神々の戦争   作:tuki21

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第83話:邪神を砕く闇

 憎悪をまき散らすアラクネー。それに対し、咲夜(さくや)はアテナとともに毅然と立ち向かう。

 なんてことない。咲夜はそう思った。かつて、子供のアテナを連れ、一人で孤独に戦っていた時を思えば、この程度、どうってことない。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。咲夜はそう、強く思った。

 

 

咲夜LP5400手札4枚

ペンデュラムゾーン赤:なし青:なし

モンスターゾーン E・HERO オーシャン(守備表示)、

魔法・罠ゾーン 

フィールドゾーン なし

 

アラクネLP3700手札2枚

ペンデュラムゾーン赤:なし青:なし

モンスターゾーン 桎梏のズムウォルト(攻撃表示)、地底のアラクネー(攻撃表示)

魔法・罠ゾーン 永続魔法:大樹海、補充部隊、E・HERO エアーマン(対象:地底のアラクネー)、伏せ2枚

フィールドゾーン なし

 

 

「あたしのターン、ドロー!」

 

 反撃に移る咲夜。ドローカードを確認後、即座に動いた。

 

「スタンバイフェイズ、オーシャンの効果発動! 墓地のシャドー・ミストを手札に戻すわ。さらにE・HERO ブレイズマンを召喚! 効果を発動し、デッキから融合のカードを手札に加えるわ!」

 

 咲夜の戦術が回る。アラクネーが見つめる前で、彼女は自信に満ちた笑みでカードを操った。

 

「融合発動! 場のブレイズマンと、手札のシャドー・ミストを融合!」

 

 再び融合エフェクトが奔る。頭上の渦に、二体のモンスターが飛び込んだ。

 

「異星の友よ。希望を伴い、我が戦友を救う一手とならん! 融合召喚、(ネオスペーシアン)・ミラクル・フォーリナー!」

 

 現れたのは、人の形をした銀色の発行体。フォルムは女性型。足元まで流れる銀髪に、銀色の瞳。手指はしなやかで、艶やかだ。戦いとは無縁そうで、傷も、痕の一つもない。実際、その攻撃力は2100と、融合召喚したにしては行く目だ。

 

「ミラクル・フォーリナーの効果発動! 融合召喚成功時、デッキからN一体を手札に加えるか、特殊召喚できる! あたしはA・N(アナザー・ネオスペーシアン)・オーシャン・ホエールを手札に加えるわ。さらにシャドー・ミストの効果で、E・HERO ソリッドマンを手札に加える!」

「A・N……。ロンドンで和輝とのデュエルの時に見せた、Pモンスターだね」

「てことは、本格的に動くってことか」

「そういうこと! あたしはスケール2のA・N・ブラック・レオと、スケール8のA・N・オーシャン・ホエールを、Pゾーンにセッティング!」

 

 咲夜の両隣りに、青白い光の円柱が屹立した。円柱内部には、立派な(たてがみ)をなびかせた、漆黒の体躯に気高さを灯した夜空の満月のような金色の瞳を持った、知性ある獅子と、アクア・ドルフィンをさらに筋骨隆々の逞しい体系にし、頭部を鯨に変えたような魚人型モンスターがそれぞれ収まった。

 

「これで、あたしはレベル3から7のモンスターを同時に召喚できる。おいで、あたしのモンスターたち! 手札から、E・HERO ネオスと、N・ブラック・パンサーをペンデュラム召喚!」

 

 咲夜の頭上に、異界への門が開く。ゲートから二つの光が彼女のフィールドに降り立った。

 現れたのは、白い体躯、胸に輝く青の宝珠、赤いラインを持った戦士と、その傍らに、黒いマントを羽織った黒ヒョウが現れる。この瞬間を待っていたように、アラクネーが動いた。

 

「この瞬間! 私は伏せていた速攻魔法、終焉の地を発動! デッキからフィールド魔法、G・ボールパークを発動!」

 

 フィールド魔法の発動。周囲の景色がゴキボールがそのままボールとなって飛び交う異常な球場に変化する。

 

「何この異常空間!」ロキが叫びをあげた。

「昆虫族のフィールドっぽいが、空気からしてすでに異様だ」和輝も若干引いていた。

 

 咲夜は動じない。相手が自分のホームグラウンドを展開しても、己の戦術を崩さない。

 

「さらに、オーシャン・ホエールのP効果発動! 一ターンに一度、墓地からN一体を特殊召喚できるの。あたしはN・グラン・モールを特殊召喚!

 そして、スペーシアン・ギフト発動! あたしのフィールドのネオスペーシアンは全部で二種類だから、二枚ドロー!

 ここからが本番! あたしのフィールドのネオスとグラン・モールを、コンタクト融合!」

 

 ネオスとグラン・モールが一つに重なり合い、光が生まれた。

 

「異星の戦士よ、大地の力を得てどこまでも掘り進む一矢となれ! コンタクト融合! 天元を突破せよ、E・HERO グラン・ネオス!」

 

 現れたのは、ネオスの新たな姿。

 茶色を基調にしたボディカラー。緑の重装甲を着込み、右手は掘削のためのドリル、左腕はモグラのように鋭い爪が並んでいた。

 

「ここで、グラン・ネオスの効果発動! 漆黒のアラクネーをバウンス!」

 

 咲夜の宣言を受けて、グラン・ネオスが動く。右手のドリルを高速回転させ、空間自体に穴を開けた。

 空間の穴から急激な吸引力が発揮され、地底のアラクネーを捕獲。異次元の果てまで追放しようとする。

 だが――――

 

「させるものかぁ! 墓地のスキル・プリズナーの効果発動! このカードを除外し、地底のアラクネーを対象とする効果を無効とする!」

 

 バチンという音がして、空間に空いた穴の吸引が弾かれた。ビデオの逆回しのように穴が塞がっていく。

 

「スキル・プリズナーだと!? いつの間に墓地へ送った!?」アテナが驚愕の声を上げた。

「ゾンビキャリアの効果を使って、自己再生した時ね。その時に墓地に送られたデッキトップ。それ以外にタイミングがない」反面。咲夜は冷静に呟いた。

 

 にやりと笑うアラクネー。肯定の証だった。

 

「けど、このくらい想定内! あたしは、オーシャンを攻撃表示に変更し、ブラック・パンサーの効果発動! 漆黒のズムウォルトの名前と効果を得る!

 さらにブラック・レオのP効果! 一ターンに一度、相手モンスター一体の効果を、ターン終了時まで無効にする!」

「何……?」

 

 アラクネーの眉が顰められた。攻撃に対して無類の強さを誇る漆黒のズムウォルトも、効果を無効にしてしまえば突破できる。

 ブラック・レオの相貌が金色の輝きを放った。次の瞬間、漆黒のズムウォルトの身体が停止、投影されたカードの画像から色が消えた。

 

「まだよ! ミラクル・フォーリナーの第二の効果発動! 一ターンに一度、手札かデッキからE・HERO ネオス一体を特殊召喚できる! おいで、ネオス!」

 

 再び現れる咲夜のデッキのエースモンスター。拳を握り締め、雄々しく声を上げた。

 

「準備は整ったな。では、反撃だ、咲夜!」

「勿論! バトル突入! まずは漆黒のズムウォルトの効果をコピーしたブラック・パンサーで地底のアラクネーを攻撃!」

 

 攻撃命令を受けたブラック・パンサーが咆哮を上げて跳躍する。一瞬にして地底のアラクネーとの距離を詰めた。

 

「ブラック・パンサーの効果発動! 攻撃力を地底のアラクネーと同じにする! さらにでは破壊されない!」

「だがこちらも、地底のアラクネーの効果発動だ! 装備状態のエアーマンを身代わりに、破壊を防ぐ!」

 

 互いの攻撃が互いを弾き合い、両者は元の位置に戻った。引き分け。どちらのモンスターも破壊されず、健在だった。

 

「でも、これで地底のアラクネーに盾はない。追撃よ! グラン・ネオスで地底のアラクネーに攻撃!」

 

 もう地底のアラクネーに盾はない。グラン・ネオスがドリルを高速で回転させながら肉薄する。地底のアラクネーは抵抗の意思を示したが、それが形になる前に轟音を上げたドリルに貫かれた。

 

「チィ……! 大樹海の効果でセイバー・ビートルを手札に加える!」

「ミラクル・フォーリナーで漆黒のズムウォルトを攻撃!」

 

 銀色の発光体が、右手をかざした。次の瞬間には無数の光の矢が雨となって降り注ぐ。漆黒のズムウォルトは全身を光の驟雨(しゅうう)に貫かれ、ボロ雑巾みたいになって消滅した。

 

「ネオスでダイレクトアタック!」

 

 アラクネーが吠える。

 

「調子に乗るなぁ! G・ボールパークの効果発動! 戦闘ダメージを0にし、デッキからG戦隊 シャインブラックを墓地に送る! そしてこの瞬間、G・ボールパークの更なる効果! 墓地、およびデッキのシャインブラックを全て、特殊召喚する! 出でよ三体のシャインブラック!」

 

 次々に現れる黒光りする体を持つ人型モンスター。ただし、人型で、しかも戦隊もののような子供受けしそうな外見でありながらその姿は家庭の片隅に出現する黒い()()()を連想させる。

 

「う……」咲夜が悲鳴を押し殺す。(かぶり)を振るって頭に思い浮かんだ黒い影を振り払う。

「気を取り直すわ。カードを一枚伏せて、ターン終了。この瞬間、グラン・ネオスは自身のデメリット効果によってEXデッキに戻るけど、ここで、ミラクル・フォーリナーの第三の効果発動! あたしのフィールドのネオス融合体が、自身の効果でEXデッキに戻った時、デッキからE・HERO ネオス一体を特殊召喚できる! おいで、二体目のネオス!」

「後続を呼び込むか。だがそれは私も同じ! 貴様のターン終了時に、リバーストラップ、戦線復帰発動! 蘇れ、地底のアラクネー!」

 

 再び現れる、アラクネーの憎悪の象徴的モンスター。殴り合いで競り負けても、アラクネーの憎悪の炎は消えない。どころか、より一層激しく燃え上がるのみだ。

 

 

E・HERO ブレイズマン 炎属性 ☆4 戦士族:効果

ATK1200 DEF1800

「E・HERO ブレイズマン」の(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。(1):このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「融合」1枚を手札に加える。(2):自分メインフェイズに発動できる。デッキから「E・HERO ブレイズマン」以外の「E・HERO」モンスター1体を墓地へ送る。このカードはターン終了時まで、この効果で墓地へ送ったモンスターと同じ属性・攻撃力・守備力になる。この効果の発動後、ターン終了時まで自分は融合モンスターしか特殊召喚できない。

 

N・ミラクル・フォーリナー 光属性 ☆6 戦士族:融合

ATK2100 DEF1400

属性の違う自分のフィールド、または手札のモンスター2体

このカード名の(1)と(2)の効果は1ターンに1度しか発動できない。(1):このカードの融合召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「N」モンスター1体を手札に加えるか、自分フィールドに特殊召喚する。(2):1ターンに1度、手札かデッキから「E・HERO ネオス」1体を特殊召喚できる。(3):自分フィールドの「E・HERO ネオス」を融合素材とするモンスターがエクストラデッキに戻った場合に発動できる。デッキから「E・HERO ネオス」1体を特殊召喚する。

 

A・N ブラック・レオ 闇属性 ☆4 獣族:ペンデュラム

ATK1500 DEF1200

Pスケール:赤2/青2

P効果

(1):自分フィールドの「E・HEROネオス」が融合素材となっているモンスターが自身の効果によってデッキに戻る場合、代わりにこのカードを破壊できる。(2):1ターンに1度、相手フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターの効果をターン終了時まで無効にする。

モンスター効果

(1):自分モンスターゾーンのこのカードをリリースして発動できる。手札、デッキ、墓地から「N・ブラック・パンサー」1体を特殊召喚する。(2):自分フィールドの「E・HEROネオス」が融合素材となっているモンスターが自身の効果によってデッキに戻る場合、代わりにこのカードを破壊できる。

 

A・N・オーシャン・ホエール 水属性 ☆4 戦士族:ペンデュラム

ATK1300 DEF1500

Pスケール:赤2/青2

P効果

(1):自分フィールドの「E・HEROネオス」が融合素材となっているモンスターが自身の効果によってデッキに戻る場合、代わりにこのカードを破壊できる。(2):1ターンに1度、自分の墓地の「N」モンスター1体を対象に発動できる。そのモンスターを効果を無効にした状態で特殊召喚する。

モンスター効果

(1):自分モンスターゾーンのこのカードをリリースして発動できる。手札、デッキ、墓地から「N・アクア・ドルフィン」1体を特殊召喚する。(2):自分フィールドの「E・HEROネオス」が融合素材となっているモンスターが自身の効果によってデッキに戻る場合、代わりにこのカードを破壊できる。

 

N・ブラック・パンサー 闇属性 ☆3 獣族:効果

ATK1000 DEF500

1ターンに1度、相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択して発動できる。エンドフェイズ時まで、このカードは選択したモンスターと同名カードとして扱い、同じ効果を得る。

 

終焉の地:速攻魔法

相手がモンスターの特殊召喚に成功した時に発動する事ができる。自分のデッキからフィールド魔法カード1枚を選択して発動する。

 

G・ボールパーク:フィールド魔法

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。(1):ダメージ計算時に発動できる。その戦闘で発生するお互いの戦闘ダメージを0にし、自分のデッキからレベル4以下の昆虫族モンスター1体を墓地へ送る。この効果で通常モンスターが墓地へ送られた場合、さらにその同名モンスターを自分の手札・デッキ・墓地から任意の数だけ選んで特殊召喚できる。(2):自分フィールドのモンスターが相手の効果で墓地へ送られた場合に発動できる。自分の墓地から昆虫族の通常モンスター1体を選んで特殊召喚する。

 

N・グラン・モール 地属性 ☆3 岩石族:効果

ATK900 DEF300

(1):このカードが相手モンスターと戦闘を行うダメージステップ開始時に発動できる。その相手モンスターとこのカードを持ち主の手札に戻す。

 

スペーシア・ギフト:通常魔法

自分フィールド上に表側表示で存在する「N」と名のついたモンスター1種類につき、自分のデッキからカードを1枚ドローする。

 

E・HERO グラン・ネオス 地属性 ☆7 戦士族:融合

ATK2500 DEF2000

「E・HERO ネオス」+「N・グラン・モール」

自分フィールド上の上記のカードをデッキに戻した場合のみ、エクストラデッキから特殊召喚できる(「融合」魔法カードは必要としない)。1ターンに1度、相手フィールド上のモンスター1体を選択して持ち主の手札に戻す事ができる。また、エンドフェイズ時、このカードはエクストラデッキに戻る。

 

スキル・プリズナー:通常罠

自分フィールド上のカード1枚を選択して発動できる。このターン、選択したカードを対象として発動したモンスター効果を無効にする。また、墓地のこのカードをゲームから除外し、自分フィールド上のカード1枚を選択して発動できる。このターン、選択したカードを対象として発動したモンスター効果を無効にする。この効果はこのカードが墓地へ送られたターンには発動できない。

 

G戦隊シャインブラック 地属性 ☆4 昆虫族:通常モンスター

ATK2000 DEF0

 

 

咲夜LP5400手札1枚

アラクネLP3700→3100→3000手札3枚

 

 

「私のターンだ、ドロー! まずはサイクロン発動! Pゾーンのブラック・レオを破壊!」

 

 アラクネーの表情が喜悦に歪む。彼女は、先ほどの咲夜のターンを耐えた。耐えたのだ。否、耐えたというならば最初からだ。

 殴られる屈辱、攻め込まれる憤怒。それらを抑え、今まで(さなぎ)の中の虫けらのようにずっと、このターンを待っていた。

 

「見せてやるぞ、アテナ。その従僕よ! これが、私の怒りだ! 私の怨嗟だ! 二体のシャインブラックをリリース! 来たれ地に縛られし哀れな邪神! 地縛神Uru!」

 

 二体のモンスターが黒い光の粒子となって消滅する。

 砕かれるように消えていく二体のモンスター。その残骸を踏みしめるように、巨大な足が出現した。

 見上げんばかりのとてつもない巨体を持つ節足。数は八。それらが支えるのは天を覆わんばかりの巨躯。

 蜘蛛だった。蜘蛛の形をした超巨大モンスター。いくつも並ぶ、血を凝縮したような瞳がぎょろぎょろと周囲を睥睨する。

 

「なに、これ……?」

 

 召喚されたモンスターに異様な気配を感じ、咲夜は思わず呟いた。彼女の反応を見て気をよくしたのか、アラクネーがにんまりと笑った。

 

「これが、貴様らを抹殺するための、私の切り札! ゾディアックの力を持って回収された、闇のカードよ! その力を見るがいい! 地縛神 Uruの効果発動! 残るシャインブラックをリリースし、ターン終了時まで、E・HERO ネオスのコントロールを得る!」

「コントロール奪取……!?」

「精神的にきついだろう? 何しろ貴様は、かつてアレスとエリスの二柱によって追い詰められ、ついにはネオスを奪われた! 止めを刺される寸前だったのだからなぁ!」

 

 和輝と咲夜が始め出会った時のデュエルのことだ。そんなことまでリサーチ済みという事実に、和輝は軽く戦慄し、咲夜も無言で下唇をかんだ。

 そんな人間たちの眼前で、Uruの口から放たれた無数の糸がネオスの一体の全身に絡みついた。

 粘つく糸はネオスの関節部にしっかりと絡みつき、マリオネットの操り糸のように陣営を咲夜からアラクネーへと変更してしまった。

 だがまだ終わらない。なぜなら、コントロールを奪えるモンスターは、もう一体いるからだ。

 

「地底のアラクネーを攻撃表示に変更、そして効果発動。二体目のネオスを地底のアラクネーに装備!」

 

 再び蜘蛛の糸がネオスを捕え、盾とする。

 

「これで貴様が頼るモンスターは全て排除した。残るはミラクル・フォーリナーとオーシャン、ブラック・パンサーのみ。儚い壁にすぎぬ。まずは闇のカードの力をその身で味わえ! バトル! 地縛神 Uruでダイレクトアタック!」

「え!?」

 

 驚愕に目を見開く咲夜。だが攻撃宣言は受諾された。地縛神は壁モンスターを無視し、その巨体を動かし始めた。

 

「攻撃力3000のダイレクトアタッカーだと!? くっ。避けろ咲夜!」

 

 アテナの声が飛ぶ。だが無駄だ。いかにバトルフィールド内ならば身体能力が向上していようとも、そもそもの大きさ、攻撃範囲が違いすぎる。Uruの前肢のうち、右前方の足が動く。

 轟音。超広範囲の薙ぎ払いを前に、人間が二本の足で逃げることはできない。

 背後の街並みさえも文字通り薙ぎ倒し、死神の鎌のような一撃が咲夜に迫った。

 

「咲夜さん!」

 

 ロキに連れられて回避した和輝は、思わず叫んでいた。咲夜はその声に反応することもできず、全身を丸めた。

 直後、Uruの一撃が直撃した。

 咲夜の身体がボールみたいに跳ね、宙を舞う。悲鳴はない。彼女が押し殺した。

 地面に激突、ゴロゴロと二転、三転して止まった。

 

「咲夜さん!」

 

 駆けだす和輝。すでにデュエルディスクは起動している。神々の戦争のルール通り、アラクネーのターン終了時に乱入しようと決めた。

 その肩に、ロキの手がかけられた。

 

「待ちなよ、和輝」

「ロキ!?」

 

 咎めるような視線を向ける和輝に、ロキは苦笑。そして告げた。

 

「駄目だよ。これはアテナと、彼女の契約者が決着をつけなければならない戦いだ。ボクたちは、この一戦に関しては徹頭徹尾、部外者で、傍観者なんだ。見届けることしかできないし、してはならない。神話から続く恨みを受け止め、禊ぐのは、彼女たちの役目だ」

「その通りだ、少年」

 

 半透明のアテナが言った。腕を組んでいるが、反対の腕を握っている手指には力が籠りすぎていて白く変色している。

 アテナも耐えているのだ。傷つくパートナーを前に、何もできない子供の自分を自覚して。

 

「それに、この程度で倒れるような弱い人間を、私はパートナーにした覚えはない。そうだろう、咲夜?」

「…………その通り、よ」

 

 体をがたつかせながら、それでも咲夜は立ち上がった。胸の宝珠も傷一つついておらず、今も桃色の輝きを誇らしげにさらしている。

 

「このくらい……、何でもないわ」

 

 そう、どうってことない。アテナと一人、一柱、頼れる物のなかった孤独な毎夜に比べれば。そして、その闇から救い出してくれた男の子が見ている前で無様な姿は見せられない。

 それこそ、女がすたるというものだ。

 立ち上がる咲夜を見たアラクネーが不快気に鼻を鳴らした。

 

「ならば、貴様の手駒を徹底的に叩き潰すのみ。アラクネーでオーシャンを、ネオスでミラクル・フォーリナーを攻撃!」

 

 続行されるバトル。破壊される二体のモンスター。これで残るはブラック・パンサーのみ。実に心もとない状況だ。

 

「バトル終了。メインフェイズ2で、馬の骨の対価を発動! ネオスをリリースし、二枚ドロー! 永続魔法、フィールドバリアを発動し、ターンエンドだ!」

「あなたのターン終了時に、あたしは伏せていたリターン・オブ・ネオスを発動! 墓地のネオスを特殊召喚し、二枚ドロー!」

 

 咲夜の瞳に諦めの色はない。故に、彼女が頼りとするE・HERO ネオス(相棒)もまた、不屈の闘志で立ち上がるのだ。何度倒れても。

 

 

サイクロン:速攻魔法

(1):フィールドの魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。そのカードを破壊する。

 

地縛神 Uru 闇属性 ☆10 昆虫族:効果

ATK3000 DEF3000

「地縛神」と名のついたモンスターはフィールド上に1体しか表側表示で存在できない。フィールド魔法カードが表側表示で存在しない場合このカードを破壊する。相手はこのカードを攻撃対象に選択できない。このカードは相手プレイヤーに直接攻撃できる。また、1ターンに1度、このカード以外の自分フィールド上のモンスター1体をリリースする事で、相手フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を選択し、エンドフェイズ時までコントロールを得る。

 

馬の骨の対価:通常魔法

効果モンスター以外の自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体を墓地へ送って発動できる。デッキからカードを2枚ドローする。

 

フィールドバリア:永続魔法

このカードがフィールド上に存在する限り、お互いにフィールド魔法カードを破壊できず、フィールド魔法カードの発動もできない。「フィールドバリア」は自分フィールド上に1枚しか表側表示で存在できない。

 

リターン・オブ・ネオス:通常罠

「リターン・オブ・ネオス」は1ターンに1枚しか発動できない。(1):自分の墓地の「E・HERO ネオス」1体を特殊召喚する。その後、カードを2枚ドローする。

 

 

咲夜LP5400→2400→2000→1000手札3枚

アラクネLP3100手札1枚

 

「ぐ、く……。とはいえ、ちょっときついわね……」

 

 気丈にも立ち上がった咲夜だったが、やはり体に受けたダメージは大きい。ふらつきながら、それでも歯を食いしばって立ち続ける。

 その様を、アラクネーが嘲笑う。

 

「苦しいか? これが神話の時代から続く我が怨嗟の集大成よ。アテナに対する憎悪の顕現よ! 小娘、貴様もまた、アテナの従僕だというならば同罪! 惨たらしく殺してくれる!」

 

 アラクネーの全身から憎悪が発散される。それを受けて、アテナはなおも毅然と跳ねのけた。

 

「何度も言わせるな。貴様は貴様の増長を抑制できなかった。その姿は、私の力によって変化したが、()()なったのは貴様の傲慢故。どれほど織物の腕が素晴らしかろうと、その心根が濁っていては意味がない。そのことに、なぜ気づかなかった」

「黙れぇ! 神々さえも凌ぐこの腕、それを誇って何が悪い!」

「何も悪くはない。本来ならそうだったんだ。だが、全ては貴様自身が招いたこと。あの時代、主神への侮辱、冒涜がどういう意味を持っているのか、知らぬわけでもなかろうに」

 

 最後のアテナの声音には、かすかに憐みの情が含まれていた。

 

「それがなんだというのだ!」

 

 だがアラクネーの憎悪は薄れない。

 

「神々の論理を人に押し付けるな! 私は――――」

「もう、いいわ」

 

 静かな声で、咲夜はアラクネーの罵倒を遮った。軽く(かぶり)を振ってアラクネーを見据える。悲しみと、哀れみが宿った瞳だった。

 アラクネーがたじろいだ。「なんだ……その目は……」

 

「あなたの過去は、人間の立場からすればひどいものだと思うわ。でも、さっきも言ったけれど、()()()()()()()()()()()()。それが今からあなたを倒す理由。それともう一つ」

 

 咲夜は右手の人差し指を立てて、その後その指先をアラクネーに向けて突き付けた。

 

「怪物になり果てて、人間を害する以外に何もできなくなってしまったあなたを、これ以上野放しにできないからよ。人間だったころのあなたのためにも」

 

 ちらりと、アラクネーと、彼女が誇る地縛神 Uruを見る。

 

「あなたの憎悪を満たしたモンスター。そいつを倒して、怨念を断ち切ってみせる! あたしのターン、ドロー!」

 

 

「意気込みはいいけれど、どうするんだろう?」

 

 デュエルを観戦しているロキがそう言った。

 

「地縛神 Uru、あれは相当厄介なモンスターだね。今は地底のアラクネーがいるから、そちらを殴れるけれど、このままじゃあ攻撃もままならない。何しろ地縛神は攻撃できないモンスターだ。もしもアラクネーのモンスターがUruの身になった場合、国守さんは攻撃できない。おまけに、フィールド魔法を破壊すれば自壊する弱点も、フィールドバリアで補強済みときたもんだ」

「それは心配ない」

 

 傍らに和輝が口を挟んだ。彼は迷いのない瞳で咲夜を見つめ、

 

「咲夜さんのフィールドにはネオスとブラック・パンサーがいる。あの二体をコンタクト融合すれば、相手モンスターの効果を無効にできるブラック・ネオスが出せる」

「へぇ。つまり殴ることはできるわけだ。じゃあ、後はいかにしてこのターンで決着をつけるかだね。どの道Uruを何とかできるターンはここしかない」

 

 もしもUruを除去できないままターンを明け渡せば、ダイレクトアタックで咲夜のライフは0になる。決着をつけるならこのターンしかない。

 そんな彼らをよそに、咲夜はドローカードを確認していた。

 

 

「強欲で貪欲な壺発動! デッキトップから十枚を除外して、二枚ドロー!」

 

 来た。咲夜はそう言った。にこりと笑う。柔らかい、陽光のような笑み。どんな冷たい闇も払ってしまえそうな。

 

「行くわ! まずばニトロ・ユニットを地縛神 Uruに装備! そして、あたしのフィールドのE・HERO ネオスと、N・ブラック・パンサーでコンタクト融合!」

 

 咲夜が右手を勢いよく天へと振り上げた。次の瞬間、彼女のフィールドに残っていた二体のモンスターが一つに重なり合った。

 白い輝きが辺りを包み込んだ。

 

「異星の戦士よ、闇の力を受け、異能を剥がす宵闇の鎌となれ! コンタクト融合! 闇よ、帳を下ろせ。 E・HERO ブラック・ネオス!」

 

 光の中から、黒い影が現れた。

 ベースはネオス。色彩は白から黒へ。背には蝙蝠のような翼が一対生え、足の爪は鋭く、頭もまた、蝙蝠や、闇に生きる眷属を思わせる形状に変化していた。

 ばさりと翼で大気を一打ちし、闇のネオスが咲夜のフィールドに舞い降りた。

 

「ブラック・ネオス、効果発動! Uruの効果を無効にする!」

 

 ブラック・ネオスの眼光が鋭く光る。Uruが巨体を震わせた。投影されたカード画像から、見る見るうちに色が失せていった。

 

「く……。だがブラック・ネオスの攻撃力ではUruには届かん! そしてアラクネーを攻撃しても、一度だけならば守られる! 貴様のエースを犠牲にしてな!」

 

 アラクネーはそう吠えたが、虚勢だった。攻撃力が足りないからなんだというのだ。むしろそれでもUruを倒せる見込みがあるからこそ、咲夜はニトロ・ユニットをUruに装備したのではないのか?

 

「いいえ、その心配はいらないわ。なぜなら、このターンでUruを倒し、あなたのライフを0にする! その怨念を、ここで殺す! バトル! ブラック・ネオスで地縛神 Uruを攻撃!」

 

 運命の攻撃宣言が下る。翼をはばたかせて飛翔するブラック・ネオス。翻る翼がマントのように広がり、ブラック・ネオスの身体を包み込んだ。

 翼の先端が槍のように鋭く尖り、ドリルのように回転。一直線に地縛神Uruに向かっていく。

 

「ダメージステップに、手札のE・HERO オネスティ・ネオスの効果発動! このカードを捨てて、ブラック・ネオスの攻撃力を2500ポイントアップする!」

 

 ブラック・ネオスの勢いが増した。漆黒の翼が虹色に輝いた。

 ブラック・ネオスの一撃が地縛神Uruに激突する。激突の直後にUruの身体、頭部に埋没するブラック・ネオス。

 一瞬の沈黙。そして、Uruの背部が膨張、臨界点に達し、内側から破裂した。

 闇があふれ出る。

 豪雨にように降り注ぐ闇――地縛神 Uruの構成要素――を背後に、ブラック・ネオスが着地。地面を滑る。停止。一瞬後、轟音を上げて、Uruが爆発した。

 

「ぐ、く――――――! Gボールパークの効果発動! デッキから昆虫族を墓地に送り、戦闘ダメージを0にする!」

「無駄よ! これでダメージを0にできても、ニトロ・ユニットの効果が発動している!」

 

 咲夜がアラクネーに向けて指を突き付けた。決定的な出来事を告げる指。断罪の指を。

 

「あなたに、Uruの攻撃力分、3000ポイントのダメージを与える! そして、あなたの残りライフも丁度3000。これで終わりよ!」

 

 爆発の炎が意志もつ者ののごとき動きを見せ、八俣の蛇のようにアラクネーに向かって殺到。その身に食らいついた。

 

「ぎゃあああああああああああああああああああああああ!」

 

 アラクネーのライフが0になる。怪物になり果てた女の絶叫が響き渡った。

 

 

強欲で貪欲な壺:通常魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。(1):自分のデッキの上からカード10枚を裏側表示で除外して発動できる。自分はデッキから2枚ドローする。

 

ニトロユニット:装備魔法

相手フィールド上モンスターにのみ装備可能。装備モンスターを戦闘によって破壊し墓地へ送った時、装備モンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。

 

E・HERO ブラック・ネオス 闇属性 ☆7 戦士族:融合

ATK2500 DEF2000

「E・HERO ネオス」+「N・ブラック・パンサー」

自分フィールド上の上記のカードをデッキに戻した場合のみ、エクストラデッキから特殊召喚できる(「融合」魔法カードは必要としない)。フィールド上の効果モンスター1体を選択して発動できる。このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、選択したモンスターの効果は無効化される(この効果で選択できるモンスターは1体まで)。また、エンドフェイズ時、このカードはエクストラデッキに戻る。

 

E・HERO オネスティ・ネオス 光属性 ☆7 戦士族:効果

ATK2500 DEF2000

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できず、相手ターンでも発動できる。(1):このカードを手札から捨て、フィールドの「HERO」モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターの攻撃力はターン終了時まで2500アップする。(2):手札から「HERO」モンスター1体を捨てて発動できる。このカードの攻撃力はターン終了時まで、捨てたモンスターの攻撃力分アップする。

 

 

アラクネーLP0

 

 

「あ……ああ……」

 

 消えていくアラクネー。その怨念も、妄執も、全てここで消えていく。

 

「私の……不幸も……。私の……恨みも……。私の……怒りも……」

 

 消えてなくなっていく。

 

「アラクネー……」

 

 声が聞こえる。アラクネーは閉じかけてた瞼を上げた。その瞳が、咲夜を映した。

 咲夜は何も言わない。ただ、泣くのを我慢している子供のような表情をしていた。

 なぜそんな顔をしているのか分からない。だが、妙に心に残る。

 分からない。自分も昔は、あんな表情をしただろうか。

 ()()()()()()

 己を異形へと変えられて、身を焼くような怒りを燃やしていたアラクネーだったが、最期にその怨嗟の念を忘却し、崩れ落ちるように消えていった。

 

「覚悟していたけど、やっぱりちょっと後味悪いね」

 

 呟くような咲夜のセリフに答える声があった。アテナのものだ。

 

「すまん。咲夜。私の因縁に、お前をまたしても巻き込んでしまった」

「ん。いいのよ。あたしが好んで首を突っ込んだの。これは、あたしの意志」

 

 頷く咲夜の表情は、もう凛としたものに戻っている。そして和輝の方に向き直り、

 

「ごめんね、和輝君。なんかいろいろ言っていたけれど、結局あたしたちの事情に巻き込んじゃって」

「そんなことはない」

 

 和輝は首を横に振った。その心にあったもやもやは、完全に消えたわけではない。

 だが咲夜を見ていて思ったのだ。

 自分はもう、立ち位置を決めた。ならば――――

 

「後味の悪いもの、苦い心持ってのはこれからも得ていくんだと思う。けど、それを飲み込んで、なお戦うことはやめない。それでいいんだ、たぶん」

 

 微笑を浮かべる和輝。右手が自然、自身の左胸、心臓部に添えられる。

 これからも悩むかもしれない。後味の悪い苦みを得るかもしれない。

 けれどそれらを飲み干そう。そうして、前に進もう。辛いことを辛いままにして、傷だらけになっても。

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