文字通り絵に描いたような、あくまでドラゴンメインの高校生活   作:ぐにょり

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十四話 昼前には命懸け

「え、あ、ちょっと、読手さん?」

 

名前を呼ぶよりも早く一方的に切られた携帯電話を手に、私は立ち尽くしていた。

愚痴っぽくなるだろうと考えたから場所を変え、他の皆に聞かれないようにしておいたのは幸いだったと考えていいのか悪いのか。

 

「……意外」

 

ふと思っていた事が口に出た。

悪魔関係の話が出来て、この時間に電話をしても怒らない、それでいて愚痴を少しは聞いてくれそうな相手となると、私の交友関係では限られてきます。

これで生徒会辺りともっと交流があれば他の選択肢も浮かんだのでしょうが、少なくとも今の私がそんな真似をできる相手は一人だけ。

ただ、それでも私と彼の仲は普通の友人程度の関係でしかなくて、そこに彼の性格を加味すれば、こんな事になるなんて想像もできません。

 

「……勝ち筋を拾えるようになる手、ですか」

 

勝てる方法を教えるとは言わなかった。

勝てるよう鍛えるとも言わなかった。

そもそも勝ち筋を拾える手というのも、教えてくれるのかどうなのかわからない。

あるならどうするかと聞かれ、私はやりたいと答えた。

話の流れから考えれば、今週末にこっちにやってきてそれを教えてくれる、という風に聞こえる。

 

「……」

 

携帯を持っていない方の手を、じっと見つめ、拳を作る。

細い腕、小さな手、一見頼りなく見えるこの手が、大地を、今はロフトの石材を踏みしめる脚が、我ながら肉付きが良くないと思うこの身体が、私の武器。

猫魈としての素質の一部、悪魔の駒からの恩恵である頑強性と怪力。

私の手札はたったのこれだけ。

これを磨けばいい。私は、これだけで、いい。

そう思えたならどれだけいいか。

 

昼に、イッセー先輩と組手をした時の事を思い出す。

素人同然の大ぶりで隙の多い攻撃。

しかし、不自然なまでに硬い腕、顎を鋭く撃ちぬいても意識を飛ばさない頑強性。

単純な攻撃に宿る戦車に迫る腕力。

神器の力を未だ使いこなせていないにも関わらず、一番の新入りである筈の彼は強くなりつつある。

潜在能力の高さには部長も目を見張っていた。

彼は間違いなく強くなる。それこそ、私よりも遥かな高みに立つだろう。

そしてそれは、遠い未来の話ではない。

 

私はどうだ、私だけが持つものはなんだ。

私を強くするものは、私の中にあるか。

彼はそれを知っているのではないか。

私の知らない手段で、私の使えない何かを引き出そうとするのか。

そうしたなら、私は、どうなる?

 

力を手にし、狂った誰かの事を思い出す。

そして、その姿に教会で見た光景が重なる。

 

イカれている、狂っている、異常をきたしている。

だけど、言い訳のしようもない強さが確かにあった。

傍から見ているだけで恐怖を感じる狂気。

それを微塵も見せる事もなく、平和な日常を送る姿を目の当たりにした。

暴力の快楽に囚われている様で、それを飼いならしている。

少なくとも、私の目にはそう映った。

 

「大丈夫……」

 

彼は、違う。

力を制御できている。

だから、彼に教えてもらえるのなら、私は、強くなれる。

狂う事無く、堕ちること無く、強さを手に入れられる。

 

携帯を空に登る欠けた月に翳す。

 

「読手さん」

 

唇が、舌が、喉が、不思議と彼の名を刻んでいた。

私は待ち望んでいるのだろうか。

私は、何を待ち望んでいるのだろう。

手助けしてくれる友達か、敵を打ち倒す為の力か。

 

―――――――――――――――――――

 

「そんな訳で、到着」

 

明くる日の休日、日影さんと共に早朝に家を出て人目を人力で避けつつ走り続け、約1時間。

車で行ったら何時間掛かったかわからないが、ニンジャ脚力を持ってすればこの程度の距離は近所のコンビニに行くのと変わらない。

もちろん嘘だ。家の近所には常人が歩いて数分の距離にコンビニがある。

だが通常存在する移動手段よりも余程速いのは変わりない。

 

「思ったより、近いなぁ」

 

「別荘は異界に存在する、とかやられなくて良かったよ」

 

木々に囲まれた山々が連なる、所謂田舎、というよりは、避暑地と言った方が雰囲気的には近いか。

未開の地という訳ではなく、それなりに人の多く居る登山道も存在している。

こんな場所で悪魔が修行? と思うが、此方も朝の運動や日影さんとの修行の時には適当な森で結界を張って済ませているのだからとやかく言えない。

というよりも、こんな普通の山の中に別荘を構えて居てくれたのは嬉しい誤算だ。

ぱっと嗅いだだけでも、森の中からは結構な種類の食用の山菜やキノコの香りが漂ってくる。

綺麗な空気の中で自然の中で、軽い運動を楽しみ、友人と交流し、日影さんと温泉に入り、帰りには山菜やキノコを取って帰ることができる。

塔城さんの不安につけ込んで計画したちょっとした温泉旅行のつもりが、中々に充実した休みになりそうではないか。

 

「そういえば、日影さんの元が居た世界だと、焔さんが竹やぶの中で竹を斬り刻む修行してたけど、あれってどんな意味があったんだろ」

 

「さぁ? わしはああいう、ずばっと行く修行はやらんかったからのう」

 

「ここらの木でやったらわかるかな」

 

「私有林かどうか確認した方がええんと違う?」

 

他愛のない話をしつつも人目を避け、森の間を駆けながら、修業の場であるグレモリーさんの別荘に向かう。

そういえばグレモリーさんに許可は取っていないが……まぁ、最悪契約書でぱぱっと許可を取ってしまう事も不可能ではないし、修行を拒否されても温泉だけは使わせて貰おう。

途中途中で見える登山道をガン無視し、木々を飛び移りながら森を突っ切って、目的地らしき建物まで数分もかからず到着。

 

「……大丈夫やで、書主さん」

 

日影さんの声に、瞼を開く。

余りの豪華さ、周囲の風景との一種芸術的とも言える調和から、大型の建造物は最初に大写しの挿絵として見える場合が多い。

目の前にあるのは、まさに白亜の豪邸、といった威容の建物。

それをかき消すように文字と入れ替わるのを見終える事無く瞼を閉じ、気配を探る。

塔城さん、兵藤先輩の気配はここからやや離れた森の中、開けた場所でにあった。

その他四人の場所はまちまちで、この場ですぐに遭遇するという事もないだろうと推測できる。

気になる所があるとすれば、この山に脚を踏み入れた時から此方に視線を向け続けていた、余り馴染みのない薄い気配か。

 

「お久しぶりです、グレイフィアさん」

 

「お久しぶりです、読手様。本日はようこそいらっしゃいました」

 

薄めだった気配が濃くなり、いつぞやのメイドさんがハッキリと現れた。

挨拶と共にぺこりと一礼する様は豪華な別荘の外観と相まって、恐らくは非常に絵になるのだろう。

先程まで常人では気付かないレベルで気配を消し、此方に声を掛けることもなく視線を送り続けていた所に目を瞑れば、何の変哲もないよく出来たメイドさんにしか思えない。

 

「もしかして、此方が来る事って、もうグレモリーさんに話通ってます?」

 

「いえ、不審な影がお嬢様の別荘へ向かっていると報告がありましたので、様子見に」

 

そんな程度の事で、恐らく魔王城とかそういう場所から、わざわざこんな場所まで転移してきたのか。

暇、という訳ではないだろうから、過保護なのか、それとも、それだけ此方の印象が悪く、危険人物として伝わっているのか。

ただ、伝わってくる意思は警戒ではなく、薄い疑惑と期待といった方向性を持っている。

この人は立場的に中立でなければならないはずだが、もしかしたら内心ではグレモリーさんの方に肩入れしているのかもしれない。

ただ、解せない部分もある。

 

「警戒とかしないんですね」

 

無論、このメイドさん単品で相対しているというのであれば解らない話ではない。

如何に此方の情報をある程度得ていたとしても、こうして相対した以上、あちらからは此方の事が何処にでも居る一般的な高校生男子にしか感じられない筈だ。

最強の魔王の眷属、女王であるこのメイドさんからすれば、危険視するに値しないと感じるだろう。

だが、未熟なグレモリーさんの修行場に入り込み何かしら行おうとしているとなれば話は変わってくる。

ハッキリ言って、荒事の場での言動や行動は、他の誰かに警戒されても仕方がないくらいにはどうかしているという自覚はあるのだ。

更に、此方側からの冷静な戦力分析を行えば、万が一此方が彼等をふと殺そうと思い立ったなら、彼等が抵抗に成功して生き残れる可能性というものはゼロに等しい。

それとも、報告されたであろう此方の所業及びそこから推測できる能力では害しきれない程にグレモリーさんの潜在能力は高かったりするのだろうか。

 

「お嬢様の眷属、そのご友人を無碍に扱うほど、グレモリー家は無粋ではありませんので」

 

「ほー」

 

「はー……、感服しました」

 

思わず溜息が出るほど控えめで、しかし堂々とした宣言。

言葉が真実であるか、込められた意思が真意であるかはともかくとして、そこまで堂々と言われてしまえば関心するしか無い。

これが悪魔の粋、というものなのか、それとも何かしらの思惑があるのかどうなのか。

とりあえず言えることは、ややこしい話にならなくて済んだのは良いことだということ。

 

「それでは、此方はささっと用事を済ませてしまいますので」

 

「はい。お嬢様達の事、宜しくお願いします」

 

優雅な一礼。

宜しくされる程深く手助けするつもりはないけれど、ここでそれを言うのも無粋だ。

とりあえず、罪悪感無く温泉を借りれる程度には手助けさせて貰おう。

 

―――――――――――――――――――

 

「これは大前提として理解して貰いたいのですが、現時点でのグレモリーさんチームには勝ち筋がありません。何故か分かりますか」

 

グレモリーさんチームって、なんだかかわいい感じがします。

という感想は置いておいて。

 

「……実戦経験の不足、総合力での敗北、後は……」

 

「あの焼き鳥野郎か」

 

宣言通り、学校が休みの土曜日の午前中に現れた読手さんは、私とイッセー先輩の格闘訓練を中断させ、勝ち筋を得るための講義を始めた。

読手さんは切り株に座った私達の答えに一つ頷く。

 

「塔城さんの言った事もそうですが、その二つは今は気にしなくても構いません。大事なのはこのゲームの勝利条件です」

 

勝利条件……つまり、相手のキングであるライザー・フェニックスの撃破。

これは多分、私達の中の誰もが気にしつつ目を背けていた事だと思う。

ライザーのレーティングゲームでのこれまでの戦績は実質的にはほぼ無敗と言っていい。

つまりこれは、フェニックスの蘇生能力が働いている限り、何度殺されようとも撃破された事にはならないという事だ。

 

「此方が知る限りの貴方方の現状の戦力だと、そうですね、全員で取り囲んで集中攻撃を繰り返して、ようやく降参させられるかどうか、というレベルです」

 

「それは無理」

 

「現実的じゃないよな……」

 

前に電話で話してから、部長にライザーの蘇生能力がどれほどかを聞き出し、読手さんにメールで概要を送った結果出た結論がこれだというのだから困った。

イッセー先輩が言った現実的でないというのも、彼我の戦力差から来るもので、よくよく最善手を選び続けて動いたとしてライザーの元に辿り着くまで半分以上の仲間が撃破されてしまうという予測が簡単に立ててしまう。

 

「ですが、言ってしまえば致命的な問題になるのはその部分だけとも言えます。総合力で負けているだとか、経験が足りてない、なんていうのはさして問題になりません」

 

「人数差とか、そもそも兵士が俺しか居ないのは……」

 

「ある程度は戦術で補えます。敵も人数差と未熟さに油断してくれているでしょうし。まぁそれでも劣勢である事は間違いないんですけどね」

 

「やっぱり、問題は火力……」

 

「そこで、お二人の出番となります」

 

ぱちん、と指を鳴らすと、読手さんの手の中に一本の剣が現れた。

禍々しい造形の片刃の黒い長剣。

明らかにまともな雰囲気ではないそれを手の中で弄ぶ読手さんに、イッセー先輩が手を上げて続きを制した。

 

「待ってくれよ。火力の話なら、それこそ木場とか朱乃さんとかの方が向いてるじゃないか」

 

「お二人は、現状である程度以上の活躍が見込めますから。火力機動力文句なし、とまでは言いませんが、確実に障害である眷属を排除していける筈です。お二人はどうですか?」

 

「……私もイッセー先輩も、そこまでの火力はない」

 

そう、私は格闘全般である程度戦えるけれど、それだけに戦っている最中の遠距離から敵と纏めて排除される可能性がある。

そしてそれはイッセー先輩だって変わらない。

走力も腕力もあるけれど、敵の眷属を相手にしながら、範囲攻撃に気をつけて動きまわる、なんて器用な真似は出来ないだろう。

理想としては相手の眷属を可能な限り排除してから複数でライザーを囲みたいけれど、ライザーの元に辿り着ける人数は限られる筈だ。

そして、真っ先に堕ちる可能性があるのは、厄介な回復役であるアーシアさん、機動力に劣る私とイッセー先輩。

 

「そうです。だからこそ、お二人に火力を持たせたい。というか、現状のメンバーではそうするしか道がない。何故か」

 

「……部長を真っ先に矢面に立たせる訳にはいかず、確実に眷属を潰して、生き残れる可能性があるのが祐斗先輩と副部長だけ。私達は……」

 

「倒しきれるか解らない眷属と相打ちになるか、眷属を無視して火力不足なりにライザーのもとに向かうか、か」

 

「グレモリー先輩の作戦次第ですがね。……そこで最終確認になりますが」

 

くるり、と、手の中の剣を逆手にし地面に突き刺す。

 

「お二人は、どうしてもこの戦いに勝ちたいですか? その為なら、生死に関わるような試練も乗り越えられますか?」

 

空気が変わる。

たぶん、これが今回の最後の一線。

ここでやらない、と言えば、これまでの説明が何だったのか、と思えるほどあっさりと引き返すだろう。

説明を始める前に対価として温泉使わせて貰いますね、などと言っていたが、やらないならやらないであっさりと諦めて帰る筈。

何故か。それは、この人にとって、今回の戦いが心底どうでもいいから。

ここに来て手を貸してくれているのだって、休日に温泉旅行に行くついでに、友達の宿題を見てあげる程度の話でしかないのだろう。

強制されている訳ではなく、選択権は、あくまでも私達にある。

 

「……俺は、やる。貴族がどうとか、血筋がどうとかはわかんないけど、でも、部長は、本当に嫌がってた。部長の夢を叶えるのが眷属の、俺の役目だ」

 

イッセー先輩は、僅かな躊躇いの後にそう言って立ち上がった。

部長の夢、というのはよく知らないが、彼は部長のお気に入りだから、何かしらそういう事情を説明されているのだろう。

真剣な、決意を固めた表情からは何時もの、食事時ですら人の服の下を妄想する下卑た姿は想像もできない。

 

「よくぞ決断しました。貴方の主も鼻が高いでしょう」

 

そう言ってイッセー先輩に向けてにこりと笑うと、周囲の景色が一変した。

幾つかの山をまるごと覆う暗い色の半透明の膜、所々に『忍』の文字に似た紋章がある。

コレが読手さんの作る結界なのか。

 

「空間の位相をズラしました。半ばアストラルサイドに移動したこの場所なら、まあ、多少大暴れしても問題ないでしょうし、横槍も入りません。では」

 

詠唱。

朗々と紡がれる聞いたことのない、何処の言葉ともしれない呪文。

発音は明確に、しかし高速に行われた詠唱は一つの呪を完成させた。

 

石霊呪(ヴ・レイワー)

 

大地が揺れ、山が砕ける。

山を構成してた土が、岩が浮かび上がり、轟音と共にぶつかり合い一つの形を作り上げる。

土塊の丘と化した山の上に立つ。

巨木を幾重にも束ね捻じり上げた様な太い脚。

車程にもなる巨大で無骨な爪。

見上げれば、いや、見上げなければその全身像を視界に収めることすら難しい巨大なそれが、叫ぶ。

 

「――――――――――――――――――――――――――――――――――――――!!!!!!」

 

声にならない声。

絶叫、怒号、咆哮。

どんな言葉でも表現しきれない音の濁流に、思わず耳を塞ぐ。

一目見た印象は『怪獣』、だけど、その姿を、翼を持つそれを、正確に表現するのなら──

 

「ド、ドラゴン!?」

 

「いえ、土塊と岩で作った身体に龍の魂を乗せて作った、何処ででも普通に作られている何の変哲もないゴーレムですよ」

 

「普通とはいったい……うごごご」

 

見上げながら辛うじて突っ込むも、声に張りがないのが自分でもわかる。

なんだろう、もしかして世の中の常識、普通という概念は私達が修行をしている数日の間にこんなに変わってしまったとでも言いたいのか。

 

「もしかして……」

 

恐る恐る、と言った風情で、イッセー先輩が何の変哲もないゴーレム(山を潰して作ったドラゴン)を指さす。

 

「はい、あれと戦ってて下さい。あれを倒した時、兵藤先輩は新たな力に目覚めていることでしょう……たぶん」

 

「たぶんってなんだぁーっ! 死ぬ! 絶対死ぬか──」

 

見えたのは壁、感じたのは、髪を乱れさせる程の強風。

今さっきまですぐ隣で、真剣な表情を吹き飛ばして抗議していたイッセー先輩は消え、そこには土塊でできた壁が高速でスライドしていた。

数秒の時を持って通り過ぎたそれは、たぶん、ゴーレムの脚。

慌てて通り過ぎた脚を目で追うと、空には『四枚の翼』を生やして空を跳ぶイッセー先輩の姿が。

 

「つ、翼? そっか悪魔の……なんだこれ!」

 

「ドラゴンの翼ですよー!」

 

「あ、え、あ、そっか、ドラゴンの翼なら、別におかしくないか」

 

腰から悪魔の翼を、背からは赤い龍の翼を生やしたイッセー先輩。

ドラゴンの翼を何の疑問もなく受け入れ、四枚の翼を器用に動かして高く舞い上がる。

だけど、それでどうにかなる程の戦力差ではない。

ゴーレムもまた背に翼を背負っている。ここまで作って、飛べないという事もないだろう。

 

「こんなの、どうやって戦えば……」

 

空から見下ろし、改めて敵の巨大さを理解したのか、イッセー先輩が怯む。

そんなイッセー先輩に向けて、読手さんは両手でメガホンを作り、叫んだ。

 

「この修業を乗り越えたら、それはもうレーティングゲームで大活躍できちゃうんだろうなー! ライザーとかも倒して、グレモリー先輩から、すっごいご褒美が貰えるんだろうなー! なんでも言うこと聞いてもらえるかもしれないなー!」

 

「読手さん……いくらイッセー先輩でもそれは」

 

「今なんでもって言った!?」

 

「そりゃもう、悪魔の貴族ともなれば、活躍した部下に相応のご褒美を用意するでしょうしー!」

 

「ご褒美!」

 

そのゾクゾク美みたいな言い方やめません?

と、突っ込む気力もなく単純単細胞さに閉口している私の目の前で、イッセー先輩は芸もなくドラゴン(もうドラゴンでいいと思う)に突っ込んでいく。

……まぁ、流石に死にそうになったら読手さんも止めるだろう。戻ればアーシアさんも居ますし。

 

「さて、塔城さん」

 

「私は無理ですよあんなの」

 

振り向いて私の名を呼ぶ読手さんにすかさず断りを入れる。

怪我をするしない、死ぬ死なない以前に悪魔にも限界はある。

今の私にあれの相手は無理だ。

よく考えてみれば部長の相手だってそんなに悪い相手じゃないんじゃないかと思えてきた。

そんなに無理をして力を手に入れてどうするというのか。

 

「いやいや、塔城さんはああいう方法じゃパワーアップできませんので」

 

苦笑しながら一歩後ろに下がり、地面に突き刺した黒い片刃の長剣を手で指し示す。

 

「塔城さんの場合は、至って簡単。この魔剣を持つ。それだけで、貴女は新たな力を手に入れる事ができます」

 

「……私、長物はちょっと」

 

「使う必要なんてありませんよ。一度これを持ってしまえば、後は手放してしまっても問題ありません」

 

……怪しい。

彼が友人に、というか、真っ当に生きている相手に対して害を与える事がない、というのは知っている。

だけど、それは本人からの自己申告であって、本当に害がないかは別問題だ。

彼が無害だと考えていても、それがその実酷い害のあるものである可能性は十分にある。

そもそも手段が簡単過ぎるのも怪しい。

 

「副作用とか」

 

「ありません」

 

「強化後の反動が」

 

「来るわけないでしょう」

 

「都合が良すぎませんか」

 

「まぁ、裏ワザ的なものですからね。でも、それも塔城さんのポテンシャルあっての事ですよ」

 

ポテンシャル。

そう、猫魈でもある私は、仙術を使うための様々な素質を持っている。

そして読手さんは、恐らくそれを知った上で言っているのだ。

 

「私、仙術は……」

 

「仙術? ……ああ、そっちは門外漢なので違いますよ。力に飲まれて暴走する様なものではない、理性で持って御するタイプの力になりますかね。詳細は、持ってみればわかります」

 

仙術ではない、即ち、妖怪としての力ではない。

理性を持って御する力。

余りにも都合がいい、正しく望んでいた通りの力だ。

裏がないと言ったのは本当だろう。

危険性がないというのも嘘ではないと思う。

彼は嘘を好む性格ではないのだ。

だから、手を出しても、問題はない。

 

一歩、また一歩と、地面に突き刺された黒い魔剣へと踏み出す。

私に道を譲る様にその場を退いた読手さんは嫌に楽しげだ。

 

「さぁ、塔城さん。この魔剣『ドゥールゴーファ』を手にして、新たなる魔導への道に踏み出すのです」

 

……とりあえず、『新たな力』を手に入れたら、それで読手さんを殴ろう。

一発、いや、二三発。

さっきドラゴンの蹴りが通りすぎた時から感じていた股間の湿り気とぬくもり。

それを丁寧に無視しながら、私は件の魔剣へと手を伸ばした。

 




設定紹介
★魔剣ドゥールゴーファ
種別・武器?
仕様コスト・要相談、合意有りならノーコスト
原作・スレイヤーズ

設定隠すも何も、名前でググれば一発でどんなものか出てきてしまう困りもの
原作では割と出番が多めで音の響も如何にも魔剣といった風情
見た目は柄尻から黒いフサフサした飾り毛が生え、六方向に伸びる刺々しい白い鍔がある
刀身は黒く、鍔と一体化した螺旋状の握りの柄を持つ
原作とは異なる出自故に、オリジナルとは比べ物にならないほど頑丈
ただし小猫さんはステゴロメインなのでこれを使う事はない
そもそも譲った訳でもないので装備品にも加わらない

石霊呪(ヴ・レイワー)
種別・魔法
仕様コスト・相応の魔力及び適当な霊
原作・スレイヤーズ

地精に干渉しそこらの岩や土を集めて龍の形を作り、そこに低級霊を憑依させて石人形と化す術
オリジナルは未完成の術であり、作られた石人形は暴走していた
未完成だった術の構成を練りなおし、低級霊の代わりに予め加工した龍の魂を組み込む事で問題なく動作させる事ができるようにしてある
ドラゴンの魂を加工する方法に関しては別途自分で用意しよう




このSSは健全です
美少女である小猫さんが、びっくりして出してはいけないアンモニア臭のする水分を出したとしても、それは立派な生理現象です
つまり猥褻は一切ない、いいね?

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