文字通り絵に描いたような、あくまでドラゴンメインの高校生活   作:ぐにょり

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エピローグ
短めでどうぞ


十一話 猫の距離感

……そうして、イッセー先輩の死から始まった、この街での堕天使に関係する事件は、一応の幕となりました。

あの堕天使たちが独自に動いていた為にきついお咎めはありませんでしたが、私達は先走ってしまった事を部長に少しだけ怒られ、それで今回の話は終わり。

少なくとも、私達の王である部長はそういう事にしておきたいそうです。

 

部長とイッセー先輩は、あの教会から帰る途中でどうにか仲直りできたようです。

細かい話は聞き流していたのでわかりませんが、たぶん、転移に失敗して、空を飛んで必死で教会に向かっていた部長の姿に心を打たれたとか、そういう話なんでしょう。

部長が元から手助けする気満々だったことがわかっていた私達からすれば今更な話ですが。

アーシアさんを取り戻し、冷静になったイッセー先輩は申し訳無さそうに謝っていました。

正直、あんな周りくどい言い方で、結論から話さなかった部長もどうかと思いましが、まぁ、あれで部長もイッセー先輩も納得しているなら、いいんじゃないでしょうか。

 

祐斗先輩は何時もどおりのようでいて、前よりも少し鍛えなおしているみたいです。

あの教会で殆ど何もさせてもらえなかったのが悔しかったのでしょう。

表面上は平静を装っていますが、何処か、何時もよりもやる気があるように見えます。

人当たりのいい柔和なイケメン、といったキャラで通っているけど、この人も中々に熱い、少年漫画的な情熱があるとわかりました。

 

イッセー先輩が助けだしたアーシアさんは、部長の眷属になるそうです。

信仰を失ったわけでもない敬虔なシスターが悪魔に転生するなんて前代未聞の話ではありますが、本人は納得しているようです。

教会を追い出されて堕天使に囲われていたアーシアさんですが、その堕天使が居なくなり、後ろ盾が無くなった今、何処から同じように神器を狙われるかわかりません。

だから、保護する意味も込めて、というところなんでしょう。

部長が割と熱心に勧誘していたとか、堕天使やエクソシスト達にひどい目に合わされたからとか、そういう理屈っぽい理由だけで転生した訳ではない事は、アーシアさんのイッセーさんを見る視線を見ればわかります。

いい人なので、同じ悪魔として、これからいい付き合いをしていけたらな、と思います。

 

朱乃先輩は……まぁ、置いておくとして。

 

とにかく、この短い期間で二人も眷属仲間ができたりしたけれど、グレモリー眷属は安泰です。

堕天使の策略に巻き込まれそうになったとしても、それは変わりません。

 

では、今回の事件に関わった、もう一人はと言えば……。

 

―――――――――――――――――――

 

ひんやりとしたドアノブを回し、ドアを開く。

あまり開かれる事がないからか、金属製のドアは甲高い軋みを上げながら開く。

新校舎の屋上。

悪魔とは余り相性の良くない太陽の日差しも、放課後の時間とあって適度に弱く、人気も殆どありません。

そんな屋上で、ベンチに座ってぼうっと校庭を眺めている人が、一人。

 

「……あれ、塔城さん? どうしました?」

 

振り向き、でも閉じた瞼から視線を向けずに首を傾げるのは、クラスメイトの読手書主さん。

 

「……少し、お話があって」

 

教室で、机にかばんを置いたまま早々に姿を消してしまった読手さんを探すのに、少し手間取りました。

クラスメイトに話を聞き、聞いた行き先で見つからずにまたその場に居た人に話を聞き、校舎をぐるっと一周して、ようやくです。

何故だか途中から道行く人から応援の声が聞こえた気がしますが、心当たりが無いので無視して、でも、少しだけ支えにして。

 

こうして、教室以外で改めて読手さんと向き合って話すのは、数日ぶり。

あの教会以降、こうして彼と向き合った人は、グレモリー眷属の中では私しか居ません。

以前に眷属に誘おうか、と考えていたらしい部長は、祐斗先輩から教会での顛末を聞いてから、彼に積極的に接触を持とうとは考えていないようです。

副部長も同上で、祐斗先輩はもう少し鍛えなおしてから、アーシアさんはお礼を言いたいからと接触しようとしましたが、部長が直々に止めていました。

イッセー先輩も助けてくれた礼を言おうとしていましたが、これも部長にやんわりと止められています。

部長は『彼は悪魔や堕天使、天使に対して良いイメージを持っていないみたいだから』と言っていました。

もちろん、建前です。わからない程間抜けでもありません。

部長は今、明確に読手さんの事を警戒しています。

 

踊るようにして歌うように、弾丸のようにしてギロチンのように、楽しげに心のままに、早く迷いなく人も堕天使も斬り刻む。

彼の言葉を信じるなら、殺した理由は、殺しても誰も悲しまないから。

騎士の祐斗先輩の動体視力を持ってしても追いつけない速度で動き、複数の堕天使をあっさりと殺害する力量。

更には、神器を抜き出す儀式を妨害し、転移まで防ぐ独自の魔法陣を設置する魔術に対する造詣の深さ。

これで警戒しない方がどうかしています。

間違いなく、近く彼の身辺への調査が入るでしょう。

でも、それは私には関係の無い話で。

 

「……」

 

話易くするために、何時かの様に逃げられないように、ベンチの隣に腰掛ける。

 

「……あー、っと、何か、悩み事ですか?」

 

とりあえず聞いてみた、といった風の、それほど真剣ではない声。

彼は、大体の場合はこんな感じだ。

クラスメートと話もする、友人と呼べる相手も多少居て。

でも、悩み事を相談している姿も、相談されている姿も見た事がない。

私ともそうだ。

いや、そもそも私と彼は、それほど深い付き合いの友人という訳でもない。

お菓子の話をしたり、授業で習った内容を話したりもするけど、互いの内面に一歩踏み込む様な関係ではない。

友達といえるけど親友という程でもない。

気心の知れた仲と言うには離れた関係。

それでも、話を聞かれたそうにしていれば、一歩踏み込む素振りを見せてくれる。

だから、それに少しだけ、乗っかってみる。

 

「……読手さん、私、悪魔なんです」

 

隣に座る彼の顔は見ない。

 

「ええ、それはもちろん知っています」

 

「じゃあ、どれくらい知ってますか」

 

即答からの、沈黙。

沈黙は多分、考えている証だと思う。

目の前の校庭からは運動部の掛け声が、校舎のあちこちから吹奏楽部や音楽系の部活の練習音が聞こえ、沈黙を埋めていく。

 

「……そうですね、こうして、面倒な問答を仕掛けてもおかしくない、面倒な生い立ちだ、という程度の事は」

 

「……どこで、その事を?」

 

「前にも言ったでしょう? 見れば、わかるんですよ」

 

別に好き好んで見た訳じゃないですけどね、と、傲慢な嫌味を飛ばされる。

なんだそれは、と思いながら、あの時に目を開かせたのは私なので、どうとも言えない。

たぶんそれが彼の力の一端で、目を開かない理由なんだろうとわかるから。

でもそうすると、もう一つ疑問が浮かぶ。

 

「じゃあ……、なんで、私と、友達になったんですか」

 

一般的な視点から見れば、私は面倒臭いタイプになると思う。

弁が立つ訳でもないし、愛想があるわけでもない。

悪魔だというだけで体質も立場も面倒な上に、元の種族や姉のことで殊更に面倒でややこしい立場でもある。

彼は面倒が嫌いだ。

それは、初めて彼を旧校舎に案内しようとしたその日に分かっている。

でも、それならなんで、私が面倒くさい立場に居ることを知りながら友達付き合いをしているのか。

 

「そこまで塔城さんのプライベートに踏み込むつもりもありませんでしたから。浅い付き合いなら、種族も立場も、それほど気にしたくないんです」

 

「そう……ですか」

 

種族は関係ない、そう言った人と似ているようで、まるきり正反対な答え。

気にしないわけでも関係ない訳でもない。

気にしたくない、自分の側の都合しか考えていない、エゴ丸出しの理由。

たぶん、それが彼の中に引かれた一線。

彼の、あの戦い方に、淀みなく楽しげに人を殺してみせる彼の内面に踏み込もうと思ったら、どうしても避けて通れない一線だ。

 

「……そう、ですね」

 

「?」

 

その一線を、私は、

 

「いいと思います、その距離感」

 

越えない。

それは彼の中の決定的な一線。

他人と身内を、他人と自分を分かつ程の重要な一線だ。

ただの、一介の高校生があれほどの戦闘力を持ち、躊躇いなく命を奪えるようになるほどの秘密が隠されている。

きっと、誰に話したい訳でもない、抱えたまま人生を終えたいと思うほどの内面。

 

「読手さん」

 

空気を介して伝わる体温が、気配が、今も僅かに残る塗料の涼しい香りが、彼の存在を伝えてくる。

彼に視線は向けない。向き合わない。

それを彼は望まないし、私だって望まない。

越えて欲しくない一線、知られたくない内面。

そんなものは、私にだってある。

生まれが珍しい種族だって事も、姉が主殺しの罪人である事も、好き好んで知られたいと思える秘密じゃあない。

誰にだってある防衛線。

 

「私達、まあまあいい友達になれると思いませんか」

 

彼は、読手さんは恐ろしい人だ。

何処か常人とは違う、狂った部分のある人で。

でも、理性の強い人だ。

殺しても良さそうな相手を見繕える程度には理性的で、学校で普通に過ごせる程度には社会的で。

誰か、犯罪者になって姿を消した誰かを思い出す。

きっと共通するところなんて無い。

でも、目を離したら、いつの間にか消えてしまう所が、似ているようにも思う。

 

「そうですね、まぁまぁ、いい友人だと思いますよ」

 

その答えに、少しだけ頬が緩む。

 

「でしょう。……普段は話せない事も、話せますし」

 

だから、隣に居ようと思う。

 

「……今度、部活を見に来ませんか。悪魔活動じゃなくて、ただのオカルト研究部の方を」

 

「部長さんが面倒くさそうなのできっぱり断ろうかと思うんですが」

 

「……大丈夫です。確かに部長は割と面倒臭い人ですけど……何度も勧誘するほど空気が読めない訳でもないので。……いざとなれば、私が止めますし」

 

「ああ、それならいいですね。悪魔社会ネタ抜き、お茶菓子ありなら、まぁまぁ楽しそうだ」

 

深く踏み込まずに、互いに越えられたくない一線を敷いて。

何時か、こうして学校で会うような縁が消えて、彼が目の前から消える時、せめてお別れを言える位置に居よう。

互いの一線を重ねて出来た距離で、嫌いではない彼と、他愛のない話をしていよう。

それが多分、この不可思議な友人との、適度な付き合い方だから。

 




ポエムの時間なエピローグでした
気分が乗って書いてる間は楽しいけど、いざ登校する段になって割と躊躇う
でも投稿しちゃう

主人公のもろもろの行動のおかしい部分とか、小猫がこういう思考に至った理由とかは感想欄で質問してくれると嬉しい
それと同じくらい昨日のデイリーで武蔵建造できたのが嬉しい
無改造のくせにバンバンMVP取ってくれるから捗る捗る

そんな訳で、次回からは二巻です
ここから楽に原作に添えるようになる予定
小猫バリアによって部員や部長からの追求を跳ね除けつつ、普通の部活動の時間には少し顔を出したりします
で、それ以外の悪魔からの追求には相手に聞こえるように舌打ちしたりします
そんな主人公ですが、次回からもよろしくお願いします

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