文字通り絵に描いたような、あくまでドラゴンメインの高校生活 作:ぐにょり
「秘伝忍法」
最初に動いたのは、この場で最も三大勢力にもアーシアにも関わりの少ない、人間の書主であった。
「魁ぇ!」
獲物に飛び掛かる肉食獣を思わせる低いフォームから、光剣を構えたエクソシストの群れへ飛び込む。
停止状態から瞬き一つするよりも速くトップスピードに乗り、臨戦態勢であったエクソシスト達に反応すらさせず、広間の端へと到達。
後に残るのは獣の爪染みた片手三刀左右合わせ六刀による斬撃と、それに切り裂かれたエクソシストだ。
真っ先に反応したのは斬られたエクソシストではなく傍から見ていた祐斗、そして小猫。
斬られる側でも斬る側でもない傍目だからこその反応。
祐斗はその人間離れした瞬発力と足力に、子猫は人を斬ることへの躊躇いの無さに驚愕する。
次いで気付く事ができたのはエクソシストの中でも反射神経や動体視力に優れた者達。
しかし、気付き、反応できたのが幸運であったかはわからない。
獲物である悪魔の協力者らしき者が自分達の間をすり抜けた事に気づき、振り向いた彼等を待っていたのは、先の焼き直しの様に、それでいて更に加速した斬撃だった。
光剣を振り回せる常識的範囲に収まらない低空を通り抜けていた男が、まるで自分達の首を刈らんとしているかの如き上昇軌道で跳ねる姿を見てしまった。
確かに見える。弾より速い訳でもなく、人間が出しうる限界速度からそれほど逸脱もしていない。
だが、捉えきれない。
停止状態から加速を経ずにトップスピードに乗る書主は、人間の眼球の性能では追いすがる事ができない。
来る、とわかったエクソシストにできたのは、致命傷になり得る首や頭部への一撃を防ぐために光剣を構える事のみ。
「いい反応です」
光剣の柄への強い衝撃と共に、耳元には嬉しそうな囁きが残った。
反応できなかった周りのエクソシスト達は肩口を、腕を、耳を頬を無残にも切り裂かれ斬り飛ばされている。
運良く、首を跳ね飛ばされたものは居ない。
全員が全員、何処かしら肉体の一部を欠損させられながら、それでも致命傷を避ける事ができた。
更なる追撃。
書主は空を蹴り更に加速、元来た軌道をなぞるように、それでいて上昇するように跳んだ。
これを多くのエクソシストが回避。
速度に慣れたのか、軌道が単調だから読めるのか。
速く、強いが、戦慣れをしていない。
勝てない相手ではなく、殺せない程でもない。
二撃目に反応したエクソシストはニヤリと笑う。
腕を斬り飛ばされたエクソシストの後頭部を狙い拳を振りぬく小猫は、書主の単調な攻撃軌道が何を狙っての物かを、傍から見て確信していた。
致命傷を意図的に避けている。
しかし、それでいて相手を気遣っての事ではない。
悪魔である前に猫魈である小猫には、猫という生物の本能の記憶を併せ持つ小猫には理解できてしまった。
「……遊んでる」
猫にも似たような習性がある。
すぐにでも殺せるネズミを、あえてギリギリのところで生かしたままに傷をつけ続ける、無邪気で残虐な遊び。
狩りの練習という意味こそあれ、平和な日本を生きる一般的な男子高生が人間相手に、歴戦のエクソシスト相手に行える事ではない。
力量的にも、精神的にも、行える筈がないし、行えるべきではない。
「しかも、執拗だ」
祐斗が近場のエクソシストの光剣を無力化し、そのまま正面から心臓を貫きながらつぶやく。
祐斗自身、敵対するエクソシストを殺害することに躊躇いはない。
だがそれは敵を排除して味方、仲間の安全を確保するのに必要であるから、という前提があっての話だ。
何もエクソシストを、教会関係者を一人残らず殺してしまいたい、と思っている訳でもない。
だが、エクソシストの間を駆け続けている彼はどうか。
目に憎しみが宿っている訳でもなく、多少の苛立ちは感じられても、憎悪の様な感情は感じられない。
だというのに、彼の斬撃の軌道は何処をなぞっているのか。
斬り飛ばしたエクソシスト達の腕や耳、肉片、衣服の切れ端に武器の欠片。
それら全てに対し、執拗なまでに攻撃を繰り返している。
エクソシスト達は攻撃を回避できた訳ではない。
そもそもエクソシスト達を狙っていない斬撃の余波に耐えただけなのだ。
「あは、あははは、ははははは!」
快活に笑い、エクソシストの間をジグザグに駆け抜けながら、エクソシストの肉を装備を斬り飛ばしながら、斬り飛ばされた肉片すら許さぬとばかりに刃を振るう。
そして、肉片を切り刻む斬撃の速度は、明らかにエクソシスト達に振るわれるそれを凌駕する速度で行われていた。
斬り飛ばされた腕は弧を描いて飛び、落下するよりも早く切り刻まれ血風となり、血風血霞すら余さずその一滴に至るまで切り刻まれる。
後に残るのは生命細胞という単位すら保てなくなるほど切り刻まれた何かのみ。
薄赤い液状の何かが地面に水たまりを作った。
「あぁ、少し、邪魔は入ったけれど」
一通り広間中を駆け抜けた書主が動きを止めた。
もはや足元の大半を覆い尽くす血液は踏まず、書主の手にかからず小猫や祐斗によって始末されたエクソシスト達の死体を足場に着地。
鳥の翼の如く両腕を、六刀を広げる。
「これだけ居るなら、もっとざっくり塗り潰しても、いいかな」
ぎち、と、何かが軋む音が響く。
それが筋繊維の放つ音であると小猫が気付くと同時。
破裂音。
それは空気の壁を引き裂いた証であり、足蹴にされていた死体が爆散した事を知らせもした。
そして、その音を皮切りに、一瞬にして広間の光景が切り替わる。
エクソシスト達の上、広く高い広間の天井との間を埋めるように散らばる、人間の欠片。
集めてくっつければそのまま繋がるのではないかと錯覚するほどの断面を見せる生き物の破片。
その破片はしかし、これまでと違い、生き残りのエクソシスト達へとそのまま降り注ぐ。
十数人分の人間から作られた、人間の切り身。
血と臓物、糞尿に塗れたそれが、未だ致命傷一つ負っていない軽傷のエクソシスト達の黒いローブを汚していく。
「あ?」
一部のエクソシスト達が、ローブの上から染み込んでくるそれらの感触に、呆けたように声を上げる。
実戦慣れしていない、新参のはぐれエクソシスト達だ。
彼等は、意図的に標的から外されていた。
彼等の視線も、最初の数撃の内に調整されていた。
悪魔の協力者であるジャージ姿の少年。
彼が足蹴にして立っていたエクソシストの死体があった辺りから、一直線に空白地帯が生まれている。
幅は約三メートル、丁度、少年が両手を広げ、刀の切っ先までを含めた長さ。
「あ、うあ、うわぁぁぁぁぁぁっ!」
新参達が、自分達に降り注いだものが何なのかに気づく。
ざわめき、徐々に上がり始める悲鳴。
狂乱する一部のエクソシスト達の間を縫うように、風が疾走る。
「は」 は
は 「は」
は
「は」 は
は
は
「は」
『何か』が通りぬけ、笑い声を残していく。
声なのか風の音なのか幻聴なのか聞き分けることも難しい程にささやかな笑い声。
頬を擦るような、頭を撫でるような、服の埃を払うような、肩を叩くような感触と共に。
だが、実戦経験のそれほど無い新参達には気づけ無い。
故にそれを目撃したのは、生き残らされた歴戦のエクソシスト達と、標的から外されている悪魔の二人。
仲間の肉片を纏いながら狂乱するエクソシスト達。
そのローブを汚していた肉片が、血が、中から零れた糞尿が塵と化していく。
羽音にもノイズにも似た連続する破裂音、いや、斬撃音から、それが最初と同じく切り刻まれた結果だとわかったのは悪魔の二人のみ。
恐るべきはその精度。
ローブに染み込んだ血液こそ布ごと切り裂かれているが、それ以外、エクソシストの肉体そのものには傷ひとつ付いていない。
理解できたのはそこまで。
そこから起きたことを、真に理解できる者は、エクソシストの中にも、悪魔二人の中にも居ない。
異変が起きる。
「これは」
冷静に、安全地帯でもある悪魔二人に向かってきていたエクソシストを捌きながら、祐斗はそれを見た。
色。
色。
色。
血液に糞尿に肉片ですら無い塵に塗れていたエクソシスト達の姿が、雑多に、乱雑に、無規則に、無軌道に染め上げられていく。
いや、違う。
悪魔の視力がそれを捉えた。
変わっている。
血や糞尿や肉塵が何かに染め上げられたのではない。
まるで、それらを塗り潰すようにして、得体の知れない塗料が生まれ、エクソシスト達を染め上げているのだ。
理解の範疇の外にある光景。
しかし、祐斗には、小猫には、生み出される光景に見覚えがあった。
廃墟で、教会の入り口で、聖堂で。
そのどこにも彼の影はあった。
廃墟には彼と関係の深い日影が居て、教会の入り口には彼が待っていて。
『ツレがちょっとはしゃいで散らかしたのが、お義母さんにバレてなぁ』
小猫の脳裏にあの日に聞いた言葉が浮かぶ。
はしゃいで、散らかした。
『その他はまぁ、片付けて……いや、散らかした、と言うのが正しいんですが』
つい数分前に聞いた言葉が脳裏を過る。
あの光景を創りだしたのは、目の前で同じ光景を作り出しているのは。
間違いなく、彼、読手書主だった。
「ははは、ははははは」
染め上げられたエクソシストを笑う声が響く。
陰湿さも狂気も感じない、ただ面白いマンガを見て笑うそれと何ら変わらない笑い声。
声を上げているのは、天井に近い壁に刀を突き刺してぶら下がっている書主。
刀を挟んだままの片手で腹を押さえ、目尻に涙さえ浮かべて笑っている。
「ああ、おかしい。貴方達、なんて顔をしているんですか。ははははははは」
屈託なく笑うその姿に狂気を、そして脅威を感じたエクソシストが、出口へ向かって逃げ出す。
逃げ出そうとしていた。だが、居ない。
振り向き、一目散に逃げ出したその一歩目が地面を踏む前に、そのエクソシストは塵と化し、そのまま塗料へと化け、地面にぶち撒けられる。
その傍らに、壁にぶら下がっていた筈の書主が立っていた。
水たまりを作る塗料を足蹴に、靴とズボンの裾を汚しながら。
「駄目じゃないですか、逃げ出したら。貴方達は神の戦士でしょう。神に裏切られ外道に落ちようとも悪魔を滅ぼそうとする、意識の高い選ばれた戦士なら、ここから逃げ出すなんて、するべきじゃない」
刀を振るう。
見える軌道、見える速度。
範囲内に居たエクソシストがそれを躱す。
「戦ってくださいな」
避けたエクソシストが、避けた先で解けるようにしてバラバラに、塵に、塗料へと変わる。
書主の姿が霞む様に消え、同時に数人のエクソシストの姿が崩れる。
「そうしてくれたら、お礼代わりに」
ばしゃり、と、人間数人分の質量を持った塗料が飛散った。
逃げるエクソシストに、武器を構え迎撃しようとするエクソシストに、祐斗と小猫に標的を絞るエクソシストに、バケツで水をかけるようにして塗料がかけられる。
黒のローブすら塗り潰し、ローブの下の頭に顔に、無秩序に色が塗られていく。
染め上げられたエクソシストの顔は千差万別。
恐怖に怯えるもの、怒りに震えるもの、冷徹に反撃の目を伺う静かなもの。
その全てを視界に収める様に、書主が立ち止まる。
溶けるような笑顔。
三日月よりも細い亀裂の笑み。
虫の足を千切る子供の笑み。
純粋であるだけの、慈悲も躊躇いも無い笑みを浮かべている。
「もう少し、見れるラクガキにしてあげますよ」
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数十を超える数居た筈のエクソシスト達は、私達に一太刀も浴びせる事無く、読手さんによって蹂躙され、一人残らず死んで、終わり。
単純な結果を生み出したのは、単純な力の差でした。
結果として、兵藤先輩はアーシアさんを取り戻し、私達は無傷のままに首謀者と思しき堕天使を取り囲む事に成功。
取り押さえてもいない、まだ堕天使も十分反撃を仕掛けてくる可能性がある。
だけど、それに何の意味があるのか。
「さぁさぁさぁさぁもうそろそろ終わりの時間ですよ。いい夢は見られましたか? 哀れな哀れな下級堕天使のレイナーレさん」
元人間の塗料をジャージのあちこちに染み込ませた読手さんが、暗い瞳を煌めかせながら堕天使に向かって歩いていく。
堕天使はその異様な風体に僅かに身を竦ませ、次いで顔を歪めながら紅潮させます。
堕天使である自分が人間に怯えた事も、わざわざ堕天使の前に下級と付けられた事も、彼女にとって耐え難い事なんでしょうか。
「人間と、下級悪魔風情が、私を仕留められるとでも思っているのかしら」
「なんと、それは凄い! ではレイナーレさんは、この状況から勝てる程度の力はあると。あ、それとも、他に協力者の堕天使さんでもいらっしゃるので?」
刀を手にしたまま、両手のひらを顔の前で合わせて感心しているようなジェスチャーをする読手さん。
知らない人が見れば、単純に場の空気を読まずに感心しているようにしか見えない。
でも、さっきの戦いを見た私と祐斗先輩にはわかる。
これも、彼の遊びだ。
あそこまで容易く人間を粉微塵に斬り刻む力があれば、悪魔の動体視力でも捉えきれない速度を持ってすれば、今話す間に十回は堕天使を殺せている。
仮にこの場に読手さんが居なくても、下級堕天使一人が相手なら、私と祐斗先輩が連携すればさして苦戦もしないし、逃がす事もない。
それが分かっているのか、堕天使は私達に攻撃の一つもしようとはしない。
状況的に、あの堕天使はもう詰んでいる。
あの堕天使が本気で私達全員を倒せる、もしくは全員を出し抜いて逃げ切れると思っているので無ければ、援軍が来ることを期待してか、さっき言っていた儀式が完了するのを待っての時間稼ぎなんでしょう。
「そうよ。この計画は上には秘密にしてあるけど、私に同調して力を貸してくれている堕天使も居るわ。今頃、儀式が妨害されてるのを察してここに向かっている筈よ。そうすれば、貴方達如き」
堕天使の言葉を遮る様に読手さんが何かを堕天使に投げ付ける。
それは、教会に入ってからずっと読手さんが背負っていたズタ袋。
さほど早くもない、放物線を畫くように投げられたそれを、堕天使は不機嫌そうに避ける。
「ああ、受け止めてあげないなんて、そんな情のない事を」
悲しげな声で、口元には堪えるような笑みを浮かべたままの読手さん。
「……何のつもりかしら」
「何って、折角連れてきてあげたんじゃあないですか」
「あなた、何を言って……、──!」
堕天使が、地面に落ちたズタ袋を、その中身を見て絶句する。
……正直、ここまでの読手さんの戦い方を見て、少し想像は付いていました。
ズタ袋の中からはみ出しているのは、翼。
ベッタリと赤、青、黄色と単純な色に染め上げられ、半ばから切り落とされた、鳥のそれに似た巨大な翼。
それこそ、目の前でわなわなと震えている堕天使のそれと同じ大きさの。
「堕天使の皆様は、確か羽を見れば個人が特定できるんですよね。どれくらい判別に必要なのか解らないので、擦り潰す前に大きめに切り取っておいたんですよ。……それで、援軍の方々って、今から来られます?」
返事を返すこと無く、背中の翼を羽ばたかせて飛び立とうとする堕天使。
私と祐斗先輩が背中から羽を出して追い掛けるよりも早く、堕天使の黒い翼が半ばから霞と消える。
塵が変じたインクが白いのは何の皮肉でしょうか。
翼を広げて飛び立とうとした中途半端な姿勢から、次いで肉体の一部を切り落とされた激痛に絶叫しながらその場に倒れこむ堕天使。
いっそ哀れ、と思えるほど、彼女の状況は絶望的です。
助けようと思う要素も無いのですが。
「ああ、一応聞いておきますけど、兵藤先輩はこの堕天使、どうします?」
「えっ、ど、どうって」
唐突に問われ、目の前で行われていた世界残酷劇場染みた光景に息を呑んでいた兵藤先輩が驚いたように聞き返しました。
「どうも何も、一応貴方の仇で、そこのシスターさんを付け狙う悪党ですよ? 殺したいとか、殺して欲しいとか、死ねとか、消え失せろとか、血霞になれとか、暗黒の炎に抱かれて消えろとか、美しく残酷にこの世から逝ねとか、あるでしょうに」
「いや、俺は……」
戸惑いながら、兵藤先輩は地面に倒れ伏す堕天使に目を向ける。
翼を失い、完全に地に落ちた堕天使は、ガタガタと震えながら読手さんを見上げています。
翼を切り落とされた事で、初めて読手さんを脅威として認識して、完全に逃げ場がない事に気がついてしまったのでしょう。
知らない人がみれば庇い立てしても仕方がない程の怯えよう。
騙されていたとしても、一応は元恋人という事もあって、兵藤先輩が向ける視線は複雑です。
「助けて、イッセーくん! この、この化け物が私を殺そうとしているの! 貴方の事が今でも好き、愛してる! だから、この化け物を一緒に倒して!」
目に涙すら浮かべて懇願する堕天使の声は、先程までの傲慢さが滲み出ているそれとは別物の、男の人に受けの良さそうな上品な声。
私達が眼中に無く読手さんだけを脅威として認識していても、まだ人を騙して助かろうという頭は残っているようで。
それを見た兵藤先輩は、悍ましい物体を目撃してしまったような顔をした後、呆れ、諦めの表情を経て、視線を背けた。
「正直、もうどうでもいいです」
「そうですね。誰も気にしないでしょう、こんなの」
あはは、と笑いながら答える読手さんに、恐怖に震えていた堕天使が耐えかねる様に叫ぶ。
「何よ……何なのよ! どいつもこいつも! 本当なら、今日は私が、堕天使を癒やす至高の堕天使になる筈だったのに! 儀式は上手くいかない! お前らみたいなのは湧いてくる! 私が、私が何をしたっていうのよぉ!」
「冥土の土産にネタばらしすると、儀式は最初から此方の魔法で妨害していたんですよ、教会の外に妨害用の陣を引いてね。こんな結果に至った理由は……まぁ、偶々目について、死んでも誰も悲しまない感じだったからってのが、一番の理由ですね。ほら貴女、別に誰からも大事にされてないみたいですし」
余りにもあっさりとした、余りにも理不尽な答え。
「そ、んな、私、は、至高の存在、に」
「そもそも儀式で神器が抜き出せるなら、貴女に預けておく理由も無いじゃないですか。持ち帰っても、また抜き取られて他のマシな堕天使に移植されて、貴女はぽいー、でしょう。常識的に考えて。最初から芽が無い話だったんですって、愛され系になるなんて」
それを聞いた堕天使の顔からは、とうとう表情という表情が抜け落ちてしまいました。
「……うん、いいですね、いい顔です。その顔が見たかった。それ以外に見たい部分も無いんですけど」
満足そうな笑みを浮かべ、両手を広げてくるりと回り、堕天使に背を向ける読手さん。
「それでは」
その背後で、もはや何も写していない瞳で虚空を見つめていた堕天使が、はらりはらりと、紙束から紙が抜け落ちていく様に解けていく。
表面から薄切りにされた堕天使は数秒後には赤い霧に。
読手さんが振り向きもせずに片手の刀を霧に向かって振るうと、赤い霧はその色を変え、広間を染めるものと同じ塗料へと変わる。
……ゆっくりと見ても、何が起こっているかがわかりません。
「はー……、さて」
一度天を仰ぎ、目元を手で覆って溜息を吐き、振り向く。
既に瞼は閉じられ、手の中に在ったはずの刀は六本全て消え、見た目の上では元通り、何時もどおり。
「今日はこれでお開きですね。帰りましょうか」
もう四千くらい書いたけど、合体させるとタイトルに困る内容になるので分離
戦闘シーンを書く筈が虐殺シーンになってしまった
でも相手は雑兵と下っ端だけだから仕方がない
それと作中で主人公が使用した魔法に関しては説明どうしよう
次回、一巻エピローグ