神々の戦争   作:tuki21

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第94話:大海支配の最果て巨神

 蟹沢(かにさわ)は不機嫌の極みにあった。

 戦況は圧倒的にこちらが有利。ライフもフィールドもそうだ。大抵の相手はこれで諦める。実際、目の前の男が来る前に戦った参加者はそうだった。ここで諦め、膝を付いた。

 なのになぜこの男は諦めないどころか、ああも不敵に笑っていられるのか。

 分からない。不可解だ。理解不能だ。

 苛立ちを抱えながら、蟹沢は戦いを続けるしかなかった。

 

 

烈震LP2350手札4枚

ペンデュラムゾーン赤:なし青:なし

モンスターゾーン フレア・リゾネーター(守備表示)、

魔法・罠ゾーン 補充部隊

フィールドゾーン なし

 

蟹沢LP13300手札3枚

ペンデュラムゾーン赤:なし青:なし

モンスターゾーン 白闘気双頭神龍(ホワイト・オーラ・バイファムート)(攻撃表示)、神龍トークン(守備表示)、超古深海王シーラカンス(攻撃表示)、No.37 希望織竜スパイダー・シャーク(攻撃表示、ORU:セイバー・シャーク)

魔法・罠ゾーン オケアノスの財宝、白の救済、リビングデッドの呼び声(対象:超古深海王シーラカンス)、伏せ1枚

フィールドゾーン なし

 

 

(オレ)のターンだ、ドロー!」

 

 ドローカードを一瞥で確認する。

 手札は潤沢、しかしこのターンはまだ増える。

 

「この瞬間、予見通帳の効果により、除外されていた三枚のカードを手札に加える」

「おー、一気に手札増えたな。戦神としてのオレの勘が言ってる。軍備は整った。攻めろ」

 

 当然だ。烈震は肯いて、戦術を展開した。

 

「墓地のシャッフル・リボーン効果発動。己の場の補充部隊をデッキに戻し、一枚ドロー。墓地のエフェクト・ヴェーラーを除外し、暗黒竜コラプサーペントを特殊召喚。そして、レベル4のコラプサーペントに、レベル3のフレア・リゾネーターをチューニング!」

 

 烈震の右手が、天を掴めとばかりに開かれて、突き上げられる。彼の頭上でフレア・リゾネーターが三つの光輪となり、その輪を潜ったコラプサーペントが四つの光星となる。

 光星を一筋の光の道が貫いた。

 

「連星集結、爆炎開花。シンクロ召喚、爆ぜろ、ブラック・ローズ・ドラゴン!」

 

 光が辺りを満たし、その向こうから真紅の薔薇の花びらが舞い踊る。

 薔薇を率いてやってくるのは、黒い体躯に巨大な赤い薔薇を咲かせたドラゴン。棘の生えた薔薇の蔦を思わせる尻尾で地面を打ち据え、咆声を上げた。

 

「コラプサーペントの効果で、デッキから輝白竜ワイバースターを手札に加える。さらにブラック・ローズ・ドラゴンの効果発動! 自身を含めた、フィールドの全てのカードを破壊する!」

「!?」

 

 息を飲む蟹沢。その眼前で、薔薇のドラゴンが翼を大きく広げた。

 花弁が散るように、ドラゴンの姿が爆ぜた。

 瞬間、赤い旋風が嵐となって両者のフィールドを荒れ狂い、何もかもを悉く破壊しつくした。

 

「ぐ、く……!」

 

 更地になったフィールドを見て、蟹沢が呻いた。

 

「白闘気双頭神龍は自己再生能力を持っていない」

「トークンがいりゃあ復活できたんだろうが、まとめて吹っ飛ばされりゃあなす(すべ)ないよな!」

 

 喝采交じりのトールに対して、蟹沢が声を荒げた。

 

「異議あり! この瞬間、スパイダー・シャークと白の救済の効果発動! スパイダー・シャークの効果で、墓地からグレイドル・ドラゴンを特殊召喚し、白の救済の効果でデッキからエンシェント・シャーク ハイパー・メガロドンを特殊召喚します!」

 

 蟹沢のフィールドに巨影が二つ、現れる。水のごとき流動した身体を持つドラゴンと、硬く、強固な外皮を持った巨大な鮫。どちらも最上級モンスターにふさわしいステータスを持っている。

 

「この期に及んでまだモンスター出てくるのか……。しつこいぜ」

 

 辟易とするトール。だが烈震はなおも不敵に笑うだけだ。

 

「その防御を突破する。それだけだ。墓地のトリシューラとレッド・ワイバーンを除外し、嵐征竜-テンペストを特殊召喚!」

 

 嵐がさらに沸き起こる。

 薄緑色の竜巻の向こうから、現れたのは風を束ね、固め、具現化したようなドラゴンだった。

 

「征竜!? 馬鹿な、入手困難なカードを、どうして!?」

「ちょっとした伝手でな」

 

 正解は、奇龍(クイロン)からの援助だった。組織の力で、彼らは入手困難なカードをかき集めた。トリシューラもその一枚だ。孫娘の婿になるかもしれぬのだから、このくらいのカードは持て、ということだろう。

 おかげで烈震のデッキはかなり強化されている。その戦力を引っ提げて、彼はこの大会に臨んでいるのだ。

 

「まだ行くぞ。手札のドットスケーパーを捨て、ワン・フォー・ワン発動! デッキからジェット・シンクロンを特殊召喚する! さらに今墓地に送られたドットスケーパーも、自身の効果で特殊召喚する!」

 

 一気に二体のモンスターが烈震のフィールドに現れた。

 どちらも小さい。ジェットエンジンに手足とコミカルな頭部をくっつけた、デフォルメされたチューナーモンスターと、その名の通り全身がドットでできたモンスター。

 

「大欲な壺を発動! 除外されているトリシューラ、レッド・ワイバーン、エフェクト・ヴェーラーをデッキに戻し、一枚ドロー! これで、再びトリシューラをS召喚する条件は整った! レベル7の嵐征竜-テンペストと、レベル1のドットスケーパーに、レベル1のジェット・シンクロンをチューニング! シンクロ召喚、もう一度だ、氷結界の龍トリシューラ!」

 

 烈震は止まらない。頭上に手を掲げ、それに応えるように、再び三つ首の氷白龍が顕現(けんげん)した。

 

「ジェット・シンクロンの効果は使わないが、トリシューラ効果発動! 貴様の場にいるグレイドル・ドラゴンと、墓地のスパイダー・シャーク、そして手札一枚を除外する!」

 

 三つの氷の息吹(ブレス)が蟹沢のフィールド、墓地、手札にダメージを与える。

 

「い、いい異議あり! 異議ありだ! こんな――――」

「異議を却下する。どちらにしろ、動けないなら黙っていろ。アドバンスドロー発動。トリシューラをリリースし、二枚ドロー! 墓地のコラプサーペントを除外し、ワイバースターを特殊召喚! そして緊急テレポートを発動し、デッキからクレボンスを特殊召喚!

 レベル4のワイバースターに、レベル2のクレボンスをチューニング! 再び羽ばたけ、レッド・ワイバーン!」

 

 咆哮と羽ばたきの音を響かせて、赤い翼竜が再び烈震のフィールドに降臨する。その効果を知っている蟹沢の顔がさらにひきつった。

 

「ワイバースターの効果で、二枚目のコラプサーペントを手札に加える。そしてレッド・ワイバーンの効果! このカードよりも攻撃力の高い、ハイパー・メガロドンを破壊する!」

 

 レッド・ワイバーンが嬉々として火球を放つ。放たれた炎を受けて、海底の魔物が焼き尽くされた。これで再び蟹沢のフィールドはがら空きだ。

 

「そして、相手モンスターを効果によって破壊したため、手札のオーバーフロー・ドラゴンの効果発動。このカードを特殊召喚する。さらにドレッド・ドラゴンを召喚。レベル6のレッド・ワイバーンに、レベル2のドレッド・ドラゴンをチューニング!」

 

 烈震は止まらない。彼の赴くままに、彼のフィールドはS召喚を繰り出して、新たなモンスターを次々と召喚していく。

 

「連星集結、星屑飛翔。シンクロ召喚、出でよスターダスト・ドラゴン!」

 

 星屑のような光の粒子を振りまいて、現れたのは人に近い骨格を持った、二枚翼のドラゴン。

 長い首を逸らし、両手の五指を握り締めてフィールドに降り立った。

 

「ここで、墓地のジェット・シンクロンの効果発動。手札のワイバースターを捨て、墓地のこのカードを特殊召喚する。

 レベル1のオーバーフロー・ドラゴンに、同じくレベル1のジェット・シンクロンをチューニング――――連星集結、新地平開拓。シンクロ召喚、駆け抜けろフォーミュラ・シンクロン」

 

 玩具のようなF1カーに、手足と頭部を生やしたSチューナー。その出現は即ち、烈震がここで終わるつもりがないことを示していた。

 

「フォーミュラ・シンクロンの効果で一枚ドロー。

 レベル8のスターダスト・ドラゴンに、レベル2のフォーミュラ・シンクロンをチューニング! ――――連星集結、流星襲来! シンクロ召喚、現れろシューティング・スター・ドラゴン!」

 

 乱舞する光の向こうから、新たに現れる神々しさすら感じさせるドラゴン。

 白く、ほのかに発光する鎧甲冑を思わせる外骨格、直線型の翼、しなる尻尾、雄々しく力強く、それでいながら美しさを備えていた。

 

「シューティング・スター・ドラゴン効果発動!」

 

 シューティング・スター・ドラゴンの効果、即ちデッキトップをめくり、出てきたチューナーの数だけこのターンのバトルフェイズに攻撃できる効果。一枚もチューナーが出なければ攻撃できないデメリットがあるが、最大五回攻撃は派手だし、ロマンがある。

 

「ひ……」

 

 小さな悲鳴が蟹沢の口から漏れた。

 それはそうだ。今の彼は完全に無防備な状態。ここで五連続攻撃を受ければ彼のライフは0になる。

 当然、その際に受けるダメージは多大なものだろう。蟹沢はそれを恐れているのだ。

 

(痛みを恐れるか……、間抜けが)

 

 そんな契約者を、オケアノスは蔑みの目で見降ろした。

 

(ここらが、潮時か)

 

 なかなかのタクティクスを持っていたので意識を縛らずにいたが、ここまでヘタレだとそうもいかない。

 

(リスクを冒す勝負をしてこなかったな、こやつ)

 

 肝心な時に役に立たぬのならば意味はない。

 そうこうしているうちに、烈震はカードを五枚めくった。

 露わになったのはアンノウン・シンクロン、死者転生、デブリ・ドラゴン、バイス・ドラゴン、サイコ・コマンダー。その中に含まれているチューナーは三体。

 

「三回攻撃確定だ!」

「バトル。シューティング・スター・ドラゴンでダイレクトアタック!」

 

 裂帛の気合を込めて、烈震は攻撃命令を下した。命令に応え、シューティング・スター・ドラゴンが短く吠えた。

 翼を広げ、手足をたたんだ飛行モードに移行。各所排気管から大気を吸引、一気に排出する。

 爆発的な加速を得て、シューティング・スター・ドラゴンが加速する。本体の白に加えて、赤、青の分身体が出現。

 三体のシューティング・スター・ドラゴンが一気に蟹沢に直撃した。

 

「ぎゃあああああああああああああああああああああ!」

 

 蟹沢の絶叫が迸る。シューティング・スター・ドラゴンの一撃によって、背後の本殿が倒壊。地面を転がる蟹沢は悲鳴を上げ続ける。

 

「ぎ、あ、が―――――――――」

 

 自身の想像を超える激痛にのたうつ蟹沢。その姿を、オケアノスが冷めた目で見降ろしていた。

 

「カードを三枚伏せる。そして、エンドフェイズにシャッフル・リボーンのデメリットにより、手札を一枚除外する。ターンエンドだ」

 

 

暗黒竜 コラプサーペント 闇属性 ☆4 ドラゴン族:効果

ATK1800 DEF1700

このカードは通常召喚できない。自分の墓地から光属性モンスター1体を除外した場合のみ特殊召喚できる。この方法による「暗黒竜 コラプサーペント」の特殊召喚は1ターンに1度しかできない。(1):このカードがフィールドから墓地へ送られた場合に発動できる。デッキから「輝白竜 ワイバースター」1体を手札に加える。

 

ブラック・ローズ・ドラゴン 炎属性 ☆7 ドラゴン族:効果

ATK2400 DEF1800

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

このカードがシンクロ召喚に成功した時、フィールド上のカードを全て破壊できる。また、1ターンに1度、自分の墓地の植物族モンスター1体をゲームから除外して発動できる。相手フィールド上に守備表示で存在するモンスター1体を選択して表側攻撃表示にし、エンドフェイズ時までその攻撃力を0にする。

 

嵐征竜-テンペスト 風属性 ☆7 ドラゴン族:効果

ATK2400 DEF2200

このカード名の(1)~(4)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。(1):手札からこのカードと風属性モンスター1体を墓地へ捨てて発動できる。デッキからドラゴン族モンスター1体を手札に加える。(2):ドラゴン族か風属性のモンスターを自分の手札・墓地から2体除外して発動できる。このカードを手札・墓地から特殊召喚する。(3):このカードが特殊召喚されている場合、相手エンドフェイズに発動する。このカードを手札に戻す。(4):このカードが除外された場合に発動できる。デッキからドラゴン族・風属性モンスター1体を手札に加える。

 

ワン・フォー・ワン:通常魔法

(1):手札からモンスター1体を墓地へ送って発動できる。手札・デッキからレベル1モンスター1体を特殊召喚する。

 

ドットスケーパー 地属性 ☆1 サイバース族:効果

ATK0 DEF2100

このカード名の(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できず、それぞれデュエル中に1度しか使用できない。(1):このカードが墓地へ送られた場合に発動できる。このカードを特殊召喚する。(2):このカードが除外された場合に発動できる。このカードを特殊召喚する。

 

ジェット・シンクロン 炎属性 ☆1 機械族:チューナー

ATK500 DEF0

このカード名の(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。(1):このカードがS素材として墓地へ送られた場合に発動できる。デッキから「ジャンク」モンスター1体を手札に加える。(2):このカードが墓地に存在する場合、手札を1枚墓地へ送って発動できる。このカードを特殊召喚する。この効果で特殊召喚したこのカードは、フィールドから離れた場合に除外される。

 

アドバンスドロー:通常魔法

自分フィールド上に表側表示で存在するレベル8以上のモンスター1体をリリースして発動できる。デッキからカードを2枚ドローする。

 

輝白竜ワイバースター 光属性 ☆4 ドラゴン族:効果

ATK1700 DEF1800

このカードは通常召喚できない。自分の墓地から闇属性モンスター1体を除外した場合のみ特殊召喚できる。この方法による「輝白竜 ワイバースター」の特殊召喚は1ターンに1度しかできない。(1):このカードがフィールドから墓地へ送られた場合に発動できる。デッキから「暗黒竜 コラプサーペント」1体を手札に加える。

 

緊急テレポート:速攻魔法

(1):手札・デッキからレベル3以下のサイキック族モンスター1体を特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターは、このターンのエンドフェイズに除外される。

 

クレボンス 闇属性 ☆2 サイキック族:チューナー

ATK1200 DEF400

このカードが攻撃対象に選択された時、800ライフポイントを払って発動できる。その攻撃を無効にする。

 

オーバーフロー・ドラゴン 闇属性 ☆1 ドラゴン族:効果

ATK0 DEF0

このカード名の効果は1ターンに1度しか使用できない。(1):フィールドのモンスターが効果で破壊された時に発動できる。このカードを手札から特殊召喚する。2体以上のフィールドのモンスターが効果で破壊された時に発動した場合、さらに自分フィールドに「オーバーフロートークン」(ドラゴン族・闇・星1・攻/守0)1体を特殊召喚できる。

 

フォーミュラ・シンクロン 光属性 ☆2 機械族:シンクロチューナー

ATK200 DEF1500

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

(1):このカードがフィールドに存在し、自分または相手が、このカード以外のSモンスターのS召喚に成功した場合に発動する。このカードがフィールドに表側表示で存在する場合、自分はデッキから1枚ドローする。

 

シューティング・スター・ドラゴン 風属性 ☆10 ドラゴン族:シンクロ

ATK3300 DEF2500

Sモンスターのチューナー1体+「スターダスト・ドラゴン」

(1):1ターンに1度、発動できる。自分のデッキの上から5枚めくってデッキに戻す。このターンこのカードはめくった中のチューナーの数まで攻撃できる。(2):1ターンに1度、フィールドのカードを破壊する効果の発動時に発動できる。その効果を無効にし破壊する。(3):1ターンに1度、相手の攻撃宣言時に攻撃モンスターを対象として発動できる。フィールドのこのカードを除外し、その攻撃を無効にする。(4):この(3)の効果で除外されたターンのエンドフェイズに発動する。このカードを特殊召喚する。

 

 

烈震LP2350手札0枚

蟹沢LP13300→10000→6700→3400手札1枚

 

 

「は、ひ、ひ――――――」

 

 蟹沢は完全に狼狽していた。すでにダメージは許容量を超えており、これ以上の痛みは嫌だと全身で主張していた。だからオケアノスはなくなってしまった本殿跡を少しだけ振り返り、

 

()()

 

 契約者の名を呼ぶ。蟹沢はびくりと電流でも流されたかのように硬直した。

 

「お、オケアノス様……」

「もう、戦えんか?」

 

 蟹沢は怯えながら首を横に振った。

 

「い、いえ、そんなことは……」

「もう、()()()()?」

 

 オケアノスに断定口調で告げられて、蟹沢はさらに身の怯えを強くした。

 

「なんだ?」

 

 一人と一柱のやり取りの意味が分からず、烈震は首をひねった。

 

「ああ、無理はするな。意味ない。だから―――――」

 

 地面にへたり込み、子供の用に怯える蟹沢を一瞥して、オケアノスは言葉を告げた。

 

「ここからは、()()()()()

 

 それは、蟹沢にとって処刑宣告に等しかった。

 

「いやだあああああああああああああああああああああああああ!」

 

 甲高い絶叫を上げる蟹沢。その体ががくがくと震えだした。

 

「な――――」

 

 息を飲む烈震。その眼前で、蟹沢という人間性が剥ぎ取られていく。

 

「野郎、精神支配か!?」

 

 半透明のトールが止めようと前に出る。が、それより早く、事は終わった。

 蟹沢の痙攣が唐突に止まった。

 沈黙が辺りに満ちる。

 蟹沢の身体が、ゆっくりと立ち上がり、正面、烈震たちの方を見た。

 目鼻立ちは変わらない。体格も変わらない。だが変わったということが分かった。

 目の色、その奥に潜むものが違った。

 人間性が掻き消えて、代わりに神の気配、神気があった。

 

「胸糞悪りぃ真似しやがる……」

「仕方がないだろう。蟹沢がもう戦えん以上、選手交代するしかない。では、俺のターンだ、ドロー」

 

 プレイヤーが変わったからといって、状況が変わるわけでもない。烈震は戦況をひっくり返した。不利になり、追い詰められたのはオケアノスの側だ。

 だが、蟹沢の身体を使う神は、余裕だった。

 

「いいカードを引いた。貪欲な壺発動。墓地のホワイト・モーレイ、ホワイト・スティングレイ、竜宮の白タウナギ、セイバー・シャーク、スピアー・シャークをデッキに戻し、二枚ドロー」

「ドローブースト……このタイミングでか」

 

 嫌な空気がかすかに漂い出した。トールの鼻はさらに敏感に敵の気配をかぎ取った。

 

「潮クセェ……。海の匂いだ……。来やがるな」

 

 トールが身構える。神として、神気を感じたのだ。応じるように、オケアノスが笑う。

 

「察しがいい。では行くぞ。手札を一枚捨て、墓地からフィッシュボーグ-アーチャーを特殊召喚。そしてこの瞬間、手札から速攻魔法、地獄の暴走召喚発動! デッキにある残る二体のフィッシュボーグ・アーチャーを特殊召喚だ!」

 

 デッキに仕込んでいた、神召喚のためのギミックが発動する。

 蟹沢=オケアノスのフィールドに三体のフィッシュボーグ-アーチャーが現れる。これで神召喚のための生贄は揃った。

 

「だがこれで奴の手札は一枚。その一枚が神ではければ、召喚てできないはず……」

 

 烈震の言うことは正論だ。

 だが神とは、時に正論を蹴り飛ばす理不尽を持っている。

 

「その通り。だがこのターンで、俺は俺自身を召喚できる。それがその秘密だ。墓地のオケアノスの財宝の効果発動! 墓地のこのカードを除外し、大海支配の最果て巨神オケアノスを手札に加える!」

「サーチ効果……。神のサポートというのは当たっていたか」

 

 蟹沢=オケアノスのデッキから、カードが一枚排出された。そのカードを手に取り、敵は「神」の召喚を告げる。

 

「場にいる三体のフィッシュボーグ-アーチャーをリリース! さぁ来るがいい、大海とは即ち俺自身! 全てを飲み込み、潰し、覆いつくす無慈悲な力! 降臨せよ、大海支配の最果て巨神オケアノス!」

 

 三体のモンスターが消え去る。そして、海が溢れ出した。

 潮騒の音を響かせて、寄せては返す大海。海はどんどん広がって、やがてピタリと止まった。

 かと思うと一か所に集まりだし、巨大な水柱となる。

 轟音が烈震の耳を弄した。

 神が現れる。

 その姿はデュエルの前に見たものと同じ。

 逆巻く渦のような海流を吸い上げたような下半身、黄金の鎧を身に纏った、筋骨隆々とした、青い肌、金の髪、海を固めたような青い瞳。豊かな髭。ただ、デュエルの前は上半身は確かに肉の質感があったはずだが、今はない。

 全身これ全て流動する水、といった風情。まさに意志を持った荒ぶる大海だ。

 

「この俺、オケアノスの効果発動! 一ターンに一度、デッキ、墓地、EXデッキから、水属性モンスターを効果を無効にし、可能な限り特殊召喚する! さらにこの効果で特殊召喚されたモンスターは、攻撃力が1000アップし、さらに相手からのカード効果を受け付けず、相手モンスターとの戦闘で発生する、俺への戦闘ダメージは0になる!」

「ッ!」

 

 フィールドのオケアノスが両腕を大きく振り上げる。その動きに伴って、再びどこからともなく水が――――海が溢れ出し、その中からモンスターたちが現れる。

 

「輪廻の海を越えて、再誕せよ、白闘気海豚、白闘気双頭神龍、シーラカンス、エンシェント・シャーク!」

 

 四体の大型モンスターが一斉に蟹沢=オケアノスのフィールドに蘇る。いずれも効果を封印されているが、代わりに完全耐性を備え、さらに攻撃力が1000アップしているので、全員が攻撃力3000オーバーという有様だ。

 

「さらに水属性モンスターがいる限り、お前さんは俺自身を攻撃できんし、効果で殺すこともできない。つまりお前さんは、一ターンのうちに俺の水の壁たちを打破し、さらに俺自身を倒さなければならんわけだ」

 

 まぁ、とオケアノスは笑みを深めて言う。

 

「このターン、お前さんが生き残れれば、だがな。白闘気双頭神龍でシューティング・スター・ドラゴンを攻撃!」

 

 攻撃宣言が下る。大会の軍団が迫る。

 一体目、白闘気双頭神龍が激流のような息吹(ブレス)を放った。

 烈震はすぐさま判断を下す。シューティング・スター・ドラゴンの効果を使って攻撃の無効化は意味がない。効果を受けないのだから、こちらがただモンスターを除外して壁を減らすだけだ。

 故に烈震はシューティング・スター・ドラゴンの効果を発動させず、そのまま攻撃を受けた。シューティング・スター・ドラゴンは破壊され、烈震にダメージが入る。

 

「俺自身を含めた、四体でダイレクトアタック!」

 

 残る軍勢が蠢き殺到する。

 烈震のライフは残り1350、喰らえば消し飛ぶオーバーキルダメージ。だから烈震は即座にデュエルディスクのボタンを押した。

 

「リバースカードオープン、速攻魔法、スケープ・ゴート!」

 

 カードが翻った直後、烈震のフィールドに四体の、色とりどりの眠れる羊が現れる。

 

「生き延びたか。だが壁は残さん!」

 

 オケアノスは攻撃続行を選択。彼と彼の軍勢が羊たちを蹂躙する。

 

「ターンエンドだ」

 

 

貪欲な壺:通常魔法

(1):自分の墓地のモンスター5体を対象として発動できる。そのモンスター5体をデッキに加えてシャッフルする。その後、自分はデッキから2枚ドローする。

 

フィッシュボーグ‐アーチャー 水属性 ☆3 魚族:チューナー

ATK300 DEF300

このカードが墓地に存在し、自分フィールド上にモンスターが存在しない場合、手札の水属性モンスター1体を捨てて発動できる。このカードを墓地から特殊召喚する。さらに、この効果で特殊召喚したターンのバトルフェイズ開始時に水属性以外の自分フィールド上のモンスターを全て破壊する。「フィッシュボーグ-アーチャー」の効果は1ターンに1度しか使用できない。

 

地獄の暴走召喚:速攻魔法

(1):相手フィールドに表側表示モンスターが存在し、自分フィールドに攻撃力1500以下のモンスター1体のみが特殊召喚された時に発動できる。その特殊召喚したモンスターの同名モンスターを自分の手札・デッキ・墓地から可能な限り攻撃表示で特殊召喚し、相手は自身のフィールドの表側表示モンスター1体を選び、そのモンスターの同名モンスターを自身の手札・デッキ・墓地から可能な限り特殊召喚する。

 

オケアノスの財宝:永続魔法

このカードは1枚しかフィールドに存在できない。(1):自分水属性モンスターが戦闘、またはカードの効果によって破壊された時に発動する。カードを1枚ドローする。(2):自分のターン終了時に、フィールドの水属性モンスター1体を対象にして発動できる。対象モンスターの元々の攻撃力分、ライフを回復する。(3):墓地のこのカードをゲームから除外して発動できる。デッキから「大海支配の最果て巨神オケアノス」1体を手札に加える、

 

大海支配の最果て巨神オケアノス 神属性 ☆10 幻獣神族:効果

ATK4000 DEF4000

このカードは特殊召喚できない。このカードは3体のモンスターをリリースしてのみ通常召喚できる。(1):このカードは神属性、幻神獣族モンスターの効果以外のカード効果ではフィールドを離れず、コントロールも変更されない。(2):このカードが相手のカードの効果を受けた時、エンドフェイズにこのカードに対するそのカード効果を無効にする。(3):1ターンに1度、自分のデッキ、墓地、EXデッキから水属性モンスターを、効果を無効にした状態で可能な限り特殊召喚できる。この効果によって特殊召喚されたモンスターの攻撃力は1000アップし、相手のカードの効果を受けず、そのカードの戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になる。(4):自分フィールドに水属性モンスターが存在する限り、相手プレイヤーはこのカードを攻撃できず、このカードは相手のカード効果を受けない。

 

スケープ・ゴート:速攻魔法

このカードを発動するターン、自分はこのカードの効果以外ではモンスターを召喚・反転召喚・特殊召喚できない。(1):自分フィールドに「羊トークン」(獣族・地・星1・攻/守0)4体を守備表示で特殊召喚する。このトークンはアドバンス召喚のためにはリリースできない。

 

 

白闘気双頭神龍攻撃力3300→4300

白闘気海豚攻撃力2400→3400

超古深海王シーラカンス攻撃力2800→3800

エンシェント・シャーク ハイパー・メガロドン攻撃力2900→3900

 

 

烈震LP2350→1350手札0枚

蟹沢LP3400手札1枚

 

 

「己のターンだ、ドロー」

 

 カードをドローするが、烈震の手札は僅か一枚。そしてこの一枚は逆転のカードではなかった。

 

「モンスターをセット。さらに伏せていた命削りの宝札を発動し、三枚ドロー。カードを二枚伏せ、エンドフェイズに命削りの宝札の効果により、手札一枚を捨てる。ターンエンドだ」

 

 結果、守りを固め、大人しくターンを渡すしかできなかった。

 

 

命削りの宝札:通常魔法

このカード名のカードは1ターンに1枚しか発動できず、このカードを発動するターン、自分はモンスターを特殊召喚できない。(1):自分は手札が3枚になるようにデッキからドローする。このカードの発動後、ターン終了時まで相手が受ける全てのダメージは0になる。このターンのエンドフェイズに、自分の手札を全て墓地へ送る。

 

 

「俺のターンだ、ドロー。――――ふん、壁を敷いても、罠を仕掛けても、生半可なものでは意味はないぞ? 白闘気双頭神龍で守備モンスターを攻撃!」

 

 怒涛のような水流が、烈震の守備モンスターを姿を現す暇なく押し流す。

 だがモンスターが破壊されたという事実は残る。よって烈震は宣言する。

 

「破壊されたアンクリボーの効果発動だ。エンドフェイズにデッキから死者蘇生を手札に加える!」

「チィ!」

 

 思わず舌打ちが漏れる。オケアノスは一度己の手札を見た。

 どちらもモンスターカード。すでに場が埋まっているので意味はない。そして、この局面でサーチカードが来たならば、

 

(あの男、まだ防御札を隠し持ってるな)

 

 分かる。しかし攻めなければ、その盾を剥がすこともできない。

 

「ままよ。オケアノス(俺自身)でダイレクトアタック!」

 

 間髪入れずに烈震の声が走る。

 

「墓地の超電磁タートルの効果発動! このカードをゲームから除外して、バトルフェイズを終了させる!」

「命削りの宝札で捨てた一枚か!」

 

 モンスターとしてフィールドに出ているオケアノスの動きが止まった。烈震の墓地から、超電磁タートルが放った電磁の網が、敵をせき止めたのだ。

 

「ターンエンドだ」

「この瞬間、アンクリボーの効果により、デッキから死者蘇生を手札に加える」

 

 潮の流れが変わるように、よくない流れに変わった、オケアノスは思った。

 

 

アンクリボー 闇属性 ☆1 悪魔族:効果

ATK300 DEF200

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。(1):相手モンスターの攻撃宣言時にこのカードを手札から捨て、このカード以外の自分または相手の墓地のモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを自分フィールドに特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターはエンドフェイズに墓地へ送られる。(2):このカードが戦闘・効果で破壊され墓地へ送られた場合に発動できる。このターンのエンドフェイズに、自分のデッキ・墓地から「死者蘇生」1枚を選んで手札に加える。

 

超電磁タートル 光属性 ☆4 機械族:効果

ATK0 DEF1800

「超電磁タートル」の効果はデュエル中に1度しか使用できない。(1):相手バトルフェイズに墓地のこのカードを除外して発動できる。そのバトルフェイズを終了する。

 

 

「己のターンだ、ドロー!」

 

 ドローカードを確認する。烈震は息を飲み、軽く目を見開いた。

 

「来たか……」

 

 (トール)のカード。

 神には神を。だがオケアノスの神性はイコールで軍勢の強さだ。いかにトールが強力な神であろうとも、単体では突破できない。

 その防壁突破の手段は、か細いながらも見えている。だがそれには多くの運が絡む。

 

「だが、突き進めなければ始まらない。リバースカードオープン、貪欲な壺! レッド・リゾネーター、レッド・ノヴァ、フレア・リゾネーター、ジャンク・シンクロン、クレボンスをデッキに戻し、二枚ドロー!」

 

 ここでのドローで勝敗がかかっている。普通ならば、先の見えないことに対する不安と恐怖から、ドローしたカードを確認することに躊躇があるだろう。

 だが烈震はそんな躊躇は刹那ほどもせず、ドローカードを二枚同時に確認した。

 

「――――――――――――」

 

 結果は――――、烈震の口元が示していた。

 わずかに、だが確かに笑みに吊り上がった口角。それが千の言葉よりもドローの内容を代弁していた。

 

「行くぞ。まずは死者蘇生を発動。墓地からシューティング・スター・ドラゴンを特殊召喚する!」

 

 白銀色の光の粒子をまき散らしながら、再び流星のドラゴンが現れる。そしてそれを皮切りに、烈震はさらにモンスターを展開していく。

 

「墓地のワイバースターとコラプサーペントをゲームから除外して、再び顕現せよ、嵐征竜-テンペスト!」

 

 竜巻が巻き起こり、風を具現化したドラゴンが、咆哮とともに現れる。

 

「デブリ・ドラゴンを召喚し、効果発動! 墓地からドットスケーパーを特殊召喚する!」

 

 これで烈震のフィールドには四体のモンスター。これで数だけなら神召喚の準備は整った。

 

「だがすでに召喚権を使ってしまっているな。これでは神を手札に呼び込んでいても、召喚できんぞ?」

 

 オケアノスの言う通りだった。デブリ・ドラゴンを召喚したことで、すでに召喚権は使いきっている。このままでは、たとえトールを手札に加えていたとしても、召喚できなければ意味がない。

 だが烈震は笑みを消さなかった。

 

「なくなったのなら、これで増やせばいい。手札から魔法カード、二重召喚(デュアルサモン)発動! これで己はもう一度通常召喚が可能となった! テンペスト、デブリ・ドラゴン、ドットスケーパーの三体をリリース!」

 

 烈震のモンスターが光と消える。そして、何物にも侵されざる無力の力となって“場”を作り、大いなる存在を迎えるための“門”となる。

 

「来たれ我が神。迅雷の闘神トール!」

 

 落雷が、雨のようにあたりに降り注いだ。

 轟音と閃光が世界を圧し、視覚と聴覚を乱打する。

 雷の帳の向こうから、現れる神。

 短く乱雑に切られた濃い緑の髪、金に輝く両の(まなこ)、肩と背中しか守っていない、ジャケットのような形状をした緑の鎧、右手に塚の短いハンマー、ミョルニルを、周りには従者のように大量の雷の球体が、寄り添っている。

 

「トールの効果発動! 己の墓地のスカーレッド・ノヴァ・ドラゴンを装備し、その攻撃力分、攻撃力をアップさせる!」

 

 烈震の墓地から、スカーレッド・ノヴァ・ドラゴンが半透明の状態で出現。次の瞬間には青白く輝く雷に代わり、羽衣のようにトールに羽織られた。

 

「ここからが勝負だ。シューティング・スター・ドラゴンの効果発動! デッキトップをめくっていく!」

 

 一気に五枚めくる。変にためず、祈らず、烈震は己の天運をここで開示する。

 提示されたのは、エフェクト・ヴェーラー、ジャンク・シンクロン、レッド・リゾネーター、クリア・リゾネーター、ゾンビキャリア。

 

「しゃあ! オールコンプリート! やっぱ貪欲な壺でチューナーを戻したのが効いたな!」

 

 フィールドで、トールがガッツポーズをとった。

 だが五回攻撃を可能にしても、シューティング・スター・ドラゴンの攻撃力ではオケアノスの軍勢に届かない。

 

「もっとも、届かないのなら足すだけだ。今までのようにな。伏せていた一騎加勢を発動! シューティング・スター・ドラゴンの攻撃力を1500アップする!」

「ッ!」

 

 息を飲むオケアノス。その眼前、シューティング・スター・ドラゴンの身体が一回り大きくなり、その全身から青いオーラが溢れ出した。

 

「攻撃力4800! これで――――」

「貴様らの軍勢を壊滅させる! シューティング・スター・ドラゴンで、オケアノスを含むすべてのモンスターを攻撃!」

 

 シューティング・スター・ドラゴンが手足をたたみ、飛行モードに移行する。全身の排気口に空気をため込み、一気に排出。

 飛翔、疾走開始。

 一瞬でトップスピードに。そこから四つの分身が出現。本体と合わせて、純粋なエネルギー体が次々とオケアノスのモンスターに直撃、敵を打倒していく。

 分身によって、白闘気双頭神龍、シーラカンス、エンシェント・シャーク、白闘気海豚が次々と倒されていく。

 だがオケアノスも黙ってやられるわけにはいかない。蟹沢の喉が裂けるもお構いなしに叫ぶ。

 

「白闘気海豚が破壊された瞬間、その効果を発動する!」

 

 これで壁ができる。そして水属性モンスターがいれば、敵はオケアノス(自分)に手が届かない!

 

「そうはさせん。リバーストラップ発動! 虚無空間(ヴァニティー・スペース)!」

「な――――――」

 

 愕然とするオケアノスの眼前で、烈震が発動した永続罠の効果が発揮される。

 オケアノスの墓地から黒い霧のようなものが噴出し、白闘気海豚の自己再生を阻害する。

 結果、オケアノスのフィールドに新たなモンスターは登場せず、オケアノスは自らの防御を完全に剥がされてしまった。

 

「ぬお……」

 

 迫る光は勿論、シューティング・スター・ドラゴンのもの。

 ドラゴンの接近に対してオケアノスは水でできている己の身体からいくつもの槍を射出した。

 オケアノス自身の質量を削って作った水の槍。幾本ものそれが一斉にシューティング・スター・ドラゴンめがけて殺到する。

 

「無駄だ」

 

 烈震の言葉を証明するように、水の槍たちは全て、シューティング・スター・ドラゴンの身体に触れた瞬間、弾かれた。

 燐光をまき散らしながら、シューティング・スター・ドラゴンが肉薄。最後の抵抗のためにはなった水の幕さえ打ち破り、その体が弾丸となってオケアノスの心臓部に激突した。

 

「ぐあああああああああああああああああああああああああああ!」

 

 神の絶叫が響く。オケアノスの身体が崩れて、ただの大量の海水に帰っていく。

 

「ぐ、ぎ……」

 

 今だ蟹沢の身体を乗っ取ったまま、オケアノスは後ずさった。その身はすでにふらついて、自らの現身を破壊されたことがよほど答えたらしい。

 

「今だ、烈震!」

 

 烈震のフィールドで、トールが叫ぶ。言われるまでもないと、烈震もまた叫んだ。

 

「オケアノス! これで終わりだ。トールでダイレクトアタック!」

 

 オケアノスのフィールドには何もない。今まで彼と守ってきた水も、(ライフ)も、なにも。

 あるのはただ、思うように動かない蟹沢(傀儡)の身体のみ。

 

「お、おお……」

 

 恐れ、慄いたオケアノスの眼前に、雷光を走らせ、従わせたトールが立った。

 トールの右手が、ミョルニルを掲げた。

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおお!」

「爆ぜろ」

 

 言葉にならぬ呻きを上げるオケアノス、その胸元の宝珠めがけて、雷光を纏った一撃が叩きこまれた。

 澄んだ音を立てて、宝珠が砕け散った。

 

 

死者蘇生:通常魔法

(1):自分または相手の墓地のモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを自分フィールドに特殊召喚する。

 

デブリ・ドラゴン 風属性 ☆4 ドラゴン族:チューナー

ATK1000 DEF2000

このカードをS素材とする場合、ドラゴン族モンスターのS召喚にしか使用できず、他のS素材モンスターは全てレベル4以外のモンスターでなければならない。(1):このカードが召喚に成功した時、自分の墓地の攻撃力500以下のモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを攻撃表示で特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターの効果は無効化される。

 

二重召喚:通常魔法

(1):このターン自分は通常召喚を2回まで行う事ができる。

 

迅雷の闘神トール 神属性 ☆10 幻神獣族:効果

ATK4000 DEF2500

このカードは特殊召喚できない。このカードは3体のモンスターをリリースしてのみ通常召喚できる。(1):このカードは神属性、幻神獣族モンスターの効果以外のカード効果ではフィールドを離れず、コントロールも変更されない。(2):このカードが相手のカードの効果を受けた時、エンドフェイズにこのカードに対するそのカード効果を無効にする。(3):1ターンに1度、相手モンスター1体を選択して発動できる。選択したモンスターを破壊し、破壊したモンスターの攻撃力分のダメージを与える。(4):1ターンに1度、自分の手札、フィールド、墓地のモンスター1体を対象に発動できる。対象のモンスターをこのカードに装備する(1度に装備できるモンスターは1体まで)。装備したモンスターの攻撃力分、このカードの攻撃力がアップする。

 

一騎加勢:通常魔法

(1):フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターの攻撃力はターン終了時まで1500アップする。

 

虚無空間:永続罠

(1):このカードが魔法&罠ゾーンに存在する限り、お互いにモンスターを特殊召喚できない。(2):デッキまたはフィールドから自分の墓地へカードが送られた場合に発動する。このカードを破壊する。

 

 

蟹沢LP0

 

 

 バトルフィールドが消え去った。現実世界に回帰した烈震は、周りに倒れていた参加者がいなくなっていることに気づいた。

 

「くろかみ!」

 

 呼び声と、走ってくる足音。

 振り返れば小雪がこちらにやってきていた。

 

「勝ったな?」

「当然だ」

 

 二人の前には気絶した蟹沢の姿。神に酷使されたためか、その体はボロボロだ。

 

「こいつも病院だな」

 

 実体化したトールが言う。そうだなと烈震が頷いたその瞬間だった。

 

 

 嵐が、具現化した。

 

 

 目を開けていられない突風が辺りを席巻した。方向は烈震たちが来た方。つまり退路を断たれた形になる。

 旋風の中央に、そいつがいた。

 男、おそらく少年。見た目から判断できる年齢は烈震たちと同じか少し上くらい。

 十代の幼さを残した顔つきに反して、体は引き締まっている。

 浅く日に焼けた肌、短めに刈り揃えられた赤髪に黒い袖のないシャツ、同じく黒のズボン。百九十を超える体躯、赤みがかった茶色の瞳。

 その表情には何かに対してまき散らしたくってたまらない、そんな怒りの感情があふれ出ていた。

 右のこめかみがけいれんしている。今にも爆発しそうな怒りを寸前で抑え込んでいるかのようだ。

 

「くそが!」

 

 開口一番、出てきたのは罵倒の言葉。まるで風が固まって声となっているような奇妙な声音だった。

 男は右手で乱暴にこめかみから側頭部にかけてを掻き毟りながら、

 

「なんでゼウスじゃねぇんだよぉぉぉぉぉ!」

 

 ガリガリバリバリ、皮膚が破け、血が流れても男は掻くのをやめない。やめないまま叫ぶ。

 

「雷を出した神がいたから、ゼウスだと思ったのによぉぉぉ! なんで別神なんだよぉぉぉぉ!」

「なんだ、貴様は」

 

 言いながらも烈震は決して油断していない。目の前の男、正確には、男の皮を被った()()が持つ力の大きさを肌で感じていた。

 それはトールも同じだ。彼は一歩前に出て、叫ぶ。

 

「何者だテメェは!」

「あぁ!?」

 

 男はトールの方を睨みつける。

 

「オレが誰だと? それを知らねぇってのはモグリか? ヒキコモリ的に情報を仕入れてねぇのか!? オレはテュポーン! テメェら神々を、特にゼウスの糞野郎をぶっ殺したくって仕方がねぇ怪物様だ!」

 

 男、テュポーンが叫ぶ。

 

「ゼウスじゃねぇが、雷使いってのは気に入らねぇ、ぶっ殺す!」

 

 叫びにしたがって、豪風が鳴る。オケアノス戦での消耗を自覚しながら、烈震はもう一戦、覚悟した。

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