緒にいられないのか。神話の時代からずっと、ずっと、狂おしいほどに求めているのに。
日に千の命では引き留められなかった。万の命でも同じかもしれない。今度できる産屋は一万五千か、二万か。
何の根拠もなければ意味さえもないただの突拍子もない思いつきだったが、伊邪那美は天啓を受けた予言者か宗教の始祖のように瞳を潤ませて、輝かんばかりの笑顔を浮かべた。
「なんだ……?」
その様子を、龍次が訝しげに観察する。見てはいけない深淵の底の底を見たような気がして、思わず顔を背けていた。
「そうですね、それが伊邪那岐様の望みならば、それで貴方様が振りむいてくれるのならば、
もはや会話さえまともに成立するかどうか怪しい精神汚染っぷりに、龍次は怒りさえ通り越して妙な虚しささえ感じ始め、伊邪那岐はより一層哀し気に顔をしかめた。
「とはいえこの手札では盛り返すのは難しいですね。哀しいです。モンスターをセットし、カードを一枚セット。これで手番を終了致しましょう」
マジック・プランター:通常魔法
自分フィールド上に表側表示で存在する永続罠カード1枚を墓地へ送って発動できる。デッキからカードを2枚ドローする。
「俺のターン! ドロー!」
ドローカードを確認した龍次は、一瞬硬直した。このタイミングで
引いたのは、
「龍次。私を召喚してください」
「伊邪那岐?」
「
「……できるのか?」恐る恐る聞く龍次。
「はい」真摯に頷く伊邪那岐。
「なら、頼むぜ、伊邪那岐。お前に賭ける」
「任せてください」
信頼を込めた龍次の言葉に、伊邪那岐は自信を込めて頷いた。それで十分だった。
迷いはない。伊邪那岐を信頼し、彼の攻撃が茜を傷つけないという前提の下、動くことにした。
「なら、まずは壁を潰す! ホープレイVの効果発動! ORUを一つ使い、伊邪那美のセットモンスターを破壊する!」
三度ウィングパーツを広げ、飛翔するホープレイV。その手から二振りの剣が投擲されようとした刹那、伊邪那美の足元に伏せられたカードが翻った。
「哀しいです。二度も同じ手が通用すると思われているとは。永続罠、デモンズチェーンを発動致します。ホープレイVの攻撃と効果を封じます」
虚空より走る闇の鎖が、投擲姿勢に入っていたホープレイVを拘束する。ホープレイVの呻き声。ガチャガチャと抵抗の音を響かせるが、それも無意味となる。
龍次は即座に頭の中を切り替えた。壁の排除は防がれた。ならもっとも原始的な方法で壁を潰す。即ち、戦闘だ。
「死者蘇生を発動! 蘇生したモンスターと、ホープレイV、エクスカリバーの三体をリリース!」
神への供物、生贄は揃った。三つの魂が光の柱となって天へと昇り、強大で偉大な力を受け入れる“場”を形成する。
そして門が開かれる。神が通る、神代からの出入り口が。
「来い! 国造大神伊邪那岐!」
三つの柱が一つに重なり合って混ざり合い、花開くように弾けた。
現れる神。
外見は腰まで伸びた銀髪、赤い髪飾り、白い肌、
日本神話に名を刻む国造りの神。伊邪那岐はまっすぐに、薄青く輝くその双眸を妻であった伊邪那美に向けた。
「伊邪那美。君から私への罰ならば、甘んじて受け入れよう。だが君が多くの無辜の民を害するならば、次は私の手で、君を冥府へと叩き込む」
敵意さえ込めた伊邪那岐の宣言。だが伊邪那美はその言葉を受けてもなんら反応は変わらなかった。いや、そもそも、己の内部で世界が完結している彼女に対し、外からのあらゆる言葉は届くまい。例え、伊邪那美にとって最愛の夫であるはずの、伊邪那岐の言葉であっても。
「哀しいです伊邪那岐様。どうして私に武器を向けているのですか? そんなこと、一度だってなかったのに。貴方様は、私に背中を見せてばっかりでしたのに」
伊邪那美はすでに自分の世界に没入している。龍次は頭を振って怒りを追い出し、プレイに集中することにした。後のことは伊邪那岐に任せる。
「伊邪那岐の効果発動。墓地のホープレイVを特殊召喚し、その攻撃力分、ライフを回復する」
墓地より蘇り、剣を構えるホープレイV。当時に龍次のライフも回復した。
だが足りない。伊邪那岐の攻撃力は3500。ホープレイVで壁を破壊し、伊邪那岐でダイレクトアタックを決めたとしても、伊邪那美のライフを削り切れない。そしてライフを0にできない一撃だと、例え神の攻撃でも宝珠を破壊できるかどうか……。
「大丈夫です、龍次、私の効果を。それで伊邪那美のライフを射程に収めることができます」
「ああ、そうだな。俺は最強の盾をホープレイVに装備! これにより、ホープレイVは自身の元々の守備力、つまり2000攻撃力がアップする! さらにここで伊邪那岐の効果発動! 一ターンに一度、ターン終了まで自身以外の俺のモンスターの攻撃力分、攻撃力アップ! これはモンスターのステータスの加減も加味される。つまり攻撃力4600になったホープレイVの攻撃力が、そのまま伊邪那岐にプラスさせるわけさ!」
これで伊邪那岐の攻撃力は8100。オーバーキルも可能となった。そして相手のライフを0にする場合、ライフとダメージの差が大きければ大きいほど、宝珠を砕ける可能性も高くなる。
茜を救う千載一遇のチャンス。龍次は勢い込んで宣言した。
「バトルだ! まずはホープレイVで守備モンスターを攻撃!」
龍次の攻撃宣言が下り、ホープレイVが雄々しい応答の声を上げて飛翔。急滑降からの唐竹割で、伊邪那美の守備モンスターを一刀両断にした。
「ああ、哀しいです。それではいけません。守備モンスターはピラミッド・タートル。効果を発動し、デッキから二枚目のピラミッド・タートルを守備表示で特殊召喚致します」
「リクルーター……」
苦々しげな表情を浮かべる龍次。相手の守備モンスターがリクルーターでは、単純にこちらの手数が足りない。圧倒的攻撃力も、貫通効果を持っていなければ意味はない。
嫌な感じだった。伊邪那美は実際、守勢に回ることも多い。布陣を突き崩されることだってざらだ。だが、此方が大きく攻め込もうと踏み込むタイミングに限って、絶妙な防御手段を用意しているように思える。
全てが見透かされているような不快感と不安が龍次の胸に宿る。強いて無視する。
いずれにせよ、このターンに伊邪那美を仕留めることは叶わない。大きく息を吐いて感情を鎮める。
「俺はこれでターンエンドだ」
「ああ、哀しいです。貴方様の思惑通りにはまいりません。貴方様の手番終了時に、伏せていた速攻魔法、
伊邪那美のフィールドに、ぼうっと揺らめく青白い炎が二つ現れた。炎には恨めしそうに龍次を見つめる二つの黒い目が合った。
「怨盆の迎え火の効果はまだ終わっていません。トークンを生成し、さらにデッキよりアンデットモンスター一体を手札に加えることができるのです。私は、
絶句する龍次。「な―――――――」
困惑する伊邪那岐。「待ちなさい。それは君自身、即ち、神のカードのはず! 神のカードの種族は幻獣神族なのだから、そのカードで手札に加えられるわけがない!」
蠱惑的に笑う伊邪那美。「いいえ、いいえ違うのです、伊邪那岐様。確かに私は神であり、幻獣神族でもありますが、属性は死者。つまりアンデットなのです。これを言い換えるのならば、こうでしょうか。
歯を軋ませる龍次。つまりこのターン、伊邪那美は龍次たちの渾身の一撃を防いだだけでなく、デッキから神を呼び、さらに神召喚のための生贄さえも揃えたわけだ。
そして、手札が0枚の龍次に次の伊邪那美のターン、神召喚を防ぐ手立てはない。
「これはこれで、ターンエンドだ……」
デモンズ・チェーン:永続罠
フィールドの効果モンスター1体を対象としてこのカードを発動できる。①:このカードが魔法&罠ゾーンに存在する限り、その表側表示モンスターは攻撃できず、効果は無効化される。そのモンスターが破壊された時にこのカードは破壊される。
死者蘇生:通常魔法
(1):自分または相手の墓地のモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを自分フィールドに特殊召喚する。
国造大神伊邪那岐 神属性 ☆10 幻神獣族:効果
ATK3500 DEF4000
このカードは特殊召喚できない。このカードは3体のモンスターをリリースしてのみ通常召喚できる。(1):このカードは神属性、幻神獣族モンスターの効果以外のカード効果ではフィールドを離れず、コントロールも変更されない。(2):このカードが相手のカードの効果を受けた時、エンドフェイズにこのカードに対するそのカード効果を無効にする。(3):1ターンに1度、自分の墓地のモンスター1体を対象に発動できる。そのモンスターを自分フィールドに特殊召喚し、対象となったモンスターの元々の攻撃力分ライフを回復する。(4):1ターンに1度、自分メインフェイズ1に発動できる。このカードの攻撃力はターン終了時まで、このカード以外の自分モンスターゾーンのモンスターの攻撃力の合計分アップする。
最強の盾:装備魔法
戦士族モンスターにのみ装備可能。(1):装備モンスターの表示形式によって以下の効果を適用する。●攻撃表示:装備モンスターの攻撃力は、その元々の守備力分アップする。●守備表示:装備モンスターの守備力は、その元々の攻撃力分アップする。
ピラミッド・タートル 地属性 ☆4 アンデット族:効果
ATK1200 DEF1400
このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、自分のデッキから守備力2000以下のアンデット族モンスター1体を自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。
怨盆の迎え火:速攻魔法
このカードを発動するターン、自分はアンデット族モンスターしか召喚・反転召喚・特殊召喚できない。(1)自分フィールド上に「迎え火トークン」(アンデット族・炎・星1・攻/守0)2体を守備表示で特殊召喚する。その後、デッキからアンデット族モンスター1体を選択して手札に加える。このトークンはアンデット族モンスター以外のアドバンス召喚のためにはリリースできない。
国造大神伊邪那岐攻撃力3500→8100
CNo.39 希望皇ホープレイV攻撃力2600→4600
龍次LP2500→5100手札0枚
伊邪那美LP5900手札2枚(うち1枚は国呪大神伊邪那美)
「わたしの手番ですね、ドロー致します」
龍次は無言。伊邪那岐もそれは同じ。夜闇の中、艶然と微笑む伊邪那美の赤い唇だけがやけに目に付く。
「参ります。私は三体のモンスターをリリースし――――」
ばしゃりと水音が響く。伊邪那美のフィールドにいた三体のモンスターが軒並み赤黒い液体となって地面にぶちまけられた。
ぼこぼこという音がどこかから漂いだし、次の瞬間、間欠泉のように赤い液体が噴出した。
まさしく地獄の血の池が逆流してきたかのようなあり様が龍次たちの眼前で展開される。肉が爛れ落ちたような腐臭まで漂いだし、龍次の鼻孔を刺激して胃の中がひっくり返ったような不快感を与えた。
「今こそ降臨の時、私自身、国呪大神伊邪那美を召喚致します」
現世に現出した血の池の底から、大質量の何かが出現した。
女だった。否、これこそ伊邪那美の真の姿かと、龍次は思った。
異形の女だった。
白い肌にぴたりと張り付く死に装束のような白い着物姿。人間の姿はそこまでだ。下半身はまるで別物だった。
無数の赤ん坊の頭のような肉塊が重なりあった赤黒い異形。骸骨の手足を想起させる節足の足、髪の毛も幾房かが合体して手のような形状になり、さながら地獄の怨霊そのもの。顔に髑髏の仮面を斜めにひっかけているのもそれに拍車をかける。
「伊邪那美」沈痛な表情の伊邪那岐。妻の変わり果てた姿を見て、夫は何を思うか。
「これは……」絶句する龍次。かつては夫と共に国生みの神であった女神は、今は見ただけで生理的恐怖と嫌悪感を催させる怨霊と異形の神となった。
「
一人と一柱の反応を認識しているのかいないのか。場に出たことで何かが切り替わったのか、いっそ淡々と、伊邪那美は己のターンを進める。その有様がさらに自分の世界にのみ没頭しているようで、龍次の背筋を寒くさせた。
「ぐ……!」
突然苦悶の表情を浮かべて膝をつく伊邪那岐。伊邪那岐だけではない。ホープレイVもまた、苦しげに呻いてその場に膝をついてしまった。
状況を理解できない龍次。「なんだ!? どうした!?」
微笑む伊邪那美。「
もともとの攻撃力分のダウン。つまり何らかの方法でモンスターを強化しなければ、伊邪那美に一方的に蹂躙される餌でしかない。
「では、私は
「なんだと!?」
目を見開く龍次の眼前で、彼のフィールドに血の池が展開。そこから次々に現れる黒い手がかぎ爪を使って龍次のモンスター、ホープレイVと伊邪那岐を捕まえる。
「ぐ!」
「伊邪那岐!」
足掻く伊邪那岐。だがどうすることもできない。場に出ている以上、神とはいえカードに過ぎない。カード効果には逆らえない。
「我が幾千の呪言。決して尽きることはありません」
うっすらと伊邪那美の声が届く。それを最後に、伊邪那岐は地面の底へと飲み込まれてしまった。
「伊邪那岐!」
「大丈夫、です。カードの私が除去されただけ、私は大丈夫」
声は龍次の後ろ。そこにいつも通り、半透明の伊邪那岐はいた。だが心なしか消耗しているようで、声には抑えきれぬ疲労と苦痛の色が混じっていた。
そして龍次自身、他人の心配をしている暇はない。
もう龍次の場に身を守るカードはない。伊邪那美の攻撃力は4500だから、この一撃でライフが0になることはない。だが宝珠が砕かれればそこで終わるし、何より、神の攻撃を無防備に受けては、そもそも命が持たない。
この一撃は躱さなければならない。なんとしても。
だが続く伊邪那美の行動は、そんな龍次の希望をちっぽけなものだと嘲笑し、砕いた。
「手札の
伊邪那美の両隣に一体ずつ現れる影。
一体目。女の姿。だが肌は腐敗し黒ずんでおり、身に着けてる白井市に装束が余計に浮いている。髪は伸び放題で地面についており、顔は皮膚が崩れ落ち、濁った眼球だけがギョロギョロと周囲を睥睨する。――――黄泉醜女。
二体目。赤黒い大鎧を着込んだ鎧武者。顔の皮膚、筋肉は完全に落ち切って骨だけになっており、右手に大太刀を、左手に長槍を持った二メートルを超える巨体の鎧武者。――――黄泉軍。
攻撃力は黄泉醜女が2000、黄泉軍が2500。龍次のライフを削り切るには十分すぎる。
「では、最後のバトルと参りましょう。黄泉醜女、黄泉軍、そして
一手目、黄泉醜女の髪が意志あるもののように蠢き、互いに絡み合って七匹の蛇のようになって龍次に襲いかかった。
必死に避ける龍次。だが七方から迫る牙は躱しきれない。肩に、背中に、右足に髪の蛇がかすめていく。
「ぐっ!」
黄泉醜女の攻撃に、龍次は膝をついてしまった。その隙を逃さず、黄泉軍が肉薄。長槍を捨てて大太刀を袈裟懸けに振り下ろした。
「ッ!」
膝をついた状態では万全に避けられないと悟った龍次は両手を頭の上でクロスさせた。
直後に激痛と灼熱感が龍次を襲う。龍次は歯を食い縛って耐えた。そして渾身の力を込めて大太刀を跳ね除けた。
ここで諦めてはならない。膝を屈したままでいてはならない。何しろ次に来るのこそ本命。神の一撃だ。この一撃をまともに受ければ宝珠が砕けることは必至。そうなれば龍次は神々の戦争から脱落し――死ぬかもしれない、という考えはもう度外視していた――、茜を救えない。
その結末だけは避けなければならなかった。そのために、必死に意識をつなぎとめてデュエルディスクのボタンを押した。
「お、俺が戦闘ダメージを受けたこの瞬間! 墓地のH・C サウザンド・ブレードの効果発動! このカードを攻撃表示で特殊召喚する!」
墓地より復活する、数多の武器を背負う戦士。攻撃表示なので伊邪那美の攻撃を受ければ龍次のライフは当然0になる。だがここでモンスターを特殊召喚できるのは大きい。屈辱的だが、サウザンド・ブレードを盾にしてこの場を切り抜けるしかない。これは、何も龍次だけではなく、伊邪那岐の考えでもあった。激痛に苛まれながらも、龍次はしっかりとパートナーの言葉を聞いていたのだった。
そして、続く現象がまたしても龍次の希望をへし折った。
地面から沸き立つように現れた無数の黒い手が次々にサウザンド・ブレードの身体を掴み、地面に、より正確には墓地に引きずり込んでしまったのだ。
「な――――」
絶句する龍次。眼前の光景を愕然と、信じられないものを見るかのように目を見開いてただただ見ていることしかできなかった。
「哀しいです。とても哀しい。私が顕現した以上、貴方様に生死の自由を与えることはないというのに。私がいる限り、黄泉返りなどさせません」
つまり墓地からの特殊召喚の封印だ。サウザンド・ブレードは特殊召喚できず、再びいるべき場所、墓地へと送られたのだった。
その事実が判明する時には、既に龍次は限界だった。
決して負けられない戦いと、敗北を避けられない決定的で絶望的な状況。絶え間なく心身を苛む激痛が、最後の希望を砕かれたことで一気に龍次を覆った。緊張が緩み、意識が急速に遠のいていく。龍次に抗うすべはなかった。
「哀しいですが、これで終わりです」
最後の、神によるダイレクトアタックが宣言された。伊邪那美の下半身――という表現が適切かわからないが――肉塊が蠢き、一斉に口らしきものを開く。
『おぎゃあああああああああああああああああああああああああああああ!』
何重にも鳴り響く巨大な赤ん坊の泣き声。そしてその鳴き声の奥から、血のような赤い濁流が吐き出され、龍次と、抗いの言葉を叫ぶ伊邪那岐を飲み込んでいった。
国呪大神伊邪那美 神属性 ☆12 幻獣族:効果
ATK4500 DEF4000
このカードはルール上、アンデット族としても扱う。このカードは特殊召喚できない。このカードは3体以上のモンスターをリリースしてのみ通常召喚できる。(1):このカードはこのカード以上のレベルまたはランクの神属性、幻神獣族モンスターの効果以外のカード効果ではフィールドを離れず、コントロールも変更されない。(2):このカードが相手のカードの効果を受けた時、エンドフェイズにこのカードに対するそのカード効果を無効にする。(3):1ターンに1度、1000ライフを払って発動できる。相手フィールドのカードを全て墓地に送る。(4):このカードが表側表示でモンスターゾーンに存在する限り、相手は墓地からモンスターを特殊召喚できない。(5):このカードが表側表示でモンスターゾーンに存在する限り、相手表側攻撃表示モンスターの攻撃力は元々の攻撃力分ダウンし、相手表側守備表示モンスターの守備力は元々の守備力分ダウンする。
黄泉軍 闇属性 ☆7 アンデット族:効果
ATK2500 DEF2100
(1):1ターンに1度、自分モンスターゾーンに表側表示の「国呪大神伊邪那美」が存在する時に発動できる。手札、または墓地からこのカードを特殊召喚する。(2):このカードが破壊され、墓地に送られた時に発動できる。デッキから「黄泉軍」一体を手札に加える。
黄泉醜女 闇属性 ☆5 アンデット族:効果
ATK2000 DEF1500
(1):1ターンに1度、自分モンスターゾーンに表側表示の「国呪大神伊邪那美」が存在する時に発動できる。手札、または墓地からこのカードを特殊召喚する。(2):このカードが破壊され、墓地に送られた時に発動できる。デッキから「黄泉醜女」一体を手札に加える。
龍次LP0
◆◆◆◆◆◆
東京都内某所。
十二の企業が合併した複合企業、ゾディアック本社内、社長室。
足音を完全に吸収する高級絨毯、落ち着いた色合いの壁紙、部屋の主はあくまでも社長であるとして、自己主張しない、シックな調度品。
そしてこの部屋の主は、泰然と腰の後ろで手を組んで窓際に佇んでいた。
四十前後と思われる年齢。撫でつけられた藍色の髪、ブルーの双眸、グレイのスーツ、日本人離れした彫の深い顔つき。長い年月をかけて研磨され、ついに命を持ったような石像の風情。
彼こそがゾディアック社長にして、
『今、大きな力がはじけたな。神の力だ。それも邪神の』
射手矢の背後で二重に轟く声がした。まるで釣り鐘が重々しくしゃべったような重厚感のあるその声に、射手矢はやはり重々しく頷いた。
「ああ。伊邪那美だろう。相対しているのは伊邪那岐だ。どうやら決着がついたようだ。さてどうなったか、興味はあるな。だが今はもっと興味があることがある。そうだろう?」
『ああ。そうだな』
笑う気配が伝わってくる。だがクロノスは強大な力を持つ神だ。それが笑うならば空気の振動は軽い地震程度にはなる。びりびりと社長室の窓が震えた。
『オレがオレの同胞を解き放った影響だな。多くの精霊、妖精、怪物どもが目覚め始めた。奴らは神々程の万能性、絶大な力はないが、人間を操ることができるだろう。バトルフィールドに入り込むことも』
「手駒にできそうかね?」
『ギリシャ地方出身ならばな。さすがにほかの地域は無理だ。其方はより密接にかかわる神の支配下になるだろう。いずれにせよはっきりしていることは一つ。神々の戦争は、新たな局面を迎えるわけだ。オレ達が動くからな』
クロノスの言葉に、射手矢は満足げに頷いた。