文字通り絵に描いたような、あくまでドラゴンメインの高校生活   作:ぐにょり

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放課後のラグナロク
五十三話 かくも穏やかで平和な日常


雀の美味しそうな鳴き声、カーテンの隙間から降り注ぐ少し体力を奪う光に、ゆっくりと布団から身体を起こす。

朝が来た。

夜更かしをした訳でもないけれど、朝の寝起きはやっぱり少し気怠い。

自分でも自覚できるくらいにのっそりとやる気のない動きでベッドから身体を起こす。

今日も今日とて学校に出なければならない。

顔を洗い、身だしなみを整え、朝食を食べて、制服に着替えて。

これだけなら寝起きのノロノロとした動きでも遅れることはない。

シャワーは……。

 

「うん」

 

大丈夫。

寝汗を少しだけ吸ったシャツさえ交換してしまえば気にならないだろう。

取り敢えず、洗濯カゴにでも入れておけばいい。

そう思いながら、ベッドから降りる。

 

「ぶみゃ」

 

ぐにゅ、という奇妙な感触を足裏に感じると共に、豚ともウサギとも取れない鳴き声が聞こえる。

あれ、と思いながら足元を見れば、

 

「姉様」

 

漫画チックな足跡を後頭部に付けた、姉様……姉様?

二頭身のぬいぐるみのようなデザインの怪生物が転がっていた。

しゃがみ込み、ころんとひっくり返してみる。

 

「う……にゃっ! にゃうぉぅぅぁぅ……むにゃぁ」

 

小学生でも書けそうな程簡単なデザインの猫顔で鼻提灯を膨らませ、口の端からだらしなく涎を垂らし、短い前足を虚空に向けてシュッシュと振るう様は普段の姉様が見せることのない……色んな意味で見せることのない醜態だ。

なんというか、普段の人間とそう変わらない姿の姉様に目を奪われている方々には非常に申し訳なくなる有様に、思わず笑みが溢れる。

こんな姿が見れるのは、多分、この世で私だけかもしれない。

無警戒で、リラックスしきって……。

何に怯える事無く眠る姉様。

私は、私を構成する何かを失う事無く、白音として、そして塔城小猫として、姉様と一緒に暮らせている。

それが、凄く幸運で、幸せなことなんだと思う。

 

「姉様、もう朝ですよ」

 

「うにゃぅぁぁぅ……」

 

野良気質は何処に消えたのかという程に眠り続ける姉様。

今日は取り調べも他の用事もないから寝かせておいて上げても良いのだけど……。

せっかく姉様と一緒にいるのだから、たまには一緒に朝ごはんを食べたい。

眠り続ける姉様の後ろ足を掴んで持ち上げ、洗面所に向かう。

顔を洗って、シャツを洗濯カゴに入れるついでに姉様を起こしてしまおう。

 

―――――――――――――――――――

 

「そしたら、姉様怒っちゃって」

 

通学路を歩きながら、書主さんに姉様との喧嘩とも言えない些細なじゃれ合いについて話してみる。

話してみる、といっても、詳細まで話すわけではない。

姉様も私も女性である以上プライベートな部分では男性に話しにくい部分もあるし、別に私の取った行動を事細かに精査して評価してもらいたいわけでもないのだ。

恐らく、朝シャワーを浴びる時の癖で洗濯物と間違えて姉様を頭から洗濯機に入れてスイッチを入れてしまったところまで話をしたらドン引きされるか大爆笑されるに違いない。

脱水完了するちょっと前に気づけたからセーフなのだから別に言う必要もないだろう。

 

「あー、やっぱり運び方が? 首の後ろの皮を持つ感じがベスト的な」

 

「あれ、大人の猫は苦しいだけだから止めた方がいいですよ」

 

「へえ、まるで猫博士だ」

 

「ええ、でも、猫博士じゃあないですよ」

 

どちらかと言えば猫そのものなので。

因みに私は猫の姿になる事は殆ど無いので苦しいかどうかはわからない。

……まぁ、今の身体の成長具合から考えると、猫の状態なら別に苦しくはないと思うんですが。

 

「……まぁ、あの形の姉様はどういう生き物かイマイチわからないってのもあるんですよ」

 

「似たような形状の妖怪を参考に考えるとかなり頑丈だと思うよ。トラックに跳ねられたり轢かれたり程度なら大丈夫、だったかな?」

 

「すごいですね、まるで猫博士だ」

 

「いや、ただの猫博士じゃないよ」

 

姉様のあの姿は書主さんが匿う上での副作用のようなものらしいけれど、それを踏まえても知識量がある。

というか、姉様の生態への理解が深い。

まるで猫博士……ではなく、やっぱり、それなりの期間姉様を匿っていたからかもしれない。

少し妬けてしまう。

妹の私よりも姉様の事を知っている書主さんにも、姉様にも。

 

「実際、あんな見た目だけど生態は対して小猫さんと変わらないしね。猫に関する知識より、重要なのはサバミソ……黒歌さん? 個人の趣味嗜好とか生活形態とか、一緒に暮らしてみてどうか、とかじゃない?」

 

「そういう部分は詳しくないんですか?」

 

「んー……」

 

瞼を閉じたまま空を見上げる書主さん。

 

「香り付きのそれなりに高級な猫砂とか消化を助ける猫草の植木鉢とか買ったんだけど、ああいうのはお気に召さないみたいだなって」

 

「なるほど」

 

頷き、私も空を見上げた。

青い青い空に白い白い雲。

暑さも治まってきたけれど、晴れやかな日差しは容赦なく肌と目を焼いてくる。

 

「……野良生活長かったから、土に近いほうが良かったのかもしれませんね……」

 

「なるほどなー……」

 

青空に、猫砂を前に怪訝な顔をする姉様の姿が浮かんだ気がして。

姉妹でも、もう少し気を使ってあげないとな、と、そんな事を考えた。

 

―――――――――――――――――――

 

平穏な時間が過ぎゆく、学び舎に通う人間達は、いや、悪魔達ですら、闇の世界で蠢くものどもの事を意識すらしていない。

勿論、此方も意識しない。

例えばの話だが、校舎内に侵入した幾人かのニンジャが常人に察知されない速度で戦闘していたとしても此方の知る所ではない。

此方は今、学生として学校に通っている。

即ちニンジャとしてはオフの期間なのだ。

そして、ニンジャとしての生活を切り離して考えたなら、最近は実に平和な日々が続いている。

 

「ちょっと、聞いているの?」

 

「聞いてないですけど」

 

新校舎の放課後の様に生徒達の生み出すざわめきの少ない旧校舎には、実に穏やかな時間が流れている。

しかもなんと、オカ研で使われている紅茶の茶葉は結構な高級品だったりもする。

挙句、タイミング次第では、オカ研の副部長さんが紅茶を振る舞ってくれるので自分で淹れる必要すらない。

個人的には、新校舎で稀にスペースを借りている木工ボンド部に比肩するレベルで落ち着くカフェスペースだと思うのだがどうだろうか。

 

「……貴方の活動が、この街の治安維持に一役買っている、というのは理解しているわ」

 

さて、では何故、全ての授業とHRを終えた此方が、放課後に学校に留まって時間を潰しているのか、と言えば、やはり日影さんが原因なのだ。

日影さんは口数も多くないし、時たま空気も読まない部分があるが、踏み込んではいけない最後の一線は大体護るし、それでいてギリギリのラインでズケズケと物を言う事もあるのでコミュ能力がそれなりに高く、友人もそれなりに多い。

そこに、付き合いの良さと運動神経の良さが加われば、放課後に部活動の助っ人に借り出される事も多くなってくる。

そうすると、一緒に家に帰る為には日影さんの助っ人活動が終わるのを待たなければならない。

 

「でもね、禍の団の神器使い達が何の目的でこの町に訪れているかはまだ判明していないの」

 

勿論、毎日毎日一緒に帰るというわけでもない。

が、あまり別々に帰る日々が続くと、日影さんが拗ねてしまいとても可愛らしい。

気持ち程度にむくれている日影さんの姿の、その可愛らしさを誰が知るだろう。

それでいて、途中から拗ねながらも此方にちょっかいをかけて構って貰いたそうにするところとか。

それでも構わずに居ると唐突に引っ付いてきて、『機嫌直したいから、構ってや』と直球を投げてくる。

それもうある意味機嫌治ってない?

そんな疑問が吹き飛ぶ程に拗ねデレ状態の日影さんが可愛い。

……いや、可愛らしいは重要だが今は関係ない。閑話休題。

とにかく、日影さんとの円滑な関係の為にも、そして日影さんと一緒に帰る楽しい帰宅時間の為にも、此方は放課後にある程度時間を潰す必要が出てくる訳だ。

 

「だから、出会ったテロリストを皆殺しっていうのは控えてもらえないかしら」

 

じゃあ、此方が日影さんを待つ為に、放課後を友人が多少居る楽しいスペースでおしゃべりしたりお茶やお菓子を楽しんだりしているだけかと言えばそれも違う。

学生としての時間は休息の時間もふくめて学生だが、放課後の自由時間の全てを学生として過ごしているという訳でもない。

かといって、休業中のニンジャとしての活動をしている訳でもない。

放課後、オカ研見学、友達との談笑、お茶とお菓子、これらを同時に楽しみつつ、TPOに反しない活動を行っている。

 

「書主さん、それ、何してるの?」

 

「んー、内職」

 

森先輩からの説教をBGMとして聞き流し、隣に座ってきたギャスパーの質問に答えながら、点字式タブレットを操作し続ける。

覚えている限りの挿絵を持つ存在を複製できる此方ではあるが、現実的に考えれば、人間大の生物を一つ作るのだって、結構な手間が掛かるものなのだ。

人間も悪魔も、今やクローンである程度は簡単に複製できてしまう時代ではある。

が、それはあくまでも、人間や悪魔が本来男女間で行う性交渉の結果から、誕生、成長までの過程を、生体の外で機械を用いて再現しているに過ぎない。

元からある製造工程をなぞる、というのは、ある程度科学技術が発達していればそう難しい事ではない。

なにせ明確な成功例の手本があり、それをなぞればいいのだから。

 

そういう意味で言えば、錬金術から発生したホムンクルスの製造工程というのは、非常に独創的であると言える。

生物の誕生にまつわる様々な現象が未解明な時期に、未解明なりにどういう工程を経る事によって生物が誕生するかを推理し、理解できない部分を別の技術で補った結果が詰まっている。

原始的な、というより、古い時代のホムンクルス製造法の文献などは読んでいて非常に面白い。

精液を何CC用意して煮詰めて、など、実際にやったらご近所迷惑な事になりかねない珍製造法を始めとして、手探り感溢れる様は先人の苦悩が垣間見えるようだ。見えないが。

そして、その面白さは科学技術をある程度取り入れた現代の錬金術でも変わらない。

知らないままにある程度の成功を収め発展し続けてきた様々な技術は、現代科学にはない神秘との密接な関係が残されている。

なんというか、知的活動でもあり、求道でもあり、或いは懐古でもあり。

科学とはまた違った楽しみがある。

なにより、此方の母は錬金術士だ。

それだけで此方が科学でなく錬金術を深く学ぶ理由になるだろう。

 

「……それって、今やるべき事なんですか」

 

ギャスパーとは反対側に座ってきた小猫さんに、同じくタブレットを操作しながら応える。

 

「うーん、ほら、ソシャゲとかでスタミナの自動回復が無駄になるのが嫌いな人とか居るじゃない。あれと大体同じ」

 

ある程度は放置してもいい、というか、自動化がかなり進んでいるのであまり手を入れる必要は無い。

無いと言えば無い、のだが……。

個人的な、それこそ、どこに提出するでもない単純な錬金術の研鑽に使う実験用のものである以上、ふと思いついた使い道の為にスペックを調整する場合もあるのだ。

そうでなくても、朝や夜の運動兼ストレス発散で練習てきる忍術に較べて錬金術を研鑽する時間はそう多く取れていない。

実は夏休みの間に何日かアトラス院を始めとする錬金術士の居る施設に忍び込みエーテライトで色んな人の研究成果をゴニョゴニョする計画があったりもしたのだが、それは10+αのリマジな感じの世界を巡る旅とか輪ゴムさんのスカートの中に頭とか頭(意味深)を突っ込んでprprしたりmgmgしたりの旅とかで消えた。あとボーグバトルの世界大会観戦。

とある世界で人造の鬼械神を作る為の技術としての錬金術とかも学べたと言えば学べたのだが。

 

「…………あの、小猫さん? ギャスパー?」

 

「はい」

 

「は、はい」

 

「なんで二人共此方の腕を抓るの?」

 

ギャスパーは、まぁ、控えめにつまむ感じだけれど。

小猫さんのは、こう、洒落にならない。

首がねじ切れていようとも絞められた結果なのだから絞殺だろう、みたいな威力だ。

電車に轢かれて中身の肉と骨が完全に潰れても切れない事もある程に人間の皮膚は頑丈なのだが。

もうそろそろビリィッ! っていきそうで怖い。

ニンジャだから兵糧丸(iPhone)食えばそれくらい治るけど、痛いのを完全に受け入れている訳ではないのだ。

というか、実際なんでつねられているのか皆目検討もつかない。

 

「なんだかいやらしい顔をしていたので」

 

「ご、ごめんなさい……」

 

堂々と言い切る小猫さんに、小さくなって謝るギャスパー。

二人の性格が如実に現れているが……。

 

「いやらしい顔したらつねられるなら、兵藤先輩こそつねられるべきじゃないかな。常に」

 

「え、俺?!」

 

部屋の隅っこでアーシア先輩と一緒に気配を殺して怒れる森先輩から遠ざかっていた兵藤先輩が驚いたような声を発しているが、貴方以外に誰が居るというのか。

そもそもいやらしい顔と言えば兵藤先輩、兵藤先輩と言えばいやらしい顔だ。

此方をいやらしい顔をした罪で裁くというのなら、まず兵藤先輩から裁くべきではないか。

そしてそれで満足して此方のいやらしい顔は見逃してもらうべきではないか。

 

「イッセー先輩は今更です。それにそれだとイッセー先輩のいやらしさと並べて比較される事になりますけど」

 

「なるほど、それは屈辱的……。解った。このつねりは大人しく受け入れよう」

 

「扱いが酷い! 扱いが酷いぞ後輩ども!」

 

「すみません一年ほど先に生まれてきたという事実以外で先輩として敬う理由が見当たらなくて……」

 

「やめろよ! なんか言い返そうとしても言い返す言葉が上手く浮かばないだろ!」

 

つまり割りと事実……、いや、止めておこう。むやみに人を蔑むべきではない。

あ、でもコミュ能力は割りと高いんだっけこの先輩。

エロ活動で産まれた悪い評判でそこら辺打ち消しマイナスになっているから分かりにくいけど。

やっぱり表紙の人だからなぁ、主人公気質というやつなのかもしれない。

でもそういう積極性って素直に見習って真似るのは難しいものなので。

多少敬おうと思う。

素直に謝って敬うと調子に乗りそうなので、貢物を捧げる事で尊敬を表現しよう。

 

「まぁまぁ、今度この間言ってたやつあげますから」

 

「あれって……あれか?」

 

「あれです」

 

「俺、お前ほど先輩思いの後輩は見たこと無いわ」

 

「そうですか」

 

ゲロクソチョロいわこの先輩。

この素直さも魅力の内なのだろうか。

女性の好感度の上がり方というのはいまいち理解し難い。

 

「あれって?」

 

部室内の状況に我関せずと黒に赤いラインの入っているらしいイカした顔半分を覆う仮面を磨いていた木場先輩が聞いてきた。

兵藤先輩が少し単純でチョロくても、一発でここまで機嫌をよくできるものとなればやはり気になるものだろう。

浮かれている兵藤先輩以外の視線が此方に向いているのを感じる。

 

「グラビアですよ。ニンジャ系列のニンジャ出版社がニンジャ向けに出しているニンジャグラビア。一般の流通に乗らないから貴重でしてね。前に少し話に出したらどうにか手に入れられないか、って言われていたので」

 

「ニンジャがゲシュタルト崩壊を起こしそうね……」

 

副部長さんが呆れる様に言うが仕方がない。

ニンジャ以外に知られていないのにも幾つか理由があるし、出版社名もある程度は伏せなければならないのだ。

 

「それで、なんて本なんですか?」

 

「あ、いや、それは別に気にしなくても」

 

純真そうなアーシア先輩が聞いてくる。

それを兵藤先輩が止めようとしてくるが、聞かれたならば答えなければなるまい。

わりと貴重品なのだ。部屋の掃除をしている最中に間違って捨てられてしまったら可愛そうだし。

 

「『20××年度対魔忍捕縛者目録~感度3000倍になった程度で私たちは屈しない!~』ですね」

 

しん、と、部屋の空気が停止した。

余りに話を聞かず、別の話を続けていた此方を怒鳴りつけようとしていた森先輩までもが、叫ぶ一歩手前の状態でピタリとその動きを止めている。

呼吸音すら聞こえない。

此方の耳に聞こえる部室内の音は、家電の作動音を除けば彼等の心臓が血流を生み出す音のみ。

誰も動けない。

いや、動かない。

それが動き出す為の停止である事は明白だが、動き出した後の矛先は此方で無いので知らない。

 

「なるほど、『20××年度対魔忍捕縛者目録~感度3000倍になった程度で私たちは屈しない!~』か」

 

「ええ、『20××年度対魔忍捕縛者目録~感度3000倍になった程度で私たちは屈しない!~』です」

 

動き出したのは、そういう方面に理解の深いゼノヴィア先輩だ。

処女の匂いが消えていないので、適当な相手と実戦を行った訳でもなく、あくまでも知識上での理解ではあるのだろうが。

因みに、本の中身は捕縛された対魔忍が洗脳調教を受けている姿の無修正版である。

音声記録なども付録CDに収録されており、実際に見たならリアクションは大きく変わるだろう。

児戯にも等しい戯れで腰砕けになるような人だし。

 

「……タイトル通りの本ですか?」

 

「いや。屈さないって言うのは嘘。屈してる」

 

何処の馬鹿だったろうか、自分が3000倍の感度に慣れることが出来たから、他の対魔忍も同じ事ができるとか考えた馬鹿は。

出版直後に速攻で検閲入って対魔忍達から出版社自体が襲撃を受けた為原本は吹き飛んでおり、今や初版本が僅かに残るのみ。

さもありなん。

この本は調教過程も書かれている為、対魔忍をどうすれば従順な生トイレにできるかという知識が詰め込まれていると言って良い。

対魔忍は少しばかり特殊な立場にあるためエロ拷問訓練の過程を省略する事も可能なので、通常の忍者に通じる訳でもないが……対魔忍にとっては割りと危険な代物だ。

そんなものを放っておいていい筈がないと考えたからこその襲撃だろう。

そこまで恐れるなら人道的見地からの訓練過程省略とか考えなければいいのにとは思うが。

 

「イッセー?」

 

「いや、えっと、違う、違うんです部長!」

 

「何が違うんだろう」

 

「R18じゃなくてR元服だから読んでも違法じゃないって言いたいんじゃないですかね」

 

因みに捕縛した対魔忍への尋問とか洗脳の過程で行われている行為は表社会なら確実に違法だし、一般流通に載せようとしたら速攻で差し止め食らって店頭に並ぶ前に回収される内容だ。

そこを踏まえた上でエロい関係に持っていきたい森先輩に下手な言い訳をしようとするのは悪手だと思うのだがどうか。

逆に一緒に見て『こういうプレイがしたいです!』とか言えば一発で仲が進展するか破局するかで話が進んで良いんじゃないだろうか。

ほら、もう捧げるような童貞は失くしちゃっている訳だし、初めて同士を交換した相手さんなら照れながらも受け入れてくれるだろうし。

 

「……書主さん、何処でそんなモノを手に入れたんですか」

 

「離して貰えれば話しますが」

 

「このままでも話せますよね」

 

何故だか小猫さんの視線と指が痛い。

悪魔補正か何かで格闘してるとは思えない程柔らかくてさわり心地の良い指なのに凄い威力だ。

もったいないのでもう少しソフトに摘んで欲しい。

まぁ、別に勿体ぶるような話でもないから話すけど。

 

「あれは、そう、受験を控えた去年の春の事だったかな。中学の時もそうだったんだけど、学校に通っている間は学業優先って事でニンジャとしての仕事は半ば開店休業状態だったんだけど、それを知らない知り合いのユキカゼってのが……」

 

「書主さん、上がったで。帰ろ」

 

と、話し始めた所で日影さんが戻ってきた。

聞いている側からすれば触りも触りの部分だけになってしまったけれど致し方ない。

 

「それじゃ、此方はこれで。小猫さんも皆さんもまた明日」

 

「あ、ちょっと」

 

常人なら千切れかねないレベルの力で掴まれていた脇腹の辺りの服と肉の摩擦力を忍術でファイファイして拘束から逃れ、入り口から顔を出していた日影さんの元に、そしてそのまま部室の外へ。

詳しい話は次に聞かれた時でいいだろう。

実際、本の製造工程はともかく、対雷遁用の罠への対策の杜撰さは笑い話を通り越して愚痴になるから聞かせるのも忍びないのだ。

そう、ニンジャだけに、忍びない……!

 

「…………」

 

「……何?」

 

日影さんの半眼から視線が突き刺さる。

 

「いや。書主さんの家系は冗談のセンスは無いなぁ、ってな」

 

「両親譲りだからね、仕方ないね」

 

エルトナムさん辺りなら、もうちょいユーモアがあったのかもしれないけれど。

親戚筋の中でも狂人扱いだから交流もそんなに無いしなぁ。

それはさておき。

 

「それで、今日はどんな部活の手伝いをしてきたの?」

 

「脚でやるバレーみたいの。練習試合で人が足りんからとか頼まれてなぁ」

 

「あー、セパタクローはハードル高いからねー。メジャーじゃないし」

 

「でもそれなりに楽しかったで」

 

「そのうち、知り合い集めてやってみる?」

 

「今時期、集まるか?」

 

「どうかなぁ……?」

 

帰れば丁度夕ご飯の時間だ。

それが終われば予習復習、日影さんと夜の散歩にでも行こう。

何事もないけれど、満ち足りた時間だ。

今日がそうであったように、明日もこんな風に過ごせたらな、と。

掌に伝わるひんやりとした日影さんの体温を感じながら、そんなことを考えた。

 

 

 

 

 





地味な滑り出しの五十三話でした
この巻はたぶん全編こんな感じに地味に進みます!
だってこの巻、どう捏ね繰り回しても恋愛イベント起こせないんですもの……
だから丁度いいので、各キャラ視点での主人公の印象インタビューという名の総集編風回想話みたいのやりたいです(できるとは言ってない)
基本このSS、主人公と小猫の視点メインだから他のキャラが何考えて動いてるか分かりにくいですしね
書けるといいですね(他人事)

☆小猫さん
姉の指名手配解除&汚名返上で自動的に立場とか風評がましになる
そんで問題の姉は自分と同居
これはもう悩みの九割は解消したと言っても良いのではないか
が、勿論そう簡単に話が済む筈もなく……
色々世話になってしまって本当に申し訳ないので主人公に何かしらの恩返しをしたいと考えているかもしれない
……が、そこら辺の話は次の巻で修学旅行編を経てゲスト当て馬に影響を受けないと恋愛イベントに発展しないのでこの巻ではたぶん深く触れない
主人公への物理的距離が如実に近づいている

☆サバミソ改め黒歌さん
レベル5風ポケモンモードが抜けない
が、シャッキリしている時はちゃんと猫魈として振る舞えるので本人は気にしてはいない
身だしなみ関連をサバミソ時代に仕込まれてしまったので着崩した和装は難しい
この巻で何か活躍すると思ったら大間違いだけど、多分出番はもう一回くらいある

☆部長さん
別名森先輩
主人公が街ではぐれやテロリストを始末してくれているのには感謝しているが、仕事を取られすぎるとそれはそれで問題らしい
情報の行き違いがあるが、そこら辺は本編で
イッセーとの恋愛フラグ? 知らんなぁ

☆イッセーくん
コミュ力が高いらしい
性欲過多が無ければ普通にモテていたのではないかという疑惑がある
しかし性欲過多が無ければ悪魔化した後に早いタイミングで死んでいた疑惑もある
なんかラブラブエッチが好きとかそういうのではなく、触手ネタもありだそうなので、ニンジャへのエロ拷問写真集だって普通に欲しい
だけどそれを異性のいる場所でオープンにしていいという訳ではない

☆ギャー君
くノ一本には反応した
これは別に自分と対魔忍を重ね合わせて、みたいなのではないので邪推してはいけない
バイならセーフなのだ

☆20××年度対魔忍捕縛者目録~感度3000倍になった程度で私たちは屈しない!~
グラビアという名のエロ本
現在絶版でプレ値が付いている
有名な対魔忍が多数出演しているという事も値段の高騰に拍車をかけているのだろう
当然、新進気鋭のユキカゼ氏も出演して大胆な姿を披露してくれている
因みにこの本を作成するにあたって捕縛されたユキカゼ含む対魔忍の中の数名は、主人公が冗談で提案したえげつない罠に引っ掛かって捕縛された
その為、主人公はこの本が発行された後の救出作戦には比較的安価な報酬で参加したりしているので関わりは深い
現在主人公の手元には出版元から協力のお礼として送らた分、救出作戦時に保管されていたのをネコババした分、報酬に上乗せする形で支給された分の三冊が存在しており、今回イッセーに支払われるのは足がつくと不味いネコババ分である

☆ユキカゼ
幸運艦でも戦闘機でもない
対魔忍の褐色ロリNTL担当
この世界でもプラトニックでまだキスしか許していない彼氏が居る為、対魔忍特有のエロ拷問訓練簡易化コースを選択
結果としてNTL専門ソフトのフルプライスレベルで超NTLれた
現在は救出されて療養中
捕縛された時に使用されたえげつない罠の出処を知らない為、表の世界で受験勉強中であるにも関わらず助けに来てくれた主人公には素直に感謝している
登場予定? 無いよ!

☆エルトナムさん
場合によっては此方の息子として生まれるルートもあり得たかもしれない
でもあれの夫とかどんなゲテモノになるのだろうか……デップーとか?
此方の場合も世界滅亡は阻止されたが、現在の比較的この世界に根ざして生きていこう、みたいなスタンスにはならず、メタ発言を連発するマジキチルートに突入していた
バトルスタイルもニンジャ混じらず魔術師混じらずの記述と錬金術と父親の技能をまぜこぜにしたものに変わっていた筈
ある意味タタリルートへの水先案内人
登場予定? 無い方がきっとぐにょり含めてみんなの為になるよ!



この巻、イッセーの寿命話とかおっぱいドラゴンの話とかこのSSだと影が薄い人のデートとか親関係とかを除くとあとはほぼバトルだから書くことがあんまり無い……
ので、次回は恐らく小猫のちょっとした独白の後に、ここまでの振り返り的な話をやると思います
まぁ、例によって更新時期は未定になりますが

それでは、また、次のお話で
ご意見ご感想なども引き続きお待ちしております

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