死が怒濤となって龍次に襲い掛かった。
赤黒い濁流は地獄の血の池が現世に顕現したかのよう。
轟音を立て、強大な攻撃力を伴って龍次がいた所を襲う。
音が激しすぎて龍次の存在を証明できない。彼の生死を確認できない。
勝利した
台風などで河川が氾濫しても、水は決して留まり続けず、必ず引くということを証明するかのように、血は消えていく。
伊邪那美は目を眇めて前を見ている。バトルフィールドはまだ維持されている。
伊邪那美の眼前に
代わりに女が一人、立っていた。
百八十センチオーバーと、女性にしてはかなりの長身。ウェーブのかかった灰色の長髪、金色の右目、青色の左目、男物の青いスーツ姿。凛とした背筋を伸ばした、冷厳で泰然とした騎士の佇まい。
現役Aランクプロデュエリスト、
新たな登場人物に、伊邪那美は憂いを秘めたため息を出した。
「哀しいです。どうしてうまくいかないのでしょう。
「君の願いが多くの人々にとって害となり危機となるからだよ、伊邪那美君」
狂った女神を前にしても、穂村崎の泰然とした佇まいは崩れない。
伊邪那美は哀しげな表情を崩さない。彼女は真実悲哀を感じているし、だから、次に現れた存在に対しても表面上は変化がなかった。
上から現れる影。まるで羽毛のように軽やかに穂村崎の背後に着地した。
三十代前半の外見年齢、二メートルを超える巨体の男。
黄金の鎧、炎を具現化したような赤いマント、短く刈り込んだ炎のように赤い髪、深い知性をたたえた紫の瞳。永久に燃え盛りながらも決して周囲に害を及ぼさない奇跡の炎の風情。
間違いなく人間が内包するエネルギーを大きく超えた存在。即ち神。
だが男の燃え盛りながらも決して周囲を害さない在り方よりも、伊邪那美の目は彼が小脇に抱えた少年と、少年の背後に降り立った神に注がれた。
彼こそがさっきまで戦っていた少年。伊邪那美が誰よりも愛してやまず、何よりも求める夫、伊邪那岐の契約者にして、伊邪那美の
そして、伊邪那岐。
伊邪那美の夫。会いたくて、会いたくて。死んでもなお会いたかった恋慕の対象。
だからこそ哀しい。
男に抱えられたまま、龍次は朦朧とした声音で呟いた。
「な、なんで穂村崎プロが……」
「おや、私を知っているのかね? これは奇遇。実は私も君のことを知っているんだよ、風間龍次君」
思いもしなかった展開に呆然とする龍次に、穂村崎は微笑み、ウィンクを一つ。それでいながら油断ならぬ佇まいで伊邪那美と対峙する。
男が大きく鼻息をを鳴らした。
「我を無視してこの少年を見るか。とことん不敵だな。好意は抱かぬが」
龍次を下ろした神は見た目通り重厚なバリトン声でそういった。その身から放たれる闘志が伊邪那美に打ち付けられる。
伊邪那美の視線が男に向けられる。男は自分に視線が向いたことに満足げに頷き、次いで胸を逸らした。
「貴殿らに聞かせよう。我の名を! 我はマルス! ローマに名を刻みし軍神! こちらは我が契約者、穂村崎秋月! 我の契約者らしく、巧緻に長けた女傑よ!」
マルス。ローマ神話に名をとどろかせた軍神。勇猛果敢で知られ、勇敢な戦士、青年の理想像として語られる、主神並に崇拝される大いなる神でもある。
「マルス。ここは私に任せてくれたまえ。さて、伊邪那美君。残念ながら君の目論見は成就しない。なぜなら君がさっきまで戦っていた彼は我々が守る。彼らにまだ死なれてはならないからね。つまり、君はここで目的を達成したいならば、我々とも戦わなければならないわけだ」
二連戦。神々の戦争のルールならば、どこかのタイミングで乱入することもできた。
そうなれば実質二対一。しかし伊邪那美のフィールドは整った状況でもある。
穂村崎とマルスはライフと手札のアドバンテージよりも、差がついたフィールドアドバンテージの不利さを重視し、乱入は控えた。
同時に一人と一柱は同意していた。
この戦いは龍次のものだ。余人が乱入し、邪魔をしていいものではない。もしも乱入してしまえば、龍次の矜持は大きく傷つけられるだろう。それは良くない。矜持は重要だ。戦士であればとくに。なぜならそれは、立って戦うという簡単なようでその実非常に困難なことを成し遂げる支えとなるからだ。
龍次と伊邪那岐は無言。場の主導権はすでに穂村崎とマルスが握っている。ゆえに、敗れたコンビは救出者に場の掌握を委ねた。もっとも、伊邪那岐は忸怩たる思いであろうし、龍次は己に対する失望と屈辱でそれどころではないだろうが。
「哀しいです。私は私の望みを叶えたいだけだというのに、どうしてうまくいかないのでしょう?」
「ならばどうするのかね? 私たちを倒して、もう一度君の目的のため、邁進するか?」
誰とも共有できない悲しみに浸る伊邪那美に、穂村崎は不敵な笑みを浮かべて言葉を投げかけた。伊邪那美は応じない。
「哀しいです。今夜目的を達せられないことが……」
目を伏せる伊邪那美。その視線が今度は東の地平に注がれる。
いつの間に時間が立っていたのか、既に空は夜の黒から朝焼けの薄紫色が広がりつつある。
東の地平から太陽が現れようとしているのだ。
夜、即ち死者の時間は終わりを告げ、昼、即ち生者の時間がやってくる。
伊邪那美は神だが、同時に死者でもある。それはカード化した時にも影響しており、神の種族である幻獣神族であると同時にアンデット族でもあった。
デュエルではメリットかもしれないが、神々の戦争では彼女に最大の枷がある。
死者である伊邪那美は、契約者を死者しか選べず、生者の時間である昼間、太陽が昇っている間はまともに行動できない制約があるのだった。
「今宵はここまで。失礼いたします」
ぺこりと一礼。直後、伊邪那美と茜の足元から無数の黒い手が出現した。まるで地獄の亡者達が同胞を引きずり込もうとするかのように。
「茜!」
その時場の主導権を譲っていた龍次が声を張り上げた。状況の変化を静観していた彼であったが、茜が手の届かないことに行ってしまうという恐怖から動かないわけにはいかなかった。
デュエルのダメージが残っている。敗北した影響か、身体に力が入らない。
「行くな! 茜!」
だから叫ぶことしかできなかった。そしてすでに己の意志がない茜は龍次の言葉にも反応しない。
「それでは伊邪那岐様。次こそは互いに私の国で暮らしましょう。それまでご壮健で」
一礼後、茜と伊邪那美の身体が完全に黒い手に覆われた。黒い手のドーム二つはそのままばしゃりと水音を立てて崩れ、地面の底まで沈んでいった。
後には伊邪那美も、茜もいない。
東の空がどんどん明るくなってきた。朝が来たのだ。
だが朝日は龍次にとっての希望とはなりえなかった。伸ばした手は何もつかめず、大切なものを取り戻せなかった無力さを噛みしめながら、龍次はその場で苦悶の声のような低い慟哭を漏らした。それは聞きようによっては嗚咽にも聞こえた。
うずくまる龍次。伊邪那岐はそんなパートナーに声をかけてやりたかった。だが今、自分が龍次にかける言葉が存在しないことも分かっていた。敗北した者同士が再起を誓うのは正しいことだろうが、時には傷のなめ合いとなってしまう。
今、龍次は慰めも激励も必要としてはいまい。
今彼の心の中にあるのは無力な自分への怒りだ。
「怒りは重要だ、少年。人が人として生きる上で一番重要かもしれない」
かつかつかつと靴音を響かせて、穂村崎は膝をついたままの龍次の前に立った。
龍次は顔を上げない。俯いたままだ。穂村崎は構わず言葉を紡いだ。
「君は今、混乱している。しかししなければならないことまで忘却するほど呆けているとは思わない。だからこのまま言い続けることにしよう。
私がここにいる理由、君を助けた理由は今はおいておきたまえ。私から君に言えることは一つだが、まずは聞くべきことを一つ。風間龍次君。君は――――」
一息入れる。次の言葉が少年にきちんと伝わるように。
「伊邪那美の契約者を、救いたいかね?」
「―――――ああ、救いたい。助けたい。当たり前だ」
呟くような龍児の返答。だが龍次は
「俺は茜ともう一度会いたい。話したい。触れていたい……」
絞り出すように言う龍次。うむと穂村崎は頷いた。
「青い春だねぇ。それだよ少年。君の本音が聞きたかった。そしてその弱音を吐けたことで君は完全に倒れ切ったのだ」
倒れた人間はまず倒れ切らなければならない。そうしなければ立ち上がることもできない。倒れてくれなければ助け起こすこともできないのだ。
そして龍次は今倒れ切った。
「だが現実、今の君たちでは伊邪那美君には敵わないだろう。精神的優位、戦術的優位、そして何より、切り札たる神の優位性。それらが全て伊邪那美君に傾いている」
沈黙する龍次と伊邪那岐。龍次もそうだが伊邪那岐も分かっていた。
今の自分は伊邪那美に及ばない。この、自らの力を封じている自分では――――
淡々とした声で続ける穂村崎。「そして今の君たちだけでは、これらの要因で開いた差を埋められない」
割って入るマルス。「力不足は哀しいな。無暗に振るわれる力は愚かな暴力にすぎぬが、及ばぬ力は無力で惨めよ。丁度、今の貴殿らのように」
焚き付けるようなセリフに、龍次の型がピクリとはねた。
「分かっている。そんなことは……。だがそれでも俺は……、戦わないわけはいかない。ここで、こうして膝を屈したままでいるわけにはいかない……!」
振り絞った声。五指は握りしめられ、膝に力が戻ってきた。
大地を踏みしめる。体に残ったままのダメージを無視して起き上がろうとする。
がくんと身体が傾いた。戦いのダメージは深刻で、意志だけでは体は従ってくれない。
「ではどうする? 伊邪那美君との差を埋めるためには力が必要だ。その力を、君はどこで手に入れる?」
促されている。穂村崎の台詞にそう感じながらも、龍次はもう一度からに力を込めて体を持ち上げた。
ふらつく体。だが今度こそ立ち上がれた。穂村崎と龍次の視線がかち合う。人間の対峙に、神々は一切口を挟まない。ただ成り行きを見守っている。これは、契約者たちが決める道だと、二柱ともが無言のうちに悟っていた。
「俺は弱い。けど力が必要なんだ。だから――――お願いします、穂村崎プロ。あなたに、俺の師匠になってほしい。初対面のあなたに、それも神々の戦争では本来敵同士であるはずなのに、こんなことをお願いできる立場ではないのですが――――」
「いいや、そんなことはないさ」にやりと口角を吊り上げた笑みを浮かべる穂村崎。
「君は君の目的のため、恥も外聞も捨てて、私に頼るという。素敵じゃあないか。そういう向こう見ずは好きだよ。――――君の覚悟は見せてもらった。私も私達の目的のために、君に協力しようじゃないか」
笑顔で指しだされた手。昇る朝日を浴びながら、龍次はその手を取った。
◆◆◆◆◆◆
八月某日、東京都内某所。
三車線の道路の左車線を走る大型のバンが一台。
灰色の車体の運転席には大柄の男。
四十代前半。アメフト選手のようながっしりとした体つき、白いものが混じった角刈りの黒い髪と茶色の瞳。腕まくりしたワイシャツ姿。年経てもなお勇猛な猛牛の風情。
隣の助手席に座っている女もまた、人目を引かずにはおれない。
炎のような赤い髪、ルビーを固めたような赤い瞳、ワインレッドのスーツ姿とどこまでも赤尽くし。さらに整っているが荒い気性をう伺わせる目つきの悪さ。まさしく人の形をした美しき炎のごとく。
男の名は
隣の女の名はウェスタ。鷹山と契約を交わした神であった。
鷹山は六月に七シーズン目を終えた連続ドラマ、デュエル
少し前まではデュエル刑事の世界に進出する人気から国際デュエリスト認定委員会から唯一、禁止カードだったゴヨウ・ガーディアンの公式デュエルでの使用を許可されていた。
そして新たな功績として、国際デュエリスト認定委員会とデュエルモンスターズのゲームに関する一切の権利を持つ会社、クラインヴェレ社に掛け合い、ついに召喚条件の変更と引き換えに、ゴヨウ・ガーディアンを禁止カードから解放することに成功、これにより、いわゆる「牛角警部デッキ」というファンデッキを、公式デュエルの場でも使えるようにした。
彼の行動は称賛を浴び、近頃公開される劇場版デュエル刑事の興行収入も上がると業界関係者は見ている。
また、彼らはかつて一度、
デュエルは和輝が勝利した。だが鷹山の宝珠は砕かれず、残りの神の数が五十を切った今でも、こうしてしぶとく生き残っているのであった。
「おーいウェスタ。いい加減機嫌治せよ」
制限速度を守りながら、鷹山は助手席で仏頂面を浮かべるウェスタに苦笑した。
「誤解するな、勇次。別に不機嫌になってなどいない。ああいないとも」
表情からも声音からも、ウェスタが不機嫌なのは誰の目にも明らかだった。ただ本人が認めていないだけで。
ウェスタの不機嫌の理由もまた明白。彼女は真っ赤なライダースーツに身を包み、大型バイクにまたがってツーリングをすることを人界での趣味としているが、最近それができずに鬱憤がたまっているのだ。
理由はパートナーにあり、鷹山がデュエル刑事の新作映画のPRのため、多くのテレビ番組に顔を出すようになった。
所謂番宣で、今日もバラエティ番組に出演し、主演俳優として劇場版デュエル刑事のPR活動に精を出してきたところだった。
契約者に付き合って非実体化状態とはいえ鷹山に付き従っていたウェスタは、結局景気よくバイクを走らせることもできず、日々鬱憤を溜め込んでいた。
「だから、俺のことはいいから、走ってこいって」あきれ顔の鷹山。
「そうはいかん」頑固に首を横に振るウェスタ。
「今、世界はどうもきな臭い。いやな気配が漂っている。魔物や精霊、妖精の類が実体化し始めている。奴らは面倒だ。力は神に及ばぬが、神々と同じく人間を使い、バトルフィールド内に侵入し、そして神々の戦争参加者を襲うだろう。デュエルでな。
つまり、神々の戦争はイレギュラーな事態に陥っているのだ。そんな時に、己の個人的欲求のために契約者のもとを離れる神などいるものか」
ウェスタは生真面目にそう言った。あまりにも真面目なパートナーのいいように、鷹山は苦笑を浮かべる。
とはいえその気遣いには素直に感謝しているのだった。
ウェスタは炎の神格化だが、その本質は守護だ。だからイレギュラーな事態に対して鷹山の身を案じる。そして炎だからこそ、その気性の荒さが現れる。
「そして、その行動は正しかった。そうだな?」
ウェスタの声音が鋭くなる。パートナーの気配の変化を察して、鷹山の表情もまた変化した。
俳優でありサービス精神に溢れた好漢ではなく、神々の戦争に参加する戦士の顔に。
「場所は?」
「そこの交差点を左に曲がれ。すぐそこに気配がプンプンする。だがこれは神というには少々異質すぎる。明らかに神クラスの力だが――――」
「行ってみりゃわかるさ」
ハンドルをきり、言われた通り左折。減速、停車。車から降りる鷹山とウェスタ。その眼前に一人の男の姿。
針金のようにひょろりと細長い体躯。ウェーブがかかって海中で揺らめくワカメのような黒髪、黒い瞳、喪服のようなダークスーツ、左腕に不釣り合いなデュエルディスク。黒尽くしで不吉極まりない格好。
否。鷹山の記憶に男の姿が引っ掛かった。そして記憶が確かならば、男が来ているスーツはそのままシンプルで喪服のはず。
「まさかあんたが敵だとはな。ちょっと意外っつーか、逆に納得っていうか……」
「私をご存じで? 嬉しいですね」
にこりと親しみの籠った笑顔を浮かべる男。ただし目が笑っていないので余計に不気味。人間大の黒猫が意地悪く笑ったような印象を受ける。
「そりゃあ知ってるさ。Bランクプロデュエリスト。
つられるように口角を吊り上げる鷹山。山羊と呼ばれた男は嘆くように
「そうなのです。なんででしょうね? 私は皆さんのことが大好きなのに」
不吉な外見に似合わず人間好き。以前鷹山が読んだデュエリストの雑誌のインタビューでそう言っていた。
Bランクプロデュエリスト、山羊孝。戦績は中堅。大勝もしなければ大負けもしない。調子のいい時も悪い時も、大体Bランクの真ん中あたりをうろうろしている。
なので通常のデュエルならばあまり警戒されない。
ただし、ある状況ではその評価は全く当てにならない。
それはBランク上位のプロが今期は調子がよく、Aランクへの昇格権を手に入れるための試合だったり、逆に成績不振が続き、BランクからCランク降格への瀬戸際の崖っぷちでの試合だったり、あと少しで栄光への階段を登れる場合、或は挫折への奈落へ転落する場合、山羊プロの強さは一変する。
その強さが大いに上昇。栄光を阻み、奈落へと突き落とす。
相手の進退がかかった時のみ、神がかり的な強さを見せる男、山羊。ついたあだ名は「運命の分かれ道に立つ死神」。
「そしてそんな不吉の代名詞みたいなやつが、俺の前にやってきたってわけか。まさかあんたも神々の戦争の参加者だったなんてな」
「正確には違いますが、まぁいいでしょう。なにせ――――」
周囲の空気が一瞬にしてきり変わる。
喧騒がなくなる。人の気配が消える。
神々の戦争のバトルフィールドが展開された。
山羊が左手のデュエルディスクを起動させた。
「こんなことができますので」
「確かに、こうして戦いの場を用意できるってことは、ただものじゃないし、何より俺にはもう逃げ場はないってわけだ。ウェスタ。車からデュエルディスクを取ってくれ」
「ああ。こうまでされては戦うほかあるまい。得体の知れぬ相手だ、油断するな」
言って、ウェスタは車から鷹山のデュエルディスクを取り出し、投げ渡す。受け取る鷹山。にやりと好戦的な笑みを浮かべる。
「誰に言ってんだ。俺はいつだって、デュエルには真面目に取り組んでるぜ?」
「私生活でもそうしてくれると、有り難いがな」反論をおいて、ウェスタの姿が消える。実体化を解いたのだ。
沈黙が二人の人間の間に流れる。二人の胸元に宝珠が輝く。鷹山はオレンジ。山羊は
『
戦いの幕が上がった。
鷹山LP8000手札5枚
山羊LP8000手札5枚
「先攻はいただきますよ。私のターン」
先攻を勝ち取ったのは山羊。ドローフェイズ、スタンバイフェイズを消化。メインフェイズ1へと入る。
相手の挙動を見守っていた鷹山の脳裏に、半透明のウェスタの声が響いた。
「やはり彼奴の神は得体が知れぬ。間違いなく神性存在の気配は感じるのに、一切姿を見せないのは気にかかる。決して油断するな」
分かってると返答したとほぼ同時、山羊に動きがあった。彼のプレイングが始まったのだ。
「では、手札から魔法カード、おろかな埋葬を発動します。デッキから墓地に送るのは、ダンディライオン。この瞬間、ダンディライオンの効果が発動。私のフィールドに綿毛トークンを二体、守備表示で特殊召喚しますよ」
ポンポンと軽快な音を立てて、山羊のフィールドに勇ましい表情が張り付けられたアニメチックな綿毛が二つ、現れる。
綿毛トークンは特殊召喚されたターンはアドバンス召喚のリリースにはできない。だがそれ以外の制約は一切ない。S召喚の素材にするもよし、アドバンス召喚以外のリリースに使ってもよし。汎用性の高さは折り紙付きだ。
鷹山の表情が険しくなる。プロデュエリストの中には試合用とプライベートでデッキを分けている者もいるが、もしも山羊がそういうタイプではなかったならば、通常召喚権を残してのモンスター二体が場に並んだのは
「そして、
三体目のモンスター。ダイヤモンドを模したバトルアーマーを着込んだ闇属性のHERO。攻撃力は低い。だがこのモンスターの真骨頂はステータスではない。
「D-HERO……。お前さん、使ってるデッキは公式戦と変わらないのかい」
「勿論。私はこのデッキを、D-HEROを使い続けますよ。私を前にした相手の運命を決めるために」
勝利して栄光を掴むか。敗北して大きなものを失うか。運命の分かれ道にぽっかりと開いた大口の罠。それが山羊という男にして彼が扱うデッキ、D-HERO。
「ダイヤモンドガイの効果発動。デッキトップをめくり、それが通常魔法ならば、次の私のターン、コストも制約も度外視して効果の発動が決定します。さぁ、早速運命の分かれ道ですね」
めくられるデッキトップ。提示されたのはデステニー・ドロー。D-HEROおなじみのドローソース。
「おやおや、どうやら今この瞬間、運命は貴方の敗北に傾いているらしい。次の私のターン、デステニー・ドローの発動が確定しました。
私は二体の綿毛トークンとダイヤモンドガイをリリース。さぁ現れなさい、D-HERO ドグマガイ!」
山羊のフィールドの三体のモンスターが闇に包まれて消える。闇が繭のように凝縮し、やがて解れ、中から新たなモンスターが姿を現した。
悪魔のような禍々しい翼、肩部分に棘をはやした禍々しい鎧、一対の角をはやしたヘッドアーマー。右手にアーマーから直接突き出た両刃の剣。
禍々しさと刺々しさを前面に押し出した凶悪極まりない外見のD-HERO。その外見に相応しく、攻撃力は3400、3000ラインを超えている。
「ドグマガイ。そりゃそうだよな、三体のモンスターをあえて揃えたんだ。そりゃ、でるよな、そいつが」
「次のターン、貴方は4000ライフのビハインドを背負います。不利な状況はますます貴方を敗北の運命に引き寄せます。カードを一枚伏せて、ターン終了です」
おろかな埋葬:通常魔法
(1):デッキからモンスター1体を墓地へ送る。
ダンディライオン 地属性 ☆3 植物族:効果
ATK300 DEF300
(1):このカードが墓地へ送られた場合に発動する。自分フィールドに「綿毛トークン」(植物族・風・星1・攻/守0)2体を守備表示で特殊召喚する。このトークンは特殊召喚されたターン、アドバンス召喚のためにはリリースできない。
D-HERO ダイヤモンドガイ 闇属性 ☆4 戦士族:効果
ATK1400 DEF1600
(1):1ターンに1度、自分メインフェイズに発動できる。自分のデッキの一番上のカードをめくり、それが通常魔法カードだった場合、そのカードを墓地へ送る。違った場合、そのカードをデッキの一番下に戻す。この効果で通常魔法カードを墓地へ送った場合、次の自分ターンのメインフェイズに墓地のその通常魔法カードの発動時の効果を発動できる。
D-HERO ドグマガイ 闇属性 ☆8 戦士族:効果
ATK3400 DEF2400
このカードは通常召喚できない。「D-HERO」モンスターを含む自分フィールドのモンスター3体をリリースした場合のみ特殊召喚できる。(1):この方法でこのカードが特殊召喚に成功した場合、次の相手スタンバイフェイズに発動する。相手のLPを半分にする。
「ハン! いいように言ってくれるじゃねぇか。だったら俺としちゃあこう言い返すしかないな。その運命、覆してやるよ!」
ねっとりと絡みつくような声音の山羊に対して、鷹山は断ち切るようにそういい放った。