文字通り絵に描いたような、あくまでドラゴンメインの高校生活   作:ぐにょり

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九話 龍は駆け

大前提として、リアス・グレモリーという悪魔は情の深い女である。

基本的に余程のことがあっても眷属とした悪魔を見捨てる事はないし、眷属とまでは行かなくとも、身内の一人である、と認識した相手に対しては厳しく接しているようでいても甘い判断を下す事が多い。

そしてそれは、ごく最近眷属入りした、未だ戦力としてカウントも出来ず、神器の詳細も解らない未熟で未知な下僕が相手であっても変わりはしない。

力も知識も足りず、欲望だけを糧に日々を過ごしていた何処にでも居る男の子。

それが、友人の為だと、立場なんて関係無いんだと、自分に反抗までしてみせた。

自らの足りない力も、主従関係の強さも理解した上で。

 

となれば、主である自分が手を尽くさない訳にはいかないだろう。

反抗は成長の証、主の命令に従うだけでなく自分の意志を持って動いてみせたとなれば、それを喜ばない訳がない。

リアス・グレモリーという悪魔には、それだけの度量があった。

ある意味で言えば、自らの身内に対する偏愛と言ってもいい。

だが、それは確かにリアスを動かす原動力となった。

 

堕天使の勢力そのものが相手であれば、それでも動くことは無かった。

だが現実、今この街で動いている堕天使、下僕である兵藤一誠が敵対すると決めた堕天使達が悪魔で言うはぐれに近い可能性がある。

堕天使総督は神器狂いの数寄者で享楽的な部分もあり冷徹さを兼ね備えて居るが、被害者とも言える側の人間を無闇矢鱈と食い物にするほどに無情という訳でもない。

無法を働こうとした部下を庇い、討ち滅ぼされたからと言って戦争に発展させたり問題にするほど狭量ではない。

つまり、この街の堕天使が堕天使全体から外れた独断で動いているかどうかの確認が取れれば、気兼ねなく下僕に力を貸してやる事ができるのだ。

 

「だっていうのに……」

 

歯噛みする。

独自の動きをしている堕天使達の目撃情報がある場所に来てみたものの、本人たちどころか手がかりすら見つからない。

いや、手がかりはある、居る。

目の前、学園と教会の中間地点にある、木々の生い茂る小さな森の中。

その森の中を通る道で、通る者を確認する様に、木の太い枝の上に腰掛ける者が居た。

緑髪、半開きで虚ろな目、気怠げな表情、形の良い唇からちろりとはみ出した赤い舌。

ダメージジーンズに、胸元に蛇の柄があしらわれたシャツ。

柔らかく女性的なボディラインは一見して戦いを想定していないようにも見えるだろう。

だがそうではない。

そうではないことは、リアスも、朱乃も、十分に理解させられていた。

 

「なん、よくよく夜中に会うもんやのう。あれか、あんたら不良かなんかか」

 

「それを言ったら貴女も不良って事になるんじゃないかしら。こんな夜中に、何をしているのかしら」

 

軽口に軽口で返しながら、背には冷や汗が浮かんでいた。

はぐれ悪魔バイサーのねぐらで出会った謎の少女、駒王学園1年、日向日影。

あの日、戦う事すら許されずに敗北した相手が、目の前に居る。

何故、ここに彼女が居るのか。

 

「何、言われてもなぁ」

 

視線をちら、と、遠くへ向ける。

視線の先にあるのは、一誠達が向かっている筈の堕天使のアジトである教会だ。

嫌な予感が頭を過る。

この少女のツレ……読手書主が、堕天使側に居る、という可能性は無いだろうか。

 

「無いで」

 

「……人の心を読まないで貰えるかしら」

 

「読まんて、んなもん。けど、あんたみたいのが考えるんは、まぁ、そんなとこやろ」

 

どうでもよさそうにそう口にして、教会から視線を戻す。

月の光を受け、闇の中で僅かに金に近づく日影の瞳孔がリアスと朱乃の姿を映し、暫くして何かに気付いたような表情で掌に拳を落とす。

 

「ここらでうろついてた野良の堕天使なら、書主さんが教会に持ってったで」

 

「……そう、それで、貴女がここで何をしてるかは教えてもらえないの?」

 

言葉のニュアンスに内心で首をひねりながら重ねて問う。

イッセー達が突入する前に確認できなかったのは痛いが、どちらにせよ下僕を堕天使の好きにさせるわけにはいかない。

教会に居るというのなら、下僕達を助けに行くついでに今回の計画が堕天使全体のものかどうかを聞き出してしまえばいい。

今重要なのはそこではなく、この場を抜けて教会に向かえるか、という事だ。

道なりに教会に行く訳ではないにしても、魔法陣でジャンプするなら少なからず時間がかかる。

それができるかどうかは、目の前の少女の目的次第。

 

「なんも。わしは書主さんが朝帰りせんよう、用事済んだらまっすぐ帰らせるように頼まれとるだけやし。好きに通ったらええ」

 

「ふうん……。じゃあ、その書主君の用事がすぐに終わるといいわね」

 

「せやな」

 

「それじゃ」

 

踵を返し、教会へと向かうリアスと朱乃

リアスは言葉通りに受け取った訳ではない。

だが、反駁して真実を追求できる相手でも無ければ、そんな事をしている暇もない。

堕天使も、彼女のツレ(恋人、という意味でリアスは受け取っている)である読手書主の目論見も。

全ては教会にある。ならば行くのみ。

 

「あ」

 

立ち去るリアス達の背から視線を外し教会を見る日影がふと思い出す。

 

「今行ったら、諸共斬られるんと違うか」

 

まぁ、ええやろ。

そう呟くと共に、日影はまた、ぼうっと教会を眺め始めた。

 

―――――――――――――――――――

 

祭壇の下に隠されていた隠し階段を降りていく。

地下まで電気が通っているようで、途中途中に電灯が設置されている。

階段を降り切ると、そこには奥へと続く一本道。

道の途中には幾つかの扉があり、人間の延長線上の感覚しか持たない人間からの転生悪魔である祐斗やイッセーにはわからなくとも、猫魈という猫の妖怪の上位種から悪魔へと転生した小猫にはわかるものがあった。

通路の途中に点在する部屋の幾つかからは、不快な想像をさせるには十分な悪臭が漂っていた。

 

勿論、悪魔と敵対しているからといって、普通の街の教会にあっていい設備ではない。

堕天使を始めとする人外特有の物理的な作業工程を短縮させる様々な技術をもってしても簡単に出来上がるものではない。

それとも、期間の短さを補う程の非道外道が堕天使やはぐれエクソシスト達の手によって行われていたのか。

最後尾を歩く小猫が眉を顰めたのを、他の同道者は気付かない。

 

「こっちで合ってるのか?」

 

臭いに気付かずとも不穏な空気は感じたのか、イッセーが途中の扉を脇目に、先頭で迷いなく足を進める書主へと声をかけた。

 

「合っていますよ。さっきここのエクソシストに確認しましたから」

 

「それはどうやって?」

 

「玄関をノックして、出てきた人から誠心誠意説得して聞き出しましたよ。いや、意固地なもので、中々に骨が折れました。まぁ、折れたのは相手の骨なんですがね」

 

くつくつと声を抑えて笑う書主。

黒いジョークに辛うじて苦笑を返せたのは教会やエクソシストに対して個人的な恨みを持つ祐斗だけで、イッセーは余裕無く通路の先を見据え、小猫は戸惑いの中に居た。

普段通りの慇懃な口調、慇懃な態度のまま、普段通りの雰囲気で物騒な事を言う友人。

それは既知のものでありながら、想像もしていなかった未知の存在だ。

 

「それで、その災難なエクソシストはどうしたんだい」

 

「ええ、いい情報を教えてくれましたから、『そいつは』逃してあげました。その他はまぁ、片付けて……いや、散らかした、と言うのが正しいんですが」

 

散らかして、という言葉に悪魔三人が揃って首を傾げると、タイミングよく目の前に大扉が現れた。

如何にも、という雰囲気の扉に、イッセーは知らず固唾を呑む。

 

「これか」

 

「そうですね、この奥に、結構な数のエクソシストと、あと、シスターさんを捕らえている堕天使が一匹。堕天使は位置的にも因縁的にも兵藤先輩に任せるのが妥当ですか。木場先輩も塔城さんも居ますし、余裕でしょう」

 

「……だから、どういう勘定ですか。……私達の話、聞いてなかったんですか? 馬鹿ですか?」

 

「現実的に考えるなら、兵藤君がシスターを助けている間に、僕ら三人で協力して、って形かな。みんな、覚悟はいい?」

 

祐斗の言葉に、イッセー、小猫、書主が頷く。

 

「それじゃあ、扉を……」

 

祐斗とイッセーが両脇から扉を開け放とうと手を添え、それよりも早く扉が自ら開きだし────

書主が、ドアを蹴り破った。

木材を金属で補強した大扉が、頑丈な蝶番を引きちぎりながら部屋の内側へと飛んで行く。

軌道上に居た数名のエクソシストを押し潰し、大きな音を立てて扉が倒れた。

石造りの神殿の様な広間、その中にひしめくエクソシストと、奥の巨大な祭壇の上に磔にされたシスター──アーシアの傍らに立つ堕天使が、予想していなかった状況に一瞬だけフリーズする。

そしてそれはイッセーや祐斗、小猫にも言える事だ。

そんな中、ただ一人動き続ける、この事態の元凶──読手書主が動く。

 

「ふん、ふん、なるほど、なるほど」

 

蹴り足を戻し、武器を構えるでもなく、呪文を唱えるでもなく、拳を振りぬくでもなく、異能を発現するでもなく。

広間の中、エクソシストの群れを、祭壇の上、アーシアを磔にする堕天使を、頷きながら視線を滑らせる。

まるで雑誌をぱらぱらとめくりながら内容を流し読む様に。

 

「……悪魔が来たかと思ったら、随分と礼儀を知らない人間が紛れ込んでいるわね」

 

堕天使レイナーレがまず正気に戻り、突然の闖入者に対して不機嫌そうに眉を顰める。

対し、不機嫌そうな視線を向けられた人間──書主はレイナーレに視線を向け、憐れんだ様な表情を浮かべた。

 

「それはそうでしょう。礼儀を持って対応するべき相手も居ないのに、どうして礼儀を弁えられるというんですか。……そんな馬鹿な儀式をしているヒトに言うだけ無駄でしたね、すみません」

 

「あら、下等な人間の癖に、この儀式の事を知っているのね。でも、もう儀式は終わるの、残念だったわね」

 

不機嫌そうな表情から一転、煽りに反応もせず、上機嫌に見下し蔑む視線を送るレイナーレ。

 

「アーシアァッ!」

 

思考をフリーズさせたままだったイッセーが、磔にされているアーシアを視界に入れた瞬間、叫びと共に駆け出す。

歴戦とまでは行かないまでも、それなりの実戦経験のある祐斗や小猫よりも早い再起動。

叫び声に磔にされていたアーシアがイッセーの存在に気付く。

 

「……イッセーさん?」

 

「ああ、助けに来た! 今そっちに行くから、待ってろよ!」

 

プロモーションは騎士。

早く、とにかく速く、アーシアを取り戻す為に。

弾き飛ばされた扉の残骸によって開けられた道をイッセーは駆ける。

 

「邪魔をするな!」

 

「悪魔め! 滅してくれるわ!」

 

動き出した状況に、エクソシスト達が次々に動き出す。

光剣を振り上げ、走るイッセーを滅さんと斬りかか……れない。

イッセーに斬りかかろうとした最初の二人は、肘から先を光剣ごと地面に落とし、一拍置いてから声にならない絶叫を上げることとなった。

 

「ああ、勘違いをしてはいけない。貴方方の相手は、此方で致します」

 

ズタ袋を背負い、手には何処から取り出したのかも解らない刀を指の間に六本挟んだ書主が、広間の中央に陣取る。

追うように駆けつける魔剣を構えた祐斗と、拳を握りファイティングポーズを取る小猫。

 

「お二人共、邪魔です。この方々は此方が先に唾を付けておいたんですよ? なんですか、横取りですか」

 

読手は心底嫌そうな顔で、迷惑がっているのを隠そうともせず、片手三刀を無造作に振るい手近なエクソシストを光剣ごと膾切りにし、

 

「……そういう文句は後で聞きます。……あと、少し私からも話があります」

 

小猫は仏頂面のまま、苛立ちを叩きつけるようにして拳を振り抜き、エクソシストの顔面を陥没させ、

 

「悪いね、僕だって神父は憎いのさ。それに、獲物は盗られる方が悪いって言うだろう?」

 

祐斗は爽やかな笑顔で、しかし笑顔に似つかわしくないどす黒い殺気を纏わせた光喰いの魔剣でエクソシストを幹竹割りに。

瞬く間に三人減らされたエクソシスト達はしかし、戦意を失うこと無く襲い掛かる。

 

「チッ……クッソ、クソですね。クソクソ&クソですよ、これじゃ。……兵藤先輩! 出来る限りそっちは生かしておいてくださいね!」

 

「任せろ!」

 

書主の言葉をアーシアを無事に助け出せという意味で捉えたイッセーが駆ける。

速い。

騎士にプロモーションしただけでは至れない速度。

異常な脚力は、ただの下級悪魔のそれと同じく見ていいのだろうか。

 

運良く三人の作った壁を避けてイッセーに近寄ったエクソシストも居た。

だが、イッセーは視線を動かす事すら無く、ただ拳を振るうだけでそれを無力化する。

いや、走る腕が偶然にエクソシストに当たっただけだ。

だというのに、エクソシストは意識消失し倒れ伏し、呻き声一つ上げる事ができずにいる。

そんな真似を、騎士にプロモーションしたままの新米下級悪魔の腕力で可能なのか。

 

異常な速度、異常な腕力。

それら謎を全て置き去りにイッセーは駆け、アーシアとレイナーレへと肉薄する。

 

「……なんで、なんでよ。いい加減儀式は終わってもいい筈でしょう!? なんで出てこないの!」

 

対するレイナーレの表情からは徐々に余裕と蔑みの色が薄れ、焦りの表情へと変わりつつあった。

レイナーレがアーシアに施していた儀式とは、魂に融合するようにして存在する神器への干渉、いや、強制分離術式と言っていい代物だ。

そしてその儀式はアーシアを連れ戻した直後から行っており、本来ならば既にアーシアは光に包まれ、持ち主の命を引き裂きながら神器が体外へと排出されていなければおかしい。

 

儀式は成功する筈だった。

下級悪魔の餓鬼がやってきた程度で揺るぐはずのない計画だった。

揺るぐはずのない完璧な計画だった。

後ろ盾を無くした聖女を取り込み、神器を抜き出すだけの簡単な計画。

たったそれだけで、自分は堕天使を癒やすことの出来る至高の存在へと昇華し、誰からも認められる、愛される存在になるはずだったのだ。

 

だが、現実はどうだ。

見下ろす儀式場の中、兵隊として集めたエクソシスト達は次々と薙ぎ払われ、血霞へと変わり、何の役にも立たず。

殺した筈の人間の小僧は悪魔へと変じ、計画の要であるアーシアを戒めから解き放とうとしている。

 

「この、糞餓鬼ども……!」

 

特に、この餓鬼が、兵藤一誠が気に食わない。

こいつを殺したのは私だ。こいつが友だというアーシアを連れ去ったのも私だ。

憎む筈で、怒る筈で、しかし、その目はただアーシアしか写していない。

アーシア・アルジェントを助ける事だけを考えている。

自分の事など眼中にない。

その姿勢に、レイナーレは自分を見下していた他の堕天使の嘲笑を幻視した。

こんな、取るに足らない元人間の、下賤で汚らわしい悪魔の小僧すら、私を嘲笑うのか。

 

「お前のような、下級悪魔風情がぁぁぁぁぁぁっっ!」

 

煮え滾る憎悪のままに、過剰なまでの光力を込めた槍が生み出され、投擲される。

標的は、今まさにアーシアの元に手を伸ばすイッセー。

彼の視界にはレイナーレなど写っておらず、音を置き去りに迫る光の槍は、死角からの完全な不意打ち。

避けられる道理もなく、下級悪魔、いや、下手をしたら中級の悪魔すら一撃が直撃し、イッセーは一瞬で消滅する。

それが道理だ。

何の取り柄もない下級悪魔であるならば抵抗の術はない。

レイナーレという堕天使の打ち出せる最高の一撃。

文字通りの必殺必中は──

 

『五月蝿いぞ、羽虫が』

 

視線すら向けず、神器も顕現させず、拳すら握らず無造作に振るわれたイッセーの左手に、粉々に打ち砕かれた。

いや、その動きが真実槍を迎撃する為の動きだったのかすら怪しい。

槍を打ち払った後、イッセーの両手はすぐにアーシアの手足を縛る戒めを解くのに使われている。

空気を震わせず放たれた龍声、それを聞くことができないのならば、それは戒めを解き放つ動作中のイッセーの腕が、偶然にレイナーレの光槍に当たったようにしか見えない。

 

「な……、なん……!?」

 

理解できない。

理解したとしても許容できる事態ではない。

感情の爆発からくる偶発的なものとはいえ、その光槍はレイナーレの短くないこれまでの生の中で最高の一撃だった。

放たれた次の瞬間には自分でも呆気にとられ、冷静な部分が、これならこのイレギュラー達を殺し尽くして儀式をやり直せる、と、そう確信できる程の威力。

劣等感に捕らわれていたレイナーレが僅かに自信を取り戻す事すらできたかもしれないその光が、下級悪魔に呆気無く砕かれたのだ。

 

「馬鹿な、ありえない……。下級悪魔でしょう? 神器も力を倍にするだけの『龍の手』で……。そんな、子供よりも小さい魔力で、なんで」

 

魔力は低い。

肉体的に鍛えてあるようにも見えない。

だというのに、目の前の下級悪魔から感じる圧は何なのか!

まるで『巨大な龍にでも対峙しているかの如き』此方を押しつぶさんとする存在感!

 

「俺が知るかよ。でも、アーシアは返してもらった。後は──お前だ」

 

アーシアは十字架から解き放たれた。

ぐったりとしたアーシアは、既にこの場に駆けつけた小猫に支えられ、その前を魔剣を構えた祐斗が守るようにして遮っている。

アーシアに向けられていたイッセーの視線も意識も既にレイナーレのみに向けられ、まるで現実に形と質量を持っているかの様な敵意を露わにしている。

こうして見てみれば、三人の下級悪魔は汚れこそすれ怪我一つ無く、疲労もまるで感じていないように見える。

対するレイナーレは奪えていた筈の神器も無く、同調し協力してくれている堕天使も近くに居ない。

苦し紛れに儀式場をもう一度見渡せば既にエクソシスト達の姿は無く、血痕すら無く、ただ冷たい匂いの液体塗料が石造りの床を隠すように隙間なく撒かれている。

 

「そう、後は、この後は」

 

そして、レイナーレは見た。

祭壇へと続く階段をゆっくりと登ってくる、六本の刀を手に下げた人間の姿。

この場に似つかわしくないジャージを着こみ、何故か儀式場を濡らす色取り取りの塗料で斑に染め上げられた姿は滑稽な戯画染みている。

しかし、薄暗い照明で輪郭を暈され、長過ぎる三本爪にも見える刀の存在もあり、異形の怪物のようでもある。

 

「──楽しい楽しい、メインディッシュのお時間です」

 

戯画の如き、怪物の如き、しかして只の人間である筈の男。

読手書主の言葉は、これから起こる出来事を、端的に表していた。

 




解説コーナー
☆困った時の中間地点『○○と●●の間にある小さな森』
種別・土地
使用コスト・作品の地形的説得力

主に合流途中の仲間とか、待ち受ける敵の伏兵とか、原作で『お前らあの時具体的に何処に居たんだよ』と思った場合に使用される
都市部や実在系の土地だと使用不可になるが、大体の場合において読者からスルーして貰える便利スポット
でもこんな整備された林でもなんでもない自然な緑地、あったら結構な田舎になるんではないだろうか
でも大体許される

同種の土地として、『数年前から放置されている駅前の廃ビル』が存在する
此方は浮浪者系ユニットの拠点、或いはチンピラによるヒロイン誘拐や暴行などの鬱イベント、更にはそれをギリギリで阻止する好感度アップイベントにも使用可能

どちらも使用する度に作中の地形説得力が減少、移動時間や経路、地域の治安などへの説得力に悪影響を及ぼす
多様は厳禁


勿論、現実にそんな都合のいい森はそうそう無い、という九話でした
イッセーが走りだしたり、木場がずずいっと前に出たり、小猫さんが自己主張したり
まともな流れを作ろうと思ったら全員変に目立ち始めて主人公がマサクゥルできなかった
なので次回やる、たぶん小猫さん視点で
あと決意と共にパートは多分次回か次々回へ伸びる
上手く行けば次回で一巻終わるけど、もしかしたら次々回辺りまで伸びるかも

一巻終わったら簡易版のキャラ紹介とかした方がいいですかね、あとがきとか使って

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