神々の戦争   作:tuki21

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第79話:ジェネックス杯、開幕

 八月も後半になってくると、いわゆる猛暑日と呼ばれる日も少なくなる。

 しかしその日は湿度も高く、うだるような暑さだった。 

 だがその日、デュエリストにとってはいかなる暑さも無意味であろう。

 夏の猛暑も吹き飛ばす、プロアマ合同の一大イベントが開催されるからだ。

 ジェネックス杯。

 数年に一度開催される、デュエルモンスターズ七大大会の一つ。

 今回の趣向は東京都内全土を使った、盛大なバトルロイヤル。

 一日目の朝十時から始まり、三日目の十八時終了。参加者のデュエルディスクに、勝敗時のデュエルの内容、対戦相手の力量によって変化するDP(デュエルポイント)が加算され、三日間の戦いで、最も保有ポイントの高いデュエリストが優勝となる。

 そして、優勝賞品と、賞金。さらに、デュエルキング、六道天(りくどうたかし)との、エキシビジョンマッチの権利を得る。

 バトルロイヤルという形式上、アマチュアもプロを出し抜いて優勝できる可能性があるため、参加者は増えに増え、参加人数は過去のアマチュア参加型の大会を含めても、歴代トップ。

 皆が興奮と期待で胸を膨らませながら、東京の地を訪れた。

 その裏で蠢く、邪悪の思惑を知りもせずに。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 そして、この少年は、デュエリストとして己の力がどこまで通用するのか試すため、純粋に、多くの人々とデュエルで通じ合える喜びを感じるため、そして、裏で潜む邪悪を知り、それに立ち向かうためにジェネックス杯へと向かうのだった。

 電車の中でも、目立つ少年だった。

 精悍な顔つき、茶色がかった黒い瞳、中肉中背、白と黒のリバーシブルジャケットを、白の面を上にして着込み、これといった装飾品はない。

 手提げ鞄を足元において、静かに電車内の椅子に座っている。

 一見するとただの少年だ。それなりに整った顔立ちで、真面目な顔をしていれば二枚目だが、それでもほかの乗客の視線を集めるほどではない。

 彼が注目を集める原因は、髪の色だった。

 雪のように、白い。そこだけ老齢としており、若い外見と不釣り合いだ。

 白髪の少年。矛盾するその在り方ゆえに、彼は人々の注目を集めている。もっとも、そんな視線はどこ吹く風と、少年は窓の外の景色をただ眺めていた。

 言うまでもなく、岡崎和輝(おかざきかずき)であった。

 和輝は周囲の視線など意に介さず、考えていた。

 ジェネックス杯。その裏で蠢動する邪悪。即ち、ギリシャ神話の神、クロノスと彼に率いられる封じられたはずの邪悪たち、ティターン神族。

 神々の戦争に参加して以来、かつてない激戦になるだろう。そのためにデッキも調整してきた。また、大会規定に特にデッキ内容の変更を禁止する記載がなかったため、デッキ調整用のカードも持ってきた。

 この大会のために作り上げたデッキ。そしてそれらを補助するカードたち。

 戦力は整えた。あとは、戦うだけだ。

 

「あの、兄さん」

 

 そんな和輝に、遠慮がちに声をかけてくる少女が一人。

 和輝を兄と呼ぶ少女はこの世に一人しかいない。

 即ち、義理の妹、岡崎綺羅(きら)だった。

 綺羅はライトグリーンのワンピース姿で、ちらちらと周囲を窺っていた。勿論、兄に対する奇異の視線が気になっているのだ。

 ちなみに、中には綺羅をちらちらと見つめる男性客もいたのだが、当の本人はそんなこと、気付いてすらいなかった。

 

「その、周りの人たちなんですが……」

「気にすんなよ。てゆーか、俺が気にしてないのに、お前が気にしてどうすんだよ」

 

 苦笑して、和輝は義妹の不安を和らげるため、何でもないとアピールするように手を振った。

 ひらひら動く手。綺羅は困ったような、安心したようなあいまいな表情を浮かべて、「そうですね」と答えた。

 

「それよか、お前、デッキは調整したのか? 出場を許したからには、半端はやめろよ? やるからには全力で、最後まで諦めずに突き進め、だ」

「なんだか漫画みたいなセリフですが、問題ありません。兄さんとのデュエルの後、またデッキを調整しましたので、やれるまで、やるだけです」

 

 ぐっと両手を握って、綺羅は己のやる気を表現する。和輝は義妹の決意とやる気に、満足げに微笑した。

 綺羅は、神々の戦争について何も知らない。和輝が何かやっていて、それが重要なことなのは理解していても、聞こうとしない。聞かなくても、和輝は綺羅を独りぼっちにしないと、確信している。

 和輝は綺羅が危険にさらされることを好まない。 

 だが、義妹の全てを拘束し、彼女の精神の自由を束縛することを望まない。

 家族にだって秘密にしておきたいことはあるし、家族だから秘密にしたいこともある。だがだからと言って、家族の心に闇を落とすことは絶対に嫌だ。

 負けられない理由が一つ、増えただけだ。和輝はそう考えた。

 兄妹でとりとめのない会話を交わしていた時、和輝のスマホが音を立てた。

 

「お」

 

 LINEのメッセージを見て、和輝はにこりと笑った。

 

「? どうしました兄さん?」

「いや、何でもないよ」

 

 言いながらも笑みを消さない和輝に、綺羅は怪訝そうな表情を浮かべて首をかしげた。

 結局兄は義妹の質問をはぐらかし続けた。

 電車が止まる。目的の駅、即ち渋谷駅に着いた二人は電車を降りた。

 目的地はハチ公前、だ。理由は単純、ここで、和輝たちは友人たちと合流するつもりなのだ。

 同じく神々の戦争に参加しているクラスメイト、風間龍次(かざまりゅうじ)黒崎烈震(くろさきれっしん)と。

 冷房の効いていた車内から降り立つと、夏の熱気が顔面を叩いた。うっと綺羅が横で呻く。

 

「きつい暑さだ……」

 

 だが戦いはもっと熱くなる。確固たる確信とともに、和輝は一歩を踏み出した。

 

 

 渋谷駅のハチ公前は、ジェネックス杯参加者や旅行者、仕事人などででごった返していたが、そんな中でも烈震の巨体は目立つ。

 黒神烈震。トールの契約者。

 黒の短髪にダークグリーンの瞳。190を超える、縦にも横にも広い巨体。六月くらいまでは毎日来ていた黒のロングコートはさすがに来ておらず、黒のタンクトップの上に日焼け防止か、袖を通していないライトグリーンのジャンパーを肩に引っ掛けていた。何千年と風を受け止め続けた大木の風情。

 しばらく連絡がなかったが、変わらぬクラスメイトの姿に、和輝はかすかな安堵を得た。

 

「おーい、れっし……ん……?」

 

 だが見慣れた巨漢の首にぶら下がっているものを見て、声が尻蕾に消えていった。

 烈震は一人ではなかった。その太い首には、細くて白い腕が回されていた。

 烈震の身体にしがみつくようにして密着している少女。

 和輝も知らない少女だ。

 雪のように白い肌、そして同じ色の腰まで伸びた髪。血の結晶のように赤い双眸。朱色のチャイナドレス姿の、紅白少女。

 黙って立っていれば幻想的で儚げで、この世のものではないのではないかと錯覚させてしまう非現実感があるのだが、今は烈震に密着しているのでそんな気は全然しない。

 和輝がなぜ二の句が継げないのかは、言わずもがな、級友がいつの間にか大人の階段をすごい勢いで駆け上がっていってしまっていたからだ。

 和輝の隣で、綺羅も頬を赤く染めながら烈震の様子に見入っていた。

 だがとうの烈震はしがみついている少女についてはただのアクセサリーくらいにしか思っていないのか。周囲の視線も友人の驚愕もどこ吹く風。泰然自若とし、和輝に対して手と上げた。

 

「岡崎か。妹も一緒とはな。しかし、久しぶりだな」

「あ、ああ。久しぶりだな……」

 

 衝撃からまだ立ち直れない和輝は質問を口にできないでいた。その耳朶を、快活な笑い声が叩いた。

 

「やっぱお前も驚いたかよ、和輝。しかし、俺より硬直時間長いな」

 

 けらけら笑ってハチ公像の陰から姿を現したのは、明るい金髪の少年。

 明るい金髪、鋭い目つきの灰色の双眸、第三ボタンまで開けた水色のシャツにジーンズ姿。ニコニコ笑うがどこか孤高を保つ、金色の体毛の、餓えつつも気高さを感じさせる一匹狼の風情。

 風間龍次、伊邪那岐(いざなぎ)の契約者。

 

「龍次! もう来てたのか」

「お前らよりも一本速く、な。たまげたぜ、黒神の様子にはな」

「色々あったのだ、色々な」そう語る烈震はどこか、ここではない遠いところを眺めるような眼差しだった。そしてふと、まだ自分に引っ付いたままだった少女を引きはがし、その肩に軽く手を置いた。

小雪(シャオシュエ)、挨拶を」

「む、分かったぞ」

 

 こくりと人形のように頷いた少女は、幻想的だった外見に不釣り合いな幼さで岡崎兄妹に向かってぺこりと頭を下げた。

 

「小雪だ。くろかみの婚約者だ!」

「こ、婚約者!?」

 

 いきなりぶっ飛んだ単語が出てきて、綺羅が顔を真っ赤にしてのけぞった。和輝は妹の反応のせいか、驚きのタイミングを逃し、あんぐりと口を開けるだけにとどまった。

 

「な、夏に進む男女ってのは聞く話だが、お前はまた一段とぶっ飛んだな、烈震」と和輝。

「クラスメイト遠くに行きすぎだな」にやにや笑いの龍次。

「…………成り行きだ」仏頂面の烈震だった。

 

 ジェネックス杯開始まであと三十分。綺羅は左手首に巻いた腕時計を見て、「兄さん」と声をかけた。

 

「では、私もそろそろ移動しますね」

「いや、待て綺羅。あと少し――――」

 

 そう言った和輝の視線の先に、彼女が現れた。

 人目を惹く少女だった。事実、彼女の姿を認めた周りの人間が注目しだし、騒ぎ出した。

 

「あ、咲夜(さくや)さーん!」

 

 少女の姿を認めた和輝が声を上げ、手を振った。兄の行動に、綺羅が驚きで目を見開いた。

 少女が、和輝に気づいて笑顔で近づいてくる。

 薄茶色のポニーテール、青みがかった瞳、少女でありながら大人の女性の色香を醸し出し始めた、発育のいい身体を薄手のタンクトップとデニムのジャケットだけといった軽装で強調し、ホットパンツ姿で、美しさや可憐さよりも活動的、溌溂とした健康的な色香を発散する魅力的な少女。

 

「あ、ああああ!」

 

 その姿を確認した綺羅が大声を上げた。綺羅ほどではないが、龍次と烈震も軽く目を開いていた。

 

「やっほ。和輝君」

 

 親しげに少女が声をかけてくる。信じられない光景に綺羅の頭は真っ白になり、ただ少女の名前だけを告げた。

 

国守(くにもり)プロ!?」

 

 国守咲夜。神々の戦争の参加者。ギリシャ神話の女神、アテナの契約者。ひょんなことから和輝と知り合い、彼女の追い詰められた状況からの打破に和輝が協力したのだ。

 思えば、和輝とクロノス、ひいてはティターン神族の因縁はここから始まった。

 アテナを子供の姿にし、咲夜とアテナを配下の神を使って執拗に襲撃、心身ともに追い詰めていたのは、ほかならぬクロノスだったのだ。

 それ以来、和輝と咲夜は縁を持った。実際、ロンドンでも再会していたのだ。

 咲夜は笑顔で綺羅の方に歩みよった。

 

「初めまして。和輝君からちょくちょく話に聞いてたよ。君が綺羅ちゃんだね」

「は、はい!」

 

 近い年齢で、すでにプロとして活躍している咲夜は同年代の女子からの支持が高い。綺羅もその一人だった。というより、綺羅は基本的にミーハーなのだった。

 咲夜と対面してはしゃぐ綺羅をしり目に、龍次が和輝に囁きかけた。勿論、綺羅には聞こえないようにとの考えからだ。

 

「けど、お前よく綺羅ちゃんが参加するのを認めたよな」

 

 龍次の言いたいことは分かる。ティターン神族や幻想の中にいた怪物たちが暗躍するため、綺羅もどこで巻き込まれるかわからない。それでなくとも、戦いの激しさからバトルフィールドが崩壊すれば、東京は七年前のように阿鼻叫喚の地獄に陥るだろう。

 

「あいつが、精一杯考えて、そして本心から決めたことだ。だったら、俺は止められない」

 

 龍次はまだ何か言いたげだったが、「そういうものだろうな」という烈震の言葉に中断させられた。

 

「他者の決意を覆すことは難しい。それが本物であればなおさらな。だから――――」一端、腕にしがみついている小雪を見て、「(オレ)も、小雪を連れてきた。横浜で待っているように言ったのだがな」

「何を言うのだくろかみ。神々の戦争には脱落してしまったが、おまえの子供を産むことに変わりはない。おまえが死地に行くなら、わたしも行く。これは当たり前のことだ」

 

 さりげなく凄いことを言っているのだが、もう二人とも小雪のエキセントリックさには慣れたのでスルーした。

 やがて、咲夜との会話を終えた綺羅が和輝の許にやってきた。

 

「夢のようです! 鷹山(たかやま)さんの時といい、兄さんの謎の人脈に、凄く感謝しています! これだけでも、ジェネックス杯に参加した甲斐がありました!」

「落ち着け、綺羅。まだ大会は始まっていないんだぞ」

 

 そう言って、和輝は左手に巻いた腕時計を見た。開始二十分前。現在時刻に気づいた綺羅は咲夜をはじめ、集まった皆に向かってぺこりと一礼した。

 

「では兄さん。私は先に言っていますね」

 

 そう言って、パタパタと往来に紛れていった。これは最初に兄妹で決めたことだ。大会中は別行動。宿泊施設以外はそれぞれの判断で行動すると。

 

「いい子ね、綺羅ちゃん」

 

 ニコニコ笑顔で咲夜が言った。和輝も微笑して頷いた。

 

「ああ。あいつの前じゃ言わないけれど、俺は家族に恵まれたよ。間違いなく」

「……しかし、話には聞いてたけど。本当に国守プロも神々の戦争の参加者だったんだな」

 

 龍次は言った。ここで、和輝は皆をそれぞれ紹介した。

 実は、和輝が神々の戦争を通して出会った人々がほとんど一堂に会するのはこれが初めてなのだ。

 ただし、今日この場で集合するメンバーについてはあらかじめ知らされている。

 全ては胡散臭くも正義感溢れる紳士、フレデリック・ウェザースプーンの采配だ。彼は邪悪に立ち向かうための善の力を集め、今ここで大いなる悪に立ち向かおうとしている。

 

「やぁ、そろっているね」

 

 和輝たちの前に、その渦中の人物が現れた。

 撫でつけられた灰色の髪に落ち着きのあるディープブルーの瞳、落ち着いてきたとはいえまだまだ暑くて湿度も高い日本の夏にあって、きっちりと隙のない燕尾服姿。左目には片眼鏡(モノクル)、手にはステッキ。非の打ち所のない英国紳士にして、浮かべる微笑の底知れなさから、どうしても胡散臭さを感じてしまう正義の人にして、北欧の神、ヘイムダルの契約者。

 フレデリック・ウェザースプーン。

 

「初めまして、の人はいないね。では久しぶりだ、諸君。いよいよ戦いの時だよ」

 

 にこりと笑うフレデリックは一人ではなかった。彼は背後に少女を二人、控えさせていた。

 どちらも、和輝の知っている少女だった。ただし、一人とは会話を交わしたことはなかった。そしてもう一人は思い出深い。

 まず一人がフレデリックから紹介される前に一歩前に出た。

 背中の半ばまで伸ばしたややピンク色に近い紫の髪、優美な笑みを口元に浮かべるのは、凛とした印象を与え、可憐さよりも淑女としての華やかな美しさを感じさせる。

 サファイアをはめ込んだがごとき青の瞳、透き通るように白い肌を覆っているのは白地の長袖のブラウスに膝のあたりまでの長さの青いスカート。首から下げた銀の十字架と、両耳を彩るダイヤのピアスが装飾だった。

 派手さはない。むしろ、そんなものがなくとも私は輝くのだと、全身で主張するような気位の高さを感じさせた。

 少女はスカートの端を指でつまんで、行儀よく一礼した。

 

「お初お目にかかる方も多いですわね。わたくしはカトレア・ラインツェルン。以後お見知りおきを。もっとも――――」

 

 少女、カトレアは不敵に笑う。絶対の自信を漲らせた笑みだが、この少女がすると傲慢に見えない。

 

「わたくしと肩を並べて戦える実力があれば、ですが」

 

 挑戦的にして挑発的とも取れるセリフだったが、それで激昂するものはここにはいない。逆に、咲夜が向日葵のような笑顔を浮かべて、「ええ、こちらこそよろしくね」と右手を差し出したことで、かえって戸惑っているようだった。

 そして、カトレアの陰に隠れるようにしていた少女が、和輝の許に走り寄ってきた。

 

「和輝さん!」

 

 再会の喜びと親愛の情をにじませた声音。和輝は少女の翔太に気づいて声を上げた。

 

「エーデルさん!」

 

 名前を呼ばれた少女は、緊張と暑さと高揚からか、頬を上気させて頷いた。

 和輝より一つ年下。ふんわりとした柔らかそうな金髪に春の日差しのような金色の瞳。全体的に柔和な雰囲気で、野原に咲く可憐な花のよう。かつては一昔前の貴族風ドレスだったが、それで日本の夏はつらいので、薄く青みがかったブラウスと、水色のロングスカート。カトレアと違ってアクセサリーなどはない。

 カトレアを豪奢な白鳥とするならば、彼女は野に咲き、懸命に生きながらも人々に笑みを与える健気で可憐な野花か。装飾のなさが、より一層彼女の素朴さと可憐な魅力を引き立てている。

 エーデルワイス・ルー・コナー。ケルト神話の神、ルーと契約を交わした神々の戦争の参加者。

 そして和輝によって救われた少女だ。

 

「前に言いましたよね。今度は私が助けると。今がその時です。あれから、マクスウェル先生に教わって、デュエルも、カードも、強くなったんです」

「そいつはいいや。頼りにしてるぜ」

「はい。任せてください!」

 

 そう言って、やや控えめな胸を張るエーデルワイス。ちょっと誇らしげなその様に、和輝も微笑がこぼれた。そんな様子を見ていた咲夜はびっくりした様子で和輝とエーデルワイスを見比べた。

 

(け、健気系の年下ちゃんかぁ。ひょっとしてものすごい強敵?)

「い、痛いですわ国守さん!」

 

 握手をしていた手につい力がこもったらしい。咲夜は御免と謝罪して手を離した。

 

「和輝って、意外と()()()かね」

「油断ならんことだな」

 

 そんな様子を、龍次と烈震は傍観者気取りで眺めていた。頃合いを見たところで、フレデリックが手をたたいた。

 

「そろそろ開始時刻だ。自己紹介はそこまでにしておこう」

 

 一同の表情が引き締まる。若者たちを見回して、フレデリックは微笑した。

 善の力はここに結集した。彼らならば、邪悪を打倒できるかもしれない。

 

「残念ながら、レイシス君は別件があるのでここには来られない。穂村崎君もまた、所用があるので一日目は不参加だそうだ。二日目から大会に合流するらしい」

 

 レイシス・ラーズウォード、穂村崎秋月。どちらもAランクプロで、おそらく単純な実力ならば集った仲間の中でも最強だ。

 和輝にとっては特に、レイシスが出資している孤児院出身で、幼い頃に会っているので、もう一度会いたかったところだが、高望みはするまい。

 

「敵は強大だ。クロノス神、その配下のティターン神族。そして、隷属したギリシャ出身の精霊、妖精、怪物たち」

 

 一同が静まり返る。だが、とフレデリックは続けた。

 

「それでも正義は潰えない。それを証明しようじゃないか」

 

 にこりと笑う。大会開始五分前。なので、演説を振るう気にもなれないので言葉はそこまで。あとは、おのおのが再会の挨拶を交わして解散していった。

 彼らなら大丈夫だろう、とフレデリックは思う。

 だがその胸を、一抹の不安が暗雲となってよぎった。

 フレデリックには、情報を共有する友がいた。

 ルートヴィヒ・クラインヴェレ。言わずと知れたデュエルモンスターズの生みの親。彼もまた、神々の戦争の参加者だ。

 だが、ゾディアック杯が大々的に宣伝されるようになってから、プライベート回線も含めて、一切連絡が取れない。

 不安は消えない。もしや友は、己の中の邪悪に屈してしまったのか。

 そんなはずはないという信頼と、万が一という疑念が消えない。

 誰にも二律背反を悟らせずに、フレデリックもまた、戦場を定めるべく歩き始めた。

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