文字通り絵に描いたような、あくまでドラゴンメインの高校生活 作:ぐにょり
右に習う感じで同じようで違うネタをしようと思ったけど、肝心のニトロプラスブラスターズはまだ届かない……
まぁPS4はまだ買ってない訳ですが、これは仕事帰りに適当に買ってこようと思います
なんだかんだで沖田も出ましたし、ボーナス様々ですね!
「
魔力をより攻撃的な形に先鋭化した魔術でグローブを覆い、空から降る魔術の弾幕を掻い潜りながら肉薄し、魔術師の一人を殴り抜ける。
振るった拳が普段の拳撃とは比べ物にならない程に容易く魔術的な防護が掛けられたローブごと魔術師を撃ち貫き、衝撃波が内部から肉体を破裂させた。
魔術の矛先が明確に私に向くのを感じるよりも早く、先の拳が着弾するよりも早く詠唱を始めていた魔術を開放。
「
悪魔の翼ごと包み込む様に展開された風の結界が魔術を弾き乱反射させ、周囲の魔術師にいくらかのダメージを与えた。
そのまま加速。
風の結界を利用した体当たりで進行方向の魔術師を跳ね飛ばし、更なる密集地帯へ。
詠唱、呪文を刻む私の口元を見た魔術師達が結界を強化するも、それを無視。
翔風界を解除し、加速を消さない様に翼を広げ、風を捕まえ浮力を得て、再び翼を畳む。
結界を強化して受けようとした魔術師達の背後に回りこみ、私に意識を向けていなかった魔術師を魔術無しで殴り飛ばす。
「雷よ!」
更に高い空から副部長の声。
取り逃しは無い。
私一人が戦う必要はないのだから。
ダンッ、と、校舎の壁を蹴って地面に着地。
振り返れば未だその数を多く残す魔術師、テロリストの群れ。
どれだけ倒しただろうか、と考えて、終わるまで倒し続けるから数えるだけ無駄だと思考を切り捨てる。
悪魔として、翼を持ち空を飛び、人間と比べて多量に魔力を運用できるからこその魔術の使い方も理解出来てきた。
不謹慎な話ではあるけれど、ここで慣らし運転を済ませられるならそれもいい。
この場の負けは絶対無い。
そう確信できるだけの材料が私達にはあった。
三大勢力のトップ陣が居るだけで既に安泰と言っても良く、学校周辺を警護していたその軍勢も加勢してきている。
テロリストを無尽蔵に召喚していたらしい魔法陣も消えて増援も無く、状況は一方的だ。
「……不気味です」
ギャー君は無事に救出された。
イッセー先輩の話では、一足先に救出に向かっていた読手さんによって救い出されていたらしい。
つまり、今、読手さんは手隙の状態である筈なのだ。
だというのに、如何にも殺しても文句が出無さそうな、彼好みの敵が溢れている場所に彼が居ない。
部長が言うには部室でテロリスト達の尋問を行っているとのことだけど、この非常時、そして読手さんにとってのフィーバータイムにそんなことにこれほどの時間を掛けるだろうか。
さっさと終わらせて、笑いながらアメリカ人が考えた間違ったイメージの忍者みたいなハイスピード惨殺アクションを始めそうなものだけど……。
「
思考の為に少し鈍った私に向かってくる魔術を、グラウンドの土とその下の粘土で作ったゴーレムを盾にしてやり過ごす。
「周りの攻撃から私を庇って」
手短に命令を下し、新たな呪文を唱え始めた所で、学校にも、そこに襲撃してきたテロリストにも似つかわしくない獣の咆哮が響く。
……この声は、イッセー先輩。
ゴーレムの影から見上げる空に、赤い龍と白い鎧が舞っていた。
まるで闘牛と闘牛士の様な迫力と技術がつめ込まれた戦い。
あのレベルの速度で動き回られると、何時ぞやのレーティングゲームのように周囲の味方を巻き込む覚悟で打たない限りは当てようもない。
レベルが違う戦い。
少なくとも、私が介入できるようなレベルには居ないのだろう。
「
空の魔術師達の間に生まれた光の玉が爆発し、光の玉を破裂させながら生み出された炎の舌に焼きつくされ、炭化した死体が地面に落下し砕け散ったのを確認しながら、思う。
彼なら、あの戦いに、どんな方法で横槍を入れるのだろうか。
―――――――――――――――――――
が、と、大気を引き裂く大音声と共に赤い龍が空を登る。
人と龍の中間地点の様な姿ではあるが全体の印象に不和は無く、一種完成された独自の進化を遂げた生物特有の美すら感じられた。
その半龍が重力に逆らい、天に在る白い鎧の戦士へと肉薄する。
風を切り裂く翼が、その身を鎧う鱗が、その全てが加速を得ることで暴力に変わり、限界まで行われた倍加はその暴力を明確かつ阻むものの無い破壊力へと昇華させた。
それこそ、別の場所でアザゼルが戦っている魔王の血筋の者であれば、倍加からの突撃の一度で原型を留めない大量の死肉に変わってしまうだろう。
無論、当たりさえすれば、の話ではある。
いや、例えばそれは先に例に上げた魔王の血筋……カテレア・レヴィアタンであったなら考慮する必要すら無かっただろう。
イッセーの倍加は全身に満遍なく行き渡り、魔力に始まりその肉体の一片に至るまで能力を倍加されている。
無論、知性などの純粋に倍加の対象にしにくいものは例外ではあるが、少なくとも、魔力と筋力に依存する移動速度は明確に倍加の影響を受けている以上、破壊力だけでなくその速力もまた尋常のものではない。
今の半龍と化したイッセーは、軽く羽撃き空を行くだけで音の壁を容易く突破する。
驕り高ぶり実の伴わない血筋だけの悪魔であれば既にイッセーの敵足りえず、その破壊力の的でしかない。
だが白い鎧──白龍皇には届かない。
元々、白龍皇と赤龍帝の戦いは互いの能力の関係上、戦闘力が拮抗した場合は千日手になりやすい。
しかし、これはそんな次元の話ではない。
純粋に、赤龍帝であるイッセーの戦闘力が、白龍皇であるヴァーリに劣っているのだ。
例えば攻防における読み合い、例えば攻撃のバリエーション、例えば禁手の完成度……。
戦闘に必要な技能を総合的に比較した場合、イッセーの力はヴァーリには遠く及ばないのだ。
あらゆる面で負けている訳ではない。
例えば、身体能力。
筋力や骨格強度という面で言えば、イッセーの肉体は確実にヴァーリのそれを遥かに上回る。
白龍皇ヴァーリ・ルシファーが如何に魔王の血を色濃く継いだ戦いの申し子だとしても、種族としては魔王と人間のハーフでしかない。
魔王の血脈でありながら神滅具を宿すという奇跡こそ体現しているものの、それだけは変わることのない真実。
対するイッセーは、生まれこそ何の変哲もない、戦闘面では何の才能も持たない平凡な人間ではあったものの、今の肉体はほぼ人型に押し込められた龍そのもの。
神器に封印されたドライグの魂に影響を受けての細胞変異の結果ではあるものの、その肉体は通常の龍種と較べても格段に頑健だ。
巨大な龍の身体を支える為に必要なリソースが、そのまま人間相当の小さな肉体に注ぎ込まれているのだからこれは当然と言えるだろう。
純粋な身体能力という意味で言えば、今戦場と化している駒王学園の敷地内で彼を上回る者は殆ど居ない。
……だが、だからこそ、イッセーはヴァーリに劣り、勝てない。
イッセーの肉体が龍化を始めたのは、いや、そもそも龍に影響されて龍に近づく体質になったのすら、ここ数ヶ月の話であり、その肉体運用に関する習熟は極めて低い。
対し、年単位でその肉体を、神器を、自分の持ちうるあらゆる力を振るう為の修行と実戦を潜り抜けてきたヴァーリは、自らのスペックを存分に引き出して戦う事ができる。
更に言えば、イッセーの龍化した肉体もまた、この場の戦闘において役に立つとは言いがたい。
確かに、イッセーの肉体は龍に限りなく近づいている。
外部から加えられている人型に収める縛りが無ければ、すぐにでもその肉体は龍の幼体の如き姿に変じていることだろう。
また、爪の振るい方、顎門でもって敵に喰らい付く為の動き、すれ違いざまの尾の当て方。
その全てが龍に影響を受けて変異した運動神経を司る小脳含む各所へと刷り込まれ、人として生まれ育ったイッセーに躊躇いなく龍の振る舞いをさせている。
習熟こそできていないだけで、イッセーはイッセーの思うがまま、龍としての肉体を操る事ができる。
だが、しかし。
「なるほど、まるで野生の龍だ! ハハハ! とても数カ月前まで一般人だったとは思えないな!」
獰猛に、しかし余裕を持って笑うヴァーリ。
イッセーの攻撃が、戦闘力が脅威でない訳ではない。
神器を開放した今のイッセーは、言ってしまえば機能が限定された赤龍帝ドライグのミニチュアだ。
そこいらに居る並の龍種を上回る程の脅威であり、その一撃を喰らえばヴァーリとてただでは済まない。
……喰らえば、そう、喰らえばの話だ。
このまま戦闘が続くとして、ヴァーリがイッセーから直撃をもらうことはあり得ないだろう。
何故か。
「GYAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOHHHHHHHHHHHHHHHHHH!!!」
咆哮と共に、倍加によりドラゴンブレスの如き威力に達した魔力砲がヴァーリに向けて放たれる。
吐き出された瞬間から更に速度を倍加され、追尾性を倍加され、威力を倍加された一撃。
しかし、ヴァーリは手慣れた様子でそのブレスを処理していく。
『Divide』
『Divide』
『Divide』
『Divide』
『Divide』
『Divide』
半減に継ぐ半減。
白龍皇の力により威力も追尾性も速度も落とされた魔力砲をはたき落とす。
どれほどの威力を持っていようと、それそのものが半減に対して耐性を持っていない限り、ヴァーリに有効打として届く事はない。
「君の事は調べていたよ。平凡な両親、平凡な血筋、平凡な人生。それが、ドラゴンと、赤龍帝の籠手と出会う事で……秘められた力でもあったのか、以前の平凡さが嘘の様な強さだ」
雑魚ではない。
それなりに手強く、余裕はあっても油断が出来る相手でもない。
戦ってみれば気分も高揚する。
まぁまぁの敵。
それが、白龍皇であるヴァーリ・ルシファーにとっての赤龍帝である兵藤一誠への評価。
高くなく、しかし低くも無い。
失望するほどでなく、戦闘意欲を削ぐ程の弱さではなく。
『ありふれた強敵』
というのが一番近い表現だろうか。
イッセーが弱い訳ではない。
イッセーは強い。
少なくとも、グレモリー眷属の中で、総合力では現在トップの座を木場祐斗と争う程には強い。
だがそれはあくまでも、元人間の平凡な悪魔であるイッセーが、ドライグというドラゴンの属性に近づく事で生まれる強さに過ぎない。
現在、そこにイッセー独自の強さや爆発力が加わっている訳ではない。
故に、有り触れた強者の域から抜け出る事もない。
並の龍種を上回る膂力を持ち、その一撃は白龍皇の鎧を通してヴァーリにダメージを与えられる程であり、限定的ながら倍加の力すら使用できる。
なるほど強い。
強いが、珍しい程の強さではない。
地上でも冥界でも、探せばそれなりに居るだろう。
まして龍種だ。
突然変異的にこの様な強さを持つ個体が現れる可能性は少なくないし、ヴァーリも幾度か遭遇した覚えがあった。
運命的にライバル関係である相手がそれほどの力を持っている事に少なからぬ喜びを感じてはいる。
しかし、それなりに高揚でき、それでいて将来性もある強敵、
そんなライバルと相対し、ヴァーリの心にむくむくと新たな欲が湧き出てくるのは仕方のない事だろう。
「噂は聞いていたからね、こうして戦ってみて、期待外れにならなくて安心したよ。でも、まだまだ伸びそうじゃないか。……何が足りないか、と、俺もそう考えてしまう訳だが、そうだな」
ちら、と、視線の先に、校庭の隅で戦いを見守る少女──アーシア・アルジェントに向かう。
イッセーがその視線を追い、何をしようとしているか気付くよりも、ヴァーリの行動は早かった。
当たっても当たらなくても良い、防がれるならそれもいい。
挑発のつもりの、彼女にとっての致死の一撃。
魔王の血が齎す一撃は、何に遮られる事も無く、一直線にアーシアに向けて解き放たれた。
―――――――――――――――――――
時を少し巻き戻し、もう一つの戦いは容易く決着へと向かっていた。
魔王の血族でありながら、魔王の役目を果たせない程度の力しか持たないカテレア。
対するは先代の、戦乱の世に相応しい実力を兼ね備えていた魔王達との戦を潜り抜け現代まで生き残った堕天使のトップであるアザゼル。
カテレアが如何に無限の龍神から与えられた力でブーストしたとしても、アザゼルがかつて戦ったことの在る魔王と並ぶ程度にしかならず。
対するアザゼルは、長年の研究の末に作り上げた人工神器の禁手、堕天龍の鎧を身に纏い、その力を更に増幅させている。
互いの身体が交差し、一瞬の接触の間に無数の攻防が繰り広げられる。
接戦とはいかない。
腕が、脚が、魔力が、交差し、鍔競り合い、喰らい合い──押し負ける。
一撃毎にカテレアは力の差を改めて自覚させられた。
無限の龍神、オーフィスの力を借りてようやく互角、しかし、それも容易く覆された。
万に一つの勝ち目もない、そう自覚して、改めて覚悟を決めた。
アザゼルの神器である槍の一撃を喰らい、鮮血が迸る。
逃げる事もできたかもしれない。
だが、カテレアの頭のなかに撤退の二文字は既に存在しなかった。
ただ、長生きだけをするなら、それでも良かったのかもしれない。
だが、カテレアは魔王の血を引いていた。
ただ長く、平凡に、幸せに生きるなどという道は獣と変わらぬものに思えていた。
自分は悪魔なのだ。
誇り高き、魔王の血を引く悪魔。
それがどうして凡百と同じ道を行けるのか。
新たな世界、新たな秩序、そこに新たな魔王、真なる魔王として君臨する。
そうでなければ自分は自分で居られない。
だからこそ、禍の団などという組織に付いたのではないか。
その為に、たかだか自分の命一つ、惜しむ理由になるものか。
カテレアは傲慢だったかもしれない。
分不相応な野望を抱く愚者だったかもしれない。
しかし、その心には華があった。
力及ばず魔王の座に座る事も許されず、犯罪者に身をやつしても枯れない華。
信じた道を迷わず歩む為の道標となる一輪の華。
残されたのはそれだけ。
たった三文字の不退転。
その心の華が、カテレアに最期の選択を躊躇わせなかった。
「ただでは、やられません!」
腕を触手状に伸ばし、アザゼルの左腕に巻きつける。
同時に自爆用の術式を起動。
もう後戻りはできない。
周りから、相手から自爆を中断させられる様な無様をさせないため、練りに練った術式だ。
そして、自爆する前に自分を殺せば、物理的に繋がっているアザゼルも死ぬ呪術も複合している。
そして、龍神の力だけでなく自分の命すら自分とアザゼルを繋ぐ触手に回し、決して離さない。
ただでは負けない。
勝てはしなくとも、魔王になれなくとも、ただでは絶対に負けてやらない。
それが、誇り高き魔王の血筋を持つカテレアの、最後の誇りだった。
────故に、
「極彩と散れ」
その誇りをこそ、狙って踏み躙る者が現れる。
突如カテレアとアザゼルの間に降り注ぐ光の如き一閃、いや、一筆。
カテレアの命すら吸い上げている触手が、細切れに寸断された。
細切れにされた触手の肉片は即座に色とりどりの塗料の霧となり、その霧の中に、カテレアとアザゼルは乱入者の姿を視認し、ようやく何が起きたのかを理解した。
「魔王の道? 正しい世界? 自分達の理想郷? 不退転?」
忍び装束の乱入者、読手書主。
スローモーションにすら見える鈍い動き。
しかしそれが、迫り来る死に対して脳が起こしたオーバークロック状態であるとカテレアが理解したのは、切り落とされた触手を咄嗟に書主に向けて突き出した後だった。
魔王級の、人間の限界値近くまで鍛えられた程度でしかない肉体など一撃で粉微塵にできる、同じくらいにスローな攻撃。
それを、同じくスローで動く男が『素手で受け流し、投げ飛ばす』のを見て、空中で目を見開く。
言ってしまえば、高速で走る新幹線を素手で触るようなものだ。
力の受け流し方を知らなければ、いや、知っていたとしてもそうできることではない。
彼が、忍者で無ければ。
そして忍者であるという前情報も、実在する古式の忍者の持つ脅威も知らないカテレアは驚きに飲まれて気づけない。
投げ飛ばされる瞬間、受け流された腕に【死なない】【狂わない】と指先で書かれた事に。
「貴様にそんな希望も、夢も、未来も必要無い」
そして、気付く。
投げ飛ばされる瞬間、腕からの微細な振動を増幅し僅かに揺らされ、一瞬だけ復帰の遅れた脳が、危険信号を受け取った時にはもう遅い。
男が居合い抜きの様に腰だめに構えた手の中にある黒い渦、ブラックホール。
そこから、何か、恐ろしい物が抜き放たれ────
「い、嫌、いやよ。それだけは! そこにだけは行きたくない!」
決意の表情が崩れ去り、カテレアの表情が恐怖に歪む。
この場において、彼女だけが知覚することができた、捻くれた神樹、封印された無限の宇宙に、そこに封印された数多の『何か』に、心に抱いていた全ての希望と決意と覚悟を打ち砕かれ、
「誰か、助け」
敵であるアザゼルにすら助けを求める様に手を伸ばし、この宇宙から完全に消失した。
既に『何か』も黒い渦も無く、そこには呆気に取られたままのアザゼルと、乱入者である書主だけ。
書主は手のひらをまるで汚いものでも触った後の様に忍び装束で拭いながら、言い捨てる。
「死なず、狂わず、獣未満畜生未満の玩具の道がお似合いだ」
―――――――――――――――――――
と、勢いでやったはいいものの。
大丈夫だろうか、あれの中身が出てきたりしたら、フルパワーでもどうしようもなくなるんだが。
一応、ブラックホールに戻す時に【絶対に壊れない】【絶対に脱出できない】【絶対に召喚できない】って書いたけど、不安だ。
……ウルトラマンでも大量に描いておこうかな。たぶん旧神相当の存在だし。
「さて、後はギャスパーの様子を確認してから帰るか」
結局校舎を染め上げるのは失敗したけど、もっといい場所を染め上げられたし、満足満足。
予定より早めに終わったから、たっぷり眠っても昼には起きられるかな。
そうなると休日も一日半は使える訳で、うん、少し得した気分だ。
「おいおい、いきなり現れて獲物横取りしといて、挙句もう帰り支度とかどんだけマイペースだよ」
「いやだって、もう終わりでしょう?」
声を掛けてきた文字列、そこに更にゴテゴテと余分の覆い神器のそれに似た煩雑な文字列を被せたアザゼルさんを極力視界に収めないようにしながら首を傾げつつ答える。
首謀者っぽいのは異世界の封印された邪神のおもちゃとして永遠に苦しみ続けるだろうし、魔法陣が無くなって新しい雑兵が増えないから絵の具の材料も無いし。
「そりゃお前さんにとってはそうかもしれんがな。例えば、あれは放置してくつもりか?」
あれ、という言葉が音として向いた先からは、龍の咆哮と激しい戦闘音。
兵藤先輩がアザゼルさんの付き人と戦っている。
裏切る裏切ると書いていたけれど、これはまた見事な裏切りぶりだ。
「自分の息子の不始末くらい自分でどうにか……できませんよね」
「あ? そりゃどういう意味だ」
「だってアザゼルさん、下半身の息子の不始末も雑に処理してそうな顔してますし……」
「うるせ。そっちでしくった事はねえよ」
何千年何万年生きてきて一度もそういう過ちが無い、と。
種なし南瓜かな?
まぁ口にするには少し失礼なので言わないが。
「しかし、苦戦してますねぇ」
「そりゃヴァーリがか? それとも赤龍帝の小僧がか?」
「どっちもですよ。見ていてまだるっこしいったらありゃしない」
見た感じ、付き人さんは自分の持つ力を使い熟している。
龍に対する適応力だけが特化した今の兵藤先輩では勝ち目がないし、勝負を引き伸ばされている感がある。
それでいて、兵藤先輩もだらしない。
兵藤先輩に追記した記述の中に、こういう文章がある。
【肉体的にドラゴンの影響を受け入れ易い】
【心は燃えても龍の激情に飲まれず】
【兵藤一誠の思考は龍に侵されない】
これは、こういう状況では恐ろしい爆発力を生み出せる力なのだ。
それこそ、この万が一にも勝てない戦力差をあっけなく覆せるだけの力を。
だというのに、未だ持って兵藤先輩は自らの殻を破れず、卵の殻を被ったヒヨコの様な姿で戦っている。
「ほう、じゃあ、小僧の方にも勝ち目はあると?」
「ありますよ。……そうですね、この状況じゃ、先輩に戦ってもらうのが一番楽ですし、そうしましょうか」
勝ち目はあるか、という文字列の端に、付き人さん──ヴァーリ某の命を心配する親心っぽい心情や、連れ戻せた時にどうにか減刑できるように、という思考が見え隠れしている。
ああ、いやだ、嫌だ。
裏切られた側に心配される、しかも、息子の様に思われている悪党とか、冗談じゃあない。
殺したら真っ当な立場の相手に恨まれる様な敵の相手なんて、真っ平御免だね。
アーシア先輩と迫る凶弾との間にオトモ忍を召喚しながら、頭の中で先輩の力を引き出す言いくるめの内容を組み立てる。
テクニカルな助言で兵藤先輩に後始末を押し付けてしまおう。
―――――――――――――――――――
校庭で召喚されていた魔術師相手に戦っていたオカ研メンバーでは、小回りの効かない半龍形態のイッセーでは庇おうにも間に合わない。
事前に瞼を閉じた状態でヴァーリに封印されていたギャスパーも身を盾にする事も救い出し逃げる事も出来なかった。
また、ミカエルやサーゼクスと離れた位置に移動してしまっていたのも悪かったのだろうか。
アーシアを守れる者は、その場には誰ひとりとして残っていなかったのだ。
「アーシア!」
数秒前まで荒れ狂うドラゴンの如く咆哮を上げるだけだったイッセーが叫ぶ。
しかし、攻撃の着弾地点であるアーシアの周辺はもうもうと立ち込める土煙で覆われてその姿を確認すら出来ない。
自力で逃げられたかも、という希望と、駄目かもしれないという絶望から、誰もがその向こうを確認できない。
確認したら最後、全てが手遅れになってしまうかもしれないから。
だが、そんなオカ研メンバーの葛藤を欠片も考慮せず、暢気な声が土煙の向こうから吐き出された。
「大切な人を殺されれば、怒りで覚醒するかも、って感じですか」
オカ研の誰もが聞き慣れた声。
その声を聞き一部の者が顔を明るくし、しかし、暫くして土煙の中から現れた『モノ』の姿に、『ん?』と首を傾げた。
「残念でしたね。兵藤先輩は、その程度の刺激で真の力が出せるような真っ当な仕様じゃありません」
身の丈三メートルになろうかという巨体。
それを支える野太い四肢は不自然に捻じくれ、真っ当な動きをするとは思えない。
頭部には角が生え、背中には闇色の翼を持った何ものか。
しかし、その喉を通して出されている声と、その身を覆う簡素な忍び装束、胸に貼り付けられた『代理』と書かれた紙が、背後でそれを操るものとの関係性を否応なく想起させる。
「あの……読手さん?」
ヴァーリの攻撃から庇われた形になるアーシアが、人間としての生でも悪魔としての数ヶ月でも見たこともない程逞しすぎる背に問いかける。
「ノン、ノン。この子は此方のオトモ忍ですよ、アーシア先輩」
「オトモニン?」
「ああー、この名前は翻訳効かないんですね。あれです、忍犬とか忍猫とか、そういうのの親戚ですよ。イッツ・ア・ジャパニーズ・ニンジャ・アニマル、オーケー?」
仮にこの会話を遠くで魔術師を屠っていた小猫が聞いたのなら『こんな忍者アニマルが居てたまりますか……!』と突っ込むところだが、この場にはボケとツッコミという穢を知らない無垢な素人であるアーシアしか居ない。
日本文化にも忍者文化にも造詣の深くないアーシアは、異形のニンジャ・アニマル、オトモ忍を柔軟な思考で受け入れる事に成功した。
悪魔としての知識を事前に教授されていたアーシアは、これがニンジャにとっての使い魔の一種なのかと、その逞しさに驚嘆し、そして即頭を下げる。
「助けていただいて、ありがとうございます! ……あの、この言葉、この子には」
「伝わりますよ。こう見えて(申し訳程度に)知性もありますから。きっと喜びます」
それを最も真正面から見つめていたのは誰あろうアーシアに向けて凶弾を放ったヴァーリだった。
そして、そのやり取りを行っている片割れ、オトモ忍の戦力を飼い主である書主以外で二番目に正確に把握しているのも、またヴァーリであった。
戯れの一撃。
例えば、現在の半竜と化したイッセーならば大したダメージにもならない程度の一撃。
そして、同じように無傷でアーシアと談笑に興じているオトモ忍もまた無傷となれば、その護りの堅さの片鱗は容易く窺い知れる。
ヴァーリから溢れる龍の闘気が倍増した。
仮に今戦っている赤龍帝──イッセーが今よりも弱かったのなら、今直ぐにでもオトモ忍に、ひいてはそれを操る書主を探しだし襲い掛かっていたことだろう。
だがしかし、ただ戦いの為だけに堕天使預かりの立場から抜け出しテロリストに与する程に自らの戦闘欲求に忠実な彼は、現在相対しているライバル候補の強さとその将来性、そして、それを引き出せそうな書主の言葉に、ギリギリの所で踏みとどまった。
「随分と遅いお出ましじゃないか。しかも使い魔だけ出してくるとは、出し惜しみをするタイプなのかな?」
「いや、もう校庭の分はオカ研の方々とかが始末つけ始めてるだろうから、空いてる方に手を付けてきたんですよ。それに、これは出し惜しみじゃなくて節約。どうでもいい相手にリソース割きたくないので」
「連れないな。本当なら彼よりも君と戦ってみたかったんだけど、すまない、こっちの彼もとても楽しい相手でね。少し待っていて欲しい」
ごう、と、風を引き裂きながら突撃してくるイッセーをひらりと避けながら語りかけてくるヴァーリに、オトモ忍越しに書主が舌打ちをした。
「相変わらず話聞かないなこいつ……。まぁいいですよ。これから兵藤先輩に勝てない貴方がどう言った所で気にもなりません」
「ほう、じゃあ君は彼をこの状態から更に強化できると?」
「先輩の真の力を引き出すだけです。……しかしその前に!」
オトモ忍……正式名称、忍レッサーデーモン丸が捻くれた指で怪しげな印を結び、空で戦うヴァーリとイッセーの居る辺りを指差す。
指差した腕が一瞬の内に数十回ほのかに赤く点灯し、蜂の羽音の様な『BBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBBB』という音と共に、ヴァーリとイッセーの居る空間が霞んでいった。
グラウンドに降り立ち戦況を見守っていたギャラリーには何の影響も無い。
だが、知覚能力に優れた存在ならば気付けただろう。
空に居たイッセーとヴァーリは気付く、自分達がグラウンドの上空という狭い舞台から、いつの間にか地上も見えぬ何処までも続くかのような空の上に居る事に。
これぞ戦場というリングを己が思うままに作り変える、かつて存在したと言われる超人忍者のジツ!
テンショ・ジザイ・ジツである!
「これは……!」
地上も見えない程、ではない。
本当にヴァーリとイッセーの視界には地上が写っていない。
グラウンド上空で戦っていたヴァーリとイッセー。
二人を中心とした十数メートルの空間を忍び結界により隔離し、数十回の倍加により内部空間を拡大することにより作られたこの空間は、文字通り無限に続く空のリングだ。
「へへ、読手のやつ、嬉しい真似してくれるぜ」
「何?」
ヴァーリと向かい合うイッセーが龍の顔で不敵に笑う。
見ればその肉体から溢れ出る龍の闘気は先までよりも更に膨れ上がり、物理的な圧は大気を軋ませる程になっていた。
「これだけ離れてりゃ、校舎や部長たちに気を使わなくていい! 真の力って、そういう事だろ!」
「違いますよ何言ってるんですか少年誌のインフレバトル漫画じゃあるまいにご自分のジャンルを弁えて発言してくださいよ」
「え、えぇー……。じゃあ、なんだってんだよ」
姿の見えない後輩に冷ややかかつ平坦な口調でまくし立てられイッセーの闘気が僅かに萎える。
「いいですか。まず大前提として、この戦いは先輩にとってとても大事なものを守るための戦いでもあります」
「大事なもの……つまり」
「決っているでしょう。おっぱいです」
「待て、待て」
部長と仲間、と考えていたイッセーは、躊躇なく断言した姿なき後輩の声に静止を掛けるも、次の言葉が止む気配は無い。
「先輩にとって大事なものはおっぱいでしょう。別にグレモリー先輩やアーシア先輩の事が大事でないと言っている訳ではありません。彼女達も先輩にとって大事な守るべきもの。つまり、逆説的に彼女達は先輩にとってのおっぱいでもある、という事になります。違いますか?」
「え? あ、う、ん。……そうなるのか?」
まくし立てられる、日常生活ではそうそう聞くこともない様な無茶な論法。
口にする後輩のあまりに確信に満ちた口調に、そしてイッセーに刻まれた【読手書主という人間への警戒心が薄い】という一文が、イッセーの正常な頭脳から疑う心を奪い去っていき、最後には自信なさげに同意してしまった。
「なります。そしてここからが本題です。あの付き人さん……ヴァーリ某の神器は真の力を発揮した際、周囲のあらゆるものを半減し、半減した分の力を自らの力に載せて戦います。つまり……」
「つまり?」
「もしこのままヴァーリ某が本気のまま駒王学園にまで戻ったなら……あそこに居るグレモリー先輩のバストも半分になり。彼の力として『消費』されます」
―――――――――――――――――――
その言葉を聞いた瞬間。
頭の中が真っ白になった。
あのおっぱいが。
大きくて、美しい、おっぱいが。
部長のおっぱいが。
半分──────
「ですが」
自分の中で、今まで湧き上がったことのない感情が爆発する寸前、声が聞こえた。
「使い方次第では……」
―――――――――――――――――――
腹話術(離れた場所から声を出す忍術の一種)で広大な結界内の遥か彼方に居る兵藤先輩に知恵を授け、経過を見守る。
見守る、と言っても、結果は見えたようなもの。
此方は兵藤先輩が何をどうされれば激昂するか、怒りだけがパワーアップになるか、何を起点にパワーアップするか、多くのパターンで実験済みなのだ。
今回の状況は初めてだが、今までの傾向から考えるに、煽り方はこれで合っている筈。
「おい、本当にあれで勝てんのか?」
背後で此方から兵藤先輩へのアドバイスを聞いていたアザゼルさんが疑わしげに聞いてきた。
さもありなん。
割と膨大な実験結果から導き出した最適解とはいえ、此方もなんでそうなるのか、と聞かれると説明はできても納得しかねる。
だが、一つ言える事があるとすれば……。
「馬鹿の一念、岩をも通す。と言いますでしょう? 兵藤先輩の馬鹿は、天駆ける龍をも貫く神滅具級の馬鹿だ、という事ですよ」
どれ、校庭の通常空間に残された面々も戦いの行く末は気になる所だろう。
忍び結界の設定を少し調節して、現場の映像と音声をはっきりさせてしまおう。
そう思い展開済みの結界に追記のために指をなぞらせている間に、空の戦いは一層激しさを増していた。
―――――――――――――――――――
動きが変わった。
先までの龍の身体と神器による倍加に頼った野獣の如き動きではない。
そこには確かに、自分には理解できない何かを狙う知恵の気配があった。
当然と言えば当然の事だ。
兵藤一誠は赤龍帝である。
兵藤一誠の肉体は限りなく龍に近い。
しかし、兵藤一誠の魂は、頭脳は、悪魔に転生した人間のもの。
格上相手の戦いとなれば、仮に戦闘経験が乏しくとも相手の裏を掻こうとするのは当然と言える。
更に、動きの変化はそれだけに留まらない。
ごう、と、吹き荒れる風と共にイッセーのぶちかましがヴァーリに向かう。
その速度は先の戦闘時と較べても明らかに早い。
それこそ、イッセーが先に間違いだと言われた、本気の一端。
自らの肉体だけでなく、周囲を取り囲む大気、いや、自らの動きが生み出した周囲の気流への倍加譲渡による追加加速だ。
イッセーはお世辞にも頭がいい方ではない。
航空力学を学んでいる訳でもないし、当然この加速方法も効率的とは言えない雑なものだ。
しかし、イッセーはこの数ヶ月、自分の力を高め続けていた。
仲間との修行、空いた時間でのバトル漫画による新たな強さを得るための情報収集。
そしてマンガやその他雑多な情報源から得たヒントを元に生み出した小細工のような力。
しかし、それは今、確かな形となって対敵であるヴァーリに危機感を抱かせていた。
年単位で鍛えた者達には及ばないかもしれない。
俄仕込み、神器任せの強さかもしれない。
だが、イッセーに今までしたこともない様な努力をさせるだけの何かが、新たな悪魔としての生にはあった。
求めていたモノを手に入れられた幸福、死ぬ事で得たものを失う恐怖、未来への希望、過去へのトラウマ。
イッセーの中にあるそれは決して褒められた欲求ではないかもしれない。
下心に性欲に獣欲にまみれていたかもしれない。
だが、強さを求め続けるヴァーリのそれと比較して、決して劣ることのない強い想いだ。
「ドライグぅっ! アスカロンにパワーを!」
『承知っ!』
『Transfer!!』
風に乗ったイッセーのぶちかましをヴァーリが寸での所で回避したその瞬間。
アスカロンを収納した『尾』がヴァーリ目掛けて振るわれた。
剣術なんて使えない、挙句、半竜と化した本気の身体では剣を振る事すらままならない。
そんな判断から半竜化と同時に形成される龍の尾の外殻に組み込まれたアスカロンが、その刀身を見せぬままに振るわれる。
勿論、全速でヴァーリにぶちかましを行っていた為、交差する時間は一瞬、加速状態から無理に繰り出した尾による一撃の振り幅はヴァーリに届くかすら怪しい。
しかし、そんな事は既にイッセーにとってもドライグにとっても織り込み済み。
肉体スペックにまかせて暴れていた先までは忘れていた努力の日々を思い出す。
全速でのぶちかましを避けられた時、すれ違いざまに相手に無防備な姿を晒してしまうかもしれない。
そんな時、限られた攻撃手段の中で一番融通の効く龍の尾による一撃の当て方を、イッセーとドライグは前もって決めていた。
全速での前進からの無理矢理な尾の一撃。
それにより乱れた気流の一部が、アスカロンと共に譲渡の対象に指定されていた。
強風レベルだったその乱れがまるで大型台風の如く風速を倍加され、アスカロンの収まった尾の軌道を引き千切らんばかの勢いで強引に修正。
その一瞬の一撃に対し、ヴァーリは光の盾を展開し、更に両腕を交差させて防御の姿勢を取る。
だが、光の盾も両腕を包む白龍皇の鎧の装甲も、質量と速力が載せられた龍殺しの剣の威力にガラス細工の様に粉砕されてしまった。
受けた一撃の威力を消しきれず宙に舞うヴァーリ。
一時的に浮力を失い錐揉み状に吹き飛ばされながら、しかし、仮面の下でヴァーリは獰猛な笑みを浮かべた。
策が在るわけでも、この状況を読んでいた訳でもない。
ただ、ライバルであるべき男の思いがけぬ強さに、思わず笑みが浮かんだのだ。
禁手の鎧を砕かれ、腕はへし折れた。
身に受けた衝撃の強さから声も出ない。
並の強敵ではない。
これが、これこそが、ライバル!
切り札を切る時も近いかもしれない。
そう考えながら、未だ来ない追撃に疑問を懐きかけ、止めた。
ここまで神器を使い熟している男が、神器の中の龍とあそこまで通じ合った男が、何の意味もなく自分を放置する訳がない。
ヴァーリが態勢を立て直しながら、イッセーの姿を探す。
無限に続く様な空の中ではその姿は小さくなれども見失う事はあり得ない。
「見つけた」
燥ぐ子供の様に無邪気な声。
視線の先のイッセーは、砕けた白龍皇の鎧、その宝玉に向け、大きく口を開いていた。
―――――――――――――――――――
弾き飛ばした無防備なヴァーリを尻目に、イッセー/ドライグは真っ逆さまに下へ飛翔する。
目指すは一点、砕けた鎧からこぼれ落ちた、白龍皇の鎧の宝玉。
「準備はいいな!?」
『良いのか相棒。危険な賭けだ。いくらお前の体質とはいえ死ぬかもしれんぞ?』
「死なねぇよ! まだ部長の処女も貰ってない! ハーレムだって作ってないってのに! でも、俺はなぁ!」
『あの男の言葉を信用するのか? あれは我等の事を知りながら言う言葉ではない。奴が正気でないか、さもなければ……』
「違う! あいつが仮に正気じゃないとしても──これは、俺の望みだ!」
『……そこまで言うのなら、俺も覚悟を決めよう! かつては力の塊と称された赤き龍の帝王! そしてその相棒ならば、生きて乗り越え、辿り着くのみ!』
「行くぞ、ドライグ!」
『応! 征くぞ我が相棒、兵藤一誠!』
イッセー/ドライグの顎門が大きく開かれ、無限の空を落ち続ける宝玉に追いつき、閉じる。
白龍皇の鎧の一部、力の一片を含んだ欠片はイッセー/ドライグの凶悪な乱杭歯に噛み砕かれる事無く、舌の上を滑り、ごくり、と、喉奥へと飲み込まれていく。
体内に取り込まれた異物を、天敵であり反存在とも言える敵の一部を吐き出さんと強烈な激痛と嘔吐感が生まれる。
いや、それも一瞬の事だ。
これから行う事が齎すであろう痛みを想像すれば、今ある痛みはまるで痛痒にも感じない。
『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!!!!!!』
限界一杯の倍加。
肉体に掛かる負荷を考慮した上で行える最大の倍加だ。
これを──
『Transfer!!』
体内で苦痛を生み出す宝玉に、残らず譲渡した。
―――――――――――――――――――
「おいおいおい、自殺行為だろそりゃ」
校庭上空に浮かぶ結界表面に映しだされたイッセーの姿を見ながらアザゼルは呆れるように呟いた。
赤龍帝と白龍皇の力は相反する力だ。
倍加する力と半減する力は打ち合えば拮抗し、混じり合わせれば消滅する。
無害という訳ではない。
物質と反物質が触れ合った時と同じように、消滅に際して生み出される力の波動は破壊的でもあり毒性のようでもある。
それは誰かが決めた事ではなく、あり得ざる事が起きるが故の世界の拒絶反応とも言うべき現象なのだ。
それを、龍化した程度の下級悪魔の腹の中で行えばどうなるか。
赤龍帝の籠手や、その禁手のなりそこない程度でどうにかなるものではない。
そもそもその破壊力を生み出す原因の片方こそが赤龍帝の力なのだから、悪化こそすれど緩和される事はありえない。
今代の赤龍帝、兵藤一誠は体内から爆発して死ぬ。
つまらない結末だ、と、自らが戦う準備をし始めたアザゼルに対して、結界を維持するオトモ忍を制御していた書主が口を挟んだ。
「そうでもありませんよ。ほら」
言われ、訝しげに結界に映しだされた映像を見直す。
絶叫を上げながら破滅的な波動を放っていたイッセーの肉体が、鎧が、膨張と収縮を繰り返しながら発光し始めた。
何かの前触れを感じさせる光、進化の光、それは、禁手へと至る神器の輝きに似ていた。
「……なんですか、あれは」
「まさか、また禁手化するのか?」
「何? イッセーの神器は既に禁手なのではないのか?」
魔術師の殲滅を終えたオカ研のメンツが書主とアザゼルの姿を見つけ、近寄りながら疑問を口にした。
単純な疑問の小猫、新たな禁手の予感に驚愕する祐斗、イッセーの神器にさして詳しくないゼノヴィアの現状以前の疑問。
それに応えるように、視線を結界に向けたままの書主が静かに答えた。
「進化ですよ。赤龍帝の籠手だけじゃない、先輩だけの進化!」
ぎぃ、と、口の端が裂けんばかりの笑み。
「イッセーの、進化?」
「そう、これは神器の力じゃない。赤龍帝の籠手には無かった
不安げに状況を見詰めるリアスに、興奮気味に語る。
「だが、あり得るのか? 赤龍帝の力と、白龍皇の力の、融合なんて」
「ありえるんですよ。あの先輩なら」
映しだされた映像の中で、イッセーの肉体が、半竜としての肉体が、それを覆う赤い鎧が、弾け、砕け、形を失う。
死。
それを連想した者は一瞬悲鳴を上げ、しかし、次いで一つの予感を得た。
それは──
―――――――――――――――――――
それは、一つの奇跡の顕現であった。
それは、或いは必然でもあった。
神が死に、世界を動かすシステムのバランスが崩壊している今だからこそ叶う進化の形。
そもそもが、イッセーの想いの強さにあった。
【肉体的にドラゴンの影響を受け入れ易い】
【心は燃えても龍の激情に飲まれず】
【兵藤一誠の思考は龍に侵されない】
これらの記述はイッセーに良い影響を与えるばかりでも、悪い影響を全て防ぐものでもない。
イッセーの肉体は、自らの内にある神器、赤龍帝の籠手の影響を受け続ける事でほぼ龍と言っても良い構造になっている。
しかし興奮した所で龍の持つ強い怒りに流される事はない。
龍の持つ野生の強い獣特有の傲慢さや、永い時間を生きる者特有の気長さも持たない。
彼の姿は人から外れず、心が人から離れる事もない
だが、それでもイッセーの肉体は龍であり、イッセーの魂は人間から変じた悪魔のものなのだ。
本来であれば、龍と化した肉体は見た目を人間の様な形に取り繕ったとしても龍としての生理作用を行う。
消化器系は人間的な食生活を送っている今は関係ないとしても、そうでない部分は強い影響を受けざるを得ないのだ。
龍の肉体、龍の肉体を制御する龍に近付いた脳細胞。
それが齎す顕著な変化は────龍への発情と、遠い種族への性的好奇心の減衰。
だが、イッセーの性欲は変わらなかった。
同居するリアスとアーシアの性的な誘惑に対し、身分の違いや恩義、保護する立場という責任感から鋼の意志で性的な行為を、セックスを行わなかった。
出来なかったのでも、するつもりが起きなかったのでもない、自らの意志で行わなかったのだ。
リアス、アーシア。
共に龍とは遠い人型の悪魔。
彼女達に対し、イッセーは強い興奮を得ていた。
はっきり言えば、それはもう、毎日困り果てる程だった。
特訓で疲れて勃たないなどという事はあり得なかった。
常に迫る誘惑に対し、自らのヤンチャ過ぎる子息の強張りをどう処理するか。
夢精したパンツを誰かに処理させるわけには行かず、そうなる前に、事前にあらゆる方法を持って適度に処理していた。
人気のない橋の下に一人孤独に白濁のガンジス川を生み出す程の、強い性欲。
イッセーの、肉体によらない、魂から生み出される強い人間の性欲!
その欲望が、心が、魂が、龍の肉体を凌駕していたのである!
そして、龍の肉体にも曲がることのない強い性欲──欲望とは、強い指向性を持つ意志である。
そこに、白龍皇の鎧の欠片が取り込まれた。
ドライグの意志により管理されているドライグの力である赤龍帝の籠手とは違う。
既にアルビオンの意志を離れた、意識という指向性を持たない龍の力の断片。
それが、一時的にとはいえ、元の神器本体に匹敵するほどに力を増幅させられたなら。
ドライグの力で増幅され、しかし、何の意志も持たないアルビオンの力の断片は、何の壁も無くイッセーの肉体に収められている。
その力の影響を、イッセーの肉体が余すところ無く受け止める。
しかし、それだけでは済まない。
神器という殻を砕かれたむき出しの、意志という壁すら持たないアルビオンの力。
その力が、龍に影響を受けやすい、龍と干渉し易いイッセーの意志の影響を受け、更にその力でイッセーの肉体が変化を起こし……。
『馬鹿な……ありえん、こんな事は! ありえん!』
「あり得るのさ……俺なら、な」
アルビオンの驚愕に応える様に、形を失い光と化していたイッセーが応えた。
破滅的な波動が、目を焼かんばかりの光が収束し、一つの形を作り上げた。
半竜ではない、欠けるところも歪むところもない人型。
兵藤一誠。
龍に近付いた悪魔の姿ではない。
人から外れた龍のなりそこないでもない。
龍という形に縛られない、『兵藤一誠という龍』の姿が、そこに存在した。
大敵にして対敵であるヴァーリを目の前にして、イッセーは目を閉じて思い出す。
力の矛先を、力の使い方を、新たな可能性を見せてくれた後輩の言葉。
『白龍皇の力はあらゆるものを半減させます。例えば乳に使えばバストサイズが半減しますが……それは一面的なものの見方でしかありません』
『天龍の力は、概念にすら影響を及ぼします。つまり』
『胸の小さい女の子の胸にある、胸が大きくならない原因、胸が大きくならない可能性、それを半減させる事も、理論上は可能になる筈です』
『誰にでもできることじゃありません。これを成せるとしたら、それは人を超え、龍を超え、真に乳を愛する心を持たなければ』
『……先輩なら、もしかすれば、と、そう、此方は思います。何故なら貴方は──』
神の死んだ世界だと聞かされた。
神が居ないばかりに救われなかったアーシアを、木場を、ゼノヴィアを知っていた。
だから、無いものとばかり思っていた。
これが、これこそが天啓。
瞼を開け、手のひらを見つめ、ぐん、と、握りこむ。
それだけで、結界の中の空間が半減し、無限と思える空に果てが見えた。
「! 神器ではなく、自らに取り込んだのか、このアルビオンの力を!」
「ああ、まだ何度も出来る訳じゃないけどな」
ヴァーリの驚きに静かに応えるイッセー。
まだまだ、力は足りない。
距離という単純な概念ですら、一度の半減が限界。
未熟も未熟、後輩の言っていた可能性に、境地に達するのは何時の日になるか。
いや、まだこれでいい。
自分はスタートラインに立ったばかりだ。
これからの事を思えば、今の未熟は笑って受け入れられる。
イッセーは友を思った。
友と言っていいのか、と、そう思う後輩の姿を思った。
その後輩を想う、仲間で先輩で後輩の、塔城小猫という少女の事を思った。
彼女は、たぶん、読手の事が好きだ。
本人にその自覚があるかは分からない。
自分自身、そういう男女の機微に敏いわけじゃないけど、なんとなくそうだと思う。
でも、その道は苦難の道だ。
あいつは……大きいおっぱいが、好きだ。
少なくともあいつの恋人は恋人でない自分が見ても『尊い』と思える程の大きさと美しい曲線を持つ。
前に女性陣が居ない時におっぱいについて語り合った時、こいつがリア充で無ければ親友になれたかもしれないと思う程に熱く語り合うことが出来た。
塔城小猫は貧乳である。
百歩譲っても微乳である。
そのなだらかな曲線に、巨や豊という文字は連想できそうにない。
戦力差は圧倒的、寝取る事など夢のまた夢だろう。
だが、自分なら、その道を切り開けるかもしれない。
別に、それで小猫がイッセーに好意を寄せる訳でもないし、おっぱいを触らせてくれる訳でもない。
言ってしまえば人の乳。
世の中には揉んでいい乳と悪い乳がある。
小猫の乳を揉む事はイッセーにとってすら悪い事だった。
上手く行っても、人のものになるおっぱいだ。
救う意味があるだろうか。
そんな疑問は、もう、沸かない。
「これが、君の本気か」
「いや、まだまだ。もっと強くなるぜ」
そう、この程度で満足なんてしていられない。
揉めない乳がなんだ。
他人に揉ませる乳がなんだ。
乳は乳。
おっぱいは、おっぱい。
等しくエロく、尊い。
そして、そのおっぱいに悩む女性達を、おっぱいを、貧という哀しみから救う為に。
こんな所で立ち止まるわけにはいかない。
「何故なら俺は」
『何故なら貴方は』
記憶の中の後輩に頷き、重なる様に宣言する。
人を超え、悪魔を超え、龍を超え。
今こそ俺は────
『bust booster!!』
『welsh bust dragon balance breaker!!!!』
『bust messiah over drive!!!!』
赤く、しかし、随所に白い文様の入った全身鎧。
仮初の、つぎはぎの禁手ではない、真の禁手。
いや、真の禁手すら超えた、イッセーの、イッセーだけの禁手。
宿主の求める山の頂きにも似た薄紅色、いや、桜色のオーラを舞い散る桜の花弁の如く吹き出しながら、叫んだ。
「おっぱいの救世主だ!」
―――――――――――――――――――
「最悪! 最悪ですよ先輩!」
ゲタゲタと笑い転げる。
先輩をそう定義したのは確かに此方ではあるが、まさかこのシリアスな場面でそういう宣言をするとは思いもよらなかった。
兵藤先輩には芸人の素質があるのかもしれない。
いや、素でこれだから、芸人というよりはいじられ役の素質と言うべきか。
「なんででしょう、なんだか無性に先輩を殴りたくなってきました」
「ちょっと読手くん! イッセーに何を吹き込んだの!」
塔城さんが不機嫌そうに結界の向こうの兵藤先輩に舌打ちし、グレモリー先輩が何故か此方を問い詰めようとしてくるが、些細な事だ。
結界の文字列に記された、映しだされる映像に関する文字列から推察するに、兵藤先輩の勝ちはこの場においては決まったようなものだろう。
今の兵藤先輩は、言わば赤龍帝と白龍皇のいいとこ取り。
本体である兵藤先輩自身の制御能力が上がったお陰で龍の膂力に引き摺られる事無く戦える。
白龍皇である付き人さんが真の力、覇竜とかいう暴走技を使おうとするも、中のアルビオンさんに止められて使い損ねている。
状況は既にほぼ完了している。
ここからこの場でのテロリスト側の勝利はあり得ないだろう。
結界も最早必要あるまい。
忍レッサーデーモンを送還し、結界を解く。
歪んでいた空間が正常化し、校庭上空では覇竜を使おうとしている付き人さんと、何か来るかと身構える兵藤先輩。
まさに最終決戦という状況なだけあって、実に気合の入った大写しの挿絵。
バックに演出から少し大きめに描写された月が描かれて実に美しい。
が、その一枚絵が一瞬で崩れ去り、再び見苦しい文字列へと変わった。
最終決戦風の一枚絵に相応しくない闖入者のおかげだ。
「いいところで悪いなヴァーリ、迎えに来たぜぃ」
付き人さんを庇うような位置に現れた、一匹の猿の妖怪。
面倒臭いのは、種族名が猿の妖怪なのに、外見説明の部分は壊れかけの中華風の鎧を着込んだ、傷ついた青年、という、明らかな人間風の説明になっているところか。
妖怪系の連中が結構な確率で人型に近づいていくラノベ的な進化方式なのはどうにかならないんだろうか。
例えば人外系や動物系主人公のお話なのに、主人公が人化を覚えてほぼ人間と変わりない動きをする、種族的持ち味を殆ど捨てた今の塔城さんみたいになってしまうような残念さ。
しかしこの面倒な記述、覚えのある文字列だ。
ついさっき読んだ覚えがあるが、こいつは絵の具にしなかったんだったか。
猿の妖怪というのは天運に恵まれていたりするのかもしれない。
それともご先祖様のご加護か。
「何をしに来た、美猴」
口に当たる部分から血液の組成が記された文字列を垂らしていた付き人さんが、それを折れた骨を神器の装甲で無理矢理固定した腕で拭いながら問う。
「それはピンチに颯爽と現れた相方にする態度じゃないぜぃ? 撤退だ撤退。カテレアが失敗したなら、こんなとこに長居する理由も無いだろう? 戻ったら、また別の勢力に一戦かましにいかないとならんしなぁ? ……そこに居る、誰かさんのおかげでよぅ」
視線を感じる……。
でもなー、ただの気のせいかもしれないしなー。
流石の此方のニンジャセンスだって、偶には勘違いでありもしない視線を感じるかもしれないしなー。
「……凄い視線ですよ。何したんですか」
「いやぁ、術式の解析はこれでお手の物ってやつでしてね?」
転移陣なんてあからさまなものがあれば、その座標だって記述には含まれてしまう訳で。
本部、という訳ではないようだったけれど、控えていた人数は中々のものだった。
テロリストの癖に割と豪華で広々とした建物で、実に良いキャンバスになったと思う。
インクも大量に使えたし、いやぁ、禍の団最高だね!
「それにほら、悪人に人権はありませんし」
「そういえばそうですね」
「小猫?!」
植え付けられた知識の根底にある価値観に引き摺られた塔城さんが頷き、それに信じられないとでも言わんばかりに驚くグレモリー先輩。
場の空気はゆるゆるになってしまった。
気分的にも今夜はこれで終わりという感じになったので、瞼を閉じる。
「俺らもあいつらもテロリストなんてやってるから、こういう目に合うのは納得済みってやつだけどなぁ。あそこまで滅茶苦茶をやられたら、他で取り返さないといかなくてよぅ。ねぐらとか」
「そんな遠慮しなくても、ブタ箱でも地獄の封印の中でもゴミ捨て場でも保健所のガス室でも橋の下のダンボールの中でも好きな場所に居て下さって構いませんのに」
「はははは! まぁ、お前さんがどういうやつかは今回で十分に分かったさ。覚えておきな、俺の名は美猴、今代の孫悟空だ」
付き人さんを伴い地面に降り立った猿妖怪──美猴さんが地面に棒をとん、と付く。
異様な感覚と共に、異界に繋がる門が彼等の足元に開いた。
逃げるつもりなのだろう。
「それ、覚えてると何かいいことあります?」
「さてな。でも、『アイサツは大事』なんだろう?」
「む」
「じゃあな、日本のニンジャ。また会おうぜぃ」
ずぶずぶと沈んでいく。
一瞬で消える、という事ができない術なのか、それともアイサツの為に送らせているのか。
それに飛びかかるのは、一皮向けて紙一重の向こう側に旅立ってしまった兵藤先輩だ。
「逃がすか! ……って、あれ」
ぼすん、と、壊れたストーブが煙を吹き出す様な音を立て、兵藤先輩の鎧の隙間からエネルギーがもくもくと溢れ出てきた。
電池の切れた人形の様に兵藤先輩の身体が動きを止め、突撃の勢いのまま顔面からグラウンドに滑り込み、全身鎧が土を盛大に削る。
予想はしていたことだけど、よくここまで持ったと思う。
「なんで、って顔をしているだろうと思うので説明しますが。先輩の肉体は今さっき作り変えられたばかりです。で、肉体を作り変える材料は先輩の肉体、作り変える燃料も先輩の肉体から捻出された訳で……」
「ガス欠か。格好つかねぇなぁ」
アザゼルさんがそうぼやくのも仕方がないとは思うが、個人的にはあのおっぱいの救世主宣言のお陰でそれ以降の戦闘がどう頑張ってもシリアスに見えなかったので今更だ。
まぁ、あの状態でも白龍皇の暴走状態に勝てるかというとイマイチ不確定だし、大事な学校でそんな大怪獣バトルをさせるわけにもいかないから丁度いい頃合いだろう。
「今日は良い戦いだった。魔王の血筋で白龍皇の俺は一人相手にそう入れ込む訳にもいかないが、何時か必ず、この続きをしよう。その時はもっと、そして、そこのニンジャも混ぜて────」
凄くうざい事を言いかけながら、付き人さんは美猴さんと共に小型の異界に沈んでいった。
……まぁ、少なくとも今回の事であの面倒な人のメインの標的は兵藤先輩に移った筈。
此方は予定とは違う場所だったけど大量に塗り絵出来たし、ギャスパーを陥れた主犯を無限地獄より恐ろしい場所に落とせたし、結果的には+になったと考えよう。
さあ、明日から今日になった土日の二連休を楽しむ為に、さっさと後片付けをしてお開きにしてしまおう。
「なぁ、ちょっといいだろうか」
「はい?」
壊した部室を直しに行こうとしたところでゼノヴィアさんに声を掛けられた。
今回の件で特に尋ねられる様な事はした覚えがないし、ゼノヴィアさんはそういう難しい事は考えないタイプだと思ったが、なんだろうか。
「……さっきの白龍皇の発言、聞きようによっては男三人による乱交の誘いに聞こえたのだが」
「ゼノヴィアさんはここらで一度悔い改めたらどうでしょうか」
或いは脳外科とか行くといいんじゃないかな。
向こうでミカエルさんが凄く不安そうにしている。
デュランダルも流石にそろそろ没収されるんじゃないか?
「いや待て、私も男同士は不毛だと思う。だが……もしかして、君と日影のプレイに私が混ぜてもらうという形なら許されるんじゃないか?」
「許されませんよ。絶対に許されませんよ」
「そうか……まぁ、考えておいてくれ」
オリハルコンメンタルかな?
でも、まぁ。
ギャスパーみたいに、瞼を開けたまま、文字列でもヒトなんだって、そう思えたら。
「ああ、でも」
ふと、思い出す。
少し状況は違うけれど。
「うん?」
思わず口に出た声にゼノヴィアさんが振り向き、何事かと首をひねる。
「いや、なんでもありません。さ、校舎の片付けに参りましょう」
ちょっと前、心根を聞き出す時に聞いた、塔城さんの喘ぎ声。
心と口を緩くするために弄り倒した肢体の感触、肌触り。
あれなら、普通にアリだな。
まぁ、塔城さんがそういう誘いをしてくる事は無いだろうけど。
なんとは無しに、そんな事を考えた。
割と長くなったので分割するか迷いました
具体的に言うと槍全身タイツ師匠をガチャる為に追加で更に課金するかどうかと同じくらい悩みました
能登となれば……だが……みたいな
今のところ追加の課金は保留という事で今回はそのまま
四巻最終話はまだ書いてないけど普段通りの長さになると思います
諸々の解説はその時するかもと思うのでその時に!