神々の戦争   作:tuki21

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第93話:友の言葉

「どうやら、蟹沢(かにさわ)君が戦いに入ったようだよ。相手は黒神烈震(くろかみれっしん)、トールの契約者だ」

『蟹沢……、ああ、オケアノスの契約者か』

 

 ゾディアック社長室。報告の連絡を受けた射手矢(いでや)は、己のパートナーに、ティターン神族が始めた新たな戦いについて告げた。

 ソファに身を沈め、酒を瓶で飲んでいたクロノスが、いったん飲むのをやめた。

 

『精神をいじられているから意味はないかもしれんが……、どういう奴だ? プロではないんだろう?』

「検事だね。(はかり)は彼のことを嫌っている。やり手の若手検事として有名だが、何しろ、証拠の捏造、証言の隠蔽。とにかく裁判で勝つためなら何でもやる。その黒い噂が司法界で囁かれている。幸い、彼と裁判で争ったことはないが、顧問弁護団は全員、彼を嫌い、警戒しているよ」

『つまり、ろくでなしか』

 

 そう言って、クロノスはまた瓶に直接口をつけて、中に入っているウィスキーをぐびぐび飲みだした。

 

『オケアノスはのんびりしているようだが、その実激しい気性を持っている。海みたいなやつだ。それでいながら防御を固める男だ。変幻自在で予測不可能。だから人間というちっぽけな要素を入れることを好まない』

「しかし蟹沢検事のデュエルの腕はプロ級。だから、完全に操り人形にするのではなく、デュエルの主導権を委ねたわけだね」

『それも、いつまで続くかわからんがな』

 

 いずれにしても戦いはもう始まっている。ここから介入する気はない。それに、とクロノスは言う。

 

『トール、北欧神話の雷神。雷を使う神なら、誘われる奴もいる』

「……飛び出していった嵐山(あらしやま)君は、それこそ一目散だろうね」

 

 ならば戦場は()()()。誰に言うでもなく、射手矢は内心でそう告げた。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 デュエルは始まったばかり。だからまだ互いの優劣を決める段階にはない。

 そう思いながらも、烈震は僅かに浮いた汗をぬぐった。この汗は暑さのせいではあるまい。

 

(強い……、というより厄介だ)

 

 破壊されれば蘇生する二体の(シンクロ)モンスター。さらに水属性が破壊される度に一枚ドローできる永続魔法。カードを残せばその分ライフを回復されてしまう状況。

 

「面倒くせぇなおい」

 

 トールの言葉に肯く。とはいえ――――

 

「無敵な盤面は存在しない。必ず打ち崩すことができる」

 

 だから、烈震は揺らがず、目の前を見据えた。

 

 

烈震LP9300手札1枚

ペンデュラムゾーン赤:なし青:なし

モンスターゾーン 異界の棘紫竜(きょくしりゅう)(守備表示)、レッド・リゾネーター(守備表示、レベル2→3、攻撃力600→100)

魔法・罠ゾーン 補充部隊、強化蘇生(対象:レッド・リゾネーター)

フィールドゾーン なし

 

蟹沢LP10500手札2枚

ペンデュラムゾーン赤:なし青:なし

モンスターゾーン 白闘気海豚(ホワイト・オーラ・ドルフィン)(攻撃表示)、白闘気一角(ホワイト・オーラ・モノケロス)(攻撃表示)

魔法・罠ゾーン オケアノスの財宝、伏せ1枚

 

 

(オレ)のターンだ、ドロー」

 

 まずは相手の陣を崩す。そこからだ。

 

「レベル5の異界の棘紫竜に、レベル3となったレッド・リゾネーターをチューニング」

 

 烈震の頭上、レッド・リゾネーターが三つの緑の輪となり、その輪を潜った異界の棘紫竜が、五つの白い光星となる。

 光星と光輪は一筋の光の道に貫かれた。

 

「連星終結、焔魔(えんま)再臨。シンクロ召喚、滅せよ、レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト!」

 

 咆哮が轟く。光の(とばり)の向こうから、力強い羽ばたきとともに現れたのは、レッド・デーモンズ・ドラゴンに酷似したモンスター。

 人に近い竜のフォルム、羽ばたく翼は歴戦を物語るように傷がある。細かいところは違えど、どこまでもレッド・デーモンズ・ドラゴンを想起させる形状だが、最大の相違点は右腕。

 光輝く傷、そしてそれを覆う、拘束具めいた()()。全身から発される威圧感はレベル8Sモンスターの域を超えている。

 

「スカーライト効果発動! 自身以外の、このカード以下の攻撃力の特殊召喚されているモンスターを全て破壊し、相手に一体につき500のダメージを与える!」

「消し飛ばしちまえ!」

 

 トールの叫びに応えるように、スカーライトが咆哮とともに右腕を振るった。次の瞬間、スカーライトの全身から朱金色の炎が自身を中心に放射状に放たれる。

 炎は大気を熱し、周囲の土産屋を倒壊させ、なお燃え続き、その力を叩きつけた。

 断末魔が二つ上がる。どちらも蟹沢のフィールドにいる二体のモンスターからだった。スカーライトが放った熱波にやられ、のたうちながら消えていく。

 

「この瞬間、オケアノスの財宝と、破壊された二体のホワイトたちの効果を発動! 私は二枚ドローし、さらに墓地のマーメイド・シャークとホワイト・モーレイを除外し、それぞれ守備表示で復活させましょう!」

 

 墓地という名の深海から、フィールドに浮上して来る二体の巨影。即ち白闘気海豚と白闘気一角。

 

「ふーむ、いかに強力な効果で一掃しようと、所詮はフィールドにのみ効果を及ぼすもの。墓地で効果が発動し、自己再生する蟹沢のモンスターとは相性が悪いぞ?」

 

 首を傾げながら、オケアノスが言う。すかさず蟹沢が言葉を挟んだ。

 

「異議なしですねぇ。それどころか、オケアノスの財宝があるので、私をドローさせるだけ。この荒れ狂う大海のごとき私のデッキ、その守りを突破して、ライフを削り切ることなどできますかね?」

 

 挑発的に言う蟹沢。だが烈震は冷静に指摘する。

 

「確かにターン制限のない蘇生は厄介だ。だが、それは貴様の墓地に除外できる水属性モンスターが存在する場合のみ。今、貴様の墓地に水属性モンスターはいるのか?」

「!」

 

 蟹沢の表情が罅割れる。それを動揺ととったか、烈震はさらに言い募る。

 

「つまり今ならば、そのモンスターは倒されても蘇生できない。場に残った強化蘇生を墓地に送り、マジック・プランター発動。二枚ドロー。

 ……いい引きだ。シンクロキャンセル発動。スカーライトをEXデッキに戻し、代わりにS素材となったレッド・リゾネーターと異界の棘紫竜を特殊召喚する。ここで、レッド・リゾネーターの効果を発動、白闘気一角の攻撃力分、ライフを回復する」

 

 これで烈震のライフは10000を超えた。フィールドに張っている補充部隊と合わせると、多少のダメージはかえってリターンになる。

 

「トランスターン発動。レッド・リゾネーターをリリースし、デッキからフレア・リゾネーターを特殊召喚する。そして、レベル5の異界の棘紫竜に、レベル3のフレア・リゾネーターをチューニング!

 ――――連星集結、焔王竜(えんおうりゅう)出陣。シンクロ召喚、吠えろ、レッド・デーモンズ・ドラゴン!」

 

 咆哮と炎が同時に迸った。現れた悪魔竜を前に、蟹沢のモンスターたちは怯えたかのように後ずさった。

 

「よっし! オリジナルのレッド・デーモンズ・ドラゴンなら、攻撃した瞬間、守備モンスターを全滅できるな!」

「そして、墓地が空ならば、もはや蘇生はない。レッド・デーモンズ・ドラゴンで白闘気海豚を攻撃!」

 

 攻撃宣言が下る。レッド・デーモンズ・ドラゴンが炎を宿した右拳を振りかぶった。

 そのタイミングを見計らったように、蟹沢が声を張り上げた。

 

「墓地にモンスターがいない? 異議ありですねぇ! よーく見てくださいよ、私の墓地には水属性モンスターがいますよ? リバースカードオープン! 異次元からの埋葬! 除外されているホワイト・モーレイ、ホワイト・スティングレイ、マーメイド・シャークを墓地に戻します!」

「あぁ!?」

 

 トールは叫んだが、振り下ろした拳は止まらない。炎を纏った拳が白闘気海豚に着弾。衝撃波が炎の形をとって蟹沢のフィールドを蹂躙。守備態勢をとっていた白闘気一角も焼き尽くした。

 

「この瞬間、オケアノスの財宝の効果により、二枚ドロー! そして破壊されたモンスターたちは、それぞれ墓地のホワイト・モーレイ、マーメイド・シャークを除外し、チューナーとして復活させます!」

 

 二体の巨大魚が墓地から浮上してくる。殲滅は失敗した。しかも相手はこのターンだけで四枚もドローしている。

 

「結果的に、手札を増やすだけになっちまったかな……」

「だが、異次元からの埋葬は使わせた、やはり墓地リソースは有限だ。バトルを終了、メインフェイズ2に入り、クリッターを召喚する。己はこのままターンエンドだが、ここでレッド・デーモンズ・ドラゴンの効果を発動する。攻撃していないクリッターは破壊される。この瞬間、クリッターの効果を発動し、デッキからエフェクト・ヴェーラーを手札に加える。今度こそターンエンドだ」

 

 

レッド・デーモンズ・ドラゴン・スカーライト 闇属性 ☆8 ドラゴン族:シンクロ

ATK3000 DEF2500

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

(1):このカードのカード名は、フィールド・墓地に存在する限り「レッド・デーモンズ・ドラゴン」として扱う。(2):1ターンに1度、自分メインフェイズに発動できる。このカード以外の、このカードの攻撃力以下の攻撃力を持つ特殊召喚された効果モンスターを全て破壊する。その後、この効果で破壊したモンスターの数×500ダメージを相手に与える。

 

マジック・プランター:通常魔法

(1):自分フィールドの表側表示の永続罠カード1枚を墓地へ送って発動できる。自分はデッキから2枚ドローする。

 

シンクロキャンセル:通常魔法

(1):フィールドのSモンスター1体を対象として発動できる。そのSモンスターを持ち主のEXデッキに戻す。その後、EXデッキに戻したそのモンスターのS召喚に使用したS素材モンスター一組が自分の墓地に揃っていれば、その一組を自分フィールドに特殊召喚できる。

 

トランスターン:通常魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できない。(1):自分フィールドの表側表示モンスター1体を墓地へ送って発動できる。墓地のそのモンスターと種族・属性が同じでレベルが1つ高いモンスター1体をデッキから特殊召喚する。

 

フレア・リゾネーター 炎属性 ☆3 悪魔族:チューナー

ATK300 DEF1300

このカードをシンクロ素材としたシンクロモンスターの攻撃力は300ポイントアップする。

 

レッド・デーモンズ・ドラゴン 闇属性 ☆8 ドラゴン族:シンクロ

ATK3000 DEF2000

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

(1):このカードが相手の守備表示モンスターを攻撃したダメージ計算後に発動する。相手フィールドの守備表示モンスターを全て破壊する。(2):自分エンドフェイズに発動する。このカードがフィールドに表側表示で存在する場合、このカード以外のこのターン攻撃宣言をしていない自分フィールドのモンスターを全て破壊する。

 

異次元からの埋葬:速攻魔法

(1):除外されている自分及び相手のモンスターの中から合計3体まで対象として発動できる。そのモンスターを墓地に戻す。

 

クリッター 闇属性 ☆3 悪魔族:効果

ATK1000 DEF600

このカード名の効果は1ターンに1度しか使用できない。(1):このカードがフィールドから墓地へ送られた場合に発動する。デッキから攻撃力1500以下のモンスター1体を手札に加える。このターン、自分はこの効果で手札に加えたカード及びその同名カードの発動ができない。

 

 

レッド・デーモンズ・ドラゴン攻撃力3000→3300

 

 

烈震LP9300→11800手札1枚

蟹沢LP10500→9500手札6枚

 

 

「私のターン、ドロー。貴方のおかげで手札が潤沢になりましたが……、もっと増やしましょう。手札を一枚捨て、手札からディメンション・サルベージ発動。この効果で、ゲームから除外されている水属性モンスター、ホワイト・モーレイ、マーメイド・シャークを手札に加えますよ」

 

 烈震の表情は微動だにしないが、その巌のような表情の下ではやはり状況の不利を実感していた。

 

「強欲なウツボを発動、手札のホワイト・モーレイとサイレント・アングラーをデッキに戻し、三枚ドロー。

 再びマーメイド・シャークを召喚し、効果発動。デッキからフィッシュボーグ・アーチャーを手札に加えますよ。そして、レベル1のマーメイド・シャークに、レベル7のチューナーとなった白闘気一角をチューニング!」

 

 烈震の眼前、蟹沢の頭上で、S召喚のエフェクトが走る。

 緑の光輪となった白闘気一角。その輪を潜り、一つの光星となったマーメイド・シャーク。光の道が光星を貫き通り、光が辺りに満ちた。

 

「神代の大海を制する勇魚(いさな)よ! 今こそ現世に浮上し、我が前に立つ愚者悉くを潰滅せよ! シンクロ召喚、出てきなさい、白闘気白鯨(ホワイト・オーラ・ホエール)!」

 

 光の向こうから、白い巨影が浮上する。

 現れたのは烈震と蟹沢、二人のフィールドを陰で埋め尽くしてもなお余りある曲を持った鯨。

 白鯨。空を雄大に泳ぐその姿に。烈震は昔読んだ外国の小説に登場する、途方もなく巨大な白い鯨のことを思い出した。

 

「白闘気白鯨の効果発動! S召喚成功時、相手フィールドの表側表示モンスターを全て破壊します!」

 

 白鯨の巨体が沈み込む。烈震はその一瞬で思考した。

 蟹沢は、烈震の手札にエフェクト・ヴェーラーがあることを知っている。サーチで情報を公開したのだから当然だ。

 なのにわざわざ全体破壊のモンスター効果を発動しようとしているのが解せない。

 

(つまりこれは囮。防がれてもいい効果……)

 

 だとすれば見逃すべきだ。烈震は決断を下して、実行した。白闘気白鯨の効果に対して、動かずにいた。

 

「烈震?」

 

 相棒(トール)から、訝しむような声が聞こえた。珍しいことだがそれでも烈震は反応しなかった。攻撃力3300のレッド・デーモンズ・ドラゴンを捨てるのは惜しいが、敵の狙いはこの()なのだ。だったら静観する。ライフなどいくらでも持っていくがいい。0にならなければ安いし、補充部隊を張っているのでドロー促進になって便利だ。

 

 そう考えていた烈震の眼前で、白闘気白鯨の巨体が烈震のフィールドに()()した。

 轟音が巻き起こり、衝撃波が広がる。地盤がめくれ上がり、周囲の建物が音を立てて倒壊し、瓦礫と粉塵があたりの風景のほとんどとなった。

 そして粉塵の向こうで、面白くなさそうな表情を浮かべている蟹沢の姿。

 それを見て烈震は確信した。敵はエフェクト・ヴェーラーを使わせたかった。その思惑がうまくいかなかったから、不満なのだ。

 

「ままならんなぁ、これは」

 

 烈震の考えを証明するかのように、オケアノスがぼやいた。

 ほとんど水でできた体で、腕を頭の後ろに回して後頭部を掻いて見せる。

 

「仕方がないわな、こういうこともある。蟹沢、さっさと次の手を打て。予定は変わらん」

「はい、オケアノス様。手札のフィッシュボーグ・アーチャーを捨て、ワン・フォー・ワン発動! デッキからレベル1モンスター、鰤っ子姫(ブリンセス)を特殊召喚し、その効果を発動します! このカードをゲームから除外し、デッキからハンマー・シャークを特殊召喚! さらにハンマー・シャーク効果発動!」

 

 次々に蟹沢のモンスターが展開される。

 一瞬だけ出てきた、妙にかわい子ぶっている魚のモンスター――鰤っ子姫――がすぐに沈み込むように消えていき、代わりに現れたのは文字通り、ハンマーを思わせる頭部の形状をした鮫であった。

 

「ハンマー・シャークの効果発動! このカードのレベルを一つ下げ、手札から、レベル3水属性モンスター、スター・イーターを特殊召喚!」

 

 現れたのは、ヒトデの姿をしたモンスター。

 毒々しい青黒い体表、中央部にズラリと牙を並べた口。それぞれ星型の先端には鋭い鉤爪のようなものが一本だけ生えていた。

 

「スター・イーター効果発動! 一ターンに一度、フィールドの表側表示モンスター一体を対象に、そのモンスターのレベルを任意の数下げます。私は白闘気白鯨を対象に、そのレベルを二つダウン! そして、下げた分のレベル、このカードのレベルをアップさせる! というわけで、スター・イーターのレベルは二つ上がり、5!」

「スター・イーターはチューナーだから、いろいろ悪さできそうな効果だな」

 

 ロキが言う。烈震は無言で敵の行動を見据えていた。

 

「レベル3となったハンマー・シャークに、レベル5となったスター・イーターをチューニング!」

 

 レベル8のS召喚。エフェクトが走り、水が足りに溢れ出す。

 

「水よ、水よ! 変幻自在、縦横無尽、万物流転にその姿を変え、今ここに万人に牙を剥く竜の姿を取りたまえ! シンクロ召喚、起きて奪え、グレイドル・ドラゴン!」

 

 ゴボゴボと濁った音がする。次の瞬間、蟹沢のフィールドにいたのは粘度を持った大量の水。

 水は渦巻き、柱のように屹立し、寄り集まって取った形はメタリックシルバーの全身、髑髏のような頭部、蛇の頭部を模した尻尾、真鍮色の猛禽の翼という合成獣(キメラ)。名前に「ドラゴン」とあるが、その種族は水。故に変幻自在の不定形さを感じさせる。

 

「グレイドル・ドラゴン効果発動! S素材となった水属性は二体。二枚まで破壊できまずが、謙虚なので一枚だけにしましょう。私は補充部隊を破壊しますよ!」

 

 ここだ。この効果こそが本命。そしてここで補充部隊を失うのは痛い。烈震は迷わず行動に出た。

 

「手札のエフェクト・ヴェーラーの効果発動! グレイドル・ドラゴンの効果を無効にする!」

「異議ありってやつだな!」

 

 グレイドル・ドラゴンが硬直する。今にも別のモノに変じようとしていた体は凍結したかのように動かない。

 

「まぁいいでしょう、想定内です。どのみち貴方の場はがら空き。殴り放題ですねぇ! バトル! 白闘気海豚、グレイドル・ドラゴン、白闘気白鯨の順でダイレクトアタック!」

 

 三体のSモンスターが次々に襲い来る。

 一体目、白闘気海豚が空中を泳いで烈震に向かって肉薄する。

 烈震は半歩後ろに下がり、腰を落として迎撃に構えを取った。

 

「無謀な! モンスターの攻撃を受け止めるとは、正気じゃあありませんね!」

「もとより、この戦いに参加している時点で、()()()ではない」

 

 返答の直後に衝撃が来た。烈震の身体に海豚の巨体が激突する。

 だが烈震は怯まない。海豚の巨体の下に潜り込み、肩でかちあげる。

 わずかに浮かぶ白闘気海豚の身体。その隙間に体をねじ込んで、体勢を立て直し、垂直に蹴りを打ち込んだ。

 爆弾の爆発を思わせる轟音。そして、白闘気海豚の巨体が宙を舞った。

 

「補充部隊の効果により、二枚ドローだ」

「な―――――」絶句する蟹沢。

「ほう」感嘆の念を送るオケアノス。

 

 神と人の間にある乖離、感情の溝を見せつけたコンビを前に、烈震は泰然としていた。

 

「く、ぐ……」

()()()()()()()

 

 目の前で起こった光景が理解しがたかったのか、呻き、よろめく蟹沢の耳朶を、オケアノスの声が打った。

 その瞬間、蟹沢の身体がぴたりと止まり、表情は完全に削げ落ち、まるで人形のようになった。 

 だがそれも一瞬。すぐに元の表情に戻った。

 

「敵のライフは減っている。いちいち動揺するな」

「ええ、そうですね。意義はありません。それに、攻撃は続行されます。グレイドル・ドラゴンでダイレクトアタック!」

 

 物理攻撃は弾かれた。ならばと、グレイドル・ドラゴンは全身を()()()()、水に戻る。そのまま激流となって烈震を襲った。

 

「く……!」

 

 逃げようにも高台になるような場所が近くにない。この戦いで周囲の店は破壊されてしまった、

 故にその場にとどまった。宝珠を庇い、ガード。激流を前に、巌のように耐え忍ぶ。

 

「ぐ……あ……」

 

 身が軋むダメージ。だが耐えた。

 

「補充部隊の効果で三枚ドロー! さらに戦闘ダメージを受けたため、己は手札からトラゴエディアを守備表示で特殊召喚する!」

 

 烈震のフィールド、禍々しい姿を持つ悪魔が現れる。

 トラゴエディアの攻守は烈震の手札×600、今は四枚なので2400。白闘気白鯨の攻撃力には届かない。

 

「貧弱な壁ですねぇ、そのような反証では握り潰されるだけですよ! 白闘気白鯨でトラゴエディアを攻撃!」

 

 白闘気海豚を上回る巨体を使った突撃(チャージ)トラゴエディアはひとたまりもなく粉砕された。

 

「白闘気白鯨には貫通効果があります。半端な壁は通用しませんよ。カードを二枚伏せ、オケアノスの財宝の効果により、グレイドル・ドラゴンの攻撃力分ライフを回復し、ターン終了です」

 

 

ディメンション・サルベージ:通常魔法

このカード名は1ターンに1枚しか発動できない。(1):手札を1枚捨て、ゲームから除外されている自分の水属性モンスター2種類を対象に発動できる。そのカードを手札に加える。

 

強欲なウツボ:通常魔法

手札の水属性モンスター2体をデッキに戻してシャッフルする。その後、デッキからカードを3枚ドローする。

 

白闘気白鯨 水属性 ☆8 魚族:シンクロ

ATK2800 DEF2000

水属性チューナー+チューナー以外の水属性モンスター1体以上

(1):このカードがS召喚に成功した時に発動できる。相手フィールドの攻撃表示モンスターを全て破壊する。(2):このカードは1度のバトルフェイズ中に2回までモンスターに攻撃できる。(3):このカードが守備表示モンスターを攻撃した場合、その守備力を攻撃力が超えた分だけ戦闘ダメージを与える。(4):このカードが相手によって破壊され墓地へ送られた場合、このカード以外の自分の墓地の水属性モンスター1体を除外して発動できる。このカードをチューナー扱いで特殊召喚する。

 

ワン・フォー・ワン:通常魔法

(1):手札からモンスター1体を墓地へ送って発動できる。手札・デッキからレベル1モンスター1体を特殊召喚する。

 

鰤っ子姫 水属性 ☆1 魚族:効果

ATK0 DEF0

このカードが召喚・特殊召喚に成功した時、このカードをゲームから除外して発動できる。デッキから「鰤っ子姫」以外のレベル4以下の魚族モンスター1体を特殊召喚する。「鰤っ子姫」の効果は1ターンに1度しか使用できない。

 

ハンマー・シャーク 水属性 ☆4 魚族:効果

ATK1700 DEF1500

1ターンに1度、自分のメインフェイズ時に発動できる。このカードのレベルを1つ下げ、手札から水属性・レベル3以下のモンスター1体を特殊召喚する。

 

スター・イーター 水属性 ☆3 水族:チューナー

ATK1000 DEF1000

(1):1ターンに1度、自分メインフェイズにフィールドの表側表示モンスター1体を対象に発動できる。対象モンスターのレベルを任意の数下げ(最小、レベル1まで)、その数値分、このカードのレベルを上げる(最大12まで)。(2):このカードがフィールドから墓地に送られた場合に発動する。このカードのレベル×300ライフポイントを回復する。

 

グレイドル・ドラゴン 水属性 ☆8 水族:シンクロ

ATK3000 DEF2000

水族チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

「グレイドル・ドラゴン」の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。(1):このカードがS召喚に成功した時、そのS素材とした水属性モンスターの数まで相手フィールドのカードを対象として発動できる。そのカードを破壊する。(2):このカードが戦闘・効果で破壊され墓地へ送られた場合、このカード以外の自分の墓地の水属性モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化される。

 

エフェクト・ヴェーラー 光属性 ☆1 魔法使い族:チューナー

ATK0 DEF0

(1):相手メインフェイズにこのカードを手札から墓地へ送り、相手フィールドの効果モンスター1体を対象として発動できる。その相手モンスターの効果をターン終了時まで無効にする。

 

トラゴエディア 闇属性 ☆10 悪魔族:効果

ATK? DEF?

(1):自分が戦闘ダメージを受けた時に発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。(2):このカードの攻撃力・守備力は自分の手札の数×600アップする。(3):1ターンに1度、手札からモンスター1体を墓地へ送り、そのモンスターと同じレベルの相手フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。その表側表示モンスターのコントロールを得る。(4):1ターンに1度、自分の墓地のモンスター1体を対象として発動できる。このカードのレベルはターン終了時までそのモンスターと同じになる。

 

 

烈震LP11800→8800→6400→6000手札4枚

蟹沢LP9500→→11000→14000手札2枚

 

 

「己のターンだ、ドロー!」

 

 戦況は烈震に不利。ライフもフィールドの状況も、アドバンテージは蟹沢にある。しかし、

 

「大ダメージを受けて、わざわざ補充部隊を守ったんだ。揃った手札なら逆転くらいできるよなぁ烈震よぉ!」

「無論だ。見せてやるとも、トール。まずは壺の中の魔術書を発動。互いに三枚ドロー。

 そして手札からシャッフル・リボーン発動! 墓地のレッド・デーモンズ・ドラゴンを、効果を無効にして特殊召喚する!」

 

 咆哮とともに、炎を身に纏わせながらレッド・デーモンズ・ドラゴンが復活する。

 

「さらに、ジャンク・シンクロンを召喚。効果で墓地のレッド・リゾネーターを、効果を無効にして特殊召喚する。さらに墓地からモンスターの特殊召喚に成功したため、手札からドッペル・ウォリアーを自身の効果で特殊召喚する。そして己のフィールドにレベル8以上のドラゴン族Sモンスターが存在しているため、手札からレッド・ノヴァを特殊召喚する」

 

 次々と、烈震のフィールドにモンスターが揃っていく。無人の野はあっという間に戦力が揃い、烈震の陣営を厚くしていく。

 

「行くぞ、まずはこいつだ。レベル8のレッド・デーモンズ・ドラゴンに、レベル1のレッド・ノヴァと、レベル3のジャンクシンクロンを、ダブルチューニング!」

 

 烈震の右手が天に向かって振り上げられる。彼の頭上、レッド・ノヴァとジャンク・シンクロンが、それぞれ一つと三つの金色に輝く光の輪となる。

 その輪を潜ったレッド・デーモンズ・ドラゴンが、赤く輝く光星へと変じる。

 光星を、光の道が貫いた。

 

「連星集結、紅蓮悪魔龍激震! シンクロ召喚。降臨せよ、スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン!」

 

 光の向こうからマグマを思わせる炎を噴出させて現れる巨体。

 炎を凝固させて造った鎧のような外骨格で身を纏った、悪魔のごとき禍々しさと、ドラゴンのごとき誇り高さを見事に同居させたドラゴン。

 真紅に彩られた体。空気を孕み、爆発的な加速を見せる翼。睨みつける物理的な重圧さえ感じさせる双眸。そのすべてが畏敬の念を抱かせる雄姿だった。

 

「スカーレッド・ノヴァ・ドラゴンは、己の墓地のチューナー一体につき、攻撃力を500アップさせる。己の墓地には七体のチューナーが存在している。よってスカーレッド・ノヴァ・ドラゴンの攻撃力は3500アップし、7000だ。さらにここで、レッド・ノヴァの効果発動! デッキから紅蓮魔獣 ダ・イーザを特殊召喚する」

 

 烈震の手は止まらない。手を広げ、天を掴めとばかりに振り上げて、叫ぶ。

 

「レベル2のドッペル・ウォリアーに、レベル2のレッド・リゾネーターをチューニング! ――――連星集結、音子振幅。シンクロ召喚、出でよ、シンクロチューナー、波動竜フォノン・ドラゴン!」

 

 立て続けに戦術が展開される。烈震はフォノン・ドラゴンの効果は使わず、レベル4のSチューナーとして使い、さらにドッペル・ウォリアーの効果が発動、二体のドッペルトークンが特殊召喚される。

 

「レベル1のドッペルトークン二体と、レベル3のダ・イーザに、レベル4のフォノン・ドラゴンをチューニング!」

 

 更なるS召喚。止まるつもりのない烈震の口上が迸る。

 

「連星集結、氷獄龍蹂躙! シンクロ召喚、凍らせ、砕け! 氷結界の龍トリシューラ!」

 

 光の向こうから青白い色が現れる。

 人間に近いフォルムのボディ、二本の腕、足、青白い身体、氷のように白い外殻、そして長い三つの首。

 三つの頭部がそれぞれ別々の方向を見据え、大きく翼を広げ、氷のドラゴンが顕現した。

 

「トリシューラ効果発動! 貴様の場にいる白闘気白鯨、墓地の白闘気一角、そして手札一枚を除外する!」

「異議あり! リバーストラップ、ブレイクスルー・スキル! これでトリシューラの効果を無効にしますよ!」

 

 烈震のドラゴンの氷撃に対して、そうはさせじと蟹沢も伏せカードの一枚を露わにした。

 だがここで、烈震はさらに手札を切ってきた。

 

「異議は認めん。手札から速攻魔法、禁じられた聖槍を発動! トリシューラの攻撃力を800ダウンさせる代わりに、このターン、魔法、罠を受け付けない!」

 

 蟹沢のカードは躱された。トリシューラの効果は問題なく発動。三つの(アギト)が開かれ、それぞれから氷の息吹(ブレス)が吹き荒れる。

 蟹沢の墓地、フィールドのモンスターがそれぞれ凍り付き、手札も一枚、凍った。蟹沢は慌てて凍った手札を捨てた。

 

「しかし、トリシューラの攻撃力は下がっちまった。これじゃあ白闘気海豚を攻撃できねぇ」

「ならばもう一体は破壊していく。バトルだ! スカーレッド・ノヴァ・ドラゴンでグレイドル・ドラゴンを攻撃!」

 

 攻撃宣言が下る。手足をたたみ、飛行形態に移行するスカーレッド・ノヴァ・ドラゴン。そのまま噴射口から炎と空気を吐き出して飛翔。一気にトップスピードまで加速する。

 スカーレッド・ノヴァ・ドラゴンの全身が炎に包まれた。

 炎の弾丸とかしたドラゴンはまっすぐ突き進み、グレイドル・ドラゴンに直撃。その身を貫き、四散させた。

 

「があああああああああああ!」

 

 ダメージのフィードバックが蟹沢を襲う。

 受けたダメージは4000、初期ライフの半分だ。当然、フィードバックも強烈なものになる。

 今、蟹沢の全身を目に見えない衝撃が電撃のように駆け抜けた。

 

()()()()()()()()

 

 大渦のような声。当然オケアノスのもので、その声が持つ洗脳効果が、蟹沢を無理矢理平静にさせる。

 

「ほれ、さっさとオケアノスの財宝のドロー効果を適用しろ。そしてグレイドル・ドラゴンの効果もだ。墓地から水属性モンスターを、効果を無効にした状態で復活しろ」

「う、うぅ……」

 

 痛みにふらつきながらも、蟹沢は言われた通りのことを行った。

 

「オケアノスの財宝の効果で一枚ドロー。さらにグレイドル・ドラゴンの効果で、墓地のホワイト・スティングレイを守備表示で復活しますよ」

 

 目の前の哀れな悪徳検事に対して、烈震もトールも表情筋を動かさなかった。

 

「トリシューラでホワイト・スティングレイを攻撃」

 

 三つ首竜から吹雪のような冷気が放たれ、ホワイト・スティングレイを直撃、凍り付かせて粉々に粉砕した。

 

「オケアノスの財宝の効果により、一枚ドロー!」

「カードを一枚伏せ、ターンエンド」

 

 

壺の中の魔術書:通常魔法

「壺の中の魔術書」は1ターンに1枚しか発動できない。(1):互いのプレイヤーはカードを3枚ドローする。

 

シャッフル・リボーン:通常魔法

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。(1):自分フィールドにモンスターが存在しない場合、自分の墓地のモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化され、エンドフェイズに除外される。(2):墓地のこのカードを除外し、自分フィールドのカード1枚を対象として発動できる。そのカードを持ち主のデッキに戻してシャッフルし、その後自分はデッキから1枚ドローする。このターンのエンドフェイズに、自分の手札を1枚除外する。

 

ジャンク・シンクロン 闇属性 ☆3 戦士族:チューナー

ATK1300 DEF500

(1):このカードが召喚に成功した時、自分の墓地のレベル2以下のモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを守備表示で特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化される。

 

ドッペル・ウォリアー 闇属性 ☆2 戦士族:効果

ATK800 DEF800

(1):自分の墓地のモンスターが特殊召喚に成功した時に発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。(2):このカードがS素材として墓地へ送られた場合に発動できる。自分フィールドに「ドッペル・トークン」(戦士族・闇・星1・攻/守400)2体を攻撃表示で特殊召喚する。

 

レッド・ノヴァ 炎属性 ☆1 天使族:チューナー

ATK0 DEF0

「レッド・ノヴァ」の(1)の方法による特殊召喚は1ターンに1度しかできない。(1):フィールドにレベル8以上のドラゴン族Sモンスターが存在する場合、このカードは手札から特殊召喚できる。(1):このカードがチューナー2体以上を素材とするS召喚に使用され墓地へ送られた場合に発動できる。デッキから悪魔族・炎属性モンスター1体を守備表示で特殊召喚する。

 

スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン 闇属性 ☆12 ドラゴン族:シンクロ

ATK3500 DEF3000

チューナー2体+「レッド・デーモンズ・ドラゴン」

(1):このカードの攻撃力は自分の墓地のチューナーの数×500アップする。(2):このカードは相手の効果では破壊されない。(3):相手モンスターの攻撃宣言時にその攻撃モンスター1体を対象として発動できる。フィールドのこのカードを除外し、その攻撃を無効にする。(4):このカードの(3)の効果でこのカードが除外されたターンのエンドフェイズに発動する。その効果で除外されているこのカードを特殊召喚する。

 

紅蓮魔獣ダ・イーザ 炎属性 ☆3 悪魔族:効果

ATK? DEF?

このカードの攻撃力と守備力は、ゲームから除外されている自分のカードの数×400ポイントになる。

 

波動竜フォノン・ドラゴン 闇属性 ☆4 ドラゴン族:シンクロチューナー

ATK1900 DEF800

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

このカードがシンクロ召喚に成功した時、1~3までのレベルを宣言して発動できる。このカードのレベルは宣言したレベルになる。この効果を発動したターン、自分はこのカードをシンクロ素材としたシンクロ召喚以外の特殊召喚ができない。自分は「波動竜フォノン・ドラゴン」を1ターンに1度しか特殊召喚できない。

 

氷結界の龍トリシューラ 水属性 ☆9 ドラゴン族:シンクロ

ATK2700 DEF2000

チューナー+チューナー以外のモンスター2体以上

(1):このカードがS召喚に成功した時に発動できる。相手の手札・フィールド・墓地のカードをそれぞれ1枚まで選んで除外できる。

 

ブレイクスルー・スキル:通常罠

(1):相手フィールドの効果モンスター1体を対象として発動できる。その相手モンスターの効果をターン終了時まで無効にする。(2):自分ターンに墓地のこのカードを除外し、相手フィールドの効果モンスター1体を対象として発動できる。その相手の効果モンスターの効果をターン終了時まで無効にする。この効果はこのカードが墓地へ送られたターンには発動できない。

 

禁じられた聖槍:速攻魔法

(1):フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターはターン終了時まで、攻撃力が800ダウンし、このカード以外の魔法・罠カードの効果を受けない。

 

 

スカーレッド・ノヴァ・ドラゴン攻撃力3500→7000

 

 

烈震LP6000手札1枚

蟹沢LP14000→10000手札8枚

 

 

「私のターンですよ、ドロー!」

 

 カードをドローする蟹沢。その身体に走る痛みはオケアノスの精神操作によって無理矢理忘れさせられている。

 塀に囲まれたような思考。だが塀の内側なら思考は冴えわたっている。

 塀の内側、即ち、このデュエル内のことのみならば。

 

「永続魔法、白の救済(ホワイト・サルベージ)を発動し、効果を使用します。墓地のホワイト・スティングレイを手札に戻します。そして手札を一枚捨てて、ホワイト・スティングレイを特殊召喚!」

 

 白闘気海豚はすでに自身の効果でチューナーとなっている。ならば出てくるレベルは10だ。

 

「墓地のブレイクスルー・スキルの効果発動! スカーレッド・ノヴァ・ドラゴンの効果を無効にします! さらに白闘気海豚の効果発動! スカーレッド・ノヴァ・ドラゴンの攻撃力を元々の半分にします! そして、レベル4のホワイト・スティングレイに、レベル6のチューナーとなった白闘気海豚をチューニング!」

 

 両手を大きく広げ、上体をそらした大仰なポーズで叫ぶ蟹沢。その頭上で、白闘気海豚が六つの光の輪となり、その輪を潜ったホワイト・スティングレイが四つの光星となった。

 光の道が走る。

 

「神代の大海を蹂躙する勇魚よ! 今こそ現世に浮上し、あらゆる我が敵を鏖殺(おうさつ)せよ! シンクロ召喚、君の出番ですよ、白闘気双頭神龍(ホワイト・オーラ・バイファムート)!」

 

 新たに現れるSモンスター。その姿はこれまでの既存に、現実に存在している魚のそれとはかけ離れていた。

 幻想に住まう生物。龍を模したフォルム。

 それもただの龍ではない。首長竜を彷彿とさせる長い首を二つ持った、双頭の龍。

 ただし、首長竜の瞳が違った。

 烈震から見て右側だけ、瞳に光が灯っており、もう片方、左側の頭部、そこの瞳は光を失っていた。

 

「白闘気双頭神龍の効果発動! S召喚成功時、私のフィールドに神龍トークンを一体、守備表示で特殊召喚します!」

 

 大仰に蟹沢は言うが、フィールドに変化はない。

 

「あん? 特殊召喚しますって勢いよく言ってる割に、モンスター出てこなくね?」

 

 トールの疑問はもっともだ。烈震も始め、どこに変化があるのか分からなかった。

 応えは得意げな蟹沢ではなく、彼の背後のオケアノスからだった。

 

「よく見てみよ。神龍の様子が変わっているだろう?」

「……ああ、なるほどな」

 

 烈震は気付いた。見上げた先、白闘気双頭神龍の左側の瞳に光が灯っていた。

 

「あのモンスターは二対一体(についいったい)のモンスターなのだろう。だからあんな風に、胴体が一つなのに頭部が二つ。頭部一つにつき、モンスター一体という計算なんだな」

「異議なし。その通りですよ。ですがまだバトルには入りません。伏せていたリビングデッドの呼び声を発動! 墓地から蘇りなさい、超古深海王シーラカンス!」

 

 墓地から浮上してくる巨大な魚。巨大な体躯、強大な水圧に耐えうるように、ガチガチに硬くなった体表、光を必要としない(まなこ)。古代から深海で生きてきた大魚を思わせる。

 

「ホワイト・スティングレイの特殊召喚に際に捨てていたか……」

「異議なし! その効果は強力ですよ! シーラカンス効果発動! 手札を一枚捨てて、デッキからセイバー・シャーク、スピア・シャークを特殊召喚! そして、この二体でオーバーレイ! 二体のモンスターで、オーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚!」

 

 S召喚に続いて、今度は(エクシーズ)召喚。蟹沢の頭上に渦を巻く銀河のような空間が展開、その渦に向かって二体のレベル4魚族モンスターが青い光となって飛び込んでいく。

 

「揺蕩う心理の海より、浮上せよ糸張る水の蜘蛛! エクシーズ召喚、這いより来たれ、No.37 希望織竜スパイダー・シャーク!」

 

 虹色の爆発が起こり、その向こうから異形が顔を出す。

 それは見た目は鮫に近い。だがそこに蜘蛛の意匠が取り込まれ、より異形さを増していた。

 白をメインにした色合い、鋭い爪を生やしたひれ、蜘蛛足のような形状をした部位に、禍々しい尻尾。空中を荒々しく泳ぎ、咆哮を上げた。

 

「これで準備は整いました。攻め込み、殲滅しますよ。バトル! 白闘気双頭神龍でスカーレッド・ノヴァ・ドラゴンを攻撃! ここで、スパイダー・シャークの効果発動! ORU(オーバーレイユニット)を一つ使い、貴方のモンスターの攻撃力を1000ダウンさせます!」

 

 スパイダー・シャークの周囲を旋回していたORUの一つが音を立てて消えた。次の瞬間、スパイダー・シャークの全身から無数の糸が放射され、それらが烈震の場にいる二体のSドラゴンに巻き付いた。

 強力な粘性を有した糸に絡まれて、ドラゴンたちの動きが鈍る。その隙を逃さず、双頭の龍のうち、右側の顎が開き、水流を巻き込んだ息吹(ブレス)を放つ。対象となったスカーレッド・ノヴァ・ドラゴンはひとたまりもなく、断末魔の咆哮を上げて破壊された。

 

「が、ふ……! 補充部隊の効果で、二枚ドローだ」

「ドローカードよりも、自分のライフを心配したらどうですかぁ? シーラカンスでトリシューラを攻撃! そしてスパイダー・シャークでダイレクトアタック!」

 

 万全の態勢を整えた蟹沢は、一気呵成に攻め立てる。シーラカンスが大口を開け、ズラリと生え揃った牙をトリシューラの肩口に突き立てた。

 トリシューラの絶叫が三つの口から迸る。シーラカンスの驚異的な顎の力が、トリシューラの外殻に罅を入れ、瞬く間に砕き、肉に食らいつき、三本のうち二本の首を喰いちぎった。

 

「補充部隊の効果で、一枚ドロー!」

 

 力なく消滅していくトリシューラ。その姿が完全に消え去る前に、スパイダー・シャークが動く。

 

「これにて閉廷! 私の勝訴です!」

 

 興奮気味に叫ぶ蟹沢。ここで、烈震も動いた。

 

「異議あり、己にはまだ抵抗の手段がある。リバーストラップ、ピンポイント・ガード! 守備表示で甦れ、フレア・リゾネーター!」

 

 翻る伏せカード。同時に復活した炎の悪魔が、挑発するような笑みを浮かべて烈震を守る盾となる。

 

「チィ!」

 

 冷静さと知性を旨とする検事らしくない舌打ちをして、蟹沢は攻撃の失敗を受け入れた。

 

「私はこれでターンエンドです! エンドフェイズに、オケアノスの財宝の効果で、白闘気双頭神龍の攻撃力分、ライフを回復します!」

 

 

白の救済:永続魔法

このカード名の①の効果は1ターンに1度しか使用できない。(1):自分の墓地の魚族モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを手札に加える。(2):このカードが相手の効果で破壊され墓地へ送られた場合に発動できる。デッキから魚族モンスター1体を手札に加えるか特殊召喚する。

 

白闘気双頭神龍 水属性 ☆10 魚族:シンクロ

ATK3300 DEF3000

Sモンスターのチューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

(1):自分ターンにこのカードがS召喚に成功した時に発動できる。自分フィールドに「神龍トークン」(魚族・水・星10・攻3300/守3000)1体を守備表示で特殊召喚する。(2):相手ターンに1度、自分フィールドにトークンがない場合に発動できる。自分フィールドに「神龍トークン」1体を特殊召喚する。(3):このカードが相手の効果で破壊され墓地へ送られた場合に、自分フィールドに「神龍トークン」が存在していれば発動できる。このカードを守備表示で特殊召喚する。

 

リビングデッドの呼び声:永続罠

(1):自分の墓地のモンスター1体を対象としてこのカードを発動できる。そのモンスターを攻撃表示で特殊召喚する。このカードがフィールドから離れた時にそのモンスターは破壊される。そのモンスターが破壊された時にこのカードは破壊される。

 

超古深海王シーラカンス 水属性 ☆7 魚族:効果

ATK2800 DEF2200

(1):1ターンに1度、手札を1枚捨てて発動できる。デッキからレベル4以下の魚族モンスターを可能な限り特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターは攻撃宣言できず、効果は無効化される。(2):フィールドのこのカードを対象とする魔法・罠・モンスターの効果が発動した時、このカード以外の自分フィールドの魚族モンスター1体をリリースして発動できる。その効果を無効にし破壊する。

 

セイバー・シャーク 水属性 ☆4 魚族:効果

ATK1600 DEF1200

このカードはシンクロ素材にできない。自分のメインフェイズ時に、フィールド上の魚族モンスター1体を選択し、以下の効果から1つを選択して発動できる。この効果は1ターンに2度まで使用できる。この効果を発動するターン、自分は水属性以外のモンスターを特殊召喚できない。

●選択したモンスターのレベルを1つ上げる。

●選択したモンスターのレベルを1つ下げる。

 

スピア・シャーク 水属性 ☆4 魚族:効果

ATK1600 DEF1300

このカードが召喚に成功した時、自分フィールド上の全ての魚族・レベル3モンスターのレベルを1つ上げる事ができる。このカードが守備表示モンスターを攻撃した時、その守備力を攻撃力が超えていれば、その数値だけ相手ライフに戦闘ダメージを与える。

 

No.37 希望織竜スパイダー・シャーク 水属性 ランク4 海竜族:エクシーズ

ATK2600 DEF2100

水属性レベル4モンスター×2

「No.37 希望織竜スパイダー・シャーク」の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。(1):自分または相手のモンスターの攻撃宣言時、このカードのX素材を1つ取り除いて発動できる。相手フィールドの全てのモンスターの攻撃力はターン終了時まで1000ダウンする。(2):このカードが戦闘・効果で破壊され墓地へ送られた時、このカード以外の自分の墓地のモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを特殊召喚する。

 

ピンポイント・ガード:通常罠

(1):相手モンスターの攻撃宣言時、自分の墓地のレベル4以下のモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを守備表示で特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターはこのターン、戦闘・効果では破壊されない。

 

 

No.37 希望織竜スパイダー・シャークORU×1

 

 

烈震LP6000→3450→2350手札4枚

蟹沢LP10000→13300手札3枚

 

 

「さて、こっちのライフはもう吹けば飛ぶレベルだってのに、向こうは五桁か。ずいぶん差が開いたな」

 

 トールの声にはしかし焦燥はない。何しろ、ライフなどいくら増やしても減るときはあっさり減るのだ。烈震もそれをわかっている。だから動じない。

 

「こういう時、奴なら何と言うだろうな……」

 

 ふと烈震は場違いな思いのとらわれた。

 思い出すのは友、岡崎和輝(おかざきかずき)のこと。

 彼と初めて戦った時、途中まではこちらが優勢だった。

 多くのドラゴンを率いて、向こうのライフは少なかった。

 絶体絶命、その中で彼はどうしたか――――

 

「何を笑っているのですか?」

 

 不機嫌な声は勿論蟹沢のもの。彼は頬をひくひくと痙攣させながら、烈震を睨みつける。

 

「状況が分からないのですか? ライフの差は歴然、フィールドも圧倒的。こちらの軍勢に、貴方は紙一重で生き残っているにすぎない。そんな状況で、なぜ笑えるのです?」

「そうだな―――――差し当たって、貴様がおかしいからだな」

 

 烈震ははっきりと、口角を吊り上げて不敵に笑った。あまり笑わないので、ちょっとぎこちないかなと心の片隅で思った。

 

「なんですって?」

「紙一重で生き残っている? 違うな。貴様が、()()()()()()()()()()()()()()。偉そうに語るものではない」

 

 蟹沢の頬の痙攣がひどくなってきた。無視して烈震は告げる。

 

「覚悟しろ。貴様のその圧倒的な状況とやらを、粉々に打ち崩してやる。さぁ―――――」

 

 あの時の、和輝のように。

 

「お楽しみは、ここからだ」

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