カトレアから見て、現在の状況は
ライフも和輝は山羊より下だ。さらにダスクユートピアガイによる防御と、DragoonD-ENDによるバーンは危険だ。特にライフが少ない今は。
おまけにD-ENDは墓地にD-HEROがいる限り簡単に自己再生してしまう。
「状況は、厳しいと言わざるを得ませんわね……」
我知らず、右手親指の爪を噛んでしまう。昔、行儀が悪いと母様に叱られたけれど、今はそこまで気が回らない。
気が気でない状況。敵の強大さを目にしながら、カトレアはデュエルを見守るしかなかった。
和輝LP2050手札5枚
ペンデュラムゾーン赤:、青:なし
モンスターゾーン
魔法・罠ゾーン 伏せ2枚、永遠の魂、マジシャンズ・プロテクション、
フィールドゾーン なし
山羊LP4800手札1枚
ペンデュラムゾーン赤:なし青:なし
モンスターゾーン D-HERO ダスクユートピアガイ(攻撃表示)、Dragoon D-END(攻撃表示)、V・HERO アドレイション(攻撃表示)
魔法・罠ゾーン 伏せ1枚
フィールドゾーン なし
「俺のターンだ、ドロー!」
ドローカードを確認した和輝は、それを手札に加えることなく、即座にデュエルディスクにセットした。
「調和の宝札発動。手札のギャラクシーサーペントを捨て、二枚ドロー!」
鞘から刀を抜く、居合のような鋭さで、カードをドロー。確認後、よしと口の中で呟いた。
「俺は、スケール1の小鼠の魔術師と、スケール3の白蛇の魔術師で、ペンデュラムスケールをセッティング!」
和輝の左右に青白い光の円柱が屹立する。その中に浮かび上がる1と3の文字。1の柱には鼠の尻尾をつけ、袖や裾を短くして動きやすくした、巫女のような紅白の袴姿の少女。3には着崩した黒字に銀と金色の蛇柄のアクセントが入った着物を着た、黒髪金目の妖艶な雰囲気を放つ妙齢の女性が、それぞれセッティングされた。
「Pカードですか。しかしそのスケールではレベル2のモンスターしか召喚できませんね?」
「問題ないさ。白蛇の魔術師のP効果発動! 反対のPゾーンにオッドアイズか魔術師がセットされている時、このカードと反対側のPカード、この二枚を破壊し、二枚ドロー!」
「そしてぇ! EXデッキの小鼠の魔術師のモンスター効果発動! デュエル中一度だけ、俺のEXデッキに表側表示で存在するこのカードを、俺のフィールドの空いたPゾーンにセットできる! 俺はスケール1の小鼠の魔術師をPゾーンにセット! さらに手札からスケール8の猪突の魔術師をセッティング!」
再び青白い柱が屹立。二体のPモンスターが、自身のスケールが浮かび上がる柱の中に格納された。
「これで俺は、レベル2から7のモンスターを同時に召喚可能になった!
振り子は揺れる。避けえぬ宿命を乗せて! 天空に描かれる光のアークが、異界への門へと変じる! ペンデュラム召喚! EXデッキから現れろ、白蛇の魔術師、オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン! さらに手札から、二体のブラック・マジシャンよ、出でよ!」
和輝の頭上に開かれた異界の門。そこから四つの光が飛び出し、彼のフィールドに降り立った。
三体の魔法使いに、一体のドラゴン。白蛇の魔術師が豊かな胸元から黒に金であしらった扇子を取り出した。ブラック・マジシャンたちが杖を構える。そして、オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンが咆哮を上げた。
「白蛇の魔術師のモンスター効果発動! このカードを含む魔法使い族モンスター二体以上のP召喚に成功した時、カードを一枚ドロー! さらに猪突の魔術師のP効果発動! オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンの攻撃力を700アップさせる!」
「よーし、これでP召喚で消費した手札も補充で来たね。相当カードを使ったんだ。一気に行くでしょ?」
「当然だ。俺は二体のブラック・マジシャンでオーバーレイ! 二体のモンスターで、オーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚!」
X召喚のエフェクト。即ち渦巻く銀河のような空間が和輝の頭上に展開される。そこに、和輝の場にいた二体のブラック・マジシャンが紫の光に代わって飛び込んだ。
二つの光がさらなる輝きを放ち、虹色の爆発となった。
「
爆発の向こうから現れるのは、肌を浅黒くし、表情をより鋭くしたブラック・マジシャンといった風情のモンスター。纏っている衣装も鎧が付与され、より鋭角的になっている。
「幻想の黒魔導師効果発動!
幻想の黒魔導師の周囲を旋回していた光の玉の一つが消費される。和輝のデッキから飛び出すように現れたのは、白い肌、赤い瞳、頭に白い兎の耳、背中にはウサギのしっぽを模したと思われる丸い、すっぽりと中に隠れられそうなほど大きな飾りといった兎を思わせるパーツに、簡略化されたローブを身に纏った利発そうな少年。その傍らに、ペットのように寄り添うガード・オブ・フレムベル。
和輝が特殊召喚したモンスターは、いずれも攻撃力が低い。しかしチューナーがいるため、普通はここでS召喚だ。
「バトルだ!」
しかし和輝は攻撃に入った。理由は、彼のフィールドで不敵な笑みを浮かべている幻想の黒魔導師。
「跳兎の魔術師でアドレイションを攻撃! ここで、幻想の黒魔導師の効果発動! DragoonD-ENDを除外する!」
兎を模した少年魔術師が足元に魔法陣を浮かべて跳躍する。
まさしく兎のような跳躍力。敵HEROの頭上を取った魔術師は杖を振るう。すると杖の軌跡に従って、月の光のような粒子がキラキラと降り注ぐ。
魔術師の攻撃に合わせて、魔導師も動く。彼は杖を振るい、紫電を放つ。
紫電は大気を切り裂き、鞭のように、肉食獣のようにアドレイションに肉薄。天と地からの二重攻撃で打ち据えた。
「よっし! ここだ!」
ロキがぱちんと指を鳴らす。和輝も「応!」と頷き、デュエルディスクのボタンを押した。
「リバースカードオープン! 緊急同調! この効果で、俺の場にいるレベル3の白蛇の魔術師とレベル4の跳兎の魔術師に、レベル1のガード・オブ・フレムベルをチューニング!」
バトルフェイズ中のS召喚。和輝のフィールドにいた三体のモンスターが、光の輪、光の星、光の道を描いて一つになる。
「集いし
光の
白い、ロングコートのような衣装に、白い鎧姿。時計の文字盤を二つに割ったような意匠の二振りの剣。涼やかで物静かな、覚者を思わせる佇まいの魔法使い。
「覚醒の魔導剣士の効果発動! 魔術師をS素材としたため、墓地の超融合を手札に加える! さらに永遠の魂の効果発動! 墓地から竜騎士ブラック・マジシャンを特殊召喚!」
ここぞとばかりに大型モンスターを並べる和輝。彼の眼前で、頼れるモンスターたちの背中が現れる。
「よーしよしよし。これで敵の牙城は崩せるね」
「当然だ。オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンでダスクユートピアガイを攻撃!」
「――――ダスクユートピアガイの効果を発動。自身を防御します」
緑色のヴェールが障壁となって金色のHEROを覆う。直後にオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンが放った螺旋を描く炎が直撃したが、無傷。
「それくらい考えてるよ!」
「そういうことだ! 覚醒の魔導剣士でダスクユートピアガイを攻撃!」
追撃は止まらない。剣を持った魔法使いが飛翔。左手の剣を投擲した。
魔力を込めた剣はまっすぐダスクユートピアガイに向かって突き進む。刹那、和輝が手札からカードを一枚抜き放った。
「ダメージステップに、手札の幻想の見習い魔導師の効果発動! このカードを捨てて、覚醒の魔導剣士の攻撃力を4000アップする!」
これで、覚醒の魔導剣士の攻撃力は4500。ダスクユートピアガイを大きく上回った。
直後、剣が金色のHEROの腹部に突き刺さり、背中を突き抜けた。
「ぐぅ……!」
ダメージのフィードバックが山羊を襲う。だが本当に
「覚醒の魔導剣士の効果発動! 破壊したダスクユートピアガイの攻撃力分のダメージを喰らえ!」
覚醒の魔導剣士が残った剣を構える。そこから放たれる一撃は、山羊のライフを大きく削るだろう。しかし―――――
「そうはさせませんよ。墓地のディシジョンガイの効果発動! このカードを手札に戻し、覚醒の魔導剣士の効果によるダメージを0にします!」
山羊も、負けてない。彼もまた、倒されぬよう動く。運命を受け入れるといっても、それはただ黙ってのことではない。
負ける運命にないのなら、抵抗する。それは当然のことだと、山羊は考えていた。
「防ぐかぁ、さすが」
「だがこれはどうだ!? 竜騎士ブラック・マジシャンでアドレイションを攻撃! さらに幻想の黒魔導師でダイレクトアタック!」
連続攻撃。竜を駆る魔法使いの一撃がアドレイションを粉砕。がら空きになった山羊に向かって、幻想の黒魔導師が紫電を放つ。
「残念ですが、届かせません。リバースカードオープン! ピンポイント・ガード! この効果で、墓地からE・HERO エアーマンを守備表示で特殊召喚します! さらにエアーマンの効果で、デッキから二枚目のダイヤモンドガイを手札に加えましょう」
山羊は退かない。当然だ。運命はどちらにもまだ傾いていない。なら戦う。受け入れない。
「防がれたか。バトル終了! メインフェイズ2に入り、小鼠の魔術師のP効果発動! 一ターンに一度、あんたの墓地のモンスター一体を除外し、その攻撃力分、俺のライフが回復する! その後、このカードを破壊する。俺はあんたの墓地からディストピアガイを除外し、その攻撃力分、ライフを回復する! カードを一枚セットして、ターンエンド!」
調和の宝札:通常魔法
手札から攻撃力1000以下のドラゴン族チューナー1体を捨てて発動できる。デッキからカードを2枚ドローする。
白蛇の魔術師 地属性 ☆3 魔法使い族:ペンデュラム
ATK1200 DEF1100
Pスケール3
P効果
このカード名のP効果は1ターンに1度しか使用できない。(1):自分メインフェイズにもう片方の自分のPゾーンに「白蛇の魔術師」以外の「魔術師」または「オッドアイ」カードが存在する場合に発動できる。このカードともう片方のPゾーンのカードを破壊し、カードを2枚ドローする。
モンスター効果
このカード名のモンスター効果は1ターンに1度しか使用できない。(1):このカードを含む魔法使い族モンスター2体以上のP召喚に成功した時に発動する。カードを1枚ドローする。
小鼠の魔術師 闇属性 ☆1 魔法使い族:ペンデュラム
ATK500 DEF400
Pスケール1
P効果
(1):1ターンに1度、相手の墓地のモンスター1体を対象に発動できる。そのモンスターをゲームから除外し、その攻撃力分ライフを回復する。その後、このカードを破壊する。
モンスター効果
このカード名のモンスター効果はデュエル中1度しか発動できない。(1):このカードがEXデッキに表側表示で存在する時に発動できる。このカードを、空いた自分Pゾーンにセットする。
猪突の魔術師 闇属性 ☆4 魔法使い族:ペンデュラム
ATK1800 DEF1600
Pスケール8
P効果
(1):1ターンに1度、自分フィールドのモンスター1体を対象に発動できる。ターン終了時までそのモンスターの攻撃力を700アップする。(2):自分フィールドのモンスターが相手のカードの対象になった場合に発動できる。Pゾーンのこのカードを破壊して、その効果を無効にする。
モンスター効果
(1):このカードが戦闘を行うときに発動する。ダメージ計算終了時まで、このカードの攻撃力は600ポイントアップする。
幻想の黒魔導師 闇属性 ランク7 魔法使い族:エクシーズ
ATK2500 DEF2100
レベル7モンスター×2
このカードは自分フィールドのランク6の魔法使い族Xモンスターの上に重ねてX召喚する事もできる。「幻想の黒魔導師」の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。(1):1ターンに1度、このカードのX素材を1つ取り除いて発動できる。手札・デッキから魔法使い族の通常モンスター1体を特殊召喚する。(2):魔法使い族の通常モンスターの攻撃宣言時、相手フィールドのカード1枚を対象として発動できる。そのカードを除外する。
跳兎(はねうさぎ)の魔術師 闇属性 ☆4 魔法使い族:ペンデュラム
ATK1300 DEF2100
Pスケール8
P効果
(1):このカードがPゾーンにセットされた時に発動できる。反対側のPゾーンのPカードを破壊できる。(2):相手の攻撃、またはカード効果によって自分のライフが0になる場合にPゾーンのこのカードを破壊して発動できる。その攻撃または効果によって受けるダメージを0にし、カードを1枚ドローする。
モンスター効果
なし
ガード・オブ・フレムベル 炎属性 ☆1 ドラゴン族:チューナー
ATK100 DEF2000
緊急同調:通常罠
(1):自分・相手のバトルフェイズに発動できる。Sモンスター1体をS召喚する。
覚醒の魔導剣士 闇属性 ☆8 魔法使い族:シンクロ
ATK2500 DEF2000
チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上
「覚醒の魔導剣士」の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。(1):「魔術師」Pモンスターを素材としてこのカードがS召喚に成功した場合、自分の墓地の魔法カード1枚を対象として発動できる。そのカードを手札に加える。(2):このカードが戦闘で相手モンスターを破壊した時に発動できる。そのモンスターの元々の攻撃力分のダメージを相手に与える。
幻想の見習い魔導師 闇属性 ☆6 魔法使い族:効果
ATK2000 DEF1700
(1):このカードは手札を1枚捨てて、手札から特殊召喚できる。(2):このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「ブラック・マジシャン」1体を手札に加える。(3):このカード以外の自分の魔法使い族・闇属性モンスターが相手モンスターと戦闘を行うダメージ計算時、手札・フィールドのこのカードを墓地へ送って発動できる。その自分のモンスターの攻撃力・守備力はそのダメージ計算時のみ2000アップする。
D-HERO ディシジョンガイ 闇属性 ☆4 戦士族:効果
ATK1600 DEF1000
「D-HERO ディシジョンガイ」の(1)(3)の効果はそれぞれデュエル中に1度しか使用できない。(1):このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。このターンのエンドフェイズに、自分の墓地の「HERO」モンスター1体を選んで手札に加える。(2):レベル6以上の相手モンスターはこのカードを攻撃対象に選択できない。(3):このカードが墓地に存在し、自分にダメージを与える魔法・罠・モンスターの効果が発動した時に発動する。このカードを手札に戻し、その効果で自分が受けるダメージを0にする。
ピンポイント・ガード:通常罠
(1):相手モンスターの攻撃宣言時、自分の墓地のレベル4以下のモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを守備表示で特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターはこのターン、戦闘・効果では破壊されない。
和輝LP2050→4850手札0枚
山羊LP4800→4600→3600→3400手札2枚
「私のターンですね、ドロー」
戦況は逆転していた。
和輝のモンスターはどれも強力だし、ブラック・マジシャンとその派生は永遠の魂の効果で守られている。山羊の耳には敗北の運命がひたひたと忍び寄ってくる音が聞こえた。
(流れが変わった。敗北が近づいてくる。これが私の運命でしょうか……)
そうであるなら受け入れるしかない。しかし――――
(この、カード……)
ドローしたカードを確認する。希望の宝札。互いの手札を六枚にする、最強のドローブースト。
これが来た以上、まだ運命は分からない。
「ならば、流れに乗るまでですね。希望の宝札を発動します。互いに、手札が六枚になるようにドロー」
「希望の宝札か……」
嫌なカードが来た、と和輝は思った。ここで大量にドローされるのは悪い流れだ。
盤面を制圧したというのに、さすがはプロ。手札はディシジョンガイとダイヤモンドガイで確定していたので、希望の宝札は今引いたのだ。
流れを強引にひっくり返しかねないカードをドローしてきた。この底力。あるいは、相手の進退がかかっているデュエルだからこそ発揮される、山羊学の神がかり的な力ゆえか。
「どっちにしろ、まずそうだね」
ロキの言葉に内心で頷きながら、和輝もドローしていく。
「では、行きましょう。墓地のディアボリックガイの効果発動。このカードを除外し、デッキから三枚目のディアボリックガイを特殊召喚します。そしてダイヤモンドガイを召喚し、効果を発動します」
サンド名の運命の開示。山羊のデッキトップがめくられる。その正体は――――
「……リビングデッドの呼び声。通常魔法カードではないので、このカードはデッキボトムへ」
外した。今まで連続でドローソースを確定させ、その度に和輝の盤面を崩す起点となってきたダイヤモンドガイの効果が、ついに外れた。
勝負の流れは覆されているが、まだ和輝の側に向かっている。敗北という錘の乗った天秤は、まだ山羊の方に傾いているのだ。
「だが――――」
疑念というよりも、確信じみた予感がある。
神々の戦争を何度も潜り抜けてきた和輝だからわかる予兆。
「荒れるね。まだ」
ロキも感じ取っているのだろう。神妙な声音でそう言った。和輝も無言で頷いた。
「
来た。和輝の予感通りに。
山羊の場のモンスターたちが、光の粒子へと変換され、世界に溶け込むように消えていく。
空気が重くなる。空間が歪むような圧力が降りかかってくる。
力の“場”が形成される。それが、神を呼ぶ“門”になる。
「来なさい。不変なる法定巨神テミス!」
現れるティターン神族。
女神だった。
陶器のように白い肌、球体関節。裁判官が着るような黒い法衣で全身をすっぽり覆い、手以外の肌は見えない。銀色の冑、目にはグレイのバイザー。口元だけが唯一のおしゃれというようにピンクのルージュ。両肩に身の丈ほどのバカでかい円形の盾。
「これが……ティターン神族……!」
初めて相対した。ほかの、正規の参加者である神と比べると、少し気配に違和感がある。封印されていたがゆえの歪みか、ティターン神族自体の特徴なのかは分からないが。
「初めまして。ティターン神族の一柱、テミスです」
澄んだ声で、巨神、テミスはそう挨拶した。わずかに頭を下げた一礼までしている。
「ずいぶん礼儀正しいな。今まで一言も喋らなかったくせに」
「テミスはシステムの具現です。そしてシステムは何物にも同様、平等。故にテミスは喋りません。考えはしますが、それを口に出しません。法、定理は己から何かをすることはないし、してはならないからです」
テミスの声によどみはない。澄み切ったその声は一切のノイズを取り除いた人工音声のようだ。
「ティターン神族は、より神の在り方が原始的だね。司る権能が少ないから、本来の特性をむき出しにしている」
補足するようにロキはそう言っているが、和輝にはさっぱりわからない。どういうことだと問いかけてみるが、「本筋には関係ないよ」とはぐらかされてしまった。
もっとも、ロキの言う通りだ。今重要なのは神についての講釈ではない。テミスがどんな効果を持っているか。そしてそれをどう攻略するかだった。
「テミスの効果を発動します。相手フィールドのカードの数が自分よりも多い場合、
「なんだとぉ!?」
想像を絶する効果。だが、法と定理の下、何物も平等にするテミスにはふさわしい効果。
和輝と山羊のフィールドに巨大な天秤が現れた。
それぞれの皿の上には二人のフィールドのカードが乗っている。和輝のフィールドの方がだいぶカードが多いので、和輝の側の天秤が大きく傾いている。
「天秤を、平等に致しましょう」
テミスの宣告が響く。
「私のフィールドのカードは一枚。なので貴方は一枚選び、それ以外を裏側で除外しなければなりません。もっとも、ブラック・マジシャン系列は永遠の魂があれば効果を受けませんが」
実質一択だ。永遠の魂以外を選べばどちらにしろ永遠の魂の効果で全てのカードは道連れにされる。
「だが、ここはもう少し粘っておくぜ。リバースカードオープン、超融合! 手札を一枚捨てて、俺の場のオッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴンと覚醒の魔導剣士を融合! 濃い神秘を瞳に刻んだ竜よ! ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン!」
現れる、その瞳にルーンの力を秘めたドラゴン。ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴンはP召喚されたモンスターを素材にした場合、融合召喚に成功したターンの実だが、相手の効果を受けない。これで守るモンスターを増やす。
「俺は永遠の魂を選択する!」
「では、残りを除外します。もっとも、カード効果を受けないものが多いようですが」
和輝のフィールドからカードが除外されていく。それでも彼のカードは山羊より多いが、見かけ上、天秤は平等になった。
そしてカードを除外しただけで、山羊のターンが終わるわけがない。
「ニトロ・ユニットをルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴンに装備します。そして、テミスでルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴンを攻撃します」
攻撃宣言が下る。バイザーに隠れていて見えないが、和輝には彼女の視線がルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴンに向けられたと思った。
背部のロボットアームが動く。盾を取り、
まさに射出だった。砲弾のごとき速度で飛来する二つの盾。その圧力を感じながら、和輝は対抗手段を放った。
「手札の狂犬の魔術師の効果発動! 相手モンスターとの戦闘でのダメージ計算時、手札のこのカードを墓地に送ることで、戦闘する相手モンスターと同じ攻撃力になる! これで、ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴンの攻撃力を同じにする! 行け! ルーンアイズ!」
和輝の声にこたえるように、ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴンが地を蹴る。盾をその身に受けながら、背中の光輪から虹色の光を放った。
光は盾の隙間を縫うように突き進み、テミスに直撃した。
爆散の花が二輪咲いた。どちらのモンスターも破壊され、砕け散る。
そしてこの瞬間、運命は決したと、山羊は確信した。
その確信に従って声を上げる。
「ここで、ニトロ・ユニットの効果が発動します。貴方に3000のダメージ。さらに!
「何!?」
和輝の目が驚愕に見開かれる。ロキの眉が上がる。
「テミスがフィールドを離れた時、その攻撃力分のダメージを与えます! つまり、ニトロ・ユニットの効果、3000に加え、3500のダメージが貴方に向かいます!」
和輝のライフは残り4850。受ければ消し飛ぶ。そして6500のバーンダメージ。まともに喰らえば宝珠など砕けて当然。
「終わりです」
テミスの冷淡な声が上から降ってくる。彼女の人差し指が上がる。和輝の周りに、無数の剣が出現。前後左右に頭上まで、全て切っ先を向けた白刃が和輝を狙っていた。
指が落ちた。同時に、全方向からどうあっても回避できない剣の雨が、和輝に降り注いだ。
「――――――――――――!」
眼前の光景に、カトレアは息を飲んだ。
アスファルトの破片が飛ぶ。粉塵が舞う。剣の群が次々に突き刺さって小高い丘になっているよう。
これは、これは
オカザキカズキと、声をかけるべきか、迷う。もしも声をかけて、返事がなければ、彼の宝珠だけでなく、命まで砕けているのではないかと思うと、声を上げられない。
「大丈夫よ、カトレア」
だから、横にいるパートナーの声を聞いた時、カトレアは――本人は絶対に認めないが――安堵した。
そして彼女の眼前。煙が晴れていく。粉微塵にされたコンクリートたちが、風に吹き散らされていく。
果たして、剣突き刺さる地獄の中心で、和輝は立っていた。
満身創痍だ。ダメージが膝にいっているようで、足ががくがくしている。
だがそれでも立っていた。ライフも残っていた。
残りライフ1600。生き残った。
「なぜ……」
さすがの山羊も呆然としている。和輝はここぞとばかりに不敵に笑い、一枚のカードを手に取った。それはさっきまで墓地にあったものだが、今は除外されたカードだった。
「ダメージ・ダイエット。墓地のこいつの効果を発動し、効果ダメージを半分にした。だから生き残った」
「そんなカード……、いつ墓地に……」
「勿論、ルーンアイズ召喚の超融合の時さ。この時に捨てていた」
「偶然、だと……?」
「敗北の運命ってのが、俺から離れて、あんたの所に言っているんじゃないのか?」
そう言ってみるが、勿論偶然などではない。
かつて、この山羊と戦い、病院送りにされた男、ウェスタの契約者、鷹山勇次。
倒したと思ったら重たい反撃を喰らう、やばい奴だった。彼はテミスについてこういっていた。和輝はそれを覚えていた。
手痛い反撃として考えたのは、道連れ効果またはバーンダメージ。あるいはその複合。どちらにせよ、ダメージ・ダイエットを保険として捨てておけばいい。和輝は超融合でルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴンを融合召喚する際、とっさにそこまで考えて、超融合のコストにダメージ・ダイエットを捨てたのだった。
「さぁどうする? 頼りのティターン神族は消えたぞ?」
「いいえ」
だが山羊は首を横に振った。
「テミスはまだ戻ってきます。このカードでね。手札から、テミスの審判を発動します。このカードは、私の墓地の幻神獣族を、召喚条件を無視して特殊召喚できます。蘇りなさい、テミス!」
輝かしい光とともに、再び山羊のフィールドに舞い降りるテミス。その姿を見て、和輝は驚愕の声を上げた。
「馬鹿な! 幻神獣族を対象にするカードだと!?」
幻神獣族は数が少ない。というか、三幻神という例外中の例外を除けば存在しない。神属性もだ。故に、幻神獣族を対象とするカードなど出回っているはずがない。
「違法カード、ってこと?」
しかしロキの疑問に、和輝は首を横に振った。
「いや、違法カードや偽造カードだったら、デュエルディスクにセットした瞬間に弾かれる。だからあれは正規のカードだ。いったいどこで手に入れた?」
「ただ、クライアントから頂いただけですよ」
和輝の疑問に、山羊はしれっと答えた。
クライアントというのはゾディアックCEO、
そうだとしても、このような神専用のカードを持っているのはなぜか?
基本的にデュエルモンスターズのカードは提携会社こそあれど、権利の大本はクラインヴェレ社だ。あそこでカードがデザインされる。そしてクラインヴェレ社の許諾を得て、市場に出回るのだ。
ならば可能性は一つ。
「クラインヴェレ社が、あんたらにこのカードを提供したのか?」
「ありえませんわ!」
否定の声は意外にもカトレアからだった。
「わたくしは
するはずがない。そう言いたかった。
だがカトレアの脳裏をよぎるのは、ルートヴィヒの状態だった。
彼は言っていた。己の中の邪悪が自分を蝕んでいると。
まさか彼は、己の内に潜む邪悪に負けてしまったのだろうか? 嫌な予感が急速に膨らんでいく。
「……?」
黙ってしまったカトレアを、訝しげな眼で見る和輝。その耳朶をロキの声が叩いた。
「まぁ、今は関係ないから、置いておこうよ。それより考えることは、目の前のデュエルだ」
そうだった。山羊はテミスを守備表示で特殊召喚した。つまりこのまま攻撃しても山羊のライフは削れず、どころかテミスの効果によるカウンターで和輝のライフが0になる。
「テミスの審判を使った場合、次の私のターン終了時まで、私は特殊召喚したモンスター以外の効果を発動できません。これでターン終了です」
「待て。あんたのエンドフェイズに、俺は永遠の魂の効果でブラック・マジシャンを特殊召喚する」
希望の宝札:通常魔法
(1):互いのプレイヤーは手札が6枚になるようにカードをドロー、または手札のカードを捨てる。このカードを発動するターン、自分は他のカード効果でデッキからカードをドローできない。
二重召喚:通常魔法
(1):このターン自分は通常召喚を2回まで行う事ができる。
不変なる法定巨神テミス 神属性 ☆10 幻神獣族:効果
ATK3500 DEF4000
このカードは特殊召喚できない。このカードは3体のモンスターをリリースしてのみ通常召喚できる。(1):このカードは神属性、幻神獣族モンスターの効果以外のカード効果ではフィールドを離れず、コントロールも変更されない。(2):このカードが相手のカードの効果を受けた時、エンドフェイズにこのカードに対するそのカード効果を無効にする。(3):このカードがフィールドを離れた時に発動できる。このカードの攻撃力分のダメージを相手に与える。(4):相手フィールドのカードの数が自分フィールドのカードより多い場合、自分メインフェイズに発動できる。自分フィールドのカードの数と同じになるように、相手は自身のフィールドのカードを選んで裏側表示で除外しなければならない。
ニトロ・ユニット:装備魔法
相手フィールド上モンスターにのみ装備可能。装備モンスターを戦闘によって破壊し墓地へ送った時、装備モンスターの攻撃力分のダメージを相手ライフに与える。
狂犬の魔術師 闇属性 ☆4 魔法使い族:ペンデュラム
Pスケール5
ATK1900 DEF1200
P効果
???
モンスター効果
このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。(1):自分モンスターと相手モンスターが戦闘を行うダメージ計算時、手札・フィールドのこのカードを墓地へ送って発動できる。その自分モンスターの攻撃力は戦闘を行う相手モンスターと同じになる。(2):墓地のこのカードをゲームから除外してフィールドの表側表示のモンスターカード1枚を対象に発動できる。そのモンスターを破壊する。
ダメージ・ダイエット:通常罠
このターン自分が受ける全てのダメージは半分になる。また、墓地に存在するこのカードをゲームから除外する事で、そのターン自分が受ける効果ダメージは半分になる。
テミスの審判:通常魔法
(1):自分の墓地から幻獣神族モンスター1体を召喚条件を無視して特殊召喚する。このカードの発動後、次の自分ターン終了時まで、フィールドで発動するカードの効果を発動できない。
輝LP4850→1600手札4枚
山羊LP3400手札1枚
「俺のターンだ、ドロー!」
ターンは和輝に移る。ドローカードを一瞥で確認する少年を見ずに、山羊は己の右掌を見つめていた。
さっきのターンで、何か致命的なものが手の中から零れ落ちた気がする。
ひたひたと背後に忍び寄るものは、もうすぐ後ろまで来ている。首筋に
「永遠の魂の効果で、ブラック・マジシャンを蘇生! さらに手札から、師弟の絆を発動! デッキから、ブラック・マジシャン・ガールを特殊召喚!」
ピタリ。そいつが止まったのが分かる。己の肩の上に手を置かれたように感じる。まるで死人のように冷たかった。
「手札のタスケルトンを捨て、死者転生を発動! 墓地の閉ざせし悪戯神ロキを手札に加える! そして! 俺は二体のブラック・マジシャンとブラック・マジシャン・ガールの三体をリリースし――――閉ざせし悪戯神ロキを召喚!」
幼いころ、事故で触ってしまった、出棺前の遺体の感触と、冷たさを思い出した。
「さぁ、神々の登場だ! 世界が回る! デュエルが進む! 敵を倒すか倒されるか、ここで決めようじゃないか!」
北欧の邪神が謡い上げる。テミスは無言。山羊も無言。だが首筋に息遣いを感じる。
実体のない、存在さえ確定されていない不確かな
分岐点は何か? 決まっている。前のターンで、テミスの効果を使っても仕留めきれなかった時だ。
テミスの審判などただの時間稼ぎ。あの時に敵のライフを0にできなかった。その時点で――――
「ロキの効果発動! デッキからクロス・アタックを手札に加え、発動! 俺の場には共に攻撃力3000のロキと竜騎士ブラック・マジシャンが存在するため、このターン、ロキはダイレクトアタックが可能となる! ロキでダイレクトアタック!」
自分は、敗北の運命に捕まっていたのだ。
山羊が敗北を受け入れているの対して、テミスはまだ終わりではないと思っていた。
ダイレクトアタックが来る。だがこの攻撃を受けても、山羊のライフは残る。敵は
ここを凌げばまだ目がある。テミスは場の情報で客観的に、そう判断した。
しかし、その目論見はあっけなく崩れ去る。
「この瞬間、俺は墓地のタスケルトンの効果発動! 墓地のこのカードをゲームから除外して、ロキの攻撃を無効にする!」
「!?」
テミスの思考にノイズが走る。自分の攻撃を自分で止める必然性が見受けられない。なぜそんなことをしたのか理解できない。
そして、理解した時にはもう敗北が決まった。
「この瞬間、手札から速攻魔法、ダブル・アップ・チャンス発動! ロキの攻撃力を倍にして、もう一度攻撃する! 当然、ダイレクトアタックだ!」
「ここで終わりだよ、テミス。それに、運命信奉者さん」
和輝の命令に従って、ロキが右手を掲げた。
指の形がピストルを形作る。
「バーン」
間の抜けた声とともに、指鉄砲の先端から漆黒の弾丸が放たれる。
弾丸は蛇じみたテミスの身体に絡まるような軌道を描き、ティターン神族の女神を通過。山羊の胸元に叩き込まれた。
山羊が想像していたほど、衝撃も痛みもなかった。だが黒い弾丸は間違いなく山羊の胸元を貫き、その宝珠を砕いた。
師弟の絆:通常魔法
このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。(1):自分フィールドに「ブラック・マジシャン」が存在する場合に発動できる。自分の手札・デッキ・墓地から「ブラック・マジシャン・ガール」1体を選んで特殊召喚する。その後、デッキから「黒・魔・導」「黒・魔・導・爆・裂・破」「黒・爆・裂・破・魔・導」「黒・魔・導・連・弾」のいずれか1枚を選んで自分の魔法&罠ゾーンにセットできる。
ブラック・マジシャン・ガール 闇属性 ☆6 魔法使い族:効果
ATK2000 DEF1700
(1):このカードの攻撃力は、お互いの墓地の「ブラック・マジシャン」「マジシャン・オブ・ブラックカオス」の数×300アップする。
死者転生:通常魔法
(1):手札を1枚捨て、自分の墓地のモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを手札に加える。
クロス・アタック:通常魔法
自分フィールド上に表側攻撃表示で存在する、同じ攻撃力を持つモンスター2体を選択して発動する。このターン、選択したモンスター1体は相手プレイヤーに直接攻撃する事ができる。もう1体のモンスターは攻撃する事ができない。
タスケルトン 闇属性 ☆2 アンデット族:効果
ATK700 DEF600
モンスターが戦闘を行うバトルステップ時、墓地のこのカードをゲームから除外して発動できる。そのモンスターの攻撃を無効にする。この効果は相手ターンでも発動できる。「タスケルトン」の効果はデュエル中に1度しか使用できない。
ダブル・アップ・チャンス:速攻魔法
モンスターの攻撃が無効になった時、そのモンスター1体を選択して発動できる。このバトルフェイズ中、選択したモンスターはもう1度だけ攻撃できる。その場合、選択したモンスターはダメージステップの間、攻撃力が倍になる。
山羊LP0