神々の戦争   作:tuki21

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第8話:風纏う妖

「へー、いい店じゃねーか」

 

 その日、星宮(ほしみや)市にある某カードショップを訪れた男は、開口一番店内を見回してそう言った。

 時間的に暇だった店長はカウンターから声の方を向き、息をのんだ。

 外国人。逆立てた金髪、青い双眸、黒の革ジャンに銀のチェーンをじゃらじゃらつけたパンツルック。粗暴で傲慢な金の体毛をした烏の風情。

 一目見てがらが悪いと思い、店長は嫌な予感がした。面倒な客はお断りしたい。

 それから男は無遠慮にじろじろと店内をうろつき、カード展示棚の前で足を止めた。

 

「シングルカードの揃えもいい。気に入ったぜ。店主!」

 

 グルンと男の全身が店主を向く。その全身から放たれるただならぬ雰囲気に圧されながら、店主は「何でしょう?」とカウンターから離れる。

 

「ああ、この店の品ぞろえ、気に入ったぜ」

 

 にやりと笑う男。何故か店長は肉食獣に微笑まれている気分だった。

 

「ありがとうございます」

 

 社交儀礼的に頭を下げる。と、その頭に上からかぶせるように男の言葉が続いた。

 

「だから、この店のカード全部オレのモンだ。もらってやるから感謝しろ」

「は? 何を言ってるんだあんた。金を――――」

 

 いきなり何を言いだすのかと、訝しげな表情で顔を上げる店長の眼前に、一枚のカードが突き付けられた。

 破天荒な風。

 次の瞬間、カードから放たれた突風が店長の身体を吹き飛ばした。

 

「!?」

 

 自分の身に何が起こったかもわからぬまま店長の意識は暗転。暴風が店内を荒れ狂い、内部から硝子を割り棚を削り倒す。

 

「神に選ばれてもねぇ凡人が。オレ様に意見する何ざ、傲慢だ。死ね」

 

 そのまま動かなくなった店長をまたいで、男は店内を、そして店のレジなどを物色し始める。

 

「相変わらずだな貴様は」

 

 と、さきほどまで明らかに誰もいなかった空間から、くぐもった男の声がする。

 男の声。というが、人の声かどうかもいささか怪しい。くぐもって歪な声。

 声の主が現れる。異形の者だった。

 ライオンの頭と腕、背中に四枚の翼、蠍の尻尾。ギラギラ輝く双眸に宿った危険な光は欲望か憎悪か、或は怒りか。

 人間とは乖離した異形の存在。人間よりも上位の者。

 神。

 

「そんなに気に入ったか。ワタシが与えた力が。えぇ? ゲイルよ」

 

 ゲイルと呼ばれた男は「当然だ」と頷いた。振り返ったその瞳は力が与える快楽に溺れ、力に魅入られた者が放つ危険で破滅的な光を宿していた。

 

「こいつはご機嫌だ。糞みてーにオレに意見してくる連中を片っ端から潰せる。まったくご機嫌だぜ、パズズよ。

 つーかよ。ホントにこの街に神がいんのか? オマエの言うとおりにやってきたけどよぉ」

「いるとも。だが感じる力が弱いな。あまり力の強い神ではないかもしれないな。ま、神と神は惹かれ合う。街にいればいずれ出会えるだろう」

「ハッ。そいつはいい、ご機嫌だ」

 

 ゲイルは己が契約を交わした神にそう笑いかけた。

 

「弱い奴を痛ぶって潰すってのは、たまらねぇ」

 

 その笑みはまさしく獲物を食らう喜びに餓えた肉食獣のようだった。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 ロキ。

 北欧神話に登場する悪戯の神。本来神々の敵であるはずの巨人族出身でありながら主神オーディンの義兄弟の地位としてアース神族に迎えられた神。

 非常に狡猾で邪悪な神で、彼は自らが企んだ悪戯によって多くの神々や巨人を愚弄し、同時に多くの宝物を神々に提供している。

 また、巨人族の女、アングルボダとの間にフェンリル、ヨルムンガルド、ヘルという二体の怪物と一柱の神を設けている。

 詭弁を弄して神々をけむに巻き、自身が起こしたトラブルを自分で解決したりとトリックスター的な立ち回りを繰り返す。

 災いと貢献をもたらす故に神々にも忌み嫌われる反面評価されることもあり、その能力は一定しない。

 現に北欧神話の主神、オーディンが操るグングニル、戦神トールが振るうミョルニルなど、ロキの悪戯によって神々の戦力が大幅に増強されたのは事実だ。

 だがロキは、最終的に奸計を弄してオーディンの息子、光の神バルドルを殺害。さらに宴の席で神々を侮辱したことによって幽閉され、毒の責め苦を受けた。

 北欧神話の終盤、神々の最終戦争、ラグナロクにて解き放たれ、怪物である息子たち、フェンリルとヨルムンガルドを引き連れて神々に牙を剥いた。

 総じて邪悪な神であり、つかみどころのないトリックスター。

 

「また、とても女好きであり、一説では神話に登場するほとんどの女神と関係を持ったことがある。と」

 

 パタンと呼んでいた本を閉じて、岡崎和輝(おかざきかずき)は机の対面に座る男に視線を移した。

 目立つ容貌の少年だった。

 茶色がかった瞳に、動きやすさを重視したジーンズと長そでのシャツ姿は簡素で、飾り気と呼べるものはほかに何もない。

 ただし、彼を目立たせる大きな要因は髪の色だった。

 雪のような白。脱色したわけでもなく、七年前のある日を境に、この色だ。命の代償に色を差し出した結果だと、本人は最近知った。

 対面の男も、ひどく目立つ容姿の男だった。

 金髪碧眼。異性どころか同性さえも道ですれ違えば振り返る美貌の持ち主。着ている物こそ簡素なシャツとスラックスだが、それさえも彼の美しさと人知を超えた圧倒的な存在感を際立たせるアイテムに見えるようだ。

 が、そんな男、ロキを見る和輝の視線はこの上なく冷たい。

 ロキは和輝の視線に気づき、自分も呼んでいた新聞を閉じて一言。

 

「何かな、和輝?」

「お前悪い奴じゃん」

 

 ストレートな和輝のものいい。ロキは「まぁ普通そう思うよね」と苦笑。

 和輝とロキは休日を利用して、星宮市にある図書館にやってきていた。

 目的は、神話の知識に乏しい和輝に、神話の知識を補填させるため。まずは図書館にある神話関係の本に目を通そうと思ったのだ。

 当然、最初に読むのは自身のパートナーである悪戯の神ロキ。

 正直和輝はロキと来てもピンと来ない。せいぜいゲームでこんな名前があったなぁ程度の認識だ。

 だからロキについてまず調べようとしたのだが……。

 

「まさかの悪行三昧。悪戯ってレベル超えてるじゃないか」

「異議あり。自己フォローになるけど、神話の真実と伝えられた物語は違うものだよ」

 

 ロキがずいっと乗り出して異議を唱える。

 

「そういうものか?」

「君たちが学校で学ぶ歴史だってそうだよ。当時の真実を後世の人々が脚色したことによって微妙に事実とずれている。

 それと同じく、神話もかつての神々の間であった出来事を口伝でしか伝えられなかった。それを後世の詩人が脚色し、より物語として面白い方向性のものに仕上げてしまったんだ。特にボクは神と巨人のハーフ。敵の血を引いているからこの手の悪役(、、)にしたてやすい」

「じゃあ、この本にかかれているような悪戯はしなかったのか?」

「あー、いやー、そーれーはー」

 

 あからさまに目をそらすロキ。和輝の視線の温度がますます下がる。

 

「……一応聞いておきたい。この、光の神バルドルを謀殺したのも事実なのか」

「それは脚色。考えても見てよ、もしも本当にバルドルが死んでいた場合、そのままボク達北欧の神々は最終決戦(ラグナロク)に突入だ。そうなれば神々はほぼ全滅。ボクだってここにいないよ?」

 

 ロキの言うとおりだった。歴史も、神話も、当時の事実と今に伝わっている話が同じとは限らない、ということか。

 

「じゃあ、全ての女神と関係を持っていたとか、そう言うのもお前のキャラ立てのための脚色なのか?」

 

 少し温かみを取り戻した眼の和輝の質問。だがロキは「うぐっ」と潰されたカエルのような声を上げた。

 

「ロキ?」

「あ、当たり前じゃないカ。ボクだってそこまで節操なしじゃないヨ?」

 

 明らかな棒読みのロキ。目も泳いでいる。

 

「…………二度と、綺羅(きら)には近づかないでくれ」

 

 ボクが悪かったよぉ! と――図書館という場所がら、小さな声量だが――悲鳴を上げるロキを無視して、和輝は持ってきた本を小脇に抱えて席を立とうとした。

 と、視線がロキがさっきまで読んでいた新聞に止まった。一週間前の新聞だった。

 

「ところで、なんでそんな新聞を?」

「ん? あぁ、ちょっと気になる記事があってね」

 

 再び席についた和輝に、ロキが「ここだよ」と新聞を開いて記事を指さした。

 アメリカで発症した新種の病気の記事だった。

 爆発的な感染力でアメリカを蹂躙し、猛威を振るって死者も出したという。

 症状は高熱と意識の混濁。抵抗力の低いものはそのまま死亡。深刻な事態としてニュースで騒がれていた。

 それから一週間、伝えられるニュースは発症者の増加のみだ。

 

「そのニュース、気になるのか?」

「ん? まぁね」

 

 新聞を手に取ったロキはあいまいに言葉を濁した。思い過ごしだといいけどという言葉は和輝の耳には届かなかった。

 

「さ、そろそろ帰ろうか。資料は借りていくんだろ? お昼にしようじゃないか。おごるよ」

「ああ。そうだな。綺羅も今日は友達と出かけてるし、久しぶりに外で何か食べるか」

 

 一人と一柱は席を立った。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

「しかし、お前金なんてなんで持ってるんだ? 神なのに」

 

 食事のために立ち寄ったファミレスにて、和輝とロキは食後のコーヒーを楽しんでいた。

 窓際の席に座り、和輝はふと、素朴な疑問を口にした。

 

「ん? ああ、簡単だよ。ボク、仕事してるから」

「仕事?」

 

 和輝とロキが契約を交わして何日か経過した。その間実体化を解いて和輝にくっついて学校に出向き、授業を聞いている日もあれば、ふらりとどこかに出かけていって夜になったら帰ってくる日もあった。

 

「じゃあ、俺のそばにいない時に仕事してたのか」

「モデルのね。契約者を探している時にスカウトされたんだ」

「モデルの仕事をする神ね」

 

 何ともシュールな絵だと思った和輝だったが、不意に視線を感じ、窓の外を見る。

 

 そこに、いた。

 

 逆立てた金髪、青い双眸、黒の革ジャンに銀のチェーンをじゃらじゃらつけたパンツルック。粗暴で傲慢な金の体毛をした烏の風情の男。

 その背後にはっきりと見える、ライオンの頭と腕、背中に四枚の翼、蠍の尻尾を持つ異形の魔神。

 

「ロキ!」

 

 弾かれたように立ち上がる和輝。ロキもすでに椅子から立ち上がっている。

 突然の客の反応に、近づいていたウェイトレスと周囲の他の客が驚きと怪訝の混ざった表情を浮かべる。

 金髪男が窓に一枚のカードを張り付けるように置いた。

 鎖付き爆弾。

 

「逃げろぉ!」

 

 即座に現状を理解した和輝が店内の人間へと声を上げる。遅かった。

 爆発。

 悲鳴と、物が割れる音、暴風と爆音。そして、人が倒れる音が連続する。

 

「な――――」

 

 一瞬視界を塞がれた和輝。瞑った眼を開いた眼前にはロキの背中。鎖付き爆弾の威力から和輝を守ったのだ。

 和輝は周囲を見て絶句。幸い爆発の直撃を受けた人間はいないが、ガラスの破片で怪我をした者もいるし、何より全員床に倒れていた。

 直後、赤い風が店内に吹き荒れる。異形の魔神が翼をはばたかせたのだと遅れて気づく。

 爆発に加えて突風。悲鳴ももう起こらない。

 

「大丈夫か!?」

 

 和輝は近くのウェイトレスを抱え起こす。ぐったりしているが生きてはいるようだ。外傷はなさそうだが呼吸が弱く、汗がひどい。額に手を当てればひどい熱だった。

 

「まさか、全員……?」

「ご機嫌だ。こいつはご機嫌だぜ」

 

 がしゃりと割れた硝子の破片を踏みしめて、男が入ってくる。

 

「和輝! 神々の戦争の参加者だ!」

 

 警戒の表情を浮かべるロキの叫び。和輝は頷き、ウェイトレスを床に丁寧に下ろす。

 

「……これをやったのは、テメェか?」

 

 和輝は男、というより、その背後の異形の神を睨みつけて言った。

 

「その通り。我が名はパズズ。風と熱病の神だ」

「風と熱病……。じゃあ、この人たちは!」

「それだけじゃないよ、和輝。まさかとは思ったけど、アメリカで起こってる新種の病気の蔓延、あれも君じゃないか?」

 

 和輝の表情がさらに驚愕で固まる。ハッと笑う男と、にやりと笑うパズズ。肯定の証だった。

 

「何故そんなことを?」

 

 ロキの質問に、パズズはまたにやりと笑う。ただ、和輝何となくロキが理由を知っているのではないかと思った。また、パズズの契約者の男も、にやにや笑っている

 

「おーいパズズ、オレァこれからこいつをぶっ潰して-んだがよぉ」

「まて、ゲイル。ワタシにも話させろ」

 

 今にも飛び掛かりそうな男、ゲイルをパズズが制する。パズズは四枚の翼で器用に滞空しながら前に出る。

 

「何故あんなことを? 決まっている。ワタシがゲイルと契約を交わしたのがあの場所であり、あの国は一神教が主流だったからな。腹が立ったから流行らせた」

「一神教が……、主流だったから……?」

 

 回答を聞いた和輝が呆けた顔を浮かべる。

 

「和輝、かつて神々は人を作った。人の前に姿を現していた神代の時代、人の信仰は神の力となり、心地のいいものだった。けど――――」

「あの糞忌々しい一神教の愚か者どもが……ッ!」

 

 パズズの全身から怒気が噴出される。己の怒り、屈辱を口にすることで発散しようとしているのだ。

 

「奴らが! 糞下らない幻想なんぞを担ぎ出し! ワタシを信仰していた民たちを滅ぼした! その挙句がこのざまだ!」

 

 パズズの全身から再び熱病の風が放たれる。何事かと集まりかけた野次馬たちが次々と風を浴び、倒れ伏していく。

 

「やめろ!」

 

 思わず和輝は叫ぶ。パズズは広げた翼をたたんで地面に降りた。

 

「…………神と人の精神性は極めて近い。だから、人間の信仰が神に影響を与えることもあった」

「信仰が、影響を?」

「土着の神なんかがそれに当たる。その土地の人々の信仰によって力を得ていた神々は、後に自分が奉られていた土地が一神教によって侵略され、土着の神が邪神や悪魔としてその在り方を貶められ、歪められていった。

 その結果、邪神となり果ててしまった神が大勢いる。そして彼らはほぼ例外なく人間を恨んでいる。特に一神教圏は生かしておく理由がない」

 

 ロキの声は淡々としているが声音はどこか同情的だ。自身もまた邪神として伝えられている身。パズズの様に悪魔とされてしまった神に近しいと思っているのかもしれない。

 

「忌々しいことだ! 幻想の、いもしない神に縋る滑稽な連中が! ワタシをこのような姿に貶めた! 生かしておく理由などあるはずもない!」

 

 感情を爆発させるパズズ。確かに神の実在がこうして証明されてしまった以上、一神教はその在り方を否定されてしまっている。その、幻想に縋っている人間たちに貶められたことが我慢ならないのかもしれない。

 

「あ、あんたは、そんなことを許せるのか!?」

 

 パズズの時に押され気味の和輝が、今度はゲイルに声をかける。

 今までにやにやと笑っていたゲイルは「ん?」と反応し、

 

「決まってるだろ。ご機嫌だよ」

 

 こともなげに言い放った。しかも心底から楽しげな肉食獣の笑みだ。

 

「ご機嫌?」

「当然だ。オレはパズズと出会って以来最高にご機嫌だ。何しろご機嫌な力を手に入れたからな」

 

 そう言ってゲイルは和輝に見せびらかすように鎖付き爆弾のカードをひらひらと提示した。

 デュエルモンスターズのカードの具現化。神々の戦争に参加する人間の特権の一つだ。

 

「そのためなら何人死のうがしらねーよ。どーせ神に選ばれなかった三下だ」

「な――――――」

 

 絶句する和輝。ロキは険しい表情。

 

「和輝、もう言葉は無駄だ。この人間は、力に魅入られている。野放しにはできない」

 

 和輝も同感だった。怒りに拳を握り締め。鞄からデュエルディスクを取り出して左腕に装着した。

 

「やっとやる気になったかよ」

「バトルフィールド、展開」

 

 パズズの言葉が戦いの幕を上げる。

 和輝たちの周囲に倒れていたはずの人々の姿が消える。正確には、和輝たちが彼らの視界から消えたのだ。

 バトルフィールド。現実空間から生物を排除したような空間が、神々の戦争が行われる決戦舞台。

 和輝とゲイルはデュエルディスクを構える。その胸元に、和輝は赤、ゲイルは黄緑の輝きが灯る。神々の戦争の参加者の証、宝珠だ。

 壊れかけたファミレスから移動した二人。表情は(にら)みつける和輝に対してへらへら笑うゲイルと対照的だ。

 語る言葉はもはやない。和輝もゲイルも無言だ。声を上げるとしたら一言。即ち――――

 

決闘(デュエル)!』

 

 戦いの始まりを告げる言葉のみ。

 

 

和輝LP8000手札5枚

ゲイルLP8000手札5枚

 

 

「俺の先攻だ! カードとモンスターを一枚ずつセット! さらに永続魔法、補給部隊を発動し、ターンエンドだ」

 

 

補給部隊:永続魔法

(1):1ターンに1度、自分フィールドのモンスターが戦闘・効果で破壊された場合にこの効果を発動する。自分はデッキから1枚ドローする。

 

 

「オレのターンだ、ドロー!」

 

 ドローカードを確認したゲイルは嬉しげに口笛を吹いた。

 

「ハッ! こいつはご機嫌なカードを引いたぜ! 強欲で謙虚な壺発動だ!」

 

 発動されたカードの効果で、上からカードが三枚めくられる。和輝の表情は渋い。三つの選択肢の中から好きなカードを手札に加えられるのだから当然か。

 カードがめくられていく。露わになったのは妖仙獣(ようせんじゅう) 鎌壱太刀(かまいたち)、二枚目の強欲で謙虚な壺、激流葬。

 

「鎌壱太刀を手札に加えるぜぇ」

「妖仙獣、か?」

 

 和輝がゲイルのデッキの見当をつける。ゲイルはにやりと笑うだけだがそれがもう肯定の証だ。

 

「知ってるデッキ?」

 

 和輝の背後で半透明のロキが問いかける。が、和輝は首を左右に振った。

 

「よく知らない。ペンデュラム召喚を組み込んだテーマってくらいだ」

 

 和輝の説明が続く中、ゲイルはさらにカードを繰り出した。

 

「永続魔法、炎舞-天璣(テンキ)発動! 発動時の効果でデッキから妖仙獣 鎌参太刀(カマミタチ)を手札に加えるぜ。さらにもう一枚、永続魔法、修験の妖社発動!」

 

 ゲイルが一気に二枚の永続魔法を発動させる。うち一枚、修験の妖社がゲイルの背後、木製の修行場が現れ、そこに火の()いていない蝋燭(ろうそく)の群が並んでいた。

 

「さぁて、ここからがお楽しみでご機嫌な時間だ! 俺は妖仙獣 鎌壱太刀(カマイタチ)を召喚!」

 

 ゲイルのフィールドにモンスターが召喚される。

 風をまとって現れたのは、青い衣を羽織り、いささか特異な形状をした手鎌を手にした二足歩行の(いたち)型獣人モンスター。感情表現豊かな方らしく、銀髪を揺らし、不敵な笑みを浮かべている。

 

「鎌壱太刀の召喚に成功したこの瞬間、修験の妖社の上に妖仙カウンターを一つ乗せる。そして鎌壱太刀の効果発動! このカードの召喚に成功した時、手札から鎌壱太刀以外の妖仙獣を召喚できるのよ! オレは妖仙獣 鎌弐太刀(カマニタチ)を召喚!」

 

 修験の妖社の蝋燭の一本に火が灯った。

 

「特殊召喚ではなく召喚。召喚権を行使しないタイプのデッキだから、特殊召喚に頼らないのか」

 

 確かにこれならば強欲で謙虚な壺との相性は抜群だ。ゲイルのフィールドに新たな妖仙獣が現れる。

 青い衣に銀髪は同じ。袴姿に手にしたのは一振りの日本刀。さらにその表情は引き締まっており、質実剛健な侍を思わせる。

 

「そしてこの瞬間、修験の妖社の上に妖仙カウンターが一つ乗り、同時に鎌弐太刀の効果発動! こいつも鎌壱太刀と同じく、手札から妖仙獣を召喚できるのよ! 来な、妖仙獣 鎌参太刀!」

 

 三体目。前二体と違って青い衣をまとっていない、上半身裸に小太刀を構えた鼬獣人。当然、修験の妖社の上に妖仙カウンターが一つ乗せられる。

 

「三体目の鼬か! てことはそいつも――――」

「当然、召喚権を増やす。が、もう妖仙獣の召喚はしねぇ。代わりに永続魔法、修験の妖社の効果発動だ! このカードの上に乗っている妖仙カウンターを三つ取り除き、デッキから妖仙獣モンスターを手札に加える。オレは妖仙獣 閻魔巳裂(ヤマミサキ)を手札に加える。

 さらに鎌壱太刀の効果発動! こいつはオレの場にほかの妖仙獣がいる時、相手表側表示カードを一枚手札に戻せる! テメェの場にある補給部隊を手札に戻すぜ!」

「あっ!」

 

 ゲイルの宣言を命令と受け取り、鎌壱太刀が手にした鎌を振るう。瞬間、風が巻き起こり、和輝の場にあった補給部隊が巻き上げられてしまった。

 

「ちっ。せっかくのドローのチャンスが……」

「ドローの心配をしている場合か? バトルフェイズだ! 鎌弐太刀でダイレクトアタック!」

「何!?」 

 

 壁モンスターを飛び越えて直接和輝に向かってくる鎌弐太刀に、和輝も驚愕の声を上げる。

 

「ダイレクトアタッカーかよ!」

 

 相手のフィールドにモンスターがいても構わず直接攻撃してくるモンスターがデュエルモンスターズには何体かいる。このモンスターもそのうちの一体だったというわけだ。

 

「くっ!」

 

 頭上から振り下ろされた一刀を、和輝は右半身を開くように回避。が、そこで安心はできなかった。振り落とされた刀が和輝の胸元の宝珠めがけて跳ね上がる。

 

「軌道が変わった!?」

「モンスターの攻撃はある程度プレイヤーの人に操れる! 洗脳されていないなら、これくらいはしてのけるよ!」

 

 ロキの警告はいささか遅い。だが和輝は反応した。わざと自分からバランスを崩すことで返す刀を回避。眼前を通過していく白刃を見て、和輝は肝が冷えた。

 

「ケッ、外したか。だがこの瞬間、鎌参太刀の効果発動だ! デッキから新たな妖仙獣、妖仙獣 左鎌神柱(サレンシンチュウ)をサーチ!

 

 まだまだ行くぜぇ? 鎌壱太刀で守備モンスターを攻撃!」

 和輝のフィールドにはまだモンスターがいる。それを狙った鎌壱太刀の鎌の一撃。和輝の守備モンスター、見習い魔術師はあっさりと破壊された。

 

「見習い魔術師の効果発動! デッキから二体目の見習い魔術師をセット!」

「ちっ、リクルーターか。こりゃ、下手につついて藪蛇になるのはごめんだな……。バトルフェイズ終了、カードを二枚セットし、エンドフェイズに俺のフィールドの妖仙獣は全て手札に戻る! 改めてターンエンドだ」

 

 現れた三体の妖仙獣が風のように去り、ゲイルの手札へと舞い戻る。

 

「突風のように現れ、暴風のようにフィールドを荒らし、疾風となって舞い戻る。まさに風を体現したようなモンスターたちだね」

「二回もサーチされてるから、呑気に構えてもいられないけどな」

 

 ロキの言葉に和輝は険しい表情で答える。確かに、バウンスという対処しにくい手段でモンスターを除去してくるのは厄介だと言えるだろう。得に和輝のようにエクストラデッキを多用するデッキには。

 

 

強欲で謙虚な壺:通常魔法

「強欲で謙虚な壺」は1ターンに1枚しか発動できず、このカードを発動するターン、自分はモンスターを特殊召喚できない。(1):自分のデッキの上からカードを3枚めくり、その中から1枚を選んで手札に加え、その後残りのカードをデッキに戻す。

 

炎舞-天キ:永続魔法

「炎舞-「天キ」」は1ターンに1枚しか発動できない。(1):このカードの発動時の効果処理として、デッキからレベル4以下の獣戦士族モンスター1体を手札に加える事ができる。(2):このカードが魔法&罠ゾーンに存在する限り、自分フィールドの獣戦士族モンスターの攻撃力は100アップする。

 

修験の妖社:永続魔法

「修験の妖社」の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。(1):このカードが魔法&罠ゾーンに存在する限り、「妖仙獣」モンスターが召喚・特殊召喚される度に、このカードに妖仙カウンターを1つ置く。(2):このカードの妖仙カウンターを任意の個数取り除いて発動できる。取り除いた数によって以下の効果を適用する。●1つ:自分フィールドの「妖仙獣」モンスターの攻撃力はターン終了時まで300アップする。●3つ:自分のデッキ・墓地から「妖仙獣」カード1枚を選んで手札に加える。

 

妖仙獣 鎌壱太刀 風属性 ☆4 獣戦士族:効果

ATK1600 DEF500

(1):このカードが召喚に成功した場合に発動できる。手札から「妖仙獣 鎌壱太刀」以外の「妖仙獣」モンスター1体を召喚する。(2):このカードがフィールドに表側表示で存在する限り1度だけ、自分フィールドにこのカード以外の「妖仙獣」モンスターが存在する場合に相手フィールドの表側表示のカード1枚を対象として発動できる。そのカードを持ち主の手札に戻す。(3):このカードを召喚したターンのエンドフェイズに発動する。このカードを持ち主の手札に戻す。

 

妖仙獣 鎌弐太刀 風属性 ☆4 獣戦士族:効果

ATK1800 DEF200

(1):このカードが召喚に成功した場合に発動できる。手札から「妖仙獣 鎌弐太刀」以外の「妖仙獣」モンスター1体を召喚する。(2):このカードは直接攻撃できる。その戦闘によって相手に与える戦闘ダメージは半分になる。(3):このカードを召喚したターンのエンドフェイズに発動する。このカードを持ち主の手札に戻す。

 

妖仙獣 鎌参太刀 風属性 ☆4 獣戦士族:効果

ATK1500 DEF800

「妖仙獣 鎌参太刀」の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。(1):このカードが召喚に成功した場合に発動できる。手札から「妖仙獣 鎌参太刀」以外の「妖仙獣」モンスター1体を召喚する。(2):このカード以外の自分の「妖仙獣」モンスターが相手に戦闘ダメージを与えた時に発動できる。デッキから「妖仙獣 鎌参太刀」以外の「妖仙獣」カード1枚を手札に加える。(3):このカードを召喚したターンのエンドフェイズに発動する。このカードを持ち主の手札に戻す。

 

見習い魔術師 闇属性 ☆2 魔法使い族:効果

ATK400 DEF800

このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時、フィールド上に表側表示で存在する魔力カウンターを置く事ができるカード1枚に魔力カウンターを1つ置く。このカードが戦闘によって破壊された場合、自分のデッキからレベル2以下の魔法使い族モンスター1体を自分フィールド上にセットする事ができる。

 

 

修験の妖社、妖仙カンター0

 

 

和輝LP8000→7050手札3枚(うち1枚は補給部隊)

ゲイルLP8000手札6枚(うち5枚は妖仙獣 閻魔巳裂、妖仙獣左鎌神柱、妖仙獣鎌壱太刀、妖仙獣鎌弐太刀、妖仙獣鎌参太刀)

 

 

 和輝は険しい表情を崩さない。油断はできないのだ。なにより、目の前の相手、ゲイルとパズズは他者を傷つけることを何とも思っていない。どころか、ゲイルは力を誇示することに酔っている。

 許せるはずがない。止めなければならない。この戦いは、負けられないのだ。

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