神々の戦争   作:tuki21

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第73話:黒神烈震、強敵に出会う:前編

 それは、和輝がクロノスとティターン神族のことを知り、龍次がまだ何も知らずに軽井沢で特訓中の、ちょうど間のことだった。

 

 

 横浜中華街。その入り口。

 黒神烈震(くろかみれっしん)とその姉弟子であり、今は唯一肉親と呼べる女性、李趙鮮(りちょうせん)は向かい合っていた。

 ぺこりと頭を下げ、烈震が言う。

 

「趙鮮小姐(シャオチエ)、お世話になりまし……た?」

 

 お世話になりました。そう言おうとしたのだが、冷静に考えてみると烈震は趙鮮に呼びつけられたおかげで中国マフィアとのごたごたに巻き込まれたり、さらに厄介な問題を抱え込むことになったり、結構踏んだり蹴ったりだった。

 だから最後につい本音が漏れて疑問形になってしまった。

 そんな弟分に対して、趙鮮は大人らしく怒ることはせず、苦笑で済ませた。

 

「ま、実際世話になったのはこちらだな。今回は助かったよ、烈震。人の世のことなら大抵渡り歩く自信はあるが、神が絡むとね。人の身ではどうにもならん」

「今後は、自分の行動も顧みてくれるとありがたいですね」

 

 呆れと親愛の情を混ぜ込んだ複雑な声音で言う烈震に対して、趙鮮は「考えておこう」と本気度がいまいちわからない態度で返した。

 そういえばと、趙鮮が続けた。

 

「確か、八月の二十四日からだったな、七大大会の一つが始まるのは」

「ああ、今年はジェネックス杯でしたね。ジェネックス、ゼアル、フォーチュンの三大会は、数年に一度ですし」

「そして今年はジェネックス杯。毎回趣向が変わる面白い大会だ。前々回みたいに、プロアマ合同の大会になるかもしれないぞ」

「詳細の告知はまだですからね。皆、首を長くして待っていますよ」

 

 もしもプロアマ合同の大会だったなら、己の力を知るために、さらなる高みを目指すべく、烈震は参加するだろうな、趙鮮は顔に出さずそんなことを思った。

 そして、チシャ猫のような笑みを浮かべて、(たず)ねた。

 

「ところで、烈震。()()、どうするつもりだ?」 

 

 呆れ顔で趙鮮が指さしたのは、烈震の腕だった。

 正確には、そこに絡みついている少女だった。

 雪のように白い肌、そして同じ色の腰まで伸びた髪。血の結晶のように赤い双眸。朱色のチャイナドレス姿の、紅白少女。

 烈震が横浜で戦った、女神、西王母(せいおうぼ)の元契約者にして中華街の地下で蠢く中国系マフィア、奇龍(クイロン)の首領の孫娘である少女。

 名を、小雪(シャオシュエ)、といった。

 烈震は激闘の末西王母を打破、小雪は神々の戦争から脱落し、ただの少女に戻ったのだが、その際に烈震にとって予想外のことが起こった。

 なんと、デュエルに敗北した小雪が烈震に惚れてしまったのだった。

 

 お前の子を産みたい。そんな、凄まじい殺し文句とともに彼女は烈震の横浜滞在中、ずっと付きまとっていた。

 同時に、孫娘を取られた形になる奇龍だったが、強いものが婿になるならそれも良しとし、烈震との仲を認め、応援するスタンスをとった。

 趙鮮も面白がるだけなので、烈震は完全に四面楚歌、逃げ場などなかった。

 そして奇龍は女だけでなく、カードという利益まで烈震に提供し、彼を逃がさないようあの手この手で手綱をつけに来た。

 実際、助かったのだ。激化していくだろう神々の戦争に対し、趙鮮から指導を受け、奇龍が提供したカードで、間違いなく烈震のデッキは強化された。

 同時に雁字搦めにされつつある自らの将来に、烈震は何を思うか。

 烈震はそっと自らの腕に絡みついている小雪の肩に手を当てた。

 少し力を込めて、やさしく引き離す。

 

「小雪、よく聞いてくれ」

「なんだくろかみ? 結婚の日程を決めるのか?」

「落ち着いて聞いてくれ。(オレ)はまだ結婚の適応年齢に達していない。だからまだお前とは結婚できない」

「なんと! それは盲点だった」

「そして己はまだ、己の納得した男になっていない。その強さを、高みを手にしなければ、己は己の人生に納得できない。それでは、お前と結婚するという新しい道を進めない」

「よく分からないが、法が邪魔をして、まだ結婚できないのか? そして、それまで待っていてほしいのだな?」

 

 完全には烈震の言いたいことは伝わらなかったが、彼は「そうだ」と頷いた。烈震の頷きに、小雪は心底嬉しそうに笑った。

 

「わかった! 待ってるぞ! また会おう、くろかみ!」

 

 年齢不相応に無邪気に、幼く笑い、ぴょんと軽く跳んで、烈震の頬に口づけた。

 

「待たな!」

「……ああ、また会おう」

 

 小雪の突飛な行動にやや面喰いながら、辛うじて、烈震はそれだけを言えたのだった。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 星宮(ほしみや)市にある家に着いた時はすでに夜になっていた。

 何ということのない、築二十年ばかりの安アパート。

 風呂、トイレは辛うじて部屋ごとにあるが、洗濯機は部屋の外で共同。大柄な烈震からすればやや狭い玄関に、畳の匂いが漂う小振りな部屋。

 一人暮らしで、あまりものを持たない烈震は、それでも問題ないと思っている。

 自分の部屋の前で足を止める。鍵を取り出そうとし、その動きが止まった。

 眉を(ひそ)める。その傍らに新たな気配が現れた。言うまでもなく、烈震と契約を交わした神、トールだった。

 

「人の気配がするが、来客の予定が?」とトール。

「そんなものはない」首を振る烈震。

「んじゃ、不審者か」

 

 トールの行動に迷いはなかった。彼は一歩後ろに下がり、玄関扉を蹴破ろうとした瞬間、扉の向こうから慌てたような声があった。

 

「ま、待ってくれトール君! 私だ、怪しいものではない!」

「ん?」

 

 どたばたと中で音がして、扉が開かれた。

 確かに、現れた顔は烈震の見覚えがある顔だった。

 撫でつけられた灰色の髪に落ち着きのあるディープブルーの瞳、黒のフロックコート、きっちりと着こまれたベスト。室内なのでいつもかぶっているシルクハットは外している夏真っ盛りだというのにそのスタイルを崩さないあたり、筋金入りの紳士なのだろう。

 フレデリック・ウェザースプーン。探偵であり、ヘイムダルの契約者であり、神々の戦争にイレギュラーを持ち込んだ邪悪に対抗すべく暗躍している紳士でもあった。

 

「久しぶりだ、ミスタ・ウェザースプーン。己を星宮市(この街)に呼び込んで以来か」

「息災で何よりだ、黒神君。君の強さを求める求道者的信念に翳りがないことを喜ばしく思うよ」

 

 握手を交わす二人。トールが神の気配を感じなかったことから、ヘイムダルは連れてきていないのだと烈震は内心で断定した。

 

「しかしこの街にきていたとは、知らなかった。だがなぜ己の部屋に不法侵入を?」

「ああ。それは簡単さ。彼は有名人だからね、あまり屋外に置いておきたくなかったんだよ」

 

 ゆらりとフレデリックが部屋の奥に視線を送る。

 部屋の奥から、一人の男が現れた。

 

「留守宅に上がるのは心苦しかったのだけれど、申し訳ない。自分で望んだわけじゃないが、俺も顔が売れてしまったので。ファンは大切にしたいが、残念ながら神々の戦争に関することに、余人を立ち入れさせるわけにはいかないんだ」

 

 申し訳なさそうな声で、男が言った。

 優しげでありながらも端正な顔立ち、白い肌、背にかかるほどの長さの、黄金をくしけずったかのごとき金髪、サファイアを研磨したような青い瞳。白のジャケットに襟を開けたシャツ姿。微笑みを絶やさず、春の日差しのような穏やかな雰囲気を常に振りまくその姿は、プロアマ問わず彼に心酔するものを引き付ける。

 烈震も知っている人物だった。

 烈震は知っている。この男が誰なのか。

 穏やかな佇まいなのに、烈震の感覚器官は、男の強さを感じ取っていた。

 驚愕と、戦慄を込めて、烈震は男の名を口にした。

 

「レイシス・ラーズウォード……」

 レイシス・ラーズウォード。Aランクのプロデュエリストで、全プロの中でもトップクラスの実力を持つ。

 整った容姿、デュエルの強靭さと、本人が持つ善性、そしてどんな相手であれ微笑みを欠かさず、敬意を絶やさない姿は多くの人々の尊敬を集め、プロの中には彼を称える「レイシス派」などという派閥が存在すると、まことしやかに囁かれるのだった。

 そして、レイシスの善性はデュエルの中だけのことではない。

 実際、彼は世界中にある多くの孤児院に出資しており、自身もまた、自分が出資している孤児院によく慰問として顔を出していた。

 そして烈震は知らぬことだが、七年前の東京大火災で命以外全てを失った和輝もまた、岡崎家に引き取られる前はレイシスが出資している孤児院に身を置いていたのだ。

 

「初めまして。名前は知っているようなので自己紹介は割愛しよう。ただ、これだけは言っておこうかな。俺は、神々の戦争の参加者だ」

 

 フレデリックと一緒にいる時点で予測していたが、やはりという思いと、確かな歓喜が、烈震の心を満たした。

 

 

 少し時間が経過して、結局三人は烈震の部屋に上がった。

 トールは姿を消していた。これは、四人もいると部屋の中が手狭で仕方ないからだ。

 

「どうかね黒神君。私はこの街を滞在先にすることを君に勧めたが、満足かな?」

 

 急須からお茶を三つの湯飲み茶碗に淹れながら、烈震は答える。

 

「ああ。この街はいい。まだ見ぬ強敵も、すでに見た強敵も、より取り見取りだ」

「それは何より。ああ、君の友人、岡崎君にも会ったよ。私が目を付けたとおり、彼の正義は硬く、そして彼の実力は君を満足させるに足りたようだ」

「そうだな。岡崎も風間も、良き友で、良きライバルだ。いずれ、余計な思いも、不純な動機もなく、ただただ純粋に雌雄を決したいものだ」

 

 烈震の口元に微笑がよぎっていた。

 その微笑を知ってか知らずか、フレデリックは続けた。

 

「今日の要件はほかでもない。以前言ったが、ついに邪悪が動き出した」

 

 そしてフレデリックが語ったのは、和輝にも話したことと同じ内容だった。

 クロノス、射手矢弦十郎、ティターン神族、復活した妖精、怪物たち。

 烈震は黙って話を最後まで聞いていた。

 

「なるほど、な。それで、ミスタ・ウェザースプーンは各地でティターン神族に対抗する力を集めているわけか」

「実は、彼、ラーズウォード君もその一人、なのだが、彼は少々複雑な事情があってね。ティターン神族との決戦に駆け付けられるかどうかは微妙なところだ」

「どういうことだ? いや、そもそもレイシス・ラーズウォードの契約した神はなぜここにいない?」

 

 部屋の面積の問題で実体化していないトールからの言葉だった。

 彼は言っている。レイシスの周囲に神の気配は感じないと。

 

「その疑問はもっともだ」

 

 烈震が出したお茶を飲みながら、レイシスは苦笑した。

 

「俺が契約した神はスプンタ・マンユだよ」

「その神は……」

 

 烈震の眉が顰められる。スプンタ・マンユ。その名前に聞き覚えがあった。

 

「そうだ、確か東京大火災。いや――――」

「アンラ・マンユ討伐戦のことだ。そこの中核を担った神だよ。通称はこの世全ての善。悪という概念を司るアンラ・マンユの対局、善を司る神だ」

 

 お茶を飲み干してフレデリックが神妙な表情で告げる。

 

「熾烈を極めた神々の戦いに、ついに東京に展開されたバトルフィールドが崩壊した。その崩壊の余波はすさまじく、本来なら日本が世界地図から消滅していたほどだったが、その余剰エネルギーのほとんどを、スプンタ・マンユが力の大半を使い果たし、防いだのだよ」

「そのせいで、スプンタ・マンユは行動の自由がきかなくてね。俺と契約を交わしたけれど、来るべき時のために今は傷を癒しているわけだ」

「来るべき時、とは?」

「アンラ・マンユとの決戦の時だ」

 

 はっきりと、レイシスは言い切った。

 アンラ・マンユ。今は封印されている絶対悪の神。

 

「封印が、解けると?」

「いつか必ず、ね」

 

 重苦しい沈黙が場を支配した。

 この場の唯一の神、トールでさえも、口を重くしていた。

 トールもまた、七年前のアンラ・マンユ討伐戦に参加していた。かの悪神の強さは、身に染みて分かっている。

 

「とはいえ、当面の危機はアンラ・マンユではないね」

 

 重い空気を砕こうとするように、努めて明るく言ったのはフレデリックだった。彼はパンと手を叩いて全員の注目を自分に向けさせて、言った

 

「まず打倒すべきはクロノスと、その配下のティターン神族だ。彼らは完全に神々のルールから逸脱している。その暴走を止めなければ、戦争自体、思わぬ方向に転がってしまうかもしれない」

 

 フレデリックの言う通りだった。不正に戦力を増やしているクロノスは無視できない。

 だが敵は強大だ。だからこそフレデリックは邪悪に立ち向かえる正義を集めた。小さくとも決して負けない、善の炎を。

 烈震もその一人であると見込み、フレデリックは烈震が日本に渡るのに便宜を図り、デュエルの先端都市である星宮市に向かわせたのだ。そこでの出会いが彼によって有意義であることを願って。

 

「まぁいい。そちらの思惑が何であれ、己のやることは変わらない。クロノスにティターン神族。己を高めるためにうってつけの相手だ」

 

 好戦的な烈震だったが、やはり口調は静かなまま。そのままところでと、ふと視線がレイシスに向かった。

 

「レイシス・ラーズウォードプロ。わざわざ足を運んでくれたのだ。ただ話して終わるだけというのは、デュエリストとしても失礼に当たらないだろうか?」

 

 言いながら烈震は自分のデッキを取り出していた。デュエルディスクもだ。

 行動は言葉よりも雄弁だった。それでも烈震は口にした。

 

「レイシス・ラーズウォード。一人のデュエリストとして、貴男にデュエルを申し込みたい。受けてもらえるだろうか?」

 

 アマチュアがプロにする言としてはかなり不躾(ぶしつけ)だった。

 だがフレデリックは何も言わない。というよりも、これもまた目的だった。ただ訊ねるだけでは失礼に当たるので、レイシスという()()を持ってきたのだ。 

 レイシスは苦笑している。彼も彼で、フレデリックの意図は正しく理解しているのだ。

 

「いいだろう。スプンタ・マンユはいないがバトルフィールドは展開できる。あそこはいいね。人目につかないから、このようなプライベートな戦いも快く受けられる」

 

 先に立ち上がったのはレイシスの方だった。彼もまたデッキとデュエルディスクを取り出した。

 

「観客もいない、スプンタ・マンユがいないから、余分な重みもない。久しぶりだな、そんなデュエルは」

 

 どこか楽しそうに、嬉しそうに、レイシスはそう言った。

 

 

「好戦的というのは、決して悪いことではない。それを制御できているうちは」

 

 烈震とレイシスが出ていったあと、部屋に残ったフレデリックはすっかり冷めてしまった茶を飲みほして、呟いた。

 

「誰彼構わずかみつくようでは、それは好戦的ではなくただの狂犬、畜生と変わらない。人間を人間たらしめている理性は常に持たなくては。そういう意味では、黒神君は合格だな。彼は理性をもって、己を高めるために、強者に拳を向けるのだから」

 

 などと言ってみても、聞いているものは誰もないのでむなしいのであった、というフレデリックのセリフもまた、寒々しかった。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

決闘(デュエル)!』

 

 バトルフィールドは展開された。アパートの駐車場で、烈震とレイシスは対峙した。

 宝珠は、烈震が緑。レイシスが白。

 前口上など一切ない。交わされたのは始まりの言葉だけ。あとはただ、カードで語るだけだ。

 

 

烈震LP8000手札5枚

レイシスLP8000手札5枚

 

 

「俺の先攻で行かせてもらうよ。手札から、竜の霊廟を発動。デッキから青眼の白龍(ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン)を墓地に送る。追加効果で、デッキから伝説の白石(ホワイト・オブ・レジェンド)を墓地に送ろう。そしてこの瞬間、伝説の白石の効果で、デッキから二枚目の青眼の白龍を手札に加える」

「やはり、ブルーアイズデッキか」

 

 青眼の白龍。ブラック・マジシャンと並ぶ、デュエルモンスターズ最初期に登場したモンスター。その美しさ、雄々しさに加え、攻撃力3000という一種の基準を作成した、まさに伝説のカード。

 いくつもの再販、復刻を繰り返し、今なお多くのプレイヤーに愛されているモンスター。数多のカードの出現によって、より高いステータスのカードも多く登場しているにもかかわらず、最強のモンスターと言えば、このカードを思い浮かべるプレイヤーも多い。

 

「ブルーアイズデッキか。こいつのデュエルは前に映像データで見たことあるぜ。ブルーアイズを使ったパワーファイト。見ている方もたいそう盛り上がる、ファンサービスと強さを兼ね備えたやべぇデッキだ」

 

 今まで黙っていた分を取り返すかのように喋り倒すトール。烈震は自分が言いたいことを全部トールに言われたので、頷いただけに留めた。

 

「モンスターをセットし、永続魔法、補給部隊を発動。カードを一枚セットして、ターンエンドだ」

 

 

竜の霊廟:通常魔法

「竜の霊廟」は1ターンに1枚しか発動できない。(1):デッキからドラゴン族モンスター1体を墓地へ送る。さらにこの効果で墓地へ送られたモンスターがドラゴン族の通常モンスターだった場合、デッキからドラゴン族モンスター1体を墓地へ送る事ができる。

 

伝説の白石 光属性 ドラゴン族:チューナー

ATK300 DEF250

このカードが墓地へ送られた時、デッキから「青眼の白龍」1体を手札に加える。

 

補給部隊:永続魔法

(1):1ターンに1度、自分フィールドのモンスターが戦闘・効果で破壊された場合にこの効果を発動する。自分はデッキから1枚ドローする。

 

 

「己のターンだ、ドロー」

 

 落ち着いた立ち上がりの烈震。彼は己の手札を見る。正確には、その中の一枚を。

 緊急テレポート。デッキからレベル3以下のサイキック族モンスターを呼び出せる速攻魔法。

 脳内でシミュレート。戦術を組み立て、実行に移す。その間の時間が圧倒的に短かった。

 

「魔法カード、予想GUY発動。デッキからアレキサンドライドラゴンを特殊召喚する。さらにカードガンナーを通常召喚。

 デッキトップ三枚を墓地に送り、カードガンナーの効果発動。攻撃力を1500アップさせる」

 

 烈震のフィールドに二体のモンスターが現れる。

 一体はアレキサンドライトでできた体を持つ鉱石のドラゴン。もう一体は玩具のロボットのような外観をしたモンスター。ただし、どちらも現在の攻撃力は2000、1900とアタッカーレベルだ。

 攻めるには十分な数値だった。

 

「バトルだ。カードガンナーで攻撃!」

 

 裂帛の気合とともに攻撃宣言を放つ烈震。主の気合を受け取ったかのように、きゅらきゅらとキャタピラを動かし、両腕の大砲を発射。

 空気を震わせる轟音とともに放たれた砲弾がレイシスの守備モンスターを粉砕した。

 

「補給部隊の効果で一枚ドロー。さらに戦闘破壊された仮面竜(マスクド・ドラゴン)の効果発動。デッキから二体目の仮面竜を守備表示で特殊召喚する」

「構わない。アレキサンドライドラゴンで攻撃!」

 

 間髪入れずに、烈震は追撃に入った。アレキサンドライドラゴンが翼を広げ、身を屈めた。

 一瞬の沈黙の後に瞬発。地面すれすれの超低空飛行から仮面をかぶったような頭部の形状をしたドラゴン――仮面竜――に肉薄。その牙を首筋に突き立てた。

 竜の絶叫が迸る。あっけなく、二体目の仮面竜も破壊された。

 レイシスは動じない。

 

「仮面竜の効果発動。デッキから太古の白石(ホワイト・オブ・エンシェント)を特殊召喚しよう」

 

 リクルーターの後に現れたモンスターこそ本命。

 現れたのは光り輝く大きな竜の卵。その胎動が空気を振動させ、烈震の身にも伝わってきそうだった。

 烈震のフィールドに、もう攻撃できるモンスターはいない。ならばここでバトルフェイズは終了、メインフェイズ2に入るところだが、そうはいかない。

 まだバトルは終わっていない。烈震はターンの初めに視線を向けたカードに、指をかけた。

 

「速攻魔法、緊急テレポート発動! デッキからクレボンスを特殊召喚する!」

 

 ここにきて攻め手の追加。満を持して出しただろう太古の白石を破壊しにかかる。

 とはいえ問題もあった。

 太古の白石は墓地に送られたターン終了時にデッキからブルーアイズモンスターを一体特殊召喚できる。ここで戦闘破壊しても結局攻撃力3000のモンスターを呼び寄せる結果になる。

 否、烈震はそうはならないと確信していた。

 奇龍よりもたらされたカードは、烈震のデッキを飛躍的に強化した。その中には通常ではどうあっても手の届かないレアカードもあった。

 どのように手にしたのかは知らない。興味もない。重要なのはそのモンスターが強力な戦力となることだけだ。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。あのカードがあれば、太古の白石も除去できる。

 そこまで烈震は考えていたが、次の瞬間には全てが()()()になった。

 

「ここだね、リバーストラップ、発動。激流葬!」

「何!?」

 

 目を見開く烈震の眼前で、激流が発生。止めるすべとてないままに、フィールドの全てのモンスターを飲み込み、墓地まで流してしまった。

 愕然とするトール。「このタイミングで激流葬だぁ!?」

 忸怩たる思いで歯噛みする烈震。「読まれていた。なぜ?」

 それらの疑問に答えようと、微笑しながらレイシスは言った。

 

「レベルの違うモンスターを並べて攻撃したから、まぁX召喚はないだろうと踏んだ。それに、ターン開始時の君の視線の動き。何かを狙っているものと見た。だがモンスターを召喚した時の君の視線は最初に見たカードを向いていなかった。ならこれらは本命ではないと思った。

 そして、二体目の仮面竜を倒した時、君の『気』に緩みはなかった。ならばまだ攻撃は続行するのだろうと思ったんだ。

 で、あれば、バトルフェイズ中に新たなモンスターを召喚するつもりだろう。だからこのタイミングまで発動は待っていたんだ」

 

 完全に思考を読まれた。それだけではない、烈震の動作一つ一つに目を配り、それらを推論材料とし、動くことに疑いを持っていない。自分を完全に信じていながらも、それが過信になっていない。

 プロデュエリストの魔境、Aランク。その中でもレイシスはトップレベルだ。言ってしまえば、デュエルキング、六道天(りくどうたかし)に近い領域にいるデュエリスト。

 我知らず、烈震は唾を飲み込んでいた。固まっていて、喉が詰まるかと思った。

 

「カードガンナーの効果で一枚ドロー。己は、カードを一枚セットし、ターンエンドだ」

「そしてこの瞬間、墓地に送られた太古の白石の効果により、デッキから三体目の青眼の白龍を特殊召喚する」

 

 轟く咆哮。現れたのは研ぎ澄まされた刀身のような白銀の身体を持ち、雄々しく両翼を広げ、深い知性と誇り高さをにじませる青い(まなこ)を持つ巨龍。ただ見ているだけで畏怖し、平伏してしまうような存在感を放つ、白銀の龍だった。

 

 

予想GUY:通常魔法

(1):自分フィールドにモンスターが存在しない場合に発動できる。デッキからレベル4以下の通常モンスター1体を特殊召喚する。

 

アレキサンドライドラゴン 光属性 ☆4 ドラゴン族:通常モンスター

ATK2000 DEF100

 

カードガンナー 地属性 ☆3 機械族:効果

ATK400 DEF400

(1):1ターンに1度、自分のデッキの上からカードを3枚まで墓地へ送って発動できる。このカードの攻撃力はターン終了時まで、この効果を発動するために墓地へ送ったカードの数×500アップする。(2):自分フィールドのこのカードが破壊され墓地へ送られた場合に発動する。自分はデッキから1枚ドローする。

 

仮面竜 炎属性 ☆3 ドラゴン族:効果

ATK1400 DEF1100

このカードが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時、自分のデッキから攻撃力1500以下のドラゴン族モンスター1体を自分フィールド上に特殊召喚する事ができる。

 

太古の白石 光属性 ☆1 ドラゴン族:チューナー

ATK600 DEF500

「太古の白石」の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。(1):このカードが墓地へ送られたターンのエンドフェイズに発動できる。デッキから「ブルーアイズ」モンスター1体を特殊召喚する。(2):墓地のこのカードを除外し、自分の墓地の「ブルーアイズ」モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを手札に加える。

 

緊急テレポート:速攻魔法

(1):手札・デッキからレベル3以下のサイキック族モンスター1体を特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターは、このターンのエンドフェイズに除外される。

 

クレボンス 闇属性 ☆2 サイキック族:チューナー

ATK1200 DEF400

このカードが攻撃対象に選択された時、800ライフポイントを払って発動できる。その攻撃を無効にする。

 

激流葬:通常罠

(1):モンスターが召喚・反転召喚・特殊召喚された時に発動できる。フィールドのモンスターを全て破壊する。

 

青眼の白龍 光属性 ☆8 ドラゴン族:通常モンスター

ATK3000 DEF2500

 

 

「俺のターンだね。ドローしよう」

 

 青眼の白龍を従え、レイシスは悠然とカードをドローした。ドローしたカードを確認、おっと一言。

 

「デッキトップから十枚を除外し、強欲で貪欲な壺を発動。カードを二枚ドロー。

 さて、これはどうかな?」

 

 ちらりと烈震を見やるレイシスの視線は、優し気なのにその裏側に鋭く強い刃を想起させた。 

 烈震は身構える。それが意味のある行為かどうかはともかく、無抵抗なまま座するのは彼の主義ではない。

 

「墓地の太古の白石の効果発動。このカードを除外して、墓地の青眼の白龍を手札に加えるよ。さらに手札の青眼の白龍を提示して、手札から|青眼の亜白龍《ブルーアイズ・オルタナティブ・ホワイト・ドラゴン》を特殊召喚するよ」

 

 現れたのは、青眼の白龍に似ていながらも細部が違う。より細身になったその姿は骨のようにも、抜身の刃のようにも見えた。まさに亜種(オルタナティブ)

 

「ロード・オブ・ドラゴン-ドラゴンの支配者を召喚-。さらにドラゴンを呼ぶ笛を発動! 手札から、残る二体の青眼の白龍を特殊召喚する!」

「ッ!」

 

 竜の骨を材料に作ったと思われる鎧と、青黒いマントを翻した魔術師が、これまたドラゴンの骨をモチーフに作られた笛を吹きならす。

 笛の音はどこまでも響き渡り、その音に誘われて、二体の青眼の白龍が烈震の手札から出撃した。

 四体の青眼の白龍。四重の咆哮が轟き、大気を、否、バトルフィールド全域を震わせた。

 

 

強欲で謙虚な壺:通常魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。(1):自分のデッキの上からカード10枚を裏側表示で除外して発動できる。自分はデッキから2枚ドローする。

 

青眼の亜白龍 光属性 ☆8 ドラゴン族:効果

ATK3000 DEF2500

このカードは通常召喚できない。手札の「青眼の白龍」1体を相手に見せた場合に特殊召喚できる。この方法による「青眼の亜白龍」の特殊召喚は1ターンに1度しかできない。(1):このカードのカード名は、フィールド・墓地に存在する限り「青眼の白龍」として扱う。(2):1ターンに1度、相手フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを破壊する。この効果を発動するターン、このカードは攻撃できない。

 

ロード・オブ・ドラゴン-ドラゴンの支配者- 闇属性 ☆4 魔法使い族:効果

ATK1200 DEF1100

(1):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、お互いのプレイヤーはフィールドのドラゴン族モンスターを効果の対象にできない。

 

ドラゴンを呼ぶ笛:通常魔法

(1):手札からドラゴン族モンスターを2体まで特殊召喚する。この効果はフィールドに「ロード・オブ・ドラゴン-ドラゴンの支配者-」が存在する場合に発動と処理ができる。

 

 

 四体の大型ドラゴン。レイシスのデュエルではよく見た光景だったが、こうして相対してみると、その凄まじさがよく分かる。

 

「さぁ、攻撃だ。行け、ブルーアイズたち!」

 

 レイシスの宣言が下される。一挙にドラゴンが烈震に迫った。


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