ジェネックス杯開催中の東京都内は、当然ながら多くの外来者の姿があった。
それ故に経済効果の上昇も勿論見込めたが、それでも一風変わった客が来ることもある。
とある裏路地の二人組もそうだった。
一人は痩身の男性。
揺らめいたワカメみたいな黒髪、黒い瞳、喪服のようなスーツ姿のひょろりとした体躯。暗い畑でただ一体佇む不気味な
もう一人は反対に、がっしりとした体格のワイルドな男。
日に焼けた肌、短く借り上げた金髪、黒い瞳、迷彩柄のタンクトップシャツにジーンズ姿。ただし、さっきからしきりに鼻を引きつかせている。自然の中で生きてすっかりやさぐれた野良犬の風情。
しかも野良犬のような男の方は、まさに犬のように地面に四つん這いになり、鼻を引きつらせ、周囲を窺っている。まるで猟犬が獲物の位置を知ろうとするように、だ。
「どうですか?」
スーツの男が問いかけた。四つん這いになっている男は獣のような唸り声をあげ、頷いた。
「ああ。匂う、匂いぞ。俺の弟を殺した奴の匂いだ。忘れるものか……!」
男は恨みと怒りを込めた声音で、獣のように唸った。スーツの男が肩をすくめた。
「では行きましょう」
「ああ。弟の仇を取ってやる……!」
◆◆◆◆◆◆
その少女は、東京の雑踏にあって一際目立っていた。
年齢は十六か七。その姿は可愛らしいというよりも、美しい。それ故年齢より大人びて見える。
背中の半ばまで伸ばしたややピンク色に近い紫の髪、サファイアのごとき青い瞳、透き通るような白い肌。その肌を覆う白地の長袖のブラウスに膝のあたりまでの長さの青いスカート。首から下げた銀の十字架、両耳につけたダイヤをあしらったピアス。
容姿の美しさもだが、彼女が人目を引きつけるのはその立ち振る舞いだろう。
背筋を伸ばし、胸をそらしてまっすぐ歩く姿は自信と誇りに満ちていた。
ジェネックス杯の参加者。そして神々の戦争の参加者。カトレア・ラインツェルンだった。
ただ、周囲の注目を集めている彼女だったが、しかしながら本人の内心は外見ほど堂々としているわけではなかった。
額に浮いた汗を、ハンカチで煩わし気に――けれどさりげなく――拭う。
「熱いですわ……」
暑い、ではなく、熱い、だ。日本の夏に対する、それがカトレアの偽らざる本音だった。
しかし往来で愚痴るほど彼女の理性は蕩けていない。カトレアは周囲に視線を走らせる。
道行く人々――主に男性――がちらちらと自分を見ているが気にしない。この国の人間は外国人がよほど珍しいらしく、しょっちゅう視線を向けてくる。
煩わしいと思わなくもないが、声をかけてこない限り些末事だ。
そしてカトレアのイライラは、探している人物が見つからないことも理由の一つだ。
「モリガン。確かにこの近くにいるのですか?」
(ええ、間違いないわ)
周囲に聞こえないよう、囁き声でカトレアが己の神に問いかけた。神、モリガンは、笑みを含んだ声音で答えた。
(だからそうカッカしないの。それに今は仲間なのでしょう? いきなり喧嘩を吹っ掛けるのもどうかと思うわ?)
「いいえ。喧嘩ではありません。共に戦うのならば、その実力を示すべきなのです」
言いながらカトレアは周囲を窺う。探す人物は目立つ容姿だ。近くにいれば気付くはず。
(あ、移動したわ)
「どこに!?」
(すぐ近くよ。ちょっと表に出てみなさいな)
言われて駆けだした時、カトレアから見て右側のコンビニの扉が開いた。
何気なく視線を送ると、彼女が探していた色が見えた。白い髪の色が。
戦いに大事なことは何だろうか。
なので戦いを続けるうちに喉が渇いた和輝はコンビニに入ってミネラルウォーターを購入。満足して外に出た時だった。
「見つけましたわ! オカザキカズキ!」
「うえ!?」
いきなり自分の名前を大声で、しかも間近で叫ばれた場合、人間はまず驚愕し、声の方を振り向く。和輝もそうだった。
見ればそこには見覚えのある少女の姿。ただし眉を立て、こちらに対して指を突き付ける姿は見るからに不機嫌そうだ。
「あー」
名前を思い出そうとする。そもそも名乗られたっけか?
「ミスター・フレデリックと一緒にいた少女だね」
助け舟は後ろから来た。和輝の背後から、彼についてコンビニから出てきた金髪碧眼、顔には爽やかな笑顔を貼り付けた美丈夫。
和輝と契約を交わした神、ロキ。
「ああ。確か、カトレアさんでよかったかな?」
「カトレア・ラインツェルンですわ。それに、よく知りもしない方にファーストネームで呼ばれるのは好みませんわね」
きっとカトレアは和輝を睨みつける。元々整った、美しい顔立ちなのだが、それゆえか、眉を立て、目尻をきつくした表情はより一層迫力が増す。
「ああ、悪かったよ。ラインツェルンさん。で? いきなり怒鳴り込んだのは何の用だよ?」
和輝としては今回の敵はティターン神族とクロノスだ。降りかかる火の粉を払うことに躊躇はないが、共に戦う相手にまで喧嘩腰というのはいくら何でもないんじゃないかと思う。
そんな和輝の内心を知ってか知らずか、カトレアはふんと息を吐き、
「ここで会ったのも何かの縁。わたくしと、デュエルをしましょう。このわたくし自ら、貴方の実力を測ってあげます」
「その実力なら、あんたの目の前であの探偵に見せたはずだが?」
和輝の冷静な突込みに、カトレアはぐっと息を詰めた。だがすぐに気を取り直した。
「いいえ。わたくし自らの手で、貴方の実力を実感したいのです」
なぜこの少女はほとんど話したことのない自分にここまで噛みつくのだろう。頭の中の冷静な部分でそう考えながら、和輝はこの場合、断ったら面倒そうだなぁ、とも思った。
だから、分かったと口にしようとして――――
世界が、切り替わった。
周囲の雑踏が消える。和輝もカトレアも、その認識が間違いだとすぐに分かった。
消えたのは自分たちの方だ。
神々の戦争のバトルフィールド。
「おいおい、まだ俺は承諾してないのに、いきなりバトルフィールドを展開するってのはちょっと好戦的すぎないか?」
「ち、違います! わたくしではありません!」
「その通りよ」
第四の声が現れる。
声は実体を伴っていた。
現れたのは女性。
まず目につくのは背中から生えた大きな烏の翼。真っ赤なドレスに身を纏い、膝まで届く灰色の髪と瞳の美女。カトレアも美しい少女だが、彼女は美しい大人の女性。
「初めまして。カトレアの契約者、モリガンよ」
モリガン。
北アイルランドに登場する殺戮と勝利、戦争の女神。
同じ戦争の女神でも、守護を主眼とするアテナとはその性質は正反対だ。そして、実のところモリガンはかのケルト神話の光の神、ルーともちょっとした因縁がある。
カトレアは、今回の戦いに参加した少女の参加者たちと、実のところ目に見えないつながりがあるのだった。
女神モリガンの美貌を見て、ロキが口笛を吹いた。
「見なよ和輝。引っ込み思案な女神さまが出てきた。初めまして、ボクは――――」
「黙ってろ、ロキ」
相棒の軽口を封殺した和輝は、すでに表情を険にしている。カトレアが原因ではないバトルフィールドの展開。それは即ち――――
「敵と、言うことね」
「その通りだ!」
モリガンの独白の返答は頭上から。二人と二柱の中央地点に、上から降ってくる人影があった。
人間のように二足での着地ではなく、両腕も使った、四足の獣のような着地。
日に焼けた肌。短く刈り上げた金髪、黒い瞳、迷彩柄のタンクトップシャツにジーンズ姿。ただし、さっきからしきりに鼻を引きつかせている。自然の中で生きてすっかりやさぐれた野良犬の風情。
「見つけたぞ、ロキの契約者!」
憎悪の声は咆哮となり、眼差しは殺意の塊となって和輝にぶつけられた。
「弟の、オルトロスの仇だ!」
「その言い草、君はケルベロスだね」
ロキの言うことは正解だ。男、ケルベロスは獣のように低く唸り、デュエルディスクを起動させた。
「俺がご氏名か」
ならば是非もなし。そういわんばかりに和輝もデュエルディスクを起動させようとする。
そこに待ったをかける声があった。勿論カトレアだ。
「お待ちなさい!」
バン! と音がしそうな威風堂々とした様子で、カトレアは和輝とケルベロスの間に立ちはだかった。
「この者とは、わたくしがデュエルをするはずでした! 急な乱入は認められません!」
「黙れ! そいつは弟の仇! 貴様の方こそ、邪魔をするな!」
ケルベロスの憎悪と怒りは本物だ。それを前にしても、カトレアは胸を知らし、態度を改めない。
「ならば、まずわたくしとデュエルです。オカザキカズキと戦いたいのならば、わたくしを倒してからにしなさい!」
「なんだその理屈は」
「簡単なことです」
思わず呟いた和輝に対して、カトレアは彼の方を振り向き、誇るように告げた。
「わたくしは貴方のデッキをウェザースプーン卿とのデュエルの時に見ました。ならばわたくしのデッキを見せなければフェアではありません。そしてやはり、貴方はギリシャの
そして貴方も!」
ビシ! と音がしそうな勢いで、カトレアはケルベロスを指さした。
「なんの障害もなく、仇と戦おうなど、都合がよすぎるというもの! 弟君の仇討ちがしたいのならば、ここで試練を乗り越えるのです!」
怒涛の勢いでしゃべり倒すカトレア。ケルベロスは沈黙していたが、やがて口を開いた。
「貴様の言っていることはさっぱりわからん。分からんが、いいだろう。面倒だ。まずは貴様から叩き伏せる!」
「その闘志、良しとしますわ」
挑発的な言動と裏腹に、カトレアは涼やかに微笑し、デュエルディスクを起動させた。
その胸元に、コバルトブルーの輝きが灯る。宝珠の輝きだ。
対してケルベロス――正確には、彼(?)が憑依した男――の胸元には何も光がない。
『
両者の声が木霊する。当事者だったはずの和輝を置き去りに。
カトレアLP8000手札5枚
ケルベロスLP8000手札5枚
「俺の先攻!
ケルベロスのフィールドに、獣の唸り声を発するモンスターが現れた。
見た目は青い体毛のジャッカルが一番近いが、その体の端部は蜃気楼のように揺らめいており、後ろ脚の付け根や胴体部には宝珠をあしらった鎧を纏っている。身を低くし、威嚇するようにカトレアを睨みつけた。
しかし攻撃的な見た目に反して、攻撃力は0。
「これは油断できませんわね。攻撃力0を攻撃表示で立てるのならば――――」
「何か、厄介な効果。もしくは、次に繋げる為の効果を持っている、ということでしょうね」
言葉を引き継ぐモリガンのセリフに、カトレアは内心で頷いた。そんな一人と一柱の前で、ケルベロスはさらに動く。
「フィールド魔法、魔法都市エンディミオン発動!」
ケルベロスがカードをデュエルディスクにセットした途端、周囲の街並みが一変。東京の街がファンタジー風味の魔法都市へ。
ケルベロスが発動したカードを見て、ロキが顎に手を当て呟いた。「エンディミオンか……。魔力カウンターをメインに据えたデッキなら、このカードがあるとないとじゃあ、だいぶ違うよね」
和輝も応じて頷いた。「ああ。そしてエンディミオンが発動してしまった以上、まあ力カウンターが溜まることは止められない。こりゃ、結構きついかもな」
「魔法カードが発動したため、魔導獣 ジャッカルの上に魔力カウンターが一つ乗る。さらに魔力掌握を発動! その効果で、ジャッカルの上に魔力カウンターを乗せる。さらにエンディミオンとジャッカルの上に一つずつ、魔力カウンターが乗る。そして二枚目の魔力掌握を手札に加える。
ここで、魔導獣 ジャッカルの効果発動! このカードの上に乗っている魔力カウンターを三つ取り除き、このカードをリリース! デッキから新たな魔導獣、魔導獣 マスターケルベロスを特殊召喚!」
ジャッカルが雄叫びを上げて、溶けるように消えていく。新たに現れたのは、完全に後ろ脚だけで二足歩行を可能にした、獣というよりも、獣人型のモンスター。
青系統の体毛は同じ。魔導の名の通り、ローブを身に纏い、左手の杖を構え、
「ふーん。マスターケルベロスか。名前から言って、魔導獣のエースかな?」
「だろうな。魔導獣は詳しくないが、Pモンスターでも、P召喚を主軸にしない変わり種だと聞く。確かにPカードはPゾーンにセットするなら魔法カードとして扱われるから、魔力カウンターを貯めるうえでは有用だ」
「永続魔法、
魔導獣 ジャッカル 闇属性 ☆4 魔法使い族:ペンデュラム
ATK0 DEF1400
Pスケール4
P効果
このカード名のP効果は1ターンに1度しか使用できない。(1):もう片方の自分のPゾーンにカードが存在しない場合、自分フィールドの魔力カウンターを置く事ができるカード1枚を対象として発動できる。このカードを破壊し、そのカードに魔力カウンターを1つ置く。
モンスター効果
(1):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、自分または相手が魔法カードを発動する度に、このカードに魔力カウンターを1つ置く。(2):自分フィールドの魔力カウンターを3つ取り除き、このカードをリリースして発動できる。デッキから「魔導獣 ジャッカル」以外の「魔導獣」効果モンスター1体を特殊召喚する。
魔法都市エンディミオン:フィールド魔法
(1):このカードがフィールドゾーンに存在する限り、自分または相手が魔法カードを発動する度に、このカードに魔力カウンターを1つ置く。(2):魔力カウンターが置かれているカードが破壊された場合にそのカードに置かれていた魔力カウンターの数だけ、このカードに魔力カウンターを置く。(3):1ターンに1度、自分がカードの効果を発動するために自分フィールドの魔力カウンターを取り除く場合、代わりにこのカードから取り除く事ができる。(4):このカードが破壊される場合、代わりにこのカードの魔力カウンターを1つ取り除く事ができる。
魔力掌握:通常魔法
このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。(1):フィールドの魔力カウンターを置く事ができるカード1枚を対象として発動できる。そのカードに魔力カウンターを1つ置く。その後、デッキから「魔力掌握」1枚を手札に加える事ができる。
魔導獣 マスターケルベロス 光属性 ☆8 魔法使い族:ペンデュラム
ATK2800 DEF2800
Pスケール4
P効果
このカード名のP効果は1ターンに1度しか使用できない。(1):もう片方の自分のPゾーンにカードが存在しない場合に発動できる。このカードを破壊し、デッキからレベル7以下の「魔導獣」効果モンスター1体を手札に加える。
モンスター効果
(1):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、自分または相手が魔法カードを発動する度に、このカードに魔力カウンターを2つ置く。(2):自分フィールドに魔力カウンターが4つ以上存在する場合、このカードは効果では破壊されない。(3):???
魔導研究所:永続魔法
(1):自分フィールドの表側表示の「魔導獣」Pモンスターカードが戦闘・効果で破壊される度にこのカードに魔力カウンターを2つ置く。(2):1ターンに1度、自分フィールドの魔力カウンターを任意の数だけ取り除いて発動できる。取り除いた数と同じレベルを持つ、魔力カウンターを置く事ができるモンスター1体を、デッキのモンスター及び自分のEXデッキの表側表示のPモンスターの中から選んで手札に加える。(3):フィールドのこのカードが効果で破壊される場合、代わりにこのカードの魔力カウンターを1つ取り除く事ができる。
補充部隊:永続魔法
(1):相手モンスターの攻撃または相手の効果で自分が1000以上のダメージを受ける度に発動する。そのダメージ1000につき1枚、自分はデッキからドローする。
魔導獣 マスターケルベロス魔力カウンター×4
魔法都市エンディミオン魔力カウンター×3
「わたくしのターン、ドロー!」
相手の布陣を見ても一切恐れることなく、カトレアはカードをドローする。その耳にモリガンの囁きが届く。
「マスターケルベロス……。名前から言っていかにも魔導獣の切り札って感じね」
「いきなり切り札を出す。その意気や良しですわ。それだけあのカードに信を置いているという証ですから。そして、ならばわたくしも答えねばなりませんわ!」
令嬢然とした姿と凛とした美しさの外見だが、戦国武将のようなことを言い出したカトレアに対して、モリガンは微苦笑を浮かべて告げた。
「けれど。迂闊に魔法カードを発動してしまえば、相手の魔力カウンターを貯める結果になってしまう。貴方のデッキとは相性が悪いのではなくて?」
「デッキ相性に尻込みしていては勝利はやってきません。つまり、攻めて、かつわたくしのフェイバリットを出すだけですわ! 手札からフィールド魔法、
己のホームグラウンドを展開したケルベロスに対して、カトレアもまた己が得意とするフィールドを展開した。
「発動時の効果により、デッキから覚醒の暗黒騎士ガイアを手札に加えますわ。そして、相手フィールドのモンスターの数が、わたくしよりも多いため、今手札に加えた覚醒の暗黒騎士ガイアを、リリースなしで召喚しますわ!」
現れたのは、角そびえる兜をかぶった逞しい黒馬に跨り、両手に二振りの
「戦士族か。意外だね。あのお嬢様なら、天使とか、光属性系を使うかと思ってた」とロキ。その反応カトレアは微笑した。
「それは違いますわね。貴族とは、多くは騎士階級を持っております。ノブレスオブリージュ。これを成すのは守護天使ではなく、騎士。民は、人の手によって守られるもの。わたくしにぴったりのカードなのですわ」
誇らしげに、カトレアはそう告げた。
「そして民を守護するのも騎士ならば、戦争で外敵を討ち滅ぼすのもまた騎士! 儀式魔法、カオスの儀式発動! 手札からサクリボーと疾走の暗黒騎士ガイアをリリース!」
「儀式魔法……。珍しいものを見たな」
和輝の言う通り。儀式魔法は儀式カードとそれに対応する儀式モンスターを保持したうえで、手札かフィールドからモンスターを、合計レベルが召喚したい儀式モンスターと同じか、それ以上の数値になるようにリリースしなくてはならない。
カード消費が多く、そのくせリターンが少ないと、儀式召喚が登場した当初は酷評も多かった。
最近はその手の弱点を克服したカードが多く登場し、強豪ともいえるカテゴリーも登場しているので、当初ほど使いにくい印象はなくなった。
「だがカオスの儀式はその初期の儀式カードだ。そいつを好んで使っているなんてな」
「このカードこそ、わたくしが初めて手にしたカード! それこそまさしく運命! ならば、このカードを使わずしてどうするのです!」
誇らしく言い切ったカトレアに、和輝は微笑した。その気持ちはわかる。初めて手にしたカードへの愛着。和輝もその気持ちを持って、今のデッキを、ブラック・マジシャンを使っているのだ。
「契約は果たされましたわ。二つの魂を贄に、来たれ混沌を制する騎士! 儀式召喚、カオス・ソルジャー!」
カトレアのフィールド、中央に幾何学的な魔方陣を敷いた場を、八つの燭台で円形で囲んだ“場”が現れる。
燭台全てに赤い炎が灯り、魔法陣が輝きを増す。その中央から現れたのは、巨大な力と可能性を秘めた戦士。
濃い青を基調にし、金の縁取りを施した鎧姿。冑から延びる赤い飾り髪、清廉さを形にしたような剣、堅固さの顕れの様な盾。
「見なさいこの美しくも雄々しい姿。これこそわたくしが最も信を置く騎士の姿ですわ!」
誇らしげに胸を張るカトレア。だがケルベロスには彼女の誇りは伝わらなかったらしく、訝し気に首を傾げられただけだった。
「魔獣には誇りや騎士の考えってわからないわよね」
「ぐ……。まぁいいです。気を取り直してプレイを再開します。まずリリースされた二体のモンスターと、混沌の場の効果が発動します。まず、混沌の場の上に魔力カウンターが二つ乗ります。次に疾走の暗黒騎士ガイアの効果でデッキから聖戦士カオス・ソルジャーをサーチ、サクリボーの効果で一枚ドロー。
トレード・イン発動。今手札に加えた聖戦士カオス・ソルジャーを捨て、二枚ドローですわ」
「だが、貴様が魔法カードを発動した度、エンディミオンの上に魔力カウンターが乗る」
カトレアは臆さない。もとより相手の行動に対して身がすくむ性質でもない。だから行く。どこまでも、前を向いて、胸を張って。
「バトル! カオス・ソルジャーでマスターケルベロスを攻撃!」
カトレアの美しい形をした指が、マスターケルベロスを指し示す。主の命を受け、その示す先に、一歩踏み出す混沌の戦士。
一歩目から最高速。アスファルトを砕き、大気を押しのけるように疾走。瞬時に距離を詰め、獣頭の魔法使いが何の詠唱もする暇もなく、剣を一閃。
涼やかな空気が吹き抜けた一瞬後、マスターケルベロスの身体が
「ぐ……!」
「Pモンスターであるマスターケルベロスは、破壊されても墓地に行かないため、混沌の場に魔力カウンターが溜まらないのが残念ですわね。ですがこれでがら空き! 覚醒の暗黒騎士ガイアで、ダイレクトアタック!」
続く命令は馬上の騎士へ。姫から配された命に頷き、黒の騎士が馬を駆って疾走。すれ違いざまに手にした二槍が稲妻のように閃き、敵を穿った。
「があああああああああああ!」
鋭く、重い一撃だった。ケルベロスは踏みとどまる。胸を押さえ、長く息を吐いて苦痛を散らす。
「おー。いいのが入ったね」とロキ。対して和輝は首を横に振った。
「けど踏みとどまられた。そのうえエンディミオンの上に魔力カウンターが四つ補充された。さらに補充部隊の効果で二枚ドローだ。ケルベロスとしては反撃の糸口舞い込んだかもしれん」
和輝の言うように、ケルベロスは二枚ドロー。カトレアはふんと息を一つついた。考えるのは、混沌の場に乗った三つの魔力カウンター。これを使うべきか否か。
カトレアは使用を見送った。フィールドは悪くないし、相手がこちらの補給を嫌って魔法・罠破壊カードを使ってくれれば儲けもの。そう思って、魔力カウンターは温存しておくことにした。無論、攻め時ならば、カウンターを消費することを躊躇わないが。
「カードを二枚セットして、ターン終了ですわ」
混沌の場:フィールド魔法
「混沌の場」は1ターンに1枚しか発動できない。(1):このカードの発動時の効果処理として、デッキから「カオス・ソルジャー」儀式モンスターまたは「暗黒騎士ガイア」モンスター1体を手札に加える。(2):このカードがフィールドゾーンに存在する限り、お互いの手札・フィールドからモンスターが墓地へ送られる度に、1体につき1つこのカードに魔力カウンターを置く(最大6つまで)。(3):1ターンに1度、このカードの魔力カウンターを3つ取り除いて発動できる。自分はデッキから儀式魔法カード1枚を手札に加える。
覚醒の暗黒騎士ガイア 闇属性 ☆7 戦士族:効果
ATK2300 DEF2100
「覚醒の暗黒騎士ガイア」の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。(1):相手フィールドのモンスターの数が自分フィールドのモンスターより多い場合、このカードはリリースなしで召喚できる。(2):このカードがリリースされた場合に発動できる。自分の手札・墓地から「カオス・ソルジャー」モンスター1体を選んで特殊召喚する。(3):「カオス・ソルジャー」モンスターの儀式召喚を行う場合、必要なレベル分のモンスターの内の1体として、墓地のこのカードを除外できる。
カオスの儀式:儀式魔法
「カオス・ソルジャー」の降臨に必要。(1):自分の手札・フィールドから、レベルの合計が8以上になるようにモンスターをリリースし、手札から「カオス・ソルジャー」を儀式召喚する。
カオス・ソルジャー 地属性 ☆8 戦士族:儀式
ATK3000 DEF2500
「カオスの儀式」により降臨。
サクリボー 闇属性 ☆1 悪魔族:効果
ATK300 DEF200
(1):このカードがリリースされた場合に発動する。自分はデッキから1枚ドローする。(2):自分のモンスターが戦闘で破壊される場合、代わりに墓地のこのカードを除外できる。
疾走の暗黒騎士ガイア 光属性 ☆7 戦士族:効果
ATK2300 DEF2100
このカード名の(3)の効果は1ターンに1度しか使用できない。(1):このカードはリリースなしで召喚できる。(2):リリースなしで召喚したこのカードの元々の攻撃力は1900になる。(3):このカードがリリースされた場合に発動できる。デッキから「カオス・ソルジャー」モンスター1体を手札に加える。
トレード・イン:通常魔法
(1):手札からレベル8モンスター1体を捨てて発動できる。自分はデッキから2枚ドローする。
魔法都市エンディミオン魔力カウンター×16
魔導研究所魔力カウンター×2
カトレアLP8000手札2枚
ケルベロスLP8000→7800→5500手札3枚
「俺のターンだ、ドロー!」
ドローカードを一瞥で確認する。ケルベロスの身体には今も激痛が走っている。そのことに対する怒りはある。だが、
「その怒りも恨みも、力に変えるまで! 強欲で貪欲な壺発動! デッキトップから十枚を除外し、二枚ドロー!」
発動されたドローカードに、カトレアは顔をしかめ、モリガンは仕方がないというように肩をすくめた。相手にドローさせる以上、さらなるドローソースが手札に舞い込む可能性はあった。それを許容するモリガンと、受け入れつつもやはりイラつくカトレア。その違いは年季の差だろうか。
「よし……。魔導研究所の効果発動! このカードの上に乗っている二つと、エンディミオンの四つの魔力カウンターを取り除き、デッキから魔導獣 キングジャッカルを手札に加える。そして魔導獣 メデューサを召喚!」
ケルベロスが新たなモンスターを召喚した。
現れたのは、メデューサという名前に反し、蛇の要素はなく、どちらかといえばクラゲに似ているモンスターだった。触手のようなものを広げ、鋭い眼光でカトレアを射抜く。
「キングジャッカルをPゾーンにセット! PゾーンにセットされたPモンスターは魔法として扱われる。よってエンディミオンとメデューサに魔力カウンターが一つずつ置かれる。
そしてキングジャッカルのP効果発動! このカードを破壊し、EXデッキからマスターケルベロスを特殊召喚する!」
ケルベロスの右横。青白く光る円柱の中に納まっていたキングジャッカルの姿がガラスのように砕け散る。円柱の破片を雪のように舞い散らせながら、再びローブを纏った獣面の魔法使いが現れた。
「二枚目の魔力掌握発動! 魔導研究所の上に魔力カウンターを乗せ、三枚目の魔力掌握を手札に加える! さらに、マスターケルベロスの効果発動! 一ターンに一度、自分フィールドの魔力カウンターを四つ取り除き、相手モンスター一体を対象に、そのモンスターを除外する! さらに除外したモンスターの元々の攻撃力分、相手ターン終了時までアップする! 俺はマスターケルベロス、メデューサから二つずつカウンターを取り除き、カオス・ソルジャーを除外する!」
マスターケルベロスが呪文を唱える。杖の先端が黒い光を放ち始める。
光はどんどん強くなる。が、それが臨界点に達する前に、カトレアが動いた。
「そう簡単には参りませんわ! リバースカードオープン! 禁じられた聖衣! カオス・ソルジャーの攻撃力を600ダウンさせる代わりに、効果の対象にならず、効果では破壊されません!」
防いだ。霧散する黒の光。ロキは感嘆の口笛を吹いた。
「マスターケルベロスの効果は強力だけど、対象を取る以上こうすれば防げる。代わりにカオス・ソルジャーの攻撃力が下がってしまったけれど、このまま効果を通してしまえばマスターケルベロスの攻撃力は3000アップする。ちょっと無視できない数値だものね」
「受けるダメージを少なくし、相手の戦力増強も止める。一枚でなすんだから禁じられたシリーズは強力だ。そして、ラインツェルンは見事に使いこなしているよ」
自らの思惑を防がれ、ケルベロスが憤りの唸り声をあげる。しかしカオス・ソルジャーの攻撃力が下がったのは事実。今なら敵のフィールドを蹂躙できる。
故にケルベロスは男の喉が割けんばかりに咆哮を上げた。
「バトルフェイズに入り、この瞬間、メデューサの効果発動! エンディミオンの魔力カウンターを二つ取り除き、覚醒の暗黒騎士ガイアの攻撃力を半分にする!
そしてバトルに入る! マスターケルベロスでカオス・ソルジャーを攻撃!」
攻撃宣言が下り、マスターケルベロスが再び杖を振るう。今度は紅蓮の炎が現出。渦を巻いてカオス・ソルジャーめがけて殺到する。
「させません! 墓地のサクリボーの効果発動! このカードをゲームから除外し、カオス・ソルジャーの破壊を無効にします!」
カトレアの墓地からクリボーとサクリファイスの眼が融合したような。微妙にグロテスクな見た目をしたモンスターが飛び出し、マスターケルベロスが放った炎の前に躍り出た。
結果、小悪魔はカオス・ソルジャーの身代わりとなる。
「まだだ! メデューサで覚醒の暗黒騎士ガイアを攻撃!」
カオス・ソルジャーの撃破には失敗したが、まだケルベロスのバトルフェイズは続いている。メデューサがクラゲのような触手を動かし、鞭のようにしならせて馬上の騎士の身体を拘束、一気に絞り、鎧も骨も、まとめて砕いた。
ダメージのフィードバックがカトレアを襲う。だが彼女は胸を張ってその場で仁王立ちしていた。
しかし、ケルべロスの獣のような連撃はこれで終わりではなかった。予定は狂った。しっかしやることは変わらない。ケルベロスの手札から一枚のカードが引き抜かれた。
「速攻魔法、
咆哮とともに現れる、四足、鎧姿の魔導獣。地に足をつけた瞬間から身を沈め、今にも飛び掛かる準備は万端だった。
「キングジャッカルで、カオス・ソルジャーを攻撃!」
追撃の牙は躊躇いなく。両者の攻撃力は互角。ダメージステップに入っても共に何の行動も起こさなかったため、予定調和通りに相討ちの結果が現れる。
「カードを一枚伏せ、ターン終了だ」
このまま何事もなくターンを終えようとするケルベロス。だがカトレアがそれに待ったをかけた。
「お待ちを。貴方のターン終了時に、わたくしは伏せていた戦線復帰を発動。墓地から聖騎士カオス・ソルジャーを守備表示で特殊召喚します」
カトレアのフィールドに現れたのは、カオス・ソルジャーの別バージョン。
鎧の色は白を基調に金で縁取るものに変わり、剣も盾も、形が変わる。さらに最大の違いは背中に翼が生えたことで、全体的に天使的な神々しさを醸し出している。
「聖戦士カオス・ソルジャーの効果発動! 除外されているサクリボーを墓地に戻し、マスターケルベロスを除外します!」
聖戦士の剣が横一文字に一閃される。切り裂いたのは実体あるものではなく、空間そのもの。切り裂かれた空間が強烈な吸引力を発揮。捉えたマスターケルベロスを異空間へと放逐した。
「おのれ……!」
再び歯噛みするケルベロス。己の効果は防がれ、手駒を増やせば復活され、さらにこちらのエースを、対処できない除外という手段で消していく。このデュエルが始まってから、カトレアは全くケルベロスの思い通りになっていない。そのことがカトレアにとっては良いことだ。
相手に思い通りにさせないということは、戦況を自分がコントロールしていることだ。
強欲で貪欲な壺:通常魔法
このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。(1):自分のデッキの上からカード10枚を裏側表示で除外して発動できる。自分はデッキから2枚ドローする。
魔導獣 キングジャッカル 闇属性 ☆6 魔法使い族:ペンデュラム
ATK2400 DEF1400
Pスケール4
P効果
このカード名のP効果は1ターンに1度しか使用できない。(1):もう片方の自分のPゾーンにカードが存在しない場合に発動できる。このカードを破壊し、自分のEXデッキから「魔導獣 キングジャッカル」以外の表側表示の「魔導獣」Pモンスター1体を特殊召喚する。
モンスター効果
(1):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、自分または相手が魔法カードを発動する度に、このカードに魔力カウンターを2つ置く。(2):1ターンに1度、相手モンスターの効果が発動した時、自分フィールドの魔力カウンターを2つ取り除いて発動できる。その発動を無効にし破壊する。
魔導獣 マスターケルベロス 光属性 ☆8 魔法使い族:ペンデュラム
ATK2800 DEF2800
Pスケール4
P効果
このカード名のP効果は1ターンに1度しか使用できない。(1):もう片方の自分のPゾーンにカードが存在しない場合に発動できる。このカードを破壊し、デッキからレベル7以下の「魔導獣」効果モンスター1体を手札に加える。
モンスター効果
(1):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、自分または相手が魔法カードを発動する度に、このカードに魔力カウンターを2つ置く。(2):自分フィールドに魔力カウンターが4つ以上存在する場合、このカードは効果では破壊されない。(3):??? 1ターンに1度、自分フィールドの魔力カウンターを4つ取り除き、相手フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを除外する。このカードの攻撃力は相手ターン終了時まで、除外したそのモンスターの元々の攻撃力分アップする。
魔導獣 メデューサ 光属性 ☆4 魔法使い族:ペンデュラム
ATK1500 DEF1500
Pスケール4
P効果
このカード名のP効果は1ターンに1度しか使用できない。(1):もう片方の自分のPゾーンにカードが存在しない場合、自分の墓地の魔力カウンターを置く事ができるモンスター1体を対象として発動できる。このカードを破壊し、そのモンスターを特殊召喚し、そのモンスターに魔力カウンターを1つ置く。
モンスター効果
(1):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、自分または相手が魔法カードを発動する度に、このカードに魔力カウンターを1つ置く。(2):1ターンに1度、自分・相手のバトルフェイズに、自分フィールドの魔力カウンターを2つ取り除き、フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターの攻撃力・守備力はターン終了時まで半分になる。
禁じられた聖衣:速攻魔法
(1):フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。ターン終了時までそのモンスターは、攻撃力が600ダウンし、効果の対象にならず、効果では破壊されない。
獣・魔・導:速攻魔法
このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。(1):自分フィールドの魔力カウンターを以下の数だけ取り除き、その効果を発動できる。
●2つ:自分フィールドの「魔導獣」Pモンスター1体を選んで持ち主の手札に戻す。
●4つ:自分のEXデッキから表側表示の「魔導獣」Pモンスター1体を特殊召喚する。その後、そのモンスターに魔力カウンターを2つ置く事ができる。
●6つ:自分のEXデッキから表側表示のPモンスター1体を特殊召喚する。
戦線復帰:通常罠
(1):自分の墓地のモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを守備表示で特殊召喚する。
聖戦士カオス・ソルジャー 光属性 ☆8 戦士族:効果
ATK3000 DEF2500
「聖戦士カオス・ソルジャー」の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。(1):このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、除外されている自分の光属性または闇属性のモンスター1体と相手フィールドのカード1枚を対象として発動できる。その自分のカードを墓地に戻し、その相手のカードを除外する。(2):このカードが戦闘で相手モンスターを破壊した時、自分の墓地のレベル7以下の戦士族モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを手札に加える。
魔法都市エンディミオン魔力カウンター×18
魔導研究所魔力カウンター×3
カトレアLP8000→7600→7250手札2枚
ケルベロスLP5500手札2枚
(見ていなさい、オカザキカズキ)
目の前の相手、ケルベロスを見据えながら、カトレアが思うのは和輝のこと。
今目の前にいる敵を屠り、次は和輝と戦う。それがカトレアの中の決定事項だった。
かつて、フレデリックと渡り合った和輝の姿。それを見て感じたのは、カトレアのデュエリストしての本能だ。
強い相手と戦ってみたい。そんな単純で、だからこそ一切偽りようのない思い。それを胸に秘めて、カトレアは敵を前に優雅に胸を張った。