文字通り絵に描いたような、あくまでドラゴンメインの高校生活   作:ぐにょり

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短めです
そもそもこの巻自体が恐らく短めになるかも


体育館裏のホーリー
四十四話 残暑、秋を待ちながら


夏休みが明け、季節的には未だ秋というよりも夏に近い。

青々と茂る木々、瑞々しい土に、熱をゆっくりと吸い続けるアスファルト。

開いた窓から流れ込む風に乗るこれらの香りはしかし、夏真っ盛りという程に濃くも無く。

虫の声は未だ夏のものが多く、夜に鈴虫の声を聞けるまでは今しばらくの時間が必要になるだろう。

夏の命はゆっくりと休み始め、秋の虫は動き出す準備を始める静かな境目の季節。

だが、それも季節に命を委ねる自然の動物に限った話だ。

 

夏休みという長期の休みを終えたかと思えば、九月のメインイベント、体育祭が待ち構えている。

クラスメイト達が喧々諤々と出場種目を取り合う声を聞きながら、なんとはなしにモンスターボールを手の中で転がす。

なつき度を上げるための持ち歩きは基本なのだが、そうでなくてもこのボールの手触りは嫌いではない。

 

「暇ですか」

 

「そりゃね」

 

夏休み明けの席替えで偶然(カタギのちょっとした細工には目を瞑るのが優れた忍者である)隣の席になった小猫さんに短く答える。

コミュ能力に優れているという訳でもない此方ではあるが、クラスメイトとの親睦は出来る限り深めていきたいと考えている。

だからこそ、こういう場面では少なからず前に出てどの種目に出るか、なんて事を主張するべきかな、とは思うのだが。

如何せん、この身は忍者。

一般人を置き去りにする身体制御能力を持つ、一種の超人である。

どれに出たとしても活躍しようと思えば活躍できるし、何をやるにしても多大な手加減が必要になる。

 

体を動かすのは嫌いでもないし、身体能力に制限を掛けることは今更何も文句はない。

無いが、疎外感は感じてしまうのだ。

親との繋がりを確かにするために選んだ忍の道ではあるが、こういう時には少しだけ不便さを感じる。

寂しさ、というべきか。

だからと言って、よその世界の逸般人達と一緒くたにするつもりも無い。

子供向けホビーをかざして必殺技を呟くだけで爆発と共にチンピラを吹き飛ばせる様な逸般人はそう転がっていないのがこの世界の現実だ。

この不満は、此方の選択の末に生まれたどうしようもないものだ。

同じ目標に向けて情熱を滾らせる事のできない無為な時間も、甘んじて受け入れよう。

たぶんその内クラス対抗の合唱コンクールとかもあるだろうし、そういうイベントに期待したい。

 

「小猫さんは何に出る?」

 

「私も、特に狙ってるものは無いので」

 

小猫さんは、単純に体育祭というイベントにそこまで積極的になる理由が無いからか、言葉からやる気は感じられない。

まぁ、実際大体の学生はそんなものだろうと思う。

クラス一丸となって、というのだって、単純にクラスメートと集まって騒ぎたいが故の方便の様なもので、本当に体育祭に情熱を燃やしているのは一部の連中だけだろう。

孤立している訳ではないけれどクラスメートと積極的に絡みに行くタイプでない小猫さんならこれが自然だ。

 

「球技大会は楽しかった気がするんだけどなぁ」

 

「あの楽しみ方は問題有りますよ」

 

何を言うのか。

文系の部活が前向きに体育系イベントを楽しむあの在り方は、全力を出せない此方にとって実に参考になるというのに。

映研が編集に編集を重ねて作った球技大会の映画なんかも度々画面が大写しの挿絵になるレベルで面白かったし、非運動部にとって球技大会を楽しくしてくれるのは間違いなく文系部の連中だろう。

まぁ、テニヌしていたグレ森先輩と生徒会長が最終的に独自のテニヌリーグを作ろうとする為に留学することを決意し、アフリカ! の大きな書き文字と共にグレモリー先輩と会長が顔を突き合わせるクソコラで終わるアストロ系尻切れトンボだったのは頂けないが。

たぶん、本人に見せたらキャラ崩壊するレベルで爆笑するか笑顔でテープを消滅させるかの二択にしかならないだろうけど、自主制作映画なんてのは大体そのようなものだから問題はあるまい。

ちょっとカルトな方が作ってる方も楽しいのだろうし。

 

「徒競走で殺傷能力の無い地雷仕込むとか……一発踏むと+100点、一位通過で200点みたいな形で勝ち方を選べる感じのルールをねじ込んで貰って」

 

「生徒会に直談判して説教されれば良いんじゃないですか?」

 

「やですよあそこ知らない人達がいっぱいいるし……」

 

「子供ですか」

 

「子供ですよ」

 

逆にエグリゴリの本社ビルレベルなら、知らない人が大量にいるのが前提だから開き直れるのだけれど。

生徒会の面々は多少顔を知ってるだけにどう接していいか分からないというか……。

これ、社会に出る前に直した方が良いよなぁ。

ほぼ就職先が確定しているとはいえ、万が一切られて行く宛が無くなった場合、普通の忍者として草をする可能性だってあるわけだし。

いや、忍者としての資格は取得してるから、逆に錬金術系の仕事を探すのもありかもしれない。

今度母さんに相談してみよう。

いや、入学一年目の二学期初頭に考える事でもないか……。

 

―――――――――――――――――――

 

彼は自分の事を子供だという。

言われてみれば、別に彼は大人びている、という訳でもない。

例えば今、本気を出せないが故に積極的になれない体育祭の話し合いに混ざれず、手の中で明らかに授業に使わないであろう何かを転がしてふてくされている様は、正しく子どもと言っていいだろう。

じゃあ、どういう人を指して大人と言うのか。

 

……こんなことを授業中、しかも体育祭の出場種目決めの話し合いの最中に考えている辺り、私も書主さんの事をどうこう言えるほどまじめに取り組んでいる訳ではないのだろうけれど。

 

ただ、最近ふと考えさせられる事が多いのも事実だ。

私の周りには、これぞ大人、という大人が見当たらない。

一番近い位置に居る大人となれば魔王様やそのメイドであるグレイフィア様なのだろうけれど、あのお二人は大人というよりも魔王とメイドとしか感じられない。

それ以外の人付き合いと言えば眷属のみんなと王、部長くらいしか居ない訳で。

 

「大人って、なんですかね」

 

大人と思われる、少しだけ私達よりも年上で社会で働いているのだろうな、と思う悪魔の方(と、一応敬う形にしておいた方がいい立場なのだと思う)が、アーシア先輩にちょっかいを出して来ている。

が、あの振る舞いを大人である、と言い切るのは躊躇ってしまうし、あれも大人のやり方なのではないか、という諦めもある。

大人の経済力を利用しての怒涛のプレゼント攻勢、相手が相手ならコロッと行ってしまうのではないかな、とは思う。

しかし如何せん、アーシア先輩はイッセー先輩に心の底から惚れ込んでいて、他から好意を示されても戸惑うばかりだ。

……そんなアーシア先輩の表情を見ても引かない辺り、大人かどうかは置いておくとして、人格的に相性は良く無さそうなのだけれど。

 

「人格面で『完全に大人』になるなんてそうそう出来る事じゃないって」

 

「書主さんも見たことはないですか、大人」

 

「母さんも父さんも、あれで子供っぽい部分はいっぱいあるし……いや、心当たりが無い訳じゃないんだけど」

 

ほほう。

重度のマザコンかつ重度のファザコンである書主さんをして、ご両親を差し置いて『大人』に見える相手が居るとは。

 

「少なくとも、私の知ってる相手じゃないですよね」

 

共通の知り合いには人格どころか年齢とか社会的立場での大人すら少ない。

というか、書主さんがそこまでべた褒めする相手なら、流石に私だってこの人大人っぽい、くらいの印象は抱けているだろうし。

 

「んー、小猫さんが人生に迷って、知らない街の場末のバーで管を巻いたり、チンピラ相手に八つ当たりしてヘマこいたりしなければ、遭遇はしてないと思う」

 

何ですかその迷える主人公やその仲間を舞台裏で導いて立て直すお助けキャラ。

大体、

 

「そんな状態になるならその前に書主さんのとこ行きますよ。お菓子持って」

 

「来る時は電話かメールで先に知らせて下さいね。片付けとかしないとだから」

 

「いやらしい……いやらしくないですか?」

 

「そういうのは最初から見えないとこに置いてるし」

 

「そこー、イチャつくのは休み時間か放課後にしなさーい」

 

いや、別にイチャツイてる訳ではないし、この程度でイチャつきとか言われたらこのクラス、クラス内カップルが大量に発生している事になりかねない。

……無いですよね? いくら夏休み明けって言っても。

ちらりと視線を書主さんに送る。

 

「いや、夏休みの間に出来たクラス内カップルなんて、せいぜい……ひのふのみのよのいつ……あれ? クラス内で合コンでもしてたのかな?」

 

「教室の中が熱いと思ったら」

 

発情期でもあるまいに。

……と、思ったけど、夏は情熱の季節と言うし、一般的な学生となれば、それこそカップルが成立するようなイベントは目白押しなのかもしれない。

こう、海とか山とかレジャー系の土地で見た異性は魅力的に映るって言いますし。

え? 夏祭り?

夏祭りは友達とも行くでしょう?

行くんですよ! 一緒に浴衣着て二人で夏祭り行って帰りにプレゼント貰うくらい……ほら……あの、ねぇ、友達同士なら、良くある……よく有りますよね?

 

「なんだかクラスメイトから生暖かな視線が小猫さんに向かってる気配が」

 

「気のせいじゃないですか? 体育祭の話し合いの途中にまさかそんな……」

 

「そういえば縁日に小猫さんと一緒に行ったかって聞かれたんですけど、あれってやっぱり適当にはぐらかしてた方が良かったかな」

 

「い、いや、大丈夫、大丈夫ですよ、やましいことなんて一つも無いんですから……」

 

「まぁあの縁日、結構クラスメイトとすれ違ってたし、写メも取られてたから今更なんだけど」

 

「わざとやってます……?」

 

「あ、わかります?」

 

この爽やかな笑顔……!

羞恥と怒りを込めて殴りかかろうとした所でまたも委員長に止められてしまった。

そしてふて寝している間に私と書主さんの余り物コンビが二人三脚に割り当てられてしまうのでした。

……いえ、別に、不満があるわけじゃないんですけど……。

 

―――――――――――――――――――

 

そんな訳で、恐らくクラスメイト達の目論見通り、此方と小猫さんが二人三脚で一緒に出場する運びとなった。

身体能力的には問題なくとも、タイミングを合わせるという面ではある程度の練習が必要だろうという事で、現在は小猫さんと此方の暇な時間を調整している。

早朝集まって校舎裏とかを使って練習すればいいのではないか、という、兵藤先輩のありがたいお誘いに乗るという手も無いではない。

何しろ、此方は最近、朝の日課をサボっても問題ない程度には精神的余裕がある。

というのも。

 

「いや、いや、やっぱり未開地というのは楽しいものですねぇ」

 

現代日本ではそうそう遭遇する事の叶わない人種、所謂野盗というものに分類されていた塗料の中、大きく伸びをする。

深呼吸して肺に入ってくる空気は何やら瘴気を含んでいて大変体に悪そうだが、取り込む寸前に地球の大気と同じ組成に作り変えている為に此方の体を侵す事はない。

ぱちゃぱちゃと塗料でできた水溜りを渡りながら、ゆっくりと目的地に向けて歩く。

 

「確か、こっちら辺でしたっけ」

 

冥界という土地は、現地人──悪魔の手の付けられていない未開地の様な場所が妙に多い。

インフラが整備されきっていないというか、文化レベルが実際低い。

教育も行き届いていないし、孤児も多く、その成れの果てであろうゴロツキや犯罪者が普通に徒党を組んで悪事に手を染めたりするし、そういう輩が割りとゴロゴロ転がっている。

つまり、身なりを綺麗にして、少し見目のいい女性に化けてしまえば、あちらから斬り潰されに来てくれる。

ほんの少し扇情的な格好をしておくとなお良い。

海綿体がビンビンに膨張した分だけ、斬り刻める量も完成する塗料の量も増えるというものだ。

結界を貼る手間も必要なく、しかも場合によっては近隣住民に感謝されたりもする。

移動に少し手間が掛かるので普段から来ようとは思わないけれど、ちょっとした用事で来ざるをえない時にはそう悪くない場所かもしれない。

 

「サバミソ、この辺りの風景に見覚えとかあります?」

 

此方の呼びかけに、背の低い群生する植物の文字列の塊の中で『伏せ』をしていたサバミソが起き上がる。

顔形、髪型と本体は一切いじっていないが、服装に関しては着物の構造を見事に無視した崩れる前提の着崩し着物ではなく、常識的な範囲でのほんの少しセクシーな雰囲気を醸し出す洋服に身を包んでいる。

捕まえる前とリリースした後ならともかく、現在此方の手持ちポケモンである以上、あまり恥ずかしい格好(痴女的な意味で)でぶらつかれても困るのだ。

もっとも、現時点では格好もクソも、ただの文字列の塊に過ぎないのだが……、まぁ、イカれた服装よりは真っ当な服装の方が与し易い一般人に見えやすいので、何のメリットもないという訳ではないのだが。

 

「昔の事過ぎて、覚えてないにゃん」

 

素っ気ない言葉と共に、文字列の頭部にあたる部分が蠢く。

外側の縁の変化から察するに、顔を背けた、というところだろうか。

 

【ふい、と顔を背けしらを切りながら、思い出すのは主を殺し、追手から逃げて暫くの頃の記憶だ】

【覚えていない、という言葉はある意味では嘘で、ある意味では本当の話】

【人里でない森の中、整備されているとは言いがたい荒れた道】

【それは数年の年月を経ても全く変わらず元と同じ情景を保っているはずも無く、仮に当時の記憶がはっきりしていたとしても判別は難しかっただろう】

【だが、今の主(勿論、【検閲済み】……サバミソが心から認めている訳でもないし、主の方も一時的な仮のものであるとしている)への悪戯心と、日に日にわかりやすく削れ始めている反抗心による抵抗から、ある情報を伏せているのも確かだ】

【その情報とは、植生】

【嘗て殺した主は様々な方法で眷属やその血族を強化していたが、その過程で様々な材料を必要とし、或いはそれは一般には流通しない、意図的に栽培した場合法に触れるものも多く存在した】

【つまり、偶然森の環境が整い禁止薬物の材料と成り得る植物が育ってしまった、という名目の元、カモフラージュされながらも人工的に栽培されていた幾つかの植物】

【真っ当な自然環境ではそうそう群生する筈のないその植物が多く目に入る植生は、嘗て主に飼われていた頃に身を置いていた場所とそう遠くないという事を示している】

【もっとも、自分を信頼しきっていない筈の使い魔である筈のサバミソに案内させるほど冥界に詳しくない今の主に、そんな細かな違いが判るわけはないので、説明しない限り気付く事はないのだが】

 

なるほど。

植物の分布か。

特殊な薬の製造なども仙術の内に含まれる筈だし、そういうところにも目が行くか。

此方も地球の植物でなら似たような真似ができるのだが、やはり冥界に詳しく、なおかつ当時の主が密かに森の中に紛れさせながら栽培させていた植物に関する知識を持っているサバミソを連れてきたのは正解だったらしい。

 

「そうですか。まぁ駄目だったら駄目だったで、当時の新聞なりなんなりを参照して殺された主さんの事を調べればいいだけの話ですしね」

 

ぶっちゃけ、それが一番早いのだが、図書館などを利用して変に足がつくのも気持ち悪い。

そもそも早く済ませたいなら魔王さんなりなんなりに話を聞けばすぐ済む話だ。

 

「にゃあ、なんで、こんな真似してるにゃん?」

 

「ん……そうですね、一応、小猫さんと話している時に、前々から思ってた事があるんですよ。で、実際貴女を見てみて、ああ、これはどうにかなるな、と思いまして」

 

「何言ってるかわからないにゃあ」

 

「少なくとも、小猫さんや貴女にとって悪いことではない、という事だけは保証しますよ」

 

「……今更そこを疑うつもりも無いにゃん。白音とは仲良くやってるみたいだし、扱いも悪く無いしにゃ」

 

常識的に考えて、突如として謎の球体に押し込められて、名前を奪われて、扱いが悪く無いというのは何の皮肉だろうか。

 

【皮肉、という訳でなく、これはサバミソにとっての正直な感想だった】

【弱った所を捕まえられ、妹の近くに居ながら会うこともできない】

【だが、今の仮の主が何をしているのか、段々と朧気な全容が見えてきたサバミソにとって、今の主は力の強大さに反して妙に道徳的で理性的に映る】

【社会的でもあるのだろう。目的の事を考えれば恐らく、今の調査をほっぽり出して、コネクションのある魔王にでも直訴し、或いは脅しつければいい。それができるだけの力がある筈だ】

【油断ならない相手ではある。異常な力の使い手でもあり、何より自らの力を隠蔽する術に長けている当たりは胡散臭くもある】

【だが、それらが自分や、大事な妹を害する事に使われる事は無いだろうという確信が持てる程度には、その人間性は把握できたつもりだ】

【彼は情の人だ。勿論、情を向ける相手を選ぶ事はするだろうが、その基準も然程厳しくはないのではないかと思える】

 

瞼を閉じる。

斬り潰し塗料にできる相手が居ない以上、瞼を開け続ける理由など無いのだ。

……決して、なつき度の上昇を超えるレベルで高評価である事に、妙に背中が痒くなってきたからではない。

 

「……」

 

「んにゃーん? あ、照れてる? 照れてるのにゃ? 毎晩毎晩恋人とあそこまでやりまくっておいて、可愛いところもあるみた」

 

「ボウイ」

 

遮るように旅パの名を呼ぶと、ボール操作を介さず自力で赤い結晶に包まれたハッサムのボウイが飛び出してきた。

こいつはその兇悪な外見とは裏腹に穏やかで紳士的な性格をしているので、勿論出てきた途端に何かに襲いかかるなどという事もなく、静かに佇んでいるだけだ。

なので、サバミソが台詞を中断してその場で仰向けに寝そべり腹を見せて完全降伏野生敗北飼い犬バンザイ大服従のポーズを取ったことには何の因果関係も存在しない。

サバミソは煽り癖こそあるものの、基本的に臆病なのだ。

哺乳類というのは痛がりで臆病なのだが、まぁ、野生で生きていく上では大事な生存戦略なのでどうこう言うつもりもない。

 

「待つにゃん、待つにゃん先輩。私は主にすっごく忠実なしもべにゃん。神でも悪魔でもブッダでも今夜の夜食でもなんにでも誓っていいから大回転コースは勘弁するにゃん」

 

「────」

 

金属の軋むような独特な鳴き声には呆れが含まれている。

繰り返すがボウイは紳士的だし穏やかな気性をしているため、別に虐待も暴力も何も無い。

一度サバミソが『どれくらいのものか試させてもらうにゃん』とかいう死亡フラグを丁寧に立てた後に軽めの模擬戦を一度行わせただけなのだ。

ボウイは一切直接的に怪我をさせるような攻撃はせず、中空の一点に座標固定した上で全方向にぐるぐるとサイコキネシスで回転させ続けただけだ。

勝手に突っかかって勝手にトラウマを手に入れるとか器用な猫だと思う。

 

「そろそろ夜食の時間だから呼び出しただけですよ」

 

「……そういうとこ、やっぱり信用しきれないにゃあ……」

 

「────」

 

「ひぇ……」

 

「いいよボウイ、気にしてない。信頼は時間を掛けて勝ち取るものだし、そういう風に取られる振る舞いをした此方も悪い」

 

「────」

 

キシ、と、小さく頷く音だけを発してその場に着陸するボウイ。

習うようにして座り込むサバミソ。

位置的には此方ともボウイとも等しく距離を取っている。

此方に意識させないように一定の距離を保っているのは彼女の警戒心の現れだ。

記述に見える内心を誤魔化している、という訳ではなく、此方の行動に一定の理解を示しつつ、それでも最低限の警戒心を残しているのだ。

妹である小猫さんと違い、彼女は野良猫気質なのだろう。

 

「一応、簡単な弁当と、キャットフードと、ポロックがありますけど」

 

「青かピンクなら食ってやってもいいにゃん」

 

「……弁当、割りと多めに作りましたし、毒も入ってないですよ?」

 

「?」

 

あ、駄目だこれ、もうポロック食べるのが自然な感じになり始めてる。

そろそろ証拠を纏めて魔王さんに『お願い』して解放してあげないと、ニックネームではない種族名に聞こえる鳴き声か、安っぽい電子音声の組み合わせ染みたノスタルジックな鳴き声を発するようになってしまうかもしれない。

今日はもう遅いし、明日も学校があるから、もう少しだけ調査したら帰らなければいけないけれど、今週末は泊まりがけで調査を一気に進めたほうがいいかもしれない。

日影さんにお願いして手を貸してもらうのも視野に入れておくべきか。

 

「もうちょっとだけ、頑張るかな」

 

頑張りすぎる必要はないが、サバミソが元に戻れなくなっては意味が無いので、適度に。

学業や日常生活の妨げにならない程度に、がんばろう。

 

「────」

 

「にゃ、にゃ」

 

月明かりすらエネルギーに変換しつつ静かにポロックを喰むボウイと、かしかしと知性の感じられない咀嚼音を出しながらポロックを齧るサバミソ。

本格的にサバミソがポケモンの一種と化してしまったら、繁殖の為に実験用のメタモンを解凍しないとなぁ。

日影さんが作ってくれたおにぎりを頬張りながら、なんとはなしにそんな事を考えた。

 

 

 

 

 





────ストックホルム症候群というものをご存知だろうか
ご存知? なら大丈夫ですね
そんな四十四話でした

★小猫さん
名前呼びになったけどただの親友的なあれですので
というムーブがもう少し続く
具体的にはこの巻のラスト辺りまでは確実に続く

★主人公
小猫さんへの好感度が上がるにつれて、一つどうにかしてやりたいことが出てきたらしい
でもあくまで学生なので学業と青春が第一という事で
ちなみに今回の六巻、主人公がそれなりに頑張って小猫さんのヒロイン力を引き出す予定

★主人公も心の底から認める立派な大人
伯父さん
すっごく頼れる
たぶん主人公の両親と比べて真っ当に歳を重ねているけど、それが弱体化に繋がるのかと言われると疑問でならない
むしゃくしゃしてチームから逃げ出して治安の悪いとこで悪党に絡まれていると確率で助けに来てくれた挙句に導いてくれたりする

★サバミソ
即落ち二コマではないが、全13ページ位のエロCG集で言う八枚目位にはなってしまっている
そこに至る経緯を次の話で描くVガン形式にしたいけど作者の気分で変わるかもしれない

★お弁当、猫缶、ポロック
主人公がこっそり作ろうとしたら後ろから現れた日影さんが一緒に手伝ってくれたお弁当
お使い系ゲームとかでヒロインが作ってくれる定期補給アイテムめいている
猫缶は圧巻のペディグリーチャム
ポロックはタールめいた黒色に虹色の照り返しが見えて実際不思議な食欲が湧いてくる
一つ目と二つ目は確定で体力を回復してくれる



次回は黒なんとか改めサバミソさんの独白とかから始まる五巻エピローグからこの話に至るまでの経緯とか?
そして二人三脚の練習という如何にも青春っぽい感じの話もやりたい
小猫さんが少しモノローグで触れた六巻の敵? でも今は、そんなヤツはどうでもいいんだ。重要な事じゃない
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