文字通り絵に描いたような、あくまでドラゴンメインの高校生活   作:ぐにょり

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FAG弄る→フレキシブルアームの変換機に付ける神姫を荷物から探す→買い逃したと思っていたアイネスローザとレーネヴィオラを発掘
組み合わせて遊ぶ→変換ジョイント挟むとやや不格好になるのに気付く→FAG本体改造した方が早くね?(拡張感)
追加でアーキテクト注文→届くまで他のプラモで穴開けの練習しよう→取り敢えず積みガンプラで練習だ
最近FAやFAGばっか作ってたからHGがすいすい組めて楽しい→ガンプラは関節頑丈だなぁ→動かして楽しい→ついでに塗装だ!
塗装……? そうだFAGも塗装だ!


という、楽しい楽しい無限獄にはまっていたので更新が遅れました
今後も立体物を手に入れる度に更新がごりっと遅れますがご了承下さい



四十七話 観察、傍らより

「小猫さん、おはよう」

 

「おはようございます。……なんだか眠そうですね」

 

朝も早い時間から、学生服を身に纏った二人の男女が歩いていた。

勿論、今の時間がこの国の平均的な学生の標準的な登校時間からそう離れていない、という程度の事を知らない訳ではない。

しかし、二人の内、男の方の学生服の下、ベルト付近に据え付けられた、ピンポン球程度のサイズしかないボールにどうにも説明し難い、奇妙な、しかしそれでいて不自然さを感じさせない、安らぎすら感じる収まり方をしている一匹の悪魔にとって、それは知識の上でのことでしか無い。

自由な生の中に生きるその悪魔にとって、この時間は普段であれば余裕で眠りに付いている時間なのだ。

猫は夜行性、これは当の猫達にとっては当たり前過ぎて、疑問を差し挟む事もできない事実だ。

 

故に、男が並んで歩いている少女、自分の妹に対して、大変だにゃぁ、という他人事の様な同情と、それほど辛そうにしていない事への感心と安心のどれをも等しく抱く。

なるほど、わかってはいたことだけれど、白音は私とは違う。

こういった『決まり事』に自分を収める事ができるだけの柔軟性は、自由で無い事に耐えられない自分とは異なる適正の顕れなのかもしれない。

誰に知られる事もなく、吐き出していたのは安堵の溜息だった。

事前に少し知ってはいたけれど、白音は悪魔の下でも健やかに生活を送っているらしい。

 

これなら、少なくとも、見ていて辛い、という事は無さそうだ。

さして重要でない世間話をしながら歩く白音と男を見ながら、元猫魈の悪魔、暫定名サバミソはそう結論づけた。

 

―――――――――――――――――――

 

『端的に要求を言ってしまえば、これから貴女には幾つかの調査を手伝って頂きたいと思っているのです』

 

『それに対するリターンとしては、そうですね、悪魔や禍の団の目を完全に欺いた状態で小猫さん……妹さんの普段の生活の一部を見守れるようにしましょう』

 

『調査が終わるまでの期間限定ではありますが、仮に隠蔽が失敗した状態でも、貴女が逃げるまでの身の安全くらいは約束しましょう』

 

『悪い話では無いと思いませんか?』

 

何が悪い話では無い、だ。

むしろ話が旨すぎて信じるのが難しいじゃないか。

結局全ては口約束で、この男はその気になればあの恐ろしい使い魔や自分の手で密かに始末を付けられるというのに。

捕まえて、それを誰にも知らせず、武器を突きつけながらの交渉に誠意を感じろとでも言うのだろうか。

 

……そう、悪態を吐くのは難しくない。

それこそ、今の現実に目を向けなければ、という話になるが。

 

「隣の席、ですか」

 

「なんとも作為を感じるけど、まぁ不便という訳でもないし」

 

「ですね」

 

に、と、男の声に頷きながら小さく笑みを零す妹。

嬉しそうに、楽しそうに男と言葉を交わすその姿に嘘がない、という程度の事は理解できてしまう。

きっと、妹はこの男の事を心底信頼している。意識的か無意識的かはともかくとして。

そして、そのどちらだったとしても、それは自分よりも余程付き合いが長いだろう妹が、この男の人間性をある程度理解した上での反応な訳で。

 

……その点を意識した上で考えると、確かに今の状態は高待遇と言えなくもない。

調査を手伝ってくれ、と言われ、しかし実際に行っているのは曖昧な記憶からの具体性のない道案内程度。

そして、こちらから姿を見せる事こそできないけれど、いや、見せないからこそ、今の白音のありのままの普段の生活を垣間見る事ができている。

この男の言う通り、私は多少の手伝いで、やろうと思えばそれなりに手間になるだろう妹の観察を行えている。

少なくとも、今の時点では。

 

―――――――――――――――――――

 

……さて、私は気ままな野良猫気質ではあるけれど、決して頭が悪く知識が少ない、という訳ではない。

仙術も妖術も、その他の様々な技術にしても、その大半は先人の積み重ねた知識を学んで身につけたもの。

所謂、白音が今通っているような学校に身を寄せたことはないけれど、それは学ぶ機会が無かったということにはならない。

 

学はなくても馬鹿じゃない、という奴だ。

インテリぶる訳ではなく、それが野生に生きるという事なのだ。

生きていく上で、学ぶことをせずに生きていける、『腕力家』とでも言えるような連中というのは所詮一握り、いや、一摘み程度しか居ないだろう。

お化けには学校も試験もなんにもない、というのは、ただ楽な暮らしをしているというだけの話ではない。

誰に測られるでもなく自分の力量を把握し、生きていく上での知識や力を自発的に手に入れていかなければならないという、自由であるが故に不自由とかどうとか言われる部分を表していると私は思う。

 

だから、新たな知識を学んで自らの力にする時には、モチベーションがとても大切だ。

この知識でこういう事ができるようになる、この場面ならこういう選択肢が増える。

自衛だけでなく、狩りを、戦いをする時に様々な選択肢を選べるというのは楽しいものだ。

獲物を嬲るのだって、猫の本能なのだから、そこを否定する理由は一切無い。

 

そして、そういった意味で言えば、この授業で学べる知識がどう役に立つか、と言われると、中々に難しいものがあると思う。

 

「ふぁ……」

『んにゃ……』

 

授業を受けている白音も、本音を言えば私と同じ感想なのだろう。

少なくとも、この授業単独で考えてモチベーションを上げていくのは難しい。

だけど、それが無駄である、とは思わない。

私が知る限り、この国の子供達にはとても多くの、それこそ、悪魔や天使、堕天使、妖怪などと言った連中とは比べ物にならない程に多岐にわたった未来がある。

だから、この授業内容が将来的に必要になってくる職業というのも間違いなくある訳で。

逆に言えば、将来の夢に重なる部分の無い、或いは将来の夢に必要になると理解できないのならば、この授業は酷く無意味なものに思えてしまうのだろう。

そう思えば、多くが退屈に感じられる授業を、無駄なのではないかと思える程に多岐にわたる知識を半日ほど掛けてじっくりと教えこむ、というのは、恐ろしく贅沢な話といえる。

理屈の上で考えれば、この学校で教えている知識を余さず学び取る事ができるのなら、より多くの未来への選択肢を手に入れる事ができるのだから。

 

つまるところ、白音は実の姉が兇悪な犯罪者として指名手配されているにも関わらず、一般的な下級悪魔では考えられない程の高待遇を受けている、と言い換える事ができてしまう。

なんともはや、噂に聞く現魔王というのは本当に情け深い。

 

「小猫さん、小猫さん」

 

「ん……にゃ」

 

「そろそろ順番ですよ、起きて、起きてって」

 

本人はその恩恵を、十分に受け取れるだけの勤勉さは持ち合わせていないようだけれど。

 

白音がそれなりに良い環境で生活できている、というのは解った。

じゃあ、その場で白音は楽しくやれているのか、という点を疑問視したい。

したいのだけれど、したいのだけれど……。

傍から見て、その一点に疑問を持つのは難しい、と、そんな結論が出るのに、そう時間は掛からなかった。

 

見ていて分かる範囲だけで考えれば、この学校に通っている連中の大半は、知識を得ることに悦びを感じて学校に通っている訳ではないらしい。

そしてそれは、私の妹もまた同じ。

それぞれ多少の違いはあれど、この場所に通っているという事自体が目的でもある。

それは自分の経歴に箔をつけるためであったり、この場所で会える誰かのためだったり。

 

非常に、非常に納得のし難い話ではあるのだけれど、納得せざるを得ない部分もあるので、悩ましい。

だってそれは、ここから白音を攫ってしまえば、どうしても白音の心を曇らせる事になるという事だ。

力を得て、自分も白音も護り、鍛える事ができる程度に強くなった今こそ、一緒に暮らせると、そう思っていた私からすれば、どうにも素直に受け取れない。

 

白音は、塔城小猫という少女として、人間の中に紛れた悪魔として、割りと幸せにやれている。

少しは知っていたつもりだったけれど、自分の目で確認するのとでは大きく違う。

何も知らなかった幼い白音では見せなかった表情は、自分が居なかった間の成長を実感させるには十分すぎた。

別に、白音と再会して一緒に過ごすことを目的にしていた、という訳でもない。

基本的には生きるのに必死だったし、必死にならなくても自由に生きていけるようになってからも気ままに生きるだけだった。

だから、白音に会いに行ったのだってただの気まぐれが半分くらいはあった。

攫って一緒に暮らそう、なんていうのもほぼ思いつきだ。

 

ただ、思いついた時点では、間違いなくいい考えだと思っていた。

今の生活があっても気にしないでいられると思っていた。

 

馬鹿げた話だ。

本当なら、こうして自分の目で確かめるまでも無く、わかっていなければならなかったのだ。

既に、白音は一度、家族と共に穏やかに生きる、という道を誰かに奪われている。

今、白音が手にした『穏やかな世界』を奪う事の意味を、少なくとも、誰が理解しなくとも、私は自覚しているべきだった。

 

何日も、何日も、短くなく、長くない時間、白音の今の生活を見て、私は欲しくもなかった納得を得てしまった。

欲しくはなくとも、もしも得ること無く進んでいたら、取り返しが付かなくなっただろう理解。

私の思いつきは、もしかしたら、ずっと前から心に抱いていたのかもしれない願いは果たせない。果たすべきではない。

でも、お陰で私は、白音に悲しみを強要せずに済んだ。

その点だけは、感謝するべきかもしれない。

 

「にゃあ、なあ、にあー」

 

意味もなく叫びだしたくなる衝動に任せ、鳴く。

授業の真っ最中、だけど、この球体の中から外には音は漏れない。

誰に聴かせるべきでもない鳴き声は、狭いボールの中を反響する事もなく、ただ私の鼓膜だけを震わせた。

 

―――――――――――――――――――

 

どうしようもない、少なくとも、私の願う一つの未来は手に入れるべきでないと理解してしまった後でも、現状は続く。

それに異は無いけれど、以前ほどの意欲が湧かなくなったのも確かだ。

私は私が姉である以上当然備えているべき妹への愛情は持っているけれど、一日中妹を眺めているだけで心も身体も満たされる程に愛情を拗らせている訳でもない。

……どうにも悲観的に聞こえるかもしれないけれど、つまるところ、私は改めて白音以外の諸々にしっかりと目を向ける事ができるようになっていた。

 

周囲に焦点を当てる事ができるようになった私は、白音を取り巻く環境、悪魔、人、そういうものに興味がそそられるようになっていた。

深く関わっている人間は少ないものの、概ね善良そうな連中である事はとても喜ばしい。

そして、そういった人間達を見回して、最後に目に入るのは……やはり、ある一人の少年だった。

 

私の名を奪っている……筈で、このサバミソという偽り……だったと思う名を与えて、私を縛り付けている、謎の多い少年。

読手書主という名の一人のニンジャ、いや、一人の人間は──────

 

―――――――――――――――――――

 

「あ、小猫さん、おつかれ」

 

部室に入ると、何故か書主さんがソファに座ってリラックスしていた。

何故か、という程に不思議ではない程度には書主さんもオカ研の部室に訪れているのだけど。

 

「用事は?」

 

「一段落かな」

 

どうやら、最近急いで家に帰ってまで取り掛かっていた何がしかのトラブルは無事に解決したらしい。

だからといってオカ研に来る理由もそうそう見当たらないのだけれど、しいて言うなら居心地が良いのかもしれない。

これは別にここが一番のお気に入りとかいうポジティブな理由ではなく、書主さんの他の友人の部活などでは真っ当に部活動を行っているので、部員でもないのに部室で屯っているのは気が引ける、という程度の話だと思う。

放課後に来れば大抵誰か一人は居るし、それがギャーくんや木場先輩であればそれなりに会話も弾むのでしょう。

部長とはあまり話さないようだけど、イッセー先輩やアーシア先輩とも世間話やちょっとした誂い程度はするし、実は副部長ともそれなりに話せたりするらしい。

 

……正直、ここまで来たら眷属にならないまでも、幽霊部員としてオカ研に席を置いても良いんじゃないのかな、とは思う。

もちろん、まっすぐ帰る日の方が多くはあるけれど、それでもここに顔を出す頻度はそれなりに高い。

悪魔含む神話関係のややこしい派閥争いだのに巻き込まれたくない、という、現状それほど意味があるとは思えない書主さんの主張を考えれば、仮にでも悪魔と同じ派閥に入るのはあり得ないのだろうけど。

 

「日影さんは?」

 

「女子セパタクロー部の練習試合の助っ人に行っちゃった」

 

ああ、新設されたばっかりだから人手が足りてない、とか言ってた覚えが。

それにしても、

 

「日影さん、割りと顔が広いですよね」

 

「ああ見えてかなりコミュ力があるから」

 

「書主さんより?」

 

「凄いでしょう」

 

ここで恥じることなく胸を張れる書主さんもある意味凄いですけどね。

 

「それなりに人の往来のある道路でいかがわしい本とか落とした女子に拾って渡して『なぁ、これ、面白いんか?』とか声も小さくせず本を隠したりもせず話し掛けたりできるレベルのコミュ力、とても此方には真似できません」

 

それは真似をしないであげてください死んでしまいます。

という言葉を飲み込み、鞄を置いて書主さんの隣に座る。

これは別に隣りにいるのが習慣づいているとかいう事ではなく、書主さんの手の中にあるものが気になっただけなので勘違いしてはいけない。

 

「何読んでるんですか?」

 

というのも、書主さんはさっきから私と話しつつも、手の中の一冊の雑誌に目を落としたままなのだ。

別に会話をする時は目を見て話しなさい、なんて事を言うつもりは無いけれど、そこまで集中して見る本とはどんなものなのか、気になる。

 

「普通の週刊誌かなぁ」

 

「週刊忍者とか?」

 

「それは先週合併号だったから今週は休み」

 

「あるんですか週刊忍者」

 

「先週の付録の忍シュリケン、直前にオークションで落としたモデルの復刻版で……。消えていった諭吉は何だったのかっていう……」

 

「ご愁傷様です」

 

忍シュリケンとは何なのか、という疑問を軽くスルーしながら、身を乗り出して雑誌の中に目を通す。

 

「冥界の字、読めるんですか?」

 

「そりゃ、こうして丁寧に纏められてるからね。読めない理由も無い」

 

これも見れば判る、というものなのでしょうか。

尋ねる程の事でもないか、と思いつつ、雑誌の中身を横から一緒になって読む、

……ふりをして、バレないように少しだけ、本を読むために薄っすらと開いた瞼の奥を見る。

そこにあるのは何時も通りの不思議な瞳。

宇宙を押し込めたような、というのが一番端的で解りやすく、でも、それだけでは説明の付かない不思議な輝きを宿した瞳。

平時であれば、日影さんと居る時でも無ければ見ることも中々無い。

平時でない時、鉄火場であれば、この星の海の様な、光沢の代わりに底のない奥行きがある黒曜石の様な瞳は、まっすぐ見るには辛い苛烈な感情を宿してしまう。

それを、こんな何気ない学校生活の中の一ページで独占できるのは、中々贅沢な事だ。

別に、変な意味ではなくて、あの輝きは、どうにも心が惹かれてしまう。

光り物を好む猫としての本能かもしれない。

そういった、野生の本能とか、これまで得た知識とかから考えれば、少なくとも、今まで見たどんな宝石よりも、書主さんの瞳は……。

 

「あ、小猫さん、特集組まれてる」

 

「え……え? 本当ですか?」

 

少し変な事を考えていたせいで反応が遅れてしまった。

書主さんは終始視線を雑誌の中だけに落としているから、見つめられていた事には気づいていないだろうというのが救いか。

 

「ほら、このページ、丸々小猫さん特集」

 

「なんというか、これは」

 

テレビのインタビューはこの間受けたけれど、何故だかあの時よりも恥ずかしい。

それが友人に見られているからか、紙面に起こされてその場で何度でも読み返せてしまうからかは分からないけれど。

内容は、主にこの間のシトリー眷属とのレーティングゲームでの活躍に焦点が当てられている。

 

「『期待の新星、新たな大魔導師、塔城小猫の秘密に迫る』かぁ、いや、如何にもって感じの記事じゃないですか大魔導師さん」

 

「や、やめてくださいよ……」

 

大魔導師、という称号は、如何にも事実からかけ離れている。

大体、それを言えば私よりもこの魔術に関して造詣の深い筈の書主さんは何になってしまうというのか。

……そこら辺の話は実は何度かしているのに、何故か夏休みの前と後で答えが違っていたんですよね……。

前は、『ニンジャで錬金術士だから魔法も嗜みの内なんですよ』とか言ってたのに。

『実は魔術結社で幹部のバイトをしていた事が』とか、夏休みの間に一体何が……。

 

「でも、なんかこう、単純に褒めそやすでも持ち上げるでも無い、微妙に奥歯にモノの挟まったような内容ですね、煽りの割りに」

 

特集の中身を読み進めていた書主さんが首を捻る。

記事をざっとななめ読みしてみれば、使う魔術の幅広さを褒めているようでいて、その術の制御がどれほど正確であるか、暴発、或いは暴走して味方に向けられた場合の危険性なども書かれている。

勿論脈絡なく書かれている訳ではなく、年若い下級悪魔であるが故の技術の未熟さがあるのではないか、という疑念からスライドしてそこに至っているのだけど。

やっぱり、違和感は否めない。

むしろ逆に、最初の術の多彩さと運用の上手さ、などのプラス要素すら、後半の疑念に繋げようとしているようにも読める。

 

「……まぁ、仕方ないんじゃないですか? ほら、活躍したって言っても公式戦は一回しかしてない新人ですし」

 

一応、魔王様直々に保護されている上に名前も変えてはいるけれど、判る相手には判る、という事なのでしょう。

こんな雑誌の編集の中にも事情を知るひとが紛れていたか、さもなければ、何処からか圧力が掛かったか。

半々、いや、どっちもという可能性だってある。

そんなのは今更の話なので、別段気にもならない。

 

……というのは、少しだけ、嘘だ。

私に当たって来る事よりも、むしろ、その大本、姉様の王殺しについて。

こうして今もこういう扱いを受けるという事は、結局は誰一人として真相を知らないのだろうな、という、それだけが、少しだけ、嫌だ。

冥界にとって、姉様は今も力を暴走させて本能に飲み込まれ主を殺した極悪な犯罪者でしかないらしい。

実際のところ、私だって、姉様の本当の事情なんて知りもしないのだけど。

それでも、違うと私は確信している。

でも、違う、という事を、たぶん、誰にも証明できない。

 

「小猫さん」

 

「……何ですkむぐ」

 

雑誌から顔を上げると、返事を遮るように口の中に何かを押しこまれた。

硬い、乾いている、舌に触れると少し甘み、酸味も同時に来て……、じゃなくて。

 

「はにすふるんへすか」

 

「いや、ぼーっとしてたから、眠気覚ましをね」

 

「む」

 

別に呆けていた訳でも、眠いわけでもないです。

……と、言わなくても書主さんは理解しているだろうから、口の中に押し込まれた何かを軽く咬みながら舌の上で転がす。

 

ドライフルーツ、たぶん苺だろうか。

少しだけ高級感があって、スーパーや量販店に行かなければ無いようなイメージがあるけれど、最近ではとあるコンビニのプライベートブランドで展開しているために気軽に手に入るものだ。

割りと万人受けする味で、私も書主さんも揃って気に入っている。

 

「美味しい」

 

「もっと食べる?」

 

「ん」

 

「はい」

 

掌を差し出すと、その上にコロコロと乾燥した苺が転がってきた。

……私も大概だけど、書主さんも大概不器用な人だと思う。

私の様子がおかしくなったのを見て、元気づけようとしているのかもしれないけど、それが餌付けというのは、女の子を単純に考えすぎではないでしょうか。

女の子の扱い全般がこれなら、日影さんは苦労しそうだ。

 

「……ありがとうございます」

 

私は割りと単純だからいいですけど。

 

「どう致しまして。……しかし、他の人ら来ないねぇ」

 

本を閉じ、瞼を閉じて顔を部室の入り口に向ける書主さん。

時計に目をやれば、もう授業が終わって結構な時間が経っている。

レーティングゲームも近いから通常の部活は中止、という可能性もあるけど、それなら逆に皆で特訓、という流れもありえる。

なのに、部長や副部長どころか、かなりの確率で部室に居るギャーくんすら居ない……。

もう一度、視線を入り口に向ける。

部室の中は電灯もあり明るいけれど、廊下はあくまでも使用されていない旧校舎というていで通している為暗く、中から外を確認するのは難しい。

視線を向けた時に入り口のドアが『ガタッ!』と揺れたとしても、ドアの外を中から確認するのは難しいのである。

 

「書主さん、何か投げるもの持ってません? 石とか」

 

「生憎と鉄の手裏剣くらいしか」

 

貸して、と言う前に一枚差し出してくれた。

さすが親友的なレベルに達した友達、中々にツーカーでちょっとうれしい。

 

「急に手裏剣が投げたくなりました。どうせ旧校舎ですし、廊下に向けて投げれば誰にも迷惑かけませんよね」

 

「ですね、旧校舎ですし。居るとしたらオカ研メンバーでしょうが、オカ研の人らは気配絶ったり足音消したりして廊下で部室の中聞き耳する理由も無いでしょうし」

 

「ですね……で、手裏剣ってどう投げればいいんですか」

 

「サイコ──、スリケンは心で投げるんですよ」

 

ヒューッ!

テクニカルかつスピリチュアルなアドバイスに従い、ソファから立ち上がり、先日古本屋で立ち読みした古い野球漫画の如く大きく振りかぶり、投げる。

高速で回転し空気を引き裂く音を立てながら手裏剣が飛んで行く。

ギュン、と、弧を描く様に飛んだ手裏剣は、さほど分厚くない部室のドアを貫いて姿を消していった。

 

……その瞬間に廊下から「ひゃわぁ!」とか、「い、いま、耳、耳に、チュンッて!」とか「だからやめておきなさいって言ったのに……」とか、「ぶ、部長、今からでも素知らぬ顔で入りましょう!」とか、「早く入りませんか?」とか、そんな声が聞こえてきた様な気がしましたが。

勿論気のせいです。私のログには何もありませんね。

それにしても思ったよりまっすぐ飛びません。

 

「まっすぐ飛ばすつもりならそんなに回転数は必要ないよ。当てるだけならもっとリラックスして、腕の振りは靭やかに、でもリリース時の指先はソフトに」

 

「奥が深い」

 

「色んな力学も絡んでくるからね。しっかり技術を納めれば光速で移動する標的にも当たるから、拘りある派閥もあるし」

 

はい、と追加で手裏剣を渡される。

別に何処を狙って投げている訳ではないけれど、幻聴の大本の位置は把握できた。

日々健康な生活を送っているのに幻聴が聞こえるというのは気味が悪いので大本を絶ちましょう(使命感)。

 

腕を鞭のようにして手裏剣を投げ、廊下から『すこんッ』という小気味いい音と共にイッセー先輩の声に似た悲鳴が上がる。

惜しい、じゃない、幻聴が酷いですね。

とはいえ、コレ以上は事故では済ませられないので話題を切り替える。

 

「そういえばそろそろレーティングゲームの開催日なんですけど……」

 

「応援しにいくよ。まぁ、他の用事のついでになっちゃうけど」

 

それは良かった。

用事だけ済ませてレーティングゲームを見もせずに帰られたらそれはそれで寂しい。

 

「物販とかあります? 顔写真入りうちわとかあるなら買った方がいいですかね」

 

「そこまで一般向けではありませんし」

 

「小猫のプロマイドとかなら撮影許可はここで出せるわよ」

 

ガラッ! と、勢い良く戸を開けて優雅ポーズを決めながら澄ましたお姉さま顔で言う部長。

誰が許可を出すんですか?

そう言葉にするよりも早く、髪を掻き上げる大物ポーズにシフト。

 

「ただし! 水着以上の露出は本人との要交渉よ。……まぁ大丈夫でしょうけどね!」

 

書主さんを指さしながら、バァーンッ! と効果音が付きそうな程のキメ顔。

もしかしてもっと手裏剣が必要なのかもしれない。魔法だと足がつきますし。

 

「ほら、リアス。ボケるのもいい加減にしないと、愛想つかされちゃうわよ?」

 

そう言いながら部長の背中を押しながら部室に入ってくる副部長、何故かビクついているアーシア先輩やイッセー先輩、四人から一歩下がって苦笑を浮かべている祐斗先輩。

最後に、他人事の様に声を殺して笑う書主さんを見て、毎度の事か、と、さほど深刻でない諦めと共に、一つ溜息を吐く。

こうして、私のいつもとさほど変わらない、放課後の一時が始まるのでした。

 

 

 

 

 

 




ハンバーグに入れるパン粉回
眷属ルートじゃないから合間にある取材イベントとかが抜けて話がぶつ切りになってしまうのでこんな形に
話はさして進まなかったけど寛容な心で許して欲しいかも
一応、アザゼルさんに促されて取材受けてうだつのあがらない下級悪魔向けにエグリゴリの求人CMをするルートも考えたんですが忍者は目立つことはしないのでボツ

☆木場先輩
飛んできたのがさして害の無い鉄の手裏剣である事を察知した時点で一歩下がって部長たちから離れた
王の危機を救うのは騎士の役目だが、日常の些細な眷属とのじゃれあいまでは管轄外なのである
忠誠とは過保護の事ではないという事を示してくれる騎士の鑑

☆ゼノヴィアさん
最近部室に来るのがみんなより遅れるのは、部室に行く前に教室とか屋上とかで物思いに耽っているかららしい
クラスメイトに何事かを相談する姿も見られるとか
相談相手に部長を選ばずクラスメイトを選んだことで、ギャグ系ラブコメ噛ませ枠からピュアエロ系ラブコメ噛ませ枠への進化条件を満たす事ができるかもしれない

☆ギャーくん
実は部室に居た
小猫さんが来て暫くしてから起きたが、小猫さんが主人公の隣に座って親しげに話しているのを見て出るに出れなかった
決して、真顔でダンボールの隙間から二人の事を無言でじっと見つめていた、などという解釈をしてはいけない

☆部長さん
急に手裏剣が来たので
覗き見&盗み聞きの姿勢だったためとっさに回避できなかった
身構えていたら回避できたかというと別にそんな事はない
書いてて思うけどうちのSSの部長は恋愛イベント死んでそうなのに人生楽しそう
フラレても直ぐに立ち直れるんじゃないかな
最近イッセーとアーシアの雰囲気が前よりも違う気がするけど気楽に生きよう!

☆サバミソ
半分こいつの回想だった
ここまでで『白音を連れていって自由に暮らす』という目的を果たせなくなっている
次の回想で『白音と親しい読手書主という少年』について、つまりなつき度が上がる流れとか書きたい

☆週刊忍者
忍者業界では割りと人気のある雑誌
対魔忍のグラビアとかでも載ってるんじゃないですかね
この春流行の毒物特集とか、恋人を喜ばせるためのテストじゃ教えてくれない房中術ノートとかが付録で付いてくるかも


次回はレーティングゲーム当日
たぶん主人公側の描写から入る
原作だとリアスチームが来るまでの禍の団に乗っ取られる時の流れがざっくりし過ぎて分かりにくいので色々捏造するかも
用事ついでに友達の試合応援しに来たらテロリストが一杯来るとか、主人公は恵まれてますね……
早いもので六巻は恐らく次々回くらいで終わりですね
流石にいい加減恋愛系のフラグが明確な形で動き始める、といいなと思いました

因みにこのSSはエタリ難くするために原作に沿う形を取る訳ですが
それ故に本筋に関わらない、関わっても速攻で退場する、というタイプのキャラには好き勝手処置を行う場合があります
そこのところをご了承頂けた所で、今回もここまで
誤字脱字の指摘、文章の簡単な改善方法、設定への突っ込み、その他諸々アドバイス、そしてなにより、このSSを読んでみての感想、心よりお待ちしております

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