神々の戦争   作:tuki21

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第92話:大海原の覇者

「バーン」

 

 少々気の抜けた声で、ロキが放った“指鉄砲”が黒い弾丸を発射。山羊(やぎ)の胸元、宝珠を討ち抜いた。

 ガラスが割れるような音が、山羊の直近で起こった。

 宝珠が砕かれたのだ。それに連動するように、山羊の背後、ティターン神族の一柱、テミスの身体に亀裂が入った。

 音もなく瓦解していくテミス。その表情はやはり無表情。足元からどんどん崩れていく。

 裁判関係者を思わせるローブが千切れ、その下から銀色の躯体が露わになる。

 それも少しの間だけ。すぐに亀裂が広がり、崩れていく。

 亀裂は加速度的に広がり、首元を通過して頬に入った。

 バイザーも砕けて落ちた。そこから除いたのは、初めて見るテミスの瞳。

 金色の瞳。だがそこに感情らしい感情はない。

 システムの具現化として、彼女は己の最後にたいしても公平で、何の感慨もなかった。

 その瞳にも亀裂が走る。

 

「――――――――――――」

 

 唇から漏れた呼気を最後に、テミスの身体は瓦礫のように破片だけになり、その破片もまた、夢幻のように消えていった。

 

「終わりましたか……」

 

 山羊の口から出た言葉はほんの少ししわがれていた。

 

 

 バトルフィールドが消えていくのを確認して、和輝(かずき)は佇んでいる痩身を見据えた。

 

「俺の勝ちだ」

 

 勝者として名乗りをする。3200のDPが加えられた。

 山羊は己の敗北に対して、何ら感じ入るところはなさそうだ。彼にとって神々の戦争も、プロデュエリストのリーグ戦も、何ら変わりないのかもしれない。何しろ、相手の進退がかかっていて、その運命を見定める。その在り方は何も変わっていないのだから。

 

「あんたはこれからどうするんだ?」

「別に、どうもしませんよ。私の神々の戦争はここで終わりですが、プロとしての生活が終わるわけではありません。このまま引き続きゾディアックをスポンサーにして、ジェネックス杯を続けて、あとはまたリーグ戦です」

 

 ではこれで。さっきまで戦っていたとは思えない。仕事で会った相手に別れの挨拶をするように一礼して、そのまま振り向くことなく去っていった。

 

「とにかく、これで二柱目のティターン神族の撃破だね」

 

 何の後腐れもなく去っていった山羊の背中を見つめながら、ロキはいつもの笑顔でそう言った。ただし、目は笑っていなかった。

 当然だ。

 敵の数は減ったが、敵が持っている神専用のカード。あれは脅威になりそうだ。その情報も共有しなくてはならない。

 

「まぁ、とにかく厄介な敵が一人減ったってのは確かだな」

 

 なんにせよ、勝利したことで一息ついた和輝の耳に、凛とした声が届いた。

 

「見事な戦いでしたわね、オカザキカズキ」

 

 カトレアだった。

 彼女は腕を組み、和輝の方をまっすぐに見つめている。

 

「ああ。まぁ何とかなったよ。それでどうするんだ? これからやるのか?」

 

 言いながら、和輝はデュエルディスクを掲げてみせる。

 正直山羊との戦いで体にダメージがあるが、直前にケルベロスと戦っていたカトレアも似たようなものだろう。神々の戦争ではない、普通のデュエルならば断わる理由もない。

 しかしカトレアははーっと大きく息を吐いて、大きく首を横に振った。彼女の動きに合わせて、そのきめ細やかで美しい髪が左右に揺れた。

 

「いいえ。やめておきますわ。状況も変わりました。一刻も早く敵が使ってくる、神をサポートするカードの情報も共有しなければなりませんし。そういう個人的な行動は、この大会が終わってからに致しましょう」

 

 カトレアは最後に和輝に向かって微笑みかけた。微笑は優雅で完璧。そしてスカートのすそをつまんでのお辞儀(カーテシー)

 

「わたくしから見て、山羊プロは貴方よりも少しばかり格上でした。ですが、貴方は臆せず、諦めず、立ち向かってついには凌駕した。素晴らしいデュエルでしたわ。素直に敬意を表します」

 

 頭を上げる。微笑は口元に浮かんだままだが、彼女が生来持つ気の強さとまっすぐ立つ凛とした在り方ゆえに、その笑みは不敵で、大胆に見えた。

 

「貴方の戦いに誇りがありますように。よいデュエルを」

 

 くるりと(きびす)を返して去っていく。その一歩後ろを歩いて、モリガンは苦笑しながら和輝とロキに一礼した。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 ゾディアック社長室。来客用のソファの上に、その男はどっしりと腰を下ろしていた。

 二メートルを超える巨体、右が紅、左が蒼のオッドアイ。オールバックの髪は金だがところどころ、編み込むように黒の色が入る。

 上背に見合ったがっしりとした体格を、黒のレザージャケット、白のタンクトップ、黒の皮パンツ、黒のブーツで覆った姿はどこか“混ざっている”印象を与える。

 男はソファに体重を預け――ソファのスプリングが軋んだ音を立てた――、グローブのような大きな手でつかんだグラスを持ち上げた。

 中にはなみなみと注がれたブランデー。一気に飲み干す。

 

「まだ日が落ちていないのに酒とは、剛毅だな、クロノス」

 

 社長のデスクで書類整理をしていた射手矢(いでや)が、己のパートナーの神の名を苦笑交じりに呼んだ。

 

『テミスが消えた。これで二柱目だ。酒の一つも飲みたくなる』

 

 声音は一つなのに、二重に聞こえる声だった。男――クロノスはそう言って、空瓶をどかし、どこからか取り出したウイスキーを、今度は便に直接口をつけてラッパ飲みしだした。

 

『ふん。人間の酒は口に合わん。やはり神々の酒はディオニュソスのものに限るな』

 

 グルルと口の中で獣じみた唸り声をあげて、クロノスはさらにラッパ飲みを繰り返し、まるで水を飲むように一瓶を空にしてしまった。

 

「しかし、思ったよりやるようだね」

 

 苦笑しながら、射手矢はタブレットにある情報を表示させた。

 それは己がスポンサーをしているプロデュエリストのリスト。その中から国守咲夜(くにもりさくや)をピックアップ。

 さらに別のデータも表示する。これは彼が出資している数ある学校の一つ、十二星(じゅうにせい)高校の生徒のリスト。そこからピックアップされたのは三人。

 岡崎和輝、風間龍次(かざまりゅうじ)黒神烈震(くろかみれっしん)。出資者故に、彼はこの程度の情報はすぐに集められた。

 

「三人とも現時点ですでにプロの世界で通用する実力。このジェネックス杯でもそれは証明されている。いいなぁ、その夢溢れる、希望に満ちた可能性は素晴らしい。彼らも、卒業など待たず、国守君のようにプロの世界に勧誘してみようか?」

『敵だぞ、奴らは』

「神々の戦争が終わればそうとも限らないさ」

 

 笑う射手矢は表情こそ柔らかいがその目は経営者のそれだ。若い芽の成長を楽しみながらも、自分の手元に置こうとしている。

 

『そうとも限らんのは、貴様自身が分かっていることだろう。貴様の願いゆえにな。現に、一般参加者の中でも、我らティターン神族や悪霊(エンプーサ)によって病院送りにされている者たちがいるはずだ』

「それを言われると痛いね……。しかし君が望むことだろう? 私にも私の願いがある。そのためにティターン神族を復活させた以上、生半可なことで止まるつもりはないよ」

 

 射手矢の口調は穏やかだが、その瞳は何とも言えない闇をはらんでいた。

 射手矢は社内電話を手に取った。

 

嵐山(あらしやま)君と(はこ)君を呼んでくれ」

 

 嵐山、函、その名を聞いたクロノスの目が細くなる。

 

『そいつらは切り札じゃなかったのか? もう切っていいのか?』

「どちらにしても、嵐山君から、()()()()()()()()と報告があった。神々が恐れた怪物の力、ここで見せてもらおうじゃないか」

『……死人が出るかもな』

「悲しいな。しかし、乗り越えなくてはね」

 

 クロノスは鼻を鳴らし、三本目の酒瓶を手に取った。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 敵が神のサポートカードを使用していることは、カトレアからフレデリックに報告され、フレデリックから全員に共有された。

 それは、この男もそうだった。

 

「なるほど、了解した」

 

 烈震は淡々とそう言って通話を終えた。

 

「神の専用カードか……。確かに厄介だがデュエルというのは必ずしも目的のカードを引けるとは限らない。風間のように、結局登場せぬまま終わることもあるかもしれん」

「ん、そうだな」

 

 応えたのは烈震の腕に絡みついている少女。

 元神々の戦争の参加者、現在は烈震に惚れ、彼の子供を産みたがっている少女、小雪(シャオシュエ)

 

「まぁいい」

 

 烈震は前を見た。その()()にも眉一つ動かさない。

 死屍累々。その言葉が頭をよぎった。

 浅草、浅草寺前。普段なら観光客にあふれかえっているそこは、今はジェネックス杯の参加者であふれかえっていた。

 ただし、全員が地に付し、苦し気な呻き声をあげていた。

 左右に観光客用の土産屋や食べ物や、着付けやなどが並ぶ中、烈震は前に進む。

 倒れているものは生きているようだが、苦痛に動けずにいる。

 烈震は腕にしがみついている小雪の方を向いた。

 

「小雪、倒れている者たちを頼む。さっきからトールががなり立てている。この先に、神がいる。おそらくティターン神族だろう。(オレ)の相手だ」

「わかったぞ。わたしはもう神々の戦争の参加者じゃないからな。向こうから取り込まれない限り、戦いの場にすら立てない」

 

 烈震の腕から離れて、小雪はどこからともなくスマートフォンを取り出した。それを見届けた烈震はまっすぐ進む。

 

「どーも奇妙だな」

 

 傍らに、実体化したトールが声を出した。

 

「何がだ?」

「なんでこいつらは倒れてんだ?」

 

 そう言って、トールは周囲で倒れ伏す者たちを見据えた。

 年齢はばらつきがある。中には低いランクのプロもいるようだ。

 

「それは――――この先にいるティターン神族にやられたからだろう?」

「だから、なぜそんなことをするんだ?」

「なるほどな」

 

 烈震はトールの言いたいことが分かった。

 

「確かに、クロノスにも、ティターン神族にも、神々の戦争の参加者以外を狙う理由はないな。怪物たちなら人間への恨みを晴らすために、わざわざバトルフィールドに一般人を取り込み、神々の戦争のデュエルを仕掛け、そして痛めつけることもありうるだろうが」

「この先に感じる気配はでかいのが一つだけ。つまりここはそいつの縄張りで、ギリシャ神話の怪物も、それ以外の化け物も、ここにはいない。必然、これをやったのはこの先の奴だ」

 

 風間龍次からの報告を思い出す。彼が倒したティターン神族、ムネモシュネもまた、ジェネックス杯の参加者をこのように地面に這いつくばらせていたらしい。

 考えてみれば、こんな無駄をするだろうか?

 

「それにこの土地自体が嫌な気配だ」

 

 不機嫌そうに、トールは唸り声を上げた。

 

「確か、東京は七年前に神々が戦ったのだったな」

「ああ。そのせいで最悪な火災まで発生しちまった」

 

 東京大火災。

 多くの死者を出し、その後も多くの人々を発狂や自殺に導き、人生を狂わせた未曽有(みぞう)の大災害。和輝もまた、そんな風に人生を狂わさせた者の一人だ。

 不意に会話が途切れた。その理由は、前方にあった。

 浅草寺本殿、さい銭箱の前に、その男は立っていた。

 一見して正気はどこか虚空のかなたに消し飛んでいるような眼をしていた。

 中肉中背、灰色の髪、瞳、ノーフレームの眼鏡、ワインレッドのスーツ姿、左手首に金色の腕時計。赤い毛皮の狡賢い狐の風情だが、正気が消し飛んだ眼が彼がどういう状態なのかよく分かる。

 

「これより裁判を始める!」

 

 烈震の姿を目にするや否や、男はそう叫んだ。

 パンと手を叩く。男の頭の中では、それが裁判長が打ち付ける木槌のようだった。

 

「被告! 神々の戦争の参加者、黒神烈震! 検事は私、蟹沢正義(かにさわまさよし)! 弁護人は必要ない! 証拠も必要ない! 裁判長など最も不要! 判決を告げる! 有罪! よって、この場での敗北を処する!」

 

 烈震が黙っていると、男は一人で勝手に騒ぎ出した。正気を宇宙のかなたに放り出した男を見る烈震の目は冷淡極まりない。

 と、本殿の奥から、野太い笑い声が響いてきた。

 

「気にするな。ちょっと()()()()こうなった。元々検事らしくてな。人間の法関係はよく知らんが、あまり評判は良くなかったようだな。ちなみにお前さんの名前はクロノス様の契約者から聞いた」

 

 声の方向から、潮の香りが漂ってきて、烈震の鼻を刺激した。

 水が寄り集まって人型らしきものを形成している。烈震にはそう見えた。

 逆巻く渦のような海流の竜巻ともいうべき下半身に、黄金の鎧を身にまとった、筋骨隆々とした男。流れる金の髪、海を固めたような青い瞳。豊かな髭。

 

「俺の名はオケアノス。まぁ、お前さんがたの敵だな、うん」

 

 ティターン神族の一柱、オケアノス。その権能は大海。外の海をめぐる海流を神格化したその姿はまさしく海の擬人化だ。雄大にして強大。相手にとって不足なし。

 そしておおらかな口調と声音だが、己の契約者、蟹沢を洗脳しているのは事実。その本質はやはり人間軽視だ。

 

「実はこの前にお前さんらとは違う、神々の戦争の参加者を倒してな。こちらは脱落させたので気分がいい。この気分の良さとアゲたテンションで相手をするが、まぁ勘弁してくれ」

 

 神々の戦争参加者の排除。ティターン神族とクロノス、そしてゾディアックが画策していることは、着実に実を結んでいるようだった。

 烈震たちの周囲から人の姿が消える。現実とは位相の違う異空間、バトルフィールドが展開された。

 展開したのはオケアノスではなく、トール。彼は鋭い目つきと不敵な口元でオケアノスを見る。

 

「そっちのテンションなんざ関係ないな。それに前口上も面倒だ。さっさと始めるとしようぜ」

「そうさな、おい蟹沢」

「デュエルだ! デュエルという名の判決が下る! 被告人の有罪を証明するために!」

 

 天を仰ぎ、両手を振り回す蟹沢。左手に装着されたデュエルディスクが起動する。

 喚き散らす蟹沢に対して、烈震は無言で己のデュエルディスクを起動させた。

 烈震の胸元に、緑の輝きが灯る。宝珠の輝き。対する蟹沢の胸元にも、宝珠が出現するが、その色は無色。イレギュラーの証か。

 

決闘(デュエル)!』

 

 

烈震LP8000手札5枚

蟹沢LP8000手札5枚

 

 

「己の先攻で行かせてもらおう」

 

 先攻は烈震。彼はいっそ穏やかに見えるほど落ち着いた仕草でカードを吟味、手札から一気に二枚引き抜き、デュエルディスクにセットした。

 

「レッド・リゾネーターを召喚。効果発動、手札から、黒き森のウィッチを特殊召喚する」

 

 烈震のフィールドに、一気に体のモンスターが展開される。

 炎に包まれた身体に前掛け、音叉を持った悪魔族モンスター――レッド・リゾネーター――と、黒衣を纏い、目を閉じた魔女――黒き森のウィッチ――。どちらも戦争向けのステータスではないが、レッド・リゾネーターはチューナーだ。ならばすることは一つ。

 

「レベル4の黒き森のウィッチに、レベル2のレッド・リゾネーターをチューニング」

 

 シンクロ召喚。

 烈震の頭上、二つの緑に光る輪となったレッド・リゾネーター。その輪を潜った黒き森のウィッチが、四つの白い光星となる。

 

「連星集結、赤翼咆哮。シンクロ召喚。猛れ、レッド・ワイバーン!」

 

 光の向こう側から、咆哮と羽ばたきがやってきた。

 現れたのは炎の冠のようなトサカと翼を持った翼竜。その名の通り赤い体躯をし、身を逸らして夕暮れ空を彩る。

 

「黒き森のウィッチ効果発動。デッキから異界の棘紫竜(きょくしりゅう)を手札に加える。そして予見通帳を発動、デッキトップを裏側で三枚除外する。さらに補充部隊を発動、カードを一枚セットし、ターンエンドだ」

 

 

レッド・リゾネーター 炎属性 ☆2 悪魔族:チューナー

ATK600 DEF200

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。(1):このカードが召喚に成功した時に発動できる。手札からレベル4以下のモンスター1体を特殊召喚する。(2):このカードが特殊召喚に成功した時、フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターの攻撃力分だけ自分はLPを回復する。

 

黒き森のウィッチ 闇属性 ☆4 魔法使い族:効果

ATK1100 DEF1200

このカード名の効果は1ターンに1度しか使用できない。(1):このカードがフィールドから墓地へ送られた場合に発動する。デッキから守備力1500以下のモンスター1体を手札に加える。このターン、自分はこの効果で手札に加えたカード及びその同名カードの発動ができない。

 

レッド・ワイバーン 炎属性 ☆6 ドラゴン族:シンクロ

ATK2400 DEF2000

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

(1):S召喚したこのカードがフィールドに表側表示で存在する限り1度だけ、このカードより攻撃力が高いモンスターがフィールドに存在する場合に発動できる。フィールドの攻撃力が一番高いモンスター1体を破壊する。この効果は相手ターンでも発動できる。

 

予見通帳:通常魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。(1):自分のデッキの上からカード3枚を裏側表示で除外する。このカードの発動後3回目の自分スタンバイフェイズに、この効果で除外したカード3枚を手札に加える。

 

補充部隊:永続魔法

(1):相手モンスターの攻撃または相手の効果で自分が1000以上のダメージを受ける度に発動する。そのダメージ1000につき1枚、自分はデッキからドローする。

 

 

「私のターン、ドロー!」

 

 テンション高めの蟹沢は、大仰な仕草でカードをドロー。ドローカードを確認し、にやりと笑った。

 

「手札のホワイト・モーレイを捨て、ホワイト・スティングレイを特殊召喚! さらに浮上を発動! 今捨てたホワイト・モーレイを特殊召喚しましょう!」

 

 烈震に負けじと、蟹沢もモンスターを展開してくる。どちらも水属性、魚族。揃ったモンスターを見て、トールが言う。

 

「だけどよ、どちらもレベルはバラバラ、チューナーもいねぇ、(シンクロ)(エクシーズ)はねぇ。融合か?」

「異議あり!」

 

 トールの台詞に帰ってきたのは蟹沢の遠く高く響く声。その迫力はまさに裁判の場にいる検事のものだった。

 

「ホワイト・モーレイは墓地からの特殊召喚に成功した時、チューナーとして扱われる! 故に、墓地から蘇生したホワイト・モーレイはチューナーとなっている! これでS召喚の召喚条件は整った! 私はレベル4のホワイト・スティングレイに、チューナーとなったレベル2のホワイト・モーレイをチューニング!」

 

 蟹沢の声がバトルフィールド内を飛ぶ。彼の頭上、烈震のものと同じS召喚のエフェクトが走る。

 

「神代の大海原を跳ねる勇魚(いさな)よ! 今こそ現世に浮上し我が敵悉くを砕いて捨てろ! シンクロ召喚、君の出番ですよ、白闘気海豚(ホワイト・オーラ・ドルフィン)!」

 

 海原を下から何かが突き抜け、海上に浮上した、そんな音が辺りに響き渡った。

 見れば蟹沢のフィールド、仮想の海が顕現し、そこから白い巨体が跳ねるように現れた。

 海豚だ。巨大な海豚。目には敵意はないが闘気はある。特に異形化、戦闘特化した形状ではないが、巨大さはそれだけで武器になるし、肌も硬質な印象を与えた。つまり全身がそのまま武器であり防具なのだろうと、烈震は思った。

 その攻撃力は2400、レッド・ワイバーンと同じだ。

 

「相討ち狙い、なわけないか」

 

 トールに言葉に、烈震は内心で頷いた。わざわざS召喚したのだ、このまま攻撃ではあるまい。だいたい、相討ちにしても自分の手札には棘紫竜がいる。レッド・ワイバーンを破壊してもこのカードを特殊召喚するから、蟹沢が一方的にモンスターを失うだけだ。

 

「ここで、永続魔法、オケアノスの財宝を発動します!」

 

 烈震の思考は、蟹沢の声によって寸断された。

 そして耳にしたカード名は、ティターン神族の名を冠していた。

 

「そのカードは、神の専用カードか?」

「異議あり! 違いますね。これは私を雇った射手矢氏から頂いたカード。私たちは全員、ティターン神族の名を冠したカードを受け取っている。ただそれだけですよ。そして、神の名を使っているだけあって、強力なのですがね!」

 

 勘違い。敵が使ってくるのは神のサポートカードではなく、ティターン神族の名を持っているカードをそれぞれ使ってくるのだ。どちらであろうと世界で一枚のカードを使ってくる時点で、アドバンテージの差は出ている事実に変わりはない。

 なので烈震の心には何らさざ波は立たなかった。むしろ気になるのは、どんな効果を持っているのかだ。

 このタイミングで、しかも自信満々に発動したのだ。面倒な効果であることは間違いないだろう。

 

「白闘気海豚効果発動! ターン終了時まで、レッド・ワイバーンの攻撃力を元々の数値の半分にしますよ!」

「!」

 

 攻撃力が変動する。レッド・ワイバーンから力が抜けていき、その飛行高度が落ちる。

 

「これで攻撃力の差は歴然となりました。バトルです。白闘気海豚でレッド・ワイバーンを攻撃!」

 

 空中を海中のように泳ぐ海豚。その速度が一気に加速する。

 砲弾を思わす速度。鎧のような硬度を持つ身体で突進して来る。しかし――――

 

「通さん。レッド・ワイバーンの効果発動、攻撃力が自身よりも上のモンスター一体を破壊する」

「当然、破壊するのは白闘気海豚!」

 

 トールの叫びに呼応するように、レッド・ワイバーンが咆哮とともに火球を放つ。

 突進に入っていた白闘気海豚は躱せず、直撃、炎上して破壊された。

 

「攻撃力を提げたのが裏目に出たな!」

「異議あり!」

 

 相手Sモンスターを返り討ちにし、意気軒昂(いきけんこう)としていたトールに対して、蟹沢はぴしゃりとと言い放った。

 

「レッド・ワイバーンの効果なぞ織り込み済み! なぜなら、()()()()()()()()()()()()()()! この瞬間、オケアノスの財宝と白闘気海豚の効果発動!

 オケアノスの財宝は、私の水属性モンスターが破壊された時、カードを一枚ドローする!」

「補給部隊に似ちゃあいるが、その言い方だとターン制限ねぇのか!?」

「その証言を認めましょう! そして白闘気海豚の効果! 相手によって破壊され、墓地に送られた時、このカード以外の墓地の水属性モンスター一体をゲームから除外し、このカードをチューナーとして復活させる! ホワイト・モーレイを除外し、チューナーとなり蘇れ、白闘気海豚!」

 

 ()()()()。再び巨大物が海面に浮上するような音を引き連れて、白闘気海豚が復活した。

 

「レッド・ワイバーンの効果は一度しか使えません。つまり最早攻撃は止められない! 白闘気海豚でレッド・ワイバーンを攻撃!」

 

 二度目の攻撃宣言。今度は何の邪魔も入らず、白闘気海豚の巨体がレッド・ワイバーンを蹂躙した。

 

「むぅ……。補給部隊の効果で、一枚ドローだ。さらに己のモンスターが破壊され、墓地に送られたため、手札から異界の棘紫竜を特殊召喚する」

「異議なし。最早バトルフェイズは続ける必要はありませんからね。しかし私には、まだモンスターの召喚権が残されています。その権利をここで行使しましょう。メインフェイズ2に入り、マーメイド・シャークを召喚します。その効果で、デッキからサイレントアングラーを手札に加えます。そしてレベル1のマーメイド・シャークに、レベル6のチューナーとなった白闘気海豚をチューニング!」

 

 再びS召喚のエフェクトが走る。

 六つの緑の輪となる白闘気海豚、一つに白い光星となったマーメイド・シャーク。そしてそれらを貫く一筋の光の道。

 

「神代の大海原を遊泳する勇魚よ! 今こそ現世に浮上し、我が敵悉くを貫き穿て! シンクロ召喚、君の出番ですよ、白闘気一角(ホワイト・オーラ・モノケロス)!」

 

 光の海原の向こうから現れたのは、長く伸びた、ユニコーンのような角をはやした影。

 海生哺乳類のイッカクだと知れたが、その色は白く、よく目立つ。

 逆に言えばそれでもなお生き残ってきた故の強さ、自負がオーラとして溢れ出ていた。

 

「二体目……、名前にある共通性……。まさかそのSモンスターもチューナーとして自己再生するのか……?」

「異議なしですよ。白闘気一角も、破壊されればチューナーとして復活する。そしてそのチューナーを使い、さらに強力なモンスターをS召喚する。この輪廻を断ち切れますかねぇ?

 白闘気一角の効果発動! S召喚成功時、墓地の魚族モンスター一体を特殊召喚できます。ただし、特殊召喚したモンスターはこのターン攻撃できませんが、メインフェイズ2なので関係ありませんね。私は白闘気海豚を特殊召喚! カードを一枚伏せて、ターン終了ですが、この瞬間、オケアノスの財宝の更なる効果発動! 自分ターン終了時、私はフィールドの水属性モンスター一体を対象にし、そのモンスターの元々の攻撃力分、ライフを回復します。私は白闘気一角を選択し、ライフを回復します。ターンエンドです」

「待て、貴様のターン終了時に、己は伏せていた強化蘇生を発動する。レッド・リゾネーターを特殊召喚し、効果発動。白闘気一角の攻撃力分、ライフを回復する」

 

 

ホワイト・スティングレイ 水属性 ☆4 魚族:効果

ATK1400 DEF1000

このカード名の、(1)の方法による特殊召喚は1ターンに1度しかできず、(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。(1):このカードは手札の水属性モンスター1体を捨てて、手札から特殊召喚できる。(2):このカードが墓地からの特殊召喚に成功した場合に発動できる。このターン、このカードをチューナーとして扱う。

 

浮上:通常魔法

自分の墓地のレベル3以下の魚族・海竜族・水族モンスター1体を選択して発動できる。選択したモンスターを表側守備表示で特殊召喚する。

 

ホワイト・モーレイ 水属性 ☆2 魚族:効果

ATK600 DEF200

(1):このカードが召喚に成功したターン、このカードは相手に直接攻撃できる。(2):このカードが墓地からの特殊召喚に成功した場合に発動できる。このターン、このカードをチューナーとして扱う。

 

白闘気海豚 水属性 ☆6 魚族:シンクロ

ATK2400 DEF1000

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

(1):1ターンに1度、相手フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターの攻撃力はターン終了時まで元々の攻撃力の半分になる。(2):このカードが相手によって破壊され墓地へ送られた場合、このカード以外の自分の墓地の水属性モンスター1体を除外して発動できる。このカードをチューナー扱いで特殊召喚する。

 

異界の棘紫竜 闇属性 ☆5 ドラゴン族:効果

ATK2200 DEF1200

自分フィールド上のモンスターが戦闘またはカードの効果によって破壊され墓地へ送られた場合、このカードを手札から特殊召喚できる。

 

マーメイド・シャーク 水属性 ☆1 魚族:効果

ATK100 DEF300

このカードが召喚に成功した時、デッキからレベル3~5の魚族モンスター1体を手札に加える事ができる。

 

白闘気一角 水属性 ☆7 魚族:シンクロ

ATK2500 DEF1500

水属性チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

このカード名の(1)の効果は1ターンに1度しか使用できない。(1):このカードがS召喚に成功した時、自分の墓地の魚族モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターはこのターン攻撃できない。(2):このカードが相手によって破壊され墓地へ送られた場合、このカード以外の自分の墓地の水属性モンスター1体を除外して発動できる。このカードをチューナー扱いで特殊召喚する。

 

オケアノスの財宝:永続魔法

このカードは1枚しかフィールドに存在できない。(1):自分水属性モンスターが戦闘、またはカードの効果によって破壊された時に発動する。カードを1枚ドローする。(2):自分のターン終了時に、フィールドの水属性モンスター1体を対象にして発動できる。対象モンスターの元々の攻撃力分、ライフを回復する。(3):???

 

強化蘇生:永続罠

(1):自分の墓地のレベル4以下のモンスター1体を対象としてこのカードを発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。そのモンスターは、レベルが1つ上がり、攻撃力・守備力が100アップする。そのモンスターが破壊された時にこのカードは破壊される。

 

 

烈震LP8000→6800→9300手札1枚

蟹沢LP8000→10500手札2枚

 

 

「岡崎が言っていたが……、さすがはティターン神族の契約者。やはり手ごわいな」

「当然だ。何しろ、俺と波長のあった男だ。何でも、腕はプロレベルだそうだぞ」

 

 微かな呟きだったが、オケアノスはそれを聞き留めた。誇るでもなく、ただの世間話を放るように言われた言葉に、烈震は眉をひそめた。

 

「プロレベルのアマチュア、か。それで選んだ職業がプロデュエリストではなく、検事なのか」

「不思議だわなぁ。まぁ、人間とはそういうものかもしれんがな」

 

 それに、とオケアノスは続けた。

 

「この人間の境遇や生い立ちなど関係ないわな。要するに、戦うための()()になればいい」

 

 喋り方は穏やかなくせに、その声音には徹頭徹尾、人間を道具としか見ていない冷徹さと傲慢さが感じ取れた。

 

「正規だろうとイレギュラーだろうと、あまり変わらんな」

 

 それは口の中での呟きだったので、オケアノスの耳には届かなかった。

 だがトールは、自分のパートナーが怒りを抱いていることを察知した。

 

「手ごわい敵だが、まぁその方が鍛錬になる。それに――――外道の方が、振るう拳も鈍らないというものだ」

 

 負ける気は一切ない烈震は、口角を僅かに上げた笑みを浮かべてそう言った。

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