神々の戦争   作:tuki21

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今回のデュエル構成は2018年12月までのリミットレギュレーションとなっております。ご了承ください。


第89話:運命論者と現実論者

 和輝(かずき)鷹山勇次(たかやまゆうじ)と直接会ったのは、僅か二回しかない。

 しかしその二回とも、彼にとっては印象深いものだった。

 初めて会って、言葉を交わしたのは、彼の撮影現場。

 そこで彼が神々の戦争の参加者だと知った。

 それまで和輝が戦った参加者は、理不尽を押し付け、己の契約者も含めた人間のことなどなんとも思っていない神と、神に与えられた力に酔いしれ、膨大な力で多くの人々を傷つけることに罪悪感を覚えるどころか快感さえ得ていた人間だった。

 だから、鷹山勇次とのデュエルは、和輝にとって、いわゆる真っ当な精神を保った神、参加者がいることを知るいい機会だった。

 再会時、彼はベッドの上だった。

 神々の戦争に敗北した。消えた女神に思いを馳せて語るその姿は、朗らかに笑っているようでも、どこか寂しそうだった。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 カトレアのデュエル終了後、ふらりと現れた、案山子のように細いシルエット。

 揺らめいたワカメみたいな黒髪、黒い瞳、喪服のようなスーツ姿のひょろりとした不気味な男。

 Bランク、否、プロデュエリストの世界で最も嫌われているだろう男。

 山羊学(やぎまなぶ)

 和輝は知っていた。彼の今の立場を。鷹山勇次から聞いて知っていた。

 

「何者です! 名乗りなさい!」

 

 前触れなく現れた男に対して、カトレアが誰何の声を放つ。もとよりここはバトルフィールドの中。普通人は展開した者がわざと取り込まない限り入れない。

 モリガンも、契約者と同調するように表情を険しいものに変えていく。鋭い視線は戦場の女神の名にふさわしい。

 女神の唇が開かれる。

 

「止まりなさい」

 

 カトレアに対して、どこかお姉さんぶっていた声音とは明らかに違う、凛とした声。

 カトレアや和輝に歩み寄ろうとしていた山羊の足がぴたりと止まり、困ったなというように肩がすくめられた。

 モリガンの瞳は、山羊の身体にまとわりついている異様な気配に気づていた。

 神の気配だ。ただしそれは異質だった。へぇと、和輝の隣にいたロキが呟いた。

 

「初めて邂逅するけれど、確かにちょっとほかの神と気配が違うかもね。ティターン神族って言うのは」

 

 ロキの言動に、山羊は苦笑。一礼した。

 

「何らせてもらいますよ。私は山羊学。最早察しの通りですが。イレギュラーな神、ティターン神族の一柱、テミスの契約者です」

 

 名刺交換のサラリーマンのように一礼する山羊。敵意は感じられない。というよりも戦意があるのか分からない。

 だが敵だ。それははっきりしている。

 だから和輝はカトレアの前に出た。その意志は明白。戦おうというのだ、今度は自分が。

 

「ちょ、ちょっと待ちなさい!」

 

 当然カトレアが静止の声をかける。そのまま和輝の肩に手をかけようとするが、それより前に和輝が振り向いた。

 

「悪い。ここは俺に譲ってくれ。ちょっと、こいつとは戦わないとならない理由があるんだ」

「ほう? 私と? ですが、私とは初対面のはずでは?」

「知り合いが、神々の戦争であんたにやられて、今は入院中だ。そう、ありていに言って――――敵討ちってやつだ」

 

 言いながら、和輝はデュエルディスクを起動した。

 

「ほう、なるほど。つまり、私と君の運命は、ここで交わることが決められていたようですね」

 

 そう応える山羊の脳裏に、一体誰が過ったのか、本人にしかわからない。

 そして敵討ちという単語に反応したのは山羊だけでなく、カトレアもだった。

 彼女は何か言いたげに口を開いたが、結局眉を顰めるだけにとどめ、手を引いた。

 腕を組んで一言。

 

「ならば、譲りましょう。しかしオカザキカズキ。わたくしが譲ったのです。勝ちなさい!」

「あいよ」

 

 カトレアに背中を向けた和輝は気軽に手を振り、さらに前へ。カトレアからは見えなかったが、その表情は気楽な声音に反して厳しい。簡単な相手ではないことは、山羊の戦績、評判からよくわかっている。

 

「まず、貴方からですか?」

「まず、じゃない。ここで終わりだ」

 

 山羊は肩をすくめてデュエルディスクを起動させた。互いに一対一。無言の了承が交わされる。

 カトレアが離れた。彼女もまた、和輝の戦いを見守るつもりだ。モリガンも、腕を組んでカトレアの後ろに控えている。

 和輝の胸元に、赤い輝きが――――宝珠の輝きが灯る。山羊にも宝珠が光を放つが、それは無色透明。わずかな光の揺らぎでのみ認識できるものだった。

 相手は決まった。沈黙が二人と二柱の間を駆け抜ける。

 そして――――

 

決闘(デュエル)!』

 

 ついに戦いは始まった。

 

 

和輝LP8000手札5枚

山羊LP8000手札5枚

 

 

「私の先攻ですね」

 

 先攻を勝ち取ったのは山羊。彼は5枚の手札を吟味、脳内で数ターン先の戦術までを組み立てる。

 

「では、まず貴方の前に立ちはだかる運命を見定めましょう。手札のD-HERO(デステニーヒーロー) ドグマガイを捨て、トレード・イン発動。二枚ドローします。

 さらにオーバー・デステニー発動。墓地のレベル8のドグマガイを指定し、デッキからレベル4のD-HERO ダイヤモンドガイを特殊召喚します」

 

 勇ましい声を伴って現れたのは、ダイヤモンドを模したアーマーで全身を包み、ヒーローの条件として(?)バイザーで顔を隠したモンスター。その効果は運の要素が強いが、リターンもまた強力だ。

 コストや制約の一切を踏み倒して、ただ効果のみ行使する。和輝の喉が知らずに鳴った。

 

「さて、貴方の前に立つ運命は、敗北か勝利か。どちらに近いでしょうか? ダイヤモンドガイの効果発動。デッキトップをめくります」

 

 涼やかな声と動作で、山羊がデッキトップをめくり、確認する。おやおやと肩をすくめた。

 

「どうやら、貴方の運命は敗北に向かっているようです。デッキトップはデステニー・ドロー。次の私のターン、コストと制約を踏み倒し、このカードの発動が決定しました。

 そして私はまだ通常召喚を行っていない。D-HERO ドリルガイを召喚します。その効果で、手札からD-HERO ディスクガイを特殊召喚しますよ」

 

 ダイヤモンドガイの傍らに、右腕自体を巨大なドリルに変え、左手の五指もドリル、膝からもドリルをはやしている、全身これドリルといわんばかりの戦士が現れる。

 さらにその傍らには、両腕に盾のように巨大なディスクを装備し、さらに翼のように背部にも二枚のディスクを備えた戦士が現れた。

 

「戦士の生還を発動。墓地のドグマガイを回収します。そして、ダイヤモンドガイ、ドリルガイ、ディスクガイの三体をリリースし、ドグマガイを特殊召喚します」

 

 山羊のフィールドの三体のモンスターが闇に包まれて消える。闇が繭のように凝縮し、やがて解れ、中から新たなモンスターが姿を現した。

 悪魔のような禍々しい翼、肩部分に棘をはやした禍々しい鎧、一対の角をはやしたヘッドアーマー。右手にアーマーから直接突き出た両刃の剣。

 

「来たか……。ドグマガイ……」

 

 和輝の表情が険しい。それも当然、ドグマガイは3000を超える攻撃力に加え、相手のライフを半減させる効果がある。基本的にステータスが低めなD-HEROの中にあって異端な存在だった。

 

「カードを一枚伏せて、ターン終了です」

 

 

トレード・イン:通常魔法

(1):手札からレベル8モンスター1体を捨てて発動できる。自分はデッキから2枚ドローする。

 

オーバー・デステニー:通常魔法

(1):自分の墓地の「D-HERO」モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターのレベルの半分以下のレベルを持つ「D-HERO」モンスター1体をデッキから特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターはこのターンのエンドフェイズに破壊される。

 

D-HERO ダイヤモンドガイ 闇属性 ☆4 戦士族:効果

ATK1400 DEF1600

(1):1ターンに1度、自分メインフェイズに発動できる。自分のデッキの一番上のカードをめくり、それが通常魔法カードだった場合、そのカードを墓地へ送る。違った場合、そのカードをデッキの一番下に戻す。この効果で通常魔法カードを墓地へ送った場合、次の自分ターンのメインフェイズに墓地のその通常魔法カードの発動時の効果を発動できる。

 

D-HERO ドリルガイ 闇属性 ☆4 戦士族:効果

ATK1600 DEF1200

「D-HERO ドリルガイ」の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。(1):このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。このカードの攻撃力以下の攻撃力を持つ「D-HERO」モンスター1体を手札から特殊召喚する。(2):このカードが守備表示モンスターを攻撃した場合、その守備力を攻撃力が超えた分だけ戦闘ダメージを与える。

 

D-HERO ディスクガイ 闇属性 ☆1 戦士族:効果

ATK300 DEF300

このカード名の効果はデュエル中に1度しか使用できない。このカードは墓地へ送られたターンには墓地からの特殊召喚はできない。(1):このカードが墓地からの特殊召喚に成功した場合に発動できる。自分はデッキから2枚ドローする。

 

戦士の生還:通常魔法

(1):自分の墓地の戦士族モンスター1体を対象として発動できる。その戦士族モンスターを手札に加える。

 

D-HERO ドグマガイ 闇属性 ☆8 戦士族:効果

ATK3400 DEF2400

このカードは通常召喚できない。「D-HERO」モンスターを含む自分フィールドのモンスター3体をリリースした場合のみ特殊召喚できる。(1):この方法でこのカードが特殊召喚に成功した場合、次の相手スタンバイフェイズに発動する。相手のLPを半分にする。

 

 

「先攻一ターン目って基本的に、ドローできない代わりに相手に妨害されないけどさ……。いくら何でも回し過ぎじゃない?」

 

 ロキが驚嘆したような、呆れたような微妙なニュアンスを含めた声音で呟いた。和輝も苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。

 

「Bランク以上のプロはそのくらい平気でやる。だからいちいちビビっていられない。俺のターンだ! ドロー!」

「この瞬間、ドグマガイの効果が発動されます。貴方のライフを半分にしますよ。ライフ半減という運命を受け入れなさい」

 

 和輝の足元から、瘴気を思わせる黒いガスが噴出する。ガスは生物のように蠢き、和輝の身体にまとわりついた。

 

「させるか! 手札から閉ざせし悪戯神ロキの効果発動! 手札のこのカードを捨てて、ドグマガイの効果を無効にする!」

 

 次の瞬間、涼やかな風が吹き、和輝の周囲を覆おうとしていた黒いガスを残らず吹き散らした。

 

「これは―――――」

 

 山羊が吹き散らされた瘴気の残滓を見て声を上げた。それが神の効果であることを見て取って、納得したように、あるいは感心したように頷いた。

 

「序盤からライフ半減は厳しい面もありますが、それにしても躊躇なく切り札たりえる神を捨てますか。なかなか思い切りがいいですね」

「つまらない運命なんざ、断固拒否する。ましてや、押し付けられたものならなおさらだ。俺は召喚僧サモンプリーストを召喚! 効果で、自身を守備表示にするぜ」

 

 和輝のフィールドに現れた、紫のローブで全身を覆い隠した老人。白いひげが僅かに風にそよぎ、口元が僅かに動いてる。それは呪文の詠唱だった。

 

「サモンプリーストのもう一つの効果発動。手札の魔法カード、トライワイトゾーンを捨てて、デッキからライトロード・アサシンライデンを特殊召喚!」

 

 老人の詠唱が完了する。和輝のフィールドに褐色の肌に白い衣姿、対象の生命を奪う短剣を手にした男が現れる。

 レベル4のチューナー、そして同じくレベル4の非チューナーが揃った和輝のフィールドを見て、山羊の頭をよぎった言葉はシンクロ召喚だった。

 山羊はS召喚に身構えたが、その予想は裏切られた。

 

「ライデンの効果発動。デッキトップから二枚のカードを墓地に送る」ブラック・ファミリア、スキル・プリズナーが墓地に落ちた。「ブラック・ファミリアの効果発動、デッキからブラック・マジシャンを手札に加える。

 ここで、俺は召喚僧サモンプリーストと、ライトロード・アサシンライデンをオーバーレイ! 二体のモンスターで、オーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚!」

 

 和輝の頭上に、渦巻く銀河のような空間が展開される。彼のフィールドの二体のモンスターが、白と紫の光となって渦の中心に向かって飛び込んだ。

 虹色の爆発が起こる。

 

「研ぎ澄まされた反逆の牙、屈せぬ心! 吠えろダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン!」

 

 爆発の向こうから、漆黒の身体が飛び出し、咆哮を上げた。

 歪な牙のような形状の翼に、下顎から突き出した、鋭い爪とも、剣の切っ先、槍の穂先とも見える突起物。そして全身から迸らせる稲妻。その身を旋回する二つの光の玉。即ちORU(オーバーレイユニット)

 強大な敵に対しても心折れず牙をむく、反逆の意思を秘めた黒竜だった。

 

「ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンの効果発動! ORUを二つ使い、ドグマガイの攻撃力を吸収する!」

 

 黒竜の咆哮が響き渡る。その身から放たれた紫電がドグマガイを打ち据える。雷がそのまま敵の力を削ぎ落し、逆にダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンの能力を上昇させていく。

 

「バトルだ! ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンでドグマガイを攻撃!」

 

 攻撃宣言が下る。反逆の黒竜の全身から紫電が迸り、翼を広げ、飛翔。次いで疾走。

 大気を貫いて飛来する一矢となって、黒いドラゴンが迫る。

 激突。ドグマガイはその衝撃で、上半身と下半身が腰のあたりで両断された。

 

「ぐぅ……!」

 

 ダメージのフィードバックで、山羊の痩身が揺らぐ。だがそれだけだ。山羊は踏みとどまり、即座に体勢を立て直した。

 

「この程度じゃ、枝葉を揺らす程度、みたいだね」

 

 ロキの呟きに、和輝は頷いた。実際、ライフは削れらたが、宝珠には罅どころか汚れ一つない。その精神は全く揺さぶれていないのだ。

 

「まだ始まったばかりだ。仕方がない。カードを二枚伏せて、ターンエンドだ」

 

 

閉ざせし悪戯神ロキ 神属性 ☆10 幻神獣族:効果

ATK3000 DEF3000

このカードは特殊召喚できない。このカードは3体のモンスターをリリースしてのみ通常召喚できる。(1):このカードは神属性、幻神獣族モンスターの効果以外のカード効果ではフィールドを離れず、コントロールも変更されない。(2):このカードが相手のカードの効果を受けた時、エンドフェイズにこのカードに対するそのカード効果を無効にする(3):1ターンに1度、自分のデッキからカードを1枚手札に加えることができる。(4):このカードを手札から墓地へ送り、相手フィールドの効果モンスター1体を対象として発動できる。その相手モンスターの効果をターン終了時まで無効にする。この効果は相手ターンでも発動できる。

 

召喚僧サモンプリースト 闇属性 ☆4 魔法使い族:効果

ATK800 DEF1600

(1):このカードが召喚・反転召喚に成功した場合に発動する。このカードを守備表示にする。(2):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、このカードはリリースできない。(3):1ターンに1度、手札から魔法カード1枚を捨てて発動できる。デッキからレベル4モンスター1体を特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターはこのターン攻撃できない。

 

ライトロード・アサシン ライデン 光属性 ☆4 戦士族:チューナー

ATK1700 DEF1000

自分のメインフェイズ時に発動できる。自分のデッキの上からカードを2枚墓地へ送る。この効果で墓地へ送ったカードの中に「ライトロード」と名のついたモンスターがあった場合、このカードの攻撃力は相手のエンドフェイズ時まで200ポイントアップする。「ライトロード・アサシン ライデン」のこの効果は1ターンに1度しか使用できない。また、自分のエンドフェイズ毎に発動する。自分のデッキの上からカードを2枚墓地へ送る。

 

ブラック・ファミリア 闇属性 ☆3 魔法使い族:効果

ATK500 DEF0

このカード名の(1)、(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。(1):このカードが墓地に送られた場合に発動できる。自分のデッキから墓地から「ブラック・マジシャン」モンスター1体を手札に加える。(2):墓地のこのカードをゲームから除外して発動できる。自分の墓地からレベル7以下の闇属性・魔法使い族1体を特殊召喚する。

 

ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン 闇属性 ランク4 ドラゴン族:エクシーズ

ATK2500 DEF2000

レベル4モンスター×2

(1):このカードのX素材を2つ取り除き、相手フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターの攻撃力を半分にし、その数値分このカードの攻撃力をアップする。

 

 

ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン攻撃力2500→4200、ORU×0

 

 

和輝LP8000手札2枚

山羊LP8000→5500手札0枚

 

 

「私のターンですね、ドローします」

 

 いきなり大ダメージを受けた上に攻撃力3400のドグマガイを失ったことなど、ちょっと強めの風に吹かれただけだというように、山羊は泰然としてカードをドローした。

 

「ここで、発動が確定していたデステニー・ドローの効果発動。コストと制約を無視して、二枚ドロー。さらに伏せていたリミット・リバースを発動し、墓地からディスクガイを特殊召喚します。そして、ディスクガイの効果により、二枚ドロー」

「おかしいな。このターンの初め、彼の手札は0だったはずなのに、今は五枚まで増えている。何の魔法だい?」呆れたように言うロキ。

「運命の魔法なんだろうよ、奴に言わせれば」もはやいうことはないという仕草の和輝。そんな一人と一柱をしり目に、山羊はマイペースにカードを操った。

「おろかな埋葬を発動。デッキから、ダンディライオンを墓地に送ります。そして、墓地に送られたダンディライオンの効果発動。私のフィールドに、二体の綿毛トークンを特殊召喚します」

 

 ポンポンと軽快な音を立てて、綿毛に漫画チックな、しかし勇ましい目を加えたトークンが二体、現れる。

 あっけなく揃う三体のモンスター。それに和輝は苦い表情を作った。

 D-HEROで三体のモンスターリリースを要求するのはドグマガイだけではない。もう一体いるのだ。

 

「三体のモンスターをリリースし、D-HERO Bloo-Dを特殊召喚します!」

 

 三体のモンスターが一気に消えていく。

 代わりに現れたのは、赤い闇が凝縮したような異形のモンスター。

 悪魔のような翼、赤黒い鎧、ドラゴンの大顎(おおあぎと)を思わせる右手、悪魔の五指を思わせる巨大な左手、背から伸びる鋭利なパーツは何かをつかみ取らんとする三本爪の巨大な手を思わせる。

 攻撃力は1900と三体のリリースを要求する割には低いが、足りない分は相手から奪えばいいのだ。

 

「Bloo-dが存在する限り、貴方の表側表示モンスターの効果は無効となります。これでダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンの攻撃力も、元の2500に戻りますね。

 さらにBloo-dの効果発動。ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンをこのカードに装備します」

 

 Bloo-dが両翼を広げた。するとその翼の内側から、血のように赤い霧が溢れ出した。

 霧は蠢き、次の瞬間には標的を定めた肉食獣の群のように、ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンに向かって殺到する。

 血の霧が、黒竜を捉えんとしたその刹那、和輝が動いた。

 

「させるかよ! 墓地のスキル・プリズナーの効果発動!」

 

 バチンと何かを弾く音がして、赤い霧がダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンの周りから弾かれる。

 潮が退くように撤退していく赤い波。獲物を捕らえ損ねたBloo-dは、心なし残念そうに呻いた。

 

「躱されましたか。では、次はこれです。手札から融合を発動。場のBloo-dと手札のE・HERO(エレメンタルヒーロー) シャドー・ミストを融合!」

 

 山羊のフィールド、彼の頭上に、空間の歪みが生じる。歪みはやがて渦となり、その渦に、山羊の二体のモンスターが飛び込んだ。

 

「運命を司る戦士たちよ、今ここに一つに交わり、闇を羽ばたく夜天の戦士を現出させよ! 融合召喚、来なさい、D-HERO デッドリーガイ!」

 

 渦から新たなモンスターが現れる。

 青黒い外套を纏った戦士。外套はマントのように翻り、二つに枝分かれして翼のように広がった。

 鋭く伸びた赤い爪、衣装とも、皮膚ともつかない質感の体。悪魔のように禍々しい顔面に、全身から迸る赤い雷。ステータスは守備的だが、わざわざ融合召喚したモンスターがそんな単純なものであるはずがない。

 

「融合素材となって墓地に送られたシャドー・ミストの効果を発動します。デッキから、E・HERO エアーマンを手札に加えます。そしてエアーマンを召喚」

 

 デッドリーガイの傍ら、新たに現れるのは、咲夜(さくや)も愛用している、空を駆けるHERO。空中で一回転して、山羊のフィールドに舞い降りた。

 

「エアーマンの効果発動。デッキからD-HERO ドリームガイを手札に加えます。そしてここで、デッドリーガイの効果発動。手札のドリームガイを墓地に送り、さらにデッキからD-HERO ディアボリックガイを墓地に送ります。そしてこの瞬間、デッドリーガイの効果に取り、私の場のD-HEROは墓地のD-HERO×200、攻撃力がアップします。今、私の墓地にいるD-HEROは七体。よって1400アップです。エアーマンが強化されないのは、残念ですね」

 

 おどけたように肩をすくめる山羊。そうすることで場を和ませたいわけでもあるまいし、何より陰気な雰囲気を漂わせている彼がやっても非常に似合っていない。和輝も反応せず険しい表情のままでいると、山羊は苦笑した。

 そして気を取り直すように宣言する。

 

「バトルです。まずはデッドリーガイでダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンを攻撃します」

 

 攻撃宣言が下る。命令を受けたデッドリーガイが天高く跳躍する。そのマントが固められ、二つの巨大な握り拳となった。

 落下の速度を加えた、巨大な拳による連打。それがダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンの上から叩きつけられた。

 轟音と、砕けたアスファルトの破片が舞い上がる非現実的な光景が繰り広げられる。

 やがて攻撃は終わる。攻撃をやめたデッドリーガイが山羊のフィールドに戻っていった。

 

「ち……!」

 

 ダメージのフィードバックは勿論和輝にも来る。和輝は痛みにわずかに顔をしかめたが、それだけだ。()()は次だ。

 

「エアーマンでダイレクトアタックです」

 

 飛翔したエアーマン。背部のウィングアーマーのジャイロが回転し、小規模の空気の気流を和輝に叩きつける。和輝は足を踏ん張って、顔と胸元――正確にはそこの宝珠――を守るが、強烈な風圧に抗いきれず、吹き飛ばされた。

 

「くあああああああああああ!」

 

 浮遊感に体が流れる。そのまま足から着地できず、背中から地面に激突した。

 

「カッ!」

 

 短く息を吐く。だが勢いは止まった。和輝は痛みを堪えて立ち上がった。

 

「バトルを終了。メインフェイズ2に入り、マジック・プランター発動。リミット・リバースを墓地に送って、二枚ドロー。カードを一枚伏せて、ターン終了です」

「待った。あんたのエンドフェイズ、俺は伏せていた永遠の魂を発動する。手札のブラック・マジシャンを特殊召喚だ」

 

 完全に立ち直った和輝が、ターンを終了してわずかに息を吐いた山羊に待ったをかける。そして彼のフィールドに、黒衣に身を包んだ眉目秀麗な魔法使いが現れた。杖を振るい、勇ましい声で和輝()のそばにはせ参じる。

 

 

リミット・リバース:永続罠

自分の墓地の攻撃力1000以下のモンスター1体を選択し、表側攻撃表示で特殊召喚する。そのモンスターが守備表示になった時、そのモンスターとこのカードを破壊する。このカードがフィールド上から離れた時、そのモンスターを破壊する。そのモンスターが破壊された時、このカードを破壊する。

 

デステニー・ドロー:通常魔法

(1):手札から「D-HERO」カード1枚を捨てて発動できる。自分はデッキから2枚ドローする。

 

おろかな埋葬:通常魔法

(1):デッキからモンスター1体を墓地へ送る。

 

ダンディライオン 地属性 ☆3 植物族:効果

ATK300 DEF300

(1):このカードが墓地へ送られた場合に発動する。自分フィールドに「綿毛トークン」(植物族・風・星1・攻/守0)2体を守備表示で特殊召喚する。このトークンは特殊召喚されたターン、アドバンス召喚のためにはリリースできない。

 

D-HERO Bloo-d 闇属性 ☆8 戦士族:効果

ATK1900 DEF600

このカードは通常召喚できない。自分フィールドのモンスター3体をリリースした場合のみ特殊召喚できる。(1):このカードがモンスターゾーンに存在する限り、相手フィールドの表側表示モンスターの効果は無効化される。(2):1ターンに1度、相手フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。その相手モンスターを装備カード扱いとしてこのカードに装備する(1体のみ装備可能)。(3):このカードの攻撃力は、このカードの効果で装備したモンスターの元々の攻撃力の半分だけアップする。

 

スキル・プリズナー:通常罠

自分フィールド上のカード1枚を選択して発動できる。このターン、選択したカードを対象として発動したモンスター効果を無効にする。また、墓地のこのカードをゲームから除外し、自分フィールド上のカード1枚を選択して発動できる。このターン、選択したカードを対象として発動したモンスター効果を無効にする。この効果はこのカードが墓地へ送られたターンには発動できない。

 

融合:通常魔法

(1):自分の手札・フィールドから、融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、その融合モンスター1体をエクストラデッキから融合召喚する。

 

D-HERO デッドリーガイ 闇属性 ☆6 戦士族:融合

ATK2000 DEF2600

「D-HERO」モンスター+闇属性の効果モンスター

「D-HERO デッドリーガイ」の効果は1ターンに1度しか使用できない。(1):手札を1枚捨てて発動できる。手札・デッキから「D-HERO」モンスター1体を墓地へ送り、自分フィールドの全ての「D-HERO」モンスターの攻撃力はターン終了時まで、自分の墓地の「D-HERO」モンスターの数×200アップする。この効果は相手ターンでも発動できる。

 

E・HERO シャドー・ミスト 闇属性 ☆4 戦士族:効果

ATK1000 DEF1500

「E・HERO シャドー・ミスト」の(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。(1):このカードが特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「チェンジ」速攻魔法カード1枚を手札に加える。(2):このカードが墓地へ送られた場合に発動できる。デッキから「E・HERO シャドー・ミスト」以外の「HERO」モンスター1体を手札に加える。

 

E・HERO エアーマン 風属性 ☆4 戦士族:効果

ATK1800 DEF300

(1):このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、以下の効果から1つを選択して発動できる。●このカード以外の自分フィールドの「HERO」モンスターの数まで、フィールドの魔法・罠カードを選んで破壊する。●デッキから「HERO」モンスター1体を手札に加える。

 

マジック・プランター:通常魔法

(1):自分フィールドの表側表示の永続罠カード1枚を墓地へ送って発動できる。自分はデッキから2枚ドローする。

 

永遠の魂:永続罠

「永遠の魂」の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。(1):以下から1つを選択してこの効果を発動できる。●自分の手札・墓地から「ブラック・マジシャン」1体を選んで特殊召喚する。●デッキから「黒・魔・導」または「千本ナイフ」1枚を手札に加える。(2):このカードが魔法&罠ゾーンに存在する限り、自分のモンスターゾーンの「ブラック・マジシャン」は相手の効果を受けない。(3):表側表示のこのカードがフィールドから離れた場合に発動する。自分フィールドのモンスターを全て破壊する。

 

ブラック・マジシャン 闇属性 ☆7 魔法使い族:通常モンスター

ATK2500 DEF2100

 

 

和輝LP8000→7100→5300手札1枚

山羊LP5500手札1枚

 

 

「む、なぜオカザキカズキはエアーマンの攻撃に対して、永遠の魂を発動させなかったのでしょう? ブラック・マジシャンの攻撃力にも守備力にも、エアーマンは及びませんのに」

 

 デュエルを観戦していたカトレアは、和輝の戦術に不可解な気持ちになったので、つい口に出てしまっていた。

 エアーマンの攻撃に対してブラック・マジシャンを壁にすれば、和輝のライフは必要以上に削られなかった。そのうえで反撃すればよかったのではないかと、そう思ったのだ。

 

「恐らくだけれど、彼は相手のコンバットトリックを警戒したんじゃないかしら?」

 

 うーんと考え込んでしまうカトレアに、隣のモリガンがそう言った。

 

「コンバットトリックを?」

「今、岡崎君の手札は少ないし、ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンが倒されてしまったから、攻め手にも欠ける。だから、今の彼のフィールドに、ブラック・マジシャンは要。失うわけにはいかなかったのよ、きっと。だから多少のダメージは覚悟してでも、エンドフェイズに発動した。なぜなら、そうすればブラック・マジシャンを生き残らせるから」

「けれど、たとえコンバットトリックでブラック・マジシャンを破壊されても、また自分のターンで永遠の魂の効果を使って復活させればいいのでは?」

「それだと、永遠の魂の効果でサーチができないでしょ?」

 

 モリガンの言葉に、カトレアはあっと小さく声を漏らした。つまり和輝は――――

 

「オカザキカズキは、すでにこのターンの反撃も考えていた。そのためにダメージ覚悟で、攻め手を保持しておきたかったのですわね」

 

 

「俺のターンだ、ドロー!」

「さて、わざわざコンバットトリックを警戒してまでブラック・マジシャンを残したんだ。当然、反撃の手順はできているんだろ?」

 

 パートナーの考えをもちろん汲み取っていたロキは、気軽にそう問いかけた。和輝もまた頷いた。

 

「まずはあの布陣を崩す。永遠の魂の効果発動! デッキから千本ナイフ(サウザンド・ナイフ)を手札に加え、発動! デッドリーガイを破壊する!」

「チェーンさせてもらいましょう。デッドリーガイの効果発動! 手札を一枚捨てて、デッキからD-HERO ディバインガイを墓地に送ります」

 

 ブラック・マジシャンの周辺に、切っ先を山羊の方に向けたナイフが次々に現れた。

 ブラック・マジシャンが指を鳴らした。途端にナイフの群が一斉にデッドリーガイに向かって殺到。その全身に次々に突き刺さった。

 破壊されるデッドリーガイ。山羊は右の目元を微かに揺らしただけだった。

 

矮星竜(わいせいりゅう) プラネター召喚」

 

 ブラック・マジシャンの傍らに、新たな影が現れる。

 影の正体は一体のドラゴン。右半身が漆黒の実体、左半身が輝くエネルギー状となっている、物体と非物体の狭間にいる奇妙なドラゴン。その姿は通常の法則から外れているのかもしれない。

 

「バトルだ! ブラック・マジシャンでエアーマンを攻撃!」

 

 攻撃宣言が下る。和輝の指が指し示す方向、即ちエアーマンに向かって、ブラック・マジシャンが杖を振るう。黒い雷が放たれ、それは獲物に飛び掛かる蛇の群のようにエアーマンに向かって殺到。その身を穿った。

 エアーマンの断末魔の絶叫が走り、爆散。黒煙が上がるが、それを吹き払うように、山羊の右手が振るわれた。

 

「リバースカード、デステニー・シグナル発動。デッキから、D-HERO ディシジョンガイを守備表示で特殊召喚します」

 

 カードが翻るとともに、上空に「D」の文字が大きく映し出される。新たに現れたのは、バトルスーツに身を包んではいるが、その姿はHEROよりもどちらかといえば倒される怪人のように見える。半魚人型の怪人だ。

 

「壁かぁ」

「だったら壊す。このターン、あいつの場にモンスターは残さない! プラネターでディシジョンガイを攻撃!」

 

 今度は半エネルギー体のドラゴンが動く。その口から放たれる、闇と光のエネルギー。二種類のエネルギーは螺旋を描いて交わり、守備体勢をとっていたディシジョンガイを貫いた。

 

「バトル終了。メインフェイズ2に入り、命削りの宝札を発動! 手札が三枚になるようにドロー!

 カードを二枚セット。そしてエンドフェイズに、命削りの宝札と、プラネターの効果が発動。この発動の順番は俺が決められる。よってまず命削りの宝札の効果で手札を捨て、プラネターの効果でデッキからオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンを手札に加える。ターンエンドだ!」

「おっと、貴方のエンドフェイズ、私もディシジョンガイの効果を発動します。墓地からダイヤモンドガイを手札に加えますよ」

 

 

千本ナイフ:通常魔法

(1):自分フィールドに「ブラック・マジシャン」が存在する場合、相手フィールドのモンスター1体を対象として発動できる。その相手モンスターを破壊する。

 

矮星竜 プラネター 光属性 ☆4 ドラゴン族:効果

ATK1700 DEF1200

(1):このカードを召喚したターンのエンドフェイズに発動できる。デッキから光属性または闇属性のレベル7モンスター1体を手札に加える。

 

デステニー・シグナル:通常罠

自分フィールド上のモンスターが戦闘によって破壊され墓地へ送られた時に発動する事ができる。自分の手札またはデッキから「D-HERO」と名のついたレベル4以下のモンスター1体を特殊召喚する。

 

D-HERO ディシジョンガイ 闇属性 ☆4 戦士族:効果

ATK1600 DEF1000

「D-HERO ディシジョンガイ」の(1)(3)の効果はそれぞれデュエル中に1度しか使用できない。(1):このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。このターンのエンドフェイズに、自分の墓地の「HERO」モンスター1体を選んで手札に加える。(2):レベル6以上の相手モンスターはこのカードを攻撃対象に選択できない。(3):このカードが墓地に存在し、自分にダメージを与える魔法・罠・モンスターの効果が発動した時に発動する。このカードを手札に戻し、その効果で自分が受けるダメージを0にする。

 

命削りの宝札:通常魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できず、このカードを発動するターン、自分はモンスターを特殊召喚できない。(1):自分は手札が3枚になるようにデッキからドローする。このカードの発動後、ターン終了時まで相手が受ける全てのダメージは0になる。このターンのエンドフェイズに、自分の手札を全て墓地へ送る。

 

 

和輝LP5300手札1枚

山羊LP5500→4800手札1枚

 

 

 まずは前哨戦、これは今終了したといっていいだろう。

 だが和輝は一瞬たりとも気を抜けなかった。

 山羊学はBランクの中堅どころのプロプレイヤーだ。だが、相手の進退がかかった時のみ、神がかり的な強さになる。

 神々の戦争。これは常に相手の進退がかかっている戦いではないだろうか?

 ならば敵は己の実力をフルに発揮できる。油断などできるはずもなかった。

 和輝はかすかに震える息を吐きながら、次の山羊のターンを待った。

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