文字通り絵に描いたような、あくまでドラゴンメインの高校生活 作:ぐにょり
レーティングゲームは冥界全土に中継され、一般家庭でも視聴される事が多いメジャーな競技である。
貴族、上級悪魔達が眷属を率いて行う『戦争ごっこ』という大まかな括りこそあるものの、その試合形式は多種多様。
人類の文化で近いものを挙げるとすれば、古代ローマのコロッセオにて行われていた剣闘士同士の戦いのようなものだろうか。
悪魔の歴史の長さを考えればレーティングゲームこそがオリジナルである可能性もあるが、古代ローマのインチキ臭い程高い文化レベルを考えるとどちらが先でもおかしくはない。
ともあれ、様々なルールに則り行われる、優れた技量を持つ戦士達の血沸き肉踊る戦いは大衆受けも良く、それなりに多くのストレスを抱えて生きている連中のガス抜きにもなっている。
人間に限らず悪魔に限らず、生きていく上でストレスとは無縁で居られない以上、ガス抜きとも無縁では居られない。
そのため、レーティングゲームは悪魔社会において上から下まで、それこそ魔王様から一般下級悪魔に至るまで、広く親しまれている娯楽なのだ。
では、レーティングゲームを会場近くで観戦するのもそうかと言えばそうとも言い切れない。
撮影、中継技術が発達したとして、『特等席で見る』という特別感を満たしたいと思い、実際に満たすことができるのはそれなりに立場のある貴族や来賓などに限られてしまう。
更に言えば、高い能力を備えた悪魔の派手な戦いとは別に、貴族達のメンツを掛けた戦い……というか、『うちはこうきでちからがあるすごいいえなんだぞっ!』という感じの満足感を与えるという部分もあるのかもしれない。
なので、試合を直近で観覧する事ができる場所というのは自然とVIPが集まる、下々からすると実に入りにくい場所になる。
「こちらをどうぞ」
「ありがとう」
如何にも美形! と言った風貌のボーイさんからグラスを受け取る。
こういった小間使いの所作一つ取ってみても洗練されており、上流階級の雰囲気が感じられる。
遭遇した回数こそ少ないものの、魔王直属のメイドであるグレイフィア某と比べてもそれほど見劣りしない。
逆に言えばこういったVIPが集まる場所でせっせと動きまわるボーイさんと大差ない技術しか無いのが魔王のメイドという事になってしまうのだが。
……まぁあちらは魔王の妻でもあるらしいので、従者としてのランクは控えめなのかもしれないが。
談笑する貴族(上級悪魔? 結局どういう基準で貴族が決まるのか分かりかねる)の間を擦り抜けながら歩き、目的の場所に辿り着く。
「お久しぶりです」
「君は……」
目当ての人物(悪魔だがややこしいので人で良いだろう)に声を掛け、TPOに合わせてそれらしい動作で礼をする。
潜入する時に必要になる『かも』しれないという事で、一応最低限の教育は受けているし、冥界でそれなりの立場に居る貴族から礼儀作法の知識も得ているので問題はないだろう。
ようは一時を乗りきれる程度に不自然で無ければ問題は発生しないのだ。
―――――――――――――――――――
「魔王様に於かれましてはご機嫌麗しく」
す、と、スカートの端を持ち上げ一礼してくるブロンドの女性に、魔王、サーゼクス・ルシファーは柔らかな笑顔を向けたまま内心で困惑していた。
冥界という土地は広く、悪魔の統治する土地も広大ながら、貴族に分類されるほど上等な悪魔の数はそれに反比例するように少ない。
現役を退いた隠居を含めれば多少増えもするが、それでも決して多くはなく、その大半をサーゼクスは頭の中に記憶していた。
悪魔という身内にも多くの敵を持つサーゼクスとしては必須と言っていい知識だ。
勿論、末端まで全員の顔と名前を完全に覚えているか、と聞かれれば首を横に振らなければならないが、少なくともこういった社交場に出てくる程度に立場のある貴族であれば覚えていない筈もない。
知っていて当たり前と思う知識を思い出せない不覚を顔に出すこと無く、サーゼクスは頭の中に言葉を幾つか思い浮かべる。
だがその言葉の大半は誤魔化してこの場を乗り切る為の言葉でなく、相手の持っているであろう貴族特有の自尊心を傷付けないように自らの不覚を詫び、相手の名を問う為のものであった。
魔王となる経緯が経緯であったサーゼクスは、自分にできる範囲で誠実であろうとしているのだ。
勿論、それが万事において正しい選択である訳もないのだが、この場でその選択が正しいかどうかを問われる事は無かった。
淑女然とした振る舞いで挨拶を行っていたドレス姿の女性が、喉を震わせてくつくつと笑い始めたのだ。
「……いや、失礼。悪戯が過ぎましたね、魔王さん」
開いたドレスの胸元から、人差し指と中指で一通の便箋を取り出す女性。
「用事のついでになりますが、今回はお招き頂きありがとうございます」
に、と、悪戯に成功した子供の様な笑みを浮かべる女性に、それでも心当たりが思い浮かばない。
が、女性が取り出した便箋には見覚えがあった。
それは妹の恩人である、とある人間に当てた手紙だった。
「君は……読手書主君の仲間かね?」
招待状を同梱した手紙ではあるが、会場に入る際に当然招待状と入場者の確認は行われる。
一般的なレーティングゲームの観覧室はそれほど厳重な警備がされている訳ではないが、この試合は事前の調査で『何事か』が起きる事がほぼ確定している為、通常時よりも厳重な確認が行われている。
全くの別人であるこの女性がこの招待状でこの会場に入る事はできない筈なのだ。
「まさか。此方は招待状を捨てる事はあっても、譲るなんてするつもりはありませんよ。後々問題が起きて文句を言われるのもつまらないですからね」
口元に手を添え、ころころと笑う。
発言の内容を鑑みれば、この女性こそ、幾度か顔を合わせたことのあるあの少年という事になるのだが……。
「その格好は、趣味かな?」
「脳味噌湧いてるんですか貴方は。……今更な話にはなりますが、好き好んで
一瞬だけ真顔に戻った女性──書主が笑顔を貼り直しながら吐き捨てる。
「しかし君は既に幾度か私達に協力して禍の団と敵対しているし、古参の堕天使とも事を構えている」
それこそ既に三大勢力のトップ陣には知れ渡っている事だ。
コカビエルの引き起こしたエクスカリバー事件での助成に、三大勢力の平和条約を締結したあの会議での共闘。
それ以前に行われた、とある下級悪魔への肩入れの件も含めて、既に彼が悪魔の勢力下に半ば身を置いていると見ている者も少なからず居るだろう。
「有害なテロリストや
「なるほど」
肩を竦める彼の言動を頭の中で咀嚼し飲み込み、納得の頷きを返す。
確かに、本人からも以前に確認しているスタンスからすれば、三大勢力の助成のあるなしに関わらず、彼は人道に悖る犯罪者などを見れば同じ行動を取るだろう。
そしてそれは何処の勢力にも所属する動機が無いというだけでなく、条件さえ満たしてしまえば何処の勢力であれ彼に取っての敵(あるいは
考えようによっては、下手に懐に入れて弱みを見せるのは危険な存在とも取れるだろう。
それは彼の戦闘力の強大さという意味ではなく、どのような組織であれ少なからず抱えている暗部が、彼の標的足りえるかもしれないという将来的な面での危険性だ。
「出来れば偶然同席したボランティアというだけでなく、良き隣人としてありたいものだが」
「それこそ貴方のあり方次第。友情は個人と個人が結ぶもので、個人をグループが縛るものではありませんよ」
「これは手厳しいな」
「当たり前の話です。まぁ、あえて当たり前を避けて話を進めたくなる、というのも解らないではありません。聖書の勢力も手が足りないでしょう。だから、という訳でもありませんが……」
にこり、と、扮した女性の姿に似合う朗らかな笑みを浮かべ、各勢力の個室がある部屋を指差す。
「脚を引っ張る馬鹿を切り捨てて、使える『猫の手』を拾える素敵なお話があるんです。……少し、お時間頂けますね?」
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魔王さんが此方の変装に気を取られた為に聞かれなかったが、此方は入場するために招待状を使用していない。
冥界への行き来も容易になり召喚陣を利用する必要も無く、入り口での入場者チェックははっきり言ってザルそのものだ。
聖書の陣営だけでなく、その他の友好的な神話勢力も招いている為、友好と信頼の意を示しているのだろう。
勿論、仮に今よりも多少警備が厳重になっていたとしても、忍者としてそれなり以上に優れた技術を持つ此方からすれば、忍術である『彷徨』を使うまでもなく楽に忍びこむことは出来ただろう。
だが、如何に今回の目的があるとはいえ、頭が悪そうでモラルの低そうな、それでいてプライドだけは成層圏を余裕で突き抜けて行きそうな程に高い悪魔の貴族の方々に素顔を晒したくはないのである。
まかり間違っても誰かに情報を漏らすつもりはないが、此方の目の障害は、彼らに取っては貴重な能力であるように映るだろう。
どのような理由であれこの目の、この視界の齎すあれやこれやを無思慮に利用されたくはない。
まして、相手はレアな神器や能力を備えた人間を手元に集めてレアカードを手に入れたTCGプレヤーの如く仲間内で見せびらかし合う悪趣味というか下劣で品性に欠ける嗜好を備えているのだ。
その不快感を味わうくらいなら、完全に素顔を隠す変装程度ならいくらでもやってみせよう。
別に女装が趣味になっている、という訳ではない。
勿論、女装が似合わないから嫌という訳でもなく、母親譲りの少し女性らしいパーツも顔にはあるし、肉体そのものをかなりの割合で変形させる忍者式の変装であれば元の顔はあまり関係ない。
元が男性である場合、やはり完全に女性に化けてしまったほうが正体が発覚する危険性は少ないのだ。
……などという言い訳を内心でしている間にも、魔王さんは此方の用意した資料に目を通してくれている。
ここ最近の放課後を費やして調べた情報は、魔王さんに真剣な、それこそ本当に心を痛めているのだと判る雰囲気を出してもらう事に成功していた。
「……それで、どうです? 軽く読んだだけでも、お家一つが軽く完全にお取り潰しになるには足りると思いますが」
「まだ、これに関する情報はあるのかな」
「紙資料だけでは不足というなら、あちらさんが残していた実際の『標本』とか、記録映像なんかもありますよ?」
残念な事に生き証人は実験を行っていた側の連中だけになるが、彼らには既に正確な証言を素直に行って貰うための追記を施している。
そして、一番の成果とも言えるサバミソ(今更ながらこの名前は無い。知らずの事とはいえ、小猫さんには後日反省を促すべきかもしれない)に首謀者を殺されながらも未練がましく残していた標本に関しては、十分すぎる程の量を手に入れている。
勿論、物理的な部分だけでなく、標本──彼ら、または彼女等の死体に残された霊魂の残滓、残留思念も、証言ができる程度に此方で保護、保持を行っている。
冥界の法律についてはこの調査を行う過程で幾らか調べては居るが、これは明らかに法に準じた正当な実験ではない。
しかるべきところに出れば、貴族がどうのというだけで誤魔化すには無理がある程に重い罪だ。
「集められるだけの証拠は集めてあります。これでも裁けないというのなら、まぁ、なんですか、冥界も魔王も『知れたもの』なんじゃないですかね」
「少なくとも、この資料は正当に扱われ、彼らは罪に準じた罰を与えられる事は約束しよう。……確かに冥界は理想的な世界とは言い難いが、君に今見限られる程に終わっている訳ではない。だが……」
だが。
そう、『だが』から続く、ここからがこの話の本題になる。
極端な話、此方は冥界の貴族が冥界の中でどれだけ好き勝手しようが知ったことではないのだ。
もしも彼らが、というか、冥界が明確に人間の世界に対して大きな害を成そうというのなら、それこそこんな細かい真似をする必要はない。
冥界でぶいぶい言わせている馬鹿をどうにかしようと思うのなら、もっと大雑把で簡単で足がつかない方法が幾らでもある。
元から数千年前とか数百年前から緩やかに衰退している世界なのだ。
彼らが人間の世界に齎す利益と不利益を天秤に掛けても恐らく不利益の方が多い。
遠慮する必要もない。
例えば、ある日突然、この世界と冥界の繋がりが完全に断たれたら?
例えば、ある日突然、悪魔や天使、堕天使、神々が一斉に魔力も特殊能力も保たない無力な人間に成ったとしたら?
例えば、冥界に存在する、魔力やなにやを使う、人間の知る物理法則に反する機能を有する、力ある、もしくは使用者に力を与えるアーティファクトが一つ残らず消滅したとしたら。
たったそれだけで、冥界が此方の認識する範囲を害するのはとても難しくなるだろう。
勿論、そんな真似を態々する必要は今のところ無い。
別に、冥界の会ったこともない悪魔の皆さんに何か恨みがあるわけでもなく、かかわり合いにならない範囲で起きるのであれば、何をしていようと知ったことではない。
「この事実を知らせて貰えたことは素直に有り難い。この情報は冥界にとって、冥界の秩序と平和に良い影響を齎すだろう。だから、教えてほしい。この情報を私達に齎した君が、望む事は何なのか」
そう、これは取引だ。
それも、悪魔との取引の様に単純なものではない。
彼等に対価を与えて願いを叶えるだけの取引では手に入れられないものを得るための。
彼等では叶えられない部分を予め此方で叶えた上で、彼等にしか叶えられない願いを叶える為の、取引。
「何、それほど難しい話じゃあ無いですよ。まず先の話を、今も何処かで似たような事をしているであろう連中への戒めも含めて大々的に公表すること。そっちがしなけりゃこっちで勝手にばら撒きます」
『怪文』は優秀。古事記にもそう書いてある。
「約束しよう」
「その約束が果たされるよう願います。で、もう一つ、此方が本命です」
「それは?」
「それは……」
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「今日は会談に応じて頂き、ありがとうございました」
「いや、こちらこそ礼を言わせて貰いたい。私の王としての未熟が招いた過ちを、また一つ自覚する事ができた」
「いえいえ」
レーティングゲームの貴賓席にて、やたら座り心地の良い椅子に座り、手にしたノンアルコールドリンク(薄目で読んで毒や薬物が入っていない事は確認済み)を舐めながら魔王さんの礼を軽く受け流す。
「だが、良かったのかね? もう一つの願いは、もう少し欲を出す事も出来た筈だが」
「まさか。確かにもうちょっと良い条件にしたくはありましたが、情状酌量の余地を含めて考えてもあれが落とし所としては適当でしょう。願いを大きくして追加で対価を出せと言われたくもありませんでしたしね」
「……君は、不思議な人間だ。情が深いのか浅いのか、図りかねる」
「でも、珍しい人間じゃあない。そうでしょう?」
「ああ、昔から知っていた事さ。人間は不思議だ。それはきっと、堕天使も天使も思っている」
「鏡を見ろ、と言ってやりたいですがね、人間からすれば」
「難しいものだよ。なにせ、鏡に映らない種族も多い」
「映っても見えない連中も?」
「負けないくらいにね。困った話だが」
この場に居るのが側で控えているメイド奥さんと此方しか居ないからか、それとも普段からこういうノリなのか、魔王さんの口はよく滑る。
思えばこの人(悪魔だが)と言葉を交わした事はそれほど多くない。
まともに会話をしたのは例の寿司屋でドリアを奢らせた時か、いや、奢ったのはアザゼルさんだったか。
数少ない会話を思い返せば、彼の人格というのがどういう方向性を持っているか、というのもなんとなくわかってくる。
恐らく、この魔王さんはそれなり以上に善性のある人格者なのだろう。
他人の不幸を悲しむ事もでき、自分の不出来を自覚すれば恥じ入る事ができる程度には。
つまり、魔王向きじゃあない。
勿論、人間からすれば魔王向きの人格の魔王の方が危険ではあるのだけれど。
「苦労しますね」
「なに、立場相応のものさ」
瞼を開けずとも、彼が小さく笑みを浮かべている、という程度の事も、実際に負う苦労が魔王という立場であれば当たり前と言えない程度には重いものであるということくらいは判る。
言葉を重ねたことは少なくとも、彼自身の性能事態は既に熟知している。
その気になれば彼はもっと自由に振る舞える程度の力は持っているのだ。
まともに殺そうとすればフィジカルリアクターを使わざるを得ない。
それこそ、暴君として君臨したとしても、少なくとも現状の聖書の勢力の中で逆らえる者は居ないだろう。
苦労性、貧乏くじを引くタイプだ。
その出生故に、その力故に、彼は秩序と平和を重んじようとする。
自らのあり方を自分の心から生まれた願いから決め、その為に自分の力を律して生きていこうとするタイプ。
正直な話、嫌いではない。
カリスマがある、という点ではなく、その人格とあり方に好感を抱く。
「貴方が慕われている理由がわかった気がします」
「それは良かった」
ここで、悪魔の勢力に加わらないか、と誘わないところもいい。
主と仰ぐには善人過ぎて失格だが、知人として交流を持つには良い相手だ。
まぁ、魔王と知人とか噂されると恥ずかしいし厄介事にしかならないので嫌だが。
彼が魔王を辞めた後に此方が生きていれば友達にでもなれるかもしれない。
「なんじゃ、相変わらずモテるのう。この乳もいずれはお主のものか?」
少なくとも、ひっそりと入り口から入ってきて音もなく此方の乳を揉んでいるこの老人よりは余程その目がある。
この卑猥極まりない揉み方、中々の熟練者と思われるが……。
溜息。
この乳を男のものと理解せずに揉んだか、男の変装と知った上で揉んだかによって評価は分かれる。
未熟者か異端者、どちらにせよ、断りもなしに人の乳に触れる時点で紳士とは言えない。
この世には二種類のおっぱいがある。
女のものか男のものか、ではない。
揉んでいいおっぱいと、揉んではいけないおっぱいだ。
少なくともこの胸は揉まれる為に膨らませている訳ではない。
「魔王さん、侵入者ですよ。殺していいんですか?」
取り出すのは一丁の拳銃。
刀は無しだ。素性がバレる。
銃口を声と気配のする方に向けると老人は此方の胸から手を離し、戯けるように両手を上げた。
「おおっと、乱暴な嬢ちゃん……いや、少年じゃな。その物騒なもんをしまってくれんか」
「神族なら拳銃くらいどうってこと無いでしょう」
「ただの拳銃ならの。だがわしゃそんなもんは知らん」
「ただの『コルト』ですよ。後でカタログをお送りしますか?」
この世界では、まだ倒産していない筈だし。
と、胡散臭い神っぽい爺に座ったまま銃口を向けて遊んでいると、驚いたように魔王さんが椅子を鳴らしながら立ち上がった。
「オーディン殿、何時から此処へ」
「何、試合まで多少の時間はあるとはいえ、メイドと背景に溶け込むような気配の娘と控室に戻るお主が見えたのでの。少し気になって後を付けてみたのよ」
おお、此方の隠行を見抜いたとは、流石厨二の憧れ北欧神話の首魁。
馬鹿みたいに多い呼び名は伊達じゃないのかもしれない。
「すまない、どうやら話を聞かれてしまっていたようだ」
「別に、構いませんよ。元から公表する予定の話です」
「じゃが、お主からこの話が始まった、という事は知られてもいいものかのう」
「おや、脅しですか? 仮にも北欧の主神が、たかだか一人の人間に?」
「ただの好奇心じゃよ。お主は恐らく、ワシも知らぬものを多く知り、多く持つのじゃろう?」
なるほど、要は、なんか珍しいものを見せろ、と。
当然、此方から出た話である事を黙っていて貰う方がいい。
そこは呪術の一種という事で追記させて貰うとして……。
ちら、と、瞼を開けて老人──オーディン、縮めておでんの姿を確認する。
特に激的な場面でもない為、そこにあるのは何時も通りのクソッタレな文字列の塊。
お、グングニルの記述発見、ちょっとうれしい。
だが本題はそこではなく、おでんさんが知らず、おでんさんが好みそうな対価とくれば……。
「その内、貴方のとこのロキさんが反逆かましてくるんですが」
「何?」
「ほほう」
驚く魔王さんと、興味深そうに、それでそれで? と聞きの態勢に入るおでんさん。
「その時にロキさんは死ぬ事になると思いますので、現状にそれほど反感を抱かず、しかし能力的には完全に元通り、それでいて露出度の高いグラマラスなセクシー美女な僕っ娘と化した新たなロキさんを新たに用意しましょう」
「ふうむ、言葉だけじゃあわからんのう、写真とかあれば判断のしようもあるんじゃがなぁ」
わがままさんだなぁ。
「紙とペンあります?」
「こちらに」
「ありがとうございます」
メイドさんから手渡されたメモ帳とペンを手に、瞼を開け、さささっと描き上げていく。
青髪ショートカット、下半身が際どいパンツのみ、メロンの如くたおやかな胸の大半を惜しげも無く晒す大きく前の開いたファンタジックな上着。
艶やかな笑みの浮かんだ整った顔、手には当然鞭。
因みに足先まで書くのは立ち絵の関係で難しい為、自然と描きかけにしかならず、この場で実体化はしない。
実体化させる時はどうするか?
行為中のシーンで全身が映ってるのがいくつかあるので、拘束が済んでるものを選んで描こうと思う。
この世界のロキと同じ記述を追記するのにもその方が便利だしね。
「こういう感じの娘です。まぁ仮にも人外ですし此方が娘って言うのもおかしな話ですが」
瞼を閉じ、切り取ったメモを渡す。
「達筆だね」
「それほどでも」
「どうやって用立てるつもりじゃ?」
「その情報は課金コンテンツになります」
「金で買えるんか」
「期間限定ガチャで引き当ててくださいな。ピックアップだから確率はそれなりにありますよ。ええ、勿論、嘘じゃありません」
「おうサーゼクス、このガキ実は悪魔じゃろ」
「失礼ながらオーディン殿、悪魔は契約を守ります」
「失礼な、ガチャだって何時かは当たります。ほらほら北欧神話預金をひっくり返す時が来ましたよ」
期間限定戦乙女ヴァルキリーピックアップガチャ、好評開催中です!
ほら回せよ、当てなきゃここまでつぎ込んだ金は全部無駄になるぞ。
宝くじだって確率的に当たる事はあるんだからそう疑うなって。
「まぁええわい。たかが小僧っ子一人の事を一々言いふらすよな趣味は無いしの」
メモを仕舞い、どっこいせ、と、おでんさんがいつの間にか用意されていた椅子に腰掛ける。
どうやらこのままここでレーティングゲームを観戦していくつもりらしい。
まぁそれはいいんだが。
「疑わしいのでちょっと手ぇ貸してください」
「なんじゃ、握手か? 言っとくがワシは呪術の達人じゃぞ?」
「たぶん貴方も知らない術ですよ? 興味ありません?」
「ほう、まぁ見せてみぃ」
「私も見せて貰って構わないかな?」
「理解できなくても文句は言わないで下さいね?」
小説の登場人物は、自分が文字にて描写される事を自覚できるものだろうか。
よしんばデップーのごとき能力を備えていたとしてもそれは演出上の能力でしかない。
少なくとも、此方が文章を追加する場面を見て、何か文字を書いているという事に気付けた存在は今まで居ない。
例外が居たなら居たでそれは嬉しい。
北欧のビッグネームの手を取り、追記のために指先を当てる此方と、それを横から覗き込む魔王さん、そして脇目でちらりと視線を向けるメイドさん。
……老人の手を全員が興味深げに覗きこむ場面は、少なくとも挿絵になる程度にはシュールな絵面であったらしい。
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さて、念の為の情報規制を終えた今、用事らしい用事と言えば、小猫さんとギャスパーの参加するレーティングゲームの観戦のみ。
「そういえば聞いてなかったんですけど、グレモリーさんのチームが戦う相手ってどんなとこなんですか?」
「リアスから聞いて来なかったのかい?」
「小猫さんから、ストーカーが王様ってのは聞きましたけど」
別に、レーティングゲーム自体はどうでもいいかなぁって。
小猫さんとギャスパーの応援はするけど、別に相手チームの情報が応援に必要って訳でもないし。
「リアスお嬢様の対戦相手は、ディオドラ・アスタロト。最近になって急激に力を伸ばしたレーティングゲームのベテランプレイヤーです」
一歩引いていたメイドさんが主の魔王さんに代わり応えてくれた。
魔王さんではないと進められない話の時は沈黙を守り、魔王さんの答えるまでもない些細な問いには代わりになって応える、まさにメイドの鑑だ。
「へー、急激に。何か裏ワザでも使ったんですかね」
「はい。三陣営トップで調査をした結果、彼がとある存在から力を与えられているのではないか、という疑いが」
なるほどなー。
まぁ誰かから力を与えられてパワーアップというのは兵藤先輩だってやっている事だしそれこそ小猫さんなんて魔法を使う度に他所から力を持ってきている。
そも自分以外から力を借りるのがアウトなら召喚系の術は全禁止になってしまうだろう。
じゃあなんで三陣営トップが揃って調査なんてしてるのって話だよね。
「もしかして、借りちゃいかんとこから借りたり?」
「その通りです。力を与えた存在は恐らく、『無限の龍神』オーフィス。禍の団のトップと目されている存在です」
爆発音。
勿論、メイドさんの衝撃発言を強調する為のエフェクトではなく、現実に聞こえる爆発音だ。
衝撃がビリビリと伝わってくる。
この部屋は頑丈だから衝撃だけで済んでいるが、そう遠くない部屋が攻撃を受けているのは伝わってくる衝撃でわかる。
悲鳴と怒声、断続的な魔力や何やによる攻撃音。
「魔王さん、さっき渡した資料を作るのに、冥界を暫く旅していて思った事があるんです」
「聞こう」
「冥界って治安面クソですわ。嬉しい限りですね」
「気にいって頂けて何よりだよ」
平静な中に抑えきれない申し訳無さとヤケクソさを同居させたサーゼクスさんの言葉を聞きながら椅子から立ち上がる。
「戦えば素性がバレるんじゃないかな? 君の戦った後の戦場は、何というか、独特だ」
立ち上がった此方に後ろから声をかける魔王さん。
確かに、今回ばかりは塗料をぶちまけるのは悪手だろう。
だがかの名医、偽りの天才はこうも言った。
『ケンシロウ、暴力は良いぞ!』
と。
「ご心配なく、今回ばかりは普通に戦いますよ。それに」
「それに?」
「これとは別の外装で戦いますので」
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ぱんっ、と、サーゼクスとグレイフィア、オーディンの耳に掌を打ち付ける破裂音が響く。
ドレス姿の女性、いや、女性に扮した書主が合掌する様に掌を鳴らす。
音に合わせるように、空間がガラスの様に割れ、一領の鎧が姿を表した。
いや、それは本当に鎧なのだろうか。
見た目は明らかに日本鎧。
だというのに、それを見たその場の全員が思い出したのは、各々が知る限りで最も古く、悍ましい記述の成された魔導書だった。
「千日の稽古を
キンッ、という涼やかな金属音と共に鎧がバラけ、広い貴賓室へと広がる。
観察者と化した三人の脳裏に浮かんだ、風に舞う魔導書の頁。
「以って此れ我がツルギなり」
両腕を広げた書主の身を覆うように、風に舞う頁が身体に纏わりつくように、鎧は一つの形へと結実した。
「────武州兵法五輪」
武力の威と同時に、どこか神々しさすら感じさせる鎧姿。
背面に円の様に広がった装飾に威圧以外の意味、機能が込められているのは明白。
それはこの世界における日本で使われた鎧兜に似て、しかし決して異なる武の象徴。
「ほう、これが五輪書か」
感心したようにオーディンが呟く。
無論、この世界における五輪書は真っ当な書の形態を取っている。
だが、この世全ての知識を得ているオーディンは、この僅かな時間の邂逅にて、書主の持つ未知の力の一片が、この世ならざる場所、すなわち、異世界由来のものである可能性に思い至っていた。
自らを生け贄にして知識を得ようとまでしたオーディンは未知への探究心が旺盛であり、それは容易く一般的なモラルを上回る。
書主が好戦的な姿を見せたのをこれ幸いに、どっしりと腰を据え、見学の態勢に入ってしまった。
「グレイフィア」
「は」
サーゼクスとグレイフィアはこの場を収め、侵入者を鎮圧するために動き出す。
書主も止める事はしない。
この場の責任者として二人が動かなければならないという理屈は理解できていたし、現状、獲物を横取りするな、と言うほど精神的に切羽詰まってもいない。
「よみ……、君は試合会場の方に向ってくれ」
「諒解です。因みに、今はメアリでいいですよ」
「素敵な名前だ」
「それはどうも」
「どういう意味じゃ?」
「恥知らず、ってとこですかね。それでは」
書主/メアリの纏う鎧の表面に未知の文字列が薄く輝く。
魔力とは異なる力、いやさ、オーディンの知識の中に存在しない力が複雑な術式を組み上げ、書主/メアリの姿を掻き消す。
「わしゃあっちを見たい。こっちは任せたぞい」
未知の術、未知の力、オーディンは喜々としてその後を追う。
未知の術式とはいえ、転移先を探るだけであればさほど難しくはない。
しいて言うならば、試合会場と客席を隔てる結界の強固さ、難解さに、更に術者である少年への興味を深めた程度か。
「それじゃあ、こちらも早々に片付けるとしよう。勿論、お客様の安全を優先でね」
「承知致しました」
歴代最強とも目される、超越者である魔王。
その妻にして最強の女王。
二人の足取りは早い。
言葉通り、彼等の向かう先は、速やかに収束に向かうだろう。
―――――――――――――――――――
戦端は開かれ、即座に戦況は動く。
決して拮抗する事無く、この戦いは幕を閉じるだろう。
だが、
「……」
戦場にて、一つの影が蠢く。
「……加減してる? でも、直ぐに来る。ここに届く」
影──戦場に似つかわしくないドレスを纏った黒い少女は、熱のない声で、しかし、どこか期待を込めて、歌うように口ずさむ。
「楽しみ……、楽しみ? ……うん、たぶん、楽しみ」
口ずさむのは未発達な心の内訳と、待ち人の名。
デートの待ち合わせの最中であるかの様に、その名を、称号を舌で転がす。
「……混沌の海、たゆたうもの」
無限を司る龍は、まるで少女の様に無邪気に、この世ならざる名を歌う。
続く!
って感じの四十八話
ヒロイン不在を通り越して女っ気が無いので一人女装させたんだけどいいかな?
☆主人公の女装
忍者特有の女装である
どういう理屈での変装かは陸軍中野予備校参照
あれのアッパーバージョンと考えればよろしい
魔術や錬金術との併用で股間部もどうにかできる
今回のモデルは某ホラの血塗れのメアリ
だが名前の元ネタはメアリー・スーの捩り
モデルがモデルながら傷は再現していない為、結果的に外見モデルは妖精女王になるという面倒臭さ
更にその上から兵法武州五輪を着こむ
女装は癖になるから気をつけよう
なので忍者のカップルは互いに女装と男装でプレイするという特殊プレイを嗜むカップルが多少なり存在する
NARUTO世界の天才と同じ頻度で変態が使われるのがこの世界の忍者の性癖である
女装の作中での理由は書いた通りながら、女装姿に見惚れた後に男の女装である事をネタバレされて喀血するイッセーとか書けたら楽しいなーとかいう作劇上の都合もあるが未定
☆おでんくん
まじかよ異世界の知識に力に術とか
要チェックや! される
しかし追求に関してもちゃっかり記述で制限されてるので無茶はできないらしい
女装には揉んでちょっとしてから気付いた
イッセー君なら揉んだ瞬間に騙された事への拒絶反応で七穴噴血しながら気付く
☆会場の警備
攻めてきた敵対勢力纏めてぶっちめる積りだったのかもしれないけど色々問題がある
事前に連絡して試合中止をグレモリー側にだけ伝えるとか、タイミング的にできたと思うんですがどうか
☆予定していたサバミソの回想
だが無くなった!
サバミソの回想って書くと煮込まれるまでの作業工程の説明のようだがそんな事は無い
多分次回にやる
☆謎の影
謎の知識を持つ謎の少女
一体何フィスなんだ……
※ヒロインでは無いしさほど重要なポジでもない
流石に次回で六巻終わりは無理なのでちょっと伸びます
でも敵がショボすぎるのでそれほど長くはならないです
描きたいのは戦闘ではないですし
大事なのはフラグ、恋愛等級格上げフラグですよ!
ていうか原作の戦闘が、こう、ピンチになる描写とかこの巻では無いのでさして盛り上げようが無いというか
原作であれなんだから、ここのイッセーなら更に巻き展開になるというか
あ、でもイッセーが新機能を得るかも
書いてる内にライブ感からどんどん変形していくので予定は未定だけど
そんなふわふわした進行を皆さんが受け入れてくれたところで今回もここまで
誤字脱字の指摘、文章の簡単な改善方法、設定への突っ込み、その他諸々アドバイス、そしてなにより、このSSを読んでみての感想、心よりお待ちしております