神々の戦争   作:tuki21

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第88話:死神は静かに佇む

 カトレアにとって、デュエルとは文字通り決闘だ。

 だから己の誇りを賭けているし、できる限り対等な条件で戦いたいとも思っている。

 勿論これが神々の()()である以上、いつでも一対一、フェアで戦えるとは思っていないが、それでもできる限り条件は対等にしたい。

 だからカトレアは先にデュエルを買って出た。自分がまだ敵と戦っていないこともある。ダメージが、オカザキカズキの身体に残っているのなら、自分も同条件になろう。

 それは情報の上でも同じこと。自分はオカザキカズキのデッキを見た。デュエルを見た。

 だから自分も、己のデッキと戦術を見せよう。

 

 

カトレアLP7250手札2枚

ペンデュラムゾーン赤:なし青:なし

モンスターゾーン 聖戦士カオス・ソルジャー(守備表示)、

魔法・罠ゾーン 伏せ1枚

フィールドゾーン (魔力カウンター×4)

 

ケルベロスLP5500手札2枚

ペンデュラムゾーン赤:青:なし

モンスターゾーン 魔導獣(マジックビースト)メデューサ(攻撃表示、魔力カウンター×0)、

魔法・罠ゾーン 魔導研究所(マジック・ラボ)(魔力カウンター×3)、補充部隊、伏せ1枚

フィールドゾーン 魔法都市エンディミオン(魔力カウンター×18)

 

 

「わたくしのターン、ドロー!」

 

 威勢のいい声と大仰な動作で、カトレアはカードをドロー。そして即座に動いた。

 

「聖戦士カオス・ソルジャーを攻撃表示に変更し、混沌の場の効果を発動します! 魔力カウンターを三つ取り除き、デッキから儀式魔法、超戦士の萌芽を手札に加えます。そして発動! 手札の宵闇の騎士と、デッキの開闢の騎士を墓地に送り、儀式召喚!」

 

 再びカトレアのフィールドに、八つの燭台と、魔法陣が出現。燭台に次々と青い炎が灯っていく。

 

「契約は完了しましたわ。二つの魂を贄とし、来たれ混沌を制する超戦士! 儀式召喚! 超戦士カオス・ソルジャー!」

 

 魔法陣がエメラルドグリーンの光を放ち、さらに雷光と、旋風を巻き起こす。

 魔法陣の中央から出現する新たな力。

 素体はカオス・ソルジャー。ただその身に纏った鎧は混沌をより強く取り込んだためか、勇ましさよりも禍々しさが先に立つ。

 黒みがかかったメインと、赤いアクセントが入った鎧。その様は骨と筋肉が逆転したようにも見える。赤みがかかった瞳が無機質にケルベロスを見据えた。

 

「宵闇と開闢、二体の騎士を生贄として儀式召喚された超戦士カオス・ソルジャーは、多くの効果をその身に宿しております。その効果をお見せしましょう!

 超戦士カオス・ソルジャーの効果発動! 次の相手ターン終了時まで、貴方の手札を一枚、裏側で除外しますわ! わたくしから見て右側のカードを除外していただきましょう」

 

 ケルベロスは無言のまま、手札を除外した。無言なので除外されたカードが魔力掌握なのか、もっと役に立つカードなのかは分からない。

 

「さらに超戦士カオス・ソルジャーの効果発動! 魔導獣 メデューサを除外!」

 

 超戦士が左手の盾を掲げた。次の瞬間、メデューサの背後の空間がガラスが割れるような音を立てて砕け散る。砕けた空間の向こう、何もない異空間が吸引力を発揮。メデューサを捕え、吸い込んでしまった。

 

「これでがら空き! 観念なさいまし! 超戦士カオス・ソルジャーでダイレクトアタック!」

 

 カトレアの唇が、凛とした攻撃宣言を放った。超戦士は頷き、盾を鎧の背に収納し、剣を両手に構える。

 一瞬の沈黙の後、疾走開始。それはもう走るというよりも、弾丸のように撃ち出されるといった感覚。彼我との距離は一瞬にして詰められ、ケルベロスが何かをする前に、その身に向かって袈裟懸けに剣を振り下ろす。

 音さえ置き去りにする一撃。一瞬後、轟音が走り、吹き抜けた風が地面の埃を巻き上げていく。

 

「がああああああああああああああああああ!」

 

 悲鳴さえも一拍遅れて。ケルベロスの身体が膝から頽れた。間髪入れず、カトレアは跪くケルベロスを指さし、もう一体の騎士に告げた。

 

「これで終わりです! 聖戦士カオス・ソルジャーでダイレクトアタック!」

 

 カトレアの攻撃宣言が下り、聖戦士が地を蹴った。

 白い影が迫るのを、ケルベロスはかすむ目で見た。

 この一撃が入れば負ける。自分は消滅し、弟の仇も討てなくなる。

 

「お――――――ああああああああああ!」

 

 力を振り絞り、痺れる身体で、ケルベロスはデュエルディスクのボタンを押した。

 

「リバースカード、ガード・ブロック発動! 戦闘ダメージを0にし、カードを一枚ドロー!」

「あれを喰らって、反応した!?」驚愕する和輝。半面、ロキは顎に手を当て、笑みを浮かべた。「いい執念だ」

 

 結果、攻撃を防がれたカトレアだったが、しかし落胆はない。相手の場に伏せカードが一枚あったのだから、こういう可能性だってあった。

 

「永続魔法、補充部隊を発動し、カードを一枚セット。ターンエンドですわ」

 

 

超戦士の萌芽:儀式魔法

「カオス・ソルジャー」儀式モンスターの降臨に必要。「超戦士の萌芽」は1ターンに1枚しか発動できない。(1):レベルの合計が8になるように、以下のどちらかの組み合わせのモンスターを墓地へ送り、自分の手札・墓地から「カオス・ソルジャー」儀式モンスター1体を儀式召喚する。

●手札の光属性モンスター1体とデッキの闇属性モンスター1体

●手札の闇属性モンスター1体とデッキの光属性モンスター1体

 

開闢の騎士 光属性 ☆4 戦士族:効果

ATK500 DEF2000

「開闢の騎士」の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。(1):このカードを使用して儀式召喚した「カオス・ソルジャー」モンスターは以下の効果を得る。●1ターンに1度、相手フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを除外する。●このカードが戦闘で相手モンスターを破壊し墓地へ送った時に発動できる。このカードはもう1度だけ続けて攻撃できる。(2):墓地のこのカードが除外された場合に発動できる。デッキから儀式魔法カード1枚を手札に加える。

 

宵闇の騎士 闇属性 ☆4 戦士族:効果

ATK500 DEF2000

「宵闇の騎士」の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。(1):このカードを使用して儀式召喚した「カオス・ソルジャー」モンスターは以下の効果を得る。●1ターンに1度、相手フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを除外する。●1ターンに1度、自分メインフェイズに発動できる。相手の手札をランダムに1枚選び、次の相手エンドフェイズまで裏側表示で除外する。(2):墓地のこのカードが除外された場合に発動できる。デッキから儀式モンスター1体を手札に加える。

 

超戦士カオス・ソルジャー 地属性 ☆8 戦士族:儀式

ATK3000 DEF2500

「超戦士の儀式」により降臨。自分は「超戦士カオス・ソルジャー」を1ターンに1度しか特殊召喚できない。(1):このカードが戦闘で相手モンスターを破壊し墓地へ送った場合に発動する。そのモンスターの元々の攻撃力分のダメージを相手に与える。(2):このカードが戦闘または相手の効果で破壊され墓地へ送られた場合に発動できる。自分の手札・デッキ・墓地から「暗黒騎士ガイア」モンスター1体を選んで特殊召喚する。

 

ガード・ブロック:通常罠

相手ターンの戦闘ダメージ計算時に発動する事ができる。その戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になり、自分のデッキからカードを1枚ドローする。

 

 

魔法都市エンディミオン魔力カウンター×20

魔導研究所魔力カウンター×3

 

 

カトレアLP7250手札0枚

ケルベロスLP5500→2500手札4枚

 

 

「俺のターンだ、ドロー!」

 

 もう後がない。攻撃力3000が主体のカトレアのデッキに対して、ケルベロスの残りライフは2500。一撃で消し飛ばされる。

 だがまだ負けられない。

 

「オルトロスの仇を討つ。奴の――――ロキの契約者の喉元に食らいつくまで、負けられぬ! 魔導研究所の効果発動! エンディミオンの魔力カウンター八個を取り除き、デッキから二枚目のマスターケルベロスを手札に加え、ライトPゾーンにセット!」

 

 ケルベロスの右隣に、薄青い円柱が屹立する。その中に納まるマスターケルベロス。だがその柱はすぐに砕け散る。マスターケルベロスのP効果が発動されたためだ。

 

「マスターケルベロスのP効果により、自身を破壊! さらに二枚目のキングジャッカルを手札に加え、セット! さらにキングジャッカルのP効果! 自身を破壊し、EXデッキからマスターケルベロスを特殊召喚!」

 

 噛みつかんばかりに、ケルベロスは吠えながら、しかしその戦術に濁りはない。

 円柱が砕かれ、現れるローブを纏った獣面の魔法使い。だがケルベロスは止まらない。喰らいついたら離さない猟犬のように、プレイを続行する。

 

「手札を一枚捨て、D・D・R発動! 除外されているマスターケルベロスを特殊召喚!」

 

 二体目のマスターケルベロス。立て続けに登場するエースモンスターに、カトレアは眉を顰めた。そして彼女のパートナー、モリガンは戦争の女神故か、これから()()()ことを直感的に察知したか、もっと険しい表情をしていた。

 

「二枚目の魔導獣 メデューサをライトPゾーンにセット! そしてP効果発動! 自身を破壊し、墓地からマスターケルベロスを特殊召喚し、魔力カウンターを一つ載せる!」

 

 三体目。しかも墓地に行き辛いはずの、Pモンスターが墓地からの登場だ。

 どういうことだ、とは思わない。マスターケルベロスを墓地に送るタイミングは、まさに直前にあったのだ。

 

「D・D・Rのコストとして捨てたのですね……。熱くなっているようでプレイングは冷静ですこと」

 

 軽口をたたきつつも、カトレアの瞳には警戒の色が見えていた。獣の群のような間断のないプレイングに、彼女のデュエリストとしての勘が反応しているのだ。

 

「魔導獣 バジリスクを召喚」

 

 新たに現れた魔導獣は、鳥のような四足に狼を思わせる顔、牙の揃った二つの口、魚の背びれをはやした異形。バジリスクの名の通り、いくつかの生物の特徴を持った合成獣(キメラ)

 

「ここから、貴様の陣営、ライフ、それらを蹂躙する! 一体目のマスターケルベロスの効果発動! エンディミオンから魔力カウンターを四つ取り除き、超戦士カオス・ソルジャーを除外する!」

 

 何度防がれようが、ケルベロスは除去をやめはしない。それは大型獣に襲い掛かる肉食獣の群のごとく。どれほど振り払われようと、飛び掛かり、爪を、牙を突き立てることをやめはしない。ついにはどれほど巨大な獲物でも、打倒できるようにと。

 

「させません! リバーストラップ、スキル・プリズナー!」

 

 ()()()。またしてもマスターケルベロスの効果は防がれた。だが、

 

「それがどうした! 二体目のマスターケルベロス効果発動! エンディミオンの魔力カウンターを四つ使い、聖戦士カオス・ソルジャーを除外!」

 

 どれだけ防がれても、攻め続ければやがてその牙は届く。ローブの獣が杖を振るい、次の瞬間、聖戦士カオス・ソルジャーの周囲を白い光が囲った。

 光は殺人バクテリアのように聖戦士に向かって殺到。触れると同時にその部分を消滅させていく。

 絶叫も何もない無音無言の退場。声が響くのは聖戦士が完全に消された後だった。

 

「マスターケルベロスは、除外したモンスターの元々の攻撃力分、この場合、3000ポイント攻撃力がアップ! バトルだ! 強化されたマスターケルベロスで超戦士カオス・ソルジャーを攻撃!」

 

 スキル・プリズナーの効果によって、超戦士カオス・ソルジャーはマスターケルベロスの効果から守られている。

 だが攻撃力の差はいかんともしがたい。マスターケルベロスが放った無数の光の矢が、雨のように超戦士カオス・ソルジャーに向かって降り注ぐ。

 轟音。土煙と地響きを伴って訪れたそれを切り裂くように、カトレアの声が戦場に通った。

 

「墓地のサクリボーの効果発動! このカードを除外し、超戦士カオス・ソルジャーの戦闘破壊を防ぎます!」

 

 だが超戦士はこらえた。大地に踏みとどまり、盾を構えて光の流星雨を耐え抜いた。

 

「補充部隊の効果により、二枚ドロー!」

「ならばマスターケルベロスで超戦士カオス・ソルジャーを攻撃!」

 

 ケルベロスは追撃をやめない。だが聖戦士を破壊したマスターケルベロス以外は、ステータスは元々のままだ。このまま攻撃しても返り討ちにあう。

 にも拘らず攻撃してきたならば、自爆特攻で効果を発動するか――――

 

「コンバットトリックね」

 

 冷静なモリガンの指摘に、ケルベロスはにやりと笑い、これが答えだとばかりに手札からカードを抜き放った。

 

「ダメージステップ! 手札から速攻魔法、禁じられた聖槍を発動! 超戦士カオス・ソルジャーの攻撃力を800ダウンさせる!」 

 

 どこからともなく飛来した槍が超戦士の背中から胸にかけて貫通する。

 よろめく超戦士。その体にマスターケルベロスが放った炎の鞭が超戦士を打ち据えた。

 

「くぅ……! 超戦士カオス・ソルジャーの効果発動! デッキから、暗黒騎士ガイアロードを守備表示で特殊召喚しますわ!」

「脆い壁だ! 三体目のマスターケルベロスでガイアロードを攻撃!」

 

 ケルベロスの三連撃が終わる。光の弾丸が雨となってガイアロードを打ち据える。あとに残ったのは無防備となったカトレアのみ。

 

「バジリスクでダイレクトアタック!」

 

 ここぞとばかりに攻め入るケルベロス。彼の攻撃命令を受け、異形の合成獣(キメラ)が咆哮を上げて低い姿勢のまま疾走を開始。

 

「宝珠を守って!」

 

 モリガンの声が奔る。カトレアがそれに従い、胸元の宝珠を庇うように身を屈める。

 一瞬後、二重の咆哮を上げたバジリスクの爪が彼女の華奢な体に叩き込まれた。

 

「きゃあ!」

 

 悲鳴を上げ、カトレアの身体が吹き飛ばされる。

 背中から地面に激突。一回バウンドして、もう一度激突。呼吸が止まり、肺が再起動。再開された呼吸に大きくむせた。

 

「無事かしら?」

「この程度……大したことではありません! さらに補充部隊の効果により。一枚ドロー!」

 

 ふらつきながら立ち上がり、カードをドローするカトレア。その瞳に宿る力はいささかも揺るがず、弱まることなど無い。彼女の内面の強さが形になったかのようだ。

 その視線を気に入らぬものとして感じながら、ケルベロスは唸りを漏らし、ターンを終えた。

 

 

D・D・R:装備魔法

(1):手札を1枚捨て、除外されている自分のモンスター1体を対象としてこのカードを発動できる。そのモンスターを攻撃表示で特殊召喚し、このカードを装備する。このカードがフィールドから離れた時にそのモンスターは破壊される。

 

魔導獣 バジリスク 光属性 ☆4 魔法使い族:ペンデュラム

ATK1800 DEF500

Pスケール4

P効果

このカード名のP効果は1ターンに1度しか使用できない。(1):もう片方の自分のPゾーンにカードが存在しない場合に発動できる。このカードを破壊し、自分のEXデッキから「魔導獣 バジリスク」以外の表側表示の魔法使い族Pモンスター1体をデッキに戻す。その後、自分はデッキから1枚ドローする。

モンスター効果

このカード名の②のモンスター効果は1ターンに1度しか使用できない。(1):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、自分または相手が魔法カードを発動する度に、このカードに魔力カウンターを1つ置く。(2):自分フィールドの魔力カウンターを3つ取り除いて発動できる。自分のPゾーンのカード及び自分のEXデッキの表側表示のPモンスターの中から、「魔導獣」カード1枚を選んで持ち主の手札に戻す。

 

スキル・プリズナー:通常罠

自分フィールド上のカード1枚を選択して発動できる。このターン、選択したカードを対象として発動したモンスター効果を無効にする。また、墓地のこのカードをゲームから除外し、自分フィールド上のカード1枚を選択して発動できる。このターン、選択したカードを対象として発動したモンスター効果を無効にする。この効果はこのカードが墓地へ送られたターンには発動できない。

 

禁じられた聖槍:速攻魔法

(1):フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターはターン終了時まで、攻撃力が800ダウンし、このカード以外の魔法・罠カードの効果を受けない。

 

暗黒騎士ガイアロード 地属性 ☆7 戦士族:効果

ATK2300 DEF2100

(1):相手フィールドにのみモンスターが存在する場合、このカードは手札から特殊召喚できる。(2):1ターンに1度、このカードより攻撃力が高いモンスターが相手フィールドに特殊召喚された場合に発動できる。このカードの攻撃力はターン終了時まで700アップする。

 

 

魔導獣 マスターケルベロス攻撃力2800→5800

混沌の場魔力カウンター×3

魔法都市エンディミオン魔力カウンター×2

 

 

カトレアLP7250→3650→3150→1350手札4枚

ケルベロスLP2500手札0枚

 

 

「おっと、一転してモリガンのパートナーが不利か。いやはや、手負いの獣ほど恐ろしいものはないね。それともここは、怪物の執念の恐ろしさ、と言うべきかな?」

 

 この状況を楽しんでいるのか。口元に穏やかな笑みを浮かべたロキがそう言うが、和輝は首を横に振った。

 

「さっきと状況は逆だ。今度はラインツェルンが補充部隊によって手札を握ってる。なら、それ次第で逆転の目はまだある」

「なるほど。ライフはどちらも残り少ない」和輝の言葉を引き継ぐように、ロキは台詞を紡ぐ。「ならこのターンで決まるかな?」

 

 

「わたくしのターン、ドロー!」

 

 そんな、一人と一柱の感想を耳にしたわけではあるまいが、カードをドローしたカトレアは、己の神に呼び掛ける。

 

「このターンで、()()()()

「……そうね。そろそろいいと思うわ」

 

 パートナーの言葉に、力強い笑みで頷いて、カトレアはまっすぐケルベロスを――――弟の仇を討とうとしている魔獣を見た。

 

「行きます! 墓地の宵闇の騎士と開闢の騎士を除外し、来なさい新たな世界を切り開く先駆者! カオス・ソルジャー-開闢の使者-!」

 

 カトレアの墓地から、二体のモンスターの魂が浮かびだし、それが一つに交わる。

 縦一直線に、朝焼けを思わせる黄金の光が走った。

 光の向こうから現れる騎士。

 見た目はカオス・ソルジャーと変わらない。鎧の色が少し明るい印象になったくらいか。

 だがその全身から溢れる力、内包するオーラが違う。黄金色の光を背負ったその姿は、まさしく開闢の名にふさわしい。

 

「ここで、宵闇と開闢、二体の騎士の効果により、デッキから二枚目の超戦士カオス・ソルジャーと、超戦士の儀式を手札に加えます。そして開闢の使者の効果発動! 強化されたマスターケルベロスを除外します!」

 

 開闢の使者が左手に装備した盾を前面にかざした。

 次の瞬間、盾から太陽の光を凝縮したような黄金色(こがねいろ)の光が放たれた。

 光の奔流はマスターケルベロスを捕え、光に照らされたマスターケルベロスは全身を光へと変換させられて、消滅した。

 

「さらに超戦士の儀式を発動! 開闢の使者をリリースし、レベル8の超戦士カオス・ソルジャーを儀式召喚!」

 

 開闢の使者は除外効果を使った場合、攻撃できない。だから儀式のための贄にして、新たな戦力を調達する。まったく無駄のない戦術に、観戦していた和輝も内心で舌を巻いた。

 

「死者蘇生! 墓地の開闢の使者を復活させます! さらに契約の履行発動! 800ライフを払い、墓地のカオス・ソルジャーを特殊召喚します!」

「ば……ばかな……」

 

 ケルベロスは茫然と呻いた。彼からすれば当然だろう。

 怒涛の反撃によって敵の陣営は崩壊したはずだ。自分のフィールドには破壊耐性を持っているマスターケルベロスが三体もいたのだ。

 突破されはすまい。そう思った。

 だがケルベロスの陣営は壊滅した。そして相手のフィールドには、三種類のカオス・ソルジャー。

 

「これで終わりです! 超戦士カオス・ソルジャーで魔導獣 バジリスクを攻撃!」

 

 フィナーレの時間がやってきた。まず超戦士が盾を投げ捨て跳躍。上空からの落下速度も加えた大上段からの一撃で、バジリスクを頭の先から尻尾まで、容赦なく両断した。

 

「がああ!」

「Pモンスターなため、バーンダメージは発生しません。さらに開闢の使者でマスターケルベロスに攻撃!」

 

 開闢の使者が地を蹴る。一瞬にして距離を詰め、マスターケルベロスの胴体を両断。しかもそこで止まらない。

 

「開闢の使者の効果発動! もう一度、続けて攻撃します! 対象は勿論、最後のマスターケルベロス!」

 

 マスターケルベロスを両断した開闢の使者が、さらに剣を振り上げる。

 返す刀の先にいるのは、杖を構えた最後のマスターケルベロス。

 だが杖風情が、壮絶な剣技を前にいかなる障壁となるか。まるで枯れ枝を折るようなあっけなさで、最後のマスターケルベロスは杖ごと両断された。

 

「ぐ、うぅ……」

 

 よろめくケルベロス。すでに彼の守りはない。そしてカトレアのフィールドには、まだ攻撃の権利を残したモンスターが一体。

 

「終わりです! カオス・ソルジャーでダイレクトアタック!」

 

 カオス・ソルジャーが、両手で剣を構えて振り下ろす。その剣圧が物理的な衝撃となって大地を走り、大気を切り裂く。

 

「があああああああああああああああああ!」

 

 直撃。混沌の戦士の一撃が、ケルベロスのライフを奪い去っていった。

 

 

カオス・ソルジャー-開闢の使者- 光属性 ☆8 戦士族:効果

ATK3000 DEF2500

このカードは通常召喚できない。自分の墓地から光属性と闇属性のモンスターを1体ずつ除外した場合に特殊召喚できる。このカードの①②の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。(1):フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを除外する。この効果を発動するターン、このカードは攻撃できない。(2):このカードの攻撃で相手モンスターを破壊した時に発動できる。このカードはもう1度だけ続けて攻撃できる。

 

超戦士の儀式:儀式魔法

「カオス・ソルジャー」儀式モンスターの降臨に必要。「超戦士の儀式」の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。(1):自分の手札・フィールドから、レベルの合計が8になるようにモンスターをリリースし、手札から「カオス・ソルジャー」儀式モンスター1体を儀式召喚する。(2):自分の墓地からこのカード及び光属性モンスター1体と闇属性モンスター1体を除外して発動できる。手札から「カオス・ソルジャー」儀式モンスター1体を召喚条件を無視して特殊召喚する。この効果はこのカードが墓地へ送られたターンには発動できない。

 

死者蘇生:通常魔法

(1):自分または相手の墓地のモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを自分フィールドに特殊召喚する。

 

契約の履行:装備魔法

800ライフポイントを払う。自分の墓地から儀式モンスター1体を選択して自分フィールド上に特殊召喚し、このカードを装備する。このカードが破壊された時、装備モンスターをゲームから除外する。

 

 

ケルベロスLP0

 

 

 バトルフィールドの中、膝を付き、倒れ伏すケルベロス。その依り代だった男の身体から、奇怪な気配が消えていくのが、和輝たち人間にも分かった。

 

「貴方の、弟気味の仇を討ちたいという気持ちには理解と敬意を示しましょう。しかしわたくしたちはお行儀のいい試合をしているのではなく、掛け値なしの闘争を行っているのです。願いは、踏み躙らせていただきますわ」

 

 消えていくケルベロスに対して黙礼するカトレア。閉ざされた瞳。その瞼が上がった時、微かにあった相手への憐憫の感情は消え去っていた。

 

「さぁ、オカザキカズキ。邪魔者は片づけました。ここで、フェアな条件で対等な戦いを―――――」

 

 始めましょう。カトレアはそう言いたかったのだろう。だがその耳朶に、この場の誰のものでもない拍手の音が聞こえてきて、言葉を止めた。

 

「見事なデュエルでした。しかしケルベロス。仇を前にして、戦うことさえできないとは。彼の運命の分かれ道、彼は破滅と敗北への道を選んでしまったのですね。残念です」

 

 神妙な口ぶりで、どこか鎮魂を願っているかのような声音。声のした方に目を向けた時、和輝の目が見開かれた。

 揺らめいたワカメみたいな黒髪、黒い瞳、喪服のようなスーツ姿のひょろりとした不気味な男。運命の分かれ道にひっそりと佇む案山子のよう。

 和輝は彼のことを知っていた。

 Bランクプロデュエリスト一の()()()()

 昇格、降格などの相手の進退がかかった時にだけ、神がかり的な強さを発揮し、相手の昇格を妨害し、または相手を今のランクから突き落とす。

 運命の分かれ道に立つ死神。

 彼の名は山羊孝(やぎまなぶ)。神々の戦争のイレギュラー、クロノス率いるティターン神族の一柱と契約した男だった。

 彼、山羊は告げる。

 

「残念ですが、次の相手は私です。貴方たちの運命は、敗北か、勝利か。どちらでしょうね?」

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