文字通り絵に描いたような、あくまでドラゴンメインの高校生活   作:ぐにょり

22 / 65
二十一話 夜の校舎に復讐者

放課後、家に帰る前に、目的も無しに街をぶらぶらと歩く。

歩く場所は何処だっていい。

民家しかない様な静かな住宅街、駅周辺の繁華街、店も家もまばらな郊外、何故か点在する森。

何処を目指している訳でもない、何の変哲もないただの散歩だ。

途中に気の利いた店で買い食いをする事も、適当に土産を買っていく事もある。

何をするのも自由。

 

歩きながら、恵まれているな、と思う。

何が恵まれているのか、と、誰かに問われたなら、彼女はしばし考えた後、全部、と答えるだろう。

 

この街は恵まれている。

平和で満ち足りた街だ。

それは善人にとってだけでなく悪人にとっても。

決して全てが健全という訳ではない、一般的な社会悪も存在する平凡な都市だ。

都市機能も充実しているけれど、自然も無い訳ではない。

住みやすい土地だ。

比較対象は多くないけれど、それでもこの街は居心地がいい。

 

そして、そこに住むことのできる自分は恵まれている。

そう考える程には、今の境遇に満足している。

 

住んでいる場所は言わずもがな。

いや、いい街だと、そう思えるからこそ、思うのだ。

 

「……そろそろ帰ろか」

 

口にして改めて思うのだ。

こんなに歩いていて飽きない街で、抜け忍を始末する為の刺客も気にしなくていい平和な街で、ふと沈む夕日を見て帰ろうと思える事実。

帰る家の、そこに待つ人の持つ暖かさを思い、ぱっと頭のなかに浮かぶ『帰ろう』という思い。

そして、それを阻むものの居ない、今の生活。

 

彼女のものであり、しかし彼女のものでない『かつて』の記憶と似て、けれど決定的に違う生活。

特定の大きな組織に日常的に命を狙われる事のない、平和な生活。

しっかりとしたバックボーンがあり、将来に何をしようか、いくら思い悩んでも時間が足りない程の自由。

何もかもが有り過ぎる、足りすぎる生活だ。

不満も不便も少なからずあるけれど、それでも文句を付ける気にならない。

 

沈む夕日に手を延ばす。

掌に遮られて、橙色の夕日が欠ける。

満ちた姿も欠けた姿も美しい。

 

美しい、好ましい、と、はっきりと思える。

彼女『日向日影』には、モデルとなっている『日影』には欠けていたものがある。

彼女は、自らの感情をはっきりと自覚できる。

普段から無い無い言っているが、あれはあくまでもポーズの一つなのだ。

一種の照れ隠しと言っても良い。

彼女は喜びも怒りも哀しみも楽しみも知っている。

 

モデルとなった『日影』としての記憶があるからこそ、その事実を幸福である、と感じる事が出来た。

理解できない、自覚できない、というのは、悲しい訳でも不幸な訳でもなく、勿体無い。

理解出来なかった記憶があるからこそ、彼女はそう確信している。

 

暖かく輝かしい太陽も、様々な姿を見せる空も、種々様々な形態を見せる建築物も、力強い原色の自然も、そこで笑う人々も、人でないものも。

それを見て、何かを思える、何かを感じることが出来るのは、間違いなく幸福なのだ。

それが怒りであれ、喜びであれ。

 

「ん」

 

網膜を焼く太陽の光に目を細めていると、携帯が鳴り出した。

 

「なん? ……うん、ええけど、なんか手伝う? ……ええよ、そんなん。ほんじゃ、なんか買ってくわ」

 

言葉には飾り気もなく最低限、口調も平坦だ。

平坦な声で、それでも、聞く者が聞けばそれとわかる程に親しみや温かみが感じられる。

薄っすらと優しげな笑顔も浮かべている様は、彼女のモデルと日常的に付き合いのあった者からすれば僅かな驚きすら与えるだろう。

勿論、モデルとなった『日影』が笑わなかった訳ではないが……。

 

「うん、せやな。でもええやろ? こないだTVでやってたヤツやし、失敗は……」

 

言葉が途切れる。

笑顔が溶けるように消え、ぼうっと、先の定まらない視線が遠くを見据える。

獲物を狙う蛇の視線だ。

元となった『日影』としては、此方の表情をよくしていたのだろう。

血液からすら温度が抜けたような冷たい表情、戦士の貌、忍者の面がよく馴染む。

視線の先に見えたのは異物だ。

それなりの平和とそれなりの不幸が入り混じった、平凡で平均的で満ち足りた街には居ない異常。

 

「見つけた」

 

彼女の主の、彼女の親の、彼女の恋人の敵だ。

優しい人に、して欲しくない笑顔をさせる敵。

彼女に与えられた日常の破壊者。

ハッキリと憎しみと嫌悪を感じさせる相手。

言い訳の余地すらない彼女の敵だ。

 

「……うん、……大丈夫や」

 

釘を刺されると共に心配され、僅かに憎しみが薄れる。

同時に湧き上がるのは哀しみと哀れみか。

平和に生きられる筈なのに、自ら異常と危険に踏み込んでいく。

そうでなければ、真っ当で居られないという異常。

自分という存在を作り出し、それでも未だ修羅の道から抜け出せない。

 

「ええよ。場所は探しとく。ついでや、ついで」

 

ならば、と思う。

抜け出せないのなら、共に居よう。

かつての『日影』が、紅蓮の少女達と共に在ったように。

共に修羅の道に在り、日向として照らし温め、休む為の日影となろう。

 

「わかっとるよ。殺さんように、死なんように、やろ」

 

鞄を手に下げたまま、もう片方の手にはナイフを構える。

平和と平穏を手に、捨てない為に、捨てさせない為に刃を持つ。

それが、日向日影という忍の、自らに課した唯一の忍務だ。

 

―――――――――――――――――――

 

助けを求めた。

今にも失われるかも知れなかった自分の命。

永遠に無為に失われてしまった仲間。

何もかもが流され、傷付くままに途絶えようとしている自分の人生。

 

只々救いを求めた。

求めても求めても足りないと思う程、救われていなかったと思っていた。

生きたい。

失いたくない。

死に蝕まれ、命という命を損なっていた僕が思えるのはそれだけだった。

願い、力、才能。

失われる全てが恐ろしかった。

仕方のない事だ。そう思いながら、今でもふと思い出し、自覚する。

 

僕は、浅ましい男だ。

救いのない人生の果てに集められ、神の齎す救いを信じることでしか希望を得ることの出来ない場所で育った。

同じ場所で育った彼等は、友で、仲間で、家族で、そして何より、鏡を使わずに見れる自分自身だった。

誰もが相手の中に自分の欠片を見ていた。

誰が欠けても、全てが失われる事はない。

誰かが生き残れば、その誰かの中に失われた友を見る事が出来た。

数少ない慰めだった。

そんな慰めすら不要な、満ち足りた生活を送る自分が、酷く汚れた存在に思えた。

 

きっと、最初からわかっていたんだ。

復讐なんて、誰も望んでいなかった。

でも、それを、復讐を諦めてしまえば、自分の中の彼等を忘れてしまうようで。

でも、違った。

自分の愚かさにようやく気付く事が出来た。

 

「────」

 

堰を切るように、喉の奥から歌が零れ落ちる。

人間だった頃の残滓。

ただただ神に救いを求めていた時代、聖歌は、歌は、僕の希望だった。

だけど、本当の救いは別にあった。

歌が救いじゃあない。

共に歌う事が、共に在れる事が、救いだった。

 

『そうさ、僕たちは、いつだって共にあった』

 

声が聴こえる。

聖歌に混じった、実体の無い、空気を震わせる事も出来ない声。

彼等の残滓が伝えようとする本当の遺志。

きっと、僕の中にもあった、彼等の本当の思い。

 

『僕らは足りていなかった。一人一人じゃあ聖剣を扱えない』

 

「でも、僕は一人じゃない」

 

共にあった。友は常に側に居た。

それを改めて自覚する。

青白い霊魂、残留思念とも呼べるそれが、形を崩していく。

崩れていく友の、家族の、かつての僕の欠片達。

だけど、それは別れじゃない。

 

『そう、僕たちは独りじゃない』

『だから恐れないで、憎まないで、憐れまないで』

『聖剣も、自分も、僕らの事も』

 

満ちていく。

欠けていた物が、失われていた物が、忘れていたものが、空の器が満たされていく。

 

『神も悪魔も関係ない』

『僕たちは共にある』

『僕たちは一つだ』

『君も、僕達も、どちらが欠けても、どちらも欠けない』

 

僕は覚えている。

忘れる訳がない。

失われる訳がない。

僕が居るのなら、僕は、僕の中に彼等が見た彼等の事を、決して失わない。

 

「バルパー・ガリレイ」

 

空の手で空の柄を掴む。

魔剣を生み出す。

今までのそれとは比べ物にならないほど確かなイメージを持って。

 

「二度と、僕や、僕達を作らせない為に──」

 

満たされた器を、僕の中の彼等を。

 

「お前を、討つ!」

 

僕『そのもの』を、鍛造する。

 

―――――――――――――――――――

 

私は見た。

部長も、副部長も、イッセー先輩も見た。

祐斗先輩が生み出した『それ』を。

常の先輩が使う魔剣創造にはない、稲妻の如き力の迸りを伴った『鍛造』を。

虚空から創り出される一振りの剣。

それは変わらない筈なのに、まるで違う。

世界の法則を破壊し、新たな法則を力尽くで引きずり出すかの様な。

ありえないものを有り得させる奇跡。

 

「ばかな、そんな、バカな、それは」

 

バルパー・ガリレイが驚愕している。

驚いているのは私達だけではない。

いや、でも、驚かずには居られないのに、私は何故か納得していた。

 

「黒い、エクスカリバー……?」

 

ゼノヴィアさんの呆気に取られたような呟き。

そう、白と黒の稲妻が入り混じった力の奔流と共に祐斗先輩の手の中に現れたのは、誰がどうみてもエクスカリバーだった。

恐らく、誰も見たことのない、オリジナルと比べても恐らく異なると思われる、シンプルながら高貴な装飾の施された長剣。

本来鋼の銀が在るべき所が黒く染まり、その中を赤い装飾が血管の如く貫いた、禍々しさすら感じる黒の聖剣。

 

「ハハハハ! 何? 戦場のど真ん中で幽霊ちゃんと歌い出したと思ったら、そんな聖剣のパチモノ作っちゃって。寒い寒い、お寒いったらありゃしない。その歌も俺好きじゃないしさぁ。もうホント気分悪いからぁ、この四本纏めた聖剣ちゃんでぇぇ、纏めて気分よくバラバラだぁ!」

 

四本のエクスカリバーを統合して出来たそれを振りかぶって斬り掛かるフリードとかいう神父。

その動きは早く、前衛として動いている私でも下手をしたら見逃してしまう程のスピード。

だけど、こんなシリアスな場面だからあえて言わないけど、そのタイミングでその発言とその飛び方は死にフラグ……!

 

「僕は」

 

流れるままの涙を拭いもせず、祐斗先輩が黒いエクスカリバーを振るう。

見えない動きじゃない。

分かり難い軌道でもない。

ただ飛びかかってきたフリードを迎撃する為の一撃。

だけど、

だけど、その一撃は、余りにも『様に』なっていて。

 

「あぁ……」

 

誰かの溜息が聞こえる。

剣の軌道に描かれる黒い輝跡。

それは余りにも美しく、荒々しく、力強い。

古の時代を思い起こさせるその軌道は、エクスカリバーがかつて真の持ち主に振るわれていた頃のそれなのだと、はっきりと理解できる。

 

(つるぎ)になる。部長の、仲間たちの、友の為にある、ただ一振りの剣に」

 

それは、一撃を受けたフリードにもわかったんだと思う。

迎撃の一撃で受けた威力に目を見張り、弾かれる勢いのままに宙を舞い距離を取る。

 

「本家本元だぞこっちは! なんでそんな糞パチもんが斬れねぇんだよっ!?」

 

言いながらも自棄にならず間合いを取る姿は正しく歴戦なんだろうと関心させられる。

剣を振るう、その所作に合わせずに、フリードのエクスカリバーの剣先が枝分かれし鞭の様に伸び撓り繰り出された。

剣士同士の戦いだと思っていれば思っている程に予測しきれない筈の一撃いや連撃。

だけど、無数の剣先は祐斗先輩が振るうただ一振りの黒い聖剣によって打ち払われる。

悪魔としての、『騎士』としての特性を使わない戦い。

それは多分、自分だけじゃない、剣に込められたかつての友との戦いだから。

だからこそ、黒いエクスカリバーの強さが輝く。

 

「それだけ、僕と、同士達の想いが強いのさ。聖剣なんかじゃ、砕けない程に」

 

「そんな理屈でぇぇぇぇ!」

 

枝葉の如く伸びた剣先は既に神速。

この速度には最大まで倍加したイッセー先輩でも対応しきれない。

この場でこの剣に応えられるのは、迷いを断ち切り一振りの剣と化した祐斗先輩ただ一人。

祐斗先輩に決着を付けて欲しいという願いだけが原因じゃない。

誰も追いつけない神速の戦場だからこそ成り立つ決闘。

援護を届かせる事が出来ても、狙って敵を討つ事は出来ない。

見ているだけしかできないその戦いに胸がざわつく。

見守るべきだ。

でも、何かをしたくてたまらない。

何をすればいいか解らないのに。

 

「木場ぁぁぁぁぁッッ! その糞神父とエクスカリバーをぶっ壊せェェェェェェッ!」

 

その答えをあっさりと出した人が居た。

幾つかの戦場を共に駆けた仲間で、ここ数日はエクスカリバー探索の為に祐斗先輩と共に過ごしたイッセー先輩。

イッセー先輩は難しい事を考えない。

エロくて直情的で、でも、だからこそこの場で祐斗先輩に届けるべき物を知っていた。

 

「お前はリアス・グレモリーの眷属で、俺の仲間で、俺達のダチだ! だから、だから、あいつらの想いを、魂を、無駄にすんなぁぁぁぁぁぁ!」

 

言葉をまとめも取り繕いもしない、心に浮かんだ言葉をぶちまけるだけの声。

イッセー先輩に続き、部長も、副部長も、思いの丈を吐き出す。

 

「先輩! ファイトです!」

 

無くてもきっと祐斗先輩は勝つだろう。

でも、それでも、抑えることが出来ない衝動が喉を舌を震わせる。

 

「そんなクッサイクッサイ友情ごっこに、負けるわけがねぇでしょぉぉぉぉッッ!!」

 

天を覆わんばかりの聖剣の斬撃の群れ。

避けることも受ける事も出来そうに無い。

だけど、その場の誰も心配はして居なかった。

 

祐斗先輩の姿が掻き消える。

風に乗っているかの様な速度、何処に居るかは砕かれた無数の斬撃だけが教えてくれる。

雲の裂け目から青い空が覗くように、砕かれた聖剣の隙間に先輩は居た。

 

「これが僕の、僕達の」

 

砕けた聖剣の欠片は全身に裂傷が走っている。

そして、その傷に構わず黒い聖剣を振りかざす。

 

エクス(約束された)──」

 

ありえない姿。

聖剣に切られた悪魔としては明らかに軽傷過ぎるその姿にフリードが目を見開くのが見える。

 

「──カリバー(勝利の剣)────!」

 

一閃。

フリードは振り下ろされた斬撃を確かに受け止めていた。

だが、それは全くの無意味。

受け止めた側のエクスカリバーは砕かれすらせずに断ち切られ、その持ち主は、

────────斬線から発生した極太ビームによって、跡形もなく消滅した。

 

「はぁ!?」

 

誰かが声を上げ、声も出せなかった誰かが驚愕する。

祐斗先輩とかつての仲間の感動の再会とか、そういうのの余韻を纏めて消し飛ばす極太ビーム、紛れも無い破壊光線だ。

どれくらい破壊光線かと言うと、グラウンドに表面が溶解した巨大なクレーターが出来た挙句、その向こう側の校舎が半分砕け散る程破壊光線だった。

恐ろしい威力、でも、聖剣の脅威って、こういうのじゃないと思う。

対悪魔とか、関係ないし……。

 

「見ていてくれたかい、僕らの力は、エクスカリバーを凌駕したよ……」

 

あ、そんな感じのでもいいんですね……。

その言葉を辛うじて飲み込みながら、私は天を仰ぎ見る祐斗先輩の何処か吹っ切れた姿に安堵していた。

 

―――――――――――――――――――

 

だが、当然ながらそこで話が終わる訳ではない。

一連の流れを、空の上から睥睨していた、今回の一件の首謀者が残っていた。

その目下で、砕かれたエクスカリバーと、木場祐斗の手によって生み出された黒いエクスカリバーを目にし、顔面を掻き毟りながら錯乱する狂信者が居た。

 

「黒い……いや、魔の属性を持つエクスカリバーだと? ……ありえない、反発する属性が交じり合う事も、貴様の様な出来損ないが、高々禁手に届いた程度の神器がオリジナルに迫る聖剣を作り出すなど……」

 

強張った表情のまま、目の前の危機に対応するでもなく、ぶつぶつと呟きながら思考に没入していくバルパー・ガリレイ。

祐斗はそんな相手でも油断なく黒いエクスカリバーを構えながら近付いて行く。

全ての元凶に止めを刺す為だ。

復讐に囚われての事ではなく、未来に目を向けて、新たな自分達を生み出さない為に、バルパー・ガリレイを殺害する。

決意を込めた一刀が振りかざされ、その刃の先でバルパーが何かに気付いた様に顔を上げる。

 

「……いや、まて、そうか……。そもそも聖と魔が交じり合う程にバランスが崩れているなら、均衡を取る存在の不在、つまり、魔王だけではなく、神も────」

 

その目は気付いてはならない事実だけを見据え、目の前に迫る凶刃には反応すらできていない。

あとほんの一息で刃は振り下ろされ、バルパーの罪を断罪する。

しかし、それに先んじてバルパーの命を摘んとする一撃が天から落ちてきた。

人間一人を丁度即死させられる程度の光の槍。

 

今この場を支配する堕天使コカビエルの創りだしたそれは、バルパーの言葉を封じる為に投げ放たれたものでは無かった。

言ってしまえば『つい出てしまった』程度のものでしかない。

白熱した格闘技の試合を見た観客が手を振り上げ殴るモーションをしてしまうのと同じように。

ただその矛先に、元から利用価値の無かった、火種にできれば上等程度の感覚で連れてきた下僕が居ただけの話。

 

恐らくはその槍が突き刺さり、木場祐斗が自らの手で復讐を完遂出来なかったとしても何一つ変わらなかっただろう。

今この場にコカビエルが居る。

戦意を滾らせた気狂いの古強者が居る。

最初の目的であるエクスカリバーの打倒を成し遂げ、それどころか自らを真のエクスカリバーであると定義した木場祐斗は即座に臨戦態勢に戻り、バルパー・ガリレイの事など思い出しもしない。

 

故に。

 

光の槍が逸れたのは、逸れる原因となる一撃を繰り出したのもまた、有り得ざる闖入者の気まぐれに過ぎない。

それなりの高度から放たれた光の槍は、中空で横からの衝撃を受けてその矛先を僅かに逸らす。

地面に到達する頃には光の槍はバルパーを貫く事もなく虚しくグラウンドに突き刺さり、木場祐斗の一撃は過たずバルパー・ガリレイの命を刈り取った。

 

異界のエクスカリバーの模倣から繰り出した破壊光線ではない、手に感触の返ってくる明確な殺人。

忌避感は無く、ただただ『成し遂げた』のだという達成感を与える一撃。

 

だがそれは一瞬。

グラウンドに突き刺さった光の槍と、それが本来狙っていた相手を察し、木場祐斗もその仲間も気を引き締める。

そして、この場でその結果を創りだした闖入者に気付けたのは、幾度の戦を越えた古強者である堕天使のコカビエルのみ。

 

「何者だ」

 

喜悦を隠しきらない低く静かな恫喝。

闖入者はこの期に及んで姿を見せず、そして、横槍が無ければコカビエルすら気付け無い程の隠行を駆使している。

コカビエルは優れた戦士だ。

彼の探知能力は特別優れている訳でもないが、並大抵の戦士が潜り抜けられるほど甘いものでもない。

 

何者(なにもん)や言われてもな」

 

問いに応えるように、闖入者が姿を表した。

何もない空間から、水に絵の具を滲ませるように、その姿が顕になる。

それは、赤。

暗い暗い、闇よりも尚暗い深淵の赤。

しかし同時に、これ以上ない程に鮮烈な、血の流れにも似た紅。

 

「ただの、通りすがりの、善良な、名無しの忍者や」

 

結界をすり抜け、物質世界と精神世界の狭間を潜り抜け、世界観という分厚い壁をぶち抜いて、それは現れた。

紅の忍び装束に身を包み、赤い髪を靡かせ、顔の下半分を覆うメタルレッドのメンポから、細長い蛇に似た瞳孔を持つ紅玉の瞳(ルビーアイ)を覗かせた、ステレオタイプの女忍者。

 

「悪の定めに……いや、忍ぶどころか、暴れるで」

 

蛇の舌の如き艶めかしい赤の短刀を構え、校舎の屋上に音も無く降り立つ。

着地と同時に震える胸は、実際豊満であった。

 




きっと日影さんは、休日の朝に起きると特に意味もなくテレビの前でボーッとしてると思うんですよ
ニチアサキッズタイムをパジャマに猫背で半端に口開いたまま半眼でボーッと眺めてる日影さんは可愛いというお話でした

そして突如現れた謎の女忍者。一体何影さんなんだ……
赤いから赤影さんで良いという残酷な結論、ヒィッツは死ぬ
話が飛び飛びなのは仕様、散策パートとかは多分危機管理がしっかりしてるフリードさん(故)の撤退速度が早くてどうにかなった
途中の話があまりにも主人公にもヒロインにも関わりないので省略
苦情が出たら加筆も考えるかも、でも書くこと無いなぁ……
間はほぼ原作通りの流れだと思うので原作で保管を、みたいな感じで
木場君から黒赤リバーが生えた理由は次回地の文で出せたらいいなと思います

次回はまるまる戦闘シーンだから見どころ無いかも
日常のやり取り見たい! って方は次々回か次々々回をお楽しみに

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。