当方小五ロリ   作:真暇 日間

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39 私はこうして先を想う

 

 食事を終わらせ、食休みにみんなでまったりとしている。時間はあるし、地霊殿に来ようとしているお客さんもいないし、地底は昨日の私と勇儀さんの喧嘩で盛り上がっていて事件を起こそうとしている者はそう多くない。勇儀さんは勇儀さんで私と約束した通りに力仕事としてあの場の修復……全面岩石になってしまった大地を力技で土……とまではいかないけれど砂にまで粉砕している最中。あれが終われば少しずつ自然の方から浸食させて元通りの綺麗な自然に戻すことができる。何年かかるかはわかりませんが、あの岩石の下には変わることなく大地が広がっている。私が出した神の火と硫黄は表面しか焼かないように……正確には私が想起し再現した範囲しか焼かないようにしてあった。だからこそ表面が岩石となるだけで済んだともいえる。

 ……まあ、いつの日にかまたあそこに自然が満ちたら、そこに皆を連れて散歩に行くのも面白いかもしれませんね。地底には陽光も届かなければしっかりとした見所もない。けれど、暮らしてみればなかなかに楽しむことができる場所であることも間違いないですから。

 きっとフランも気に入ってくれると―――と、いけない。そういえばフランは家出してきたんだった。この件については早めに決着をつけなければいけないだろう。

 それに───フランの中にあるこれも、何とかしておいた方がいい。

 けれど、フランの狂気の根源はその能力。能力を封印するなり消すなりして使えなくなれば狂気は能力からのバックアップを受けることができなくなって少しずつ薄れ、消えていくだろう。その間に能力の影響を受けても問題ないだけの精神を組み上げることができれば……フランは精神を病むことなくまた能力を使うことができるようになるだろう。

 狂気そのものの封印は、その裏に『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』がある以上現実的ではない。外から封印を破壊されてあっという間に解放されてしまう未来が見える。

 私がやるとしたら、狂気だけを一度完全に切り離して正体不明や尼入道にやったように少しずつ受け入れさせていくか、あるいは狂気の部分だけを私に取り込んで浄化して戻す。片方は面倒だが後々の憂いが殆どなくなり、もう片方は一回で終わるが失敗した時が怖い。フランの狂気の部分を吸い取るときには代わりに私の一部を送らなければならないのだが、送る場所を間違えて彼の神格の記憶などを送ってしまったらそれこそ取り返しがつかなくなってしまう。狂気神話とは単体でも相当に恐ろしい神話の塊なのだ。

 流石に断片でどうにかなってしまうことはないと思いたいが、しかしどうにかなってしまう可能性があるというだけで十分に考える理由となる。付き合いは長くないとはいえ、妹分を壊してしまうのは嫌だ。

 

 ……もしもフランの意思がもう少し成長していれば。あるいはしっかりと目指す場所が決まっているのならば、白蓮和尚にやったように狂気との直接対決で狂気を支配下に置かせることもできたのだろうが、今のフランにそれは荷が重すぎる。狂気の方から読んだ記憶が正しいのならばフランの狂気は相当えげつない趣味をしていることがわかるし、そもそも暴走を我慢するという回路が出来上がっていない。このままでは暴走した時が大変だろうし、部屋に閉じ込めたままにしておくというのも手の一つではあるが根本的な解決にはなっていない上に狂気から覚めたフランに自分の行った結果をまざまざと見せつけるというのはあまり良いことではないだろう。

 このまま続けていったとすると、おそらくいつの日にか成長していくフランの能力に対応しきれなくなった結界が壊され、フランは外に出て狂気のままに辺りを壊して回るだろう。自分の部屋のものが自分の手で壊されていくのを見続け、さらにどれだけ壊されても後から後から新しいものが供給されて来れば、自分が壊せるものに変わりが無い物なんて無い、という思考から破壊に対する忌避感が薄れてしまうかもしれない。それは良くない。とても良くない。

 もしも部屋に閉じ込めるなら、もっと頻繁にフランに会いに行くべきだった。恐らくだが、永遠に赤い幼き月はその能力、運命を操る程度の能力を使えばフランの能力をほぼ無効化できるはずなのだ。なにしろフランと彼女の能力はどちらも運命に介入することで結果を出す能力なのだから。

 

 永遠に赤い幼き月の能力は、運命を操る。すでにそこにある運命を弄ることができるわけだが、こういった能力の場合はしっかりと鍛え上げれば運命の無いもの……この世界に存在するもので運命に縛られていないものは恐らく滅び終わったものや存在が永遠となっているものくらいしか無いだろうが、とにかく存在しない運命を作り上げることもできるようになるはずなのだ。

 そしてフランの能力である『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』は、対象の運命を手元に引き寄せて球体にして、握り潰すことでその時点よりも先の運命を消滅させる。そうすると、運命の無くなった物として一番に考えられることは『滅び終わること』。つまり、ありとあらゆる物の存在は破壊され、滅ぶ。

 だが、ここで永遠に赤い幼き月がその運命に干渉し、その運命を破壊できないほどに強化したり、破壊された瞬間に消滅しそうになった運命の断端からもう一度運命を織り上げることができればそこにある物はそれまでと変わらず存在し続けることができる。

 流石に何もないところから運命を作り上げることは非常に難しいだろうが、大本になるものが少しでもあればそれを基にしてどうとでもなる。

 

 時を操るメイドに、運命を操る吸血鬼。まったく、なんという反則だろうか。

 

「おねーちゃんが言えることなのかなぁ?」

「どうかしたの? こいし?」

「……? 何か言ったっけ?」

「……無意識、ね」

 

 そう言えば、私は他者の意識を読み、こいしは他者の無意識を操る。私とこいしが一緒になれば、意識的な能力の発動は私が抑えることができ、無意識的な能力の発動はこいしが抑えることができるようになるだろう。そしてこいしの能力の文言上、恐らくだけれどこいしは他者の無意識を作ることもできるようになるはずだ。そう言った能力は非常に強力な分、反動などが怖いのだけれど……こいしの無意識を操る程度の能力は既にこいしの意識の殆どを奪っている。さて、これ以上何が奪われるのだろうか。

 意識がないということ。それはつまり感情が無いと言うことでもある。それを知るからこそ私はこいしが感情を出すことができると言うことを歓迎している。それがどれだけ暗い感情であろうと、私にとっては可愛い妹の生み出した感情だ。大切にするに決まっている。

 今では私に甘えるときに時々出すか、私が明らかに戦った時などに感情を見せるのだけれど、私からするととても有り難い。家族想いだと思えるし、実際に感情を出している間だけは第三の眼が閉ざされていても目蓋を突き抜けてくる強烈な光のように感情の有無だけならわかるのだから。

 

 それはそれとして……どうやってフランを返せばいいのだろう? 私にはどうしてもいい手が思いつかないのだけれど……何とかしないとまたあの吸血鬼がやってくるだろう。できれば戦いは避けたいし、戦いになったとしても私が傷つかない方法をとらなければならない。こいしが気にしてしまうし、こいしがその気になったら世界中のありとあらゆる存在の意識を削り切って全てを無意識に変えてしまう。そんなことになれば、人間も妖怪もただの動物と変わらなくなってしまう。恐怖や実在を信じさせるなら別に相手が人間である必要はないのだけれど、動物相手では美味しい感情が手に入らなくなってしまう。野性味溢れた味も悪くはないけれど、毎日それでは飽きてしまうし、私の能力はそもそも理性を持ち、言葉を扱う存在を相手にしなければ効率が良くない。だからできることならば全世界を無意識の海に浸すようなことはしないでほしいのだけれど……こいしの行動の殆どは無意識によって行われている。無意識の行動を止めるなんてことは私にはできない。つい最近勇儀さんは実行していたけれど、あんな脳筋御用達な方法は御免被る。私はまだ理性的な存在でいたいのだ。

 

 ……しばらくフランは地霊殿で預かって、狂気の抑え方をちゃんと覚えさせてから紅魔館に一度戻らせたほうがいいだろう。今度は家出ではなく、ちゃんとここに泊まるという話を通してからおいで、とでも言って。

 まったく、可愛らしい子ですが、同時に厄介な子ですよ、まったく。

 

 ……可愛いんですけどね。

 


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