文字通り絵に描いたような、あくまでドラゴンメインの高校生活   作:ぐにょり

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後書きが長く設定も入ってるので余韻を楽しみたい方はなんか設定とかあれこれしてカット推奨


二十二話 レイト・レイト・レイト・ショウ

「にん、じゃ?」

 

突如として虚空から現れた何処か、明らかに見覚えがあるのに誰であるか思い出せない真っ赤な巨乳の女性の発言に、小猫を始めとしたオカ研メンバーは首を傾げる。

いや、忍者という言葉自体は知っている。

だが何故この場面で、こんな場所に現れたのか、何者なのか、敵か味方か、諸々の疑問は一切解決しない。

 

「く、く、ははははははは! そうか、貴様、ニンジャか!」

 

諸々の疑問を無視して飲み込み最初に納得を得たのはコカビエルだった。

歓喜の哄笑と共にその手の中に細く、しかし頑強な光の槍を数本纏めて作り出し、赤い忍者に向けてノーモーションで投擲する。

明らかな殺意と僅かな遊びの含まれた攻撃。

全力ではない、しかし、ある程度の実力が無ければ避けることは出来ない、そんな速度で槍が忍者に迫る。

 

通常の投擲の手順を省略した僅かに不意打ち気味のタイミングで投げ付けられた槍。

並の戦士であれば避ける素振りすら出来ずに貫かれていただろうその槍を、手にした赤い短刀で斬り飛ばした。

切り飛ばされた光の槍が校舎の上で爆発、その爆発に押されるようにして忍者は校庭に身を投げだした。

 

宙を舞う忍者目掛けて容赦なく光の槍を投擲するコカビエル。

柱の様に太い槍ではない、細く鋭く硬い槍による弾幕。

翼なき者では身動きの取れない筈の中空にて、忍者は文字通り空を蹴り槍の射線から離れ、通り過ぎていく光の槍に向けクナイ・ダートを投擲。

砕ける事も溶ける事もなく、光の力の塊である光の槍に当然の如く突き刺さったクナイ・ダートは、その威力を持って光の槍の軌道をねじ曲げた。

音速の数倍の速度で移動する光の槍は、減速しながらグラウンドに残る生存者を避ける様に突き刺さった。

 

「あのニンジャは君達の味方なのか?!」

 

一瞬の攻防の中、ゼノヴィアが見たのは屋上に立っていた忍者の視線だった。

光の槍を切り捨てる一瞬前、避けるために飛び出そうとした忍者の視線が光の槍の軌道と校舎の位置を見比べ、校舎に被害が出ない様に槍を斬り飛ばしたのを。

今の槍に対するクナイ・ダートにしても、忍者が攻撃を避けるだけならもっと余裕を持って避けられた筈だ。

忍者は明らかにオカ研を守る動きをしていた。

 

「まって! あれは本当に忍者ってことでいいの!?」

 

対するリアスは未だ忍者が何の脈絡もなく現れた事の戸惑いを捨てきれていない。

常の彼女であれば、とりあえずは第三軍として考えを纏める事も出来たのだろうが、木場祐斗の見せた黒いエクスカリバーとその破壊光線による混乱、更に忍者の装束に施された認識を阻害する術法により思考を鈍化させられている為に対応しきれていない。

 

仕方があるまい。

こと日本において、日本に派遣される悪魔の、しかも貴族の子女ともなれば、忍者に対してこのリアクションを取ることは仕方がないのだ。

忍者、それも超人的な身体能力と超能力染みた術を使いこなす忍者。

それは彼女たちに取ってはフィクションの中の存在でしかない。

 

だが、一部、上層部の中でも極限られた者達にしか知らされていない事実がこの日本には存在している。

この日本では、かつて半神として崇められ恐れられていた超常の存在が居る。

それこそが────ニンジャ。

現代に伝わる金閣寺のモデルともなったと言われている古の時代の建築物、キンカク・テンプルにて一人残らず謎の死を遂げたと言われる伝説上の存在だ。

 

現代においては純粋な生き残りは居ないと言われ、一部その血と技を受け継ぐニンジャの末裔──忍者(にんじゃ)(しのび)が密かに群生しているのみと伝えられている。

そして、その末裔程度であれば脅威でなく、逆にその祖先の存在を知る事で無用な恐慌を起さぬようにという配慮から厳しい情報規制が敷かれているのだ。

現実に存在するニンジャという超常現象の体現者を目撃した悪魔の若者としては一般的な戸惑いだと言えるだろう。

 

「赤龍帝、力を限界まで上げてこいつに譲渡しろ」

 

宙に浮いたまま、コカビエルがイッセーの方を見ることもせずに告げる。

赤龍帝の籠手の持ち主であるイッセー自身の力は一切考慮せず、眼下に居る忍者に対してのみ向かう敵意。

激高し叫ぼうとするリアス、調息と共にコカビエルに全力を持って黒いエクスカリバーで斬り掛かる準備を整える祐斗、全体を見渡し状況の推移を見極めようとしている朱乃。

エクスカリバー・デストラクションを地面に突き刺すゼノヴィア、今にも竜化せんと試み、しかしきっかけを掴めずに赤龍帝の籠手を開放し損ねているイッセー、その背後に周り呪文の詠唱を始めた小猫。

 

一丸になりコカビエルに立ち向かわんとしている対エクスカリバー同盟とも呼べる集まりに先んじて動いたのは、やはり赤い忍者だった。

リアスが何かを叫ぶよりも早く、祐斗が調息を終えるよりも早く、赤い忍び装束が霞と消える。

残像だ。

 

実体は即座にコカビエルの目の前に姿を表し、赤い刃を見せつけるような速度で振りぬく。

ギリギリでコカビエルの喉を掻き切るかどうか、という位置への斬撃。

見える速度で放たれたその一撃をコカビエルは瞬時に生成した光の剣で受け止める。

コカビエルが咄嗟に、無意識の内に身体を一歩分だけ引いていたのは戦狂いの身に染み付いた条件反射からか。

その条件反射は、光の剣をあっさりと切り裂き迫る赤い刃を既の所で避けきらせた。

 

口元の笑みを深くしながらの反撃。

既に切り裂かれた光の剣は再びその姿を表し、しかし、振るうべき相手も目の前から消えている。

コカビエルから見て、グレモリー眷属と聖剣使いの居る方角とは反対側。

そこに消えた忍者は悠然と佇んでいた。

 

「わしはいらん。あんたが受けたらええ」

 

指先で短刀ではない何かをくるくると弄び、忍者はなんでもないように、胸部の盛りとは正反対な平坦な口調で告げた。

手の中には赤い短刀と、一本の黒い羽。

見れば解る、それはコカビエルの羽だ。

 

ゴウランガ!

謎の赤い忍者は、あの一瞬の攻防の内に、コカビエル本人に気取られぬ様に、背の翼から一本だけ羽根を引き抜いてみせたのである。

貴様は攻撃を受けきったのではない。あくまでも見逃されただけなのだ。

殺そうと思えば何時でも殺せた、そう言外に言っているに等しい。

 

「ふ、ふふふははははははははははは! 成る程、これが貴様らの言う『ワザマエ』というものか! 聞きしに勝る、血が滾る!」

 

普通の堕天使であれば激昂しただろう。

だがコカビエルは違う。

コカビエルにも確かに誇りはある。

だがそれは心躍り血が沸き立つ戰場においては何の意味もないという事を知っていた。

誇りだけを胸に生きていく事が出来ない、許容できないからこそ戦争を求めたコカビエルにとって、この状況はまさに自らが臨んだものだ。

怒る道理があるだろうか。喜ばぬ道理があるだろうか。

喉が裂けんばかりに哄笑を上げるコカビエル、その姿を見れば答えは一目瞭然。

 

「そいつはどーも。けど、ええんか? わしにばっかり気ぃ割いて」

 

校庭のど真ん中、羽根と短刀を手に堂々としたニンジャスタンディングを晒している忍者がそう言うのと、調息を終えた祐斗がコカビエルに斬り掛かるのは同時だった。

何時跳んだか解らない程に流れるような跳躍と、空気を切り裂く音すら生まない刃筋の通った美しい振り。

一本の剣になるという言葉に相応しい、無駄なく躊躇の無い必殺に最も近い一撃。

だが、精神が狂ったとしてもコカビエルは歴戦の戦士だ。反応できない訳がない。

 

「エクスカリバーの紛い物、いや、禍き物のエクスカリバーか!」

 

鋭く速く、優れた技術によって裏付けされた優れた斬撃。

その一撃一撃がほんの少し前までの木場祐斗のそれとはかけ離れた威力と速度を伴う正しく必殺剣だ。

見る者が見れば、いや、相対するコカビエルこそが誰より先にそのカラクリに気が付く。

一撃一撃が祐斗の肉体的限界を超え、その度に全身の細胞が再起不能にまで破壊されている。

 

「そうだ! 僕の、僕達の力、王に勝利を捧げる(つるぎ)だ!」

 

しかしその度、祐斗の肉体は驚くべき速度で超再生を繰り返しているのだ。

この現象は今この時、真正面から祐斗の連撃を捌いているコカビエルにしか気付けないだろう。

この戦いが終わった後、仮に木場祐斗が生きていたのであれば、そこには正しく木場祐斗が頭の中で思い描く最高の速度と力を再現し得る肉体を得た新生木場祐斗が生まれているのだから。

 

「だが、貴様等だけの力で無いのならなぁ!」

 

ただ魔剣創造という劣る力でエクスカリバーを砕けるまで、幾らでも戦いを続けられる様に、と、そんな程度の理由で埋め込まれたエクスカリバーの鞘(アヴァロン)による護りの力。

それは聖剣の因子と禁手に至った魔剣創造という神器を鞘の内側に合わせて新たな異端の聖剣を作り出し、一人の剣士の肉体を高みへと導く。

しかし、それを振るうのは決意を新たにした『だけ』の木場祐斗の心でしかない。

剣を振るう才能に優れ、師に恵まれたとはいえ、その鍛錬の期間は高々十数年。

コカビエルが剣士でなくオールラウンダーの戦士であるという事実を鑑みても、その戦闘技術には埋め難い差が存在する。

 

「付け焼き刃の力がぁっ! この俺に通用するものかぁ!」

 

叫びと共に、技術を置き去りに力と速度だけが肥大化した祐斗の剣を、コカビエルの光の剣が押し込んでいく。

真正面から打ち合えばヒビ割れ砕けるはずの光の剣はしかし、狂気的なまでに研ぎ澄まされた戦闘技術によって弾き返される。

力のベクトルを一瞬で見切り逸し放たれる、距離を空けるための突き飛ばしを祐斗の技術は防ぐことも避けることもできない。

 

「ぐぁっ!」

 

距離が空く。

剣は届かず、しかし投擲武器であれば十分に射程距離内。

コカビエルの手には光の剣が変じた短槍。

見せつけるように一瞬勿体つけてから投げる。

祐斗は吹き飛ばされながらもそれをエクスカリバーで切り払う程度の事しかできない。

仮に、木場祐斗という悪魔の中に龍のそれと同列の魔力炉が存在すれば、真名開放による破壊光線でコカビエルを焼く事も出来たかもしれない。

しかしそれは仮定の話だ。

祐斗の魔力は常人よりは優れているが、真名開放を短時間の間に繰り返せる程ではない。

 

「雷よ!」

 

しかし距離が開いた為に今まで躊躇われていた遠距離からの援護も入る。

リアス・グレモリーの女王である姫島朱乃の雷。

更には密かにイッセーの倍加を受け力を増したリアスの魔力弾。

そのどちらもが並の堕天使を一瞬で蒸発させうる威力を備える。

 

「ああ、面白い、面白いなぁ! 魔王の妹!」

 

コカビエルは天から降り注ぐ雷を翼の一振りで容易く打ち消し、迫る魔力弾の豪雨の中を突き進む。

全てを受けている訳ではない。

迫る弾幕を、両手に構えた光剣で切り払いながら突き進む。

その身で受ける魔力弾は最小限のものだ。

仮に、ここまでの戦いで見た物が不足していたなら正面から受けただろう。

だが、コカビエルはリアス・グレモリーの眷属達を高く評価していた。

龍のモザイクと化し不安定ながらも高いレベルで神器を使いこなす赤龍帝、格闘戦を熟しながらも未知の魔法を用いて戦う戦車、挙句の果てに神器からエクスカリバーの修復品をも超える真に迫ったエクスカリバーを生み出した騎士。

リアス・グレモリーとその眷属は、コカビエルにとって真に闘争に相応しい『敵』となったのだ。

 

「受けて見せろ」

 

弾幕を掻い潜り、服の端をボロボロにし、全身に傷を負いながら、それでも急ぐこと無くゆっくりとグラウンドのリアスに、朱乃に近付いて行くコカビエル。

見ように依っては聖母の元に降臨する天使の図に酷似しているのは如何なる皮肉であろうか。

その手に握られた光剣が狙うのはリアスか、それとも朱乃か、はたまた二人に守られる様に立つアーシアか。

だがそれを遮るように、今まで沈黙を保っていた聖剣使いが横合いから斬り掛かる。

 

「くたばれ!」

 

「! ほう、貴様、デュランダル使いか!」

 

聖剣使い──ゼノヴィアが手にしていたのは破壊の聖剣ではない。

今に至るまで砕かれる事無く現存していた聖剣の内の一振り、破壊の力に特化した聖剣であるデュランダルだ。

触れるものみな斬り刻むその威力は、人工因子に頼らない天然の聖剣使いであるゼノヴィアにすら制御しきれず亜空間に封印されていた。

周囲の被害を考える必要のない今だからこそ全力で振るう事ができる。

その太刀筋も破壊の聖剣を使っていた時とは比べ物にならない程に鋭く早く、何より重い。

 

「だが、使い手がそれではなぁ!」

 

鋭く、早く、重く。

しかし、それでもコカビエルに届かない。

数万の時を生き、その生の全てを戦に傾けたコカビエルを打倒するには至らない。

だが、それを理解できない程に判断力が無いのであれば、ゼノヴィアは聖剣を預けられるエクソシストにはなれなかっただろう。

故に、全力を込めた初撃すら囮。

 

「知っているとも! 我が身の未熟など!」

 

鍔迫り合いをする事も無く通り過ぎたゼノヴィアが叫ぶ。

その対角線上にはエクスカリバーを構え直した祐斗。

伝説の聖剣の新たな担い手達による連携攻撃。

だが、二人の担い手はそれでも足りないと感じていた。

即席の連携であるというだけではなく、単純にコカビエルの戦闘技術が優れているから。

二人で斬り掛かったとして、同じようにいなされるだけではないか。

僅かな躊躇、そこを突かないのは、敵と認めながらも未だに遊び気分の抜けていないコカビエルの油断の現れ。

いや、余裕と言うべきか。

この場にその隙を突くことの出来る実力者は居なかった。

────本来であれば。

 

妖影縛(シャドウ・ウェブ)

 

静かに呪文を解き放ったのはイッセーの背後に隠れていた小猫。

未だ乱戦時の呪文選択速度と精度に自信の無い小猫が、とりあえず迷う状況で最初に唱えようと決めていた呪文だ。

それが如何なる術であるかは足元を見れば解るだろう。

月明かりと燃え盛る校舎に照らされて生まれた小猫の影から、コカビエルの影を貫く針の様に伸びた影。

呪文習得から今に至るまでの期間、独自に習得した新術である。

術者の影に貫かれた相手は動きを封じられる、単純でわかりやすい拘束魔法だ。

 

「喰らえ!」

 

力を込めれば振りほどけないでもない拘束。

だが、力を込めるまでの一瞬で済まない隙は目に見える好機。

視線を交錯させた祐斗とゼノヴィアはコカビエルに同時に仕掛ける。

動けないコカビエルをただ斬り付ける、最速最高の一撃。

喰らえばコカビエルとてその身を両断され死に至るだろう。

 

死を予感させる一撃。

戦に明け暮れる日々を思い出させる一撃は、長い平穏に鈍っていた勘を、錆び付いていた闘争本能を取り戻させるには十分であった。

 

「な、ん、とぉぉぉぉぉっっッ!!!」

 

生み出される光剣は三本。

二本は前後から迫る黒いエクスカリバーとデュランダルの斬線を逸らすように配置され、一本は頭上に生み出された。

二刀が到達するよりも早く頭上の光の剣が砕け、破壊力を失ったただ眩いばかりの光が校庭を照らす。

照らされた影が消え戒めは解かれ、光に目を焼かれた二人の剣士は僅かに狙いを逸らす。

光の剣によって僅かに逸らされていた斬撃が更にズレ、コカビエルはそれを身を折りたたみ回避する。

斬撃が捉えたのはコカビエルの黒翼のみ。

決して軽いダメージではない。

 

「はは、はははははっははあっは!!」

 

十枚あった羽根を減らされ、しかしコカビエルは笑う。

予想外の、想定外の強さ。

魔王を呼び寄せる為の餌程度に思っていた相手が見せる予期せぬ強さは、コカビエルの闘争本能に火を付けるに十分すぎた。

半ばから切り落とされた黒翼数枚。

未だ赤い血の流れ落ちるその断面を、自らの光で焼き潰す。

瞳にはより濃くなった狂気が宿り、手負いの獣染みた危うさを見せている。

その目は見えているのに見ていない。

目の前の光景を認識しながら、コカビエルは何時かの血沸き肉踊る戦場の中に居た。

純粋な神の戦士だった頃に立ち戻ったのだ。

 

両の目は連動せずぎょろりと二人の剣士を捉え、残身中のその背に向けて光の剣を射出。

同時に残りの羽根で空へ上がり射線を確保。

まるで出鱈目に、そう見える程に光の力を乱れ撃つ。

 

「お、おぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

悪魔を消し去る光の雨の中、雄叫びと共に赤龍帝の拘束衣を発動させ、半竜と化したイッセーがコカビエルに迫る。

剣を振るう度に揺れるゼノヴィアの巨乳、突如現れた赤い忍者が見せた巨乳の揺れ、より危険度を増したコカビエルと来て、ゼノヴィアに向けて射出された光の剣がそのインナースーツを切り裂きバストトップを露わにした事で、神器の力を開放するに至るまでにテンションが上昇したのである。

怒涛の連続倍加により限界まで強化された半竜の爪が、無数の光の剣を砕きながらコカビエルに振り下ろされた。

工夫の欠片もなく、ただ速さと重さだけは今までで一番と言える一撃。

光の剣をばら撒きながらでも避けられる。

 

霊呪法(ヴ=ヴライマ)

 

だが、避けようとした先に巨大な土塊の巨人が立ち上がった。

これもまた小猫が発動した呪文によるものだ。

土の精霊に語りかけ形を成し、低級霊を憑依させることでゴーレムを作り出す魔法。

死霊を扱う関係上天使などの聖なる力を使う相手には相性が悪いが、単純に時間を稼ぐだけなら打って付けだ。

小猫は安全地帯を求めて走りながらこの術を連発し、砕かれる先からゴーレムを補充し、コカビエルの回避を妨害していた。

ゴーレムを打ち砕き、既の所でイッセーの爪や尾による攻撃を躱しながらコカビエルは苛立つ。

……これが、ほんの少し前、全盛期に立ち返る前のコカビエルであれば、笑いながらゴーレムとイッセーを同時に相手取っていただろう。

 

だが今のコカビエルに喜びはあっても遊びはない。

遊ぶ必要が無い程に、彼は彼の求めた戦場(いくさば)にのめり込んでいた。

故に彼の脳細胞は瞬時に最適解を導き出し、その通りに動いた。

 

「邪魔だ。死ね」

 

激しくなく、しかし粘性を持つほどに濃い喜びと殺意を込めた宣告。

足止めでしかない光剣のばら撒きではない、確かな殺意を込めて、特大の光の槍が小猫に迫る。

それも、光剣とは比べ物にならない速度で。

無数の光の柱が小猫を押し潰さんと飛来する。

 

「小猫!」

「小猫ちゃん!」

「小猫さん!」

 

リアスは、朱乃は、アーシアは叫び、しかし動けない。

リアスは倍加無しには光の剣群を潜り抜ける程の魔力は出せず、子猫との距離は離れすぎている。

朱乃も同上、アーシアに至ってはこの場面でできる事がない。

 

「小猫ちゃん!」

 

叫び、騎士の速度を駆使し、アヴァロンの護りを駆使し、光の剣群を抜ける。

だが、目の前に立ち塞がるのは背を向けた無数のゴーレム。

小猫が戦うために、イッセーを助けるために呼び出したゴーレムが仇となり、その手は届かない。

木場祐斗は小猫に届かず、助けられない。

 

「小猫ちゃん!」

 

半竜と化したイッセーが叫ぶ。

しかしその身体はコカビエルに向き、爪を振り下ろした体勢のまま小猫に身体を向ける事すらできない。

龍の耐久力に任せた過度な倍加は、身体を蝕む事はなくとも万全の制御を許さない。

兵藤一誠はその力の余り小猫の危機を視界に入れる事しかできない。

 

リアス・グレモリーとその眷属が動けない中、胸元も隠さずにデュランダルを構えたゼノヴィアは見た。

叫ぶこと無く、助けに動く事もなく。

それは未だ教会の一員として動くゼノヴィアだから、助けるべきか、そう逡巡したゼノヴィアだからこそ見ることが出来た光景だ。

 

この戦場で、誰もが忘れ、しかし、恐らく確実に小猫を救えたはずの、赤い忍者の挙動。

いや、挙動は見ていない。

赤い忍者は動かない。

ゼノヴィアの様に、自分側の戦力として助けるべきか、などという逡巡すら無く、赤い忍者は降り立った時とさして変わらないニンジャ・スタンディングのまま。

視線は僅かに小猫を向く。

 

余りにも、余りにも冷たい視線。

冷たい、という表現が適切かどうか。

冷たさすら感じられない虚無の視線。

一瞬だけ向けられた情の無い視線が、興味を失ったかのように虚空へと逸らされた。

 

冷たいな、と少しだけ思い、自分もそう変わらないと思い直す。

せめて一時は共闘した仲間の死を看取ろうと、赤い忍者から、視線は再び小猫へ向かう。

 

誰もが、その視線を小猫に、その最後の瞬間を捉えるように向けていた。

故に、その場の誰もが、それを見た。

 

―――――――――――――――――――

 

迫る光の柱。

視界を文字通りに埋め尽くす、悪魔を殺すだけの聖なる暴力の塊。

脳裏に今までの長いようで短かった人生が一瞬で過り、私は目を閉じる。

諦めとか諦観とか、少し前までは木っ端悪魔だった自分にしては良くやった、だとか。

そんな言い訳がましい思考は一切無かった。

 

あったのは、恐怖。

 

目の前に突きつけられた、輪廻転生すら許さない悪魔に対する絶対否定の力を前に、私はただ反射的に瞼を強く閉じるしかなかった。

痛みは一瞬だろうとか、そんな都合のいい楽観は無い。

痛くないからどうだというのか、死んでしまえば、それで全ては終わり。

楽しいことも苦しいことも無い、死後ですらない『無』への恐怖。

それに、身につけた力は、一切関係なく、私は恐怖するしかなかった。

 

姉はどうなっただろうか。

狂った姉でも、自分が死んだら悲しむだろうか。

……どうにか、したかった。

捕まえるのか、私自身が決着をつけるのか、どうするのかはわからないけれど。

そんな後悔ばかりが頭に浮かんだ所で、私は、私の思考が未だに続いている不思議に気付く。

 

「……生きて、る?」

 

呟き、気付く。

必死で走り回りながら、最大限魔力を込めてゴーレムを生み出し、魔力が度々枯渇しかけていた反動でぼやけていた感覚が、ゆっくりと元に戻る。

温かい。

温かい何かに、自分ではない体温に気付く。

私の身体を抱き抱える誰かの体温。

 

「ええ、生きてますよ。塔城さんは本当に運が良い」

 

声に、瞼を開く。

視界に最初に映ったのは、星空。

いや、星空を、宇宙を押し込めたような深い深い黒。

その中に、煌めく星を散りばめた、黒い宝石じみた瞳。

 

「遅刻、ですよ」

 

誰より乗り気で動いていた癖に。

一番遅れて、こんなタイミングで来るだなんて。

文句と共に抓るつもりで、頬に手を伸ばし、

 

「すみません。では、ここからは此方の番という事で。……お疲れ様でした。ゆっくり休んでいて下さい」

 

伸ばした手を握られながら、薄い笑みと共にかけられた言葉を聞き、私は今度こそ、本当に意識を投げ出した。

 

―――――――――――――――――――

 

混沌、虚無。

一目見た印象はそれだろうか。

あらゆる色を、あらゆる光を混ぜ込んだ様な、一言で言い表すことの出来ない色彩の何かが、光に埋め尽くされた駒王学園のグラウンドにぽつんと現れた。

人一人を包み込める程度の球体。

それは叩きつけられる光の柱を飲み込みながら微動だにしない。

小猫の居た場所から、動かない。

 

「遅かったなぁ」

 

赤い忍者が、街で出会った知人にそうするようにのんびりと声をかける。

 

「ごめん、ちょっと準備に時間がかかって」

 

混沌球の中から、そんな声が上がる。

その場の誰もが、いや、コカビエルを除く誰もが聞いたことのある声。

その声もまた、光の剣が暴風雨の如く荒れ狂っている現状を意にも介していない。

 

「何だ、貴様は」

 

剣の射出を止め、コカビエルが改めて数本の光の剣を手元に作り出しながら問う。

問いに応えるように球が解ける。

中から現れたのは、赤みがかった黒髪、黒い瞳の、何処にでも居るような男。

 

 

「何、名乗る程のものではありません」

 

 

両脇に肩掛け鞄を下げ、目を閉じてぐったりした小猫を腕に抱いたまま、男────読手書主の視線は、真っ直ぐにコカビエルを貫いた。

 

 

「ただの部外者ですよ。奉仕活動中のね」

 

 

 




戦闘シーンは頑張ってもこれ
仕方ない
ちなみに今回これだけ頑張ったけど、次回で台無しになる
この手の身も蓋もない主人公の戦いってそんなものじゃないでしょうか

諸々解説と紹介

★木場祐斗
薄幸のイケメン、実はノンケ
主人公の手によって聖剣の鞘を組み込まれた
埋め込まれたのが聖剣の鞘である事を知ったのは埋め込まれた後である
本来の持ち主以外には薄い回復能力しか齎さないエクスカリバーの鞘だが、彼の魔力で正常稼働する様に調整されている為、回復力は魔力が続く限り最盛期のアーサー王(型月世界準拠)並
肉体の破損を気にせず全力以上の力で動けるばかりか、それで壊れた身体は鞘が常に最適な状態で回復してくれる
ある程度までは戦えば戦うほど強くなる
なんだかズルいほど強い
でも戦上手なコカビーには勝てない
剣を(つるぎ)と呼ぶようになった
たぶん戦場の事を戦場(いくさば)とか言い出す枠に片足突っ込む

★黒いエクスカリバー
木場祐斗の体内に組み込まれた異世界のエクスカリバーの鞘によって生み出された聖剣
基本的に聖剣の因子と鞘の中の異世界パワーとかが上手いこと組み合わさり、禁手である双覇の聖魔剣の力で初めて形成できる
材料が聖剣因子と鞘内部世界の諸々である為、木場祐斗はこの剣を一本だけしか生み出せない
が、禁手を鍛える事で、この黒いエクスカリバーを使いながら他の聖魔剣を作り出し操る程度のことは出来るようになるかもしれない
あくまで再現であり、黒いのも聖魔剣で作った影響、見た目以外はオルタカリバーではない
この世界の聖剣ではない為、対悪魔特攻は因子分しか無い
それでもくっそ強い

★部長&副部長
巨乳
高速で接近戦をやられると援護射撃ができない
後衛も反射神経とか動体視力が無ければ置物になるという教訓を残してくれた

★アーシア
並盛り
回復役に無理を言ってはいけない
今回置物だが何の問題があるだろうか

★イッセー君
ノンケ、女好き
禁手っぽいパワーを開放することで本気コカビエル相手に千日戦争ができるくらいに強くなる
加速力と馬力はあるが旋回性能がクソ
真の禁手化が待たれる
現状、準禁手化開放までにはテンションゲージを上げる作業が必須
スイッチ姫導入が切実に待たれる

★小猫さん
平坦な美少女
一定ダメージで死ぬ前に回収されるレーティングゲームでもないと流石に竜破斬に仲間を巻き込んだりはできない
というか、結界強度的に竜破斬は無理そうだと最初から諦めてた
接近戦に持ち込めたら切り札の一つを使う予定だったが、飛び道具で始末できる相手に近づくバカは居なかった
無事に帰れたら崩霊裂(ラ・ティルト)とか覚えたいと考えてる
それでも足止め要員として超優秀である事が今回明らかになった
なお防御魔法の類は無いに等しいので本体を狙われるとクッソ弱い淫獣と貸す
捕まってマタタビで作った猿ぐつわとか噛まされて薄い本を熱くする展開が待たれる
今回ラストで吊橋が恐ろしい勢いでグラグラ揺らされた模様

★ゼノヴィアさん
巨乳
居たの? ってなるくらい影が薄い
でも部長と副部長よりは頑張ってるんじゃないかなって
パワータイプは周りが急にパワーアップすると割を食らうがこいつも例外ではない

★聖剣使いのツインテの方
まぁまぁ
事前に怪我して適当な場所でスヤァ……ってしてる
超蚊帳の外
原作より速い本編合流とか夢見ちゃいけない
もちろん聖剣は奪われた
起きたら帰り支度をしよう、な!

★コカビエル
こいつはノンケではない
強い、絶対に強い!
フリードが死ぬ前に出したケロちゃん達が原作よりもよほどあっさり倒されたのでグレモリー眷属への評価は最初からかなり高め
そもそも原作だと主人公達がほとんど手も足も出ずに負け、乱入してきた白龍皇によって倒されてるので本来なら負けイベとして扱ってもいいくらいには強い
数々のオリ主にサンドバッグにされているが、舐めプ無しならこれくらいは行けるんじゃないだろうか
でもアザゼル先生より弱いならこんな強いのはおかしくね? という意見もある
逆説的にアザゼル先生はもっと強いし、つまり白龍皇も更に強いと思われる
次の話が命日

★赤い忍者
巨乳な謎の美少女
メンポで隠されていない顔上半分は超美人だけど、その正体は謎
全身真っ赤な忍者装束で髪も瞳も赤い
命駆でも上半身の一枚しかパージしない
パージ後はカグラの鈴音先生の忍者装束を紅くした感じになる
今回はオカ研を助けに来た訳ではなく、主人公がこの場に現れるまで適度に時間を稼ぎに来た
予想よりオカ研が頑張ったのでほとんど見学者
逆にオカ研優勢だった場合はコカビエルに助太刀していた
一体何者なのかはもちろん不明
カラバリがある
彼氏と同居中
正体は不明、いいね?

★赤い短刀
柄から刃先まで容赦なく真っ赤
血のように赤い
餓骨杖という立派な名前があるが、使ってる本人もその名前はうろ覚えである
基本的にどんな形にもなる万能武器だが、連接剣(ガリアンソード)にもなる短刀を基本形として使用される
エクスカリバーくらいはすっぱり斬れる

★この世界の忍者事情
忍殺系ニンジャが居たという事実は無い
が、現存する忍者はその大半が神話勢力でも捕捉しきれない程の隠密性を持っている
能力的にはシノビガミ系の忍者が主流
落第忍者系列の忍者はシノビガミ系列の下部組織構成員
主人公、及びその父はシノビガミ系列のハグレモノに分類される


次回たぶん呆気無く決着
場合によってはエピローグとニコイチされるかも

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