当方小五ロリ   作:真暇 日間

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 まったりタイム(いちゃつかないとは言っていない)


【一話遅れ】さとりとこころのまったりタイム【百話記念短編】

 

 能楽に使う面の手入れとは、これが意外にもかなり時間がかかる。なにしろ本格的なものはかなり古いことが多く、いくら滑らかに作ろうとしてもそれには限度があるからだ。

 元々の材質を塗り隠すために使われた塗料。その汚れを綺麗にするなら頻回の手入れが必要となるし、一度手酷く汚れてしまうとその汚れを落とすのにはかなり苦労することになる。

 だからこそ、こうした手入れは重要なのだ。

 

「わかった?」

「……わかったけど……何で耳掻き?」

「? 綺麗にしてあげようかと。耳の中は基本的に自分じゃ見えないですしね。八雲紫あたりならスキマ越しに見ることもできそうですが」

 

 そう言いながら私は自分の膝の上にあるこころの頭を軽く押さえる。手に持つのは綿棒と耳掻き棒(新品)。これらを使ってこころの耳を綺麗にするのだ。

 まずは外側。意外にもここにも色々溜まったりするのだ。それを綺麗にするには、しっかりとした下準備が必要。私はオリーブオイルに花を漬け込んで香り付けしたものを少量手に垂らし、軽く暖めてからこころの耳に触れる。軽い水音と共に柔らかくて少しだけ暖かいこころの耳の感触は、少しだけ満足感を与えてくれる。

 そのままにゅりにゅりと耳を優しく擦り上げると、少し緊張していたこころの身体から力が抜けていくのがわかる。元々吸い付くような柔らかなこころの肌は、今では油に濡れて更に手触りが良くなっている。もちもちとした手触りに、暖かな体温。油によってぴったりと張り付いた手と肌が離れる音は聞いていてとても気持ちがいい。

 しっかりと油に濡れた耳を覗き込むと、僅かにこびりついていた埃などが油によって固められて一ヵ所に纏まっていた。それを用意していた綿棒で擦り取ると、突然強くなった刺激にかこころの口から微かな喘ぎ声が零れた。

 既にかなりリラックスしているこころはあまり大きな声をあげたりはしないけれど、代わりに小さな声が途切れ途切れに続いている。それは綿棒が耳介を擦るのが強くなったり、面積が広くなったときに強くなっていることを考えれば……気持ちがいいのだろうと言う予測をたてられる。このまま力を強くしたり弱くしたりすることもなく続けていくことにした。

 そしてしばらく続けると、こころの耳介から汚れの塊はなくなり、あとは耳の中にある分だけになった。そこで私は綿棒から耳掻き棒に持ち変えて、かりかりと耳の内側を優しく掻いてやる。こころはぼんやりと意識に靄をかけたままにその感覚を受け入れ、ぴくぴくと身体を震わせようとしていた。

 けれど耳の中に耳掻き棒を入れている間に動かれると危険極まりないのでまた軽く頭を押さえて、ついでに耳たぶ辺りを優しく優しくふにふにしてこちらも楽しむ。無表情なままのこころだけれど、それでもその目には感情が出る。だからこそ、今のこころは頭の中まで蕩けに蕩けて何も考えられない状態にある事がわかる。能力を使って心を読むまでもなくわかる。

 

「……」

 

 あ、ぼーっとしすぎてこころの口から涎が。けれど大丈夫、お空に耳掃除をしてあげているとそんなのはいつものこととして起きるから、それ用のハンカチを用意してある。そのハンカチを使ってこころの口許を綺麗にして、それから耳掃除を再開する。

 ……しかし、元が道具の妖怪と言うことだけあってほとんど汚れが存在しない。基本的に食事を必要としない妖怪は汗などをかいてもそれは妖力の塊であり、人間に似せて作った身体の調子を整えるものでしかない。そのため汗は全て妖気に還元されて空気中に解けて消えるか、本人にまた妖気として吸収される。熱を持ちすぎるのは妖怪であろうと辛く、人間をはじめとする動物の生態を真似してできた汗と言うものは形だけを真似て機能がついていればそれでいい程度のものだったりする。

 ちなみに私のような覚妖怪は、根っこにあるのが猿の変化であるため食事や排泄を必要とするし、汗だって人間と変わらないものをかく。妖気は混じっているから普通の人間のものよりいくらか効果は高いが、普通にべたつくし身体も汚れる。お空やお燐も同じで、元が生物の妖怪は普通に生体機能がある。

 元が器物の妖怪でもある程度長く存在していればその身体は人間のそれに近付くそうだが……こころの場合は1500年近く存在しているはずだと言うのにまだ人間らしくない部分がいくらか存在する。

 恐らく、人間と接してきた時間が非常に短かったからこそそんなことになってしまったのだろう。生まれてから何年接してきたのかはわからないけれど、恐らくその生の殆んどを孤独に過ごしてきたのだろう。

 その結果として人間性の獲得に不備が出て表情を作ることができなくなり、感情を司る面霊気であるにもかかわらず自身の感情と他人の感情の境界が曖昧になり……そこを私のような悪い大人に捕まってしまったと言うことですかね。自分で自分のことを悪い大人だなどと言うのもどうかとは思いますが、その表現が一番正しいと思いますしね。地霊殿における最年長って私ですし。

 

 ……よし、これで左耳はおしまい、と。まずはマッサージ用のオイルをきれいに拭き取って、それから涎も拭いて……

 

「……ふぁ?」

「あら、起きちゃった?」

「……あ、そうだ、耳かきしてもらって……その布は?」

「あなたの涎拭き。お空もよく耳掃除の途中で寝ちゃって涎を溢すのよ」

 

 私がそう言うと、こころの顔は少しだけ赤くなった。どうやらかなり恥ずかしがっている様子だけれど、まだまだ耳掃除は終わらない。

 

「はい、それじゃあ次は逆の耳ね」

「……!」

 

 くるんと上下をひっくり返す。すると今まで前を向いていた頭は私のお腹の方を向くことになり、こころの視界は殆どが影の中に入ってしまう。けれど私の匂いは凄くよく分かってしまい、心臓の鼓動が痛いくらいに激しくなってしまった……らしい。

 ちなみに、心臓の音は聞こえていないから安心して大丈夫。鼓動が激しくなりすぎて耳まで少し動いてしまっている気がするっていうのも、気のせいだから問題ない。こころ自身にそう伝えたらきっとまた顔を隠してしまうし、こうして少しずつ耳の赤みが増していくこころの耳をぬるぬるにして揉んであげるのも結構楽しかったりするから、本人には言わないけれどね。少なくともこれが終わるまでは。

 

 ああまったく、こころは本当に可愛いと思う。表情はほぼ全く動かず、しかし内面ではそこらの人間よりもよほど感情がよく動く。面霊気、と言う種族らしいといえばそうなのだろう。

 加えてその声と瞳。顔は動くことがない分、その二つはとてもよく感情を表している。悲しくなればその瞳は潤むし、楽しくなれば声が弾む。私が覚という妖怪でなかったとしても、それは十分に理解できることだ。

 もちろん、こいしやフランが可愛くないと言うことではない。こいしもフランも魅力的な所は多々あるし大好きだが、今はこころの魅力的なところを挙げているというだけの話だ。

 私は普段あまり語らない分、一度語り始めると長いといわれる。実際に長いかどうかはわからないが、とりあえずこいしの可愛い所ならば立て板に水を流すくらいの勢いで二時間から三時間くらいは語り続けることができるだろう。同じ話を何度か繰り返すかもしれないが、その辺りは妹可愛し姉心と言うことで大目に見てほしい。実際可愛いのだ。

 ……そうそう、それと一つだけ、こころは私に隠し事がある。どうやらこころは私のことが大好きすぎて、前に一度私が眠っている時にこっそりと部屋に忍び込んで私に口付けをしようとして恥ずかしさのあまり失敗し、顔を真っ赤にしつつ逃げだしていったことがあるそうだ。こころ自身は秘密にしているそうだけれど、こいしに連れられてフランも同じようなことをやっているから恥ずかしがるようなことはない。お空など普通に起きている時に唇にキスしていくこともあるし。

 

 ……秘密、秘密。秘密は多いほど面白い。

 私はクスリと笑って、油で湿らせた手をこころの耳に近付けていった。

 


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