神々の戦争   作:tuki21

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第99話:潜む猫

 歓声が聞こえる。咲夜と海棠のデュエルに、観客たちがわいている。

 その様子を見て、アテナは微笑ましい気持ちと、誇らしい気持ちが同居していた。

 咲夜と出会った時、彼女は――神として恥ずべきことだが――か弱く、愚かしかった自分の手を取ってくれた。

 その時の生じた感謝の気持ちは今も消えていない。

 だから、咲夜があのように人々の歓声の中にいると、我が事のように嬉しい。

 口元に浮かぶ微笑みを消しきれず、アテナは自分で頬をつねって自重した。

 

 

咲夜LP6000手札5枚

ペンデュラムゾーン赤:なし青:なし

場 E・HERO(エレメンタルヒーロー) ネビュラ・ネオス(攻撃表示)

魔法・罠 伏せ3枚

 

海棠LP5200手札2枚

ペンデュラムゾーン赤:なし青:なし

場 真紅眼の黒竜(レッドアイズ・ブラックドラゴン)(守備表示)、真紅眼の黒炎竜(レッドアイズ・ブラックフレアドラゴン)(守備表示)、真紅眼の遡刻竜(レッドアイズ・トレーサードラゴン)(守備表示)

魔法・罠 永続罠:真紅眼の鎧旋(リターン・オブ・レッドアイズ)、伏せ1枚

 

 

「アタシのターンね、ドロー」

 

 うきうき声の海棠。彼は軽やかにカードをドローし、カードを一瞥。にこりと笑い、手札に加えた。

 

「ここはこれにするわね。伏せていた鎖付き真紅眼牙発動。黒炎竜に装備させるわ。

 でもこれはすぐに捨てちゃう! 鎖付き真紅眼牙の効果発動! 装備状態のこのカードを墓地に送って、咲夜ちゃんのネビュラ・ネオスを黒炎竜に装備よ!」

「ッ! だ、ダメ! リバースカードオープン! 亜空間物質転送装置! これでネビュラ・ネオスをターンの終わりまで除外する!」

 

 翻る両者のカード。装備カードを使い、すぐに墓地に送った海棠。対して咲夜はその海棠のカードに対して、ネビュラ・ネオスを守るために罠を発動した。

 ネビュラ・ネオスの姿が一瞬で消える。瞬間、かの戦士を捉えようと迫っていたいくつもの鎖が、目標を失って虚空を抉った。

 

「あら残念。躱されちゃったわ」

 

 言葉とは裏腹に、海棠の口調は楽しげだ。純粋に、心からこのデュエルを楽しんでいる。

 それが咲夜にも伝わってくる。

 デュエルで、相手の気持ちがわかる。都市伝説のような話だが、一部のプロは知っている。そういうことはあり得るのだ。

 咲夜も、プロのリーグ戦や、それ以外で、そういった感情を理解できたことがある。相手のことが以前よりも理解できたことが。

 

(っと、いけない)

 

 今は物思いにふける時間ではない。海棠のターンなのだ、彼が何をしてくるか予想がつかない。

 

「それじゃ、作戦変更ね。黒炎竜を再度召喚。それから、アタシのモンスターを全て攻撃表示に変更。

 バトルよ! 黒炎竜でダイレクトアタック!」

 

 炎の翼を噴出させ、黒き竜が飛翔。一気に咲夜との距離を詰めてくる。

 いったん咲夜の近くまで来て、急上昇。上空から滝のような炎を降り注がせてくる。

 

「そう簡単には行かせませんよ! リバースカードオープン! 戦線復帰! これで墓地のエアーマンを守備表示で復活させる! さらにエアーマンの効果発動! デッキからE・HERO オネスティ・ネオスを手札に加えます!」

 

 翻るリバースカード。復活する、守備態勢をとったエアーマン。

 だが無意味だ。登場した次の瞬間には怒涛の炎を受けて消滅。そして、追撃が来る。

 

「真紅眼の黒竜でダイレクトアタック!」

 

 二体目の黒竜が動く。翼を広げ、首を後ろに振る。

 一瞬の溜め、放たれる黒炎の火球。咲夜が三枚目の伏せカードを翻した。

 

「攻撃の無敵化! あたしはこのターン、戦闘ダメージを0にする効果を選択します!」

 

 凌いだ。このターン、海棠のドラゴンはもう咲夜に届かない。否、()()()()()()()()()()()()()()

 

「じゃ、バトルフェイズは終了。そしてこの瞬間、黒炎竜の効果発動! 咲夜ちゃんに2400のダメージよ!」

「ッ!」

 

 攻撃を終えたはずの黒炎竜が再び炎弾を放つ。

 直撃。咲夜の身体が炎に包まれた。

 

「この、毎度毎度の2400ダメージはきついわね……!」

「それがアタシのデッキの持ち味だもの。真紅眼の鎧旋の効果発動、墓地から真紅眼の黒竜を蘇生するわ。

 これでアタシの場にいるレッドアイズモンスターは四体。この四体をリリースして、真紅眼の大黒竜(レッドアイズ・グランドドラゴン)を特殊召喚するわ!」

 

 海棠のフィールドに存在していた四体のレッドアイズが消えていく。代わりに、地響きと大気を叩く音を伴って現れる、巨大な黒い影。

 フォルムはドラゴンだ。それも真紅眼の黒竜に似ている。

 だが大きさが違う。そもそもオリジナルの真紅眼の黒竜よりも二回りは大きい。背の翼も二枚ではなく、六枚。外骨格に沿ってマグマを固めたような赤いラインが走る。真紅の瞳はより赤さを増し、深みを強めている。

 咆哮。ビリビリと“圧”がくる。

 

「これは……!」

「アタシの切り札の一つよ。真紅眼の大黒竜は、アタシの場のレッドアイズモンスターを任意の数リリースすることで特殊召喚できる。そしてこの時にリリースしたレッドアイズの数×500攻撃力がアップする。そして三体以上をリリースして特殊召喚された場合、相手のカード効果を受けないの」

「ッ! じゃあ、このエンドフェイズにあたしのネビュラ・ネオスが帰還しても……」

「除外されるのは真紅眼の鎧旋だけね。で、ここで超再生能力を発動。そしてこのままターンエンドだから、超再生能力の効果で四枚ドローね」

「……エンドフェイズに亜空間物質転送装置の効果で除外されていたネビュラ・ネオスが帰還します。そして、ネビュラ・ネオスの効果が発動します。このカードをEXデッキに戻し、その際のフィールドのカードを裏側にして除外します」

 

 ネビュラ・ネオスが咲夜のEXデッキに戻っていく。その際に置き土産とばかりに重力が歪む空間が一つ。歪みは圧倒的な吸引力でフィールドを補足。捕えられたカードたちを吸い込んでいく。

 もっとも、真紅眼の大黒竜は相手のカード効果を受けないので微動だにしない。実質、除外されたのは真紅眼の鎧旋だけだ。勿論海棠はこれを予期して、場に揃えたレッドアイズを躊躇わずにリリースしたのだが。

 

 

鎖付き真紅眼牙:通常罠

(1):自分フィールドの「レッドアイズ」モンスター1体を対象としてこのカードを発動できる。このカードを装備カード扱いとして、そのモンスターに装備する。装備モンスターは1度のバトルフェイズ中に2回までモンスターに攻撃できる。(2):装備されているこのカードを墓地へ送り、フィールドの効果モンスター1体を対象として発動できる。その効果モンスターを装備カード扱いとして、このカードを装備していたモンスターに装備する。この効果でモンスターを装備している限り、装備モンスターはそのモンスターと同じ攻撃力・守備力になる。

 

亜空間物質転送装置:通常罠

(1):自分フィールドの表側表示モンスター1体を対象として発動できる。その自分の表側表示モンスターをエンドフェイズまで除外する。

 

戦線復帰:通常罠

(1):自分の墓地のモンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターを守備表示で特殊召喚する。

 

攻撃の無敵化:通常罠

バトルフェイズ時にのみ、以下の効果から1つを選択して発動できる。

●フィールド上のモンスター1体を選択して発動できる。選択したモンスターはこのバトルフェイズ中、戦闘及びカードの効果では破壊されない。

●このバトルフェイズ中、自分への戦闘ダメージは0になる。

 

真紅眼の大黒竜 闇属性 ☆9 ドラゴン族:効果

ATK2400 DEF2000

このカードは通常召喚できない。自分フィールドの「レッドアイズ」モンスターを任意の数リリースして手札から特殊召喚できる。(1):このカードの攻撃力はリリースした「レッドアイズ」モンスターの数×500アップする。(2):このカードの特殊召喚のためにリリースした「レッドアイズ」モンスターの数だけ、以下の効果を発動する。

2体以上:このカードが戦闘で相手モンスターを破壊した時に発動する。相手に2400ポイントのダメージを与える。

3体以上:このカードは相手のカード効果を受けない。

(3):???

 

超再生能力:速攻魔法

(1):このカードを発動したターンのエンドフェイズに、このターン自分の手札から捨てられたドラゴン族モンスター、及びこのターン自分の手札・フィールドからリリースされたドラゴン族モンスターの数だけ、自分はデッキからドローする。

 

 

真紅眼の大黒竜攻撃力2400→4400

 

 

咲夜LP6000→3600手札6枚

海棠LP5200手札6枚

 

 

「あたしのターン!」

 

 ドローカードを確認後、すぐさま動く。今の咲夜の頭の中には、すでにこのターンに取るべき行動が見えていた。

 

「あたしは、スケール2のA・N(アナザー・ネオスペーシアン)・オーシャン・ホエールと、スケール8のA・N・バーニング・バタフライを、ペンデュラムゾーンにセッティング!」

 

 咲夜の両脇に、青白く光る円柱が屹立する。円柱の中にはアクア・ドルフィンをさらに筋骨隆々の逞しい体系にし、頭部を鯨に変えたような魚人型モンスター――オーシャン・ホエール――と、黄色とオレンジの配色と、放漫な胸、くびれた腰、突き出た尻という、メリハリの利いたボディラインを持ち、炎でできた蝶の羽根を広げた、凛とした表情の、情熱的な女性型虫モンスター――バーニング・バタフライ――が収納され、それぞれのPスケール、2と8が表示された。

 

「これであたしは、レベル3から7のモンスターを同時に召喚できる!

 おいで、あたしの仲間たち! 手札からE・HERO ネオスと、E・HERO ブレイズマンを特殊召喚!」

 

 咲夜の頭上、異界への門が出現し、それが開かれる。二つの光が流星のように咲夜のフィールドに降り立つ。

 光はそれぞれのHEROの姿を取った。

 

「この瞬間、ブレイズマンの効果で、融合をサーチします。さらにオーシャン・ホエールの(ペンデュラム)効果発動! 墓地のアクアドルフィンを効果を無効にした状態で特殊召喚!

 そして、ここで融合発動! あたしの場にいるネオスとアクアドルフィンを融合!」

 

 何かを迎え入れるように、両手を広げる咲夜。

 

「異星の戦士よ、新たな異能をその身に取り込み、勇気を武器とする勇者への道を駆けろ! 融合召喚、来て、E・HERO ブレイヴ・ネオス!」

 

 光が満ちて、その向こうから新たな影が現れる。

 影はE・HERO ネオスによく似ていた。だがフォルムはよりマッシブになり、肘には刃のような突起、肩は土星の輪のようなカーブを描くアーマーが装着され、全身から漲る闘志は目を見張るものがある。

 

「ブレイヴ・ネオスはあたしの墓地のN、またはHEROモンスターの数×100、攻撃力をアップさせる。あたしの墓地で条件に合致するカードは全部で四体だから、攻撃力は400アップ! さらに、バーニング・バタフライのP効果発動! ネオス融合体であるブレイヴ・ネオスの攻撃力を800アップ!

 バトル! ブレイヴ・ネオスで真紅眼の大黒竜を攻撃!」

 

 攻撃力がアップしたとしても、今だブレイヴ・ネオスの攻撃力は3700、真紅眼の大黒竜には及ばない。

 だが咲夜に躊躇はない。そして海棠はあちゃーと言って頭を抱えている。何しろ海棠も、先のターンに咲夜が何を手札に加えたか知っているのだ。

 

「ここで! 手札からE・HERO オネスティ・ネオスの効果発動! このカードを墓地に送って、ブレイヴ・ネオスの攻撃力を2500アップさせる!」

「ッ! やっぱりね……」

 

 ブレイヴ・ネオスの背中から、純白の翼が広がった。翼は大きく広がり、ブレイヴ・ネオスの体躯よりも大きくなる。

 光輝くブレイヴ・ネオスが両手を広げると、その形で光線が放たれる。その一撃を受けて、真紅眼の大黒竜の身体がボロボロと崩れていった。

 

「あらら……。一応、あれはアタシの切り札なんだけどねぇ……」

「ブレイヴ・ネオスとオネスティ・ネオスだって、あたしの隠し玉ですよ。そして相手モンスターを戦闘破壊したこの瞬間、ブレイヴ・ネオスの効果発動! デッキからネオス・フュージョンを手札に加えます」

「けど、アタシの切り札だってただでは死なないわ。真紅眼の大黒竜の効果発動! このカードがフィールドを離れた時、アタシの墓地からレッドアイズモンスター一体を召喚条件を無視して特殊召喚できる! アタシは墓地から真紅眼の黒竜を復活させるわ!」

 

 復活する漆黒のドラゴン。その攻撃力にも守備力にも、咲夜に場に残った戦力であるブレイズマンは及ばない。

 

「これじゃあ攻撃できないわね。バトルを終了。カードを一枚伏せて、ターン終了です」

 

 

A・N・オーシャン・ホエール 水属性 ☆4 戦士族:ペンデュラム

ATK1300 DEF1500

Pスケール:赤2/青2

P効果

(1):自分フィールドの「E・HEROネオス」が融合素材となっているモンスターが自身の効果によってデッキに戻る場合、代わりにこのカードを破壊できる。(2):1ターンに1度、自分の墓地の「N」モンスター1体を対象に発動できる。そのモンスターを効果を無効にした状態で特殊召喚する。

モンスター効果

(1):自分モンスターゾーンのこのカードをリリースして発動できる。手札、デッキ、墓地から「N・アクア・ドルフィン」1体を特殊召喚する。(2):自分フィールドの「E・HEROネオス」が融合素材となっているモンスターが自身の効果によってデッキに戻る場合、代わりにこのカードを破壊できる。

 

A・N バーニング・バタフライ 炎属性 ☆5 昆虫族:ペンデュラム

ATK500 DEF500

Pスケール:赤8/青8

P効果

(1):自分フィールドの「E・HEROネオス」が融合素材となっているモンスターが自身の効果によってデッキに戻る場合、代わりにこのカードを破壊できる。(2):1ターンに1度、自分フィールドの「E・HERO ネオス」または「E・HERO ネオス」を融合素材とするモンスター1体を対象に発動できる。そのモンスターの攻撃力を800ポイントアップする。(3):自分フィールドに「N」または「E・HERO」以外のモンスターが存在する場合、このカードのPスケールは4となる。

モンスター効果

(1):自分モンスターゾーンのこのカードをリリースして発動できる。手札、デッキ、墓地から「N・フレア・スカラベ」1体を特殊召喚する。(2):自分フィールドの「E・HEROネオス」が融合素材となっているモンスターが自身の効果によってデッキに戻る場合、代わりにこのカードを破壊できる。

 

E・HERO ブレイズマン 炎属性 ☆4 戦士族:効果

ATK1200 DEF1800

「E・HERO ブレイズマン」の(1)(2)の効果は1ターンに1度、いずれか1つしか使用できない。(1):このカードが召喚・特殊召喚に成功した場合に発動できる。デッキから「融合」1枚を手札に加える。(2):自分メインフェイズに発動できる。デッキから「E・HERO ブレイズマン」以外の「E・HERO」モンスター1体を墓地へ送る。このカードはターン終了時まで、この効果で墓地へ送ったモンスターと同じ属性・攻撃力・守備力になる。この効果の発動後、ターン終了時まで自分は融合モンスターしか特殊召喚できない。

 

融合:通常魔法

(1):自分の手札・フィールドから、融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、その融合モンスター1体をエクストラデッキから融合召喚する。

 

E・HERO ブレイヴ・ネオス 光属性 ☆7 戦士族:融合

ATK2500 DEF2000

「E・HERO ネオス」+レベル4以下の効果モンスター

このカードは融合召喚でしか特殊召喚できない。(1):このカードの攻撃力は自分の墓地の「N」モンスター及び「HERO」モンスターの数×100アップする。(2):このカードが戦闘で相手モンスターを破壊した時に発動できる。「E・HERO ネオス」のカード名が記された魔法・罠カード1枚をデッキから手札に加える。

 

E・HERO オネスティ・ネオス 光属性 ☆7 戦士族:効果

ATK2500 DEF2000

このカード名の(1)(2)の効果はそれぞれ1ターンに1度しか使用できず、相手ターンでも発動できる。(1):このカードを手札から捨て、フィールドの「HERO」モンスター1体を対象として発動できる。そのモンスターの攻撃力はターン終了時まで2500アップする。(2):手札から「HERO」モンスター1体を捨てて発動できる。このカードの攻撃力はターン終了時まで、捨てたモンスターの攻撃力分アップする。

 

真紅眼の大黒竜 闇属性 ☆9 ドラゴン族:効果

ATK2400 DEF2000

このカードは通常召喚できない。自分フィールドの「レッドアイズ」モンスターを任意の数リリースして手札から特殊召喚できる。(1):このカードの攻撃力はリリースした「レッドアイズ」モンスターの数×500アップする。(2):このカードの特殊召喚のためにリリースした「レッドアイズ」モンスターの数だけ、以下の効果を発動する。

2体以上:このカードが戦闘で相手モンスターを破壊した時に発動する。相手に2400ポイントのダメージを与える。

3体以上:このカードは相手のカード効果を受けない。

(3):このカードがフィールドを離れた場合に自分の墓地の「レッドアイズ」モンスター1体を対象に発動する。そのモンスターを召喚条件を無視して特殊召喚する。

 

 

咲夜LP3600手札2枚

海棠LP5200→3300手札6枚

 

 

「切り札も保たない時代って、世知辛いわね……。ま、気を取り直して、アタシのターン!」

 

 ドローカードを見て、海棠は「アラ」と笑みを浮かべた。

 

「いいカードがここぞって時にきてくれたわ。二枚目の黒炎弾発動! 咲夜ちゃんに2400のダメージ!」

「ッ!」

 

 海棠のフィールドに残った真紅眼の黒竜が、バトルフェイズに入っていないにもかかわらず口を開く。

 喉奥が赤い。体色ではない。炎だ。咲夜がそう気づいた時にはすでに攻撃は放たれていた。

 咲夜の身体が炎に包まれる。顔をしかめる咲夜。ギャラリーが不安げな息を吐く。立体映像だと分かっていても心配になるクォリティだった。

 それに今のでライフはついに1200だ。いよいよ後がないなと、アテナは思った。

 

「ここで! アタシは真紅眼の黒竜をリリース! 来なさいアタシの切り札その2! 真紅眼の闇竜(レッドアイズ・ダークネスドラゴン)!」

 

 真紅眼の黒竜の姿が消える。

 代わりに現れたのは、黒竜をさらに禍々しくしたドラゴン。

 腕はなくなり、両翼がより大きくなる。随所に赤いラインが走り、翼の付け根には赤い宝玉のような器官。さらに体色も黒曜石のような漆黒ではなく、闇を思わせる紫が混ざる。

 咆哮が轟き空気を震わせ、さらにそれを聞いた人の心も戦慄に染め上げる。

 

「真紅眼の闇竜は、アタシの墓地のドラゴン族一体につき、攻撃力を300アップさせるわ。アタシの墓地のドラゴン族は全部で八体。つまり攻撃力は2400アップして、4800になるわけね」

 

 攻撃力4800。テクニカルに動くのではなく、ここにきて圧倒的な火力で圧し潰しに来た。

 咲夜が歯噛みする眼前、海棠がだめ押しとばかりにカードを繰り出した。

 

「二枚目の伝説の黒石(ブラック・オブ・レジェンド)を召喚して、効果発動! この子をリリースして、デッキから二枚目の真紅眼の黒炎竜を特殊召喚するわ」

「く……!」

 

 一転。追い詰められる形になった咲夜。だが彼女は諦めない。受けて立つとばかりに、海棠の布陣を見据えた。

 

「いいわ、咲夜ちゃん。そういう目ができる子ってのは貴重よ。何しろ、素敵な思いを胸に秘めているから」

「え?」

「なくしたくないもの。守りたいもの。そういうものが胸の中心にある子ってことよ。

 じゃあバトル! 真紅眼の闇竜でブレイヴ・ネオスを攻撃!」

 

 攻撃宣言が下る。闇竜の口から高濃度の闇と炎が溢れ出す。

 闇色の炎は瞬く間に膨張し、一気に放たれた。

 さながら闇色の津波。炎の群ともいうべき悪夢的光景を前に、それでもブレイヴ・ネオスは果敢にも立ち向かった。

 飛翔し、全身を白く輝かせながらの突貫。だがそれさえ無意味。

 炎に飲まれたブレイヴ・ネオスはそれでも闇竜めがけて飛翔するが、やがて力尽き、砕け散るように消滅した。断末魔の声はなかった。

 

「くぅ!」

 

 1000ポイントのダメージ。これで咲夜のライフは残り200。ちょっとしたバーンダメージで終わる。

 

「これで終わりかしら? 黒炎竜でブレイズマンを攻撃!」

 

 追撃が来る。炎の翼を現出させていないドラゴンが放った炎の息吹(ブレス)。受ければライフは尽きる。咲夜は慌てずにデュエルディスクのボタンを押した。

 

「リバースカードオープン! ガード・ブロック! 戦闘ダメージを0にして、カードを一枚ドロー!」

 

 凌いだ。観客たちから安堵の息が漏れる。こういう時、観客を味方にできる咲夜は良いプロデュエリストになるわねと、海棠は思った。

 

「アラ残念。じゃ、アタシはこれでターンエンドよ」

 

 

真紅眼の闇竜 闇属性 ☆9 ドラゴン族:効果

ATK2400 DEF2000

このカードは通常召喚できない。自分フィールド上に存在する「真紅眼の黒竜」1体をリリースした場合のみ特殊召喚する事ができる。このカードの攻撃力は、自分の墓地に存在するドラゴン族モンスター1体につき300ポイントアップする。

 

ガード・ブロック:通常罠

相手ターンの戦闘ダメージ計算時に発動する事ができる。その戦闘によって発生する自分への戦闘ダメージは0になり、自分のデッキからカードを1枚ドローする。

 

 

真紅眼の闇竜攻撃力2400→4800

 

 

咲夜LP3600→1200→200手札3枚

海棠LP3400手札4枚

 

 

「あたしのターン、ドロー!」

 

 いつの間にか、ギャラリーは静まり返っていた。

 皆固唾をのんで咲夜の一挙手一投足を見守っている。

 彼らも気づいているのかもしれない。このデュエルの決着がこのターンで訪れると。

 このターン、凌げば海棠が勝利する。逆に攻めきれれば、咲夜が勝利する。

 観客たちもジェネックス杯に参加している以上、いっぱしのデュエリストだ。場の空気で、それを察してもおかしくない。

 そしてデュエリストならぬアテナもまた、戦の女神としての嗅覚で、事実上の決着はこのターンだろうと察知していた。

 沈黙が、咲夜と海棠、両方を支配する。

 だがそれは重苦しいもではなかった。咲夜も海棠も、口元に微笑を浮かべていた。含むもののない、爽やかな笑いだった。

 やがて、咲夜が「よし」と言った。

 

「行きます! あたしは貪欲な壺を発動! 墓地のエアー・ネオス、ブレイヴ・ネオス、フレア・ネオス、オネスティ・ネオス、ネオスをデッキに戻して、二枚ドロー!」

 

 海棠の目が細められる。彼は先程のターンに、咲夜が手札に加えたカードを覚えていた。

 ネオス・フュージョン。一枚でネオス融合体を召喚できるカード。わざわざ墓地のE・HERO ネオスをデッキに戻したことから、使うことは察せられる。

 

(召喚するのは、あの子ね……。エアー・ネオス)

 

 貪欲な壺はドロー目的ではない。デッキに戻す効果を使い、エアー・ネオスをEXデッキに戻したかった。

 

(あの目は、もうこの決着の算段を付けたものだわ)

 

 ならばそれでもいい。彼女の目は凛としていて、迷いや不安を振り切ったものだった。

 ああ、素晴らしい。若者の成長の、何と素晴らしいことか。彼ら彼女らは、こんな短時間で迷いを超えて先に進む。

 

(なかなか進めない、アタシとは違うわね)

「ネオス・フュージョン発動! デッキからE・HERO ネオスとN・エア・ハミングバードを墓地に送り、もう一度来なさい! E・HERO エアー・ネオス!」

 

 現れたのは、このデュエルで最初に咲夜が繰り出して生きた融合モンスター。赤い身体を青空の下に翻して、咲夜のフィールドに降り立った。

 

「アサルト・アーマーをエアー・ネオスに装備して、効果発動! 装備状態のアサルト・アーマー(このカード)を墓地に送って、このターン、エアー・ネオスは二回攻撃ができる!」

 

 観客がフィナーレの予感に盛り上がる。海棠の場に伏せカードはない。ここで手札誘発のカードがなければ、咲夜の攻撃で終わりだ。

 

「あたしと海藤さんのライフ差は3200! よってエアー・ネオスの攻撃力は3200アップ! バトル! エアー・ネオスで闇竜と黒炎竜を攻撃!」

 

 攻撃宣言が下る。エアー・ネオスが翼を大きく幅叩かせて飛翔。滞空しながらも羽ばたきはやめない。

 やがて、羽ばたきに合わせて羽根の弾丸が嵐のように海棠のフィールドに降り注ぐ。

 弾丸のシャワーが二体のドラゴンに降り注ぎ、羽根を、爪を、胸を頭部を。根こそぎ貫いた。

 

「おめでとう、咲夜ちゃん。アナタの勝ちよ」

 

 にこりと微笑む海棠。その瞬間、彼のライフが0になった。

 

 

貪欲な壺:通常魔法

(1):自分の墓地のモンスター5体を対象として発動できる。そのモンスター5体をデッキに加えてシャッフルする。その後、自分はデッキから2枚ドローする。

 

ネオス・フュージョン:通常魔法

(1):自分の手札・デッキ・フィールドから、融合モンスターカードによって決められた融合素材モンスターを墓地へ送り、「E・HERO ネオス」を含むモンスター2体のみを素材とするその融合モンスター1体を召喚条件を無視してEXデッキから特殊召喚する。このカードの発動後、ターン終了時まで自分はモンスターを特殊召喚できない。(2):「E・HERO ネオス」を融合素材とする自分フィールドの融合モンスターが戦闘・効果で破壊される場合、または自身の効果でEXデッキに戻る場合、代わりに墓地のこのカードを除外できる。

 

アサルト・アーマー:装備魔法

自分フィールド上に存在するモンスターが戦士族モンスター1体のみの場合、そのモンスターに装備する事ができる。装備モンスターの攻撃力は300ポイントアップする。装備されているこのカードを墓地へ送る事で、このターン装備モンスターは1度のバトルフェイズ中に2回攻撃する事ができる。

 

 

海棠LP0

 

 

 割れんばかりの拍手と歓声を浴びながら、咲夜は己の右手を見た。獲得した2800DPも気にならない。

 何もかもが吹っ切れた気がする。

 

「おめでとう、咲夜ちゃん」

 

 海棠が微笑みながら手を差し出してきた。咲夜は何の警戒も臆するものもなく、その手を握った。

 

「なんだかすっきりしたみたいね。だったら、デュエルをした甲斐があったわ」

「はい。ありがとうございます、海棠さん。色々考えたり悩んだり、不安になっていたんですけど、負けるもんかって気持ちになれました」

「ならよかった。じゃ、ジェネックス杯、頑張って」

 

 ひらひらと手を振って、海棠が去っていく。咲夜は握手した手を握り締め、天に突き出した。

 勝利のパフォーマンスかと、観客が興奮する。咲夜は吹っ切れた笑みを浮かべて、改めて心の中に()()()()()()という誓いを立てた。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 歓声がまだ続いている。咲夜ちゃんは、きっと華のある、いいプロになるわね。そんな、蕾が美しい花を咲かせるのを楽しみにするような感慨を海棠は抱いた。

 

「負けたのに、随分満足そうね」

 

 そんな海棠にかけられる声。だが彼の周囲に人影はいない。

 ならば近くの角か路地裏かと思えば、そこにも人影はない。

 

「そりゃあ満足よぅ。だって、若い子は応援したくなるじゃない?」

 

 そして海棠は、自分にかけられた声を訝しむことなく、平然と答えを返した。

 

「それが、アナタが勝ちを譲った理由?」

「譲ったつもりはないわよ」

 

 苦笑して振り返る海棠。やはりそこには誰もいない。

 ただし、人は、だ。

 視線を下に向ければ、そこに影が一つ。

 猫だった。 

 気品漂う、美しい赤い毛並みに、右が金、左が銀のオッドアイ。

 ミステリアスな雰囲気漂う猫に、海棠は語り掛ける。

 

「アタシは手を抜いたつもりなんてないわ。あの瞬間、確かに咲夜ちゃんはアタシより強かったわ」

「けど、次やればわからない。でしょう?」

 

 ()()()()()()()()。この時点で普通の猫ではありえない。

 猫がぴょんと跳ね、海棠の肩に捕まった。その額を撫でられるに任せて、猫は告げた。

 

「だって、アナタ、EXデッキのカード、使わなかったじゃない」

「ま、そういうこともあるわよ」

 

 にこりと笑う海棠。それから猫の顎を撫でる。

 

「それに、分かってるでしょ、バステト。アタシの目的は咲夜ちゃんたちを倒すことじゃないって」

「見極めること。そんなことは分かっているわ。だからワタシはわざわざ神の気配を隠したんだし」

「そ。だから目的は達成したわ。だけど」

 

 海棠は振り返る。視線の先には何もない。だがそのさらに先に、まだ咲夜はいるだろう。咲夜を通して、彼女の仲間たちを幻視する。

 

「すべてはこの戦いを乗り越えてからね」

 

 ジェネックス杯二日目はまだ始まったばかり。どのような波乱が起こるのか、神さえもわからない。

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