神々の戦争   作:tuki21

95 / 130
第95話:最強の怪物

 その気配に最初に気づいたのは、千里眼を持つヘイムダルではなく、神話の時代から因縁深いゼウスだった。

 

「これは……」

 

 場所は東京スカイツリー近く。人々が行きかう流れから少し外れた、こじんまりとした喫茶店の片隅。

 ゼウスはコーヒーカップをテーブルの上に置き――音も立てない丁寧な所作だった――日が暮れかけている空を見つめた。

 

「どうしたのかね?」

 

 声をかけたのはフレデリック。彼はコーヒーのお代わりを頼みつつ、隣の席のヘイムダルを見た。

 パートナーの視線を受けたヘイムダルもまた、ゼウスが気付いたものに気づいた。

 

「これは……、並の神々をはるかに凌駕する力を感じる」

「浅草か……」

「ンだぁ?」

 

 隅の四人席の中でも一番壁際の席に座っていた狩谷(かりや)が粗さを含んだ声を上げた。

 

「ゼウス、何か感じンのか?」

「ああ。ここまで強い力はそうない。間違いない、テュポーンだ。クロノスめ、最強の怪物まで手駒にしていたか……」

 

 豪放磊落、泰然自若としているゼウスの声に、戦慄が混じっていた。そのことを感じ取った狩谷が椅子から立ち上がろうとする。

 

「待ちたまえ」

 

 それを制したのはフレデリック。彼はコーヒーを飲み干すと、

 

「テュポーンが力を解放したのなら、すでに誰かと戦っているだろう。今から行っても間に合わんよ」

「だからここでのんきにコーヒー飲んでロってか?」

「まさか。無論できるだけ急ぐとも。ヘイムダル、千里眼は飛ばせたかね?」

「ああ。浅草寺にいる。対峙しているのは黒神烈震だ」

「雷を使う神、か。それにつられたな。奴は吾輩に倒されてから、特に雷を目の敵にしている」

 

 ゼウスが顎を撫でながらそう言った。フレデリックは浅草寺と呟き、

 

「近いな……。やはり、足を運ぶべきだ。しかし狩谷君、君はこない方がいい」

「ンだと?」

 

 狩谷の声に剣呑な響きが混じる。同時に、牙のように尖った歯が軋みを上げた。

 

「理由は二つ。テュポーンという、ティターン神族に匹敵、あるいは凌駕するギリシャ神話最強の怪物を相手にするには、君のコンディションはよくあるまい?」

 

 指摘された通り、狩谷の顔色は青白く、よくない。元が浅黒い肌なので、その顔色の悪さは余計に目立つ。

 

「私がナイトゴーントを撃退した後も、立て続けにギリシャの悪霊(エンプーサ)やクトゥルフの魔物が襲い掛かってきた。今日はもうガス欠だ。そんな状態で、テュポーンのような強敵相手はできまい。決戦の前に倒れられても困る。君とゼウスの力は、クロノスを打倒することに向けられなければならない」

「それにな狩谷」とゼウスが落ち着いた口調で言う。

「テュポーンは、吾輩を見れば必ず最優先で狙ってくるだろう。残念だが、今の貴様では戦いきることはできん。そんな不完全な、つまらない戦いが、貴様の命の使い時なのか?」

「…………」

 

 狩谷は沈黙し、己の左胸、心臓に手をやった。

 

「……確かにな」

「納得してくれたようで何よりだ。なので、戦場には私とヘイムダルで行こう」

 

 伝票を手に取って、フレデリックは立ち上がる。

 颯爽と店を出る。その目はまだ見ぬ戦場を見据えていた。

 

 

 同時刻、ゾディアック社長室。

 

嵐山(あらしやま)君、いや、テュポーンが接敵したようだ。相手はトールとその契約者、黒神烈震君」

『トールか』

 

 七本目の酒瓶を口にしていたクロノスが、北欧神話の神の名を口にした。

 

『雷を使う神か、それに誘われたな』

「テュポーンはこちらの話を聞く前に飛び出していったからねぇ。やみくもに探すつもりだったのか、たまたま目にした雷に引き寄せられたか」

『どちらにせよただではすむまい。少なくとも一柱は再起不能だ』

「できれば生きていてもらいたいな。彼の将来に、私は期待しているのだから……」

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 烈震は目の前の光景に、頭の中が発火しそうだった。

 どさりと重い音を立てて、小雪(シャオシエ)の身体が倒れ伏す。

 さっきまで彼女はテュポーンとデュエルをしていたのだ。烈震に、デッキを構築する時間を与えるために。

 

 

 烈震とテュポーンが対峙した時、まずテュポーンは小雪に目を付けた。

 この場にいる、神々の戦争の参加者ではない、しかし元参加者の小雪。テュポーンはデッキ調整だと、今はもう参加者ではない小雪をバトルフィールドに取り込んだのだ。

 キレた奴だと思ったが、敵と戦う前の準備のためを優先させた。同時にこれは人質だと気づいた。

 テュポーンが小雪と戦っている間、烈震を逃がさないための枷。

 逃げる気はなかったし、だから連戦をよしとした烈震に対して、小雪が勝負を承諾した。

 神々の戦争の参加者ではなくなった小雪は、それでも烈震のサポートがしたかったのだ。

 オケアノス戦のダメージ、そしてデッキ内容を露呈。その二つの不利から烈震を遠ざけるために、小雪はテュポーンとのデュエルを承諾した。

 参加者ではない、ただの一般人に戻ってしまった小雪は、ダメージのフィードバックは多大なものになるはずだ。

 なのに彼女は受けた。全ては烈震の不利を緩和するために。

 小雪の心遣いが分かっているから、烈震は彼女を行かせた。止められはしないと思っていた。

 その結果が目の前だ。

 

「小雪……」

 

 倒れ伏した彼女を抱き上げる。小雪はまっすぐ、無垢な瞳で烈震を見た。

 

「くろかみ……、デッキは……?」

「完了だ。ダメージも、まあ呼吸で緩和で来た」

「そうか……」

 

 それだけ告げて、小雪は瞼を落とした。

 体から力が抜ける。だが体温はある、鼓動も。気絶しただけだ。

 

「デッキは万全だ。待たせたなぁ、次こそ本番だ!」

 

 叫ぶ男、テュポーン。烈震は小雪を本殿内の屋根下の床上に丁寧に置いた。

 

「今、(オレ)は貴様を叩きのめしたくて仕方がない。トール!」

「あいよ!」

 

 パートナーの邪魔をせぬように姿を消していたトールが吠えた。

 

「バトルフィールド展開!」

 

 瞬間、現実世界とは位相の違う空間に、烈震とテュポーンが取り込まれた。

 

決闘(デュエル)!』

 

 沈黙も静寂も何もない。ただ闘志だけを高めて、始まりの言葉を高らかに宣言した。

 

 

烈震LP8000手札5枚

テュポーンLP8000手札5枚

 

 

「オレの先攻だ!」

 

 嵐のように荒々しい口調で、テュポーンは宣言、即座にカードを繰り出した。

 

「覇王眷竜ダークヴルムを召喚!」

 

 そして召喚されたのは、片刃のような形状をした翼を持ち、体の各所からも刃のような器官を生やしたドラゴン。烈震の知らないモンスターだが、下級の中ではステータスは高めて、しかも(ペンデュラム)モンスターなので、再利用も容易だ。

 

「ダークヴルム効果発動! 召喚、特殊召喚成功時に、覇王門Pモンスター一体を手札に加える! オレは覇王門零(はおうもんぜろ)を手札に加える! カードを二枚セットし、ターンエンドだ!」

 

 

覇王眷竜ダークヴルム 闇属性 ☆4 ドラゴン族:ペンデュラム

ATK1800 DEF1200

Pスケール5

P効果

(1):1ターンに1度、自分フィールドにモンスターが存在しない場合に発動できる。デッキから「覇王門」Pモンスター1体を選び、自分のPゾーンに置く。この効果の発動後、ターン終了時まで自分は闇属性モンスターしかP召喚できない。

モンスター効果

このカード名の(1)(2)のモンスター効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。(1):このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「覇王門」Pモンスター1体を手札に加える。(2):???

 

 

「己のターンだ、ドロー」

 

 声を荒げるテュポーンに対して、烈震は激情を抑えて、カードをドローする。

 

「レスキューラビット召喚、効果発動。このカードを除外して、デッキからアレキサンドライドラゴン二体を特殊召喚する」

 

 烈震のフィールドに現れた、ゴーグル、お守り装備の兎が消え、代わりに現れたのは、アレキサンドライトの身体を持つ鉱石のドラゴンが二体。

 

「バトルだ。アレキサンドライドラゴンでダークヴルムを攻撃! さらに二体目でダイレクトアタック!」

 

 自らも震脚で一歩踏み込んで、烈震は裂帛の気合とともに攻撃を宣言した。

 瞬間、一体目のアレキサンドライドラゴンが翼を広げて飛翔。一気に急降下し、両手の爪でダークヴルムを引き裂いた。

 

「ッ! だがPモンスターであるダークヴルムは墓地じゃなく、オレのEXデッキに行く!」

「それがどうした。二体目のアレキサンドライドラゴンでダイレクトアタック!」

 

 モンスターが動く。同時に烈震も疾走開始。

 アレキサンドライドラゴンが飛翔する足元を、烈震が駆け抜け、テュポーンに肉薄。敵が「あぁ!?」と驚いているところに足払い。さらに顎に掌底。ただしこちらは敵が上体を逸らしたため躱された。

 自身の打撃が躱されたと同時に烈震はその場から離脱。入れ替わりにテュポーンの頭上からアレキサンドライドラゴンが両足の爪を剥き出しに降下。テュポーンはさらに反応し、身をのけぞらせた状態から後ろに向かって跳躍。ドラゴンの爪の一撃を掠めるだけに留めた。

 

「ぐ、糞が……!」

 

 感情がそのまま声音に乗るテュポーンは、怒りのままに罵り声を吐く。烈震は完全に無視した。

 

「バトル終了。メインフェイズ2に入り、手札から魔法カード、ライトニング・チューン発動。アレキサンドライドラゴン一体をチューナーとして扱う。

 己はレベル4のアレキサンドライドラゴンに、レベル4チューナーとなったアレキサンドライドラゴンをチューニング!」

 

 烈震の右手が天へと突きあげられる。その手が天を掴まんと握り締められた。

 同時、彼の頭上で、アレキサンドライドラゴンの一体が四つの光輪となり、その輪を潜った二体目のアレキサンドライドラゴンが、四つの白い光星となる。

 星を、光の道が貫いた。

 

「連星集結、星屑飛翔。シンクロ召喚、出でよスターダスト・ドラゴン!」

 

 光の向こうから、咆哮とともに現れたのは、人に近い骨格を持つ首長のドラゴン。

 二本の足で直立し、翼をたたみ、尻尾で地面を打ち、器用に腕を組んで烈震のフィールドに降臨した。

 

「カードを一枚伏せ、ターンエンドだ」

「待ちな! テメェのエンドフェイズに、オレは伏せていたペンデュラム・リボーンを発動! EXデッキからダークヴルムを特殊召喚! この瞬間、ダークヴルムの効果発動! デッキから覇王門無限(インフィニティ)を手札に加えるぜ!」

 

 EXデッキから現れる。再び発動したサーチ効果により、さっきとは違うモンスターがテュポーンの手札に渡った。

 これでテュポーンの手札には最低でも二枚のPモンスターが存在する。P召喚は可能だろう。

 さらに烈震は思う。

 

(覇王門……零と……無限……)

 

 名前と、それに対応するPスケールを考えると、嫌な予感しかしない。しかしもうターンを終えてしまった。このタイミングで烈震にできることはなかった。

 

「改めて、ターンエンドだ」

 

 

レスキューラビット 地属性 ☆4 獣族:効果

ATK300 DEF100

「レスキューラビット」の効果は1ターンに1度しか使用できない。このカードはデッキから特殊召喚できない。(1):フィールドのこのカードを除外して発動できる。デッキからレベル4以下の同名の通常モンスター2体を特殊召喚する。この効果で特殊召喚したモンスターはエンドフェイズに破壊される。

 

アレキサンドライドラゴン 光属性 ☆4 ドラゴン族:通常モンスター

ATK2000 DEF100

 

ライトニング・チューン:通常魔法

自分フィールド上に表側表示で存在するレベル4の光属性モンスター1体を選択して発動する。選択したモンスターはフィールド上に表側表示で存在する限りチューナーとして扱う。

 

スターダスト・ドラゴン 風属性 ☆8 ドラゴン族:シンクロ

ATK2500 DEF2000

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

(1):フィールドのカードを破壊する魔法・罠・モンスターの効果が発動した時、このカードをリリースして発動できる。その発動を無効にし破壊する。(2):このカードの(1)の効果を適用したターンのエンドフェイズに発動できる。その効果を発動するためにリリースしたこのカードを墓地から特殊召喚する。

 

ペンデュラム・リボーン:通常罠

(1):自分のエクストラデッキの表側表示のPモンスターまたは自分の墓地のPモンスター1体を選んで特殊召喚する。

 

 

烈震LP8000手札3枚

テュポーンLP8000→7800→5800手札4枚

 

 

「やってくれやがる……、オレのターンだ!」

 

 苛立ちもあらわに、テュポーンは叫ぶ。

 

「だいたい、モンスターを一緒に自分(テメェ)も飛び出すたぁイカレてやがる」

 

 吐き捨てる怪物に対して、烈震は無言で、「かかってこい」と言わんばかりに指で手招きする。

 

「カッ、やってやるよ。手札を一枚捨て、ペンデュラム・コール発動! デッキから虹彩の魔術師と白翼の魔術師を手札に加える! 虹彩の魔術師を召喚! ここでオレはダークヴルムと虹彩の魔術師でオーバーレイ! 二体のPモンスターで、オーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚!」

 

 テュポーンの頭上で、渦巻く銀河のような煌めく空間が出現。その空間に向かって、彼が召喚した二体のモンスターが紫の光になって飛び込んだ。

 虹色の爆発が起こる。

 

「覇王がお呼びだ。()くはせ参じろ反逆の牙持つ黒竜! 覇王眷竜ダーク・リベリオン!」

 

 爆発の向こうから、空気を力尽くで引き千切るような咆哮が轟いた。

 現れたのは、和輝も使っているダークリベリオン・エクシーズ・ドラゴンに酷似したモンスター。だがただでさえ禍々しかった黒竜がさらに凶悪になり、緑の色彩が入り、全身からは攻撃的なオーラが立ち昇っている。

 

「レベル4Pモンスター二体が素材の(エクシーズ)モンスターか……」

 

 トールが警戒の色を浮かべて言う。パートナーの言わんとしていることを、烈震は正確に悟っていた。

 ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴンに酷似した姿、名前をしていながら、召喚条件はオリジナルより重い。ならばその代償に――――

 

(効果はさらに強力なものになっているはず……)

 

 烈震は内心で身構えた。そんな対戦相手の心中を察したのか、テュポーンが笑う。

 

「どうやらこいつの()()()()()は知ってるみてぇだな。だったら話は早い。テメェも思っているだろうが、覇王眷竜の効果はオリジナルのそれを凌駕する! バトルだ! 覇王眷竜ダーク・リベリオンで、スターダスト・ドラゴンを攻撃!」

 

 攻撃宣言が下る。覇王眷竜が天に向かって咆哮を上げ、飛翔。体中から紫電を迸らせて、一気にスターダスト・ドラゴンに向かって突撃する。

 大気を焼く稲妻。モンスターそれ自体が力ある弾丸となって迫る。

 

「ダメージ計算時に、覇王眷竜ダーク・リベリオンの効果発動! ORU(オーバーレイユニット)を一つ使い、スターダスト・ドラゴンの攻撃力を0にし、その数値分、このカードの攻撃力をアップさせる!」

「なんだと……?」

 

 目を見張る烈震の眼前、覇王眷竜ダーク・リベリオンの全身のオーラがスターダスト・ドラゴンに絡みつき、力を吸収する。

 吸収は一瞬で終わり、スター・ドラゴンの身体から力が失われ、地面に倒れ伏してしまう。

 そのまま覇王眷竜ダーク・リベリオンがスターダスト・ドラゴンに直撃、胴体部に大穴を開け、返す動きで尻尾を首に叩きつけた。

 断末魔もなく、スター・ドラゴンは実に乱暴に首をはねられ、消滅した。

 

「があああああああああああああああ!」

「烈震!?」

 

 5000ものダメージのフィードバックが烈震を襲う。だが烈震の全身に走る痛みは、先ほどのデュエルの比ではない。ただダメージ量が多いだけかとも思ったが、そうではない。

 

「なん、だ……、この……全身から力が抜ける……倦怠感と……痺れは……!」

「ハッ! どうだよ少しは効いたか? これが闇のカードの痛みってやつよ!」

「闇のカード……、これが、か……」

 

 すでに情報共有を済ませている烈震は、当然闇のカードについての知識もある。

 デュエルで現実にダメージを与えるカード。神々の戦争では、その痛みはさらに壮絶なものとなっているという。

 

「だが、この程度で……!」

 

 烈震はふらつく膝を叱咤して、踏みとどまった。

 

「ハッ! イイゼイイゼ! そういうコンジョーロンは大好きだ! で、何かやることは?」

「勿論ある。手札の妖醒龍(ようせいりゅう)ラルバウールの効果発動! 自身を特殊召喚する!」

 

 烈震のフィールドに、尻尾の先に青白い炎を灯らせた白いドラゴンが現れる。

 小さな体だ。二枚翼でスマートな鎧のような外殻、細い首、それに反して大きな頭。口元を引き結んで、勇ましく戦場に現れた。

 

「ラルバウールのもう一つの効果発動、手札を一枚捨て、貴様の場にいる覇王眷竜ダーク・リベリオンを選択する。そしてそのモンスターと同じ属性、種族のモンスター、つまり闇属性ドラゴン族を手札に加える。己はデッキから混沌帝龍(カオス・エンペラー・ドラゴン)-終焉の使者-を手札に加える。さらに捨てたカードはエクリプス・ワイバーン。効果を発動し、デッキから破滅竜ガンドラ(クロス)を除外する」

「抜け目なさすぎるのも、神々を思い出してむかつくぜ。オラターンエンドだ!」

 

 抜け目がない。敵はそう言ったが、その評価はまだ()()

 

「待ってもらおう。貴様のエンドフェイズに、己は伏せていた異界の交渉術を発動する。これは、己の墓地のSモンスター一体を対象にし、そのモンスターをEXデッキに戻し、その攻撃力分、己のライフを回復する。己はスターダスト・ドラゴンをEXデッキに戻し、2500ライフを回復する」

 

 3000という危険域にまで下がっていた烈震のライフが、5500にまで回復する。だがそれでもまだほんの少しだけ、テュポーンの方がライフは上、フィールドの状況も考えればまだ烈震が不利だ。

 だがここで烈震はさらに言葉を紡いだ。

 

「そして、異界の交渉術にはまだ効果がある。この効果でライフが回復しても、なお相手よりもライフが低かった場合、デッキからEXデッキに戻したSモンスターと、合計レベルが同じになるよう、チューナーとチューナー以外のモンスターを二枚、手札に加えることができる。

 己のライフは5500、貴様の5800を下回るため、この効果も使用できる。己はデッキからレッド・リゾネーターと、クリスタル・ドラゴンを手札に加える」

 

 返答は荒々しい舌打ち。大ダメージが受けたがうまく()が運んだ烈震と、相棒のトールは内心でほくそ笑んだ。

 

 

ペンデュラム・コール:通常魔法

「ペンデュラム・コール」は1ターンに1枚しか発動できず、「魔術師」PモンスターのP効果を発動したターンには発動できない。(1):手札を1枚捨てて発動できる。カード名が異なる「魔術師」Pモンスター2体をデッキから手札に加える。このカードの発動後、次の相手ターン終了時まで自分のPゾーンの「魔術師」カードは効果では破壊されない。

 

虹彩の魔術師 闇属性 ☆4 魔法使い族:ペンデュラム

ATK1500 DEF1000

Pスケール8

P効果

(1):1ターンに1度、自分フィールドの魔法使い族・闇属性モンスター1体を対象として発動できる。このターンそのモンスターが相手モンスターとの戦闘で相手に与える戦闘ダメージは倍になる。その後、このカードを破壊する。

モンスター効果

このカードはルール上「ペンデュラム・ドラゴン」カードとしても扱う。(1):このカードが戦闘・効果で破壊された場合に発動できる。デッキから「ペンデュラムグラフ」カード1枚を手札に加える。

 

覇王眷竜ダーク・リベリオン 闇属性 ランク4 ドラゴン族:エクシーズ

ATK2500 DEF2000

闇属性レベル4のPモンスター×2

(1):1ターンに1度、このカードが相手モンスターと戦闘を行うダメージ計算前に、このカードのX素材を1つ取り除いて発動できる。ターン終了時まで、その相手モンスターの攻撃力を0にし、その元々の攻撃力分このカードの攻撃力をアップする。(2):自分・相手のバトルフェイズにこのカードをEXデッキに戻して発動できる。自分のEXデッキの表側表示のPモンスターの中から、「覇王眷竜」モンスターまたは「覇王門」モンスターを合計2体まで選んで守備表示で特殊召喚する。

 

妖醒龍ラルバウール 闇属性 ☆1 ドラゴン族:効果

ATK0 DEF0

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できない。(1):このカードが手札・墓地に存在し、自分フィールドのモンスターが戦闘または相手の効果で破壊された場合に発動できる。このカードを特殊召喚する。この効果で特殊召喚したこのカードは、フィールドから離れた場合に除外される。(2):このカードが特殊召喚に成功した場合、フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。自分の手札を1枚選んで捨て、対象のモンスターと同じ種族・属性でカード名が異なるモンスター1体をデッキから手札に加える。

 

エクリプス・ワイバーン 光属性 ☆4 ドラゴン族:効果

ATK1600 DEF1000

(1):このカードが墓地へ送られた場合に発動する。デッキから光属性または闇属性のドラゴン族・レベル7以上のモンスター1体を除外する。(2):墓地のこのカードが除外された場合に発動できる。このカードの(1)の効果で除外されているモンスターを手札に加える。

 

異界の交渉術:通常罠

(1):このターンに破壊された自分の墓地のSモンスター1体をEXデッキに戻し、そのモンスターの攻撃力分ライフを回復する。その後、自分のライフが相手よりも低い場合、合計レベルがEXデッキに戻したSモンスターをS召喚できるチューナーとチューナー以外のモンスター2体を、デッキから手札に加える。この効果で手札に加えたカードはこのターン、プレイできない。

 

 

覇王眷竜ダーク・リベリオンORU×1

 

 

烈震LP8000→3000→5500手札4枚

テュポーンLP5800手札4枚

 

 

「己のターンだ、ドロー!」

 

 ライフ的にも身体的にも、受けたダメージは決して軽くはない。しかし彼は二本の足で立ち、カードを一瞥、即座にデュエルディスクにセットした。

 

「壺の中の魔術書発動、互いに三枚ドロー。天輪の鐘楼を発動し、レッド・リゾネーターを召喚! 効果で終末の騎士を特殊召喚! さらに終末の騎士の効果で、デッキからバックグラウンド・ドラゴンを墓地に送る」

 

 烈震のフィールドに、炎を身に纏い、音叉を持った悪魔と、ぼろぼろのマント、傷だらけの黒い鎧に黒い髪をした戦士が現れる。

 烈震の右手が天へと掲げられる。

 

「レベル4の終末の騎士に、レベル2のレッド・リゾネーターをチューニング!

 連星集結、赤翼咆哮。シンクロ召喚。猛れ、レッド・ワイバーン!」

 

 光が差し込み、その向こうから現れる赤い身体を持つ翼竜。炎を発する翼を羽ばたかせて、一声鳴いて烈震のフィールドに降り立った。

 

「天輪の鐘楼の効果により、一枚ドロー。レッド・ワイバーン効果発動! 貴様の場にいる覇王眷竜ダーク・リベリオンを破壊する!」

 

 レッド・ワイバーンが翼を羽ばたかせて飛翔、口内から放った高濃度、高密度の炎の弾丸が覇王眷竜ダーク・リベリオンの胸板に直撃。外殻も、筋肉も貫き、内側から焼き尽くした。

 

「チ……!」

 

 不機嫌に舌打ちをするテュポーン。登場した時から感じていたことだが、最強の怪物の割にどうにも言動が感情的だ。

 あるいは、この嵐のような気象、攻撃性こそがギリシャ神話の神々さえ恐れさせた怪物の根源なのだろうか。

 

「よっし烈震! 相手の場にモンスターはいねぇ、一気に攻めるぞ!」

 

 思考はパートナーの言葉によって中断される。烈震は意識しきっをデュエルに戻した。

 

「そうだな。己はラルバウールを除外し、手札から異次元の精霊を特殊召喚する。レベル6のレッド・ワイバーンに、レベル1の異次元の精霊をチューニング。

 連星集結、色即是空。シンクロ召喚、出でよクリアウィング・シンクロ・ドラゴン!」

 

 二回目のS召喚。再び光輪、光星、光の道が出現、そして現れる新たなドラゴン。

 透き通った青い結晶のような背翼と尾翼に白と黒のストライプカラー、長い尻尾を鞭のようにしならせて、頼もしい咆哮を上げる。

 

「天輪の鐘楼の効果により、一枚ドロー。まだだ。墓地の終末の騎士とエクリプス・ワイバーンを除外し、混沌帝龍-主演の使者-を特殊召喚!」

 

 咆哮はまだ続く。

 新たに現れたのは、鎧のような外殻に全身を包み込み、兜を思わせる頭部、後頭部から首にかけて生えている髪持つドラゴン。二本の足で大地を踏みしめ、大気を震わせながら翼を広げる姿は頼もしくもあるが、同時に禍々しい。

 二体のドラゴンの合計攻撃力は5500。ダイレクトアタックが決まればテュポーンのライフは風前の灯火だ。

 

「除外されたエクリプス・ワイバーンの効果により、除外していたガンドラXを手札に加える。

 バトルだ! クリアウィング・シンクロ・ドラゴン、混沌帝龍でダイレクトアタック!」

 

 二体のドラゴンが動く。翼を広げ、飛翔するクリアウィング・シンクロ・ドラゴン、大地で上体を逸らせ、口内に炎を蓄え始めた混沌帝龍。

 二体のドラゴンを前に、テュポーンはデュエルディスクを操作した。

 

「通すかよ! リバースカードオープン! 攻撃の無敵化! 俺は戦闘ダメージ0を選択するぜ!」

 

 ドラゴンたちの攻撃は、怪物のライフにも、皮膚にも、傷一つつけられなかった。

 

「温いんだよ! その程度でオレのライフが削り切れるか!」

「だが、確実に防御の札を削っている。追い詰めてはいるだろう? カードを二枚伏せ、ターンエンドだ」

 

 

壺の中の魔術書:通常魔法

「壺の中の魔術書」は1ターンに1枚しか発動できない。(1):互いのプレイヤーはカードを3枚ドローする。

 

天輪の鐘楼:永続魔法

「天輪の鐘楼」はフィールドに1枚しか表側表示で存在できない。(1):自分または相手がS召喚に成功した場合に発動できる。そのプレイヤーはカードを1枚ドローする。

 

レッド・リゾネーター 炎属性 ☆2 悪魔族:チューナー

ATK600 DEF200

このカード名の(2)の効果は1ターンに1度しか使用できない。(1):このカードが召喚に成功した時に発動できる。手札からレベル4以下のモンスター1体を特殊召喚する。(2):このカードが特殊召喚に成功した時、フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターの攻撃力分だけ自分はLPを回復する。

 

終末の騎士 闇属性 ☆4 戦士族:効果

ATK1400 DEF1200

(1):このカードが召喚・反転召喚・特殊召喚に成功した時に発動できる。デッキから闇属性モンスター1体を墓地へ送る。

 

レッド・ワイバーン 炎属性 ☆6 ドラゴン族:シンクロ

ATK2400 DEF2000

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

(1):S召喚したこのカードがフィールドに表側表示で存在する限り1度だけ、このカードより攻撃力が高いモンスターがフィールドに存在する場合に発動できる。フィールドの攻撃力が一番高いモンスター1体を破壊する。この効果は相手ターンでも発動できる。

 

異次元の精霊 光属性 ☆1 天使族:チューナー

ATK0 DEF100

このカードは自分フィールド上に表側表示で存在するモンスター1体をゲームから除外し、手札から特殊召喚する事ができる。次のスタンバイフェイズ時、この特殊召喚をするためにゲームから除外したモンスターをフィールド上に戻す。

 

クリアウィング・シンクロ・ドラゴン 風属性 ☆7 ドラゴン族:シンクロ

ATK2500 DEF2000

チューナー+チューナー以外のモンスター1体以上

(1):1ターンに1度、このカード以外のフィールドのレベル5以上のモンスターの効果が発動した時に発動できる。その発動を無効にし破壊する。(2):1ターンに1度、フィールドのレベル5以上のモンスター1体のみを対象とするモンスターの効果が発動した時に発動できる。その発動を無効にし破壊する。(3):このカードの効果でモンスターを破壊した場合、このカードの攻撃力はターン終了時まで、このカードの効果で破壊したモンスターの元々の攻撃力分アップする。

 

混沌帝龍-終焉の使者- 闇属性 ☆8 ドラゴン族:効果

ATK3000 DEF2500

このカードは通常召喚できない。自分の墓地から光属性と闇属性のモンスターを1体ずつ除外した場合のみ特殊召喚できる。このカードの効果を発動するターン、自分は他の効果を発動できない。(1):1ターンに1度、1000LPを払って発動できる。お互いの手札・フィールドのカードを全て墓地へ送る。その後、この効果で相手の墓地へ送ったカードの数×300ダメージを相手に与える。

 

攻撃の無敵化:通常罠

バトルフェイズ時にのみ、以下の効果から1つを選択して発動できる。

●フィールド上のモンスター1体を選択して発動できる。選択したモンスターはこのバトルフェイズ中、戦闘及びカードの効果では破壊されない。

●このバトルフェイズ中、自分への戦闘ダメージは0になる。

 

 

「あーあー、やってくれるじゃねぇか」

 

 テュポーンはまっさらになった己のフィールドを見て、肩をすくめてみせる。さっきまで怒り狂っていたのと同じ存在とはとても思えない。これもまた、嵐のようだ。荒れ狂っていたかと思えば凪のようにぴらりと止まる。

 

「だがまぁいいさ。こういうことだってある。あるってもんだ。それに一回殴られるのも悪くねぇ」

「なんだと?」

「オイオイ、テュポーンってのは実はMか?」

「バカなこと言ってんじゃねぇ」

 

 空いた右手を首元に当てて、体をほぐすようにコキコキと首を鳴らすテュポーン。牙のように鋭い歯が見える笑みを浮かべて、言った。

 

「歯ごたえある敵を、こちらをぶん殴ったムカ付く野郎を、ブチ倒せるってのがサイコーにスカっとするんじゃねぇか」

 

 テュポーンの身体から、物言わぬまでも暴風のような気配が吹き荒れる。

 台風の只中に何の装備もなく放り出されたような感覚を味わう烈震。彼の眼前で、テュポーンは笑う。太々(ふてぶて)しく、荒々しく。

 

「よーやくエンジンがかかってきたんだ。もうちょっと付き合えよ」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。