己の場にいる三極神、その一柱、極神皇トールを眺めながら、綺羅は思った。
やはり兄さんは強い。前から強かったが、ここ数か月でさらに実力を伸ばしている。
でも負けない。負けたくない。離されたくない。綺羅は必死の思いで手を伸ばす。どんどん遠ざかる兄の背中に向けて。
和輝LP3700手札4枚
ペンデュラムゾーン赤:降竜の魔術師、青:猪突の魔術師
モンスターゾーン 覚醒の魔導戦士(攻撃表示)、ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン(攻撃表示)
魔法・罠ゾーン 永続罠:永遠の魂、永続魔法:補充部隊、伏せ2枚
フィールドゾーン なし
綺羅LP4800手札3枚
ペンデュラムゾーン赤:なし青:なし
モンスターゾーン 極星皇トール(攻撃表示)、邪精トークン(守備表示、攻守3000)
魔法・罠ゾーン なし
フィールドゾーン なし
「私のターンです、ドロー!」
ドローカードはまさに天の恵みだった。迷うことなく即座にデュエルディスクにセットする。
「強欲で貪欲な壺発動! デッキトップから十枚を裏側で除外して、二枚ドロー!」
劣勢を跳ね返す希望を求めてのドロー。少女の訴えに、運命は笑みで答えた。
「よし! これなら、いけます! 私は極星霊リョースアールヴを召喚します!」
現れたのは、水色に発光する身体を持つ、小柄な人型。
衣服は着ておらず全裸。尻からは数珠繋ぎになっている尻尾が生えており、その先端には人魂のようなものが浮いている。
先程綺羅が召喚した極星獣と違い、生物的な実物感ではなく、霊体のようなスピリチュアルな感じのするモンスター。ある意味、より妖精や、精霊よりなのかもしれない。
「リョースアールヴの効果発動です! 私の場のトールを指定して、そのレベル以下の極星、極星霊テッグアールヴを手札から特殊召喚します!」
追加されたのは紫の身体を持つ霊体。今度は意地の悪そうな笑みを浮かべ、尻尾の先には鉄球のような形になっていた。
「合計レベル10……。来るか、二体目が」
来たる展開に備えて、和輝が身構えた。
綺羅は、凛とした声を張り上げて、一気呵成に声を上げた。
「レベル1の邪精トークンと、レベル4の極星霊リョースアールヴに、レベル5の極星霊テッグアールヴをチューニング!」
右手を大きく天へと掲げる綺羅。その頭上で展開されるシンクロエフェクト。
テッグアールヴが五つの緑の輪となり、その輪を潜った二体のモンスターが、合計五つの光星となる。
光の道が、光る星々を貫いた。
「星界の扉開く時、狡知の邪神が、嘲笑と共にやってくる。その魔力を振るい、世界を嘲笑え! シンクロ召喚、極神皇ロキ!」
現れる二体目の三極神。
魔法使いというよりも、道化めいたひらひらとした衣服、捻じれて歪んだ三角帽子、ひげの生えた老人が、ケタケタ不気味に笑いながら降臨した。
「ロキ、か」
ずいぶん実物と違うな。和輝は内心でそう思った。本物のロキは金髪碧眼の美丈夫だ。あいつがこれを見たらどう思うだろうか? 悲鳴を上げるか。それとも全く違う姿に、人間の想像力は面白いねとほほ笑むのか。
「っと、いかんいかん」
苦笑して
一瞬の物思いをごまかすように、和輝は言葉を紡いだ。
「やるなぁ、綺羅。これで三極神が二体並んだわけだ。これは、ちょっとやばいかね?」
「セリフの割に、声音は余裕そうですね」
二体目の三極神。三極神自体がレアな存在なので、観客は嫌でもヒートアップする。これで三体目も期待する声が出てきた。
「行きます! バトルに――――」
「待った! 綺羅のメインフェイズ1終了時に、俺は伏せていたスキル・サクセサーを発動!」
意気込む綺羅に、和輝が待ったをかける。攻撃の気勢を削がれた綺羅は、和輝の戦術を前に、ただ見送るだけになってしまった。
「スキル・サクセサーで、ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴンの攻撃力を400アップ。さらにこの瞬間、墓地のマジシャンズ・ロッドの効果発動。覚醒の魔導剣士をリリースして、
綺羅は訝し気に眉根を寄せた。ロキは一ターンに一度、バトルフェイズ中の罠の発動をノーコストで無効化するので、その前にスキル・サクセサーを発動させたのは分かる。
だがスキル・サクセサーの発動を呼び水にして、マジシャンズ・ロッドの効果を発動。覚醒の魔導戦士を消費したのが解せない。
たしかにマジシャンズ・ロッドはブラック・マジシャンがデッキの中核にいる和輝のデッキには非常に有用にして強力なカードだ。
だがそのカードを再び手札に舞い込ませるために、壁を一つ減らし、大ダメージを受けることをよしとするだろうか? いくら補充部隊の存在があるといっても、トールとロキのダイレクトアタックを受ければ、残るライフは300。トールが自己再生すればそれで終わりだ。
「逆にここまで無防備なのは――――手札に防御カードがありますね」
「さて、どうかな?」
はぐらかす兄。だが綺羅の選択は決まっていた。
「やることは変わりません。バトルです! トールでルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴンを攻撃!」
トールが咆哮を上げ、地面を蹴った。地響きと錯覚させる音が鳴り響き、観客が歓声を上げる。
魔鎚を振り上げるトール。その威容を前に、ルーンアイズが威嚇の声を上げた。
だが無意味だった。振り下ろされた魔鎚を前に、神秘の眼を持つドラゴンは無力。頭から叩き潰されて粉砕された。
「ロキで、ダイレクトアタック!」
「手札のバトルフェーダーの効果発動。このカードを特殊召喚し、バトルフェイズを終了する!」
チクタクチクタク。時計の針や、メトロノームのように正確に刻まれる針の音。見れば綺羅のフィールドのモンスターは全て、動きがぎこちなくなり、鈍くなっていき、やがて止まってしまった。
「やはり、防御カードを持っていましたね」
「まぁな」
「でも、それを切らせたことが重要です。これで、兄さんの守り札はあとどれだけありますか?」
「さてね」
肩をすくめる和輝。余裕ぶっているが、フェイクだと綺羅は見た。
「メインフェイズ2に入り、極星宝ナグルファルを発動します」
綺羅がカードを発動した瞬間、彼女のフィールドに、とてつもなく大きな帆船が現れた。
ナグルファル。北欧神話に登場する、巨人や死者が神々の国アースガルズに攻め込むための巨大な船。
「ナグルファルの効果発動! 一ターンに一度、ゲームから除外されている私の極星モンスター一体を、墓地か手札に戻すことができます! 私はグルファクシを墓地に戻します。カードを一枚伏せて、ターン終了!」
綺羅は、努めて声を張り上げて宣言した。デュエルの展開で、彼女もまた高揚してきているのだ。
強欲で貪欲な壺:通常魔法
このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。(1):自分のデッキの上からカード10枚を裏側表示で除外して発動できる。自分はデッキから2枚ドローする。
極星霊リョースアールヴ 光属性 ☆4 魔法使い族:効果
ATK1400 DEF1200
このカードが召喚に成功した時、このカード以外の自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動する事ができる。選択したモンスターのレベル以下の「極星」と名のついたモンスター1体を手札から特殊召喚する。
極星霊テッグアールヴ 闇属性 ☆5 魔法使い族:チューナー
ATK1400 DEF1600
このカードが召喚に成功した時、自分の墓地に存在する「極星」と名のついたモンスター1体を選択して手札に加える事ができる。
極神皇ロキ 闇属性 ☆10 魔法使い族:シンクロ
ATK3300 DEF3000
「極星霊」と名のついたチューナー+チューナー以外のモンスター2体以上
1ターンに1度、自分のバトルフェイズ中に相手が魔法・罠カードを発動した時、その発動を無効にし破壊する事ができる。フィールド上に表側表示で存在するこのカードが相手によって破壊され墓地へ送られた場合、そのターンのエンドフェイズ時に自分の墓地に存在する「極星霊」と名のついたチューナー1体をゲームから除外する事で、このカードを墓地から特殊召喚する。この効果で特殊召喚に成功した時、自分の墓地に存在する罠カード1枚を選択して手札に加える事ができる。
スキル・サクセサー:通常罠
自分フィールド上のモンスター1体を選択して発動できる。選択したモンスターの攻撃力はエンドフェイズ時まで400ポイントアップする。また、墓地のこのカードをゲームから除外し、自分フィールド上のモンスター1体を選択して発動できる。選択した自分のモンスターの攻撃力はエンドフェイズ時まで800ポイントアップする。この効果はこのカードが墓地へ送られたターンには発動できず、自分のターンにのみ発動できる。
バトルフェーダー 闇属性 ☆1 悪魔族:効果
ATK0 DEF0
(1):相手モンスターの直接攻撃宣言時に発動できる。このカードを手札から特殊召喚し、その後バトルフェイズを終了する。この効果で特殊召喚したこのカードは、フィールドから離れた場合に除外される。
極星宝ナグルファル:永続魔法
(1):1ターンに1度、ゲームから除外されている「極星」モンスター1体を対象に発動できる。対象カードを墓地に戻すか手札に加える。(2):墓地のこのカードをゲームから除外し発動できる。墓地の「極星」または「極神」モンスター1体を効果を無効にして特殊召喚する。
和輝LP3700→3600手札4枚
綺羅LP4800手札1枚
「俺のターンだ、ドロー」
ドローカードを確認し、和輝は綺羅のフィールドを見た。
極神皇トール、極神皇ロキ。
二体とも強力なモンスターだ。しかも自己再生能力付き。自己再生のための燃料であるモンスターも、ナグルファルがいれば再供給可能だ。
厄介な布陣だ。しかも、三極神最後の一体がまだ出てきていない。今、自分は確実に追い込まれいてる。
よくぞここまで、と思う。綺羅は綺羅なりに、必死に腕を磨いてきたのだ。和輝が知らないうちに。
置いて行かれたくないという思いが伝わってくる。
そんなつもりはなかったが、綺羅にとってはそうではなかったのだ。
「だが、俺だって簡単に背中を掴まれるわけにはいかないな。墓地の置換融合の効果発動。このカードを除外し、ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴンをエクストラデッキに戻して、一枚ドロー。
調和の宝札発動。手札のガード・オブ・フレムベルを捨てて、二枚ドロー」
とりあえず現状、不要なカードはなくなった。すでに綺羅の布陣を覆す手段はある。後は、それを実行するだけだ。
「マジシャンズ・ロッドを召喚し、効果発動。デッキから黒の魔導陣を手札に加え、発動。発動時の効果、デッキトップから三枚めくり、その中からブラック・マジシャンのテキストを持つカードを一枚、手札に加える。俺は今めくった三枚のうち、条件に当てはまった
そしてここで、永遠の魂の効果発動! 墓地のブラック・マジシャンを特殊召喚! そしてこの瞬間、黒の魔導陣の効果が発動! トールを除外する!」
「ッ! 除外!?」
蜃気楼のように消えていく極神皇トールを見て、狼狽える様に目を見開いた綺羅に対して、口角を吊り上げる笑みで和輝は応じた。
「破壊に対しては再生できても、除外はそうはいかねぇ、だよな!?」
「その、通りです。ですがナグルファルがある限り、たとえ除外しても帰還は可能です」
「それでもフィールドに直接ってわけじゃない。そしてナグルファルの効果を使うなら、再生機構の各極星チューナーは墓地に戻すことはできない。だよな?」
図星を刺されて、綺羅は沈黙した。義妹の沈黙を肯定と捉えた和輝は、さらに攻め入るべく前に一歩踏み出した。和輝の気迫に、観客もまた気圧された。
「ここで、ペンデュラム召喚だ! 異界の門を通り、来たれ俺のモンスターたち! EXデッキからオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンを、手札からライトロード・アサシンライデンをP召喚!」
和輝の頭上、展開される門を通り、現れるは
「レベル1のバトルフェーダーとレベル3のマジシャンズ・ロッドに、レベル4のライトロード・アサシン ライデンをチューニング!」
S召喚。緑の輪、白い光星、それらを貫く光の道。あたりに満ちた光の向こうから、新たな力が現出する。
「集いし
光の向こうから、星屑のような白い光を振り零して現れたのは、スターダスト・ドラゴンに酷似したモンスター。オリジナルにはないラインの入った、スターダスト・ドラゴンの亜種。
「猪突の魔術師のP効果発動! オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンの攻撃力を700アップ!
バトルだ! オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンで極神皇ロキに攻撃!」
「オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンで攻撃!?」
綺羅は驚いて目をまた見開いてしまった。バンプアップしたとはいえ、オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンの攻撃力は3200止まり。攻撃力3300の極神皇ロキには敵わない。
自爆特攻? そんなはずがない。兄の目的は何か―――――
「あ」
失念していた。
「待っ」
もう遅い。すでにバトルは成立している。そのことを示すように、和輝の声が飛んだ。
「ダメージステップに、墓地のスキル・サクセサーの効果発動! このカードを除外して、オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンの攻撃力を800アップ!」
攻撃力4000。ロキを超えた数値をたたき出した。
螺旋を描く炎が
「く……! 戦闘ダメージの倍加!」
「スターダストでダイレクトアタック!」
和輝に容赦はない。決まるならこのターンで決める。三極神最後の一体をお披露目できないのはお前の未熟だ俺は知らん。そう言いたげな兄。
まだです。心が叫ぶ。ここで終わるのは嫌だと。
「リバースカードオープン! ドレインシールド!」
綺羅の伏せカードが翻ると同時、彼女の前面に、彼女を守るように薄緑色のヴェールが出現。閃珖竜スターダストの一撃を優しく受け止め、ダメージを治癒に変換。癒しの雨として綺羅に降り注いだ。
「防いだか。だがまだ俺のバトルフェイズは終了していないぜ。ブラック・マジシャンでダイレクトアタック! ダメージステップに、手札から黒魔導強化を発動! 攻撃力を1000アップ!」
綺羅の華奢な体に叩き込まれる黒い稲妻。光と音の明滅に悲鳴を上げそうになるが、何とかこらえた。あまり格好悪い姿や声ばかり見せてもいられない。
「これはこれでターンエンドだ」
「ではこの瞬間、墓地のテッグアールヴを除外し、極神皇ロキを蘇生! その際の効果で、墓地のドレインシールドを手札に加えます!」
復活する極神皇ロキ。相変わらずこちらを嘲笑するような顔だが、和輝は無視。それよりも防御カードがまた綺羅の手札に加わったことの方が問題だ。
ダブル・アップ・チャンスがあれば問題はないのだが、そんな都合のいい展開はあまり期待できまい。
調和の宝札:通常魔法
手札から攻撃力1000以下のドラゴン族チューナー1体を捨てて発動できる。デッキからカードを2枚ドローする。
黒の魔導陣:永続魔法
「黒の魔導陣」の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。(1):このカードの発動時の効果処理として、自分のデッキの上からカードを3枚確認する。その中に、「ブラック・マジシャン」のカード名が記された魔法・罠カードまたは「ブラック・マジシャン」があった場合、その1枚を相手に見せて手札に加える事ができる。残りのカードは好きな順番でデッキの上に戻す。(2):自分フィールドに「ブラック・マジシャン」が召喚・特殊召喚された場合、相手フィールドのカード1枚を対象として発動できる。そのカードを除外する。
ライトロード・アサシン ライデン 光属性 ☆4 戦士族:チューナー
ATK1700 DEF1000
自分のメインフェイズ時に発動できる。自分のデッキの上からカードを2枚墓地へ送る。この効果で墓地へ送ったカードの中に「ライトロード」と名のついたモンスターがあった場合、このカードの攻撃力は相手のエンドフェイズ時まで200ポイントアップする。「ライトロード・アサシン ライデン」のこの効果は1ターンに1度しか使用できない。また、自分のエンドフェイズ毎に発動する。自分のデッキの上からカードを2枚墓地へ送る。
閃珖竜 スターダスト 光属性 ☆8 ドラゴン族:シンクロ
ATK2500 DEF2000
チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上
1ターンに1度、自分フィールド上に表側表示で存在するカード1枚を選択して発動できる。選択したカードは、このターンに1度だけ戦闘及びカードの効果では破壊されない。この効果は相手ターンでも発動できる。
黒魔導強化:速攻魔法
(1):お互いのフィールド・墓地の「ブラック・マジシャン」「ブラック・マジシャン・ガール」の数によって以下の効果を適用する。●1体以上:フィールドの魔法使い族・闇属性モンスター1体を選び、その攻撃力をターン終了時まで1000アップする。●2体以上:このターン、自分の魔法・罠カードの効果の発動に対して、相手は魔法・罠・モンスターの効果を発動できず、自分フィールドの魔法・罠カードは相手の効果では破壊されない。●3体以上:自分フィールドの魔法使い族・闇属性モンスターはターン終了時まで相手の効果を受けない。
ドレインシールド:通常罠
(1):相手モンスターの攻撃宣言時、攻撃モンスター1体を対象として発動できる。その攻撃モンスターの攻撃を無効にし、そのモンスターの攻撃力分だけ自分はLPを回復する。
和輝LP3600手札4枚
綺羅LP4800→3400→5800→2300手札2枚
「私のターンです、ドロー!」
ライフもだいぶ厳しくなってきた。だが
自己嫌悪の闇が忍び寄ってくる。振り払うようにプレイを続けた。
「カードを一枚セット! ハーピィの羽帚を発動! 兄さんの魔法、罠を全て破壊します!」
「させるか! スターダストの効果発動! 永遠の魂の破壊を防ぐ!」
即座に動く和輝。永遠の魂は何度でもブラック・マジシャンを蘇生できる強力なカードだが、半面、このカードが破壊されると現状の和輝の戦線は一気に崩壊する。ゆえにスターダストで守った。
だが、これで
「これで、スターダストは自分を守ることはできません! さらに、兄さんの場に伏せカードがない以上、私は恐れることなく攻められます!」
「確かに、お前の言う通りだ。だがな、破壊されたマジシャンズ・プロテクションの効果が発動する。墓地から
和輝もただでは倒れなかった。破壊されたカードを駆使して、反撃の手段を確保。その手腕に舌を巻きながらも、綺羅は好都合だと少し思った。
「兄さんの手札が増えたのは良いことです。このカードの恩恵が、兄さんには少なくなりますから。希望の宝札を発動。互いに手札が六枚になるよう調整されます」
「ッ! それは!」
和輝は気付いていた。今綺羅が発動した、最強のドローブーストカード。あれは、綺羅がこのデュエルの最初から持っていた手札だ。今までずっと使っていなかったので、てっきり手札に腐っていると思っていた。
「このタイミングまで、温存していたのか」
「使うタイミングがなかったというのもありますけどね」
苦い表情の和輝に対して、微笑する綺羅。兄妹の対照的な表情。性別も表情の質も違うのに、どこか似ていると思えるのは血の繋がりだけが
「ナグルファルの効果で、トールを墓地に戻します。そして死者蘇生を発動! 私の墓地から極星魔嬢アングルボダを特殊召喚します!」
再び現れる、黒衣を纏った妖艶な美女。世界に弓引く怪物を生み出した忌むべき巨人。
「トールじゃなくて、アングルボダを?」
綺羅の意図が読めず、和輝は訝しげな表情を浮かべた。
「アングルボダの効果は、まだすべてを見せたわけではありません。アングルボダの効果! デッキから極星霊ビュグヴィルを墓地に送り、レベルを3下げます。さらにこの瞬間、墓地に送られたビュグヴィルの効果により、デッキから極星カードを一枚、手札に加えることができます。私は極星宝メギンギョルズを手札に加えます」
「墓地に送られるだけで極星をサーチか。魔法、罠もありとか、拡張性に乏しい極星じゃなかったら許されない効果だな」
苦笑する和輝。だが状況は理解している。
今、綺羅の手札に加わったのは、ダイレクトアタックを封じる代わりに、極星か極神モンスターの攻撃力を倍にする罠カード。発動し、極神を強化、和輝のモンスターに攻撃すれば、それでゲームエンドになりかねない。
それに、アングルボダはシンクロチューナー。わざわざレベルを下げたからには、新たなモンスターを召喚、次なるS召喚につなげるのは必至。
「レスキューラビットを召喚し、効果発動! このカードをゲームから除外し、デッキから二体のデュナミス・ヴァルキリアを特殊召喚します!」
純白の翼を翻し、鎧を身にまとった戦乙女が二体、現れる。合計レベル10。その様に、まさかと和輝が目を見開いた。
「レベル10、いや、だがチューナーは極星天じゃないだろう」
和輝の問いかけに、綺羅はふふんと鼻を鳴らした。
「残念でしたね、兄さん。アングルボダはほかの極神Sモンスターの素材にできるのです。つまり、各極星チューナーの代わりになるのです。私はレベル4のデュナミス・ヴァルキリア二体に、レベル2となった極星魔嬢アングルボダをチューニング!」
レベル10のS召喚。二つの緑の輪、その輪を潜った二体の戦乙女。そして光の道が走り、次の瞬間、雲間から差し込む日差しのごとき光が辺りに満ちる。
「星界の扉開く時、英知と戦の大神が、魔と技を率いて降臨せん。その力を振るい、世界を平定せよ! シンクロ召喚、極神聖帝オーディン!」
光を従えて、現れたのは白髪、白のひげを持つ老人の姿をした神。
赤い戦衣に身を包み、厳粛にして重厚な雰囲気を醸し出す、強大な力を持った極神。手にしたのは必滅の槍、グングニル。
「まだです! 墓地のアングルボダの効果を発動! 墓地のこのカードをゲームから除外して、私の墓地から極神モンスター一体を特殊召喚できます! 蘇って下さい、トール!」
雷が降り注ぎ、その帳の向こうから姿を現したトール。魔鎚を振るい、再び戦場に参上した歓喜ゆえか、咆哮を上げた。
超重量級のモンスター三体が並び、観客がヒートアップ。観客を味方につけた綺羅に対して、和輝は兄として誇らしいような、対戦相手としてアウェイ感を味わうような、そんな微妙な心境だった。
「これが、今の私の最大戦力です」
「本当に、大したもんだな、綺羅。成長目覚ましい」
「兄さんに追いつくためです」
綺羅の声には確かな決意が宿っていた。誰にも馬鹿にできぬ、気高い思いがあった。
和輝は微笑した。義妹の覚悟、決意、そういった人が決して侮ってはならない力を目にしながら、
「じゃあ、来い、綺羅。お前の力を見せてみろ。俺に――――ぶつけてこい」
「はい!」
兄の微笑。綺羅はこみあげてくる思いをかみしめるように頷いて、大きく右手を振るった。
「オーディンの効果を発動し、自身に魔法、罠に対する耐性を付与します。
バトルです! まずはトールでオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンを攻撃!」
よく通る声で、綺羅は宣言する。綺羅の命令を受けたトールが一歩を踏みこみ、手にした魔鎚を振り下ろす。
雷を伴った鉄槌は、轟音を振り上げてオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンを粉砕した。
落雷のごとき轟音と閃光が店内を蹂躙する。観客が短い悲鳴を上げた。
「く……!」
目も眩む閃光を前にしても、和輝は一切ひるまない。ただ、倒された己の戦力を惜しむだけだ。
「次です! ロキで覚醒の魔導剣士を、オーディンで閃珖竜スターダストを攻撃です!」
ここぞとばかりに攻め立てる綺羅。ロキの“指鉄砲”が守備態勢をとっていた覚醒の魔導剣士を撃ち貫き、続いてオーディンが動いた。
静かな体勢から振るわれる、
「くそ……!」
「バトルを終了します。カードを一枚伏せて、ターン終了です!」
「なら、永遠の魂の効果で、墓地からブラック・マジシャンを復活させる」
ハーピィの羽根帚:通常魔法
(1):相手フィールドの魔法・罠カードを全て破壊する。
マジシャンズ・プロテクション:永続罠
(1):自分フィールドに魔法使い族モンスターが存在する限り、自分が受ける全てのダメージは半分になる。(2):このカードがフィールドから墓地へ送られた場合、自分の墓地の魔法使い族モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。
希望の宝札:通常魔法
(1):互いのプレイヤーは手札が6枚になるようにカードをドロー、または手札のカードを捨てる。このカードを発動するターン、自分は他のカード効果でデッキからカードをドローできない。
死者蘇生:通常魔法
(1):自分または相手の墓地のモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを自分フィールドに特殊召喚する。
極星魔嬢アングルボダ 闇属性 ☆5 魔法使い族:シンクロチューナー
ATK2200 DEF2000
チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上
このカード名の(3)の効果は1ターンに1度しか発動できない。(1):このカードは「極星」と名のついたチューナーの代わりにS素材とする事ができる。(2):1ターンに1度、デッキから「極星」モンスター1体を墓地へ送り、以下の効果から1つを選択して発動できる。●墓地へ送ったそのモンスターのレベル分だけ、このカードのレベルを上げる。●墓地へ送ったそのモンスターのレベル分だけ、このカードのレベルを下げる。(3):このカードをゲームから除外して発動する。自分の墓地の「極神」モンスター1体を特殊召喚する。
極星霊ビュグヴィル 光属性 ☆3 魔法使い族:チューナー
攻撃力1300 守備力1000
このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか発動できない。(1):このカードの召喚に成功した場合に発動できる。自分の墓地の「極星」モンスター1体をゲームから除外し、除外したモンスター以下のレベルの「極星」モンスター1体を手札に加える。(2):このカードが墓地に送られた場合に発動できる。デッキから「極星」カード1枚を手札に加える。
レスキューラビット 地属性 ☆4 獣族:効果
「レスキューラビット」の効果は1ターンに1度しか使用できない。このカードはデッキから特殊召喚できない。(1):フィールドのこのカードを除外して発動できる。デッキからレベル4以下の同名の通常モンスター2体を特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターはエンドフェイズに破壊される。
デュナミス・ヴァルキリア 光属性 ☆4 天使族:通常モンスター
ATK1800 DEF1050
極神聖帝オーディン 光属性 ☆10 天使族:シンクロ
ATK4000 DEF3500
「極星天」と名のついたチューナー+チューナー以外のモンスター2体以上
1ターンに1度、自分のメインフェイズ時に発動する事ができる。このカードはエンドフェイズ時まで魔法・罠カードの効果を受けない。また、フィールド上に表側表示で存在するこのカードが相手によって破壊され墓地へ送られた場合、そのターンのエンドフェイズ時に自分の墓地に存在する「極星天」と名のついたチューナー1体をゲームから除外する事で、このカードを墓地から特殊召喚する。この効果で特殊召喚に成功した時、自分のデッキからカードを1枚ドローする事ができる。
和輝LP3600→2600→1100手札7枚
綺羅LP2300手札4枚
「俺のターンだ、ドロー」
自分の残りライフを確認し、綺羅の方を見据える和輝。視線は義妹から、彼女が従える三体のモンスターに向かう。
極神皇トール、極神皇ロキ、そして、極神聖帝オーディン。
「綺羅、本当にやるな、お前。凄いぞ」
微笑を浮かべる和輝。その口から紡がれたのは、まぎれもない賞賛の言葉。
デュエルを通して伝わってきたもの。和輝は、それに対する返答を今告げる。
「安心しろ、綺羅。
「ッ!」
兄の言葉に、綺羅は泣きそうになった。
嬉しかった。兄が自分を認めてくれたのだと。先を行くだけでなく、振り返って、こちらが遅れないように気遣ってくれているのだと、そう分かった。
「ジェネックス杯。参加したいならすればいいさ。俺は止めない。お前の好きなようにするといい。きつい言葉を言って悪かった」
安心感が綺羅の胸を満たした。和輝の言葉が素直に嬉しい。観客も、妹を認め、受け入れる兄の度量に感服したように拍手をしていた。
美しい光景だ。頑張った妹がついに認められる。素晴らしい。
ただし、次の和輝の言葉がなければ、だったが。
「だが綺羅、俺は負けず嫌いなんだ。この勝負の結果まで渡すつもりはない。ここで、勝たせてもらう」
「え?」
ここでそれ言う? そういわんばかりの観客の困惑を完全に無視して、和輝は己の戦術を展開しだした。
「永遠の魂の効果で、二体目のブラック・マジシャンを手札から特殊召喚する。二体のブラック・マジシャンでオーバーレイ! 出でよ幻想の黒魔導師!
幻想の黒魔導師の効果発動! ORUを一つ使い、デッキから三枚目のブラック・マジシャンを特殊召喚!
ここで、マジシャンズ・ロッドを召喚し、効果発動! デッキからティマイオスの眼を手札に加える。さらにトランスターン発動! マジシャンズ・ロッドをリリースし、デッキから召喚僧サモンプリーストを特殊召喚!
サモンプリーストの効果発動! 手札のイリュージョン・マジックを捨て、デッキからライトロード・アサシンライデンを特殊召喚!」
「え、え、え?」
目まぐるしく展開していく和輝の盤面に、綺羅は完全に対応できなかった。和輝に認められて、ジェネックス杯への参加も許してもらえた。そのことで弛緩してしまった心は油断してしまい、戦いから降りてしまった。
だから対応できない。緩んだ精神を再び引き締めることができない。
「レベル4のサモンプリーストに、同じくレベル4のライデンをチューニング! 深き闇より現れろ! ダークエンド・ドラゴン!
そして、ティマイオスの眼をブラック・マジシャンに対して発動! 融合召喚! 現れろ
次々に現れるモンスターたち。全てが殺意満点。綺羅の布陣を攻略する気満々だ。
「え、えぇ!?」
「ダークエンド・ドラゴンの効果発動! 攻守を500下げ、オーディンを墓地に送る!」
和輝のフィールド、本来ある頭部の顔に加えて、腹部にも顔のある闇のドラゴン。その腹部の口か開かれ、そこから闇が濁流となってオーディンに押し寄せた。
闇の本流に飲み込まれるオーディン。これで一体。
「バトルフェイズに入る! そしてこの瞬間、手札の封魔の矢を発動! 綺羅の伏せカードを封印する!」
「あっ!」
綺羅のフィールド、彼女の足元に伏せられていた二枚のカードに、無数の矢が突き刺さり、地面に縫い付けた。これでは発動できない。
伏せカードは和輝も予測していると負い、ドレインシールドとメギンギョルズ。どう対処するのかと思ったが、正面から封印された。
「これで怖いものはない。呪符竜でトールを攻撃!」
バトル開始。互いのモンスターの攻撃力は同じ3500、激突は一瞬。
「この瞬間、呪符竜の効果発動! 俺の墓地から、ブラック・マジシャンを復活させる!」
もう何度目だろうか。墓地より復活する黒衣の魔術師。にやりと不敵に笑い、綺羅に向かって気障ったらしく一礼して見せた。
「ブラック・マジシャンで攻撃! この瞬間、幻想の黒魔導師の効果発動! 極神皇ロキを除外する!」
三体目。全てのモンスターをはがされた綺羅。伏せカードは動かず、身を守るすべはない。
清々しいまでの逆転の有様に、乾いた笑いさえ浮かんだ。
「うわぁ……、あそこから
「まだまだ甘いな、綺羅。これからも精進だ。ブラック・マジシャンでダイレクトアタック!」
黒い稲妻が、無人となった綺羅のフィールドを走り、彼女自身に直撃した。
「きゃあああああああ!」
ライフが0になる。いっそ鮮やかなほどの、和輝の逆転勝利だった。
幻想の黒魔導師 闇属性 ランク7 魔法使い族:エクシーズ
ATK2500 DEF2100
レベル7モンスター×2
このカードは自分フィールドのランク6の魔法使い族Xモンスターの上に重ねてX召喚する事もできる。「幻想の黒魔導師」の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。(1):1ターンに1度、このカードのX素材を1つ取り除いて発動できる。手札・デッキから魔法使い族の通常モンスター1体を特殊召喚する。(2):魔法使い族の通常モンスターの攻撃宣言時、相手フィールドのカード1枚を対象として発動できる。そのカードを除外する。
トランスターン:通常魔法
自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を墓地へ送って発動できる。墓地へ送ったモンスターと種族・属性が同じでレベルが1つ高いモンスター1体をデッキから特殊召喚する。「トランスターン」は1ターンに1枚しか発動できない。
召喚僧サモンプリースト 闇属性 ☆4 魔法使い族:効果
ATK800 DEF1600
(1):このカードが召喚・反転召喚に成功した場合に発動する。このカードを守備表示にする。(2):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、このカードはリリースできない。(3):1ターンに1度、手札から魔法カード1枚を捨てて発動できる。デッキからレベル4モンスター1体を特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターはこのターン攻撃できない。
ライトロード・アサシン ライデン 光属性 ☆4 戦士族:チューナー
ATK1700 DEF1000
自分のメインフェイズ時に発動できる。自分のデッキの上からカードを2枚墓地へ送る。この効果で墓地へ送ったカードの中に「ライトロード」と名のついたモンスターがあった場合、このカードの攻撃力は相手のエンドフェイズ時まで200ポイントアップする。「ライトロード・アサシン ライデン」のこの効果は1ターンに1度しか使用できない。また、自分のエンドフェイズ毎に発動する。自分のデッキの上からカードを2枚墓地へ送る。
ダークエンド・ドラゴン 闇属性 ☆8 ドラゴン族:シンクロ
ATK2600 DEF2100
チューナー+チューナー以外の闇属性モンスター1体以上
1ターンに1度、このカードの攻撃力・守備力を500ポイントダウンし、相手フィールド上に存在するモンスター1体を墓地へ送る事ができる。
ティマイオスの眼:通常魔法
このカード名はルール上「伝説の竜 ティマイオス」としても扱う。このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。(1):自分フィールドの「ブラック・マジシャン」モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを融合素材として墓地へ送り、そのカード名が融合素材として記されている融合モンスター1体をEXデッキから融合召喚する。
呪符竜 闇属性 ☆8 ドラゴン族:融合
ATK2900 DEF2500
「ブラック・マジシャン」+ドラゴン族モンスター
このカードは上記カードを融合素材にした融合召喚または「ティマイオスの眼」の効果でのみ特殊召喚できる。(1):このカードが特殊召喚に成功した場合、自分・相手の墓地の魔法カードを任意の数だけ対象として発動する。そのカードを除外し、このカードの攻撃力はその除外したカードの数×100アップする。(2):このカードが破壊された場合、自分の墓地の魔法使い族モンスター1体を対象として発動できる。その魔法使い族モンスターを特殊召喚する。
封魔の矢:速攻魔法
このカードの発動に対して魔法・罠・モンスターの効果は発動できない。(1):自分または相手のバトルフェイズ開始時に発動できる。このカードの発動後、ターン終了時までお互いに魔法・罠カードの効果を発動できない。
綺羅LP0
店内はブーイングの嵐だった。あそこまで綺羅勝利の流れからの理不尽な逆転勝利ならば当然だろう。
完全に
不意に悪役顔がなくなり、和輝はしりもちをついてしまった綺羅に近づいた。
「まぁ結果はこんなだが、さっき言ったことは嘘じゃない。お前の気持ちは伝わった。恐れも、不安もな。
もう一度言うぞ、安心しろ、
手を差し伸べながら、和輝は言う。綺羅は一瞬頬を朱に染めたが、ふてくされたように頬を膨らませてそっぽを向いた。
「ありゃ?」
「知りません。置いて行かれたくないなんて、子供っぽいことを考えてなんかいません」
自分で立ち上がる綺羅。そのままくるりと背を向けて、さっさと行ってしまう。
だから和輝には見えなかった。背を向けた綺羅が、嬉し気に微笑しているのを。
「ありがとうございます、兄さん」
そして、確かに呟いた義妹の感謝の言葉も、和輝の耳には届かなかった。
ともあれ、岡崎兄妹の問題はこれで解決しただろう。綺羅は望み通り、ジェネックス杯に参加できるし、和輝もまた、神々の戦争については話さずにすんだ。
また、綺羅が東京にやってくる以上、和輝は、絶対に東京を崩壊させないという、断固たる決意もできた。
決意、これができたのは大きい。モチベーションが、負けられないという思いがまるで違うからだ。
ジェネックス杯は目前だ。大きな戦いは、すぐ近くだった。
◆◆◆◆◆◆
最後に、もう一つだけ、語ろう。
イギリス。ウェールズの森。
その森の入り口には、今一人の男と、一人の女性、そして少女が一人住んでいた。
正確にはあと一柱、人ならざる神がいたが、彼はあまり姿を現さなかった。もう、保護者面して少女を庇護下に置く必要はないと考えているからだ。
元々、森入り口の家には、カウンセラーでもあり、プロデュエリストである男、クリノ・マクベス一人が住んでいた。
彼こそは和輝の師匠にしてカウンセラー。彼の心を救い、デュエルの手ほどきを成した人物だった。
彼の許には、居候が二人。
元々は、このウェールズの森奥深くに住んでいた一族の末裔だ。
かつて、ケルト神話の光の神、ルーが残した血筋。神々の戦争の際、自分と契約を交わすための、神の策略、その一手。
その一族は、同じく神々の戦争の参加者、バロールによって壊滅した。
だが、生き残ったルーの契約者の少女と、その従者の女性は、逃げ延び、和輝の協力を得て、ついにルーと共にバロールを打倒した。
そして、少女は己の実力を高めるため、そして身元引受人を願い出るため、和輝の紹介もあり、クリノの許に厄介になっているのであった。
少女の名はエーデルワイス・ルー・コナー。従者の女性はファティマ、といった。
デュエル終了。0になった自分のライフを見て、エーデルワイスはため息をついた。
相手はもちろん、クリノだ。彼にはどうにも勝てない。あの岡崎和輝の師匠だ。強いのは分かっていたが、まさか一度も勝てないとは。
クリノは柔和な笑みを浮かべて、
「今日はここまでにしましょう。客が来ます。君も、同席してください」
そう言って家の奥に引っ込んだクリノ。エーデルワイスも慌てて後を追った。
やがて来客がある。訪ねてきたのはいかにも英国紳士といった風貌の男。
男は、フレデリック・ウェザースプーンと名乗った。
そこから先は、語るに及ばず。
ただ、結果を言うならば、ティターン神族とクロノスの暗躍、そして、和輝の力になれるという動機から、遠く英国の地より日本に、一人の少女が光の神を共に、来日することになった。