神々の戦争   作:tuki21

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第85話:追想定理の記憶巨神

 深層五度の記録を再生。

 パートナーとして契約を交わしてから少し経ったある日、彼女はケーキを渡してきた。

 自分が作ったものだと、笑顔で告げた。

 食べてみてと言われたので、そうしてみた。

 口に含んだ時から、舌の上で甘みが広がった。

 初めての経験だった。甘く、舌の上で溶けていくような感覚。人の世になってから生み出された食物。

 おいしい? と聞かれたので、頷いた。

 よかった。と彼女は微笑んだ。

 初めて見る、小さいけれど穏やかな微笑だった。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 はっと龍次(りゅうじ)は息を吐いた。

 アリエティスとのデュエル。プロとのデュエルというだけでなく、その相手がティターン神族の一柱と契約していた。

 初めてのティターン戦。手痛いダメージを受けたが、幸い戦力は残せた。ならば反撃はできる。

 

「そのお菓子の国、無粋な刃物を通させてもらう」

 

 呟いて、龍次はまっすぐアリエティスと、その背後のムネモシュネを見据えた。

 

 

龍次LP5300手1枚

ペンデュラムゾーン赤:なし青:なし

モンスターゾーン H・C(ヒロイックチャレンジャー) サウザンド・ブレード、H・C アンブッシュ・ソルジャー

魔法・罠ゾーン 

フィールドゾーン なし

 

アリエティスLP5000手札3枚

モンスターゾーン M・Xセイバー インヴォーカー(攻撃表示、ORU(オーバーレイユニット):マドルチェ・ミィルフィーヤ、)、クィーンマドルチェ・ティアラミス(攻撃表示、攻撃力2200→2700ORU:マドルチェ・シューバリエ)、マドルチェ・プディンセス(攻撃表示、攻撃力1000→2300)

魔法・罠ゾーン マドルチェ・チケット,伏せ2枚

 

 

「俺のターンだ、ドロー!」

 

 不利な戦況に負けじと、声を張り上げてカードをドローする龍次。ドローカードを確認し、右手を払うように振るった。

 

「スタンバイフェイズ、アンブッシュ・ソルジャーの効果発動! このカードをリリースして、墓地からH・C 強襲のハルベルトと、H・C ソード・シールドを特殊召喚! さらにアステル・ドローンを召喚だ!」

 

 頭からダークグリーンのマントをかぶった戦士が消え去り、代わりに合われたのはハルベルトを構える戦士と、盾を前面に構えた戦士。それらの戦士たちの横に、杖を振るって星を振りまくファンシーな魔法使いが現れた。

 

「いくぞ! サウザンド・ブレードと強襲のハルベルトでオーバーレイ! 二体のモンスターで、オーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚!」

 

 龍次が振り上げた右手の延長上、その頭上に、渦巻く銀河を思わせる空間が展開。二体のヒロイックが二つの黄色の光となって、その渦の中に飛び込んだ。

 新しい誕生を祝福する、虹色の爆発が起こる。

 

「曇り無き王の聖剣、数多の闇を切り裂き王道を作りだす! いつか湖の貴婦人の手に返されるその日まで、輝きは消えはしない! 約束された勝利の剣、H-C(ヒロイックチャンピオン) エクスカリバー!」

 

 現れたのは、赤き戦士。

 赤い外装、黒銀の内装鎧。威風堂々と降り立ち、手にした聖剣を振るって雄叫びを上げた。

 

「さらに俺は、アステル・ドローンとソード・シールドをオーバーレイ! 二体のモンスターで、オーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚!

 出でよNo.(ナンバーズ)39! 希望の担い手、ここにあり! その優しき光で弱きものを守り通せ! 希望皇ホープ!」

 

 二体目のXモンスター。

 現れたのは、月とそこから溢れる月光のような、黄色と白の鎧姿の戦士。背にはウィングパーツ、腰の両脇に片刃の剣をそれぞれ一本ずつ下げ、左肩には自身のナンバーである「39」を刻んでいた。

 

「アステル・ドローンがX素材となったため、召喚先のホープの効果として、俺はカードを一枚ドロー! さらにエクスカリバーの効果発動! ORUを二つ使い、このカードの攻撃力を倍に! さらに手札のZW(ゼアル・ウェポン)阿修羅副腕(アシュラ・ブロー)の効果発動! このカードを、希望皇ホープに装備する!」

 

 龍次の手札から飛び出したカードが実体化する。その正体はホープをサポートするZW。分割したZWがホープの身体に装着される。ホープの肩上、脇横あたりに装着されたのは、刃持つ副腕。上腕、下腕、そして本来の腕を合したそれは阿修羅像を彷彿とさせる六本腕。

 

「阿修羅副腕を装備したことにより、ホープの攻撃力は1000アップ! さらに相手モンスター全てに一度ずつ攻撃できる!

 バトルだ! 希望皇ホープで、クイーンマドルチェ・ティアラミスに攻撃!」

「リバースカード、ダメージ・ダイエット発動! このターン、わたしが受ける全てのダメージは半分になる!」

 

 翻るアリエティスの伏せカード。だがそれは、ダメージを軽減こそすれ、攻撃そのものを止めることはできない。

 攻撃宣言を受けて、龍次の希望皇ホープが、背中のウィングパーツを展開させて飛翔。アリエティスのモンスターたちの頭上に移動後、急降下。一気に距離を詰める。

 最初の標的はマドルチェたちの女王。ティアラミスが反応するよりも早く玉座の眼前に着地。着地の衝撃で土煙が上がる。

 その土煙がホープの姿を隠した。即席の煙幕の中から銀閃が煌めき、ティアラミスを両断した。

 

「くぅ! わたしの墓地にモンスターが置かれちゃったから、マドルチェ・プディンセスの攻撃力は800ダウンするわ」

 

 ダメージのフィードバックが与える痛みに、アリエティスが顔をしかめた。半透明のムネモシュネがアリエティスの額に手を添えた。まるで、熱のある子供の額に、母親が手をやるように。

 

「痛みの記憶を抽出する。アリエティスが、痛みに呻くことはない」

 

 アリエティスの記憶が弄られる。龍次の表情に苦みがよぎる。その耳朶を、伊邪那岐の言葉が叩いた。

 

「躊躇してはいけません。たとえダメージが半分になろうとも、ここで攻めなければならない!」

「ッ! 分かってる! ホープでマドルチェ・プディンセス、インヴォーカーの順番で攻撃!」

 

 攻撃宣言は続く。ティアラミスを屠ったホープは、今度は副腕を使ってすぐ隣にいたマドルチェ・プディンセスを貫く。この際、アリエティスはマドルチェ・シャトーとマドルチェ・チケットの効果を発動。プディンセスを手札に戻し、デッキからマドルチェ・ホーットケーキを手札に加えた。

 菓子の国の住人はこうして全滅した。さらに返す刃で剣を構えたインヴォーカーを両断。アリエティスのモンスターを全て破壊する。

 

「エクスカリバーで、ダイレクトアタック!」

 

 がら空きになったフィールドを、聖剣の名を持つモンスターが駆ける。

 地を蹴った疾走は、戦士を赤い疾風に変えた。一瞬で距離を詰め、一閃。宝珠を確かに捉えたが、傷一つない。痛みの記憶を、苦しみの記憶を、心身から抜かれているアリエティスには、生半可な一撃は届かない。

 

()による一撃か、ムネモシュネ自体を倒したうえでの攻撃でないと、彼女の宝珠は傷つかないのかもしれませんね……」

「正規の参加者じゃないティターン神族だから、ある程度神の力をデュエル中にも作用させることができるのかもな……」

 

 無論それは、対戦相手に使えるものではないだろう。そして、大抵はマイナスの効果になるはずだ。記憶を司るムネモシュネだからこそ、こうしてデュエルに有効活用できるのだ。

 

「俺はこれでターンエンドだ」

 

 

アステル・ドローン 地属性 ☆4 魔法使い族:効果

ATK1600 DEF1000

このカードをエクシーズ召喚に使用する場合、このカードはレベル5モンスターとして扱う事ができる。また、このカードを素材としたエクシーズモンスターは以下の効果を得る。●このエクシーズ召喚に成功した時、デッキからカードを1枚ドローする。

 

No.39 希望皇ホープ 光属性 ランク4 戦士族:エクシーズ

ATK2500 DEF2000

レベル4モンスター×2

(1):自分または相手のモンスターの攻撃宣言時、このカードのX素材を1つ取り除いて発動できる。そのモンスターの攻撃を無効にする。(2):このカードがX素材の無い状態で攻撃対象に選択された場合に発動する。このカードを破壊する。

 

H-C エクスカリバー 光属性 ランク4 戦士族:エクシーズ

ATK2000 DEF2000

戦士族レベル4モンスター×2

1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を2つ取り除いて発動できる。このカードの攻撃力は、次の相手のエンドフェイズ時まで元々の攻撃力の倍になる。

 

ZW-阿修羅副腕 炎属性 ☆4 天使族:効果

ATK1000 DEF1000

自分のメインフェイズ時、手札または自分フィールド上のこのモンスターを、攻撃力1000ポイントアップの装備カード扱いとして自分フィールド上の「希望皇ホープ」と名のついたモンスターに装備できる。装備モンスターは相手フィールド上の全てのモンスターに1回ずつ攻撃できる。「ZW-阿修羅副腕」は自分フィールド上に1枚しか表側表示で存在できない。

 

ダメージ・ダイエット:通常罠

このターン自分が受ける全てのダメージは半分になる。また、墓地に存在するこのカードをゲームから除外する事で、そのターン自分が受ける効果ダメージは半分になる。

 

 

No.39 希望皇ホープ攻撃力2500→3500、ORU×2

 

 

龍次LP5300手札1枚

アリエティスLP5000→4050→3650→2650→650手札5枚

 

 

「わたしのターンね、ドロー!」

 

 快活な声で、勢いよくカードをドローするアリエティス。その姿を見て、龍次は思う。アリエティスの身体にダメージはない、どころか汚れさえもない。苦痛に関するあらゆる記憶を、ムネモシュネによって抽出されているためだ。

 これではただモンスターで攻撃するだけではアリエティスの宝珠を砕けない。伊邪那岐が言うように、神を召喚し、その一撃で倒すか、もしくは、有無を言わせぬ超火力で圧倒するか。

 龍次のデッキならどちらも可能だが、今の手札は僅か一枚。フィールドはほぼ制圧しているが、これでは宝珠を砕くまで持っていけるかわからない。

 と、そんな龍次の思考を置き去りに、アリエティスがカードを操る。

 

「リバースカード、オープン! マドルチェ・ハッピーフェスタ! 手札から出勤よ! おもてなして、マドルチェ・ホーットケーキ、マドルチェ・プディンセス、マドルチェ・マーマメイド!」

「何!?」

 

 目を見開く龍次の眼前で、次々に現れるマドルチェモンスターたち。マドルチェ・シャトーやマドルチェ・チケットによって手札に溜め込んだモンスターが放出される。

 二体はさっきも登場したマドルチェ。最後の一体は穏やかな笑みを浮かべたメイド。

 

「く……。レベル4のマドルチェが揃った……」

 

 この事実が龍次には恐ろしい。二体目のティアラミスが来れば、龍次の戦線は瓦解しかねない。

 だがティアラミスの効果に気を取られて、龍次は失念していた。もう何度も目にした光景のはずなのに、失念した。本当に恐ろしいのはランク4のX召喚の布陣が整ったことではなく、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「いくわよー。準備はいい? ここからがメインディッシュなの!」

 

 にこりと笑うアリエティス。一児の母とは思えぬ快活さと、溢れんばかりの生命力。半透明のムネモシュネが、ゆるりと前屈みになった。

 

「三体のモンスターをリリース! おいでませ、追想定理の記憶巨神ムネモシュネ!」

「来ますか、ティターン神族!」

 

 戦慄を滲ませて、伊邪那岐が叫んだ。一人と一柱、その眼前で、アリエティスのモンスターたちの姿がまるで糸人形のように()()()()

 糸のようにほつれていくモンスターたち。その残滓が圧倒的力を迎え入れる門を造る。

 門を通って現れる巨大な「力」。

 銀色の肌、六本の腕、青と赤に色分けされた四つの瞳、その身を覆う袖のないローブ。

 

「我は記憶する。そして記録を司る。このデュエルの記録もまた同じ」

 

 冷たく響く金属質な声。ついに現れた敵の大本命に、龍次は身構えた。

 

「この瞬間! ムネモシュネの効果発動! ムネモシュネ以外の全てのフィールド、手札、墓地のカードを持ち主のデッキに戻し、新たに五枚ドローする! さらに、この効果に対して、相手はいかなるカードも発動できない!」

「なんだと!?」

 

 リセット効果、それも絶対に邪魔できない効果。しかもムネモシュネ自体は場に残る。つまり、ドローする手札次第では何もできないまま神によるダイレクトアタックを受ける。

 驚愕する龍次と伊邪那岐の前で、ムネモシュネが冷徹な声を上げた。

 

「この戦いの記録を遡る。検索――――照合。我以外、この記録を回帰させる!」

 

 パン! と、ムネモシュネの三対の腕が合掌した。次の瞬間、フィールド上、龍次とアリエティスの中間地点の空間が歪曲しだした。

 歪み、捻じれる空間。そして、音さえも置き去りにしていく。

 

「これ、は――――」

 

 自分たちのフィールドに何が起きているのかわからぬ龍次。その眼前で異変は起こる。

 龍次とアリエティス。両者のフィールド、墓地、手札、全てのカードがひとりでに浮き上がり、それぞれのデッキに舞い戻った。

 デュエルディスクが勝手に動き出し、デッキをシャッフル。改めて、初期の手札となる五枚がそれぞれのプレイヤーの前に提示された。

 ライフ以外全ては元通り。例外は、このリセットを巻き起こした張本人、ムネモシュネのみ。

 

「まずい! これでは、神の一撃をまともに受けてしまう! 龍次!」

「わかってる。が、どうにもならねぇ」

 

 耐えるしかない。龍次は覚悟を決めた。だがアリエティスの行動は、そんな龍次の覚悟の分量を試すものだった。

 

「残念だけど、まだバトルフェイズには入らないわ。わたしの墓地にモンスターが存在しないため、手札のマドルチェ・プティンセスールを特殊召喚するわ!」

 

 現れたのは、小柄な少女。

 ふわふわの金の髪、白のドレス、あどけない無垢なる笑み。可憐なるマドルチェたちの妹分。

 

「ここで、マドルチェ・プティンセスールの効果を発動よ! このカードの特殊召喚に成功したため、デッキからマドルチェ・プディンセスを特殊召喚! さらにマドルチェ・プディンセスのレベルは一つ下がるわ。

 そして、レベル4になったマドルチェ・プディンセスと、マドルチェ・プティンセスールでオーバーレイ! 二体のモンスターで、オーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚! もう一度おいでませ、クイーンマドルチェ・ティアラミス!」

 

 X召喚のエフェクトが走り、虹色の爆発が迸る。その向こうから玉座に坐して微笑む、お菓子の国の女王が現れる。

 

「ここで、ティアラミスの効果発動。ORUを一つ使うけど、カードをデッキには戻さない。つまり、君のカードをバウンスすることもないわ」

 

 一見、何の意味もない、ただ効果の無駄打ち。

 無論、意味がないはずなど無い。ゆえにここでは終わらない。なぜならば、龍次のフィールドにカードがない以上、ここでティアラミスを出してもただの攻撃力2200のモンスターでしかない。

 ゆえに、もう一手。

 

「クイーンマドルチェ・ティアラミスを、オーバーレイ! 一体のモンスターで、オーバーレイネットワークを再構築! ランクアップ・エクシーズチェンジ! お菓子の国は千客万来。その将来は明るく、万人に開かれる! おいで、マドルチェ・プディンセス・ショコ・ア・ラ・モード!」

 

 二回目のXエフェクト。今度はクイーンマドルチェ・ティアラミス一体が、黄色い光となって頭上の異空間へと飛び込んだ。

 虹色の爆発、現れる小柄な影。

 それは、マドルチェ・プディンセスが少し成長した姿。チョコレートの色をしたドレス、ティアラをまとった少女。腰に手を当て、誇らしげに胸を張っている。

 攻撃力2500、攻撃力3000のムネモシュネと合わせた総攻撃力は5500、龍次の残りライフ5300を消し飛ばすには十分すぎる。

 

「まだ駄目押し! マドルチェ・プディンセス・ショコ・ア・ラ・モードの効果発動! 墓地のマドルチェ・プティンセスールをデッキに戻すわ。そしてこの瞬間、マドルチェ・プディンセス・ショコ・ア・ラ・モードの更なる効果! ORUを一つ使って、デッキからマドルチェ・シューバリエを特殊召喚!」

「ッ! 三体目のモンスターか!」

 

 龍次の手札に防御系のカードがあっても、手数で圧し潰すつもりか。龍次の頬を冷や汗が一滴伝って落ちた。

 

「バトル! 追想定理の記憶巨神ムネモシュネでダイレクトアタック!」

 

 攻撃宣言が下る。ムネモシュネがゆっくりと動き出した。

 三対の両手を、翼のように広げる。鉄のように冷たい唇が開かれ、硬質感溢れる声を紡いだ。

 

「この場に、地面の記録はない」

「!?」

 

 直後、龍次を襲ったのは全身の浮遊感。

 

「な――――」

 

 突然空中に投げ出されたような感覚。否、()()()ではない。実際に龍次の身体は宙に浮いていた。

 慌てて下を見る。地面がない。地面があったはずの空間は暗い空洞。

 だが落下する感覚はない。龍次の身体は宙に貼り付けられたように止まっていた。

 

「龍次! 宝珠を守って!」

 

 切迫した伊邪那岐の声が混乱する龍次の耳朶と意識を叩いた。とにかく宝珠を守ろうと体を丸める。まるで水の中にいるかのような緩慢とした動作だったが、何とか間に合った。

 直後、龍次の全身を衝撃が叩いた。

 

「がああああああああああああああ!」

 

 絶叫が喉から迸る。何が起こったのか、龍次の主観は分からない。

 客観的に見ていた伊邪那岐には分かった。ムネモシュネの六つの手のひらから銀色の光が放たれ、それらが複雑な軌道を描いてレーザーのように龍次を集中攻撃したのだ。

 

「この地の記録は、元に戻る」

 

 ムネモシュネが再び言葉を紡いだ。途端、先ほどまで確かに深くて暗い(うろ)だったその場所は、元の広場の地面となった。

 背中から叩きつけられる龍次。その痛みが覚醒を促した。

 即座に状況確認。

 体を激痛が縛り付ける。同時に、両ひざから力が抜けた。

 

「が……!」

 

 膝を付く。胸元に違和感。痛みというよりも喪失感。

 見れば、龍次の胸元、そこに輝く宝珠に罅が入っていた。

 

「な――――」

 

 絶句する龍次。その脳裏を、脱落の二文字が駆け巡る。

 弱気が心を浸食しに来た。同時、宝珠の罅が広がった。

 

「う、おおおおおおおおおおおおお!?」

 

「落ち着いてください、龍次。神の攻撃によって宝珠に罅が入りましたが、まだ砕けていない。脱落ではありません。加えて言うなら、このデュエルに勝ちさえすれば、後で宝珠は修復できます。だからどうか取り乱さないで。精神の動揺が、そのまま宝珠の強度に影響します。師である穂村崎殿も言っていたでしょう? 精神を強固に。揺らがぬ心、水のように動じず、受け流す精神。それこそが、神々の戦争における守りの極意だと」

 

 そうだった。龍次は、穂村崎の許で修行をしていた時に言われたことを思い出した。

 

 君はまるで火のようだ。と穂村崎は言った。

 炎のような激しい気性。そして、焦りから来る前のめりで攻撃的な姿勢。それは攻勢に出た時は強みとなる。

 だが激しすぎる炎はやがて自分自身を燃やし尽くす。ゆえに、水の心が必要だという。

 その時龍次には穂村崎の言っていることが分からなかったし、今も理解できない。だから、火のように燃えるしかない。今は、それだけでいい。

 心を燃やす。勝つために。宝珠を守るために。目的を遂げるために!

 

「だから、戦いを、続けないと、なぁ……! 手札のH・C 報復のデスサイズの効果発動! 俺が戦闘ダメージを受けた時、手札のこのカードを守備表示で特殊召喚する!」

 

 龍次のフィールドに現れる影。黒いアーマー、黒のバイザー、その身を覆う黒のローブ、漆黒の、身の丈ほどの大鎌。アーマーを除けば、まさしくタロットカードの死神そのままの外見のモンスター。

 

「報復のデスサイズの効果発動! 自身の効果で特殊召喚に成功した時、相手カード一枚を破壊する! 俺はマドルチェ・プディンセス・ショコ・ア・ラ・モードを破壊!」

 

 召喚された死神が鎌を振るう。まだ距離があったにもかかわらず、ショコ・ア・ラ・モードは膝を付き、苦し気に呻きだした。

 

「あっ!」

 

 アリエティスが叫んだ時にはもう遅い。姫たる少女はそのまま消滅した。

 

「うーん……、報復のデスサイズの守備力は2000かぁ……。じゃあ、シューヴァリエが攻撃しても無駄だね。バトルを終了。そしてミスト・ボディをムネモシュネに装備するわ。それから、カードを二枚セットして、ターン終了。そしてこの瞬間、ムネモシュネの更なる効果発動! 自分または相手ターン終了時、わたしのライフを8000にする!」

「はぁ!?」

 

 素っ頓狂な声を上げて、龍次の両眼が見開かれた。その眼前、さっきまで三桁だったはずのアリエティスのライフは、初期の8000に戻った。勿論、龍次のライフは3000を切ったままだ。

 

「それじゃあ、改めて、ターン終了ね」

 

 

マドルチェ・ハッピーフェスタ:通常罠

手札から「マドルチェ」と名のついたモンスターを任意の数だけ特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターはエンドフェイズ時に持ち主のデッキに戻る。

 

追想定理の記憶巨神ムネモシュネ 神属性 ☆10 幻獣神族:効果

ATK3000 DEF3000

このカードは特殊召喚できない。このカードは3体のモンスターをリリースしてのみ通常召喚できる。(1):このカードは神属性、幻神獣族モンスターの効果以外のカード効果ではフィールドを離れず、コントロールも変更されない。(2):このカードが相手のカードの効果を受けた時、エンドフェイズにこのカードに対するそのカード効果を無効にする。(3):このカードの召喚に成功した時に発動する。このカード以外のすべてのフィールド、墓地、手札のカードを持ち主のデッキに戻し、シャッフルする。その後、カードを5枚ドローする。この効果の発動に対して相手はカードの効果を発動できない。(4):自分または相手ターン終了時に発動する。自分のライフは8000になる。

 

マドルチェ・プティンセスール 地属性 ☆4 天使族:効果

ATK1400 DEF1400

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。(1):自分の墓地にモンスターが存在しない場合に発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。(2):このカードが特殊召喚に成功した場合に発動できる。手札・デッキから「マドルチェ・プティンセスール」以外の「マドルチェ」モンスター1体を特殊召喚する。そのモンスターのレベルは1つ下がる。このターン、自分は「マドルチェ」モンスターしか特殊召喚できない。(3):このカードが相手によって破壊され墓地へ送られた場合に発動する。このカードをデッキに戻す。

 

マドルチェ・プディンセス・ショコ・ア・ラ・モード 地属性 ランク5 天使族:エクシーズ

ATK2500 DEF2200

地属性レベル5モンスター×2

このカードは自分フィールドのランク4以下の「マドルチェ」Xモンスターの上にこのカードを重ねてX召喚する事もできる。(1):1ターンに1度、自分の墓地の「マドルチェ」カード1枚を対象として発動できる。そのカードをデッキに戻す。(2):このカードが「マドルチェ・プディンセス」をX素材としている場合に自分の墓地の「マドルチェ」カードがデッキに戻った時、このカードのX素材を1つ取り除いて発動できる。デッキから「マドルチェ」モンスター1体を表側攻撃表示または裏側守備表示で特殊召喚する。

 

H・C 報復のデスサイズ 闇属性 ☆4 戦士族:効果

ATK2000 DEF2000

このカード名の(1)の方法による特殊召喚は1ターンに1度しかできない。このカードは通常召喚できない。(1):自分が戦闘、または効果ダメージを受けた時、手札のこのカードを特殊召喚できる。(2):(1)の方法で特殊召喚に成功した時、相手フィールド上のカード1枚を対象に発動する。そのカードを破壊する。(3):???

 

ミスト・ボディ:装備魔法

装備モンスターは戦闘では破壊されない。

 

 

龍次LP5300→2300手札4枚

アリエティスLP650→8000手札1枚

 

 

「俺のターンだ、ドロー!」

 

 反撃、と行きたいが、今の龍次の手札ではアリエティスの布陣を崩すことはできない。ほかのモンスターはともかく、ムネモシュネは厄介だ。

 神本来の耐性によって、神属性、幻獣神族モンスター以外の効果ではフィールドを離れない上に、ミスト・ボディによって戦闘破壊もできない。さらに半端な超過ダメージを与えても、ターン終了時にアリエティスのライフは8000になるので無意味だ。

 

「龍次、気をしっかり保ってください。少しの精神的緩みが、そのまま宝珠の崩壊につながりかねません」

「つまり、綱渡りってわけか。糞ったれ」

 

 悪態をつきつつも、龍次の思考は冷静だ。

 現状、ムネモシュネをどうこうできない。ならばすることは一つ。

 防御を固める。

 

「俺は、H・C ダルク・フラッグを召喚!」

 

 現れたのは、桃色のバトルアーマーを身に纏った戦士。メットからはきめ細やかな金髪があふれ、体つきも女性の肢体。手にはいくつもの剣を重ね合わせたような紋章が入った旗。

 Pモンスターだが、今必要なのはモンスター効果だ。

 

「ダルクフラッグのモンスター効果発動! 召喚成功時、手札からレベル4以下の戦士族モンスター一体を特殊召喚できる! さらにこの時、ヒロイックモンスターを特殊召喚すれば、カードを一枚ドローする! 俺は手札から、H・C 夜襲のカンテラを特殊召喚! ヒロイックの特殊召喚に成功したため、カードを一枚ドロー!」

 

 ドローカードの確認を一瞥で済ませ、龍次は右手を天高く振り上げた。

 

「俺のフィールドにヒロイックが存在するため、手札から、H・C 早駆けのファルシオンを特殊召喚! 夜襲のカンテラと報復のデスサイズでオーバーレイ! 二体のモンスターで、オーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚! もう一度だ、No.(ナンバーズ)39 希望皇ホープ!」

 

 再び現れる、月光を固めたような色をした鎧を身に纏った白い戦士。盾にもなるウィングパーツは収納した状態で、ただ剣を振るって龍次のフィールドに降り立った。

 ホープが龍次のフィールドにX召喚された時、アリエティスの手札を持たない右手の指がピクリと動いた。

 が、反応はそれだけだ。アリエティスは相変わらず内面の読めない微笑を浮かべているし、デュエルディスクに手を伸ばしてもいない。現に、彼女のフィールドに伏せられたカードはどれも反応していない。が、龍次は今の行動が気になった。

 

「報復のデスサイズを素材としてX召喚に成功したため、ホープの効果として、発動するものがある! それは相手表側表示モンスター一体の破壊だ! 俺はマドルチェ・シューバリエを破壊!」

 

 ガラスが砕けるような音を立てて、お菓子の国の騎士が破壊された。

 とりあえず、相手の戦力を一つ潰したうえで、龍次は考える。ホープX召喚時のアリエティスの反応。あれは、カウンター罠を発動しようとしたのではないか?

 例えば、神の警告のような、召喚を無効にするタイプ。

 穂村崎の教えを思い出す。冷静に観察する目を養えと、彼女は言った。

 全体を俯瞰しろ。相手の行動の真意を読め。

 考えて、考えて、限りなく正解に近づいて行け。

 そして結論を出した。アリエティスが伏せたのはやはり召喚に対するカウンターだ。

 さっき、龍次の場には四体のレベル4モンスター。X召喚を二回行える。

 希望皇ホープに使わなかったのは、ホープの防御効果は数でごり押しできると考えたからだろう。

 ではどんなXモンスターならば止めたいか? 龍次のデッキはヒロイックだ。そして、プロであるアリエティスならカードの知識は豊富なはず。

 

(H-C ガーンデーヴァ……)

 

 おそらく間違いはないと、龍次は思う。ガーンデーヴァは一ターンに一度といえど、特殊召喚したレベル4以下のモンスターを破壊できる。マストカウンターを見極める必要はあるが、アリエティスからすればリスクは負いたくない。召喚を阻害するカードが一枚だけならば、確実に止めたいのはガーンデーヴァのはず。

 

(試してみるか)

 

 通ろうが通るまいが、龍次の損は少ない。ガーンデーヴァが場に居座るのはいいことだし、アリエティスがカウンターの罠を発動すれば、それはそれで厄介な罠を一つ消費させたことになる。

 決まれば躊躇はない。早速行動に移す。

 

「俺は! 早駆けのファルシオンとダルク・フラッグでオーバーレイ! 二体のモンスターで、オーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚! 撃ち落とせ、H-C ガーンデーヴァ!」

 

 ガーンディーヴァがX召喚された。さぁ答え合わせだ。アリエティスの反応はどうか?

 

「それはダメ! リバーストラップ、神の警告! 2000ライフを払って、ガーンディーヴァのX召喚を、無効にして破壊する!」

 

 龍次の予想が当たった。眼前でガーンディーヴァが蜃気楼のように消えていくが、思惑通りの結果に龍次は内心で満足した。

 

「とはいえ、ホープだけじゃあこちらも攻められないな。カードを三枚セットして、ターンエンドだ!」

 

 そしてこのターン終了とともに、ムネモシュネの効果でアリエティスのライフは再び8000に戻った。この効果ゆえに、アリエティスは多くのライフを使用するカードを発動できる。厄介だ。

 

 

H・C ダルク・フラッグ 光属性 ☆4 戦士族:ペンデュラム

ATK1600 DEF2000

Pスケール8

P効果

???

モンスター効果

(1):このカードの召喚に成功した時に発動できる。手札かからレベル4以下の戦士族モンスター1体を特殊召喚する。この効果によって「ヒロイック」モンスターを特殊召喚した時、カードを1枚ドローする。

 

H・C 夜襲のカンテラ 地属性 ☆4 戦士族:効果

ATK1200 DEF300

このカードが相手フィールド上に守備表示で存在するモンスターを攻撃した場合、ダメージ計算前にそのモンスターを破壊できる。

 

H・C 早駆けのファルシオン 地属性 ☆4 戦士族:効果

ATK1600 DEF1300

このカード名の(1)の方法による特殊召喚は1ターンに1度しかできない。(1):自分フィールドに「ヒロイック」モンスターが存在する場合、このカードは手札から特殊召喚できる。(2):このカードを素材とした「ヒロイック」エクシーズモンスターは以下の効果を得る。●このエクシーズ召喚に成功した時、デッキからカードを1枚ドローする。

 

H・C 報復のデスサイズ 闇属性 ☆4 戦士族:効果

ATK2000 DEF2000

このカード名の(1)の方法による特殊召喚は1ターンに1度しかできない。このカードは通常召喚できない。(1):自分が戦闘、または効果ダメージを受けた時、手札のこのカードを特殊召喚できる。(2):(1)の方法で特殊召喚に成功した時、相手フィールド上のカード1枚を対象に発動する。そのカードを破壊する。(3):このカードを素材とした戦士族Xモンスターは以下の効果を得る。●このX召喚に成功した時、相手表側表示モンスター1体を対象に発動できる。そのモンスターを破壊する。

 

H-C ガーンディーヴァ 地属性 ランク4 戦士族:エクシーズ

ATK2100 DEF1800

戦士族レベル4モンスター×2

相手フィールド上にレベル4以下のモンスターが特殊召喚された時、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除く事で、その特殊召喚されたモンスターを破壊する。この効果は1ターンに1度しか使用できない。

 

神の警告:カウンター罠

(1):2000LPを払って以下の効果を発動できる。

●モンスターを特殊召喚する効果を含む、モンスターの効果・魔法・罠カードが発動した時に発動できる。その発動を無効にし破壊する。

●自分または相手がモンスターを召喚・反転召喚・特殊召喚する際に発動できる。それを無効にし、そのモンスターを破壊する。

 

 

龍次LP2300手札0枚

アリエティスLP8000→6000→8000手札1枚

 

「わたしのターンね、ドロー! 壺の中の魔術書発動! 互いに三枚ドローね!」

 

 一気に三枚のカードをドローする二人。増えた手札を吟味。龍次は沈黙し、ふむふむと頷いたアリエティスはさっそく動いた。

 

「死者蘇生発動! わたしの墓地からマドルチェ・プディンセス・ショコ・ア・ラ・モードを特殊召喚! さらにもう一度、マドルチェ・シャトーを発動! 墓地のマドルチェを全てデッキに戻すわね」

 

 再び発動された、マドルチェを全体強化するフィールド魔法。ショコ・ア・ラ・モードの攻撃力は3000、希望皇ホープを超えた。

 

「マドルチェ・エンジェリーを召喚。そして効果発動! 自身をリリースして、デッキからマドルチェ・ホーットケーキを特殊召喚!」

 

 アリエティスの展開は止まらない。覇気のある笑顔でさらに続ける。

 

「まだまだ行くわよー! マドルチェ・ホーットケーキの効果発動! 墓地のマドルチェ・エンジェリーを除外して、デッキからマドルチェ・クロワンサンを特殊召喚!

 ここで、マドルチェ・ホーットケーキと、マドルチェ・クロワンサンをオーバーレイ! 二体のモンスターで、オーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚!

 お菓子の国は年中無休の千客万来! 今日のお客様は耀く音色の吹管楽器の担い手様! いらっしゃいませ、管魔人メロメロメロディ!」

 

 虹色の爆発の向こう、現れたのは、ふわふわとした緑色の髪をして巨大な吹管楽器に跨った、小さな角をはやした女の子。

 

「メロメロメロディのモンスター効果発動! ORUを一つ使って、このカードに二回攻撃を付与! それと、ショコ・ア・ラ・モードの効果発動! この効果で、 いまORUとして使われたマドルチェ・ホーットケーキはデッキに戻るけど、マドルチェ・シャトーの効果で、手札に戻すわね。

 バトルよ! ショコ・ア・ラ・モードで希望皇ホープに攻撃!」

 

 ついに攻勢が始まる。

 ショコ・ア・ラ・モードが笑顔のまま手を振るう。その手の動きに合わせて現れたのは、巨大なプリンの形をしたエネルギーの塊。それがホープの頭上に出現。一気に速度をつけて落下してきた。

 

「くっ! 希望皇ホープの効果発動! ORUを一つ使い、攻撃を無効にする!」

 

 龍次の宣言と同時、ホープの周囲を回っていた光球の一つが消失。ホープのウィングパーツが展開される。だがウィングパーツが開ききる前に、アリエティスの声が走った。

 

「それはダメ! リバースカートオープン! 魔導人形の夜! これでホープの効果を無効にするわ!」

 

 モンスター効果を無効にするカウンター罠。これでホープを機能不全にしたうえで、自分の軍勢で叩く。アリエティスはそう思っていた。

 だが龍次は喰らいついた。

 

「させねぇよ! こっちもカウンターだ! リバーストラップ、トラップ・ジャマー!」

 

 負けじと、龍次の伏せカードも翻る。発動した罠の効果によって、魔導人形の夜の効果は消失。結果、ホープは十全に己の効果を発動できた。

 ホープ自身が体を丸めるように背を上に。ウィングパーツが盾となってプリンのエネルギーを受け止め、身を回す動きで弾き飛ばす。

 

「けれどこれで、君の盾はあと一枚! ムネモシュネでホープを攻撃!」

 

 ムネモシュネの六手、その掌から銀色の光線が放たれる。

 いくつも蛇のようにうねりながら迫る一撃に対して、龍次の選択は一択だ。

 

「再び希望皇ホープの効果発動! ORUを一つ使い、攻撃を無効に!」

 

 銀色の光線のことごとくを、ホープが防いだ。主には一切攻撃を届かせまいという意志を感じた。

 だがそれもここまでだ。ホープのORUは尽きた。

 

「今度は防げるかしら? メロメロメロディでホープを攻撃!」

 

 攻撃宣言が下る。メロメロメロディが吹管楽器に乗ったまま突撃をかける。

 その瞬間、ホープは自身の効果によって破壊された。

 これはメロメロメロディが攻撃に入る前に行われた処理だ。つまり――――

 

「相手モンスターの数が消えたから、攻撃の巻き戻しが行われるわ! メロメロメロディでダイレクトアタック!」

 

 二回攻撃を行えるメロメロメロディの攻撃を全て受ければ龍次の敗北だ。当然、龍次もそれは分かっている。だからこそ、ここで終われぬと、デュエルディスクのボタンを押した。

 

「通さねぇ! リバースカード、エクシーズ・リボーン発動! 墓地の希望皇ホープを特殊召喚し、このカードを下に重ねてORUにする!」

 

 勇ましい雄叫びとともに復活するホープ。再び主を守る盾としてアリエティスの前に立ちはだかる。

 

「うーん……。これじゃあ攻撃は無理ね。攻撃を中断して、バトルフェイズを終了。カードを一枚伏せて、ターン終了よ」

「待った。ターン終了時に、俺は伏せていた活路への希望を発動。1000ライフを払い、俺とプロのライフ差は6000以上なため、三枚ドロー!」

 

 

壺の中の魔術書:通常魔法

「壺の中の魔術書」は1ターンに1枚しか発動できない。(1):互いのプレイヤーはカードを3枚ドローする。

 

死者蘇生:通常魔法

(1):自分または相手の墓地のモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを自分フィールドに特殊召喚する。

 

マドルチェ・クロワンサン 地属性 ☆3 獣族:効果

ATK1500 DEF1200

このカードが相手によって破壊され墓地へ送られた時、このカードをデッキに戻す。また、1ターンに1度、このカード以外の自分フィールド上の「マドルチェ」と名のついたカード1枚を選択して発動できる。選択したカードを手札に戻し、このカードのレベルを1つ上げ、攻撃力を300ポイントアップする。

 

管魔人メロメロメロディ 光属性 ランク3 悪魔族:エクシーズ

ATK1400 DEF1600

レベル3モンスター×2

1ターンに1度、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除き、自分フィールド上の「魔人」と名のついたエクシーズモンスター1体を選択して発動できる。このターン、選択したモンスターは1度のバトルフェイズ中に2回攻撃する事ができる。

 

魔導人形の夜:カウンター罠

自分の墓地にモンスターが存在しない場合に発動できる。効果モンスターの効果の発動を無効にする。自分フィールド上に「マドルチェ・プディンセス」が存在する場合、さらに相手の手札をランダムに1枚デッキに戻す。

 

トラップ・ジャマー:カウンター罠

バトルフェイズ中のみ発動する事ができる。相手が発動した罠カードの発動を無効にし破壊する。

 

エクシーズ・リボーン:通常罠

(1):自分の墓地のXモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚し、このカードを下に重ねてX素材とする。

 

活路への希望:通常罠

(1):自分のLPが相手より1000以上少ない場合、1000LPを払って発動できる。お互いのLPの差2000につき1枚、自分はデッキからドローする。

 

 

龍次LP2300→1300手札6枚

アリエティスLP8000手札1枚

 

 

「俺のターンだ、ドロー!」

 

 仕留め損ねた。この事実が、ムネモシュネの胸中に暗雲を広げる。

 往々にしてあることだ。記憶を手繰ればわかる。人間は追い詰められれば心が折れ、跪く。

 だが稀にいるのだ。屈服したと思った状況から立ち上がり、逆境を覆すものが。

 人間の中にある強大さ、逞しさ。歴代の英雄たちを引き合いに出すまでもない。誰もが持っていて、しかし誰もが扱えるわけではない、屈せぬ心。ああそれは、神々さえも凌駕するやもしれない。

 

「龍次、相手のライフは一ターンで削り切らなければ回復する、ほぼ無尽蔵。このままじり貧になりますか?」

「いいや、ならない!」

 

 伊邪那岐の問いかけに、龍次ははっきりと答えた。

 

「このターンで決める。一気に削って終わりだ。俺はサイクロンを発動! ターナープロの伏せカードを破壊する!」

 

 一陣の風が刃となる。音立て迫る風の刃。それがアリエティスの足元に伏せられたカードを切り刻む。

 カードの正体はマドルチェ・ティーブレイク。こちらの魔法や罠を妨害するカウンター罠。

 

「うわっち、これはまずいかなぁ」

 

 破壊された己のカウンター罠を見て、アリエティスが天を仰いで後頭部を掻いた。

 伊邪那岐が顎に手を当て行った。「相手の戦術、戦略にこれ以上付き合うのは得策ではない。ならば――――」

 龍次が力強く頷いて応じた。「このターンで、決着をつける!」

 叫び、手札からカードを一枚引き抜き、叩きつけるようにデュエルディスクにセット。そのカードの名を高らかに叫ぶ。

 

RUM(ランクアップマジック)-ヌメロン・フォース! これで、俺の希望皇ホープをランクアップさせる!」

 

 黄金の光が天から降り下りた。

 それは進化の光。新しい姿を獲得するための門。

 ホープがウィングパーツを展開させて飛翔する。目指す先は当然、新しい姿を得るための“場”。ランクアップの場だ。

 

「俺は、希望皇ホープをオーバーレイ! モンスター一体で、オーバーレイネットワークを再構築! ランクアップ・エクシーズチェンジ!」

 

 黄金の輝きに飛び込むホープ。その姿が様変わりする。

 

「白き異界の力、滅びを切り裂く刃となる! 今、希望は進化する! カオスエクシーズチェンジ! CNo.39 希望皇ホープレイ・ヴィクトリー!」

 

 白をベースとしたアーマー、燃え上がる炎のような真紅の腕、さらに二本の、同じく真紅の補助アーム。ウィングパーツを力強く広げ、四本の腕それぞれに剣を持った姿は仏敵を打ち滅ぼす仁王の如し。その左肩には赤く刻まれたナンバー、39。

 

「これこそが俺の希望の進化した姿! そして、ヌメロン・フォースの効果発動! ホープレイ・ヴィクトリー以外の表側表示カードの効果を無効にする!」

 

 がくんと、ムネモシュネの身体が傾いた。六つの手のひらが大地をつき、体を支える。

 

「ぐ……あ……。我が力、が……」

「失われる! デュエルのカードである以上、神とて同じ!」伊邪那岐が叫ぶ。

「だから、ここで終わらせるんだよ!」龍次も叫び、カードを操る。

「戦士の生還を発動! 墓地のダルク・フラッグを手札に戻し、再び召喚! 効果で手札からH・C ダブル・ランスを特殊召喚!

 そして! ダルク・フラッグとダブル・ランスでオーバーレイ! 二体のモンスターで、オーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚! もう一度だ、俺の聖剣! H-C エクスカリバー!」

 

 虹色の爆発を自ら切り裂いて、真紅のアーマーを纏った、聖剣の名を関した戦士が現れる。

 表情に緊を宿したムネモシュネに対して、伊邪那岐が畳みかけるように叫ぶ。「エクスカリバーの効果発動! ORUを二つ使い、自身の攻撃力を倍にします!」

 周囲を旋回するORU二つを消費し、エクスカリバーから凄まじいエネルギーが迸る。パートナーのセリフを受け継ぎ、龍次もまた叫ぶ。

 

「そして、ここからが俺の新ネタだ! H・C ニッカリをライトPジーンにセット!」

 

 パチン。叩きつけるようにデュエルディスクがカードにセットされる。龍次の右隣に青白い光の円柱が屹立。中に納まったのは薄青色の軽装のアーマー姿で、右手にうっすらと青く光る刀身の太刀を持った戦士。

 

「バトルだ! ホープレイ・ヴィクトリーでムネモシュネに攻撃! ここで、ホープレイ・ヴィクトリーの効果発動! ORUを一つ使い、ムネモシュネの攻撃力分、ホープレイ・ヴィクトリーの攻撃力をアップ!」

 

 ダン! と一歩、大きく大地を踏みしめて、龍次が攻撃宣言を下した。ホープレイ・ヴィクトリーが手にした剣のうち、ひと振りを捨て、残った一本を両手で握りしめた。

 ウィングパーツを広げ、飛翔、さらに疾走。一瞬にして高速域に達した速度から、横一文字に一閃。走る金の一閃がムネモシュネを胴から両断した。

 

「が、ぁ……!」

 

 戦闘破壊された衝撃で呻くムネモシュネ。神でもないモンスターに倒されたことにショックを受けたかのように、その四つの瞳が残らず見開かれている。

 

「まだ、終わらねぇ! エクスカリバーで、ショコ・ア・ラ・モードを攻撃!」

 

 龍次の攻撃は終わらない。地を蹴ったエクスカリバーがマドルチェの姫、その進化した姿に肉薄。一瞬で距離を詰め、抜身の剣を逆袈裟に一閃。両断する。

 

「あう!」

 

 ダメージのフィードバックがアリエティスを襲う。龍次はその悲鳴を強引に無視、さらに! と声を荒げる。

 

「ここで、ニッカリのP効果発動! 俺のヒロイックが戦闘で相手モンスターを破壊した時、さらに続けてもう一度だけ攻撃できる! エクスカリバーで、メロメロメロディを攻撃!」

 

 返す刀の一閃。太陽の光を浴びた銀の輝きは停滞なく、メロメロメロディを、乗っていた吹管楽器ごと両断。

 アリエティスのモンスターが全滅した。だが、この一連の攻撃にも、彼女のライフは耐えた。

 わずか100、だがそれでも踏みとどまった。その事実、記憶が、ムネモシュネに希望を与えた。

 ライフが残った。つまり相手はこのターン、仕留めきれなかった。ならば流れは変わる。アリエティスの、プロデュエリストとしての底力は、こうして追い詰められたからその真価を発揮するはずだ。それを信じる。

 だが、次の瞬間迸った龍次の咆哮のようなセリフが、その思惑全てを吹き飛ばした。

 

「この瞬間! 手札から速攻魔法、一滴の希望発動!」

 

 速攻魔法が発動される。次の瞬間、まるで脱ぎ捨てられる甲冑のように、光の粒子となって消えていくホープレイ・ヴィクトリー。消えたCNo.(カオスナンバーズ)。だが遺したものはあった。消えたホープレイ・ヴィクトリーがいた場所に、剣を肩にかけたノーマルの希望皇ホープの姿があった。

 

「なんでホープが!?」

「一滴の希望は、俺のフィールドの希望皇ホープモンスター一体をリリースし、俺の墓地かEXデッキからリリースしたホープよりもランクの低いホープ一体を特殊召喚し、このカードか、墓地の希望皇ホープモンスター一体を下に重ねてORUにできる! そして、当然、バトルフェイズ中に特殊召喚されたホープは、まだ攻撃の権利を残している!」

「あー、つまり、わたしの負けか」

 

 苦笑するアリエティス。最後まで神々の戦争を戦っているという、賭けるもののある“戦意”を感じられないデュエルだった。

 

「終わりだ。希望皇ホープで、ダイレクトアタック!」

 

 アリエティスは防御しない。当然だ。彼女は神々の戦争を戦っているという認識さえない。宝珠を砕かれれば脱落、そういう考えなど当然ない。

 眼前に迫ったホープを見上げるアリエティス。その身に、振り落とされる一刀が、彼女の身体を掠める。

 アリエティスにダメージはない。が、その胸元で無色に輝く宝珠が、見事に両断され、砕け散った。

 

サイクロン:速攻魔法

(1):フィールドの魔法・罠カード1枚を対象として発動できる。そのカードを破壊する。

 

RUM-ヌメロン・フォース:通常魔法

自分フィールド上のエクシーズモンスター1体を選択して発動できる。選択したモンスターと同じ種族でランクが1つ高い「CNo.」と名のついたモンスター1体を、選択した自分のモンスターの上に重ねてエクシーズ召喚扱いとしてエクストラデッキから特殊召喚する。その後、この効果で特殊召喚したモンスター以外のフィールド上に表側表示で存在するカードの効果を全て無効にする。

 

CNo.39 希望皇ホープレイ・ヴィクトリー 光属性 ランク5 戦士族:エクシーズ

ATK2800 DEF2500

レベル5モンスター×3

このカードが攻撃する場合、相手はダメージステップ終了時まで魔法・罠カードを発動できない。また、このカードが「希望皇ホープ」と名のついたモンスターをエクシーズ素材としている場合、以下の効果を得る。●このカードが相手の表側表示モンスターに攻撃宣言した時、このカードのエクシーズ素材を1つ取り除いて発動できる。ターン終了時まで、その相手モンスターの効果は無効化され、このカードの攻撃力はその相手モンスターの攻撃力分アップする。

 

戦士の生還:通常魔法

(1):自分の墓地の戦士族モンスター1体を対象として発動できる。その戦士族モンスターを手札に加える。

 

H・C ニッカリ 地属性 ☆4 戦士族:ペンデュラム

ATK1400 DEF1000

Pスケール1

P効果

(1):1ターンに1度、自分フィールドの「ヒロイック」モンスターが戦闘で相手モンスターを破壊した場合に発動できる。そのモンスターは、相手モンスター1体に続けてもう1度だけ攻撃できる。

モンスター効果

(1):このカードと戦闘を行った相手モンスターが破壊されない時に発動する。そのモンスターを破壊する。

 

一滴の希望:速攻魔法

このカード名は1ターンに1度しか発動できない。(1):自分フィールドの「希望皇ホープ」モンスター1体をリリースして発動する。リリースしたモンスターよりもランクの低い「希望皇ホープ」モンスター1体をEXデッキか墓地から特殊召喚し、このカードか、自分の墓地の「希望皇ホープ」モンスター1体を下に重ねてX素材とする。

 

 

アリエティスLP8000→5200→2700→100→0

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