神々の戦争   作:tuki21

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第72話:風間龍次、修行中:後編

 復活したティターン神族。それに呼応するように活動が活発になってきた妖精、悪霊、怪物の百鬼夜行。

 そして今、軽井沢で修行中の龍次(りゅうじ)の許に、その魔手が伸びてきた。

 三方で繰り広げられる三つの戦い。それを俯瞰する視線が二つあった。

 人影は二つ。男と女のもの。

 人間と、神のもの。

 一人は人間。グレイの髪、スーツ、青い瞳、長身痩躯、銀縁眼鏡。神経質に糸を張り巡らせ、巣の中心で獲物がかかるのを待つ痩せ蜘蛛の風情。

 男は双眼鏡を片手に、三方で行われているデュエルを観戦していた。

 デュエルの展開を確認しながら、忌々しげに呟いた。

 

「予定通りにいかないというのは気分が悪い。本来、あそこには風間(かざま)龍次と穂村崎秋月(ほむらざきしゅうげつ)しかいないはずだった。だから、私は三体の怪物を率い、私自身も後詰として出てきた。だのにあれはなんだ? なぜヘイムダルの契約者がいる?」

「偶然、でしょう」

 

 返答は男の傍らから。

 女だった。ただし、人間ではなく、神なのはその内包するエネルギーでよくわかった。

 蔓草を編んででできたドレスを身にまとい、足元まで届く薄茶色の髪、幾千年を得た緑樹のような碧眼。透き通るように白い肌はしみ一つなく、しかし全体からは陶器のような作り物めいた美しさではなく、樹齢千を超える大樹や、満開の桜並木など、自然のみが見せることのできる美しさで溢れていた。

 女神が一歩、男に近づく。異変はその時起こった。

 女神の歩みに合わせて、大地の草が急激に育ち、繁茂したのだ。

 

「レア」

 

 振り返る男は、白磁の美貌を持つ女神の名を紡いだ。

 レア。ギリシャ神話にその名を刻む神。その正体はゼウスやその兄弟の母にして()()()()()()()。そして、ティターン神族の首魁、クロノスの妻であった。

 

「どうしました? 貴方は出ないので? 秤さん」

 

 穏やかなレアの声。秤と呼ばれた男、その正体はレアの契約者にして、ゾディアックの顧問弁護団のリーダーだった。

 秤はレアの質問に対して、首を横に振った。

 

「伊邪那岐、マルス両名にぶつかる為の人選だ。ここにヘイムダルが加わった以上、この戦力では倒しきれまい。リスクは極力排除する。リスクを覚悟するときは、そういう機会を見極めるべきだ」

「では、彼らは無意味に戦っているのですか?」

「そんなことはない。敵の戦力分析の役には立つ」

 

 冷徹に、三体の怪物たちを捨て駒にした秤は、傍らにたたずむレアにこう問いかけた。

 

「私からも一つ聞きたい」

「なんでしょう? (わたくし)に答えられることならばよいのですが」

()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 帰ってきたのは沈黙。しかしそれも長くは続かなかった。大きく息を吐き出して、レアは言った。

 

「それは、(わたくし)が夫を裏切るかもしれない、ということですか?」

 

 問いかけに、秤は沈黙で答えた。レアはもう一度ため息をついて、

 

「確かに、(わたくし)はかつて、我が子を喰らう夫の暴虐に耐え切れず、ゼウスを匿いました。そのことがのちに夫が敗れ去る原因になると、薄々感じていながら。

 結局夫の陣営に加わった(わたくし)でしたが、あの時は、確かに母として感情に突き動かされるままに行動しました。これは夫や、ティターン神族への裏切りと言われても仕方のないこと。

 ですが夫は、そんな(わたくし)を許し、あまつさえ、共に戦うことも許してくれました。この恩を、どうして忘れられましょう。故に、封印から目覚めた後、(わたくし)は決めました。かつては母として行動した。ならば今回は、妻としてのみ、行動しようと」

「……しかしお前は、ゼウスからの恩情で、封印されたのは肉体だけ。精神はオリンポスの神々と交流を持てたはず。当然、我が子らも」

「だからこそ、です」

 

 疑問を呈する秤に対して、レアはあくまで穏やかにほほ笑んだ。

 そして、言った。

 

「そこまで我が子に、そしてオリンポスの神々に仕えたのです。ならば今度は夫に身命を捧げねば、不公平というものでしょう?」

「…………なるほど」

「不安は分かります、秤さん。貴方の友人。即ち我が夫、クロノスの契約者。彼を案じているのでしょう? ティタノマキアの時のように、土壇場で(わたくし)が裏切るのではないかと。その不安は、晴れましたか?」

「そうだな」

 

 微笑で見守るレアに対して、そっけなく秤は言った。

 

「その言葉は信じられるだろう。こう見えても弁護士だ。人――お前は人間ではないが――の言葉に潜む嘘には敏感だ。私の経験と勘は言っている。お前の言葉に、嘘はないと」

「ありがとうございます」

 

 感謝の念を込めて、レアは一礼したのだった。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 龍次とラミアのデュエルは続く。

 現状、優勢なのは龍次だろう。切り札の一つである希望皇ホープの召喚に成功しているし、ホープもZW(ゼアルウェポン)を装備し、強化されている。

 とはいえ油断はできない。龍次は確信していた。ラミアはまだ切り札を隠し持っているし、それが出てくるのはそう遠くないと。

 

 

龍次LP6000手札3枚

デッキ40枚

エクストラ13枚

ペンデュラムゾーン赤:なし青:なし

モンスターゾーン No.39 希望皇ホープ(攻撃表示、ZW-極星神馬聖鎧装備、攻撃力2500→3500、ORU:H・C サウザンド・ブレード、アステル・ドローン)

魔法・罠ゾーン 永続魔法:エクシーズ・チェンジ・タクティクス

 

ラミアLP6200→4800手札4枚

デッキ27枚

エクストラ15枚

ペンデュラムゾーン赤:なし青:なし

モンスターゾーン レプティレス・ナージャ(攻撃表示)、レプティレス・ガードナー(守備表示)、フィールド魔法:召喚制限-エクストラネット。

魔法・罠ゾーン 永続罠:ダメージ=レプトル、伏せ1枚

 

 

「私のターンだ、ドロー!」

 

 ドローカードを確認した時、ラミアの目が細められた。

 その口の端が笑みに吊り上がる。

 

「来たか。私はレプティレス・ガードナーとレプティレス・ナージャをリリース! 現れよ我が切り札! 全てを吹き飛ばす大いなる神! 地縛神 Ccarayhua(コカライア)!」

 

 リリースされたモンスターが光の粒子となって消える。

 入れ替わるように現れたのは、まさしく十五メートルは越える、見上げんばかりの巨躯だった。

 巨大な影。それは、二足で立ち上がった超巨大なトカゲだった。

 全体的に影のような漆黒の体色。そこに緑のラインが入り、手は人間のような五指、細身の身体に対してやや大きめの頭部。大きく開かれた口にはずらりと、トカゲにはありえない牙が生え揃っていた。

 

「地縛神……だと? なんだそのカードは!?」

 

 龍次の知らないカードだった。知らないが、しかし理解できたことが一つあった。襲撃の際に穂村崎の別荘を瓦礫の山に変えた巨大な影。アレの正体は()()だ。こいつだったのだ。

 そして、わざわざアドバンス召喚までし、切り札とまで豪語するのだ。いかなる効果を持っているのか。

 

「いいことを教えてやろう。地縛神はフィールド魔法が存在しなければその存在を維持できず、自壊する。だがその反面、効果は強力だぞ? Ccarayhuaで、()()()()()()()()()!」

「なんだと!?」

 

 今だ龍次のフィールドには希望皇ホープがいる。にもかかわらず、巨大な影はじろりと龍次を睨み、そのままホープを無視して突き進んだ。

 

「攻撃力2800で、ダイレクトアタッカー!?」

「くっ! 希望皇ホープの効果発動! ORU(オーバーレイユニット)を一つ取り除き、その攻撃を無効にする!」

 

 ホープの周囲を衛星のように周回していた光の玉の一つが消費される。掛け声とともに跳躍したホープが、背中のウィングパーツを盾として展開した。

 

「そうはさせんよ。リバーストラップ、ブレイクスルー・スキル! ホープの効果を無効化する!」

「な!?」

 

 目を見開いた龍次の眼前。ホープの姿が突然停止する。

 当然、防御も間に合わない。大雑把にオオトカゲの尻尾が振るわれる。

 確かに大雑把だが、大きさが違いすぎる。もはや悪意を持った台風のような一撃が龍次を襲った。

 ガードはした。だが尻尾の横殴りの衝撃を殺しきれず、龍次の身体は宙を舞った。

 滞空は一瞬。衝撃と激痛、そして浮遊感を覚えた時には背中から落下していた。

 

「がは!」

 

 肺の中の空気が残らず吐き出された。地面が土で助かった。コンクリートだったらただでは済まなかった。

 

「無事ですか龍次!?」

「なん、とか……、な……」

 

 必死に空気を貪って、息も絶え絶えだったが、龍次は立ち上がった。まだ体に痺れた感覚が残っているが、いつまでも寝ているわけにはいかない。

 だが、完全に立ち上がった瞬間、膝から急に力が抜けてしまった。

 

「な、に……!?」

 

 痺れだけでなく、体から力が、活力が抜けていく感覚。これは一体何のか。ダメージ以上に困惑する龍次の耳朶を、ラミアの声が叩いた。

 

「どうかな? 闇のカードによるダメージは。体から精気が抜けていくようだろう?」

「闇の、カード……。そんなオカルト話が、真実だったなんてな……」

 

 デュエルモンスターズに伝わるオカルト話、その一つ。使用すると、実際に肉体にダメージを与える闇のカード。

 イギリス、ウェールズの森の中で和輝も味わった脅威が今、龍次にも襲い掛かったのだった。

 確かにこれはきつい、それが龍次の本音だった。だが寝てなどいられない。まして自分が契約した神は伊邪那岐。生命の司る国造りの大神。闇のカード何するものぞ!

 

「戦闘ダメージを受けたため、墓地からH・C サウザンド・ブレードを攻撃表示で特殊召喚する!」

「ッ! いくらモンスターを並べても無駄だ。何しろ、私のフィールドのモンスターが地縛神のみの時、君のモンスターは攻撃できない。攻撃事態封じられているのだ。これはもう、逆転は難しいだろう? カードを二枚伏せて、ターン終了だ」

 

 そう言いながらも、ラミアは一瞬龍次から放たれる圧力に気圧されたようだった。

 

 

地縛神 Ccarayhua 闇属性 ☆10 爬虫類族:効果

ATK2800 DEF1800

「地縛神」と名のついたモンスターはフィールド上に1体しか表側表示で存在できない。フィールド魔法カードが表側表示で存在しない場合このカードを破壊する。相手はこのカードを攻撃対象に選択できない。このカードは相手プレイヤーに直接攻撃できる。また、このカードがこのカード以外の効果によって破壊された時、フィールド上のカードを全て破壊する。

 

 

龍次LP6000→3200手札3枚

ラミアLP4800手札2枚

 

 

「やばいモンスターが出てきたが、ここから切り返すさ。俺のターンだ、ドロー!」

 

 ドローカードを確認した時、龍次は一瞬息を飲んだ。

 RUM(ランクアップマジック)-リミテッド・バリアンズ・フォース。それがドローしたカードだった。

 

「このタイミングで、ですか。できすぎたものですね」

「確かに。だが願ったりだ。装備したZWが無駄になるのはちょいと痛いけどな。RUM-リミテッド・バリアンズ・フォース発動!

 俺は、希望皇ホープをオーバーレイ! 一体のモンスターで、オーバーレイネットワークを再構築!

 赤き異界の力、敵を焼き滅ぼす炎となる! 今、希望は進化する! カオス・エクシーズ・チェンジ! CNo.(カオスナンバーズ)39 希望皇ホープレイV!」

 

 龍次のフィールドの希望皇ホープが白い光となり、頭上に展開された赤紫の稲妻たなびく暗雲に満たされた空間に飛び込んだ。

 虹色の爆発が起こり、新たなモンスターが現れる。

 希望皇ホープをより鋭角的にしたシャープなデザイン、白と金を基調としていた姿から一変。黒を基調に、赤のアーマーを装着し、赤く輝く各所の身体を持った、禍々しさと刺々しさが大きく向上された、希望皇ホープの進化態。

 すなわち、CNo.39 希望皇ホープレイV。

 

「エクシーズ・チェンジ・タクティクスの効果発動。500ライフを払い、カードを一枚ドロー!」

「だがこちらも、エクストラネットの効果で一枚ドローだ」

 

 にやりと笑うラミア。龍次は知ったことかとばかりに、一歩踏み出した。

 

「そのデカ物を吹き飛ばしてやる。ホープレイVの効果発動! CORUを一つ取り除き、Ccarayhuaを破壊! その攻撃力分のダメージを与える!」

 

 ホープレイVの前面に整列していた鋭角な十字架ユニットの一つが消失する。ホープレイVが飛翔し、上空から二本の剣を投擲した。

 破壊のエネルギーをたっぷりと蓄えた剣。当たればどれほど巨大なモンスターだろうと無意味。

 

「そうはさせんさ。リバーストラップ、デストラクト・ポーション発動! Ccarayhuaを破壊し、その攻撃力分、私のライフを回復する!」

 

 果たして、龍次の目論見は儚く崩れた。突然内側から破裂した巨大なトカゲ。赤黒い血と臓物を、ラミアはまるで祝福の雨を受けているかのように全身で浴びた。

 ダメージは回避した。だがそれだけがラミアの狙いではなかった。

 

「この瞬間、Ccarayhuaの効果発動! 自身のデメリット効果以外で破壊された時、フィールドのカードを全て破壊する!」

「なんだと!?」

 

 目を見開く龍次の眼前で、Ccarayhuaの死体が、黒い台風と化し、フィールド全体を蹂躙した。

 

「この瞬間、セットしていたZ-ONE(ゼット・ワン)の効果発動。墓地からエクストラネットを手札に加える」

「全体破壊……。豪快な効果ですね」

「ああ。苦労して破壊したらこれだ。しかしこれで相手の場はがら空き。攻め入るチャンスだ」

「その通りです。ガンガン行きましょう」

 

 伊邪那岐の言葉に背中を押され、龍次は笑みを浮かべた。

 

「了解だ! 二枚目のダブル・ランスを召喚し、効果発動! 墓地のダブル・ランスを復活! 二体のダブル・ランスをオーバーレイ! 二体のモンスターで、オーバレイネットワークを構築! エクシーズ召喚! もう一度、現れろ俺の希望! No.39 希望皇ホープ!」

 

 再び現れる希望皇。その背の翼を広げ、雄々しい眼差しはラミアを捉えて離さない。

 

「俺のライフは今、お前よりも2000以上低い。よって手札から、ZW-荒鷲激神爪(イーグル・クロー)を特殊召喚し、効果発動! このカードをホープに装備させる!」

 

 特殊召喚された、鷲を模したオブジェ。オブジェ形態のそれが分かれ、ホープに向かって集結。剣に代わる近接武装、即ち両手装備の(クロー)へと変わる。

 

「ホープの攻撃力は2000アップ! バトルだ。希望皇ホープでダイレクトアタック!」

 

 ラミアのフィールドは完全な無人の野だ。飛翔し、まさしく鷲のような鋭さと容赦のなさで、ホープが両手の爪を交錯させながら一閃。ラミアの身体に叩き詰めた。

 

「うぐ―――――ああああああああああああ!」

 

 絶叫を上げながら、ラミアの身体が吹っ飛ばされた。

 地面に激突、勢いは殺しきれず、そのまま地面を削る等に滑って行った。

 

「しまった! やりすぎた!」

 

 ラミアはあくまでも憑依しているだけ。痛みは彼女自身が感じているだろうが、傷つく肉体は何の関係もない不運な少女なのだ。自重し、加減しなければならない。この場合、火のように激しい龍次の闘争本能が仇になったのだった。

 むくりと、ラミアが起き上がった。

 

「やって……くれたな……。この借りは返すぞ」

 

 憎悪を込めた言葉を浴びせられ、一瞬だけ龍次が怯む。だがすぐに気を取り直してプレイ再開。カードを一枚伏せて、ターンを終了した。

 

 

RUM-リミテッド・バリアンズ・フォース:通常魔法

自分フィールド上のランク4のエクシーズモンスター1体を選択して発動できる。選択したモンスターよりランクが1つ高い「CNo.」と名のついたモンスター1体を、選択した自分のモンスターの上に重ねてエクシーズ召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する。

 

CNo.39 希望皇ホープレイV 光属性 ランク5 戦士族:エクシーズ

ATK2600 DEF2000

レベル5モンスター×3

このカードが相手によって破壊された時、自分の墓地のエクシーズモンスター1体を選択してエクストラデッキに戻す事ができる。また、このカードが「希望皇ホープ」と名のついたモンスターをエクシーズ素材としている場合、以下の効果を得る。●1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除き、相手フィールド上のモンスター1体を選択して発動できる。選択したモンスターを破壊し、破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。

 

デストラクト・ポーション:通常罠

自分フィールド上に存在するモンスター1体を選択して発動する。選択したモンスターを破壊し、破壊したモンスターの攻撃力分だけ自分のライフポイントを回復する。

 

Z-ONE:通常魔法

セットされたこのカードが破壊され墓地へ送られた時に発動する。自分の墓地から永続魔法またはフィールド魔法カード1枚を選択して手札に加える。

 

ZW-荒鷲激神爪 風属性 ☆5 鳥獣族:効果

ATK2000 DEF1200

自分のライフポイントが相手より2000ポイント以上少ない場合、このカードは手札から特殊召喚できる。自分のメインフェイズ時、フィールド上のこのモンスターを、攻撃力2000ポイントアップの装備カード扱いとして自分フィールド上の「希望皇ホープ」と名のついたモンスターに装備できる。また、このカードが装備カード扱いとして装備されている場合、1ターンに1度、相手フィールド上で発動した罠カードの効果を無効にする。「ZW-荒鷲激神爪」は自分フィールド上に1枚しか表側表示で存在できない。

 

 

希望皇ホープ攻撃力2500→4500、ORU×2

 

 

龍次LP3200→2700手札1枚

ラミアLP4800→7600→3100手札4枚(うち1枚は召喚制限-エクストラネット)

 

 

「私のターンだ、ドロー」

 

 ライフ差はわずか。手札こそラミアが圧倒的に上だが、フィールドの状況は龍次に傾いている。このまま攻めきれれば龍次の勝利は揺ぎ無いが――――

 

「地縛神が消えたと、安心しているか? そんなはずがない。私は再びフィールド魔法、エクストラネットを発動する。そして死者蘇生を発動。甦れ、地縛神 Ccarayhua!」

 

 咆哮を上げ、再び見上げんばかりの巨躯を持つオオトカゲが顕現する。緑のラインを薄く発光させ、影のような黒い体躯から、ぎょろりとした大きな目で龍次をねめつけている。

 

「また出やがったか!」

「そう簡単に、主導権は握らせない。もっとも、これで終わりかもしれんがね。墓地のブレイクスルー・スキルの効果発動! このカードをゲームから除外し、希望皇ホープの効果を無効にする!」

 

 ホープの身体に源流が走る。再び麻痺したように体を硬直させた希望皇ホープ。盾を失った龍次に対して、ラミアはまさしく獲物にとびかかる蛇のように俊敏に吠えた。

 

「さぁ終わりだ! 地縛神 Ccarayhuaでダイレクトアタック!」

 

 再び動き出す巨大トカゲ。その巨体からは想像もつかない敏捷性を発揮し、地に手足をつけた四足状態で腹這いになり、大きく口を開けた。

 

「ッ!」

 

 ずらりと並んだ鋭い牙が龍次の眼前に現れる。その奥から鞭のようにしなって襲い掛かるは長くて太い、神の舌。

 

「終わりにはならねぇよ! リバースカードオープン、ガード・ブロック! 戦闘ダメージを0にし、カードを一枚ドロー!」

 

 トカゲの舌は、突如として屹立した目に見えない壁に当たって弾かれた。ドローカードを見た龍次の目が鋭い光を放った。

 

「そううまくはいかないか。だが地縛神がいる限り、お前の攻撃は封じられたも同然だ。カードを一枚伏せて、ターン終了」

 

 

死者蘇生:通常魔法

(1):自分または相手の墓地のモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを自分フィールドに特殊召喚する。

 

ガード・ブロック:通常罠

相手ターンの戦闘ダメージ計算時に発動する事ができる。その戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になり、自分のデッキからカードを1枚ドローする。

 

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 ドローする龍次を見下ろして、Ccarayhuaが咆哮を上げる。足掻くな人間と、そう言っているかのようだった。

 なめるなと、その圧力を跳ねのける。それに、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「龍次、このターンで――――」

「ああ、決めるぜ! RUM-ヌメロン・フォース発動! もう一度、希望皇ホープをオーバーレイ! 一体のモンスターで、オーバーレイネットワークを再構築!」

 

 希望皇ホープが、再び白い光となり、龍次の頭上に展開された渦巻く光輝く空間へと吸い込まれていった。

 虹色の爆発が起こる。

 

「白き異界の力、滅びを切り裂く刃となる! 今、希望は進化する! カオスエクシーズチェンジ! CNo.39 希望皇ホープレイ・ヴィクトリー!」

 

 噴煙を突き破って現れたのは、新たなホープの形。

 ホープレイVにあった禍々しさは完全に消え去り、勇者然とした姿。

 白をベースとしたアーマー、燃え上がる炎のような真紅の腕、さらに二本の、同じく真紅の補助アーム。ウィングパーツを力強く広げ、四本の腕それぞれに剣を持った姿は仏敵を打ち滅ぼす仁王の如し。その左肩には赤く刻まれたナンバー、39。

 ヴィクトリーの名の通り、勝利を掴む戦士の姿だった。

 

「ヌメロン・フォースの効果発動! このカードの効果による特殊召喚に成功したホープレイ・ヴィクトリー以外の表側表示のカードの効果を全てに無効にする! 当然、地縛神もその限りではない!」

「つまり、これで地縛神にも攻撃できるということです!」

 

 ぐっと拳を握り締め、龍次は吠える。いつの間にか右拳を前に突き出していた。

 

「行け! ホープレイ・ヴィクトリーで地縛神 Ccarayhuaを攻撃!」

 

 攻撃命令を受けて、ホープレイ・ヴィクトリーが飛翔。一気にCcarayhuaとの距離を詰める。

 

「ホープレイ・ヴィクトリーの効果発動! ORUを一つ使い、ヴィクトリーの攻撃力をCcarayhuaの数値分、アップさせる!」

 

 邪神の抵抗などまるで意に介さず、ホープレイ・ヴィクトリーは突き出される腕を掻い潜り、舌を斬り落として頭上に位置する。

 一瞬の停滞。そして四本の腕と四つの剣で、一気にその体を縦に切り裂いていった。

 

「がああああああああああああああああああ!」

 

 ダメージのフィードバックを受けて、たまらずラミアが絶叫を上げる。

 だが踏みとどまる。悪霊に身を落としても、かつては土着の女神であったという矜持が、彼女に膝を付かせなかった。

 

「この瞬間、Ccarayhuaの効果発動! 全て吹き飛べぇ!」

 

 再び黒い嵐が吹き荒れ、フィールドを更地に変えた。

 

「この瞬間、セットしてあった黄金の邪神像の効果発動! 私の場に、邪神トークンを守備表示で特殊召喚する!」

 

 つまり壁だ。だが関係ない。すでに勝負は決まっている。

 

「Ccarayhuaの破壊を見越していたか。()()()()()()()()()()() 手札から速攻魔法、エクシーズ・ダブル・バック発動! 墓地からホープレイ・ヴィクトリーとホープレイVを特殊召喚!」

「な、なんだと!?」

 

 驚愕に目を見開くラミア。その眼前で、二体のホープが現れる。その剣の切っ先が、ラミアに突き付けられた。

 勝敗は決した。最早ラミアになすすべはない。

 

「終わりだ! 行け! ホープたち!」

 

 下る攻撃宣言。そして、ホープレイVが邪神トークンを両断し、ホープレイ・ヴィクトリーの剣がラミアに振り下ろされた。

 

 

RUM-ヌメロン・フォース:通常魔法

自分フィールド上のエクシーズモンスター1体を選択して発動できる。選択したモンスターと同じ種族でランクが1つ高い「CNo.」と名のついたモンスター1体を、選択した自分のモンスターの上に重ねてエクシーズ召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する。その後、この効果で特殊召喚したモンスター以外のフィールド上に表側表示で存在するカードの効果を全て無効にする。

 

CNo.39 希望皇ホープレイ・ヴィクトリー 光属性 ランク5 戦士族:エクシーズ

ATK2800 DEF2500

レベル5モンスター×3

このカードが攻撃する場合、相手はダメージステップ終了時まで魔法・罠カードを発動できない。また、このカードが「希望皇ホープ」と名のついたモンスターをエクシーズ素材としている場合、以下の効果を得る。●このカードが相手の表側表示モンスターに攻撃宣言した時、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除いて発動できる。ターン終了時まで、その相手モンスターの効果は無効化され、このカードの攻撃力はその相手モンスターの攻撃力分アップする。

 

黄金の邪神像:通常罠

セットされたこのカードが破壊され墓地へ送られた時、自分フィールド上に「邪神トークン」(悪魔族・闇・星4・攻/守1000)1体を特殊召喚する。

 

エクシーズ・ダブル・バック:速攻魔法

自分フィールド上のエクシーズモンスターが破壊されたターン、自分フィールド上にモンスターが存在しない場合に発動できる。自分の墓地から、そのターンに破壊されたエクシーズモンスター1体と、そのモンスターの攻撃力以下のモンスター1体を選択して特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターはエンドフェイズ時に破壊される。

 

 

ラミアLP0

 

 

「か……は……。ここまで……か……」

 

 ラミアのライフが0になり、勝敗は決した。

 それはラミアの消滅も意味していた。事実、龍次の目にもラミアの存在そのものが、憑依していた少女から剥がれ、世界に消えていくのが見えていた。

 

「口惜しい……。おのれ……おのれ……!」

 

 最後まで、恨み言を口にしたまま、ラミアは消えた。糸の切れた操り人形のようにふっと倒れこんだ少女を、龍次は慌てて抱き留めた。

 胸の鼓動を感じた。生きている。呼吸も、脈も正常。気を失っているだけのようだ。

 

「よかった」

 

 救えた。その事実が何より励みになる。

 だしぬけに拍手が聞こえた。振り返れば、こちらも敵を撃破した穂村崎とフレデリックの姿があった。

 拍手をしていたのはフレデリックだ。彼は拍手をやめえると、

 

「見事だったね、風間君」

 

 祝福の言葉を送った。いつの間にいたのか気付かなかったが、どうやら途中から龍次のデュエルを観戦していたらしい。

 龍次は呆れとも、疲れとも取れると息を吐き出した。

 

「残念だが、風間君。敵も動き出した以上、修行はここまでだ。デッキの動きも悪くなかったし、新しいホープもさっそく使いこなしている。ならば、あとは実戦で鍛えるだけだよ」

 

 穂村崎の言葉に、龍次は力強く頷いた。

 大きな戦いがある。それはきっと、すぐ近くだった。

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